拝啓、ご先祖様へ。
私は大変元気でございます。
ですが、ちょっと謝りたいことがありまして。
『(ううん!!仕事多忙!!!!だからと言って
家系魔術許可しないの鬼!!!!!)』
そう私メル。
家系魔術はご先祖様もびっくり!の
失われていた幻想の箱庭。
肌に触れた者を一定時間
生み出すことが可能な
超恐ろしい家系魔術!!
ちなみに効果の延長は未だ不明ではあるが
指示をしたら割と中距離範囲ではあるものの
自分の目の前じゃなくても動いてくれる。
まぁ家系魔術使ったら誰が見てるか分からないし
普通の見たことない皆は驚いて噂また流れちゃうし
禁止されて当然ではある…うん。ある。
『あるけどなんでこんな夜に
忘れ物しちゃうかなぁ!!!!』
ダリ先生丁度職員室居ないし!!!
一人で行くの怖いから!!!
だからちょっとだけ
うん、ちょっとほんのわずかだよ!!
ついて来てって言おうと思ったんだよ!!!!!
今日に限って知り合い居ないから声かけづらくて
私はもう半泣きで暗い廊下を一人で歩くしかない…
一応上司命令だからね。
家系魔術は半年間他の悪魔が居ても
許可が出ない限り使用しない予定だ。
そういうのは律儀に守る所
私はとんでもなく馬鹿なんだろうなぁ。
薄暗い中、ただ奥が暗い。
その闇に溶けて居なくなってしまえば。
闇の中、ポツンと一つ浮かぶ姿
『…(あ、駄目だ)』
逃げなきゃ、アレはダメだ。
そう感じメルは走り出す。
あれ、此処何処だっけ、
職員室に行く方向じゃない気がする。
でも、でもあれは駄目だ。
触れたら最後な気がする。
禁止されてから一度も家系魔術を使っていない。
最後に使ったのは1か月位前か、いやまだ3週間目だ。
悪周期だと理性を失うとは聞いているし、今冷静に居る。
じゃあアレはなんだ?
あの黒髪は白い肌は
赤黒い翼の生えた山羊の角を持つ者は
赤い目の奥に白い横線が見えた
止まれの印、危険の印
それは危険、それは危険
サイレンが鳴り響いて煩い。
息を切らしながら走って浮遊を使う余裕がない。
違う、浮遊を使いたくないんだ。
違う、違う違う違う!!!!
そうだ、そうだこれは夢だ!!!
悪い悪夢を見ているんだ。
『(悪い悪夢なら…目覚める場所は、一体何処なの?)』
寮の中?それとも職員室の自分のデスク?
あああの紫の炎の彼の腕の中ならどれ程良いだろう。
違う、そこに目覚めない。
私が、本当に願っているのは、其処じゃない。
醒めろどうか醒めてお願い!!!
息が切れてもう走れない、
身体から力が抜け落ちるかのようだ。
だらんと足をくの字にして床に落とし、
何とか腕の力だけで
身体を持ち上げ息を整える。
逃げろ、逃げるんだ。
アレに触れられたら気付いてしまう。
アレに触れば、戻れなくなる。
戻って、ああ、そうか…私はずっと私は
アレが私の目の前に来る
そっと頬を触って、目を見つめる
赤い目、白の横線。危険な世界。
僕はずっと前から、君だったのか。
脳が焼けるように痛い
嗚呼でも…良いのか、もう
もう…伸ばさなくて、いいのだ。
わたしは、人間なんかじゃ、ない…
『…私は、わたし、は、わたしは』
悪魔だ
目が赤く光始める
溶けていく時間落ちていく感覚に包まれる
人間だった頃の落ちる感覚に酷く似ていて
今でも人間だったらと思っていたのだ。
嗚呼違う私は、悪魔なのだ。
『……あくまなら、あくまなら』
この痛みは、どうして燻って離れてくれないのだ。
ドンと音が鳴る、何かが当たった気がする。
匂いがする、何だ何かの音が頭を揺らす。
ーっ!!!メル!!!戻ってこい!!!
そんな声が近くで聞こえる、なんだお前は。
なのに傍に居る白い肌の子が囁いてくる。
ーきみはあくまだ。
その声に首を横に振り距離を取る
嗚呼違う違う違う!!!!
『…嗚呼、違う、チガウチガウチガウチガウ!!!!』
それに凛とただ背を伸ばし、
後ろに手を絡め見つめる者が言う
白い肌に黒い髪の毛、丸い歯に角も無い。
ああ、ワタシ、は、ボクは、
『僕は、
そうぽつりと囁くように声が出た
小さな子が私に囁くように言う。
距離があるのに
まるで傍に居るかのように
耳元に入ってくる。
ーではどうして角が生えているの?
『ニンゲンだっテ、かぶリモの、する』
ーではどうして牙が生えているの?
『八重歯ダッテ、アるかラ』
ーではどうして目は赤いの?
『赤い、色の、目に、ナレル』
ーではどうして、
どうして君の背中には翼が生えているの?
『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
黙らせるそう前に出た動きに、草木が生い茂る
「…ふいっ!逃がしませんよ!!」
++++++++++++++++++
そうイフリートは丁度スージーと廊下で会い
そのまま世間話をしながら職員室に帰っている所だった
嫌な気配が、と言うか消えそうな声を聞いて、
イフリートは足を止めた
「ふいっ?どうされました?」
「…何か聞こえませんか?」
「ふいっ?」
…わたしは
そう聞こえた後、ドンと地響きが起きる
何事だと感じ、前に出た次の瞬間
白い少女がスージーの傍を走って行った
「ふいっ!?」
「あっ!こら君!!!駄目だそっち、は…」
そう走って行った少女を追いかけ四差路になっていた所から
曲がった瞬間、目を疑う姿が見えた。
赤黒い翼にゆるく丸い円を描くようにカーブした角は
何処か途中でうねっている。
目を赤くした者の姿も、黒い髪の毛も全て見覚えがあって
嘘だと言い聞かせたい自分が何処かにいた。
「っ!!ストラス先生下がって!!!」
そうイフリートが言ってきた道を戻り
距離を取るイフリート
それと同時に爆発音と風が巻き上がった
暫くすると音は止み、ただ廊下が黒く焼け焦げている
先程までそこに居た自分を思い出しゾッとする。
「ふいっ、何事ですか、これは、侵入者!?」
「侵入者であれば、良かったんですが」
黒く焼け焦げた場所に爆風で飛んできた石を投げやる
するとジュっとした音を立てた後
黒いモノが一斉に石を包み込み消し去った
「…ちょっと様子見しましょうか。」
「ふいっ、私はダリ先生に報告を」
「わかりました。僕はこのまま…っ?」
ダリ先生!!メルちゃんが悪周期に
ええ暴走しています。
そう伝えるスージーの声が遠ざかる感覚。
声が凛と聞こえ始める。
どうやら近いらしい
翼を広げながらなら戦闘出来るだろう。
イフリートはこのまま一人にさせるよりも
連絡をしてこの場で二人同時に
共同で捕らえた方がマシだと思った。
「ではどうして角が生えているの?」
その声にゆっくりとスージーと一緒に
イフリートは翼を広げ浮遊しその声の方に向く
白い背中の前には、
グルグルと唸り声を上げる者が
背中を丸めながら違うと
首を振りながら答えていた。
『かぶリモの、する』
そう赤く目を点滅させて言う者に
ではと続けて少女が質問をする。
「ではどうして牙が生えているの?」
そう問う少女に角を生やしている者は
チガウチガウと首を横に振る
『八重歯ダッテ、アるかラ』
目が揺れ、首を振るのに少女は続けて言う
捕らえますか?とイフリートが
スージーの肩を叩いて声を出さずに指示を聞く
それにスージーは首を横に振り手を止めた。
“まだ”動かない。
その指示にイフリートはコクリと頷いた。
まだ、だ。
「ではどうして目は赤いの?」
『赤い、色の、目に、ナレル』
一体何の話をしているんだろう?
あれではまるで
無い物を聞いているみたいに…
角も無く、牙も無く、目も赤くなく?
なぞなぞか?一体なんだ
何に対して彼女は怒っているんだ?
と言うか、応えられている以上
意識があると判断して良いのか?
にしても明らか
僕達を見れていない時点で
意識が無いと思うが…
「ではどうして、」
どうして君の背中には翼が生えているの?
その問いに彼女のメルの姿が急激に変化する
赤い中途半端に広げていた翼は後ろに伸び広がり
頭を爪でかき抉る勢いで強く抱え
目を揺らして声を上げる
『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙』
そう叫びだし
チガウチガウと首を横に振りながら
少女に飛び掛かり始める
駄目だ!そう感じイフリートは
炎を少女と彼女の前に広げ壁を作り出す
過熱を一気に上げ、
近づいたら燃えて死ぬほどに。
一瞬で彼女は怯み、
その間にスージーが
彼女の身体を蔦で包み隠す
「…ふいっ!逃がしませんよ!!」
「イフリート先生!!ストラス先生!!!これは一体!!」
「っ!見ての通り、メルちゃん悪周期入ったんだっ!?」
「ふいっ!?」
そうイフリートが駆け付けた
イチョウとツムルに話をする
その間にスージーの作っていた
蔦を燃やし…いや
牙と爪でえぐり外に出た
『アクマ、アクマ…嗚呼
チガウチガウチガウ!!!!』
そう叫ぶメルに
何で連呼しているんだと聞きたくなる程に
炎を出し始める。
熱風に驚き目を一瞬閉じたのがいけなかった
「っ!!!ストラス先生危ない!!!!!」
メルが赤い目でストラスの頭上
上に身体を丸めて睨む
先程のツタを出した
本人だと気づいたのだろう
攻撃をしかけ爪を振り上げる
間違いなく傷をつける。
そう感じたイフリートは
ストラスの服を掴みぐっと下げる
間一髪で避けられたものの、
チリッと前髪が消えて無くなった
『…そうだ、気付いてる、シッテル、
知ってイル、お前は!!私は!!!』
嗚呼私は!!!!
悪魔なの。
そう微笑み喉を両手で掴もうとするメル
酷く泣きそうな顔で、寂しそうに言う。
一体、何を想ってそう言うのだろうか?
そっとスージー達から距離を離し、
クンクンと匂いを嗅ぎ
ぎゅるりと違う方向を向いて飛び出す
『イル………マ』
そう何か途中の声が聞こえなかったが、
最初と最後だけで拾えば
理事長の孫である
特待生入間君の言葉に間違いなくて。
しかもその向いた方向は空想生物学の準備室
よくバラムがイルマに
絵本を渡しているのを見かけていた
スージーは駄目ですと声を上げた
「向こうはイルマ君がまだ!!!」
「っ!逃がすか!!!“
そう指を鳴らし叫ぶイチョウにメルが戻る
邪魔をされたのに機嫌が悪いようで、
メルがイチョウを睨みつける
『アクマが邪魔をすルナァ!!!!』
そうイチョウに風を巻き上げ距離を取る
その勢いに翼を広げていたこともあり
体勢が崩れてそのまま壁に激突したイチョウ
「っ!イチョウ先生!!!」
『…違う、チガウ、私、じゃない、
チガウ私がシタ、チガウ!!!』
…明らかに動揺している。
先程イチョウを攻撃したことに。
それはスージーに攻撃をしたときに見せた
一瞬の怯みと全く同じ状態だ。
「…メルちゃん!!僕だ!イフリート!!」
「ちょっ!エイト先生駄目だ!!今は」
声に反応していないものの、
身体を見せると
メルの身体はびくりと跳ね上がる。
グルグルと唸り声を上げるメルに
両手を広げてこれ以上先に行かせないように。
『…アクマ、お前も!!!お前、も、
私も、アクマ、嗚呼、私を、
嗚呼嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!』
そう首を横に振りメルは
翼をそっと閉じて急降下する
上に居た為下が手薄になっていた。
逃がさんとイチョウが
また指を鳴らそうとしたが
イチョウの視界には
メルは見えておらず鳴らせず仕舞いで。
飛び出したメルの方向に
イフリートは飛びメルを追いかける
「(なんだ?何に怯えている?)」
メルの目は先程から
何かに怯えて震えあがっている。
イチョウやスージーに手を出したのも
まるで何かから逃げるために、
邪魔をするなと
突き放す方に近かった。
本来の悪周期なら
問答無用で悪魔を襲う筈なのだ。
それにはちょっと疑問が浮かび、
「メルちゃん!!止まれ!!止まれ!メルっ!!!!」
そう後ろから声を上げるも一向に止まらない
何なら何か手を伸ばしながら首を横に振るのが見える
何だ、一体何が見える。
君は一体何を奪われているの?
「っ!!バラム先生!!!入間君が!!!」
そう目の前に、遠くだが見えた二つの影にイフリートは叫ぶ
気付いたバラムがメルを膜で包み込もうとするも
メルが指を鳴らし、二つに分かれた後外に出た
「っな!?」
『…、丸い、嗚呼、まるい?』
そう首を傾げてぴたりと足を前に出して止まるメル
ん?と言ったような感じでバラム達も立ち止まる
『…角も、翼も、牙も、ない、尻尾、ない』
「えっ?えっ?えっ???」
『…ない、ほら…!!ああ!!ほら!!
なんにも、無い!!!』
そう嬉しそうに目を丸めて笑いだすメル
赤い翼が先から僅かだが
さらさらと消えていくのが分かる
『ほら!ない…嗚呼、私は、
チガウ、悪魔なんかじゃ、ない。
嗚呼、違う!!ほら!!!』
そう指を鳴らしメル自身を作り出す
赤い目に角に翼が生えた自身を
すっと後ろに周り、突如翼をもぎ取った
その異常さに、バラムはそっと入間の目と耳を塞ぐ
見せないように蔦を作り上げイルマを保護する
『ほら、翼…ないよ、ほら、
ねぇ…ねぇ、っく、ふっ』
「(泣いてる…?)」
『ほら、角も、牙も、尻尾、も』
そうメルが作り上げた者の角や牙を触りだす
すると途端に触った場所は
砂のように消えて無くなると同時に
メルの姿も反映されていく
『目も、全部…ほら…やっぱり
…嗚呼そうなの、コレなの。』
嬉しそうにただただ嬉しそうに、
おでこに頬を擦りつけて言うメル
浮遊した後、そっとおじぎをするメル
『ほぉら、僕は悪魔じゃ、ないじゃないか。』
そう両手を広げて言うメルに、
元通りになったメルの姿をした者が
そっとメルの胸に抱き着いた。
だいじょうぶ、きみは、君は人間だよ。
そう言っているメルの胸元に居る子はいう。
それに嬉しそうにただ頬を首を横に振るメル
『嗚呼、音が嗚呼…そうだ…僕は、
…私は、私はニンゲン、私はニンゲンだ。』
そう言い聞かせるように
背中をとんとんとさするメルが
ガクリと意識を失い
頭を前に落としそのまま横に倒れた