亡羊の嘆

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嘘じゃない言葉の紡ぎ方

シンと一緒に話した次の日から私もシンの稽古に参加する事になった。
どうやら肉体的にも精神的にも武術を学んでおいた方が
悪い虫も自分で退治出来る様になって欲しいという魂胆なんだろうが…

「ひぃ!しぬ…」

シンが弱音を吐く位、恐ろしいアップグレードがかかっていた。

でも少し周りの様子がおかしい。
ひょっとして、バレた?
いやあの魔法バレない様にはぐらかしているから
恐らく別の、もっと違う方の空気だ。

何とも言えない微妙な空気に少し苦手で
顔が引きつってしまう。
そんなよく分からない1日を過ごした後
付与魔法を覚えた後に造った風呂から上がった時に
お爺ちゃんから話し掛けられた。


マーリン「シン、エル…ちょっといいかのう」

「何? じいちゃん」

『おん?どしたのお爺ちゃん。』

マーリン「ちょっと話があるんじゃ」

「ふーん」

ちなみにおばあちゃんとミッシェルさんはもう帰った。
何かいつもいるみたいだけど
普段は昨日みたいに泊まる事は殆ど無いし、別に毎日来てる訳でもない。

強いて言うなら、エルが泊まる時はほぼメリダ。
おばあちゃんが泊まっていくのだが、今回は
用事があるとか言って先に帰ってしまった。

そんなお爺ちゃんとシンとの状況で話しを始めた。


マーリン「実はのう、シンとエルの生い立ちについての話しなんじゃ」

「生い立ち?」

あれか、私達を拾った時の話しをしてくれるんだろうか?

マーリン「実はのう、お前はワシの本当の孫ではないのじゃ」

「え?」

『え?』

……ゴメン、それ知ってた……。
と言わんばかりのシンの顔に私も同感を感じていた。
いや、それ知ってる。何なら赤ん坊の事も知ってる。
そう私は断言出来たのだが、黙っておこう。

マーリン「スマンのう……今まで黙っておって」

スマンなお爺ちゃん。私は墓場まで持って行くので黙っておくね。

「いや……それは別にいいけど……」

シンはそう言って
とりあえず、ここは話しを合わせとこう。って顔で此方を見た
お爺ちゃんが顔を下げている事に好機ととらえたのか、私は頷いた。

「それで……本当の孫じゃ無いなら俺はどうしてじいちゃんと暮らしてるの?」

マーリン「あれは九年前の事じゃ。
ここから近い町へ買い出しに行く為にたまたま、そうたまたま街道を歩いておったのじゃ。
そうして歩いていると雨が降ってきての、近くにあった森で雨宿りをする為に少し街道を逸れたんじゃ」

「雨……」

そういえば、あの時も雨は降っていた。
シンの赤ん坊の時の煩さは恐れ入ったが。

マーリン「そしたらの……先に来ておったと思われる馬車があったんじゃが…
…どうやら魔物に襲われたらしくての……そりゃあ酷い有り様じゃった」

魔物……襲われた馬車……何となく想像が付いた。
恐らくこれは仮設だが、何らかの魔物が馬車を襲い
赤子だけ気付かずに放置したのか…だがそれは可能性として低すぎた。
何故なら魔物は生きている者全てを食らいつくすのだ。

だとすれば、もう一つの可能性が浮かび上がる。

マーリン「辺りは壊された馬車の残骸と……
その……食い散らかされた人の死体が散乱しておっての…
…これは生きている者はおるまいと、せめて弔ってやろうと思って現場に近付いたんじゃ。
そうしたら……散らかった馬車の残骸の間から赤子の泣き声が聞こえての」

そこまで喋ってからお爺ちゃんはじっとシンを見詰めた。

マーリン「ワシは慌ててその声の主を探した。そして……見つけた赤子が」

「それが俺達……」

マーリン「そうじゃ。恐らく馬車が襲われた時に衝撃で気を失ったのじゃろう。
そして降っていた雨で体温が下がって仮死状態になったのではないかと思う。
じゃからお前達は魔物に気付かれずに生き残ったのじゃろう」


そうか、魔物に襲われてなんで俺達だけ生き残ったのか
不思議に思ったけど仮死状態に陥ったと。
多分その余りのストレスから前世の記憶が甦った。
それを切っ掛けにして仮死状態から復帰した…のが、一つの仮説。

もう一つは【その瞬間に別世界のテレポートが終わった】ことだ。
単純に転生する時に何らかの手配が整わずに、もしくは何かの事情で
馬車の中に置いておくことにより、さも気付かれずに奇跡的に見つかったと
言った所で…まぁ確証出来ないが、憶測としてとらえておいて損はないだろう。


マーリン「お前達が何故仮死状態から復帰したのかは定かでは無い。
しかしワシが近寄ったタイミングでお前は息を吹き返した。
ワシはそれを天命じゃと思うてのう、襲われた者達を弔った後、お前達を家に連れて帰ったのじゃが」

「が?」

マーリン「流石に女子の面倒までみきれんでの…メリダに訳を話して、引き取ってもらったんじゃが、シンと近くにいないと泣いての。2歳過ぎる迄メリダがこの家で一緒に暮らしてくれたんじゃよ。」

『私のせいで…』

そうつぶやくとマーリンはそんな落ち込むなと慌てた。
泊まったのは私が夜泣きや、授乳の方が良いのだが、
とミルクを飲ませてくれる為だったのだ。

彼女の事だ。一人だけでなく二人も一気に世話をするとなると
1つや2つ抜ける事が出て困るだろうと思ったのだろう。
勿論、子供の事だ。本人に対して其処まで過保護に接してはいないだろう。

「それで……俺の両親は何処の誰なの?」

そこなのだが、

マーリン「スマンのう、余りに無惨に破壊されておってな…
…身元を示す物は見つけられなかったのじゃよ」

「ふーん、そっか」

マーリン「……随分とあっさりしとるのう……」

全くですね。もう少し演技位しないのかな。
そう思ったけど、私も私できょとんとしてしまった。

「両親って言われても覚えてないから……」

『そうだよね、ピンと来なくてずっと聞いてた。』

「それもそうじゃのう」

「それにさ、俺達にはじいちゃんがいるもの」

「……!」

そうだよ、本当の孫じゃ無いのにメッチャ可愛がって育ててくれたお爺ちゃん。

「それに、メリダばぁちゃんもいるしミッシェルおじさんもいる。
他にもディスおじさんとかクリスねーちゃんとか
後お調子者だけどジークにーちゃんもいるし」

今まで出てきた事無い人もいるけど勘弁してほしい。
だって登場人物多いんだもの!

「ほら、だから両親がいなくたって
寂しいと思った事なんか一度も無いよ。むしろ騒がしくて困っちゃうよ」

「シン……」

『そうだよお爺ちゃん!たとえ本当のパパとママが分かっても
お爺ちゃん達と過ごして沢山楽しくて毎日が楽しいんだから!』

「エル…」

だから……だからね?

「だからさ、じいちゃん」

「ん?」

「俺達を拾ってくれてありがとう」

命を救ってくれて。

「助けてくれてありがとう」

いつも美味いご飯を食べさせてくれて。

「可愛がってくれてありがとう」

魔法とか一杯教えてくれて。

「俺、じいちゃんに拾われて幸せだよ」

生まれてすぐこんな不幸な目に合ってるのに
今こんなに充実してる。こんな幸せなことはないよ。

「シン、エル……う、うぐ……う、う、うおぉぉ」

やっべ、お爺ちゃん泣いちゃった。
でもシンとっても嬉しそう。
スッキリした顔をしてる。

そりゃあ正直に話したもんね。
私も同じ気持ちだ。

何だかんだ言って、赤子の状態で放置されたら
野垂れ死にしていたんだろう。
でも、彼が救ってくれた。
それに関して感謝はしてるし、幸せである。

お爺ちゃん、ありがとう。
ありがとう。

++++++++++++++++++++++++++

「エル、眠れないのか?」

夜中の1時になるのだろうか。
こんな時間に此処で起きていたのは
恐らくシンと初対面で出会ってからの時期位か。

最初は確かに1年少々シンと一緒に暮らしていたのだが
ハイハイして立ち上がってからはメリダおばあちゃんの家で暮らした。
流石に男二人の家で育っては女の子として育つ気配がなかったらしい。

というか私も結構な男勝りな所があったらしく
早めに離され、5歳の頃に此処でお披露目会をしたのだ。

その時位だ。私が緊張して眠れなくなって、この家の屋上で夜空を眺めるようになったのは。

『うん。久しぶりにね。シンは?』

「おれ?トイレで目覚めた」

爺か。お前は。
そうツッコミを心の中でいれつつ、彼が隣に座ったのを見届けてから空を見上げた。

「エルはさ、この世界でどう生きるの?」

『え?』

「俺は魔物を沢山狩って、武術も学んでる。でもエルは」

『魔具と家事炊事しかやったことない…』

魔法はまだ教えられてないのだ。
だが…

『でも、シン知ってるでしょ?私が魔法使えるの。』

「…ああ」

そう。メリダたちに教えてもらわずとも
私には前世の記憶が色濃く残っている。
…勿論良い記憶も悪い記憶もどちらともなのだが。
実際良い悪いで言えば8:2の割合なので別に困る事はない。

『向こうでは魔法使えなかったからね』

「そりゃあな」

魔法を唱えたり、詠唱を唱えたり出来るのであればしたい。
というか昔やっていた。
とても楽し過ぎて荒野の方で一緒に試し撃ちをしていた位だ。

目の前でやってる事を何とかお爺ちゃんには話していない様子で少し安心した。

「最近は何に取り組んでいるんだ?」

『此間やったアレと、単純に魔力の強化かな。防御上げておかないとね。』

それと、黒魔術と呼んでいる方面にも少し手を出し始めた。
禁忌の話をするとおばあちゃん達にバレそうだから
これに関してはどこか学校か何かに通っている時にこっそり
探した方がよさそうだ。

とにもかくにも、まずは魔法を使える事がバレなければいいのだが…

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