Novel - Carla | Kerry

HOME > 花畑のモルグ > NOVEL

Novel

発火する距離3

act 8.



終末日明け、メルは
仕事場に出て
ダリ先生に荷物を渡した。




「楽しかった〜?」

『…ダリ先生絶対後付けてましたよね?』

「…あれれ?バレてた???」

『とぼけても無駄ですよ。
速攻で気配察知して
認識阻害メガネかけたんで。』



やっぱりー?途中で見失ったんだよね
と笑うダリにメルはため息を吐いた。


「メル先生すいませんお電話です」

『待って下さいツムル先生
相手にかけ直してもらっても』

「それがメル先生のお母さまと呼ばれて」


その声に持っていた資料を
ばさりとメルが落とす


あー落としちゃって
と言っていたダリが
メルを見て目を開いて唖然とする




『…分かりました代わります。』




そう言ってメルはツムルの
取っていた受話器を受け取り会話する。




『はい。メルです。
はい…はい、すいません。
はい…そっ!!!いっ!!!!
……はい、ええ、………はい。わかりました
早急に準備します。はい…ええ、では。』



そう気だるそうにして
受話器を取っていたメルが

急に大声を出したが
すぐに落ち着いて


いや肩を落として答える
ガチャンと音を鳴らし
メルがスッと息を吸って吐いた。




「何々?何の電話?」



『ああただの迷惑電話ですよ!
私スマホに電話出なかったので
家帰って来いって
催促電話来ちゃっただけです!』


「家?何か急なことがーーーメルちゃん?」



『…あれ?あれれ、おかしいな!なんで?』


どうして?ぽろぽろと目から涙が零れ落ちるのに

何時もは笑って居たダリも真剣な表情になる

席外すねと言ったダリがメルの手を掴み
無理矢理ではあるが職員室から離れさせる。



スタスタと歩いていくダリと
入れ替わる様にイフリートが
職員室に帰ってきた。



「えっ!?何、このしんとした静けさ…」



お通夜?誰か亡くなった?


と言ったイフリートにツムルがどうしようと
イフリートに声を掛けた。



「俺、断って居ないって
言ったら良かった!!俺、おれ!!」


「ちょ何々なに!!
どうしたのツムル先生!?」


悔しがるツムルに一体何事だと近くにいた
イチョウも席を立ち、ツムルの元に寄る。


「どうしよ、このままじゃ、メル先生」



…バビルスから居なくなっちゃう。



そう聞こえたイフリートは加えていた煙草を
ポトリと床に落としてしまった



どうか、聞き間違いであってほしい。






++++++++++++++++++



ツムル先生から母親と呼ばれた瞬間





胸の中がスッと冷えていく思いをした。



身体の力が抜けて
つい資料を落としてしまったが
今それどころではない。



顔を上手く維持出来ない。



きっと今、目が死んで表情も消えているだろう。






…あの世界と、全く同じの。

ずっと見せたくなかった死んだ顔を。




憶えている。憶えているのだ。

あの時間だけは、あの記憶だけは。





ぎょっとしたツムルの姿を無視して受話器を取った。





呼吸を整えて準備をする。

嗚呼大体予想はついている。


嫌な予感が、頭に警告音を鳴り響かせる。





これは出てはいけないと。





でも…もう、充分、逃げた方だ。



メルは受話器に声を掛けた。




『はい。メルです。』




ー貴方一体何処いってたの!!
貴方が居ないせいで叱られたのよ!!

その怒鳴り声と何時もの口調声のトーン
全てに嫌気が差す。

多分先程した目の色よりも更に色が落ちた。
目だけを落として声は
なるべく落とさない様にする。

それがいけなかったのか
呆れ声で返された。



『はい…はい、すいません。』

ー全く、学校の事務に居るんですって!?
そんなところまで逃げて…


『はい』


ー今すぐ辞めて嫁ぎなさい。

『…そっ!!!いっ!!!!』


そう大きな声が出る。

嘘だそんな話聞いてない。


それに気づいたのか
貴方気付いてなかったの?と
冷たい声が聞こえる。



嗚呼、怒っている。

駄目だ怒らせてはいけない。





彼女の言葉は絶対服従



…もう、逃げられない。



ー貴方を快く思ってる子が来たのよ。
縁談で家にいてくれるならって。
私の子なら出来るわよね?


『…はい。』



答えはイエスしか残されていない。

嗚呼、なんだ結局何一つ変わらない。



彼女の言った様に、私は
逃げたままになってしまっただけだ。



それならば、それなら………




ーなら言いたい事は分かるわよね?



『ええ』




ー縁談の方はすぐにでも会いたいと言ってたから
明日中には荷物を整えて明後日帰って来なさい。

流石に遠いから焦って帰って来られると危ないと
お気遣い下さったわ。



嗚呼、胸がズキズキと痛みを悲鳴を上げている。


駄目だ抑えろ抑えるんだ。駄目だ。

…これは絶対なのだ。命令だ。



聞かなければいけない。
これは指示を聞かなければいけないのだ。

悪魔は…悪魔は


上からの命令は絶対なのだ。



此処は平和な世界ではないのだ。
魔界の世界なのだ。



上流階級に睨まれたら最後


もう、そこにしか道はない。




『…はい。分かりました。早急に準備します。』





ー良い返事ね。やっと元の声が聞こえたわ。




嗚呼、この死んだ声が
どうやら彼女の好きな声らしい。
ならば声を落とすしかない。


本当は明るい自分も
悪くないと思っていたのだが…


やはり元はどうやら許されない。


ー良いわね?ちゃんと今度は逃げないで帰ってくるのよ?
そうしないと貴方の築き上げた者にも迷惑がいくわ!!




『はい…』




それだけは駄目だ。
それだけは…迷惑はいけない。


私がここに逃げたから
…迷惑が掛かっている。



違う違うと悲鳴が上がる。



駄目だ抑えろ抑えるんだ


…頼む頼むから、



お願い。

言わないで。

悲鳴を上げないで。




また元通りになるだけだから、


そうだ、おとぎ話のように
魔法が溶けて終わってしまうだけなのだ。


12時の鐘が鳴り響くまで
あと、どれ位なのだろう。


ーじゃあ待ってるわ。
明後日の夜7時に**に集合よ。
ドレスを着て来なさいよ。



『ええ、では。』



そう言ってガチャンと音を鳴らし電話を切った。


今多分、見れたものじゃない顔をしている。


駄目だ駄目だ、今は外。
先生達が心配して見ている。


笑わなきゃ取り繕わなきゃ。


駄目だ駄目だ
今こそ人間だった
自分の力を発揮するべきだ。



スッと息を吸って吐いた後


ケラケラ笑ったダリが話かけてきてくれた。


「何々?何の電話?」

そのおかげで凄く楽になった。
ありがとうダリ先生!!


何時もの笑顔で明るいメルで話せられる。



『ああただの迷惑電話ですよ!
私スマホに電話出なかったので
家帰って来いって催促電話
来ちゃっただけです!』



嘘。


本当はこの場所から
事実永久追放の印を押されたのだ。




今まで逃げていた厄がとうとう来たのだ。



嗚呼駄目だ、


あの死んだ灰色の世界に
戻らなければいけない。


絶対なのだ



否定しては

もう、いけない。





なのに嫌だと悲鳴が上がる。



煩い煩い煩い!!!




今は抑えろ…抑えて、お願い。







だってそう、


今まで甘い夢を見続けていただけなのだ。


魔法が溶けて、消えて無くなるだけ。


もう


「家?何か急なことが」


夢が醒めるだけだから。


「ーーーメルちゃん?」




そう低い真剣な声が聞こえる。


アレ?目の前が、あれおかしいな。


何か、ぼやけちゃった。


『…あれ?あれれ、おかしいな!』



そう笑って見せる。


あれ、上手く、笑えてるかな?



夢から醒めるだけだと
意識してしまった途端


目の前がぼやけて
目からぽろぽろと大粒の水が零れ落ち

その勢いは止まらず、
まるで蛇口を捻った水の様に
ずっと一定で止まらなくなった。



『なんで?』


何で今なの?


そう思うと涙が視界を奪って頭を下げた。



どうして。そう言葉が消えるように
泣き声でかき消される。


何時もは笑って居たダリも
真剣な表情でメルちゃんと呼んでくれた。


嗚呼、応えなきゃ早く答えなきゃ。

声が聞こえる。だから早く言わなきゃ。

笑って大丈夫ですよ!って
お芝居してたんですって言わなかきゃ。


肩を叩かれた後
そっと胸元に寄せてくれて。




駄目、今そんな優しくしないで。




貴方達の思い出が溢れて
止まらなくなってしまう。



肩を震わせて泣きじゃくる自分に頭を撫でた後
此処じゃなんだからと言ったダリが
両手で私の涙をすくっていた
片方の手を掴み引っ張り歩き始めた。



「ごめん通してくれるかな。
ツムル先生ごめん席外すね!」


後の授業宜しく!
そう言ったダリにえぇ!?と
声が聞こえる。








嗚呼、迷惑をかけている。







ー迷惑をかけて





その通りだ。

嗚呼…だから

これは罰であって罪であって
償わなければいけないのだ。



…もう、この場所に二度と居られない。





二度と、死ぬまで。














悪魔は人間より長生きだ。

100年は軽く過ぎると聞いていた。

途方もない時間を
私は過ごさなければいけない。




いやだと思ってはいけない。

覚悟を決めなければいけない。

折角猶予をくれたんだ。




今のうちに…覚悟を

この痛みこいを切り捨てなければいけない。



「よし、此処ならいいかな…ほらこれで拭いて?」


そう優しく言うダリに
メルは首を横に振った
駄目、今放って置いて欲しい。

優しくしたら燃え広がってしまう。
これ以上燃えたら収拾がつかなくなってしまう。



「もう…ほら」


そう優しくハンカチで涙を拭ってくれる。
目の前が滲んでいたのが綺麗に見える。
ダリはそう、心配そうな顔で見ていて…


また迷惑をかけていると
涙が溢れて止まらない



「なんて言われたの?」


言えない。

これは絶対だから。


絶対的な命令を
彼らはきっと邪魔してくれる。



でも…私は逆らってはいけないのだ。



次、間違えば…彼らが犠牲になる。


…守るためにも嘘を付かなければいけない。



『ただ家帰って来いって
逃げるなって言われただけですよ』


「…そう、ならどうしてそんな泣いてるの?」


『ああ、ただ帰りたくなくて
私の家、馬鹿遠いんですよ。』


「…言えないんだね。」


『すいませんごめんなさい』


「いいよ、家の事情なんだよね。
休暇は好きなだけ使ってい」


『もうこの場所には帰ってこれません』



嗚呼…言ってしまった。



そう言った言葉の重さに
また涙が溢れて止まらなくなる。


折角掴めそうだったのに
楽しい時間を

…食事を楽しいと思えたのに。





私はあの場所しか居られないのだ。

食事を好きだと思ってはいけない。




「な!!そんな!!!」

『婚約前提の縁談が決まったんです。
今日限りで退職します。
……お世話になりました。』


「…君は本当にそれでいいの?」



それは、もう決められたことだ。
拒否権なんて、私にないのだ。



『っ、はい。これでいいんです。』

「…っ、分かった。
手続きは済ませておくよ。」


嗚呼、終わりだ。

もう…全てが、築き上げた全てが。


この五年間とてもとても、幸せな時間だった。



最初はとても不安だったし
何時バレるか心配だった。



嗚呼でもこの不安ともおさらばできるのだ。



もうバレるのに怯えなくて良い。



だってもう…帰るのだから。


あの透明な時間に私は帰ってしまうのだ。

色鮮やかな夢の時間だった。

ありがとう



この色は…何時か忘れてしまうのに。


教えてくれて、優しくしてくれて。

ありがとう。



『お願いします。
私、準備してきますね!!』

「あっちょ!」



逃げるように、私は部屋を出た。

駄目だ。涙が少し枯れた今準備しないと。


幸いなことに
お別れと言う名の握手が出来るじゃないか。



駄々こねて素手で握手させてくれたら
帰る間にも、どうしてもしんどい時にも
家系魔術を使って夢が見れるじゃないか。





そうだ…そうすれば、いい。



涙をびしょびしょになった袖で拭って。





コンコンとノックをして理事長の部屋に入った。






『失礼します。理事長』

「ん?何?」

『退職届けを出しに来ました。』

「…来たのか」

そう言った理事長にメルはコクリと頷いた。

『貴方に拾ってくれてこの五年間
夢の、ような時間を…過ごせました。』





ああまた涙が溢れてくる。




『お世話になりましたっ』




そうぺこりとおじぎをする。
それに理事長は分かったとコクリ頷いた。
書類はダリ先生から貰うよと言って。


席を外す前に、最期だけ。




『理事長』

「なんだい?」

『最後に手を、握手を、してくれませんか?』

「…そんなのお安い御用さ。」



そう握手した後そっと抱きしめてくれた。

ポンポンと背中を叩いてくれた手が温かくて。
燃えていた炎がまた燃え広がっていく。

此処に居たいと炎を上げて。



嗚呼、此処に居たい。


嗚呼…どうして今なの。





ねぇ。どうして?




ふわりと離れる身体が憎らしい。

もっと居て欲しいと欲張ってしまう。

嗚呼そうか…そうなのか。

欲がでたから、


…ああ欲が出たから、私は処罰されるのだ。




私が幸せだと願ったから
このまま時間が止まってしまえばと願ったから。
私が…私が。


『(願ってしまったばかりにおきたものだ)』


願わなければ、望まなければ、手を伸ばさなければ。

私は今もこの場所に生きれていたというのに。



「元気でね」

『はい。お手紙送れたら送ります。』

「うん。待ってるよ。」

『では』



そう扉を閉める。
それに理事長がオペラと呼び
オペラはコクリと頷いた。






++++++++++++++++++



『理事長皆とお別れしておいでって言ってたな。』



そう別れ際に言われた事を思いだしつつ
とりあえず荷物を整理することにした。


気持ちを落ち着かせるためにも
今は時間が大事だ。



とにかく思い出すのは後回しだ。
今は作業をする。
えーっとゴミは燃えるゴミはと。


机の中を漁っていると
いつぞやのオリアス先生から
忘れ物と貰った答案用紙が出て来た。


ああー懐かしい。

あれから一か月ちょい前位か
経っただけなのに。



もうあんなに時間が
経ってたのかという気持ちと

案外短いんだなと思う気持ちが擦れていく。




机の中にしまっていた
お守り替りのミサンガ。



血の色を何とか落として
多少綺麗になった古びた
ミサンガにメルは目を落とした。



これは…捨てなければいけない。

あの場所に絶対持って行けない。


きっと、持って行けば
その場で捨てられるし
そんなことされたら二度と
心を取り戻せなくなってしまう。



『…でも、バビルスから去るその時まで。
お願いまだ奇跡を持っていて。』

/utakata3/novel/71/?index=1泡沫の白昼夢