そう言って北国に入ったのをダリやイフリートが見守る
スージーとバラムはヴルの子供たちと出掛けることになった。
「ー見ているが良い、あの子がどれ程信頼できる子か。」
そう言って目を向けた場所には、一人メルが立っていた
通常の魔女の姿ではなく、ただスカートをはいて
少々小奇麗に服が編まれている、中華系の衣装だった。
すらりとした足の下は
出来れば履きたくないと言っていた
靴をゆっくりと前に歩いて
見せつける様に笑い前に歩き続けている
周りから当たればひとたまりもない魔物が
メルの身体を覆う様にかぶさってくる
それに加勢しようとした
イフリートとダリを両手でヴルが止めた
ニヤリと笑ったメルが両手から
冷気の波動を放ち敵を氷漬けにする
ヴルが口を開いて答えた
「…嗚呼、彼女に似ておる。そっくりだ。」
彼女?そう言ったダリにヴルが戯言だと答える
魔獣の攻撃を避けつつ、急所を当てる
目の色がシルバーになっているメルの手には
大きな炎が渦巻いていた
一つ解き放つと、
魔物を閉じ込めて燃やし続けている
叫び声ににやりとも、
笑わずにただ真顔で
ぼやいているのを耳にして驚いた
ー嗚呼、つまらない。
そう彼女は言ったのだ。
ただ、軽くあしらって、
蹴りを入れて動き続ける
三日間生き抜いた森が赤子の様だ
本当にメルは、
手を抜いて生活をしていたのが分かる。
瞬発力が魔物が来るのが
後ろに目が付いているように
右へ左へ交わしては攻撃を止めない
教師一人でも苦労しそうな
大きい獣に赤い弓矢で打ち抜いて
ニヤリと笑ってただ、
楽しそうにし始めて走り出した
剣を作り、攻撃を仕掛ける
受け止められた力を風を起こして威力を増す
剣が先に折れるか魔物の腕が落とされるか
そんなこともならず、
反発され、舌打ちをした途端
足元をすくわれ飛ばされる
口を動かし手の中に稲妻が走る
赤黒い光に、ただ、キラキラした目で言い放った
ー
突如大きな穴が出来上がったのを
上空から見下ろすことしか出来なかった。
通常の威力がこれなのか、
前からこんな力があったのに何も言わなかったのか。
何故出さずに居たのか、
隠し持っていては勿体ないと思っていたダリだったが、
事情があって出さないのは明白。
聞くのはまた今度にしようと思った。
「流石だな、昔より倍以上力が強まっておる」
『えへへ!頑張ったからね!!!』
「…お前、誰かと契約したな?」
そう下に居たメルを見下ろすヴルに
『…さぁ?どうだか?』
とニヤリ不敵に笑いながら答える
顎を引いて、目だけはヴルを見て、
銀色の目の奥が細くなっていた
「それ位あれば上等だ。
軽くそこらの魔獣を
ひねりつぶして楽しかったか?」
『うん!!スッキリしたかなぁー
ーコレ調理しないとだねぇ』
え˝これを?そう言ったイフリートに
うんと嬉しそうに頷いたメル。
数十体も居た魔物をメルは
ちょちょいのちょいーと言いながら切っていく
毛皮と、体内の生き血やら何やらを補完するらしい。
とんでもない作業に、
そりゃ一人でやれば二週間はかかると思った。
ダリとイフリートは2人で
目を合わせた後、やりますかと言って
メルの元に行き、仕事を手伝うのだった。
それから三時間でやっと作業が終わり、綺麗になった所だ
メルはヴルたちと一緒に元の場所に戻ってきていた
「あら、おかえりなさい良い顔ですねーふいっ」
『大収穫ですよーそっちは?』
こちらもそう嬉しそうに笑う彼女にメルは笑った
毛皮に肉に生き血に心臓に…一応魔女としても
心臓を扱うのはハイランクで難易度も激高い。
なのに失敗する確率が高いのでそうそう作らない。
だが、念のためということで、
材料として保管するらしい。
メルはもっと欲しかったけど
全滅は止めたいからと答えた。
「そっちは無事でしたか?」
「メルちゃんめっちゃ強いよ」
「え?」
「カルエゴ先生や
バラム先生レベルじゃない?」
嘘と驚くバラムに
メルはうん?と首を傾げていた
『
確かに通常状態でぶち込んだからスッキリしたけど』
「え゛あれが!?」
『増幅効果入れたらもっと凄い事になるよ!』
その増幅効果用のタリスマンも
作るつもりなんだーと意気込むメルに
これ以上強くなったら
本当に魔王になるのではと思う程だった。
まぁ強くなればなるほど
学校を守れる重要な存在になる為
大いに越したことはないのだが
…ダリもびくびくしていたメルを
知っている身として複雑な気持ちだった。
まさか自分が本気を出しても
勝てるかどうか怪しい程とは
思わなかったのだ。
『にしても二週間で取る量を経った一日で
取れちゃったから驚いたんだけど…』
もう一応ノルマは達成している。
どうせなら一時的に帰って
荷物の整理をしたい位だ。
そう唸ったメルに
連れていかんのか?とヴルが答えた。
それにメルはきっぱりと駄目と答えた。
『また同じことになったら嫌だからね。』
そう言ってヴルに後ちょっとだけ頼んだと言って姿を消した
それに何処行ったの!?とバラムが言うもヴルが答える
「元の場所に戻っただけだよ。
ま本来の居場所とでもいうべきか。」
「どういうこと?」
「此処は魔界の奥深くの森だ。
そこを反転すると一つの世界が広がる。
そこがあの子の居場所であり
最後の砦であり…願いの塊だ。」
「え?」
「そこに飛んで今調整しに行っているってことさ。
俺からは多くは言えない。彼女が嫌だと言ったんだ。
お前達はその程度の悪魔だってことだ」
そう笑うヴルに知っているのかと聞くと勿論だと答えた
「あいつのことならなんだって知っている。
だからこそ、俺は俺達一族はあいつを守ると決意したんだ。
知ったら皆があいつを守るだろう…それをあいつは嫌がる。」
守られてばかりは嫌だ。
そう言ったのはいくつの時だったか。
彼女が安心して生きる場所なんて
もう何処にも存在しない。
「どれ位でもどってくるの?」
「んー小一時間で戻ってくるだろう。
集め過ぎたと言ってたが、
こんな日は中々ないからな。
収拾には持ってこいだろうし、
欲を言って追加を呼ぶだろう。」
適当になかったものからと言っていたメルだったので
今整理をして新しく追加でアイテムを必要とするだろう。
それでも、かなり成長したもんだと言う
「彼女の、いや彼女が何者だとしても
…うちの教師である限り守りますよ。」
「…たとえそれが、
お前達を傷つける可能性があってもか?」
「彼女が傷付けるとでも?」
そう言ったダリに参ったなと笑った
そんな訳ないだろう?そう言って。
「にしてもお前達の名前を聞いていなかったな」
「ダンダリオン・ダリです。
魔界歴史学担当で教師統括しています。」
「ストラス・スージ―ですふぃっ。
魔生物学を担当しています。」
「バラム・シチロウです。
メルさんと同じ
空想生物学教師をしています。」
「イフリート・ジン・エイトです。
学校警備を担当しています。」
「ヴィーヴル族の長である。ヴルだ。
メルにはいつも世話になっておる。」
そうお互いの情報を理解した時、
ヴルがバラムに声をかけた
「バラムと言ったか」
「はい」
「お主先程メルと同じ
空想生物学と言ったが彼女もか」
「ええ、メルさんは
僕以上に知識が豊富で
いつも彼女から学ぶことが多いです。」
「ふははははっ、はーっはっはっ…
そうか、空想生物か…そうかっくくく」
そう大笑いをしだしたヴルにバラムが首を傾げる
そりゃあそうだ、ヴルはメルが人間だと知っている。
魔女は悪魔と契約を交わした人間なのだから。
「成る程、頭の中がお花畑だった
あの子にも救える子が出来たとは…」
「メルさんはこの森に
毎年やってくるんですか?」
「いや、不定期だ。
基本的に薬や貯蔵が切れるとやってくる。
前に来たのは一年前だったからな。
量を見るからにまた暫くは
やって来なさそうだがな。」
そう言ったヴルにバラムはへぇと答えた
「メルはどうだ期待できる悪魔か?」
そう言ったヴルに全員が頷いたのを、
また大笑いしてそうかとヴルが笑う
「何時かお前達とも戦ってみたいものだ」
「すぐに戦えばよかったじゃないですか」
「客人に戦いたいと言ってみろ。
メルが拗ねるだろう。」
あの悪魔も寄せ付けなかったメルがだ。
悪魔を引き連れて来たのだ。
そりゃあ驚いて腰が抜ける。
そんな大事な悪魔と戦って傷一つ付けて見ろ。
そんな日にはメルが拗ねるか、
怒ってこの場所を消し去る。
しかねないことを、
ダリとイフリートはぞっと先程まで
手伝っていたことを思い出しながら
想像して首を横に振った
「ただこれだけは伝えて置く」
そう言ったヴルにバラムたちも目を見る
「彼女はお前達を置いて何処かに消える日が来る。
彼女はその時お前達を置いて行かずにとどまるだろう。
だがそれは彼女にとって非常に悪い知らせになる。」
そうなったとき、ちゃんと見送ってやれるか?
ずっと一緒に居たいと思っても、いれずに
手放せることは可能か?
そう言ったヴルに、先にダリが答えた
「ええ、彼女がもし
私達の元に居て傷付く可能性があるならば
その時は心を鬼にしてまで
出て行かせるように仕向けますよ。」
「…そうか。やはり良い悪魔に出会えたものだ。」
お褒めの言葉感謝します。
そう言ったダリによせとヴルが答えた。
「(魔女として、
力を作る日が来ているというのか
…お前は本当に恵まれているぞ。)」
孤独で感情を制御出来ずに朽ちていくその身体が
このままでいけば幸せな場所で
ただ笑って消えていくだろう。
どうか、最期が幸せな時であればいい。
その瞬間、きっと彼らなら泣いてくれるだろう。
絶望してくれるだろう
…それでも背中を押してくれる。
きっと、その時は…
まだ遠くであってほしいと願うばかりだ。
数十分遅れてメルが帰って来た。
『欲を言ってそろえるならあと20種類ですかね。
種を含めたら合計で50欲しいですが。』
「それでも二週間どころか
あと3日で終わりそうだね。」
一日で二週間分クリアしたのだ。
そりゃあそうだろう。
そう言って笑うメルにダリも笑う
『ダリ先生たちはヴルと仲良くなりました?』
「うん!とっても面白い竜だね。」
『へへ!そうなんです!!とっても
優しくて良い子なんですよ!!』
「(嗚呼…君がそうだからだよ)」
優しくて純粋で何も考えずにただ前を向いて笑う少女
悪魔とはかけ離れているような存在がヴィーヴル族と
会話をして余計に遠い存在なんだと知る
それでも、彼女は自分たちと
対等どころか下に自分を置いて
周りの悪魔を見習おうと前を向いて歩いている。
そんな子が、離れなければ
いけない事情とは一体何が起きる?
ふと寂しそうに笑って、
無かったことにする君の心では何が叫ばれている?
「うん…」
そう言ってダリはメルの頭を優しく撫でる
どうか嬉しそうにずっと笑って欲しいと願うばかりだ。
大事な教員に怪我を負わせるのは黙って見ていられないからね。
もし、君が…この学校を出て行かなければならなくなった時は。
きっとみんなで一芝居をうつことになるだろう。
そうでもしないと、君は学校を出て行かないだろうから。
だからその時は、もし知った時はどうか許して欲しい。
君が生きて居れればそれでいいのだから。
君もそう思って、僕達をもし守ってくれるのであれば。
その時は、僕達全員で君を守ると誓おう。
君が僕達を選んでくれるというのなら。
僕らは君を選んで前を向いて歩いていくのだ。
生徒を守って、教鞭をとって。
これから先、ずっと彼女と一緒にーーー
ーいつかは彼女を置いていくときがくる
そう言っていたのを思い出して少し止まる
その手にダリ先生?とメルが首を傾げた
彼女はとても敏感で
きっとこの気持ちにも気付いてしまう。
「なんでもないよ」
君が嫌だと言っても、
僕は君の背中を無理やり押すよ。
君が泣いたって無駄だからね。
それが君を守る唯一の方法なら
…この身体が壊れたってやるだろう。
何せ、君が見せたくなかった筈の力を
生徒に使ってまでして守ったのだから。
守るに値するには、
充分なことをしてくれたんだよ。