イチョウサイド
ー総員に通達。
目標“アトリ”。推定“元祖返り”。
現在メルを拉致したまま移動中。
現時点をもって、ありとあらゆる家系能力
高位魔術の発動を許可します。
その声に、先程メルが伝えていた場所に入り
イチョウの足がぴたりと止まった。
今、彼は…なんて言った?
花が物理的に出る程まで嬉しそうに笑って
周りのことを誰よりも考えて動いていた
あの笑顔の絶えない彼女が
小さな身体を命一杯使って
必死に前を向いて動いていた
ーイチョ〜!ありがとぉ!!
あの彼女が
ふつりと腹の底から怒りがこみあげて来るのを
そっと肩に触れた手で意識を取り戻す
「イポス先生、今は。」
「…すいません、ついカッと」
「誰でもなります…俺だって」
「急ぎましょう」
とにかくメルちゃんが言った
アロケルの元についたその木の上に居た
生徒達に糸を絡めている姿に怒りが一気にこみ上げる
「“
その音で生徒のみが自分の足元に転がる
姿が見えない以上、彼女を戻すことが出来ない
自分の力を恨んだことはない。
ー“奪還”そして“教育”を。
…大丈夫、必ず奪い返すよ。
メルちゃん、安心しててよ。
これが終わったら
ツムルやエイトも誘って
またゲームしよう。
今日のことを、忘れられる程に笑って。
だから待っていてね。
「ー目標、発見しました。」
今、その魔の手から引き剥がすから。
+++++++++++++++
ゴポゴポと水中から
上に逃げようと上がる気泡の音がする。
此処はどこだろう。
いつの間にプールに入っちゃったのかな。
ジワリジワリと背中から胸に
直通の小さな穴が
周囲に広がっていく感覚が。
水中で呼吸が出来ない苦しさではなく
何も出来ない絶望での痛みなのだと
目をゆっくりと開けながら知る。
ここは、どこ?
ー!!!!
だれ?、だれが、わたしを
ーっ!!貴っっ様ぁああああ!!!
よんでいるの?
『…あ、え……?』
そう声が漏れたのに揺れていた身体が止まる
怒鳴り声の音も止まって辺りに静寂が訪れる
「シー♪」
その音に、この頭が左耳が左腕が左側が
前に鳴った音と左側の妙にぬるい温もりで
背中にくっついている事を知る
「オリアス先生」
「はぁいこちらには小石ひとつ
枯れ葉一枚だって当たりはしませんし…
彼女にも傷一つ、つきませんよ。」
そうふわりとキラキラした光が
周りを薄っすら包み込む
自分だけの、身体をベールが包むように。
「こちらのことは気にせず」
「存分にどうぞ」
そう言ったオリアスの声で
高位魔術の発動が始まる
木陰から日向に飛び出したことで光が身体に入る
突如上に上がっていた身体が横に切り替わり
ぼやけた思考が警告音を鳴り響かせる
ゴッと音を立てて
アトリの左手にイチョウの鉄拳が入る
その威力に、オリアスが張った家系魔術で
オリアスと生徒がいる場所は勿論
メルの身体にも小石や枯れ葉一枚
傷一つだってつかないのに
安心して攻撃を繰り出す
「ねぇ、人質いるの分かってる?」
「彼女を!!返せ!!!」
「やぁ〜だ♡」
「メルちゃん!!
メルちゃん!目を覚まして!!」
そのイチョウの叫びに答えたのか
攻撃を繰り出そうとした
イチョウが構えた瞬間
『…い、ちょ……?』
微かな声が耳に入ってきたのに
身体が止まったのがいけなかった
「っぐ!!」
「イポス先生!!!」
腹に直撃した重い攻撃に、
すぐ体勢を取り直し距離を取る
『…あ、わた、し…ここ』
「チッ…メルちゃん♪良い子だから
もう少しねんねしてくれるかなぁ?」
『…いい、こ…?』
「っ!彼女に何を吹き込んでるっ!!!」
「おっと♪」
『…ぅえ、?』
身体がぎゅっとくっついていて
腕も身体も動かない
かなりピッタリくっついてる状態で
一滴の黒い液体が
この身体にくっつけば要るほど
『(黒いモノが染まっていく)』
駄目だ
今イチョウ先生がアトリ先生に攻撃してる。
私を取り戻すために助けに来てくれた。
でも身体を動かすのは正直
…今、危険だと思う。
何か説明出来ないけど、うまく言えない。
確証はないかもしれない。
このまま力を使って
離れた方が得策かもしれない。
でも…それでも、胸の奥底が言うんだ。
声を叫べば
感情を手を伸ばせば。
するりと
この一滴の黒が私の手を感情を飲み込んで
そのまま消して無かったことにしそうで。
『(保護レベル:緊急非常事態MAX)』
…眠らなければいけない。
保護しろ。
今、優先すべきなのは。
『(貴方達と生きた時間)』
この記憶を感情を。
私は、私は何よりも奪われてはいけない。
眠らなければ。保護しなければ。
自分の感情を最優先しろ。
これは、奪われてはいけない。
他は何でも奪って良い。
嫌だけど、それでも。
この世界の記憶だけは。
もう、何物にも代えられない程
大事になってしまったのだから。
そう言い聞かせて。
明るい視界に
そっと
目を閉じる。
途端
「“
その音で身体が浮遊して
縦になっていた身体が
急にまた横になって
身体に痛みが走ったのに
地面に叩き落されたことを知る
背中にあった温かみが消えていくと同時に
黒い染みがぴたりと時間を止めた。
その代わり、身体を肩を掴んで
青い空から
薄い金色に近いクリーム色を持つ
長い髪の毛が視界に入ってきた
その温かい声に姿に手に
温もりが、漆黒の一滴が時が止まる
「っ!!メルちゃん!!
メルちゃんしっかりして!!!」
『…あ…っい…ぽ…っ…せ』
声を振り絞って言う私に、どうして?
ねぇ、イチョウ先生。
どうして、そんな泣きそうな顔なの?
どうしてそんな
泣きそうな顔で、私に微笑んでくれるの?
「〜〜〜っ!良かった!!オリアスせ」
「イポス先生!駄目だ後ろ!!!」
「っ!!」
突如身体が浮遊し、背中と膝裏の重心に
姫抱きされた状態で距離を取られたことを知る。
あれ、私、えっと。
「がえ゙ぜっ゙!!!」
その低い叫び声に身体がふわりと浮かび
脇に抱えられたと言うことを知るのは
イチョウがアトリからの攻撃を一度防いだから
「メルちゃんごめん!!
ちょっとそのまま堪えてて!!っぐ!!」
「っ守りながら、ぁ?
片手で俺と戦おうなんて
良い度胸じゃん〜?」
そうブチ切れるアトリに
イチョウは攻撃の手を止めず
片手で力を込める。
拳に魔力を集中
攻撃を
イメージ
高位魔術
背中に縛り付けていたメルが居ないことで
地面にアトリの背中を思いっきり叩き込んだ
空中で飛び上がりイチョウは
そのまま捕獲する選択肢に
大きな鳥籠が宙に浮かび上がって
「捕獲…!!」
しようとしたその時
檻の方にアトリが立っていた巨木を糸で操り
その勢いで檻にぶつける
「“
そう言った途端、
怯んだ手の力に反応が遅れる
気付かなかった。
メルの足にアトリの糸が
一本だけ
絡め捕られていることに。
「っ!!!やめろ!!!!」
そう離れるメルの身体を掴もうとするも
指が触れてすぐに離れる
ふわりと身体が上がるメルが意識を取り戻す
『っ!!イチョウ先生っ!!!』
手を叩いて
『幻想の…!!!』
ー“オカモト ミユ よ”
『ぐっ』
その声に酷い頭痛がして力が抜ける
伸ばした両手の先に
『(ごめんなさい)』
酷く心配した顔のイチョウを見て
視界がぼやけていく中
瞼から零れ落ちた雫を最後に
目を閉じた。
突如、辺りに怒号が響き
トスンと音を立てて
またぬるい温もりが肌に伝わる
トクントクンと心臓の音が伝わる
…嗚呼、意識が、ダメだ。
伸ばしたことで
ピシャリと音を立てて
綺麗に飾っていた絵に黒い墨汁が零れ落ちた
ー++、あ*し*るよ
声さえも、染みは広がる
+++++++++++++++
「イポス先生!!!」
「………ッ、申し訳ありません!!」
怒号直後イチョウは
守っていた自分の身体をそっと起こす
「逃がしました」
っくそっ!!
オリアスがそっと近づいてくる間
先程の失態を地面に八つ当たりした
もっと早く気付けていたら…
オリアス先生の方に近づけていたら…
そう後悔しても、もう過ぎた事だから遅い。
ー良い。よくやった。
その声に、自分の失態が痛みとして刺さる。
申し訳ない。ただ、申し訳ない。
ー方角的に1年塔に行ってるかな?
その淡々とした声に、
怒りで我を忘れている場合でないと知る。
嗚呼…一番苦しいのは
駆け付けられない貴方だと言うのに。
…落ち着け。
「…はい恐らく1年塔の方へ。
誰かを狙っている可能性が高いです。
攻撃の型から見てエイト先生が適任かと…」
「一度バラム先生と合流します。
オリアス先生は生徒を」
「了解」
絶対に逃がさない。
次は、ない。
「…ダリ先生」
ーなに
「メルちゃんの翼に
黒い模様が広がっていましたが
俺が触れた瞬間から
ぴたりと浸食が止まった感じがしました。」
少しでも、ほんの小さなものでもいい。
とにかく報告して、周りに伝える。
それが…逃がしてしまったせめてもの報いだ。
ー模様
「ええ。彼が何の魔術を彼女に施したか不明ですが
…また、奪われる瞬間、一瞬。
ほんの一瞬だけ、メルちゃんの目が戻りました。」
ーっ…そう。
「彼の身体から離して暫くすれば意識も戻り
黒い浸食も止まる可能性が高いです。」
あの黒が染みわたる速度が
黒に染まってしまった翼を見るのが
今とてつもなく怖い
全て染まってしまえば
まるで
もう二度と彼女の笑顔が見えない気がして。
恐怖で怖くて胸を掴んでしまった
ーありがとう。その情報とても助かる。
よくやった。
そう言ったダリにイチョウは
すいませんとしか言えなかった。
+++++++++++++++
小さなころから
よく声がしていた
皆笑ってそんなことはないと言って
その場所は幽霊だと言って
私の言葉を聞かなかった。
でも、大きなセンダンの木が風になびいて
葉の擦れる音がする
その下に居る人を、私は
私さえも否定してしまえば。
貴方を知る人は誰も居なくなってしまいそうで。
それが、ただ。
私は何よりも怖かっただけなの。
忘れてはいけない。
“脅威”
それは全身が痺れるような警告
生死を分ける
判断は一瞬
「先生っ!!!」
その声にバチンと大きな光と音が鳴り響くことで
意識が身体がたたき起こされる
『っい゙!!!!』
「下がれ!!!」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」
「ビリッとキタァ〜〜〜」
そう現れるアトリの背中で同じくメルもまた
身体にダメージを負い息を吸って吐く
「アッアトリ先生…?」
「え、待って?背中何かない!?」
「え?黒い髪の毛、ってメル先生じゃ!!」
ぐったりしたままのメルが
アトリの背中に張り付いているのに
まるで捕まえて逃げるようにも見えて
異常と脳が警告を叩きならす
「何なんだよあの腕に…」
「メル先生!!」
「行くな!!!」
「っでも!」
『ん゙…こ、ない、で』
そう声を上げるメルにイルマ達が声を上げる
「あ゙〜〜っち、この番犬が。
起きちゃったじゃねぇかぁ〜」
突如アトリがカルエゴの前に両手を出し
カルエゴの攻撃を掴む
「どけよ番犬」
ピシりとカルエゴの防御膜に手を入れる
「やっと…見つけたんだから…」
それに振り払いカルエゴは距離を取らせる
「(明らかに試験の範疇を超えている!!)」
そしてチラリと見える蜘蛛の糸に絡めくっついてる
ぐったりして手を投げ出しているメルの姿
「貴様…っ!!!!」
どういうつもりだ……
その後ろに張り付けている奴を
一体どうするつもりだ。
「いいからぁ」
「どけって」
そう言ってカルエゴの攻撃に
複数の手を入れてこじ開けようとするアトリ
「む〜りすんなよそぉんなふわっふわでさぁ」
「そぉんな」
お荷物抱えきれないでしょ?
そう言って飛ばす手に
そうカルエゴが
生徒を
守っていた
その爪から一つ
身体が取り除かれて
アトリの手が入り
そのまま入間の
首根っこを掴み、引っこ抜く
「うっ」
「イルマ様!!!」
「しーーー…良い子にしててねイルマちゃん…」
ふわりと捕らえられる瞬間
その声に警告が鳴り響いた
ビーーーーーーー
と、まるで開演を知らせる音に。
ー++、******。
ゴトッって音がした。
シーダがアトリの横腹を蹴ったのだ
「大丈…夫!?」
「げほっ…はい、し」
「しぃ…」
「しぃだぁ…お前…よくも…」
「よくもぉ!!!」
直後目の前に紫色の炎が見え
身体に巻き付いていた糸が剥がれ落ちた
「よぉ、不審者」
そう言った途端
アトリの身体は地面に叩きつけられ
メルから離すことに成功した
それに続いてスージーも
アトリが逃げないように
植物を使い道を塞いだ
「ふぃっ通行止めですよぉ」
「っ!!(囲まれた)」
エイトは使い魔を使用しメルを
アトリから引き剥がすことに成功
…したまでは良かった。
「っ!?」
「っ!エイト先生!!!」
黒い模様が殆どを締めた状態で
エイトの首を片手で掴むメル
その目はただただ、赤く光っていた
「っぐ!メル、ぢゃ、ぐ」
「ふいっ!!」
植物を使用しエイトの首を掴む手に
攻撃をするスージーだが
炎で燃やされてメルの元までいかない
『…っや゙め゙ろ゙ぉ!!!』
そう首を縦に振って
メルが片方の手で
力一杯に自分の頬にパンチを入れる
それでエイトの首を掴んでいた
手が離れ、壁に叩きつけられる
「メル先生!!」
「待って!!様子がおかしい!!」
『っあ゙ぁ、あ゙あ゙!!!っめ゙ろ゙!!!
とるな゙とるな゙とるな゙ぁ゙!!!!
わ゙だじの゙、からだお゙ぉ゙!!!!』
そう叫び頭を抱えた後、
身体を下に下げた瞬間
すっと無表情で指を鳴らすメル
メルの目の前にエイトが作り出され攻撃をするのに
メルは攻撃を入れる
「っ!?!?」
『ころせ!!!
意識をうばえ!!!
はやく!!!!!』
そう言ってメルに攻撃を入れ
作り出されたイフリートから
更にダリやモモノキたちが出て来る
「え?え?え?え!?」
「なっ、こ、れは」
「メルちゃんに
何吹き込んだ!!!いえ!!!!」
そう荒げるエイトに
アトリは唖然としてメルを見ていた
殺す目で見方を作り出し攻撃をするメル
その翼は漆黒に染まり、
もう数枚しか白い羽根はなくて
『っだ!ふ!っぐっ!!っ!あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!』
やめろやめろやめろ!!!
やるな!!とまれ!!!
ころせ!
そうメルが止めるのか
殺したいのか分からない
矛盾した叫び声を出しながらも
イフリート達の攻撃は止まらない…のに
『っぐぞっ!!!』
傷をつけて来ない状態に苛立ち
指を鳴らし家系魔術を解く
頭に血が上っているのか分からないが
とにかく今周りに攻撃しそうで怖い。
やめろ、くるなくるなくるな
「メル先生!!!」
「メルちゃん!!!」
『来るな!!!逃げろっ!!!!ぐ』
そう攻撃し、飛ばした物を
身体でカバーし防御する
あー滅茶苦茶痛いわ。コレ。馬鹿力過ぎない?
「お前らはいくな!!
下がって居ろ!!!」
「メルちゃん!!!
メルちゃんしっかりしろ!!!」
『っは、は、っぐ、ダメ、落ち着け、私のだ。』
違うと脳が言っている。
それは違う。
『私の記憶だ私の身体だ私の感情だ
私が作り上げた世界を!!!!
貴様が壊すなら!!!!』
鼻でふっと笑う
嗚呼、身体が凄い軽くなった