パタンとドアを閉じて
そっと誰もいない廊下を歩く。
「(…嗚呼、あの中誰一人も
メルちゃんを
陥れようだなんて思わなかった。)」
そっとダリは
周りに気付かれないように
家系魔術を使って心の中を見た。
此処で使っておかないと
後でメルちゃんが
悲劇を起こされては困る。
摘める芽は
先に摘んでおかないと
と思ったのだ。
だが誰一人も
悪い事に向けようとは
思わなかったし
まぁそう疑った
自分が恥ずかしい位
綺麗だった。
皆ダリと同じことを考えていたのだ
ーそんなの当たり前じゃないか。
「(自分達だって
沢山彼女から
面白いことやら
何やら貰っている。)」
リンが言った様に
確かに何処かに行けばよかった。
自分だったら
そんなこと言われても
きっと二度目の人生を謳歌するだろう。
ズルだとしても二回目なのだ
ズルもくそもへったくれもない。
だというのに
彼女はそんなことも
周りに告げず
ただひた隠して
とにかくダリ達を助けるために
身を挺して守ろうとしていた。
二回目の人生
一度目にたった一瞬
居ていたというだけで。
悪魔にとって一年や五年位
たかだか一瞬だから
数えるかと思うのが普通だ。
そんなことに目を向ける位なら
他の面白そうなことを探すのが悪魔。
だが彼女は悪魔ではなくて人間で
…でも悪魔みたいな思考を
しているから面白い。
「…あんなの言われて
バックレるやつなんているのかねぇ?」
彼女を確かに助けたことは
何度かあった筈だ。
だがそんな小さなことを
覚えている程暇じゃないし
きっと彼女も暇じゃないだろう。
それでも彼女は
自分を見てくれて嬉しかったと
助けてくれたから
二度目は助けてくれたお礼に
救えるように
頑張っているのだと言ったのだ。
そんな何時もは
絶対に誰も経験しない位の
とんでもなく大きい愛情表現をされて
一体照れ臭いと
思わなかった者は居ただろうか?
ダリもまたメルに言われて
思い出しながらちょっと
照れ臭くなってしまった一人だった。
小さな仕草さえも覚えていそうな
彼女の口をオリアスが
そっと閉じてくれたから良かったものの
あのまま放置していれば
暴露大会に発展していた事だろう。
「くすっ…本当に、飽きない子だ。」
最初に見た印象は“脆い”だった。
これは触れば
すぐに壊れる。
そう感じた。
だからなるべく
距離を取って
なるべく触らない。
そう思っていた矢先
自分の担当で自分が召喚されて
面白いわけがなくて
ついつい手を出してしまった。
嗚呼勿論手を出すって言っても
ちょっかいをかける程度だよ?
変な話は今していないからね?
「…我らが愛しき
守るが至上 命の盟約
宝を狙う敵には凄惨たる”教育”を
魔女が生徒を
教師を奪いに狙ってくるのなら
守るが至上、命の盟約。
次の休日に浮かぶ
満月の日に決行すると聞いて
少し楽しみが増えて
頬が緩みそうだった。
メルはどんな風に咲いてみせるのだろうか?
本物の永久の魔女に
お目にかかれるなんて
今回を逃せば一生ないだろう。
…なんなら
悪魔よりも長い年月を生きる。
彼女はダリ達が死んでも
生き続けられるだろうか?
「ふふっ、楽しみだなぁ」
そう満月になりつつある空を
見上げてぼやいた
+++++++++++++++++++
夜に話してから二日経った満月の日。
メルは校舎裏
桜木の下で皆を待っていた。
ぶらぶらと足を出して揺れるのに
ふと空を見上げてぼーっとしていた
『…良い風』
きっとこの風なら
何処にだって行ける。
そう思う位
今日は清々しい気分だった。
「おやおやこんな早い時間から待ってるとは」
随分気が早いんだね。
そう言った声に
メルが顔を向けて名前を呼ぶ
『オズ!』
「よ」
『オズもどうしてこんな早く?』
「ん〜何となく?ソワソワして
早い時間から行ってそうだなって。」
そう言ったオリアスに
メルは家系魔術を疑ったが
単純にメルの思考回路が
彼にバレているだけだろうと踏んで
はぁとため息を吐いた
『そうだよ悪い?』
「ふふっ、いーや?
可愛らしいなって思っただけ」
『っ!?ちょかかかわ!?』
おや
そんな初心な反応されるとは
思ってなかった。
そう言ってニヤリと笑うオリアス。
今日は黒のスーツ姿で
ぴしっと決まっているから
余計に何時も見ているよりも
かっこよく見えて
ドキッとしてしまった自分が悪い。
頬を撫でるオリアスの手袋に
熱くなった頬の熱が
伝わってないか冷や冷やする。
『…初心じゃないもん。』
「くすっ、俺としては嬉しいけどね?」
俺を見てそうやって
心が揺れる姿を見るのは。
そう笑うオリアスに
メルが顔を赤くし
そっと腕に巻いていた布で頬を隠した。
今回のメルの衣装は
何時もの白いワンピース姿は違う。
占い師の様な姿で、
透明に近い布を耳上に
星型のピン止めで
留めている所までは同じだが
胸元を分ける様に
肩に広がる布の下にあった
胸元の白い布の下は無く
腰元まで肌が露出していた。
腰からは左右に広がるような一枚の布で
ふわりと包まれるように広がる
短い白のふっくらとしたスカート。
中央に金色のタリスマンが付けられており
背中は胸元と腰以外は
ほぼ露出しているようにも見えた。
黒いタイツに踵が見えているのが
いつもシューズなのだが
少し高いヒールを履いているので分かった。
髪の毛をいつもは
三つ編みにして降ろしているのだが
今日はポニーテールにして上に留めていた。
『そっ、そんなことより!!
オズ準備出来たの?』
「ああ勿論。
もうちょいしたら
イポス先生達も来るよ。」
ほら言ってたら来た。
そう言って
指を指したオリアスの方向を向く
遠くからおーいと言う
ツムルの声が聞こえる。
男性陣は右側に青いタリスマンをピンとして
黒くゆったりとしたアボラを
腰元まで隠す姿
中にはジャケットのような
襟が付いたベストを着ている。
中も黒いカッターシャツなので
もう髪の毛以外ほぼ全身真っ黒衣装だ
下はスーツの黒いズボンで
強いて言うなら
ツムル先生は
作業時に使うワーク・ブーツ(黒)で
オリアス先生は
白黒のスペクテイターブーツだ。
「おぉ〜こうやって集まると様になるねぇ〜」
そう言って
後から来るダリの姿は
オリアス達とそっくりだ。
強いて言うなら
髪の毛の色が違うのと
靴が甲を靴紐で結ぶ丈の低い短靴の
オックスフォード・シューズくらいだ。
「えぇ。数人集まっただけでも
何処かの貴族会に行くかのようですね。」
イポスの姿もダリ達男性陣と同じ姿で
ふくらはぎ半分位まで隠れる程の長い
コンバット・ブーツを着用して
コツコツと音を立てて来ていた。
『ですねぇ〜めちゃ様になる!!』
「ふぃっ、皆さんもうお集まりでしたか?」
「遅れました〜!!」
そう言って走ってきた
モモノキに浮遊してきたスージー
二人共男性陣と同じ様な
黒の布を肩に被っており
赤のタリスマンなのと
男性は右側からだが
女性は左側で留めていた。
中は胸元から下を隠しており
肩が丸見えなワンピースドレス。
スカートの下にペチコート
を着用してウエストから
横にふわりと広がっており、
腰部分には何枚かの
レースがまばらに広がっていた。
腰部分は右側の横腹付近に
赤いタリスマンを光らせていた。
ヒールを穿いており
どちらも黒で統一されて
タイツが黒いので
此方もまぁ全身黒づくめだ。
いつもポニーテールだったモモノキは
今日は髪を降ろして編み込み
頭の後ろで纏めて華やかに見えた。
「…え?何?やっぱり俺達
どっかの貴族会いくの???」
『そんな訳ないでしょ…』
「ってメルさん!
お腹周りがあああああ」
そう叫ぶモモノキに
一人皆言わなかったことを
と誰かがぼやいた
『ああ!正式には
全裸の方が良いんだけどねぇ〜』
流石に其処までしなくても
良いからと言ったメルが
ケラケラと笑いながら
サラッと言った爆弾に
モモノキが倒れそうになる。
「まぁ元々の儀式が全裸だからねぇ」
そう苦笑いするリンにメルもまた苦笑いした。
彼女達に魔女の契約時に
全裸になったのかと聞きたい位だったが
そんなことを言えばセクハラで訴えられかねない。
男性陣はそっと
呑み込みぐっとこらえる。
『さて、お集まり頂き感謝します。
リン!移動してもらえるかな?』
「はいよ!ああ先に言っとくけど
これから行く場所は神聖な場所なので
決して言われるまで
翼を出さないようにしてね。」
はぁいと声が聞こえたのに
コクリとリンが頷いた
「メルオリアスさんとダンダリオンさん
ストラスさんを乗せる前提で居てくれる?」
私はムルムルさんとイポスさん
モラクスさんを担当するわ。
そう言ったリンに
メルはコクリと頷いて返事をした。
『分かった。
いざと言う時は
箒や魔法で浮遊かけるよ!!』
「うん。
悪魔は本来立ち入り禁止区域に向かうからね。
粗相のないように、よろしくお願いします。」
そうぺこりとおじぎをしたリンに
任せろと声が上がる。
それに笑った後、
リンはメルに
手を出せと手を前に出す
『“この世の永久と大地が眠りし場所よ”』
「“我が力我が魂を持ち
神々の眠りし魂を呼び起こさん”」
「『“
+++++++++++++++++++
アイオーンと叫んだ
メルとリンの姿が
光で飲まれ落ち着いたのを
瞼の裏から
光が無くなったのに
反応して目を開く
「…っな!!!!」
「ここ…」
深い緑に包まれた場所は
巨大な木が天を貫かんと上まで広がっており
根本には開けた中央広場のようなものが
円を描くように平らに苔が絨毯の様に
敷かれている場所についた
遠くから見て大きいと
思える場所で足を前に出そうとすると
自分達が降りているのは
あくまでも前に見えている
巨木の根に過ぎないらしく
ずり落ちていった苔が
何処までも落ちていく。
音もしないで落ちた苔が
辿り着く底があるのだろうか?
ごくりと飲んだ喉唾をツムルは
落ちなくて良かったと安心感を得る。
『さぁ!オズ、ダリ先生、スージー先生。
僕の腕やら肩やら手やら掴んで下さい』
なんならスージー先生僕の首に巻き付きます?
そう言ったメルがしゃがむのに
ではと言ってメルの首元に
ぎゅっとしがみつく。
それに可愛い可愛いと悶えるメルを軽く
早くしろと言ってリンがひっぱたく。
しゃがんだ状態で
左手にダリ先生
右手にオリアス先生の手を取り
先に行くねと言ったリンの後を
追うようにメルも詠唱を唱える
『三人方ちゃーんと
掴まっててくださいね〜?』
そう言ったメルが
声を大きく出して紡ぐ
『“
それと同時にばねの様に飛び出したメルが
オリアスとダリの手をぎゅっと掴み
左側にスージーの腕を顎で軽く抑えたまま浮遊した。
急な速度に一同驚いたが
すぐに速度に慣れる。
「…あれが、今から行くところ?」
『…そうだよ。
あそこの下に僕らは行くんだ。
まぁ先約が居るようだけど。』
+++++++++++++++++++
数分経って降り立つ前に
オリアスとダリの手を離す
上手く着地した二人を無視して
メルはゆっくりスージーを
気にしながら地面に降り立った
苔がとても気持ちが良く
裸足でも大丈夫な感じもした。
「メル…こっちよ。」
そう言ったリンに
頷いたメルは
前に歩いてリンの元に近寄った
「此処が全ての始まりで全ての終わり
終焉を迎える最期の時は此処で迎える。」
「この場所は一体何処にあるんだい?」
「大体人間界と魔界の間ですね。
上に行けば人間界
下は魔界に続いていますよ。」
ただ上に行けば行くほど魔力は
使えなくなるし翼も重くなりますよ。
行くときは覚悟を決めて行ってください。
そう言ったリンに
へぇと声を上げる。
「驚いた。
天界の申し子が
この地に悪魔を引き連れて来るとは…」
「誰だ!?」
そう言ったオリアスが振り返りメルの前に立った
右手でメルが
前に行かないように腕を横に出して
そっと帽子を定位置に
置き直すために帽子に触れた
「貴方は…?」
オリアスと同じように
ダリが前に否オリアスの隣に立ち
メルが行かないように
逆側からも声をかけた
「我はこの終焉の門番であり
この地の魔守り人。
そして汝の在る人
…モルぺ・クルアーンだ。」
「「「ーーっ!!!???」」」
モルぺ家が今この地に
息をしていたとは…
そっとダリが跪くのに
周りも同じように膝を立てて顔を伏せる
メルも顔を伏せようとしたが
お前は良いとクルアーンが止める。
「ちと星にしては早いが、まぁ
お主の性格からしたら丁度良いか。」
『???』
「ふふっ、お主は好きに動いてよいのだぞ?
寧ろ動け。お主がかしこまるなんて似合わぬ。」
え?礼儀って
似合う似合わないでやっていいの?
そう首を傾げるメルに
クルアーンが笑う
「永久の魔女になりに
契りを交わしに来たのだろう?
お前達も付いて来い。
契りを今からかわそう。」
そう言って歩いて行った
クルアーンにメルはついて行く
メルの後を追うように
ダリ達も身体を起こして
ついて行くことにした
+++++++++++++++++++
巨木の中に入ると
其処は空から光が舞い降りており
奥に巨木よりは小さな
だが普通の木よりは
大きな木が一本立っていた
全長約20mは在るだろうか
その木は広く左右に広がっていた
風が吹いているのか
ゆらゆらと木々が揺れる。
「さぁ此方へ」
こくこくと頷いて歩くメルに
クルアーンはクスクスと笑う
「お前は本当に可愛らしいのぉ
前と全く変わっておらん
…っくくく」
その緊張していないのに
言葉を出さない所
昔のお主そっくりじゃぞ?
そう言うクルアーンに
だってとメルがぼやく
『なんか…
此処凄い落ち着くのです……』
「ふっ、そりゃあそうだ。
魔女はこの場所から
落とされこの場所で眠るからな。
眠る場所が騒がしければ困るだろう?」
『………確かに?』
上下左右を見て考えた後
首を傾げて言うメルに
くすくすとまだ笑っている。
どうやらクルアーンは
メルがお気に入りらしい。
「まさかミレイユと同じ様に動くとは、
いやはや師匠が師匠なら弟子も弟子だな。」
今まで一部始終全て見ていたぞ。
今も一度目の世界も…元の世界だって。
そう言ったクルアーンにメルが驚いた
この人は自分が
生きていた時間すらも
知っているというのだ。
「当然だ。
我は魔女を統べる者でもある。
まぁ引退して此処に居るだけなのだが。」
『はぇ…』
「ふふっ、お前がこの場所に
永久の魔女になるとは
…神々もさぞかし驚くだろうな。」
なにせこんな純粋な天使の魂が堕ちるのだから。
そう言って頬を撫でるクルアーンにメルが
くすぐったそうに左右に首を小刻みに振った
「お前達の事は説明されなくても分かる。
よくこの子を魔界に来てからというものの
可愛がってくれたな、悪魔ダンダリオン」
「…っ!…お褒めの言葉ありがたき幸せ」
そうおじぎをするダリに
メルが目を丸くして驚いた
こっそり耳にクルアーンが教えてくれる。
どうやらクルアーン自体ダリ達からしたら
魔王レベルの力を感じているらしい。
かなり驚いて怯んでいるそうだ。
「それに、悪魔ムルムルに悪魔イポス
…悪魔ストラスに悪魔モラクスときて
極めつけが悪魔オリアスとは
…ふふっ、ははははっ恐れ入った」
そう笑いだしたクルアーンに目を丸めて
オリアス達はお互いを見つめ合った
『何々?どうして笑うのです?』
「っくくっ、いや?
悪魔オリアスよ」
「っはい!!」
「…やはりお前も
悪魔オリアスだな。
良い星を持っている。」
そう言ったクルアーンが目を細める
何処かを懐かしむように言うのに
メルはぽろりと本音が落ちた
『…ひょっとして、クルアーンも
オリアス家と繋がってたの?』
「っ!!」
「メル!
口の利き方!!!」
「良い良い我が許可をした。構わん。
…ご名答、良く分かったな。」
『うーん……勘…?』
「そうか!…まぁ大昔に助けられてな。
我らはオリアス家と
前から深い繋がりがある。
なんなら永久の魔女を成し遂げた者達は
皆オリアス家繋がりだ。」
「『っえええええええ!?!?』」
そうなの!?
そうなの!?
そう言ってオリアスの
胸倉を掴んだメルに
いや知らない知らない知らないと
全力で首を横に振って否定するオリアスに
クルアーンが嬉しそうに笑った
「メル、お前
我の名前を呼んで
不思議に思わないのか?」
『え?クルアーン?クルアーン、
クルアー…ああああ!!!
星の聖典!!!!』
「ほぉ?あいつの学びが
役に立つとはな。驚いた。」
『えぇ!?え!?待って!?
待って待って!?お星!?
お星!?お星さまなの!?』
「っくくくっ、はははっはっ、
ダメだ、ははははっあぁおかしい」
腹抱え笑うクルアーンに
メルは首を傾げて困る
「そうさ我らの力は
星々の力を束ねて使いこなす。
悪魔が魔力を使う様に、
魔女もまた星々の力を
身体にとうして解き放つ。」
だからなんだって自在にできる。
「メルよ」
『なんですか?』
「その者達を在るべき場所に導け
お前ならできる。」
さぁと言われて押された背中に
1人ずつだぞと言われる