メルの夏休みはもうすぐそこで終わる
夏休みも終盤を迎えそうな午前10時
できたぁ!という声にメルが急いでドアをノックした
『失礼しますー!バラム先生!!
出来たって聞いて〜!!わああああ!!!』
そう準備室に入ったメルがドアを閉めつつ目をキラキラしだした
数日前に会話していた、バラムとスージー先生に頼んでいた衣装が
やっと出来上がったのだ。
教師の服を多少捨てることになるが
んなのもうどうなったっていい。
自分の衣装だーとキラキラした目で見ていた
「ああいらっしゃい。これが君の注文した衣装ね。」
黒のマントに黒の三角とんがり帽子
あと竹ぼうきに小さな赤いリボン。
メルは着てみたいと言ってバラムの前でぴょんぴょん跳ね上がる
いいよいいよあっちで着替えてねと言ってバラムがメルの背中を押す
その間にルアラがバラムに此間の事情を簡単だが説明し始めた。
「バラム。メルが魔女見習いになった。」
「え?メルちゃん魔女じゃなかったの!?」
「嗚呼正確には魔女候補だ。
魔女見習いになった以上
あの金髪悪魔に“完璧な魔女仕上げる”という
課題を叩きつけたからな。」
「へぇ〜で?魔女は具体的にどんなことするの?」
「具体的には炎を作ったり水を出したり、
薬草を調合したり回復等
オールラウンダーだな。なんでもできる。
ただ魔女は人間でなければならない。」
正確には人間の肉体と魂でなければならない。
悪魔の魂を引き継いでしまうと
異状が発生してしまうからだ。
「ミレイユ様は幻影が得意だったからな。
メルもその素質があったため
拉致監禁して基礎を叩きあげていた。」
「拉致監禁って…そんな言葉が汚い」
「至極当然のことだ。そんなことより
メルの勝手な願いを受け入れて感謝する。」
「ああいやこっちも仕事行き詰っていてね。
丁度良い気分転換になってこちらとしても助かったよ。」
「そう言ってくれると此方としても助かる」
『ねぇーー!!着れた!!!着れたよ!!!!!』
そうメルが飛び出してきたのにルアラは何も言わず
対してバラムが「おおー!」と声を上げた
黒のとんがり帽子は先が金属のため垂れ下がり
金色のひし形がキラキラ揺れている
深めに被りたいのか、メルは右手で帽子を調整しつつ
左手で箒を握って地面にこすりつけながら歩いてきた
靴は前に遊びに行ったプラネタリウムの靴に似せて
黒い高さ3p程の気持ち高めのくるぶしが隠れるブーツにした。
上着は黒を基調としており、バビルスの上着を少し改変。
裾元の棘部分をたいらにさせ、後ろにフードを付けて貰った
中はワンピースになっており、
スカート部分には白いレースが施されている
何かと荷物が不便なのでリュックではなく
腰にポーチを付けてもらうことにした
左側に垂れているポーチにはいつもお世話になっている香水に
その他諸々入れれるようになっている。
恐らく化粧品ポーチ程の大きさだろう。
ワンピース自体も黒い為、実質真っ黒である。
「うん、サイズもぴったりだね!」
『ありがとうございます!これで魔女見習い気分やっふ!!』
「まぁ形から入ったな。ミレイユ様のお古にそっくりだな…」
「え゛っ!?そうなの!!!」
そう驚いたのはバラム。
メルが持ってきた衣装の材質もほぼ合っているらしい。
見たものをというよりかは想像したものを持って来ていた筈なので
メルとミレイユの価値観が一致していたというだけである。
「にしても教師としても魔女としてもかっこいいね」
『へへ!今度箒に浮遊魔法使って飛ぼ〜』
それまでは魔術を使って箒は小さくしてポケットに仕舞うことにした。
全くというルアラの前にメルは膝をついて座る
ほら顔を上に上げてそう言ったメルにルアラがきょとんとした顔で
とりあえず上にあげた
シュッとした音に少し首元が違和感を覚えた
どうやら首にリボンを巻いてくれたらしい
『へへ!赤いリボン〜やっぱ黒猫は赤リボンじゃないと!』
「まぁ見習いだからな。付添人としての効果はあるか。」
「間違いなく使い魔かペットにしか見えないけどね…」
そうバラムは突っ込んだが、
ルアラには無駄だったらしい。聞く耳を持たない。
嬉しそうに笑う都佑だったが、
魔術系は分かるものの魔法関係は一切分からない。
という事で、行く先は一つだ。
ニヤリと笑い人を集めてこいと言われて扉を閉められた
一体誰をと思ったが、とりあえずオリアス先生を呼び出す事にした。
+++++++++++++++++++++++++++
「お待たせ〜」
『いえいえ』
「10分待ったぞこの金髪悪魔」
「ねぇその名前いい加減変えてくれない?ルアラちゃーん」
「甘えた声でその名を呼ぶな気色悪い」
『ちょ!酷いよー』
しょげるメルをバラムがなだめる
にしても衣装カワイイね?と言ったオリアスにメルが顔を赤らめた
魔女の帽子を両手で掴んでそんなことないと言いつつ顔を帽子で隠した
「メル、では行こう。
サリバンの魔力が無くてもお前が許せば飛べる筈だ。」
『了解!!じゃ二人とも私の手握って!!』
「え?こう?」
そうそう!そう笑って言うメルにルアラがメルの肩に飛び乗った
詠唱はしなくても場所さえ思い浮かべば飛べるそう言ったルアラに
声をかけた後、とびまーすと言って目を閉じた
世界を浮かび上がらせる
湖のほとりにあるログハウスの世界
目をゆっくり開けると、その場所はあった
湖に蓮の葉が浮かび、周りに蛍の様な黄緑色の光が舞う
その場所に、バラムとオリアスが驚き顔を上げた
「え、ここどこ!?」
「ミレイユ様と都佑が暮らしていた場所だ。
と言っても人間界の場所を真似た魔界の何処かだがな。」
「え!?」
「メル!さっさと鍵を開けろ」
『まーってよ!開いたねぇあいたよ!!!』
そう飛ぶメルの元にオリアス達は歩いて寄って行った
階段を上がり、ログハウスの扉を開けて進む
木の香りで玄関先から落ち着く匂いがした
靴を脱いでそのまま部屋の中に入る
ロビーの様な場所には地面に丸く赤いじゅうたんが敷かれていた
玄関から入ってロビーの左側に焚火の出来る暖炉があった
右側にソファーがあり、手前の方にキッチンがあった
暖炉の上には幾つか写真が立てかけてあり、
壁は幾つか写真だったが
絵を飾っているものもあった。
暖炉の上に立てかけたあった写真の中には
淡い緑色の髪の少女と青い髪の毛の女性が笑いあっていた
美味しそうに食べて笑う淡い緑色の髪の毛の少女がいたり
中には目が死んでいる不貞腐れた少女がいた。
その目はもう何も必要ない。
全てを殺してしまえば良い。
そう言いたそうな目に少しゾッとした。
「此処はミレイユ様とメルが過ごしていた全てだ。
人間界の物もあるが持ち帰りは厳禁だ。」
「へぇ、ここが…」
「ちなみに今はメルが許可を降ろさないと
テトですら恐れる一生出れない魔物の巣になっている。
良かったなぁ?お前達メルに愛されているぞ。」
「ひいっ!!」
心を許した者のみが入れる幻の世界。
それがこの場所らしい。
「にしても綺麗な場所だね。
こんな所が人間界にあるなんて…」
『時間軸ってどうなってんの?
人間界じゃないから通常?』
「だろうな。ほら前を歩け。
あと使うのはお前の心と魔術だけだ。
最初と最後だけだからもう
ほぼ此処は避難所と変わりない。」
そう言うルアラにメルはへぇと言ってどうして?と呟いた
『どうしてミレイユはこの場所に居続けなかったのかなぁ』
「…継承したからな」
『?ふぅーん。あ!そうだ!
ねぇルアラ!!あの秘密の扉行こうよ!!』
お前さっきからそれの為に来たんだぞ?
そう言ってるの分からなかったか?
そう言ったルアラにそうなの!?今気づいた
と言いながらメルが腕を上に身体を動かして驚く
扉?そう言ったバラムにルアラが嗚呼と答えた
「ミレイユ様がメルに内緒で地下室で研究していた場所だ。
当時魔女になったら入れるよって言われていてな。」
『魔女の見習いになったから大丈夫!!…あいた』
「っ!」
そうドアノブを回してドアが開かれた
地下に繋がる階段が見えた現実にメルの表情が消えた
先程みた写真の様な目に少し驚いただけだ
ゆっくりと歩いていくメルに後ろから
オリアスとバラムはついて行くことにした
地下の階段はコンクリートで固められており、
数十段降りていくと左側に
少し奥に広い空間が広がった。
手前は机の前に本が並べられており、
壁には本が埋め込まれている
地面には何かが描かれた形跡があり、
練習を繰り返していたのだろうか
円や文字が薄っすらと入っているものの、
何が書かれているのか分からない。
左奥に机があり、
その先にはガラス越しで植物園が広がっていた
どうやら右側にある壺で薬剤を作っていたらしい。
埋め込み式の本棚の隣には壺と何やら
薬剤らしき棚に袋と小瓶がびっしり詰まっていた。
何かラベルや袋には札が付けられており、
何語か分からない文字で書かれているのを
バラムは手に取って知る
「ミレイユ様は何でもできたからな。
右側の棚は薬剤の資料だ。
人間界と魔界の知識がある。左側の棚三つあるだろう。
左から魔法学・歴学・その他資料だ。」
「これは?」
そうオリアスが指を指したのは
左奥に置かれていた机の前にあった本だ
赤い本で少し分厚い…500ページはざらにありそうだ。
「それは…」
『禁忌呪文。薬学魔術全てにおいて
許されない物が書かれている…っ、私の継承の事も…!!!』
そう顔が歪むメルにオリアスがメルの頭を撫でる
首元の光が一瞬強くなりそのままほのかに光っているのだ
「禁忌呪文だったからな。
仕方がないだろう。
追われていた身だったのだ。」
「追われていた?」
『どういうことルアラ、そんなの私知らない。』
「ミレイユ様はとある禁忌呪文を三つ使った。
それ程したら生を受けることは二度と不可能だ。
生き返らせることなどできる訳がない。」
『ーっ!!』
「…聞いても答えてくれる?」
「この場所に見習いから入れる時点で言うべきだと思った。
赤い本のページ143左側の行を読め。悪魔に読めない様に
ミレイユ様がわざわざ書き出して書物を燃やしている。」
まってソレ図書館でも噂になっていた消えた禁忌呪文書庫の奴じゃない?
魔界にもう存在しない、
上の悪魔のみが知るだけになってしまった。
まぁ禁忌の為使わないで損はないのだが。
『えーっと…』
目を開けてぼーっとその場所を見続ける
片手でその字をなぞりながら、ぼそりと読んだ
『“契約の契り”…生き血を捧げ3日3晩寝ずに踊り続ける。
足の先から頭の先まで最初から最後の命の灯を、
同種族にのみ捧げることが可能…え?』
「そう、ミレイユ様は元人間だ。
言っただろう、魔女は人間でのみ可能だと。」
『…え?なら、おかしい!!ねぇおかしくない?
私学校行ったりしてたよ!?
確かにミレイユから教わったけど、でもそのあと』
「赤の本376ページ左側18行目」
そう言われてパラパラとめくっていく
不味いこれは知ってはいけないと警告音が鳴る
強いて意識が保たれているとしたら
さっきからオリアス先生が私の頭を撫でたあと
背中に手を置いてくれていることだ
『…記憶保持呪文』
「メル、何故お前が虐待を受けていたかおかしくなかったか?
お前は勘がとても鋭いのに、
何故あやふやな時間の記憶が維持されていた?」
『…違う、嘘だ』
否定をする。否定しなければいけない。
これは肯定してはならない。存在を否定しなければいけない。
ならばどうして、どうして私にかけた。
何故知っていた何故かけてしまった。
「お前がミレイユに出会った後、
サリバンに出会う迄そう長くはなかった。
そこは合っているのだ。
問題はミレイユに出会う前だ。
なぁおかしくなかったか?
食べたモノに味は感じず、
触れる感覚も冷たくただ落ちていく時間。」
「…やめろ、それ以上は言わないでやってくれ。」
いつの間にか身体が震えているのに気付いたのは
オリアスがメルを優しく抱きしめていたからだ
ルアラの方を向いていたメルを
そっとオリアスは自分の胸元に合わせて
みせないようにしていた。
それと同時にルアラに警告の念を送る
これ以上メルの感情を揺らがせるなと。
「まぁ次第に気付いて行くさ。ただそれでも
私はお前の味方であり友であり…お前は私の主なのだ。」
『…私は、ずっと怖かったんだろうな』
「メル?」
『落ちていく死にゆく瞬間が怖くて、きっと願ってしまった。
ルアラ、君がいやミレイユが運命だと何処かで言った時のこと
私今なら分かった気がする。いや分からないといけない。』
逃げてばかりではいけないのだ立ち向かうと決めたのだ。
だから、そう思って閉じていた赤本を抱きしめていた赤本を開いた
『私は定められた魂だった。そうでしょう?』
「…え?」
「そうだ…やはりお前は、器なのだな。」
どういう?そう首を傾げるバラムにメルが目を向けた
『人も悪魔も本来死んだ者は引き継げない。
それは引き継げば大きな脳のダメージが生じるから。』
「…まってメルちゃん、もしかして君!!」
『私は転生者、ミレイユが望んだ、
今の身体の前の世界を知る転生者なの。』