目の前に出て来たのは
赤髪が丸く二つに結わえたツムル先生だ
精神医学の担当で、そういや家系魔術は知らない
でも彼の名前はムルムル・ツムルだったはず。
あれ?ムルムル
ーむ〜る〜むるむる唸り声〜!
『(えっ何だこの歌)』
紙に絵を描く子供
黒髪の男の子だろうか?
髪の毛は短く短パンの絆創膏を
至る所に貼っている子供だ。
ーむるむるるむるむ音楽わいわいお話だぁ!
音にまつわる家系か?
というかこの記憶何処の記憶?
笑って歌う少女がまた可愛らしいのだが
向日葵色のギンガムチェックに
襟がデニムの青さが綺麗だ
もしこの記憶が正しければ、
ツムル先生の出す攻撃として
音楽を具現化して攻撃するか、
悪魔を出して攻撃するか…
「ではよーい、はじめ!」
その言葉で現実世界に意識が戻される
ツムル先生が此方を伺っているのを見つつ、
此方もジリジリ左に寄る
まずは、様子見…か。
なら動くしかない!!
私は走って左から上に腕を上げて
アッパーの様に攻撃する
が、ツムル先生は後ろに下がって避けられる
揺れた所を足ですくおうと考えていたが、
なるべく転げない様に避けつつ
寸止めで避けたその腕をチラチラと見ながら
良い動きするねぇ〜と驚いていた。
余裕である。
いやイラつくと流石に集中力も切れやすいし
此処は一旦落ち着かないといけない
問題はどうやって触れるかだ。
いきなり使い魔召喚してもまずいし、
魔力も持たない。
さて、15分体力が尽きるか、それとも。
どちらにせよ
此方は使っても良いのだから、
関係なしに繰り出そう。
だからと言って何もしないで終るわけにはいかない。
というかさっきから
あの少女が頭から離れない。
お前は一体誰なんだ。
私の情報を邪魔しないでくれ。
メルは顔をしかめ、
関係なしにツムル先生を作り出した
「へぇ、俺も作り出せるんだ!」
『(声を張り合うのは体力の無駄。
なら頭で考えつつじっとする!!)』
目を動かして指で最初は操作する
ツムル先生を動かして
自由自在に走らせることで
自分の体力自体は防げて
相手の体力を消耗できる。
「うおっ、と、えっ、うわわっ!!」
かなりギリギリなラインを
付けるというのが利点ではあるが
これでは体力を消耗させる
だけになってしまう
私の集中力を高める練習でもあるし
さっさと終わらせるのもありだ。
目を閉じて更に加速させようとした
なのに青い空の下花畑が見えるその真ん中で
嬉しそうに向日葵を二、三束持って
此方を向いて大きく腕を手を振っている少女が見えた
向日葵色のギンガムチェックが
真っ白な肌と相性が良いのか
とても綺麗な可愛らしい少女だと思えた。
お前は誰だ
ーくるよ!あと2m!
え?その言葉にメルは目を開いた
すると本当に目の前まで
走り出して来ていたのに驚き
声が漏れる
『っつぇええ!?』
驚きつつ距離を取るために思わず空中に逃げた
ジャンプと同時に奥に居たツムル先生を一度消し、
イチョウ先生を作り出して
下から上に上げる動作を行わせる。
手に足を付けてばねの様に
足を一気に延ばしてジャンプする事で
なんとかツムル先生の攻撃を防ぐことが出来た。
危ない。
というか何で少女が言った事が
現実になっているのだろう?
場所は違うのに
あの子は一体だれなのだろう?
「おおっと!メル先輩
華麗に交わした!!」
「凄いねぇ!あんなに高く飛べるんだ…」
『(さぁどうする!詰めるにも怖い…
かと言ってタッチしないと無理)』
本来私は逃げる専門だ。
恐怖からおん逃げるのが専門なので
正直今すぐ逃げたい。
だが、こんな時こそ逃げずに
立ち向かって動くしかない!!
前に詰めて攻撃を繰り出す。
右、左、左下から足を出すが
全て避けられる
「ただ動いても避けられるだけだよっ!!」
そう言われた時、
ツムルから左腕が横から此方に向かって振られる
避けれず不味いと思って目をぎゅっと閉じた
ふわりとシャンプーの香りが鼻に入る
ーしゃがんで。
その後、右に動いて後ろに回って
『えっ?』
言われた通りにしゃがみ、
私はしゃがんだ状態で右に動いて背後を取った
それに反応が遅れたツムルが驚き
後ろを回ろうとした状態で、
勢いよく前に出てタッチする勢いで
身体に飛びついてしまった
「ちょ、うわっ!!」
『うわあわ、っぷっ
…ごめんなさぁい』
「おぉーー!
メルちゃん勝った〜!!」
そう拍手が巻き起こる中、
ツムルが尻餅をつきつつ
メルに対して「大丈夫?」と声を掛けた
タッチして終わる処か
勢いをつけすぎて
身体ごとタッチしてしまった挙句
ツムルが受け止めきれず
後ろに尻餅をついたのだ
心配そうに声を掛けたツムルに
メルは大丈夫だと言いつつ
ツムルに怪我はないかと心配の声を掛けた
それに問題ないよと困った顔で笑われてホッとした。
『(なんだ今の…声。
これちょっと試してみるか)』
少女が言った通りにすると
必ず身体が軽くなって動きやすくなる
しかも相手からしたら
予想外の動きになっているらしく、
隙をつきやすい。
まぁ今回はツムル先生だったから
というのもありそうだが。
「お疲れ様。
あとちょっとで15分だったのにー
いやー惜しかったね。」
「えっ!もうそんな時間だったんですか!?」
『ひぇっ気付かなかったです…』
「でも休憩挟まなくて大丈夫?」
『あ、ちょっとお手洗い行きたいです!』
「いってらー」
そう言われて私は駆け足で階段を登って外に出た
右の奥にトイレがあった筈なので急いで入ることにした
『…ルアちゃん聞こえる?』
「嗚呼、聞こえるよ?」
『さっきの何?
私目閉じたら少女が
指示してきたんだけど』
「え?私知らないけど」
おっとーーー???
ルアちゃんの仕業ではなかったらしい。
何なら途中
私に向かって声を掛けていたらしいのだが
全く声が届かなかったとのこと。
ひょっとしたら
少女と会話している時は
別世界として通じている可能性だってありそうだ。
事情を説明しつつ用を足す。
「成る程、そりゃよくわからん」
わからんのかい
「だが、その通りだったら
目閉じてやってみればいいじゃない?」
『そのつもりで動く予定。
最初は怖いから10分は組手方式で
途中から怖くなったら目閉じる。』
「魔力は未だ有り余ってるから大丈夫さ。」
何とか次の試合での動きが決まった所、
私はトイレから出ることにした
+++++++++++++++++++++++++++
「お、帰ってきたね。おかえり」
『すいませんお待たせしました。
ただいま戻りました。』
「待ってないよーそれじゃやろうか!」
ーばる…ばる?無いよ。
これバルバトスじゃない!
その声に目を少し開いたメルに
気付いたのか、ロビンがどうした?と声を掛けた
『あ、いえナンデモナイデス。』
危ない。
此方の行動が察知されると割と不味い。
試しに動いている物だし、
頭の中に急に少女が降って湧いて出てきて
その指示に従っているとか
絶対知られたくないものだ。
普通に頭おかしい。
だが、味方の様な気がしてたまらない。
というか私は
貴方を忘れてはいけなかった気がする。
なのに、貴方の名前が
思い出せないのはどうしてなの?
「それでは、はじめ!!」
「僕からいくね!!」
そう言って動き出したロビンに、
メルは驚きつつも攻撃を避けつつ
隙を狙って身体をひねって
攻撃を入れようと繰り出すも、
全て避けられる
というか少女がさっきから
こんがらがっているので
私は頭の中で訂正を入れる
『(バルス・ロビンは
バルバトス家の分家!
弓使いだよ)』
その声に了解と声が入る。
やはり指示が意思疎通が取れるようだ。
それならば
今回は指示を半分聞きつつ
攻撃を繰り出すしかない!
よね!!
ロビンからの攻撃を左に交わした後
くるりと勢いよく足で蹴り上げたのを
おっととロビンが言いながら
大きく交わされて
体勢が崩れるのを見落とす程
馬鹿ではない。
目を閉じる。
ツンと香るシャンプーの匂いに
何故か泣きそうになる。
ー距離を取ってから目を閉じて。
考えたものは全て現実。
言われた通り目を開けた後距離を取る。
もうすでに15分経っているのか知らないが
此方に向かって魔術を使って
攻撃を仕掛けてくるロビンにメルは目を閉じた
腰を低くして
片手は体勢が崩れない様に
地面に置いている
感じろ。
集中しろ。
目の前には敵。
同じ敵を作り出して攻撃を繰り出すだけ。
メルは目を閉じて意識を集中させる。
現実にあるような世界を作り出し
ロビンと同じ者を作り弓を作り出して放つ。
勿論彼に直撃しない様に指示はしている。
何か声が聞こえる気がするが、
気にしないでいいだろう。
目を閉じたまま身体を前に動かしてみる
恐らく描いている自分と
同じ動きをするだろう。
左へ右へと走り出して
様子を見るために距離を取る
ロビンは右側約3m距離を取れている筈だ。
凄く困ったような、
冷や汗をかいているかもしれない。
目を開けるのが怖い。
これが間違っていたら良い。
そうしたら馬鹿だなぁ
そんな訳ある筈がない。
ただの勘が冴えていただけだと思えるから。
安心するから。
なのに瞼を開けると
どういうことだろう?
「…え?」
少し焦っているロビンに、
瞼を閉じた状態と全く同じだったのだ。
それに気づいた途端、私は泣きそうになった。
『(嗚呼どうして…!!)』
じゃあ貴方は誰にも見えないの…?
声のする貴方は誰も気づいていないの?
こんなにも優しい声の貴方を。
目をぎゅっと閉じて私は前に走り出した
左下の脇に力を入れるがすぐに避けられる
逃げるのを捕える。
待て。
逃げられるとでも思うな。
ふとシャンプーの香りが強くなる
ロビンが逃げるのを走って私も追いかける
ロビンの服を掴み切れずに
手を宙に伸ばしたままになった
その瞬間雑音が頭の中に入ってきた
その音はマイクのノイズだろうか、
機械的な雑音に耳が痛くなる感じがする。
情景は小さな白い手が
誰かの手を取れずに強く
前に伸ばしていたのを
ゆっくりと元の場所に戻していく
遠くなるのに、
まるで届かないのを諦めたかのように。
ダメだ諦めるんじゃない。
まだ走ったら届く場所にあるじゃないか!
何故諦める何故そこで終わらせる。
折れた花は枯れるしかない。
自ら手折ってどうするというのだ!!!
突如泣きそうな顔で笑われた涙は
本当に頬を伝っていなかった?
『…っ!勝手に、手折るなぁっ!!』
目を開けて強く声を出した。
笑って居続ければいい。
それだけでいい。
子供がそんな大人びた笑顔を知ってはいけない。
大人びて維持しなくていい。
ありのまま笑って居られればいい。
その場所を守りたいからと言って、
だからと言って
これは罰なのでしょう?
と言わんばかりに落胆しないでほしい。
メルは手折る少女の代わりに怒りを強く抱いた
身体の後ろから赤い炎が沸き上がる感情だ
不思議と後ろが光っている気がするが
というか熱いが気にしない。
今は前に突っ込むのみ!!!
ロビンがとんでもなく驚いているのに
突っ込んでタッチ出来たのは
それから1分後のことだった。
「メルちゃんの勝ち!!」
「ええええええ何あれ何あれ!?」
そう言うロビンにメルは
きょとんとした顔で首を傾げた
少し息が上がっているメルに
周りに居たメンツがロビンと
メルの元にかけよった
「メルちゃん今さっき魔術使った!?」
『えっ!?いや、
ロビン先生作り出しただけで』
「えでも叫んだじゃん…あれ何?」
あっ………しくっっった!!!!
そう青ざめるメルにいやあのと
オロオロ説明をどこからしようと喚くのに
とりあえず休憩する?と
マルバス先生の声に天使かなと思った。
+++++++++++++++++++++++++++
「少女が声を掛けてくる?」
「え?睡眠不足大丈夫?」
『ほんと私もソレ疑いましたけど
すこぶる元気なんですよねぇ』
魔術でそんなことありましたっけ?
そうオリアスに聞くロビン
オリアスはいいやと首を横に振り、
マルバスやツムルにも聞いたが
二人共首を横に振った
「少し呪い系で似たようなものはあるけど、
それにしては効果が薄いし
状況が全く違うからかじった程度だよ。」
「なんですか!?」
「ああ…確かその呪われた者の夢を現実にする呪いかな?
でも状況としては夢を見てから現実世界に戻る感じだから
メルちゃんの状況だとちょっとそれは無理かと。」
『まぁ目閉じたら見れますからねぇ』
「今は見えるの?」
え?今?どうだろうと思いつつ
パッと目を閉じたが、
ただ暗い状態なだけだ。
どうやら何も考えなければ大丈夫らしい。
彼女のことを考えても何も浮かばないし
暗い状態だった。
…悲しそうな泣きそうな笑顔が
頭から離れないくせして。
『ダメ、ですね』
「そっか…戦闘中じゃないと見れない感じ?」
『それを次試そうとしたんですけどね。』
「何時から?」
『ほんとさっきですよ。
ツムル先生と戦った時』
「俺原因!?」
いや流石に違うと思うけどなぁと
メルは苦笑いしつつ
そうだよと言うロビンに
オリアスがなだめに入った
「とにかくソレの状態は怖いね」
『ええ…こうなんか、
心が抜かれるというか』
「え!?ならやめた方が」
『でも、何処か落ち着くんです。
何でか分からないんですけど、
凄く懐かしい。』
間違いなく何かを忘れている。
何処の情景かも分からないのに口が先走る。
私は誰と一緒に居て、
誰と一緒に暮らしていたのか。
本当に幼少期の記憶が合っているのか。
というか、
小さい頃の記憶がかなり飛び飛びで
実は綺麗に覚えていない。
それは記憶を抜かれているだけなのか?
記憶が全て戻った時、
私は少女を助けられることはできるのか?
泣いてばっかの少女が、向日葵を抱きしめて
本当の夢に帰らせることはできないのだろうか?
嗚呼、分からないが
…そのままで居て欲しいと
そう思う自分が最低だなと思った。
そっか、そう言った
マルバスにメルは顔を上げた
「じゃあ次僕とする?
それともオリアス先生?」
「え?俺?」
「あれオリアス先生傍観?」
いやしますけど。
そういうオリアスにじゃあ先する?と
先程聞いて来た内容で、
どうしようかと迷う声をオリアスがあげていた。
そんな中大丈夫?とメルに
ツムルが声を掛けて来た
精神医学的な観点からみて、
かなり危険な状況だと判断したのだろうか?
大丈夫じゃない。
きっと少女は私に助けを求めている。
だからそう伝えようと口を開いただけなのに
強いシャンプーの香りがして、
首元に温かい温度が伝わる
視界に入る髪、
頬に髪の毛が触りくすぐったい
ー大丈夫。ずっと此処に居るよ。
『ーえ?』
そうシャンプーの香りが消えつつ
優しい声に声が漏れる
なに?とツムル先生に聞かれて
いや大丈夫って言われただけで
と変に状況を説明して
中途半端な回答になってしまったのを
メルは焦った
『あっいや、その…少女が不安そうだったからツムル先生に
助けを求めた方が良いかなと思って声を掛けようとしたら
急に大丈夫、ずっとここにいるよって言われて
…ちょっと驚いちゃって』
「…ずっと、ねぇ…」
そう眉をひそめるツムルに、
ちょっと待ってと言われたメルは
はいとしか言えなくて口を閉じた
どうやら何か記憶を探っているらしい。
頭に指を置いてうんうん唸っている。
「昼休憩の時にちょっと探してみるわ。
何か似たようなのあるけど
分からなかったら寮帰って探るよ。」
『いやいやいやそこまでしてもらうのは!!』
「そのまま放置するのは申し訳ないし、
何か別の意味だったら怖いでしょ?」
例えば、誰かの魂がメルちゃんの傍に居て、
今も生きていて監禁された肉体が
そのままメルちゃんの精神にとりついてるとか
そう言って自分で怖くなったのか
青ざめるツムルに、マルバスが助け船を出す
「もーツムル先生
怖い話嫌いなのに
自分で怖い話しちゃって…」
『ああ…でも、一応このまま行ってみます。
一応意思疎通可能ですし…
名前まだ聞いてないし、
仲良く…できればしたいので。』
本当、自分の心を見てくれる人は少ない。
もっと言えば自分から言えなくて
閉じ込めた感情を全て知る人なんて
恐らくこの少女位だろう。
知ってほしくない筈なのに、
この少女だけには
何処か知ってほしくてたまらなくなった。
だからこの子には名前で呼びたい。
でも少女はきっと名前を
呼ばれたくないかもしれない。
嗚呼、でもどうか。
どうか夢で逢って欲しいとさえ思う。
だって夢でも現実でも会えるのだから。
それなら別れる悲しみなんて要らないから。
ひとまず次の試合を考えるためにも、
10分何もしないで休憩に取り組んだ。