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都佑、そう呼んでくれた声は、何時も温かいものではなかった。
本当は、怒られる時に呼ばれる音で、私は一時期自分の名前を呪っていた。
ふとした時に、この現実は夢なんじゃないかと思った。
目が覚めたらこんな場所じゃなくて、優しい人に囲まれて
美味しい食べ物を沢山食べて、幸せに過ごしている。
そんな時間に目を何回閉じたって、眠ったって
少し冷たい布団の中で目が覚めるんだ。
そして小さな声で呪うんだ。
どうして夢は醒めないの?、と。
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『…まさか具現化する呪いだとは思わなかったけど』
そうてちてち歩く少女を横目に深いため息を吐いた都佑
別に少女が悪いわけでもない。現に魔法を扱わせようとしていたミーネだったが
大きく首を傾げてきょとんとしている姿をみて都佑の方を見て首を横に振った。
『しゃーないよ。というか魔法は使わせたくない。』
おいで。そう言った都佑の声で身体ごとこちらに向いてくれた
きょとんとした顔から笑顔で此方に走ってくる。
突撃の場所によりけりで血が吐けそうだが、まぁ元気な事は良い事だという事で言い聞かせた。
「こいつは一体誰なんだ?」
そう言うクロコダイルに少女が首を傾げた
『名前は言えない。というか、難しい。』
そうベットの上に乗って、少女の頭を撫でる
すると嬉しそうに眉を上げて目を細めて手の方に身体を伸ばした
ただ、ただ嬉しそうにする姿に、都佑の目が細まる
『お嬢さんって呼ばれたい?…あー駄目?んー君の名前を呼ぶのも…でもなぁ』
「君とかでもいいよ。私に名前なんていらないよ。」
そうあっさり言った少女に、そんなこと!とマァムが声を上げるが
分かったと都佑が言った。
『君は、優しいね。』
ゆっくり言って、おでこに頭をつけた
すこしぺったりした髪の毛が、また愛おしく感じる。
嗚呼、確かに、こんな時期が、あった気がする。
『(どうして)』
強く感じた。
「どうして、この子だけなの?」
そう言った少女に都佑が目を見開いて引いた
距離を取ったというよりかは、ちゃんと見たかった。
自分が感じた言葉を、そのまま言ったのだから。
「いいの、私は。貴方が笑って生きられるなら、全部あげれるよ?」
『…うん』
「手も足も、心も…**が作ってくれた、お花の冠だって。」
『だめだよ。それだけは、持ってないと…きっとだめ。』
首を横に振る都佑に少女がきょとんとした。
どうして?という少女の次の言葉が、
「これを渡したら、貴方は嬉しそうな顔をするから。」
だから渡そうとしたのに。
そう言った少女の声が、室内に響く
少女は、ただ人を笑顔にさせたくて笑っている。
笑って、人の欲しいものを無意識に渡そうとしている。
そうして、少女の生きれる環境を作ろうとしている。
「…マァムや俺と遊ぶか!!な?」
あっちいこうぜそう言って空気を換えたポップに感謝しつつ
残った者と会話をする。
「なあ、あいつはお前の何なんだ?」
「ラーハルト!」
『別世界の私の記憶というか存在そのものかな?』
多分ね。そう言う都佑にヒュンケルが首を傾げた
『優しい子だった気がする。あまり記憶はないけどね。』
「都佑さん、単刀直入に聞きます。彼女は貴方の心その者ですか?」
そう言ったのはアバンだった
目の色が、真剣なことを伝えてる
『そうよ』
「では、あのような言葉も昔は話していたと?」
『…否定はできないかな』
「そう、ですか…」
一体何のことだ?そう言うヒュンケルにアバンが説明をする
「幼少期の頃にある程度の幸福を得れば、
例えて言うならマァムやポップのように
優しく強い子に育つ傾向があります。」
優しい母と強い父の間で、充分過ぎる愛情を得られると
子供は安心してのびのびと暮らす事ができる。
その影響は、一生続くと言われている。
「愛情を沢山得られる、または得られていると実感することで
子供はやりたいことを優先できるようになります。
そうして大人になっていく、のが普通なんですけどね。」
『あの子はそうはいかなかった。』
でしょうね。そう深く頷いたアバンに何のことかとヒュンケルが問う
「ヒュンケル、君は昔、父親を私が殺したと勘違いしていましたよね?」
「ああ」
「アレに似たような感情を持ったものが、
賢い子なら猶更気付く現象があります。
それが、決して良い事ではないんですよ。」
『色々気付きすぎたのよ。私も、あの子も。
私、昔母親から虐待受けてたの。』
こう、少女が息をひそめていたのを引きずり出す
何故か今は、不思議と覚えている。
「な」
『どうしてできないの?って問われるのがとても嫌だった。
嗚呼でも嫌って感情も良くわからなかったかな?
人間愛情を得ないと感情というものが欠如しちゃうのよ。』
「…そこまで、ですか」
そう、そこまで、なのだ。
優しい子だった。人のことを考えて行動する子だった。
だが、それは本当に優しいからこその行動だっただろうか?
『朝起きて少し冷たい布団で目を覚ます、起きたらご飯は自分で作って食べる。
簡単な料理しか食べてなくて、栄養も偏って同い年の子より体重はとても軽かったわ。
帰って来たら、よく怒ってて、ミスをしたらずっと怒ってた。
そしてまた冷たい布団の中に入ってこうやって思いながら目を閉じるの。』
これが夢でありますように。
『目を覚ましたら、優しい声で私の名前を呼んで、沢山遊んでくれて
沢山私の話を聞いてくれて、笑って抱きしめてくれると思ってた。』
だが、現実は全く違った。
崩れたゴミ袋からのゴミや、机の飲み干した物が散らかる
こたつの中で眠っていたのは、黒髪のスタイルが良い女性だった
温かい肌を感じ取れなくなったのは、一体いつからだったか。
だからこれは夢なのだと、感じ取った。
これは、夢で、目を覚ましたら、優しい母親が居るのだと。
いつも父親と遊んでくれて、陽だまりの中、ただ楽しい時間があるのだと。
そう思った時に、冷たい布団で目を覚ますのだ。
『感情が無くなると色は感じなくなる。』
「そんな!!」
『グレーの色だけが分かって、人は私に優しくするようになった。
もう遅いのにね、ある日、あの子が私の目の前に来て手を差し伸べたの。』
“はじめまして!私とおともだちになってほしいの!!”
嬉しそうに笑う少女に、何故か少しだけ、笑えた。
上手く笑ったのは、一体何時だったかも忘れた位昔の話なのに。
『周りに良くしてもらっていると周囲の子から愚痴を聞かされたけど
私は、そんなの欲しくないって答えて怒らせてたわ。』
だって欲しかったのは、母親からの愛情だけだったから。
手を伸ばしたら、簡単に取ってくれる小さな光を
幼い頃から得られることがなかった。
『感情操作が難しいの、まさか呪いであの子が見えるようになるとは思わなかったけど』
「…すみません、苦しかったでしょう」
『恐ろしいことに、私は嬉しいのよ?母親から嫌われて、人に嫌われるのが』
「それは、違います!ただそうしなければならない状況だっただけで!!」
『織姫様と彦星様が一年に一回だけ会う物語があるのよ。その物語は七夕って言ってね?
七夕祭りが開催される時に、私はぼそりと呟きながら書いてたわ。』
“パパとママが仲良くなりますように”
『絶対にかなわない、と分かっていた。だけど望むことは悪くない。
だからこの心に誓ったの。何度だって手を伸ばすと。』
仲良くなるように、何度だって追いかけて、手を伸ばす。
それがたとえ、叶わないことだったとしても
たとえ、自分の心が修復不能になることだとしても
「貴方という人は…」
『でもそのおかげで、“蓋になることができた”ちがう?』
「っ!!」
『何度だって訪れる痛みや感情に対して行き続けることが出来なければ
この種族は息絶えていたでしょうね。悪に打ち勝つ位の感情を得ている
そんな人を蓋にしないと生存なんて不可能だから。』
「待て、それなら」
『私は“両親の愛情を得たい”だけで、この世界に生き残れている。
そして、少女が具現化している。ただそれだよ。』
嬉しそうに笑うのも、手を振るのも、しぐさも全部。
いつか帰ってくる、両親に向けての行動だと思うと
メルルは口を手でふさいだ
『ヒュンケルは父親を殺されたけど、私は母親が私を手放しただけなの。』
ただ、それだけの違い。なのにそれだけでも大きな違いなのだ。
『今だってグルグル渦巻いている。
母親が帰ってくることを今か今かと無邪気に待っている姿を。』
二度と帰って来ないドアの前だとしても。
『その感情が廻ることで、円となり、その中の耐性は計り知れない。
だから蓋をすることが出来た。ただ今は呪われてかつ中身も居ない。
その為蓋の役割になるひび割れが起きてるだけなの。』
「…なるほど、元に戻る可能性は?」
『戻すつもりはないわ。』
「え?」
『私、あの子と一緒に笑って手を繋ぎたかったから。』
それを永久に望んだ。永遠にそこに入れたら、私はそれだけでいい。
そうしたら、冷たい布団の中に丸まっても、暖かいから。
じんわりと広がる。その温かさに、色が一滴落ちた。
『あの子は元の世界に戻すつもり…だけど、かなり不安なのよね。』
彼女は本来の心の
確かに都佑と分離しているには食事とかもとれるだろうが
自分で動くのとはまた別次元の話だ。
『彼女はもう何十年も人の世界に降りてない。
だから怒らせちゃうことが沢山あると思う。
でも、どうか抱きしめてあげてほしい。』
あの子が一番必要としているものは、あげられないから。
あの子がそのことを、一番理解しているのだから。
「わかりました。良い事があれば尚更褒めてあげなければいけませんね。」
人間幸せにあるべきなのですから。
そう言ったアバンに都佑はこの人達に出会えて良かったと思った。
痛めつけられていた時期があったからこそ、この場所にいられるということを。
皮肉なことだ。
『ありがとう』
「いえいえ、寧ろ今までよく頑張って生きてくれました。…もう、楽になって良いんですよ?」
『それは酷かもしれないわ。』
そう首を横に振って困った顔で笑う都佑にアバンはびっくりした顔をした
『だって私はあの時間を好きで居続けたいんだから。』
たとえ虐待でも、どの世界に行っても母親はたった一人なのだ。
そんな人を貶さないで欲しいと何人に言われただろう。
そして何人に、私は呪ったのだろう。
『あの子を維持することで、蓋も維持できる。
アバン先生、私怖いんですよ。きっとあの子も。
この残酷な時間を愛さなくなれば、地獄が来るのではと。』
それなら、いっそのことこの時間が地獄であればいい。
そうすれば、これ以上の地獄は見れない。
それは幸せというのではないだろうか?
地獄の底で、両親に会えるのなら。
それは、私達にとって、喜びと言えなければ
生きている時間は、ないのだから。
「今更生き方を変えろ、等とは言えませんが…どうか無理をしないで下さい。」
『それはあの子に言ってほしいな。私以上にあの子の方が痛みに疎すぎる。
あの子が一番現実を知っているのだから。』
分かりましたそう言ったアバンに都佑は笑った。
少女と同じ、嬉しそうに笑って。