『ん〜むにゃむにゃ…だめだよぉ、
それカップ焼きそば被ったツム兄…はっ!!』
一体私はどんな夢を見ていたんだ。
そう思いつつも、
メルの身体に冷えた感覚が染みわたって来て
目が覚めてしまった。
『あれ、私…確かダリの部屋で寝てて…』
あれから一週間、
必死になってダリ達が私のことを調べていた。
確かその日はやけに眠くて眠くて仕方がなくて
昼間とか意識が軽く飛んでたのを見て
早退する?って言われたけど
何とか頑張って耐えきった。
この場所は…冷たい廊下、だろうか。
バビルスの場所で間違いないのは分かった。
目の前からコツコツと足音が聞こえてくる
『あ!ツムル先生なに』
して
そう声をかけて手を上げた瞬間
目の前にしゃがんで入ってきた赤髪に
急に思考が急速に回転し、
避難指示を脳内に警告音と共にかき鳴らす。
『っ!っっぶな!!!!』
間一髪で攻撃を避け、
背後に距離を取ったメルに
真顔で短剣…それも刃先が歪んだナイフだ。
うねうねと蛇のようにも見えるが、強いていうなら
波がドバンと此方に押し寄せて来た所くらいか
緩いカーブの剣を急に真顔で攻撃する程
馬鹿な奴ではないのは分かっていた。
だから
『ツムル先生!!ちょ!すとっ!!』
明らかに攻撃対象が
私なのがおかしいのは分かっていた。
というかそれ暗器ではないですが
多分切られたら痛い奴だよね!!
幻覚とか見れる形の毒とか
し込んでないです!?大丈夫かな!?
そもそも攻撃をしてきている時点で
大丈夫なわけがないですよね!
あっすいません!!!
あと出来れば10m程
距離を取って頂ければ幸いなんですが!!
無理ですよね!!
うん!そうだね!!
知ってた!!!!!
『いったいなっ!!!にぃ!?』
そう距離を取って息を整えていると
更に背後から違和感を感じて右に身体を転がした
元居た場所に大きなヒビが入っていたのに
イチョウが自分にめがけて攻撃を仕掛けて来たことを知る。
まずい。もし仮にこの二人が
私に対して攻撃態勢でいるのであれば…
これは…確実に殺される。
というか目がそうなのだ。目が。
明らかに殺したいと思っている目になっている。
一体何の恨みを買ったんだ私は。
何?大事に冷蔵庫に入れておいたデザートでも食べられた?
…流石にそれでこんなにブチ切れられて攻撃されたら
私でも怒るんだけど、ってそりゃない話か。
攻撃を何とか避けつつ、
イチョウからの家系魔術からもなんとか逃れられている今
まるで遊ばれているようにも見えなくもない…が
恐らく警戒しているんだろうな。
だってこっちが一切攻撃をしないで避けまくっているから。
にしても会話も一切せずによく立て続けに攻撃してくるな。
まるで誰かと勘違いしているかのような…
ん?殺意を持っていて?
勘違いしていて??
イチョウ先生達が共通で殺意を持つ悪魔誰だ?
ひとまず逃げるか。
そう思い距離を取りイチョウの目の前で身体を縮こませ
ツムルの足から滑り前に走る
イチョウの家系魔術は視界に入った者を自分の場所に
飛ばせる効果のものであって。
此方が煙幕を使って距離さえとれば
彼の元に姿を現すことは不可能である。
『っは、はっ、はっ…っ、まいた…か?』
ひとまずは安心だな。
大きく肩から息を吸って、
顎まで伝って来た汗を
手の甲で乱暴に拭い去った
まだ絶対的な安心とはいいがたい。
だって彼らが居ると言うことは即ち。
身体の近くに蔦が押し寄せて来るのを辛うじて避ける
やはり…
『スーちゃん…バラム先生、』
貴方達も私を攻撃してくるの?
蔦を難なく避けていくメルは蔦に絡まったブーツを燃やし
その隙間で足を蔦から放し距離を取るも
バラムからの攻撃を腕で受けてしまい痛みに声を上げた
『っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!』
痛い。間違いなく痛覚がある。
これは下手し夢でないかもしれない。
これは不味い。回復魔法をかけていると瞬で入ってくる攻撃に
カバーをし続けるしか方法が無くなってしまった。
かなりの耐久防御保護膜を作り出したから
とりあえずは一時的に回復は出来る。
腕の骨が軽く折れたのを綺麗に回復できるのは
本当に魔術あってこそのものである。
うーん!人体学習っておいて正解だったぁ〜〜!!!
前世の私よくやったよ!!!
偉いね!!講義ちゃんと受けてたえらい!!
そう陸上を経験していた私にとって
骨や身体の仕組みは勿論、動き作りなど
人間の仕組み自体は
プロ並みの知識を習得していたのだった。
その知識を駆使し、イメージで即回復を試みたが
まぁ想像通り、イメージさえ掴められていれば
即回復できることは分かった。
さぁどうする。
切りかかってくるバラムを
間一髪のスレスレで避けつつ距離を取る。
確実に彼らを傷つける訳にもいかない為、
此処は距離を取ってー
【おいで】
『…え?』
誰かの声が聞こえる。あれこの声…前にも聞いたことがある。
ー生まれなさい
そう言っていた声だ。
『っ!貴方は誰!?何でバラム先生達を動かすの!!』
そう言いながらもバラム達の攻撃は止まらない。
何とか交わしながら彼の声に耳を澄ましていると
【深淵に眠りし落花よ】
落花?散り落ちた花に?深い底に眠りしものって?
『いやいやいや!なにっ、って!んのかっ!わかっんないっ!!』
そうバラムとスージーからの攻撃を更によけ
イメージを思い浮かべながら彼らの腹に
クリーンヒットする拳に息を切る様に吐いて
裸足のまま廊下を走り抜ける。
【満ちたりし時は過ぎた】
どういうことだ?満ちたりしがピーク時だとしたら?
頂点が過ぎ去ったと言うこと?いや考え過ぎか?
だとしてもピークが過ぎたらどうなると言うのだ。
【幾千の刻を想い重ねる魂よ】
誰のことだ?魔樹その者か?
【在るべき場所に還らんことを】
『っ一体誰の!!……え』
それは、会いたくなかった。
白いホールの中、観客席からの声が出る。
上のバーには
「どちらかが死ぬまで続ける試合」
とでかでかと書かれていて。
そんな場所だからこそ、会いたくなんて無かった。
ー味方が敵になる事だって想定していないと
『…やだ』
ー今後君は苦労してしまうからさ。
『いやだなんで今更そんな言葉思い出すの』
ー愛してるよ
『…っ!!』
目の前にいる者の目は虚ろな瞳で…嗚呼
まだ正気じゃないのが救いなのかもしれない。
『(この試合、絶対に勝たないと不味い気がする)』
でも、勝った先に貴方がもし生きていなかったら
私はそうだったら…私は、どうして。
どうして生きているのか分からなくなってしまうのに!!
足を蹴り上げて声を上げる
『はぁぁぁぁああああ!!』
剣を作り出し彼の腰元を狙うが、
ダリの得意のアイスピックが剣を止め跳ねのける
それに飛び距離を取ったメルの元に
腰を低く落とし背筋を横に伸ばして走り出すダリに
メルは剣を構えて彼の攻撃を刃で受け止める
カンカンと鉄が合う度に
重くなっていくのに焦り、
メルは距離を取る。
ねぇ、ダリ先生。
ーもし私が敵で、どうしても攻撃をしなきゃいけない時。
『っダリ!目を覚まして!ダリ!!』
ー貴方ならどうする?
『っぐ!』
距離を取っても魔術で攻撃を仕掛けて来るとはまぁ恐ろしい。
避けるのがギリギリで、攻撃を入れる隙を一切与えない。
相手は確実な格上。逃げる以外方法はないのか?
いや絶対に隙はある。
だから声を掛け続けるしかない。
彼がもしその虚ろに光が灯せるのなら。
私は続けるしかないのだ。
ーえぇ〜何その嫌なパターン。絶対させないよ?
『ねぇ!ダリっ!っ!やぁぁあっ!!』
そう攻撃を入れるも、腕に手で当てられ、
そのまま掴まれた後背負い投げされ
近距離戦を持ち越したことに後悔した。
『っがはっーー!』
ーちょい〜い〜から!早く答えなさいよ!
上からアイスピックに左手を添えて攻撃を仕掛けて来たダリに
急いで左に身体を捻ってその勢いで身体を起こして距離を取る
しかしすぐに身体を捻ってダリが攻撃を仕掛けてくるので
体勢を上手く維持出来ないままの戦闘に、身体が摩耗していくだけで。
ーん〜もし僕が君とどちらかしか生き残れない試合とかするなら
ー僕は自分の心臓を貫いて君を置いていくと思うよ。
『(私も…そう思うんだよ)』
でもね。でもこの場所は確実にあなたを殺さないと生きれない。
だから…だから!!!
『これは、だ、いしょ、うな、の…ね?』
そうなら…そうなら、私は。
何時も絵本を読んで最後は幸せに暮らしましたと言った終わりに疑問を持っていた。
もっと波乱万丈な物語にどうしてしないんだろうかと。絶対こんなとんとん拍子の物語になんてならないとよく祖母に愚痴を言っていた。
じゃあ貴方はどんな最期がいいの?
なんて聞かれたのを覚えている。
私は、憶えているのだ。
好きなことも嫌いなことも
知っているのだ全て憶えている。
でもずっと逃げて、ずっと見ないふりをし続けていて。
その花畑が既に枯れきっていることすら気付いていたのに。
ずっと綺麗な額縁に飾って誰かに必死に説得し続けていた。
その誰かは…もう私を見てくれることなんてないのに。
それでも気が狂ったかのように必死になって話していた。
もういいのに。もうそんなことしなくていいのに。
…でも私は望んでしまった。
その時間すらも、愛おしいことなんだと。
思ったからこそ…私はこの心臓を。魂を。
捧げてしまったことに。
後悔しなければいけないのだ。
『っ!!』
前を向け。目の前の敵を見ろ。
アレは敵だ。背後に生徒がいると錯覚しろ。
そうだ。アレは敵だ。
あの者は、愛している人ではない。悪魔ではない。
そう。
『っはぁぁぁぁああああ!!』
あの人はそんな目なんてしない筈だから。
前に走ってとにかく身体に力を入れさせない。
左右から作り出した力にフェイントをかけ
ダリの攻撃に怯みを入れる。
しかし全て見切っているのか、攻撃を幾ら出してもキリがない。
前にイチョウが言っていた。
上手な人は何百と襲っても必ず勝つものだと。
…全くその通りだと思う。
でも、その高い壁を乗り越えた先に。
私は辿り着かないといけない。
嫌だという悲鳴が上がる。
うるさい!!
黙っておけ!
私がこの場所で死ぬことが
きっと皆が私が一番
恐れている恐怖になることだろうから。
物語の最後は、よく自分が思いつくものと一致していて
だから最後を見ずに物語を閉じることが多かった。
最初だけ見て、何となく最後を想像して終わる。
そうやって、現実をみない証拠だったのだと
今思えばそうだと思う。
嗚呼、武者震いか、震えが止まらないのに。
この心臓はとても静かに動いていて。
はきけがする
『っ!』
前に腰を低く落とし、彼の前一直線に走る
左右に行って体力を消耗するくらいなら
一直線に力を一点に集中させた方がマシだ
確実に避けようとするから
空を飛ぶ
彼に教わった通りに
ダリから貰ったお古のアイスピックを使って
ただ一点だけを狙って振り下ろした
『…………』
なんで
ー私はね、おばあちゃん。ハッピーエンドもバットエンドも嫌なの。
なんで?
『なん、で?』
パタパタと音を立てて、そのまま自分の肩に彼の身体が落ちる
振り下ろしたアイスピックに保護膜も付けないまま
彼は両手を広げて嬉しそうに笑って待ってくれたのだ
そのおかげで、心臓に綺麗に一突きする事が出来て
ーその子が幸せに終われて、周りが不幸せだと思えるエンドが一番幸せだと思うの。
私は…私は
『…っ!やっ、と貴方に。勝てたの、ね?』
ーその名は
『ほら…ブザーが鳴ってる』
起きて。ほら…起きて。そう揺さぶるメルにダリは目を閉じたまま開かない。
ただ安らかに嬉しそうに笑って眠っているようで。
ああそれなら…私は貴方を抱きしめながらまだ余韻に浸らせて欲しい。
…ようやく、貴方に勝てたのよ。
どうかそれ位の余韻に浸らせて欲しい。
醒めるなら、どうか醒めてほしい。
ーメリーバットエンド
『(そのエンドをどうか覆せる奇跡を起こさないと)』
いや。元々私の結末は全てその世界だった。
母を想ってただ灰色の花畑を色鮮やかだと言い聞かせていたのも
ただ貴方に思われていればそれだけでよかっただけなのだと
幸せなのだと言い聞かせていただけで。
それはメリーバットエンドと変わらないことを
ダリ達はちゃんと見てくれていた。
…だから、その結末を終らせるのが。
今回の目的なのならば。
それを分かってくれているのならば。
『…あいしてるよ。ダリ』
この涙の意味も、貴方は分かってくれるよね?
あいしてる。
だからこの手に付いた赤も、貴方は私を。
私は私を救えるのだと。
どうか願わせてよ。