「入る?」
『入る入る』
とやたら盛り上がっているダリとメルに
マルバスは色々気になって声を掛けた。
「…何されてるんですか?」
「え?何って」
大きな段ボールに入れるか
どうか試しているんだよ。
そう言った彼、我らが教師統括の
ダンダリオン・ダリが恋人である
メルの入った段ボールに指を指す
「いやいやいやそっちじゃなくて」
『次のイベントで
こ〜盛り上げよ〜!ってことで
段ボールの中から飛び出せたらいいなって。』
つい気持ち大きい段ボールあったから
出来心でと苦笑いで照れるメルに
いやいやとマルバスは内心否定した。
普通に出来心で段ボールの中にそう
ホイホイ入るんじゃないよと。
入って連れていかれたらどうするんだ。
「次のイベントって…」
「ほら〜師団披露会〜」
『ダリ先生所の師団が
魔術使って何もない段ボールから
悪魔瞬間移動させれたら面白そうって
生徒さんが言ってたので。』
「うちの子小さい子も居るから
試すならメルちゃんが妥当だと思って。」
「…可愛がってるのか
適当に扱ってるのか
どっちなんですか…」
良いんですかそれで。
うちの子だから良いよ良いよ
そうおちゃらけて笑うダリにマルバスは
今日何度目か分からない
ため息を吐いて苦笑いした
『生徒にはさせれませんしね〜
何起きるか分からないのに。』
「ね〜」
「だからと言って、
校舎裏で大の大人が
はしゃいでる声聞いたら
驚きますって…」
此処学校ですよ?
そうマルバスが言うのに
メルは
はしゃいでないよーと声を上げる
『ちょっとテンション上がっただけですから!』
「…それを
ほらほらダリ先生理事長がお呼びなんで行きましょう。」
「え?マジ?あ〜じゃあメルちゃん
その段ボール僕の
持って行ってくれない?」
ほらこれ鍵。そうダリがマスターキーを
チャリと金属が擦れる音を立ててメルに渡した
メルは『はぁい』と言って片手でキーを受け取る。
「それ終わったら先に
帰ってもらっても
構わないから。そいじゃ」
『は〜い!いってらっしゃ〜い』
「うん!いってきま〜す」
なんですかそれ。
お互いの掛け声!
メルちゃん離れる時
いってきま〜すって言ってくれるから
返すようにしてるんだ!
可愛いでしょー
そうのろけを聞かされるマルバスを
遠目でメルは本人居る前で
言いながら行くかなぁ
と苦笑いで見守った。
そう言ってメルはダリに手を振り
そのまま段ボールを幾つか掴んで
余りにもデカいので
頭の上に乗っけて移動していた。
ら
「あ」
『お?』
「メルちゃんじゃ〜ん♪
…って何してるの?」
その頭。
そう声を掛けてくれたのはオリアス先生だ
とんでもなくドン引きされている。
どれ位引いているかというと…寮で見ている
オリアス先生に若干戻っている位には。
『あ!これですか?
これダリ先生からの師団へお土産』
「…なんだか色々説明を
端折られてるのは分かった。」
ほら貸しな。
そう言ってメルの頭に乗っていた
段ボールをサラリと取って
片手で運び出すオリアスに
いやいや良いですと
メルは首と手を横に振る
「いやいや、運ぶにしても
量がおかしいでしょうよ。量が。
何で10個も束にしてカート使わないの。」
首死ぬでしょ。死なない死なない大丈夫。
そう言って横を歩き出すオリアスに
メルは首を振って笑う
「第一恥ずかしくないの
そんな頭に段ボールを乗っけて…」
『全然?…あ!』
「お?何々気付いた?」
『いえ?その噂を聞いたダリ先生が
頭を抱える姿が一瞬
脳裏に過ぎってしまい…』
「…分かってくれるなら
絶対ダリ先生こんな数、君に頼んでないから。
そう言ったオリアスにメルはえへへーと笑う。
『だって〜少しでも力になりたくてつい…』
「…第一、君、縮小魔術使えるでしょ。」
使ったら良かったのに。
そう言って指を指すオリアスに
メルは少しオリアスの顔をみた。
えっ?何々?じっと見て。
そう焦りだすオリアスに
メルはハッと口と目を開ける
…あれもしかして、今気づいた感じ?
その手があったかー☆
と言いたそうな顔に
盛大にため息を吐いた。
頬に汗が流れる。
……ダリ先生も苦労しているな、こりゃ。
そう彼の「分かってくれる…!?」という
悲鳴がなんだか聞こえて来た気がしなくもない。
『いや〜魔術使えないと
思い込んだりして忘れてました〜』
たはー今使えるんだったそうだそうだ。
そう言うメルに
オリアスはうん?と疑問に思う。
「使えないって使えなかった時があったの?」
『え?…あ』
あ?
『…まぁ』
あ…
「…聞かなかった事にしておいてあげるよ。」
『すいません』
本当にダリ先生、頑張れとしか言いようがない。
彼女の口の軽さには苦笑いするしかない。
『でもオリアス先生悪いですよ
…そんな時間ないでしょうに。』
「丁度こっちの方に予定があったからね。」
『…あの〜お兄さん?』
「なぁに?」
『お兄さん、私とすれ違ってから
くるっと回って来たんですが〜』
「いやいや♪気のせい気のせい♪」
そう指を立てて笑うオリアスに
メルはほんとかなぁと
口元に手を当てて笑う
それをスッと細めでオリアスは
メルを見ていて思い出す
あの時の
ダリからの指令を。
ーメルを拉致し移動中。
あの時、あの瞬間。
イポスの怒りを鎮めるために
肩に手を置いたが
内心自分の腹の中にも一瞬
得たいもしれない感情が沸き上がった。
その言葉を、俺は知っているが
言葉にすると知れば知るほど腹立たしさが
巻き上がってきて仕方が無くなる。
それ程…見つけた時は安堵した。
アトリの背中の中で
ぐったりとしていても
まだ何も傷付いていないことに。
そして
俺やイポス先生の叫びに応じて
君は小さく僅かに口を開けた瞬間
イポス先生だけじゃなくて
俺だって…目を丸くして驚いた。
声は聞こえなかったが
全身ぐったりとしていた彼女が
すっと目を開けて声を上げたのに
希望があると感じたんだ。
白が…黒く染まっていくその翼に
とにかくメルちゃんの身体に
傷一つ付けないように。
隙を作らせて、
メルちゃんを取り戻した時
正直俺も安堵した。
だからイポス先生が
メルちゃんを逃してしまったのは
俺の責任でもあるのだ。
もっと早く、彼女を狙う奴の糸を
見つけられていればよかった。
声に出した俺が早くて
イポス先生がすぐに
メルちゃんを連れ戻そうとする時
身体が一瞬動いたが
この場で生徒を放置した方が恐ろしい
そう感じ、動けず
ただ力を使うしかなかった
メルちゃんは自分を臆病者だと言っていたが
正直、君ではなく俺が一番臆病者だと思ったよ。
ただ、消えていく彼女と爆発に
イポス先生が悔しそうに地面に
手を叩きつけたのに
自分も同じ気持ちだった。
嗚呼、どうして助けられられなかった。
だからこそ冷静になれて、
だからこそ近づけた。
…あの時、もう少し力を練れば。
君の身体に大きな穴は開かなかっただろうに。
もっと強くなりたい。
お疲れ会を終えた時
彼女が帰ってから、ぽつりと
ロビン先生が言ったのに
ツムル先生やイポス先生、
イフリート先生も大きく頷いた
勿論俺だってね。
アトリの力は凄まじく、ぶっちゃけ
教員数名で束になっても勝てなかった。
その状態で、何が生徒を守れだ。
何が教育だ。
俺達の方だったじゃないか。
教員の、それも
女性たった一人すら守れずに。
ずっと背中に捕らえられて
恐ろしかっただろうに。
翼が徐々に変化していくのに
精神的にも肉体的にも苦しかっただろうに。
なのに彼女は全てを振り絞って
自分の頬をぶっ叩いて壁にたたきつけ
自分の身体を奪う何かに怒り狂った
でも…狂ったとしても
生徒や教員に手を出す力を
自分の身体で守ってくれた。
嗚呼、戦っている。
身体の中に眠る猛獣が
彼女を蝕んでいるのに。
そんな笑顔の絶えない彼女が
スージー先生の背後に行った影から
引き剥がし、胸に手を当てていった。
しんぞうをくれてやる。
その言葉で
彼女の胸がぽっかり空いたそうだ。
血は止まり動いているのが奇跡で
もうその胸はダミーで、家系魔術で。
本体が別に居るのかとさえ思いたかった。
なのに…なのにそれは、
本物の肉体で、心臓をえぐられていたのに。
呼ばれた声で音で彼女は
ふっと足を前に出して歩いた。
まるで親に呼ばれた子供のように
軽い足取りで駆け寄った。
行くなと言っても声が聞こえておらず
身体が動けず思考も中々判断出来ない。
そんな中、彼女は動けてただ寄り添えた。
それは…
自分たちの実力と彼女の本当の実力の差が
余りにもかけ離れていることを知らしめていた。
…そんなにも強くて、そんなにも可愛らしい彼女が
ただ苦しんでいるのを、守られてしまった。
男なのに。
守ってやれるはずなのに。
その怒りは、この未来に叩きつけるとしよう。
もう二度と、その笑顔が崩れないように。
例えどんな世界が待っていようとしても…
この星が、君を幸せな世界に導いてあげるよ。
だから、だからね?
安心して、無邪気に笑って居て欲しいんだよ。
作らなくて…ただ、感じた通りに。
素直に、笑って居て欲しい。
彼女は何事も無かったかのように
俺達に笑顔を振りまいて笑ってくれる。
…それが、一番心に来るんだよ。
だから、決意した。
ー強くなろう。
そう言って、正直今隠れて
ロビン先生と一緒に特訓してるんだよ。
これでもね、非戦闘員でも足掻く位はしたいし。
だから最近ゲームに誘えてなかったけど
…そろそろ頃合いかもしれないね。
その気持ちは男子寮だけでなく
女子寮…そして、その場に居た
イルマ君達の心も変化させた。
噂をチラッと聞いたが
あの巨体のサブノック君が
「自分が踏みとどまれなかったせいで
キョーシを傷つけた」
と言って特訓に励んでいるらしい。
まぁ…その気持ちは分からなくはない。
俺だってあの時、イポス先生に
メルちゃんを助けられる隙を幸運を
起こすことが出来た筈だ。
それなのに、ただ傷付いてないのを
イポス先生の元に戻ったメルちゃんをみて
気が緩んだ自分が…許せない。
だからね。メルちゃん。
君は何にも心配しなくていいんだよ。
ただ、笑って。
彼の、俺らの周りで笑って居れば良い。
君が好きだと言ってくれるのなら
俺らだって好きだと言ってあげるさ。
身体を血を心臓を捧げても尚、
立ち上がるこのいたいけな彼女を
苦しめた奴の…
心臓をかきちぎってやるよ。
君が俺達なんかの為に
傷をつけてまで戦わなくていいんだ。
逃げて貰って全然かまわないし
なんなら全て忘れて
幸せに生きてさえいて欲しいと思う。
無様だと思わないか?
星の導きを得るこの俺が。
奪って守るんじゃなくて、願うんだよ。
…それ程まで、あの瞬間は痛々しかった。
君が星に願い事をする話を前にしてくれたね。
あの時、俺は自分で奪いに行くんだって
カッコいい事言って
君を感動させちゃったけどさ。
あの時は本当に居ないであろう者に祈ってしまった。
頼む
お願いだから
その空いた穴を塞いでくれ
この心臓を捧げて
君がまた戻って笑ってくれるのなら。
それなら捧げる
だから頼む
奪わないでくれ
そう…ダリ先生の腕の中で、
すやり。
ゆっくりと息を吐くように眠った
彼女を見て思った。
身体から、全身から血の気が飛んで
そのまま力が入らず膝から崩れたよ
…まぁ、その後は君、復活して元気になって
割とドッと安堵が来てから身体を倒したけどね。
だから
これ位のお手伝いで君が喜んでくれるなら。
「(俺はいくらだって君に手を貸してやるよ)」
この手に触れて
肌に触れ
俺の幸運が君を守ってくれる力になるのなら
幾らだって肌に触れてくれたって構わない。
というか触れろ。つーか使え。
無いって困るなら
幾らだって
握手なりほっぺなり
掴ませてあげるから。
…だから、抑えないで。
お願いだから。
「(そうやって見えない布で)」
君を包んで俺達の前から居なくならないでよ。
『助かりました…
ほっっっとありがとうございます。』
「いやいや☆
困った時はお互い様!」
でしょ?
そう言うとメルちゃんは嬉しそうに
『はい!』と肩を縮こませて笑うものだから
此方も大きく息を吸って吐いた
嗚呼、良かったって。
「じゃ俺はこれで」
『ちょちょ!オリアス先生待って待って待って』
んーー??
「どしたのメルちゃん」
彼女が待てと言って
しかも俺のスーツを掴んで引き止めるなんて
正直片手で数えるレベル
ってか初めてじゃない???
くるりと回ってオリアスはメルの方を見た
『えと、その…お礼』
「…くくっ」
嗚呼!ほんとに君って子は!!
『なっ!そっわ、笑わないで下さいよ!!
はっ恥ずかしくなるじゃないですか!』
「っくくっ、い、や
…何を言うかと思ったら
そんなことって思って!」
『そんなこと!?
私にとって超重要なんですが?!』
ご迷惑おかけしましたし!?
そう言ったメルに
オリアスは本当にこの子はと笑う
嗚呼!
…そんなこと
君がしてくれたことからしたら
本当に小さな恩返しではないか。
その身体に穴を開けてしまった代償は
俺達の悪魔生
全く足りない程の罪があるというのに。
君は“生きているからチャラ”なんて言うんだろう?
ほんとうに…怒ってくれて構わないのに
どうしてもっと早く助けてくれなかったの?
って責め立てて貰っても
全然かまわない筈だ。
なのに君は
私が悪い子だからって言って片付ける。
「(良い子過ぎて確かに悪い子かもしれないね)」
黒が反転して白になるのなら
君が悪い子だから
この魔界に
この場所に居なければいけないと思い
踏みとどまるのなら
君はそのまま、悪い子でいい
それだけで、ずっと居てくれるのなら
『それじゃ、その…はい!!』
「ん!?」
そう彼女は俺の身体を
グイっと引っ張って首に抱き着く
ちょっとお姉さん!?
トスっと何か帽子の上に落ちた音がした。
ん?
『それ上げる!じゃ!!』
「えっ!?ちょ、まっ!!!
…ああ、いっちゃった。」
そう恥ずかし過ぎて逃げるように消えた彼女に
オリアスはため息を吐いた
カサリと帽子の上、
というか唾の周りに触れるものに
クスリと笑ってしまった。
お礼なんて要らないって。
「…いおうとしたのに」
全く…彼女の少しだけの我儘に付き合えて
俺ってば、ラッキー♪