テストも無事終わり、週末日がやってくる。
人間でいう夏休みみたいな期間だ。
勿論私も夏休みがやってくる…筈だったのだが…
「ほら甘い!どんどんいくよ!!」
『っ!っお!っ(マジで!?今より!?)』
軽い地獄のトレーニングが始まっていたのだ。
というのも、オリアスだけでなく
ダリ達にまで知られた情報が
一気に職員室で話題となり
「じゃあ見れば見る程強くなれるなら、実際体術受ける?」
と言ったダリの発言によって
メルのトレーニングが決まった。
基本的に受け流すという所であるが
…メルは痛い怖いが嫌い。
というか「何かありそう」
という第六感の感覚が優れており
恐ろしい所には近寄らないようにしている。
なので怖いという気持ちは
なるべく接することが無く避けることも
あまり上手ではなかったというか
『あぶっ』
「わわっ!!大丈夫!?」
イフリート先生の腕に激突した
メルが打った頭を抱えて悶える
メルは恐怖という枠に
そもそも寄り付かなかったため
脳が警告を出しても
身体が上手く動かせないのが難点だった。
『はい、大丈夫です…
(昔はぶつからないだろって
所にもぶつかってたからなぁ)』
ドアを思いっきり開けたのにドアにぶつかったり
柱があると認識しているのにも関わらず
避け切れずにぶつかったりと
昔の記憶を思い出してとほほと言いながら
首をがっくし落として泣きそうな顔になる。
『もう一度お願いします…』
「えぇ…思いっきり
鼻いったよね?待って?」
『大丈夫ですって!次!!』
集中して彼の動きを見る
右へ左へと腕が
此方に向かってくるのを
避けつつ攻撃を繰り出そうとするが
如何せん体格が違い過ぎて
中々攻撃があたらないというか
『(そもそも身体の近くまで
寄させてくれない!なんで?!)』
体術が上手くいかなければ
魔術も応用も全く意味がない。
メルは何処から
手や足が攻撃として此方に歯向かってくるのか
距離を取りつつ攻撃を待っていた
「そっちが攻撃して来ないなら
こっちからいくよ?」
『っ!(はっや!!!)』
髪が多分二、三本切れた絶対切れた。
それ位早いスピードで空気がきれる音がする。
あたれば軽く失神するのではないだろうか?
足技が来たので
ジャンプをしたのを見て目つきが変わる
恐らく着地点で攻撃を繰り出してくるだろう
それならしゃがんで前に突っ込む!!
「っお!」
捉えた!足元に入り込み腹に一撃かまそうとした…
『っにゃっ!?』
「おお〜成長したじゃーん!」
そう言って脇が甘かったらしい。
両手で掴まれてそのまま
高い高いされてしまった…
くやじい…
『うわあああん出来ない〜〜』
「そりゃ体格差あるのに
攻撃の受け身ばっかしてりゃねぇ…」
「はは、でも最初よりかはマシになってません?」
そう動きやすいジャージ姿で居る教師は学生に見えなくもない
休憩入れる?とダリに言われるが、メルが息を切らしつつ
汗を腕で拭い答える
『っ、いえ…はっ、はっ…こんど、っツムル先生と
っ、イチョ、ウ先生、二人でお願いしますっ。』
「凄く息切れしてるのに!?」
「二人とも呼ばれたよー」
「ちょ!?マジで言ってる!?」
『来ないなら分身作って戦うので大丈夫です』
「「すいませんでしたやらせてください」」
流石に女の子一人に
魔力まで負担抱えるのはまずいと思った
ツムルとイチョウは平謝りを入れて
イフリートと交代した
「結構切れる様になってきたから
舐めてかかったら怖いよ」
そう言われて
流石に大丈夫だろと思ったツムルだったが
お願いしますと言ってから
すぐにその舐めた自分を殴りたくなった
急に下に入ってきたメルの足は裸足になっており
手で重心を取り足蹴りしてきたのに驚き
ツムルが後ろにそれつつ、イチョウが手で防いだ
いつの間に靴下と靴を脱いだのだ
足を地面に着地した後、
イチョウの腹に右腕で攻撃をしてくるメルだったが
手のひらで受け止められてしまった
『っぐ、』
「おおぉ、威勢いいねぇ〜」
手のひらで受け止められたのが
嫌だったのか、思いっきり表情が歪む
息が切れているのにも関わらず
攻撃の手を止めない
『っやぁあっ!はっ、たっ!!』
「へぇ、いいっ、動きすん、じゃん!」
イチョウに手の平で全て受け止められているが
メルの攻撃は止まらず足を取ろうとしたり
手で殴りかかったりしていたのに全く当たらない
いや正確には当ててはいるが、
受け止められているだけなのだから悔しい。
「俺のこと、忘れてない!?」
『っばっぶなっ!!馬鹿!!』
そう口が一気に悪くなるメル
ツムルがメルの背後を取って
後ろから攻撃を仕掛けて来たのだ
それをかろうじて右に避けたことで
体制が揺らぐ
『(あ)』
思った以上に右足が広がらず左足が後ろに出た為
身体がぐるっとツムルの方向に向く筈が
中途半端な右足のせいで
絡まって地面に倒れそうになる
それを利用して両手を
地面にたたきつけて
勢いよく足を回した
「「いいっ!?」」
『(あ、なんか身体軽い)』
目を少し開いて腰を低く構えた後
ツムルの足元に入り込んで
一気に腹に攻撃を繰り出した後、
直撃ではなかったものの
腕で軽く防御が遅かったのか
少し顔が歪んだ
何時もならそこで大丈夫!?
と思って攻撃の手が怯むのだが
背後にイチョウという敵がいる為
気が抜けない。
『あ、こういうことか』
そう言ったメルは、
空中に身体を浮かせて
ツムルの膝と腕を利用して
身体をジャンプさせたまま
イチョウの方を向いて攻撃を繰り出した
いわゆるバク転みたいな状態だ
怯んだイチョウが距離を取り、
腹を抱えたツムルに大丈夫かと声を掛けた
その間にメルが動き出し
また右へ左へと攻撃を繰り出す
足で横腹にヒットさせた後、
数メートル距離を取り息を切らす
『っはっ、はっ、はっ、っ、』
「いって…良い蹴り入れる様になったな」
「なんか次第に強くなっていってない!?」
「もう休憩でいいでしょ」
そう言ったツムルに、
流石に休憩入れるかーと言った
ダリの呑気な声でああああっと言いながら
メルが床に背を向けて大の字に倒れた
お疲れーと言いながら
イチョウがメルの方に歩いていくのを見て
ツムルもメルの方に向かって歩き出した
「最後の一瞬マジでビビったよ」
『っ、まだ…ま、です』
「いや俺も驚いたよ!!
メル先生動き凄い
早くてビビった…
魔リスかと思ったわ」
『はは…っでもそこまで早くないですよ』
魔リスがテレビで見たことある
リスと同じであればの話だが
そうメルは思いつつ、
片手ずつ手を握って勢いよく
ツムルとイチョウに起こされた。
少しぐわんぐわんするのは
脳に酸素が足りてない証拠だろう
ゆっくり歩いてダリ達がいる方に向かった
「すっごいキレ良くなったよ!
メル先生!!
あこれ水分とタオルね!」
『ありがとうございます』
「メルちゃん
運動得意だったんだね…」
『いや幼い頃野山走り回ってたので…』
まぁ人間界の山だが。
たまに猪に出会ってこんにちわと言って
おじぎをしたらおじぎし返されたのは良い想い出だ。
距離を取れば野生動物は攻撃をしてこない。
それに走り方は基本的に筋が良かったため
詰める時は足を前に大きく
出して動けていたのは良い所だろう。
メルはロビンから
受け取ったタオルで汗を拭いて水分補給した後
床に腰掛け背を壁にもたれかける。
目を閉じて意識を集中させ
先程行った攻撃と受け身を記憶から引っ張りだす。
右へ左へと動くメルとイフリートから、
途中イチョウとツムルが入り
軽くかわしつつ攻撃を何度も繰り出していると、
上から「こらっ」と声を掛けられた
「も〜休憩中は休憩しないとー!」
『えっ?休憩してたんですが…』
「アレ見てそれ言える?」
そう指を指されてみた先は、
記憶から引っ張り出して来た先程の動きをする
メルとイフリート、ツムルにイチョウだった。
なんで!?と言うメルに
「あれ?無意識?」と聞いたダリ
『はい…ちょっと頭の中整理しただ
あっいや整理違うか普通に作ろうとしてたわ』
「だーかーらー」
『あああ分かりました分かりました
休憩しますってほら!消した!!
ほら見て!!!』
そう笑いながらロビンを
メルが両手を前に出してなだめる
指を指した先の方には
手を振りながら消えていく
記憶上の彼ら達に
しても物覚え早いねえと
イフリートから褒められた
「あんな動き女子生徒でも
中々出来ないよ?筋良いって」
『いやそんなことないですよ。
生徒会長レベル出来ないと…』
「アレはもう才能だから、
ってか急にあのレベルは無理でしょ…」
今の充分だよと頭をガシガシと撫でる
イフリートにメルはお礼を述べた
「それにしてもオリアス先生
手伝ってあげないんですか?」
「いや俺は無理だって…」
「オリアス先生ゲームもしないで
メル先輩が怪我しないか
心配で見に来たんですよね!」
そう言ったロビンに
顔を少し赤らめたオリアスが煩いと声を荒げた
からかわれているのに、
そうなの?とメルが
きょとんとした顔で聞いた
「っ…ああそうだよ、悪いか」
『ふふっ、ありがと』
そう笑うメルに、
熱いね〜とダリが茶化すことで
メルも顔を赤らめた
「それにしてもこのまま運動し続けてたら
二学期普通にやばくないです?
ムッキムキなりません?」
『流石にムッキムキとはいかなくても、
まぁそこら辺の女子よりかは
自衛できる程度には…なるんちゃいますかね?』
「いや今も充分だったけどね?ってか
二人掛りで良く避けたし攻撃出来たね?」
『オリアス先生のゲームのおかげですーーー』
ゲーム!?何してるの!?そうツムルに聞かれる
オリアスがぎょっとして少し身体を縮こませる
元々メルもゲームをする方だったが、
先程の体術、実は攻撃を繰り出す1VS1のゲーム
で見て来た動きを真似しただけなのだ。
流石に見様見真似はキツイなぁ
と思いつつ息を整える
『目標は4人がかりで
攻撃されても全部避けて
攻撃出す事ですからね』
「えっ…待って?
それ全員男だよね?」
『え?勿論ですけど?』
「…メルちゃん
プロレス目指すの?」
『いやいや、目指しませんけど!?
ってかそれ位束で来て避けれて
倒せれたらかっこよくないです!?』
「いやかっこいいけどさ!?
守られててもって思わない?」
『いやーーーちょっ…と、
5歳頃に道端のドブに捨てましたねぇ…』
「捨てないで!?ってか早くない!?」
小さい頃駆け回りまくってたからなぁ
そう笑うメルに、
ねぇ最強目指すの!?
とツムルがツッコむ
『私自分で誰かを守れるのって
良いなって思うんです。
自分の力で誰かと一緒に
肩を並べられるようになりたい。』
それが例え、地獄の中に
居続ける原因になることだとしても。
それでもいいと思って、
私はこの場所を選んでいるのだ。
本当ならいつでも
人間界に戻ってもいいのだ。
いつ魔関署から報告を受けて帰るか分からない
人間界に飛ばされるとびくびくして守られる位なら、
胸を張ってこの場所に居てよかったと言える位で帰りたい。
きっと人間界に帰ったら
貴方達と毎日話せるのだろう。
そして目を醒ましたら何処にもいないのだ。
会えなくて、ずっと独りで毎日息をする。
その時間が恐ろしいことだとしても、
今頑張っていれば
きっとその時は楽にしていられると思うのだ。
もっと守れる瞬間はあったのだと思わせない様に。
『(幸福な悪夢を見せるために、
今頑張っているって言ったら…
この悪魔達はどういう顔をするのだろう?)』
泣いてくれるのだろうか?
そんなことしなくていいのだよ!
と言うのだろうか?
嗚呼でもきっとこの悪魔達なら
悪夢を見せないように
原因を探り出して
一緒に協力してくれるだろう。
嗚呼どうか、この時間が続けばいい。
そしてそのまま悪夢になってしまえばいい。
そうしたら、そうしたら
私はずっと笑って居られる。
…きっと、地獄の様な天国だ。
そう言えば昔も地獄を好んでいた。
ー地獄も好きになれば
何処に行ったって幸せでしょ?
そう笑った私は、一体何時だったのだろう。
「所で次誰と戦う?僕?」
『あ〜いっそのことロビン先生と
オリアス先生やります?』
「え!?ロビン先生は分かるけど俺も!?」
『貴方
「逆にオリアス先生怪我してほしくないって思ったら
メルちゃん一生攻撃当たらないんじゃない?」
『あダメじゃん却下じゃんやだそれーー』
あ、そこダメなんだ。
そう生傷絶えない男の子みたいな
ことにさせたくないと思っていた
周りの声は届いていないらしい。
『(いつ貴方達が動けないか分からない)』
「なーに考えてるの?」
そう聞いて来たオリアスに、
メルがうっと唸る
何?言ってごらん?
うちのイフリートが攻撃痛かった?
と言ったツムルに嘘!
とイフリートが慌てだした。
いやいや違いますよと
首を横に振って否定する
『ただ…皆さんの協力を仰げない時が来た時
このままだと私まずいなあって思って』
きっと私しか動けない日が来るだろう。
そうなった時、
皆を安心させるには、
強くならなければいけない。
何時かその時が来なければいいのだが…
「大丈夫!そんなのさせないさ!」
「そうそう!男性陣なめないでよー?」
『そうですよねー!そ…』
そうだよ。
と言いたかった私が目を開けた場所は
体育館のような広い場所でもなく
ダリ先生たちが気だるげに
会話している場所でも無かった
空は赤黒く、周りには
何人か教師が倒れてうずくまっていた
スージー先生が倒れているのを
庇っているのかダリ先生が倒れている
瓦礫に背もたれる様に
血が流れつつロビンが意識を飛ばしており
イフリート先生が若干遠いが横に倒れていた
ゴゴゴと音が鳴り響く怒号だろうか?
それとも地震だろうか?
ーダメだっ!!行くな!!
そう誰かが言った声の場所に身体を向けた
頭から血を流しぐったりとして
意識を失ったオリアス先生を見て
メルは目を見開いた
自分が、目をぎらつかせて
力を出そうとしている
ー嗚呼、許さない許さない許す訳がない…!!
ーお前は地獄よりも更に地獄を見せないと、なぁ!!!
ー****!!
雑音が急に入る。
前に居るだろう敵も
黒いクレヨンで塗りつぶされている
これは未来か?
未来に起こる世界なのか?
メルが横に手を切ったと同時にイフリート先生や
ロビン先生、オリアス先生達が出てくる
手袋をはめ直すオリアス先生達の姿に私は驚いた
それが三人だけではなく教師の数が多かった
カルエゴ先生やバラム先生、ダリ先生やスージー先生
教職員が彼女の左右に一列で立っていた
ーそりゃダメだよなぁ?
ー嗚呼我らが宝の大事な学び校を壊す等もっての外
ーふぃっ。久しぶりに思いっきり戦いますか。
ーお前らは寝て居ろ。これからは俺達が動く。
ーっ馬鹿!!メルちゃん!
お前そんな一度に出したら
どうなるか分かってんだろ!!!
その泣き叫ぶ声に
背中を向けていたメルが
びくりと肩を跳ねた
ーやめてくれ、頼む…頼むから
悲痛な叫びに、首を横に振った彼女が手を上げた
創り出しただけならまだ良い。
それを一度に動かし続けると言う事は
すぐに魔力は底をつくし、
命に関わる事に結び付くからだ。
ー足引っ張んなよおらああああ!!!
メルが大きく手を前に勢いよく下げると
上等じゃごらあああ!!と
掛け声で一気に教師陣が走り出した
嬉しそうに笑う少女がメルの背中に現れた
白いワンピース姿の少女に向かって
メルが首を横に振りながら涙を流す
ごめん、とでも言っているのだろうか?
少女が首を横に振る
メルの手に銀色の光が見える
突如少女の胸が銀色のナイフで突き抜かれた途端
声にもならない叫び声が
口を大きく開けて叫ぼうとする
メルの姿が目に写る
『(嗚呼この世界だ)』
出会ってはいけない世界なのに
近々起こりうる世界。
一体誰が敵になって
一体誰がこの学校を脅かすのだろう?