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「マァム、ポップ…何をしているんですか?」
「ち、違いますよ!?襲ってないですからね!?先生!?」
そうポップが子供を下敷きにしている状態で見つけたアバン
ドン引きしている姿にポップが訂正を入れようと必死になる。
「アバン先生、この子の名前考えてたんですけど」
「へぇ…いやじゃないんですか?」
そう少女の頭の位置に合わせるように腰を下ろして問う
するとそっぽを向いていいよと答えた。
目を合わせないのは、恐怖心からだ。
この子はずっと、人の怒りに怯えている。
それは、震えが来ない位に、無意識的になるまで。
一体どういう感情を持ったら、子供をいたぶる様になるんでしょうか?
アバンは許せなかった。嬉しそうに笑うのも、話す動作も、言葉さえも
相手を怒らせないように振舞わないといけない現実を大人が作っていたのだと。
誰も、変えようともしなかったことに。
そう少しの怒りを感じた。やるせなさに、自分に怒りを感じた。
するとそれだけだった、たったそれだけで少女がマァムの後ろに下がったのだ。
まだ何も顔も変えていない。
思っただけだ、強いて言うなら、右手に力が入っただけ。
それだけで、殴られると思ったのだろうか?
「あら?どうしたの?」
「…大丈夫です、貴方に怒ったわけではありませんよ。」
本当?と言いながら言う少女の目には不安が少し入るも
意識しないと感じ取れない程だった。
余程ちょっとしたことで怒られる環境にあったらしい。
幸いなことに、距離を取る勇気はあるらしい。
骨も出そうな程に、華奢な身体つきだ。
幾つかと聞いたら、まだ9つだと言った。
ん?
「ええ!?9つ!?嘘でしょう!?」
「本当らしいんですよ。詳しく年齢以外にも教えてくれたんですけど…」
事情を知っているような素振りがないマァムに
何の話をしたのかとアバンが問う
その内容は、先程都佑から聞いた内容とは離れていた。
いや、正確には、離れていない。
それが、現実か夢かの違いなだけで。
「(嗚呼、都佑さん。貴方が不安になる気持ちが今痛い程よくわかります。)」
コレを1人にして、生きられる感じがしない。
これは誰か大人がくっついているべきだ。
少なくとも数か月は、感情を取り戻す練習をしなければいけない。
幸いにも行動の良し悪しは分かるらしい。
…まぁ行動の良し悪しにも感情は引っ付いてくるのだが
如何せん少女の言葉には子供らしさがない。
それは、愛情が得られていない子の典型的な姿でもあった。
精神的な苦痛が続くと本来の好む色とは真逆の色を選ぶらしい。
赤色の方ではなく、青や緑を望もうとするのだって、
女の子ではなく男の子の方が多い
まぁ確かに好きな色とかもあるが、多くが精神的な苦痛
虐待等からきていると何かで調べて分かったことがある。
子供の心理として、水色は寂しさを表しているのだ
緑は調和や平和的な意味合いを持つことがあり、
この少女は無意識的な状態からずっと助けを求め続けていたのだ。
例え、人に嫌われたっていい。
だって、本当に得たいものは、両親からの愛情なのだから。
たった一人に、二人に愛されるだけでいい。
それが彼女の、彼女たちの、願いなのだ。
「それでねー!」
「(それを、貴方は望んでいるというのですか。)」
嬉しそうに笑って、人の機嫌を損なわないように取り繕って
きっと心は休まる所を知らないのだろう。
休まる場所がないから、ずっと維持をするしかない。
疲れるから、ずっと同じことの繰り返しになるから、
無意識的に行われるようにもなる
確かに、嫌な事が幸せの一部ならどれ程いいかとは思うかもしれない。
人間誰でも嫌な事が無ければ良いと思うものだ。
それを、この子は、叶わない願いを魂に刻み付けた。
そうするしか、生きる世界ではなかったから。
そうしないと、いけない世界に、どうして。
ーどうして、この子だけなの?
そう言った都佑の言葉が脳裏をよぎる
嗚呼、確かに、どうしてこの子だけなのだろう?
悪い事をしたものが食らっても良い程に、痛々しい。
この子は何もしていない。
きっとやりたくないのにやってしまって怒られただけだ。
怒らないであげたらよかったのに
少なくとも、この子はとても優しいように感じる。
命が、恐らくアバンのしるしを与えたら色が光るだろう。
どんな色だろうか?青か緑か、赤か…それとも?
「それで?」
そう聞き返すと目の色が少し変わった
聞いてくれているという喜びだろうか?
それをこの子は気付いているのだろうか?
気付いても、変えないのは…これはあってほしくないのだが
「(母親が戻ってくることを望んでその姿のまま居続けているのですか?)」
もしそうなら、これはとんでもない呪いだ。
二度と帰らないことを理解したうえで、少女は望んでいる。
あの子も、都佑も望んでいるのだ。
都佑は少女が両親と幸せに暮らせるようにと足掻く為に
少女は都佑や両親が笑ってくれるだけを望み続けるが為に
二人の祈りは、円を描くようにベクトルが向いている。
そしてその円は無限に続くのだろう。
二人共、途切れる術を知らない。
知っていても、きっと切れることはないだろう。
途切れてしまったら、きっとこの子達は壊れてしまう。
何十年も維持してしまっては、修復は不可能に近い。
しかも幼少期という大事な時期でそう決められた約束なら尚更だ。
一生続く、呪いに近いことをこの二人は作ったのだ。
「(まさに、神聖樹の呪いじゃないんですかね)」
神に祈り続けて、分かっているからバチがあたった?
いやこの子達こそ、幸せになるべき存在ではないのだろうか?
何もしていない。何も、したいとは思わない二人に。
いや、二人に割かれる位の惨い現実を、一体誰が与えたというのだ。
ポップとマァムが座る真ん中に座って笑わないのは
きっと両親を思い出して私に気付かれないようにしたいから。
今も適当な話をして、逸らせようとしている。
私が貴方に気付くことを、貴方は恐れているんじゃないんですか?
本当は、気付いているんでしょう?私が知っていることも。
感情を読まないと生きていられなかった世界で
たった一人で産まれた貴方だからこそ。
異性に近く寄り、定位置は女性から離れているのも
恐らく体罰か何かを受けた経験があるから。
無意識的に、距離をとってしまうのだろう。
父親の方がまだ見てくれていたとは言うが
この感じだと両方似たり寄ったりではないだろうか?
そうでないと、こんな子供は生まれることはないだろう。
どこにも、縋ることが許されなかったから。
だから、自分だけで読めるようになった。
読めないと、怒られるから。
怒られると、悲しくなるから?
笑っていてほしいから?
良いや違うこの子はきっと
「(自分の行為で人を不幸にしたくないんですね)」
一般的にそれは、優しいというのだ。
酷く、優しい。子供だ。
大人でも子供でもそこまで気付かない。
なのにこの子供は一瞬で察知し、無意識的に行動する。
全ての人間が、自分の行為で不幸せにならないように。
ただ、笑ってくれるきっかけになれたらいい。
それだけを願っている。
優しい、酷い位に、優しいのだ。
「ねぇ、君にこれを持って欲しいんですが」
ふと気になった。
この子は、何色を出すのだろうか?
ポップがそれって!と言って首から吊り下げていた
アバンのしるしを見せた
マァムやポップだけでない、ヒュンケルに
此処にはいないがダイやレオナ姫も持っていた。
それと、似たようなものを都佑も持っていた。
それを今度は少女に渡した
「これを被って、そして手で握ってみて下さい。
貴方が一番強く願う気持ちを込めて。」
きっと、今なら、光る筈だ。
優しい子が、何を望んでいるのか。
そう言ってアバンがしるしを渡す
ポップが持っているように近い、
レザーに括り付けた印は透明に見えた
意識を集中させてみている。
「もっと強く願ってみてください。
大丈夫、今の貴方なら、必ず光ります。
…もし光らなければ、今会いたい人を考えて下さい。」
強く、ただ、その感情だけを望んで。
光が解き放たれた。淡い色は深くなるが
「青、色?」
「いいえ、青にしては色が明るすぎます。
これは水色、より濃いターコイズって色ですね。」
優しくかつポップ達にも言い聞かせるように答えた
「どうか私達に力を貸してくれませんか?」
「え!?アバン先生、それって」
「あの呪文は実は未完成でして、本来は6つの光を維持しなければいけません。
前はミーネさんや都佑さんそして貴方が維持された状態だったからこそ
あの呪文は成功しました。…ああ呪文のことはまた今度教えてあげますよ。」
首を傾げた少女に向かって答えるアバンに少女はこくりと頷いた
「この色は恐らく変わる可能性があります。現に色がとても不安定ですから。」
そう光に手をあてると、ターコイズの色が揺れて青くなったり緑の方に色が強くなったりした
だが、どれもこれも、不安要素になるような色に近い。
「貴方が傷つくことは私達もしたくありません。
ですが、少しだけでいいんです。貴方の気持ちを
どうか私達に委ねてくれませんか?」
「アバン先生…」
「いいよ?だって、あばんせんせ、それで笑ってくれるんでしょう?」
嗚呼、きっとこの子は悪魔にだって笑わせる為ならなんだってしそうだ。
人を殺すことが怖いことはまだ良いが、魔術を使えば恐らく恐怖心を無くせば
軽々と殺戮の兵器になりかねない。
だからこそ、これは守らなければならない子供なのだ。
あの都佑が外に出して嫌がっていた位だ。
かなり大事にされていたのだろう。
「ええ。私だけでなく多くの人が喜ぶことでしょう。」
「ママも?」
「ええ、勿論。貴方のお母さんも、きっと喜んでくれます」
「うん。それなら」
嗚呼、でも無理だろうな。そんな顔をして笑って返してくれた。
素直な、心だ。人の言葉に嘘があるのかを感じ取って、笑う。
心配させないように、ただ、申し訳ないように。
「何か魔法使えたらいいかな?どかーんて!」
「それはちょっと…」
「貴方はそのままでいいのよ。」
そう言ったマァムの言葉に少女の目が酷く揺れた
嗚呼、恐らく言われたくない言葉に入ってしまっているのだろう。
幸いなのがマァムが気付いていないことだ。
揺れた目の色が深くなった。
きっと今アバンのしるしを光らせると黒くなるのではないだろうか?
ただ、寂しそうに。した目とは違い、少女はそうだねと答えた。
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食事が終わり、落ち着いた頃、アバンは都佑に話があると言って二人きりにさせてもらった。
『なあに?あの子と直接話せばいいのに』
「いえ、警戒されているものでして」
『まぁ苦手だろうなぁ』
えっと言って固まるアバンに都佑が笑って答えた
『だって貴方勘が鋭いから、鋭くて此方を見る子は酷く嫌われるよ。』
特に無意識的に動く子に関しては。そう言う都佑の目が鋭くなった。
おお怖い。母親がこういう目をすべきなのだが、どうしてこうなったのか。
「初対面で嫌われると動きづらいものですねぇ…というのは置いておいて
都佑さん、彼女にアバンのしるしを渡しまして、色が光りました。」
その言葉にびくりと反応した。
ターコイズの事も話すとぼそりとぼやいた
『…夢を追う気持ち』
「そのような意味がそちらにはあったんですか?」
『ターコイズならね、彼女にぴったり過ぎて、ちょっと…で?それがどうした?
別に戦闘とは言っても何かの呪文位なら働かせてもいいけど。』
そう言われた為少し面食らってしまったアバンは目を丸くした
「えっ、いいん、ですか?」
『あのね?これは呪いなの。あの子も、私も呪われているの。
だから、あの子は死なない。私だって、きっと死なないわ。』
一体どういう意味だ?
『夢を追いかける者、追い続けても構わないと望んだ者なの。
折れることはあっても消える感情ではもうない。あの子は多分
誰かに刺されてもきっと死なないよ。』
「そんな奇跡的なことが」
『後で刺して見せてあげようか?凄く綺麗だけど。』
「遠慮させて頂きます…」
流石に少女のいたいけな場面は無ければ良い位なのだ。
アバンは控えめな態度で都佑にお断りを言う
「それにしても何故そこまで追い求めるんですか?他に何か無かったのですか?」
『無かった。皆持っていて私達だけは無かったから。だから欲しくなった。』
本当は、ただないものねだりなだけだった。
それがもう解決できない域に達してしまった。
それだけなのだ。
たった、それだけ。
『欲なんて要らない。ただ、笑っていてくれたら、それだけでいい。
そう思ってからかな、彼女と会えたのも…』
「都佑さん…」
『私は良いの、あの子が、ずっと笑ってくれていれば。』
そして少女も、都佑が笑ってくれていれば
それだけで良いと、思うのだろう。
そうやって矢印が回って、大きな円となり
そして
「良いんですか?このままで」
『本当は、良くないって思ってる。』
じゃあと声を上げるアバンに都佑は否定を述べた
『きっと、一番怖いのは…叶わないって感じることなの。』
悲しそうに笑う姿に、アバンは目を丸めた後「そうですか」と返した
『それに、きっと今は乗り越えちゃ駄目なの。』
そう言って歩き出し、窓になっていた場所から少女の様子を見てみる
すると、少女は机の反対側に手を伸ばしていた。
何かが欲しいと思っていたのか、反対側の席に座っていたヒュンケルが
皿に食べ物を入れている。
皿を受け取った後、嬉しそうに笑って何かを言っていた。
左にはポップが、右にはマァムが付いており
口に沢山物が付いているのを見かねたマァムがハンカチを出して
少女の口元を拭い去っている。
嫌そうに、でも何処か嬉しそうにしている少女を見て、都佑の目が細まる。
『…この時間が、ずっと、ずっと続けばいい。』
そうすれば、捨てなくたって、いつか輝いていられるんじゃないかと思う。
そうしないと、今までの努力が水の泡になりそうで、怖いのだ。
少女の笑顔が、また色を知らない世界に落としてしまいそうで…
『ずっと笑ってる、あんなの、本当はしないのよ』
「…え?」
『笑顔なんて、感情なんて分からない筈なの。
でも真似をして覚えようとしている。
彼女は立派な人間なの。』
だから、戻さなければいけない。そう手を握った都佑の手をアバンは見た
『…どうしてあの子じゃないといけなかったの、
…私だったら、私だったらよかったのに。』
「都佑さん、きっとあの子もそれは望んでいませんよ」
『分かってる、分かってるけど!!』
「あの子、昼間私に対して距離を取ったんです。
少しだけ怒りを感じただけなんですよ?それなのに
あの子は私が少し手を握っただけで距離を取った。」
思い当たる節がありますよね?そう言ったアバンの声に。
その言葉に都佑は目を見開いた
「あの子も貴方も人間です。ただの一人の女性だ。
苦しい事があったとしても、それを続けなくたっていい。
どうして、どうしてそこまで追い詰めようとするんですか?」
『…そうしないと、会えない気がしたから。』
「…例え貴方達を殺すことになるかもしれない親だとしても?」
『ええ、何処に行っても、居ないから。』
「そう、ですか…ですが、今だけはどうか、幸せでいて欲しいものです。」
そうね。そう言った都佑の目の中には、少女が写っていた。
嬉しそうに笑って、時間が過ぎることに寂しさを覚える暇も無くして動く
その世界に、ずっと居られたらどれ程いいのだろうかと
都佑は目を閉じて望んだのだった。
どうか、優しい時間が続きますようにと。
そして同時に気付くのだ
それは長く続かないものだと。