ファーストフラッシュ (生まれた時から永遠で、それが全てだ)

この感情をどうこうしようだなんて哀れなことだった
そんな哀れを私はもう、殺すことなんて出来やしないのに
目の前に形を持った少女に私は胸が痛んで痛んで止まらない

砂埃が舞っている道場に土方らは茫然と見ていたが
すぐに都佑の倒れた場所に向かうが
意外にも止めたのは土方だった


『一番初めに感じたのは「私は誰だ」だったね』

土方「…お前」

『私が居る泣いている。
そう言い聞かせて自分は別の人間だと
そうして私は都佑(本心)を切り捨てた筈なのに
私は何時しか都佑(幼少期)を愛していた』

笑ってケタケタとはしゃいでいた頃が懐かしくて
どうしても笑みが顔から零れてしまう
少女が一気に畳みかけに来るその刃に都佑は両手を広げた

すると一瞬でピタリと寸止めになり止まった少女
驚いた顔で「どうして?」と声が出る


もう、迷わないよ。
大丈夫、やっと理解できた。
君も、心配をかけてしまった。


「なん、で、そんな顔するの?」

『そりゃこっちのセリフだよ…
餓鬼がなんて顔してんの、お婆ちゃんが
ママに怒った理由が今になって分かったよ』


酷く歪んだ少女の顔
泣きそうな顔であるが我慢をして自分の感情を
押し殺して笑おうとしている。

笑って泣いて素直になればいい。
なのに少女は既にそんな”情を押し殺す術”を憶えていた
まだ二桁も行かない細い腕と身体の少女が
心の溝を深く深く掘っていた

浅く広くて問題ない時の筈が
少女は年齢に関わらず大人の様な表情を憶えていた
その現実に都佑は眉間に皺が寄った


私はこんなにも酷い顔をしていたのかと。


同時に自分がこんなにも他人にバレやすい表情をしていたのかと。
自分自身を救えたら良かったと思う感情もあれば
もっと誰にも分らない仮面を作れば良かったと思う情もある
そんな自分が情けなくて、胸の中にボコりと大きな泡が立った

「そんな、って、どんな?」

『知らなくていいよ。
君はそのまま消えて亡くなるから。』



薄狼として父上と母上の記憶が五歳以降から無い
それは恐らく前世と言う名の「別世界に投げた」事だ

つまりこうだ


薄狼としての優しく温厚で人想いの人間に成るべく
「別世界の人間との交流をして元の世界に戻す」
そうすりゃ脳内のキャパは超えて自分は自分では無い
今の自分は別物か何かの夢だと意識が別に向くだろう

その間別世界の記憶を抱えながらも
この世界の、薄狼の情報を一から調べる
そうすりゃあ何かおかしい情報に疑問を抱くだろう


嗚呼、一体何故、私は気付かなかった
君も、目の前に居る私は、「私その者」なのに


『時間帯が何故暗くなるのか
それは君が影の人間だからだろう?』

都佑は術を使い空中に光を灯す
皆を見渡すと周りには影が映し出されている
然し少女と彼女の二人には無かった


影は一つも


柏木「…漸くたどり着いたか」

沖田「爺さん、ありゃなんでぃ
…頭が追い付かねぇでさぁ」

柏木「薄狼は「転生した人」ではなく
「薄狼その者である」事を認める事。
審判はそういう為にある」


前世ではなく別世界の人間と暮らし
別世界の人間を取るのか
それとも、元の世界の人間を取るのか

その分かれ道になっていただけだ

土方「あ?じゃあ身体が変わった事
はどーなってんだよ」

柏木「頭の整理をする為の物じゃし
「元々変わっていなかった」だけの話じゃ。
最初に来た時の事を憶えておるか?」

土方と近藤が都佑の全裸を観て女だと確信した事
術を使って迄、真選組の人間として行動していた事
それをバラした柏木に銀時達が冷めた目で見る

ツッコミを入れようとした土方だが
柏木の話を深く考えると直ぐに身体から
血の気が抜けていく

土方「…おい、まさか」


羽黒未夜はあくまでも偽名
岡本都佑こそが薄狼としての本名

身長が高かったりトゲトゲしい姿は
都佑が理想としていた人間の姿だっただけ


今迄「自身に術を使い自分の身体すらも惑わしていた」だけに過ぎなかったのだ


そんな話になれば、色んな話が変わって来る
今の少女は、誰なのだと

今は何を誰と、闘っているのだと


土方達は都佑の方を見つめた
酷く悲しそうに、嬉しそうに微笑んでいた


+++


本当は少女を殺したくなんてない。
でも、自分が息をすればそれでいいなんて感情もある
心の奥底で警告音が鳴るのだ

”パパとママに会いたい”

然しそれは叶わないのだ

嗚呼、叶わない

ああ、かなわない


だって二人は「別世界の他人」だったのだから

愛していた人がまさかの赤の他人だったとは
余りの衝撃的な事実にちょっと動揺が止まらない

頭の中で警告音が鳴り響いている
嗚呼、止めなければならない
この思考を止めて忘れて戻りたい
あの時間に、笑えていた時間に

嗚呼、でもそれも違うんだ

違うじゃないか

戻れないんじゃない


「戻らない」のだ




『君は最初からパパとママが別れてママが捨てて行くと知っていた』

「やめろ」

『知っていて色んな人に相談をして尚何もしなかった
それが一番良い選択だと幼い君は大人の様な考えを持った』

「やめろ」

『君は幾ら願おうとも君の願った夢は叶わない
君は知っていた知っていたからこそ!
君は手を伸ばすのを止めた!お前は臆病者だ!!』

「ヤメロ!!」

小さな手は心は小さく更に小さく縮まっていく
その狭い願いを手に取り笑えるその日の為にと
笑って仮面を繕ってまで、叶えたかったと言うのだろうか?

嗚呼、なんて無駄な足掻きなのだろう
それでも私は貴方(幼少期の己)を愛していた。
好きだと言ってその時間を生き延ばせていた。

でもそんな事は、もう要らない。


私は昔から、息をしていたのだ。
心臓は一度も止まった事なかったのだ。


もう惑わさなくて良い
性別も環境も何もかも
私は私で居て良いと言われたかったんだ

私は私で居て良いと
二人の愛を受け止めて良かったのだ


『止めないもう止まらない事を君は知っているだろう?
…私は受け止めるよ、君が生きていた世界のことも。』

今生きるべき世界の事も。


別世界でこの世界を知った時
ふと既読感(きしかん)を感じていた
それは気のせいでも何でもなかった

本当に居た場所だったのだから


『目を閉じれば君の夢を甘い幸せを掴むことが出来る
幾度もこの数週間そんな夢を見続けても
尚、手を伸ばさなかった』

何故ならそれは「醒めない夢」だったから
別世界の人間と言う自覚に、願いが叶わない訳も
願いを抱くだけだったのも、全て納得が行った


それを聞いた少女の眼は酷く揺れて
私はまだ、この場所を理解したくないのかと悟った



『所詮・・・君は臆病者だ
優し過ぎる余りに残酷な人間になった』

残酷な現実に、引き戻される
その全てを、少女は台無しにする

「だまれっ!!!」

攻撃が容赦なく降りかかってくるその刃に未夜は
攻撃で降りかかってきた刃に同じ力を与えて消す
迷いもない、手を一瞬で横に振っただけで消え去ったのだ

「…っ」

『君はもう、悩まなくて良いんだよ。
もう、何も、大丈夫なんだから』

パパもママも、幻で
でも、あの夢や幻は、現実に在った物で
その現実はもう、二度と観れなくて

少女は膝から崩れ落ち、涙を流し始めた
あんあんと、空に向かって声をあげる



柏木「…薄狼は愛する人間を必ず自分に仕向ける。
その意味が何故か分かるか?新八君や」

新八「え?あ、いえ…分かりません」

新八は名前を知られていた事、そして
彼女の状態がイマイチつかめていなかった
それも含めて「分からない」と答えを出した

それに柏木は「それもそうか」と微笑み返した


柏木「他人を傷付けない為に己を愛する。
審判に持ってくる人は必ず自分の写しじゃ。
それは他人を傷付けて暴走する事を無意識に
察知している証拠である」



それは単に”自分が他人を傷付けるリスクを
極力減らす”事に意識を置いていた

それでは?


土方「おい、待てよ…じゃあ
笑ってたのも無邪気にしていたのも全部」

首を横に振った柏木に土方は止めさせようと刀を握ったが

彼女になった状態で物事を考えてみた沖田が
血相を変えて動こうとしたのを土方が止めた

沖田が振り向いて土方の顔を確認し
別の意味で目を開いた

土方「(何で自分ばかり背負い込むんだよ)」

嬉しそうに笑う都佑
少女の前で手を差し出していた


柏木「…嗚呼、何方に転んでも奴が”優しい”事
には限らねぇからな…食えねぇ嬢ちゃんなんだよ」


もしも都佑が死んだら
それは別世界の人間になる証である。
彼女の夢が、叶う場所に「戻れる」のだ

然し土方達は都佑の事全てを忘れてしまう
その事を知った土方達は都佑が勝ってほしいと願う

だが、それは本当に都佑の幸せだろうか?
彼女の夢は、死なないと叶わないのだ
なんて、なんて残酷な現実だろう。

新八「あ、んまりじゃないですか…そんなの」

柏木「じゃからこそ、薄狼が生き残る率が低い。
それはこの世界を捨てて夢を追ったからじゃ…が
あやつは、きっと、そんな事はせん。」


嬉しそうに笑う都佑
その手を少女が、取らずに刀が出る
距離を取って涙を流し終えた少女が殺気を放ちだす

それに都佑は目を輝かせて笑った

笑った


柏木「都佑と言う人間は、もう全てを理解しておる」


笑って、戦闘を楽しんでいた。
最初あんなにも苦しそうだった顔や姿は
今では遊ぶ様に動き周り、息を吐いていた

その目は見た事無い程キラキラしていて
土方は立って観ている事しか出来ない自分を
彼女の幸せを願う事しか出来ない自分に
唇を噛みしめる事だけが出来る事だった


都佑を止められないのは
一番愛して止まない時間を
邪魔しては悪いと感じたのだ


柏木「見せたことない様な嬉しそうに笑いながら戦うじゃろ
あれが彼女の本来の姿であり、闘い方じゃ」

攻撃の手を止めない都佑の顔は
切羽詰まった顔に見えなくはなかったが
何処か目の色が優しく、まるで「会いたかった」とでも言うような
この現状が愛おしく感じる様な優しい母性のような眼で

それとは違い少女はかなり苦しそうだった
「どうして?」なんて顔に胸が痛くなったのか
都佑が泣きそうな顔で微笑んだ


柏木「何があったのかは知らんが自分を愛していたと言う事は
”他人から一切愛情を受け取る事を諦めた”事を意味しとる」


薄狼は皆、そうだ。

他人からの愛情を取らずに自身の殻に閉じこもる


一体何があったのだろう?前世で何を経験したのか。
土方らは何も手が出せない状況に歯がゆさを感じる

何度目かもわからない土方の隣を
風を切り吹っ飛んだ都佑に全員が名前を呼び駆けつけるが

腕で手を振り払い少女を見て涙をこぼした
眉を寄せて口をへの字にして我慢
しながら都佑は笑って少女に言った

『…これは夢だって、思わせて逃げた結果がコレか』

はは、と上を向き地面に腰を掛けて片膝を立て其処に左腕をのせる

『コレは悪い、悪い夢で、
パパもママも目を覚ましたら
笑って居る優しい世界が待ってる

そう私は自分の心に大きく優しい嘘を吐いた
その末路が君に殺されるのなら
私はそれで良いと、君に心臓をやれるなら。

私はもう、此処で斬られて構わない』

そう思った

「そう、そう思ったんだ。でもね?」

沢山の人を見て感じて迷惑をかけて生きてきた私には
このまま君に身を委ねるなんて、したくないと思う気持ちがある。

「沢山の想いが言葉が出るのに今はなんにも思い浮かびやしない」

でも、なにもかも分かった。
なにもかも、分かったから、君に言葉を捧げよう。
ふらふらと立ち上がり鞘に剣をしまい、少女を目の中に映す

『今見ているコレ”薄狼の審判”は
永遠に醒めない、君に会えた
そんな優しい夢なんだって』


そう笑った都佑の髪色は真っ白になり
秋空の様な青をチョーカーが光らせる

『ガラクタも救えない屑で臆病者な私だけど』

君を抱きしめる事位は、今なら出来るんだ。
そう言って都佑は少女を抱きしめる、するともがく少女は
刃物を取り出し脅すが、都佑は肩を両手で掴みながら放すと
嬉しそうに笑った


『君は愛されていたんだって』


認めよう、そう涙を零した都佑の涙が少女の頬に落ちると
少女の身体は光を帯びて色が変わる

『バイバイもう永遠に、会えないね。』


そう頬に手を出す都佑に少女はポロポロと涙を流し始める
本当は自分を否定して欲しくない。笑って欲しい。そう本音を呟く
それに都佑は優しい声でうんうんと頷いて話を聞いた
そうして少女は一言思い出した様に呟いた

都佑は少女の体を抱きしめ
感謝を込めて言葉にならない感情を少女に押し付ける
ふわりと無くなった少女の温もりに目を開ける