whenever you cry

目を覚ました場所は暖かい場所とは違う場所だった
山崎の声に身体が反応して距離をとる

山崎「…今日のご飯です」
ギラギラと睨むその眼は『裏切ったのか』と信用の欠片もない眼で
つい数週間前の優しい都佑にはかけ離れた人間だった
冷たい眼はまるで鬼の副長の様にも見えて
山崎は世間話をしようとしたのに都佑は黙れと声を出した

低く冷たい声に心臓を捕まれた様な感じだったが
後ろから噂をしていた人が現れる

土方「おお、威勢が良いこって」
『…信じていた私が愚かだった、だから人間は男は嫌いだ』
土方「お前がちゃんと都佑を見てなかった」

その名前に反応した未夜は殺気を振り撒かせ土方の腹に向かい
近くにあった棒を使い攻撃するが土方は片手で受け止める
チョーカーはギラギラと赤紫色を放っているのを眼を細めてみた

土方は見下ろし都佑を見る
ギラギラと睨んでいる目に迷い等更々無い様だ
少しは情があると思っていた土方だが
都佑と言うよりかは彼女は何方かと言えば
未夜の方の殺気を感じた

彼女は笑って無邪気に笑って居た弱い少女ではない
真選組の近くで大量の人間を殺してきた人斬りである
その力は確実に彼女の中に宿っていたのを
土方達が呼び覚ませたのは間違いない事実だ

然し彼女も無意識で攻撃したことは悪い事だと知っている
お互い喧嘩両成敗の事なのだが、どうしても真選組の副長としては
彼女を外に放っていて安全とは言い難い状態である事なのだ


本来はこんな場所で隔離などしたくもない土方だったが
薄狼の攻撃的な部分の抑制不能の状態に都佑を傷付けた

それに前世で培った”自分とは違う自分”を
創り上げ更に攻撃的になっているのもある

その為やむを得ずに医者から貰ったチョーカーを付けてなら
片手で済むといわれて不安ではあったが、
彼女が攻撃を仕掛けて来たので反射的に止め
直ぐにその医者の意味を知った

成人男性並み、いやそれ以上の力は無く
幼い子供並みの力に驚き顔に出さない様にするだけで手一杯だ


『っ!違う!!私はっ!!』

土方「いいや違わねぇだろ?ってかてめぇが
何人居ようが知らねぇが近藤さんや
真選組を傷つけるとなりゃ話は別だ」

冷たい眼に未夜は恐れを感じたが、直ぐにギロリと睨み返す
何も出来ない、彼が言っている事は的を得ている

余計に苛々が腹の奥からゴポゴポと嫌な黒い泡が弾けては膨れ上がる

未夜は唇を噛みしめ何とかイライラを抑え込もうとするが
土方の冷たい目と周りの冷たい空気
そして何よりも心の中に幼い都佑が居ない事に
抑える力も何も術すら無かった


小さな物一つも救えやしない処か意識を失い人を切り殺す
そんな人間は隊に居ていいわけがない。
だから彼は都佑に言ったのだ
「もう此処には居せさせれねぇ」

その言葉に都佑は、私はあの空しい感情が心を制したのだ。
だから未夜が浮上し新たに都佑を守る
泣いた彼女は未夜の中から消えた
土方の言葉に?未夜が守らなかったから?

嗚呼、違う。”都佑が未夜だから”なのだ
過去の人間として都佑と本名を偽名の様に言い聞かせて
自分である名前を否定して否定した結果のなりの果てだ

結局は幼い私も今の私も皆笑わない
涙ばかり流して守る処か傷付ける
嗚呼、現実もそうではないか。

昔から私は人を傷つけてきた

パパもママもおばあちゃんやおじいちゃんも
友達も先生も仕事仲間も皆みんな

銀さんや神楽ちゃんや新八君やお妙ちゃん
近藤さんや沖田さんや山崎君や土方さんも

皆みんな、私の所為で傷付いている

その現実に目は開いた後生理的に目が閉じる
胸が痛い、居たい、入たい


この場所から逃げよう。
そうすればパパもママも居る場所に今なら
今なら帰れる気がした。


然しそんな私を知ってたのか土方が
この場所から逃げる事は不可能だと言った

土方「もうお前は隊のモンじゃねぇ」

『…んなの分かってらぁ』

違うの土方さん。

私はこんなことをしたくなんて無かった
私はただ皆が笑っているのを見て笑いたかった。
私は、皆が土方さんが笑った姿を見たかった

ずっと見ていたかった

だってその笑顔は、あの人に似ていたから

”ママの隣で嬉しそうに笑うパパに似ていたから”


嗚呼、私は今も尚、希(こいねが)うのだ


『(醒めない夢に酔いしれて
そのまま溶けて無くなって欲しい)』

ただそんな事は叶わない
土方さんが笑う事も、神楽ちゃんが手を繋いでくれる事も
皆みんな、私が遠ざけてしまったから

ママも、ママだって、あのひとも
私が現実を見ずに何もしなかったから
彼女は私を捨てて出て行ったのだ



その現実に私は視線が地面に落とされる
上を見ていた嬉しそうに笑う私なんてもう、居ない。
何時か全てを知ってしまった、玄関先で立ち尽くしていた

10にも満たない私に戻っていた

+++

あれから数分何も言わないまま
土方は近くで私の様子を見る

一体私が何をしたと言うのだろうか
私はただ皆が笑って居ればそれで良かった
本当にそれだけだったのだろうか?
もっともっと悪い事を考えていたのでは無いのだろうか?

寧ろそうだった方がいっその事良かったのかもしれない
私が中途半端な悪い子だから彼らは傷付いて
私も傷付いたのだろう

嗚呼でも私が傷付く権利すらないのかもしれない
私は一体何処に行けば良いのだろうか

そう考えていると自然と食欲も失せる
彼らがこうするのも理解しているし、
何より私の身体が食事を拒否している。


『(嗚呼、っくそ、これじゃあ昔と全くかわりゃしない)』


確実に前世の食事生活に戻ってしまった以上
食欲に問題は無いので良しとする。
然しこのまま敵対してしまった状況で
果たして彼女は報われるのだろうか?


笑っていた都佑は、心の中に居ない

存在していた筈の彼女は消えてもう見えない

其処に居ない、実家の玄関にも、部屋にも、犬の前にも
何処にも私(羽黒未夜)の心には存在しなくて

記憶だけが一枚の色褪せた写真の様に残っている

嗚呼、もう八方ふさがりでは無いか。
私はもう、誰にも必要とされていないのでは無いか。
では、一つだけ聞きたい


土方「…ザキ、後は頼む」

山崎「あ、はい…」

『なぁ、一つ、だけ…聞いていいか』

足を止めた土方は未夜の方向を向かずに外を見る
予想以上に弱い声が出た事に未夜は気付いたが
今はそんな事にかまっている余裕はない

土方の目を見て私は小さな声で土方に聞いた


『…皆は、元気か?』

土方「…嗚呼、元気だ」

『(そうか)』

そうか。

それを聞いて私は心底安心した
自分の所為で傷付いてずっと呪っていても別にかまわないが
私の所為ですぐに私のことを忘れて笑えるのなら


いいや、もう元気だと知ればどうでも良くなった


何方にせよ私は”また”要らない子に成り下がったのだ
その現実にこの時間が夢だと小さな叶わぬ望みながら
大きなため息を吐き、そのまま布団の中に入った


目を瞑って前世の夢を見ようとうずくまる

『(私はもうあんな陽だまりに戻れない)』

薄狼は孤独だと誰かが言っていた
薄狼だけでなく、私自身が孤独なのではないかと思う
前世でも気が付けば人を寄せ付けない様にしていた

笑って話すのに必ずトラブルは起きて皆私の前から居なくなる
私が悪い事が殆どで余計に自己嫌悪に陥っていくのだ
その間、ずっと傍に居てくれるのが幼い自分だった

パチクリと大きな何も穢れもない目で笑ってくれる
そんな少女はもう、私の中に居ない。
都佑も幼い少女も、親も、私の中には一人も居ない。


もう居ないのだ。

何処にも彼女は少女は都佑は居ないのだ。


『(どうか、もどって、あいたい)』

口パクで目を瞑り本音を呟く
すると案外簡単に涙は溢れてきた
押し殺している感情は目をつぶっていても
チョーカーが感情の色を放つ

赤紫色に輝いていたものは色を落とし
青紫色に変わりマジックアワーの様な色を放ちだす

『(おねがい、ころして、このかなしみ)』

自殺しようとしてもこの場所にはつい先ほど使った棒も取られたし
力がない為腹を裂くことも出来なければ元々自殺出来ない様に
薄狼は自己再生能力が長けているので瀕死になれば直ぐに身体は戻る


いっその事死んで楽になりたい。
だから沖田達に聞きたい事も出てくる
然しこれは聞いて良いのだろうか?

そもそも私は何でこんな記憶を持って
生きて苦しんでいるのだろうか?
楽になってそのまま永久に眠りたい。

なのに月日は流れ朝日が私を迎えるのだ



『(なんで、あいたい、なんで)』

声を押し殺して縦に丸くなり正座からごめん寝をした状態になる
首元に両手で締め上げてなんとか息を止めれないかと思ったが
危険になると手の力すら入らなくなる

『…っ、なんでっ』

ふと頭の中に9歳の幼い私が笑って
二つの手を握っている事が浮かんできた
嬉しそうに笑う三つの声が鮮明に聞こえて

思いっきり飛び起きて叫ぶ



『待っ、て…』


その場所が余りにも叶ってほしい場所に
私は布団から飛び起きて手を伸ばした

伸ばしきった手は、外からの風を察知して
肌から頭に指令を送る


『…わかっている』

そう言い聞かせて私は何も考えない様に
布団の中に入り身体を縮ませて目を閉じた



+++


沖田「ああ、起きたか?」

『(此処は現実。
あっちは空しい夢に加えて、望みは叶わない)』

目を覚ますと沖田の声が上から聞こえる
片目で睨むと「おお、土方さんの言ってた通りでぃ」
と言って呑気な声で警戒している未夜の眼をじっと見つめた

沖田「飯、一つも食ってねぇって聞いて
握り飯と水持ってきたぜぃ」

『要らん失せろ戻れ』

沖田「俺には強がっている様にしか見えねぇがねぃ」

それは私が単に「欲しい、傍に居て、帰りたい」
と言っているようではないか

嗚呼でも間違っていない、だから腹の奥がまた黒い泡が立つ
この情をどうにかしてほしい。もう楽になりたい。
昨日の今日の一昨日がふわりと頭の中に流れていく

この感情は本当に自分の物か?
それなら私は誰なのだ
私は未夜なのか?私は都佑なのか?

嗚呼違うよ私

私は両方の名前を持つ普通の女の子だったのだ。



沖田「じゃ置いとくぜぃ」

『…殺し、てよ』

沖田「…そりゃ、出来ねぇでさぁ」

『お前も、殺さないと言う、何で。
傷一つ付けて尋問してそのまま殺せばいい』

頼むからもうこの感情から何でもいい、解き放たれたかった。

黒に染まっていく自分が怖くて、みんなを傷つけたくなくて
でもそんな泣き言言っても彼らの信頼を先に失ったのは私なのだ
私が悪いのだ。悪くなくても私が悪い。

もうそれで良いではないか。
私が悪い、処罰し、殺されて、何もかも考えなくなる。
もうそれで良いのではないか。


なんて全部言えるわけもない為
布団にまた蹲り目を閉じる

沖田「殺人罪とは言えど意識無しでの犯罪でぃ
軽く刑に処すとは思うが殺すなって近藤さんと
医者から言われてんでねぇ」

『…殺せ』

沖田「だからだm『ころして』…おめぇ、」


チョーカーはもう色を灯して居なかった
真っ黒な闇の色、何もない色
布団から起き上がる未夜の目からは涙が零れていた
沖田は目を見開いて口に手を当てる

『ママとパパに会いたいの。私の大好きな
嗚呼、駄目だよ私。二人の元に帰し…帰れない
帰れる必要も存在も全て無いではないか。』

チョーカーが全く力を使えて無く
自分の胸から黒い霧が溢れて周りに広がっていく
両手で首を絞める様に手を置いて胡坐をかいた未夜
黒色から一気に白に色が変わっていく
その光はまばゆくなりそのまま未夜はつぶやいて
身体を布団の中に沈めた


山崎「なんですか今の光!!
隊長!だいじょ…沖田、隊長?」

沖田「…本当にちっぽけな願いは、叶わねぇと思うか?ザキ」

酷く冷たい眼に山崎は体が固まるが声は「いいえ」と答えていた


沖田「”もう夢は叶わない”って、諦めてねぇ顔でもがくなよ…」

幾度も父と母に会いたいと希う都佑の本当の夢を知る沖田
余りにも普通の生活で、自身も願ったことは一度くらいあるが
沖田自身が望んだ願いの強さとは比べ物にならず

たとえていうのなら

沖田「俺が浅い足も包まねぇ川って言うんだったら
お前は底の見えねぇ深い海かぃ?なぁ。」

涙を拭い、黒い霧の中膝を立てて座った沖田に
山崎も未夜の傍に座った

小さく「置いていかないで」と呟いた。
その言葉に二人は目を落とす
幼く小さな手と身体で一体どんな感情を押し殺し
土方ら真選組の人間と立ち向かっているのだろうか



 何時でも貴方が泣きます
(前世の私は置いていかないでとママを想い泣いています)
(今の私は今も涙を流している前世の私を想い泣いています)

何方も救われない涙