「あれ?メル先輩こんな所にどうしたんですか?」
そう言ったのは玄関に居たツムルだった。
今日は土曜日、朝10時頃で朝食が終わったのか
まだがやがやと食堂では賑わっている声が聞こえる。
『よ!ツムル君〜イチョウせんせ、いやイチョウ君いる?』
「嗚呼居ますよ。おーい!イチョウー!メル先輩きてんぞーー!!」
そう呼びに行ったツムルに、メルはもう少し
声小さめでと思いまぁまぁ
声落としてと心の中で叫びつつ手を両手前に
上げて抑えて欲しい気持ちを身体に表現していた。
「あ、メル先輩!早いですね」
『いや寮生活だから、
ビデオ通話よりかは実際来た方が
動きも合わせられて良いかと思って。』
「何の話ですか!?」
そうツムルが間に入って
ワクワクした顔で此方を見てくるのに
イチョウはひとまず上がってって下さい
と言って玄関からロビーの方に誘導した。
「あれ?珍しいっていうかどうしたの?こんな所で」
『あ!ダリせんせ〜!こんにちわー!』
そう面白そうな話声を聞きつけてかダリが寄ってきた
ロビーにて会話する声が遠くまで聞こえていたのか
心配で聞いてみたら案外そうでもないとか。
高い声が聞こえたので
間違いなく女性が来ているのは
分かり気になって来たらしい。
「此間手合わせ願った際の続きですよ。
メル先輩に戦術を教える
って約束をしていたので。」
『もー要らないってば〜!
とりあえずぶっ殺せばいいんだって!!』
「だからその殺す前に近づかないといけないでしょう!?」
そう、えいえいおー!とメルがグーの手を上に上げる
その動きにと言うよりかは、内容にイチョウが喚く
「嗚呼此間の昼休みの話ね!」
ようやく話が通ったのか、ダリが納得する。
それにツムルが更に解釈を挟む
「職員室で聞いたら何も考えなしに
ただ直感で喋って詰めて行ったって聞いて、
イチョウが勿体ない!って
言って教えることになったんですよ。」
「へぇーーーえ?待って?
メルちゃん前の動き全部考えなし?」
『そーですよ?目閉じたのは
考える行為を消し去りたかった為です。』
半分嘘。本当は魔女の力を使ったのだ。
幻影の効果を使用し、
世界を少し自分に溶け込ませた。
瞼の先には実際起こっていることを
そのまま感じることで威力も
想像した通りになってきていることを、
此間確認したかった為だ。
キレが良くなったのは勿論
視界の情報量の分
集中力や瞬発力に割けただけである。
ただ目を閉じて移動していては私でも駄目だよ。
魔女の力は魔力ではない。
だから、発動しているかどうかの判定は出来ない。
ただ、魔女自身しか知らない。
幻影の事は余りペラペラ喋ると不味い気がする。
作り出す効果も、ひと先ずは
周りに見せない方が良いだろう。
…良からぬことを任されそうで怖いからな。
継承された力は印として引き継がれることはない。
力だけが器だけが継承されるのだ。
まぁ悪魔と契約をして魔女になったら話は別だが…
「剣術も良い、動きも申し分ない、腕力もあるのに
ただ突っ込んできただけに負けたというのが…」
「女の子だしね」
「う˝っ」
『あ、あはは…』
申し訳ない。
ただ苦笑いして、メルは二時間程彼から手ほどきを受ける。
と言っても貰ってばかりは申し訳ないので
メルはメルなりに考えて
一つ彼に渡す物を作って来たのだ。
『はい先にコレ渡すわ』
「なんですか?これ」
『回復薬。あと多分悪周期に飲んだ方が良い薬
一個だけ試験的に飲め。』
実験台かよ。そう言うイチョウに
メルは冗談と笑う。
『効果はちょっと分からないけどイライラ落ち着くから。
悪周期酷い奴がもし居たら口に放り込むっていうのも手だよ。』
「ありがとうございます…そんな貴重なもの。」
いえいえ!戦術なんて中々教えて貰える機会ないから!
そう笑って答えるメルに、
イチョウは困りつつもにこりと笑う
「良いですか?戦いは敵の意図に正対することで
不敗の態勢を築き、虚を突く事によって勝利します。
メル先輩が俺に対して
攻撃を仕掛けて怯んだ時ありましたよね?」
『あああの飛んだ時のね』
「アレみたいに、俺が勝ったと
思わせることも戦術の一つです。」
『えっ、じゃあ私直感でやってた…?』
「逆に考えないで其処まで出来るのは最早才能です…」
「地形の掌握をするのも勿論ですが、
メル先輩は逆にあの時何を考えましたか?」
『えぇ…殺す?』
殺意が高い。そう苦笑いするツムルに
イチョウはこほんと咳払いした
「わざと構えた俺に合わせて
メル先輩は飛び上がった。違いますか?」
そう言ったのに、メルの笑っていた表情が消える
真顔と言うよりかは、図星と言った所だろう。
急に笑わなくなったので少し怖く感じる。
『…あたり。どうして?』
「ケラケラ笑って攻撃する子は
案外二つに分かれます。
ただ相手をあざ笑っているのか、
裏の顔を暴こうと考えているか。」
『…この話は止めようか。』
私の本性バレそうだから。
そう言ったメルに、
待て待て逃げるなとツムルが腕を掴んだ
「地形を利用して壁や地面に着地して
勢いを加速させたのも、戦略の一つです。
四方から来るとは考えているものの、
攻撃の負荷は動くほうが大きい。
隙を狙おうとする動いていない方が
逆に隙を作ってしまう。それに突けば勝ちです。」
『…』
「ただこのやり方は体力の消耗が激しい上に
かく乱も中々期待できないので、お勧めはしません。
地形を判断していなかったから使うという所ですかね?
目を閉じていたのは集中するよりかは
…地形を頭に叩き込みたかった。違いますか?」
そう言ったイチョウにメルは目を丸くした
あっと言ってしまった自分に、
やはり。とため息交じりに
頭をがくっと下に降ろす
「メル先輩、何故目を閉じていたのに開けたんですか?」
それは
緑髪の少女が手を伸ばしている世界が見えた
嫌だと首を振って剣を刺そうと構える
白い髪の毛の女性に、止めなければと思ったからだ。
殺してはいけない。
それはいけないのだと。
『…えと、その』
「良いですよ。待ちますから」
『…ここだと思ったから』
そう言うしかなかった。
事実見えた先
この剣を飛ばさないと駄目だと思ったからだ。
少女が見えることは伏せておく。
何かが見えたとしても、
少女の事は関係ない。
この悪魔達には、
其処まで関係ないのだ。
「成る程、だから目を開けたんですね。
流石に途中で開けたので
此方も攻撃を仕掛ける判断に欠けましたが
驚くよりも身構えるきっかけになったので
やめた方がいいかもしれません。」
良い所ではあるんですがね。
そう言ったイチョウにへぇーとメルは頷いた
『なるほどーって言ったらアレ?
もしするなら目の前に来た瞬間を狙うとか?』
「そうですね。そちらの方が
態勢を崩せるので無難かと。」
『へぇーーー!』
メモを取り、絵を描いて記憶を頼りに動きを思い出す。
この場所だとこれが有効で、
考えるメルに真面目だなぁとイチョウがぼやいた
それにへ?と声を上げるメルに
ああ、とイチョウが訂正を述べる
「俺メル先輩より下じゃないですか、
俺なんかの情報正しくないかもしれないのに、
素直に聞いてくれてちょっと照れるというか…」
『どうして?イチョウ君、
最初凄い驚いて勿体ないって言ってくれたでしょ?
あの時嗚呼この子私の実力を
見てくれたんだなって思って。』
そんな彼が、嘘を言う訳がないだろう?
もし間違えているのであれば訂正にいえば良いし
その間違えで勉強になるというものだ。
『貴方が真面目に私を見てくれたから、
私はその通りに返しているだけよ?
それに、戦えて本当にうれしかったんだから!』
女の子だからって言って、避けるんだよね皆。
そうため息交じりに愚痴を言うメルに
イチョウはそうだろうなと言った
嗚呼、先輩がこんな優しい悪魔で良かったと思う。
きっとこの明るさと素直さ真面目な姿に
皆彼女に手を貸しているのだろう。
此方だって貸したくなる気持ちになる。
「生徒だと思って説明の練習にもなるしね!」
『そーですね!!よーしイチョウ先生
今から私バビルスの制服着るから!!!』
「ちょ!其処までしなくていいですって!!!」
そう慌てるイチョウにメルは笑った
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『本当にありがとうね!
大変お勉強になりました〜!』
「いえいえ!此方こそ
ありがとうございました!」
そうお互い勉強になってと
帰宅する時間はまだ午後が始まったばかり
食事食べてく?と言ったダリに、
メルは苦笑いして遠慮すると言った。
誰とも食べる予定は勿論ないのだが
此方も薬草の調合や試験準備等しておきたいのだ。
来週またログハウスには入れないので
最近荷物しか取りに帰れていない。
「そう?遠慮しなくていいのに」
『いやいや、流石に
ずっと居続けそうな気がするので。』
キリが良いという時こそ出る。
メルは決意して礼を言って玄関を閉めた
これでいい。ホッと息を吐いて軽く歩く事にした。
一応寮に帰ってからの方がいいだろう。
ログハウスからとってくる食材を吟味していると
案外寮に帰るのは早かった。
『(目を閉じて…開いてみる)』
何時もの世界が広がる
…この場所に何度来れるかどうか分からない。
だから、この場所と同じような所を作りたいが
如何せん何処に作ればバレないだろうか?
…あ、クララの森の中なら
意外といけるかもしれない。
そう思い、来週末の予定が決まった。
倉庫をアレ以上拡張していくのは怖いからな。
地下室の扉を開けて部屋に入る。
鍋が置いてあった所を入り薬ビンを
手に取りラベルの時期を見て確認する
タリスマンや回復薬等作っておきたい物が沢山ある。
土日は魔法力を上げる用に時間を割いていたが
ちょっと此間沢山動きすぎたので、
今日は休憩日ということにした。
『えーっとヴィーヴルの鱗と、
ピスレの涙に、ユラの葉を麻に混ぜて』
出来た黒紐を手に取り首に付ける。
一応試験的ではあるが
回復効果の付いた紐が出来た。
強化タリスマンと、制御タリスマンを作って
後は耐えられる布も染みこませて太陽に一日干すだけだ。