『ふ゛っぬぬぬぬぬぬぬぬ』
「…なにしてんの」
見て分からぬか。
蓋開けようとしてんだよ蓋を。
そうメルがダリに自分の手に近い程の蓋を
なんとか身体を使って開けようとするのを説明するメルに
いやいや何でこうなってんのと聞きながら歩み寄った
『スージー先生から開けれない瓶借りてきてて
手が外せないのにって困ってそうだったので
今日中に蓋を開けて上げようとおもっん゛〜〜〜〜!!!』
「…はぁ、良いよ。ほら開けてあげるから貸しな?」
やです!そう言ったメルに良いからと
ダリはメルの手を片手で掴み
片手で瓶を奪った
それにあああああと叫び
ダリはメルから奪われないように
くるっと回ってメルの身体に背を向ける
それにメルは背中から手を伸ばして
返してと身体をつま先を立てて
とにかく高い所にある
ダリの手にある瓶を掴もうと必死で
…若干というか余裕で
がっつり胸が当たっているのを
彼女は多分必死過ぎて気付いていない。
そうは言ったものの
「…っ」
ダリも開けられなかった
ぐっと手に力を入れて、なんなら
思いっきり回すために
ひざ元に置いて
力を入れても全くびくともしない。
「っあれ?おっかしいなぁ…」
そう思い、上に開けようとするが
そもそも瓶の構造上捻るだけの簡単そうな形で
どう考えても捻って蓋を開けるのは間違いなくて。
「うん?どうしたんですか?」
『あっ!バラム先生〜〜〜!!うわああああ』
「おっ、と!どうしたの!?」
聞いて聞いてとメルがバラムに
ほぼ飛びつく勢いで来たのに
バラムが驚いてぎょっとする
「スージー先生からメルが瓶受け取って
蓋開けようとしてたので手伝ってたんですが」
まぁ僕でもびくともしなくて。
そう言ったダリにバラムは嗚呼成る程とコクリ頷く
「僕開けますよ」
「すいません」
そうダリから受け取ったバラムは
少し手を置いて加減を調べた後
ガボッと何か壊れそうな勢いの音がして
その音でメルは身体を大きく跳ねた
ダリも少しびくりと反応したが、
すぐに落ち着きを取り戻す。
「はいどうぞ」
『はわぁ〜〜〜〜!!!!
ありがとうございます!!!!』
「ふふっいえいえ」
「すいません。ありがとうございます」
「いえいえ!とてつもなく硬かったので
男性でも中々手こずる硬さでしたよ?」
そう言ってバラムはメルの高さにしゃがみ
メルに軽く締めた瓶を手渡しする
「はいどうぞ」
『ありがとうございます!!!
スージー先生に持っていかなきゃ…
あっでも』
「うん?」
んーー…ともじもじするメルにバラムと
それを見ていたダリも首を傾げる
「どうしたの?」
『えと…その…』
「あ〜!バラム先生何か
メルちゃんに頼みたい事ってないですか?」
そうダリが助け舟を出したのに
バラムが今?
と首を傾げてダリの方を見る
「うんうん!」
「ん〜特に用事って言うこともないし…
って言うか君さ、
カルエゴ君をぶち抜く威力持ってるなら
その力でその瓶の蓋余裕で開けれたんじゃ…」
そういうバラムにメルが固まった後
ハッと何かに気付いたようで
「…まぁ、
「いいえ?僕来た時嫌だ一人で開ける!
って言ってましたよ?」
『私そんなこと言ってないよ!?』
言った言った〜そう笑うダリに
言ってない〜!とメルは頬を膨らませて
ダリの腕を叩いている
「…(…よかった、元気そうで)」
アトリからの攻撃を受けて
確実に気絶させたはずなのに
背を向けた瞬間
アトリは屋上から屋根を伝って逃げてしまい
振り返って目を追いかけた先に
メルちゃんが休憩して
屋根に乗った所を見つけた瞬間
もう肝が冷えて時間が止まったかのように見えた
ーメルちゃん逃げて!!!
そう力一杯叫んだ声が届いたのか
遠くに居ても此方の方を振り返っている間に
バラムは力一杯彼女の元に
翼を羽ばたかせて移動した
その間にメルは空を見上げて、
アトリの攻撃に固まっていたが
すぐに機転を利かして
蜘蛛の糸を青い炎で燃やし
溶かして距離を取ってくれた
うん。判断◎。素晴らしい。
これでぶっ叩ける。
そう思ったバラムは
一気にアトリの背後に近づいて
メルを逃がすように指示を促した
力一杯手で殴って地面に落とした彼に
メルが声を上げる前に
落ちた奴が声を上げる
バラムが攻撃してきたことに
驚いて固まった彼女の隙に
こっちに攻撃をしてくるのに気付くのが遅れ
そのまま身体を
同じように地面に叩かれてしまった
っくそ!!不味い一人にしては
そうアトリの頭を殴って
天井から地面に叩き落したのに
一瞬でアトリはバラムの背後に周り
攻撃してきたのだ
ーっ来るなぁっ!!逃げろ!!!
そう低い声で叫ぶとメルちゃんの顔は
背後にあったので見えなかったが
はっきりとキレの良い返事で
走り出したのに安堵する
それに大きく嫌そうな顔をして
アトリが舌打ちをする
…貴様
…生徒だけでなく
教師に手を出すとは
覚悟は出来てるのか?
邪魔と言われてアトリからの攻撃が
入った速さに異常だと知ったのが遅かった
一瞬のその甘さが命取りになる。
まずい!!
メルちゃんの方を向くと
伸びた奴の手が彼女をそっと掴み
メルちゃんの耳元で何かを囁いた
…?何を
その瞬間、翼を広げて
逃げようとしていたメルちゃんが
まるで身体の力を全て奪われたかのように
ぴたりと止まり身体を天井に叩きつけた
この場所は屋上で屋根の部分。
つまり平坦ではなく斜めになった場所で
彼女の華奢な身体が
そのままアトリの手から外れて
宙に舞って落下していくのが
余りにもゆっくりに見えた
白い翼を手を前に伸ばして
首を横に振るメルちゃんに
駆け付けようと身体を前に出したのに
アトリの手が蜘蛛の糸が早く
自分の動いた頭上スレスレを
メルちゃんがかすっていく
っまずい!!!
メルちゃんと声を上げるが
おおっと、とアトリが笑い
彼女の身体を雑巾のように絞り始める
痛いだろう。辛いだろう。
悲鳴に聞きたくなくて
やめろと声を上げた
…仕方がない、言うことを聞くしか
イルマ君達のように
細くて華奢な身体をしている
そんな彼女にちょっとでも
力を入れたら折れてしまう。
あの馬鹿力を持ったアトリなら…やりかねない。
今すぐにでも…一つ鋭い手に。
携帯を捨て壊す素振りをした
一応使えるようにはしておく。
まだ…ね。
すると分かったのか
本当に開放して彼女を落とすもんだから
身体を動かしたが…
彼女を狙う腕が一つ
増えたのに身体が止まる
まだ…まだ狙っている。
メルの背中に回っている腕に
今近づいて攻撃したら
先にメルの身体が突き刺さりそうだ。
それだけはしてはいけなくて。
通信鬼を取ったアトリにメルちゃんが
ヤダやめてと言って
首を横に振って奪い返そうとする
もう心がいっぱいいっぱいで
彼女の心は嵐のように波打って混乱していて
それが悪い判断だったと気付いたのにはもう遅くて
判断の過ちに、心が叫び涙が零れ落ちる
いやだ。いやだと。その叫びに
ニヤリと笑ったアトリは
メルちゃんの頬をそっと手でさすり
ぽろぽろと涙を零した
彼女の目尻にキスを落とす
ぞわりと苛立ちが沸き上がってきた
貴様何をしている
誰に手を出していると思っている
完全に弄んでいる
彼女の純粋な心を
何とかしようと、逃げなきゃともがく彼女に
ただ、傷つけずにそっと優しく腰に腕を巻いて
流石にソレはまずくて、攻撃に蔦を出すも
腕がこっちに来て
そのまま校舎に突き飛ばされてしまった
っ、隙がない…!!!
バラム先生!!と泣いた声が聞こえる
駄目だやめろ。
ぽろぽろと泣いて首を横に振っていた彼女が
すっと意識を失うのに目を奪われた
そっとアトリがメルの耳元で何かを言ったのだ
…何を吹き込んだ
怒りに任せてアトリを攻撃したかったが
すぐに距離を取られて逃がしてしまったのと
あのまま怒りに任せると
メルちゃんを立てに防ぐことを考えると
このまま放置するしかなくて…
っくそ!!!
そう怒りについ悪態をついてしまった
急いでダリ先生に報告をする。
…勿論、彼の心は恐ろしい程にぴたりと止まっていて。
報告。
目標は2年塔から
1年塔方向へ逃走中
至急指示を願います
その言葉に、ダリからの指令が伝わる。
とてもとても…淡々と静かに。
その声に、怒りが見えなかった。
それはそうだ
だって
殺しても足りない程に
殺したくなる殺意を
持っていたのだから
それは怒りなんかじゃ伝えられない
その声に周りもすぐに動いた。
イポス先生と途中で合流し話を聞いたが…
そう、メルちゃん意識少しだけ戻ったんだね。
それは彼女にとってとても救いだっただろう。
僕はイポス先生に凄いって褒めたよ。
だって僕は…彼女を守れなかったからね。
身体一つスレスレに避けられるばかりで
何が守護だ。何が
女の子一人すら、守ってやれないで。
何が教育者だ。
強く…なりたい。
そう酷く心の底から思った。
笑って
前世の空想生物学の話を
してくれるメルちゃん
ワクワクした僕の気持ちに応えて
一緒にワクワクした気持ちで
嬉しそうに伝えてくれる。
その時はブザーなんて全く鳴らないし
なるべく使わないようにしている。
でも…でもね。
ブーーーってイポス先生達と合流して
向かう間、音がしたんだ。
後で聞いた話だけど、
その時メルちゃんの翼が黒くなったらしい。
胸に穴を開けて
最初聞いた時は嘘だと思ったし
駆け付けた時これは夢なんじゃないかと思った
ただダリ先生の腕の中で、口から吐血しながら
喋ろうとする彼女に…やめろと叫ぶも
その胸は開いていて
最悪だ
あの時、行動すればよかった。
多少傷付いてでも、心臓は狙わなかった筈だ。
ごめんと言うメルちゃんに
ぽろぽろとダリ先生が涙を流した
あの何時も笑って誰にも涙なんてみせない彼が
教師生活で今まで話してきて
初めて、大粒の涙をメルちゃんの頬に落とした
ーいやだ
ーおねがい、やめて
その周りの悲鳴も加わりダリが首を横に振る
駄目だ、行くな。そう言うのにメルちゃんは
君はただ、嬉しそうに微笑んで目をつぶるもんだから
ダリ先生が消えそうな声で言ったのを、
僕はずっと憶えているよ。
ーおねがい、おいていかないで。
その叫びに、メルちゃんの身体から
翼が黒から白に変わっていき
胸の空いた穴も塞がって
…無事に目を覚ましたのに。
周りもドッと安堵の表情を浮かべて腰を抜かした
勿論僕だって抜かしたよ。
教師陣全員が腰抜かしたと思う。
ポロポロと泣いていたダリ先生も
メルちゃんを
ぎゅっと抱きしめて顔を埋めたし
まぁ…それからあとは、うん。
そんなことになっても…
君は、君達は
「(何時もの日常のようにふるまっていて)」
もっと言っていいんだよ。
あの時どうして私を助けてくれなかったの?って
貶して良いし、なんなら叩いても良いんだよ。
ってか、いっそのことしてくれた方が何倍も良かった。
なのに君は言ったんだ。
ーありがとう!
そう…僕は、そんな言葉を受け取る資格は全くなくて。
君はそれでもこの学校から消えようとする。
此処に居て良いの?
こんなことをしても、居て良いの?
なんて
いやそれはこっちのセリフだ
君を守れなくて、傷つけて
君はこの場所に残ってくれるのか。
恨んでも良いのに憎んでも良いのに。
君は、守れて良かったと安堵するのか。
どうして
ねぇ、どうして?
無邪気に笑ってこっちに来てくれるの?
君に近づいて触れる資格なんて
もう僕には持ち合わせていないのに。
君はまるで何事も無かったかのように
ただ僕やダリ先生達に笑顔で声を掛けてくれる。
…それにどれだけ救われているのか。
そしてどれだけ、自分が憎いか。
君は気付いているのかな?
だからね?
君にお礼を言われても、
君を使って何かしてもらうなんて出来ないんだよ。
嗚呼、でもそうだなぁ。
「そしたら…人間界のお話を
もっと聞かせて欲しいかな?」
『いいですよ!!何話しましょう〜!!』
「こらこら、あんまり話し過ぎて
バラム先生に迷惑かけないでよ〜?」
あと絶対、内容教科書に入れないように!
そう告げ口されてうっと止まってしまう身体に
メルちゃんがえーーっとブーイングを入れる。
うん。分かってます。
「興味本位ですし…というか
彼女からのお願いと言われたら…ねぇ?」
断り切れないんですよ。ほんと。
全く、これじゃあ
イルマ君に合わせる顔がないな。
「…今度こそ」
君を守るよ。
今度は、ちゃんと名前の通りの
守護者として。