だから私の望みを叶えておくれよ3



まぁどっちが勝った、かなんてもう勝敗はついたもの。

「(…どうしましょう)」

ー潔く負けを認めてやってはどうですか?彼の面を立ててやる、というのも興、でしょう?
ー…っふん、仕方がありませんね。今回限り、ですからね!!!

そう言ってまんまとモヒイトとウイスの策略にハマったコルンが負けを認めた日から、一週間が経過している。潮干狩りもして、アサリも沢山取っては海の幸を堪能してきたのは良かったものの、だ。仕事中に考え事をするのは良くないとは思っていた。だが、

「どうした?何か考え事か?」
「っい、いえ!」
「そう?…何か気になることがあったら相談しろよ?相手になるから。」

声を掛けて来てくれたのは仕事仲間の同僚だ。最近よくこの子とは合うことが多い。周囲の子とは仲良くしないので定評のあるラヴィットだが、なんでもないと答えようとして少し、気になったことを話した。




「はぁ?甘え方???」
「ええ…余りよくわからなくて」
「ん〜〜〜…別に普通で良いんじゃないのか?」
「え?」

事情を軽く説明した後、その子は答えた。人間だれしもあることだ、と。

「お母さんに甘えられなかったまま大人に成ってしまったってまぁよくあることだったらあるし…兄妹居るんだろう?」
「まぁ」
「ならお兄ちゃんお姉ちゃんに聞いたりしたらいいじゃないか。」
「ですが周りの方々したことないと」
「あーーーーーー」

しなくて良い子供だって中には居る。偶々ラヴィットの上はそんな子達ばかりだっただけだ。それに気付いた同僚がついでだと言ってこういうのを知ってるか?と聞く。

「記念日とかに何か送るとかだよ。ほら、前に稼いだ金で花送ったら嬉しそうに喜んでくれたって言ってただろう?」
「っ、え、ええ」
「それみたいなもんだよ。何かもの送るとか…」
「止めた方がいいですよ〜意外と物は溢れて邪魔になることだって多いですし。」

そう別の人が声を掛けてくる。確かに捨てられない性分の彼女からしたら、遠くない未来、邪魔になることも出て来なくもないだろう。ならモノではないなら、やはり甘える…だがその甘え方が分からない。そもそも甘え、とは一体。そう思っていると、同僚らが顔を見合わせた。

「ラヴィットさんはどうしたいんですか?」

聞いてきた子は殆ど会話もしたことのない子だった。周りの子達と話をするところは見えるが、言うほど話をしている訳でもない。距離を確実に空けた位置にいる子。話せば気さくで可愛げのある子ではあったが、それ以上もそれ以下もなく、と何処にでも居そうな女性だった。小さい体格は、彼女を思い起こす。そう言えば今の髪色は白いが、以前はこの子のような黒色だったと聞く。

「…僕は、ど、うしたいんですかね。分からないです。」
「案外やるだけやってみるってのも手だと思いますよ?私。」
「ミメイさんはどう思われます?」
「私ですか?うーん…私も正直親に甘えられるような性分ではなかったので気持ちは分からなくないですが。」
「えっ」
「え、意外」

嬉しそうに笑い、花の様に咲く笑顔を見せる彼女だった。なのにサラッと言った発言は目を疑う、いや耳を疑うものだった。そんなことがあるのか、と聞けばええと彼女が答える。

「父も母も幼い頃から居ませんでしたし、ですが楽しい時間を過ごせた時もありましたから。」
「寂しかったりしなかったのですか?」
「まぁ寂しい時も勿論ありましたが、心の中や夢の中で遊べたらそれだけでいいかなって。」
「待って。」
「会った時二人が生きているって理解出来るならばそれ以上は望まなくていいのかなって。」
「ほんと待って。」

此処の子尊過ぎて辛い。浄化される。無理辛い。等と供述しており、なんてノリが会話で出てくる。ケラケラと笑っていると仕事に戻ろうとする流れに切り替わっていく。こういった他愛もない話を軽くしては仕事に戻れる職場環境は非常に良いと思う。以前はそんなことがなかったらしく、自分が来て徐々に変わっていったと上の人は言っていたが。

そう言えば母も似たようなことを言っていた気がした。

だからーーーー







『え?仕事で変わったこと?』
「はい。かか様は何か仕事で身に付き喜ばれたことがおありだったのでしょうか、と。」

近況報告書を提出と称し、ラヴィットは都結に茶会を申し立てた。すれば構わないと了承し、以前から定期的に送っている花を添えた花瓶を前に座って談笑をする。此処は書庫の近くにあるもう一つの部屋だ。全部で五つの部屋がある。外のドアを入れたら六つの方向にドアが均等に隠されており、勿論その階は統一されていない。上にあったり下にあったり。隠されていたり、と種類があるし、なんならそれ以上にあるドアで、ダミーが入っていたりする。結構危険な為、この書庫も外部の人間に立ち入らせない様にしている要因の一つでもあった。

『今の職場で悪いことでも?』
「いいえ。寧ろ私が就任して以降、仕事の風向きが変わったとお声を聞くことが多くなってきておりまして。」
『あ〜…そうか、もう就職して一年は軽く超える程度、になってきてるのか。』
「何でしたら三年程経過していますよ。お母様。」

あらまーそうでしたか。いやーごめんて。君ら本当に成長速度通常とバグってるから脳が追い付かなくてさ。
はあ

『まぁそうだね…前の、前くらいの職場はそんなもんだったな。うん、アレの職場は割と悲惨だったらしいし。私が入って風向き変わった話も聞いたことあるよ。』
「そうだったのですか!」
『ふふ、同じだね?』
「ええ」
『同僚には色々世話掛けてるでしょ。流石に会いたい言われても色々な人間が拒否しかねないので会えないけれども。』
「会わせませんよ。会いたい等と仰られても、会わせるつもり等サラサラありませんから。」
『そらそうか。』

だけど仕事の話が出来るのも大人だな。と都結は思っていた。もう少し子供で居て欲しいものだと思っていたが、地位も地位。場所も場所、だ。耐えられる器ならば、甘やかすことなく見てやらねば彼に悪い。そう、思っていた。そう、思っていたのだ。

『そういやこの花って自分で選んでる感じ?』
「え?あ、嗚呼そうですね。」
『そっか。』
「何かご不満でも?」
『いーや?(どういう状態で選んでいるのかも聞きたいところだが、此処は聞かぬ方が得。と、いった処かな?)』

アングレカムという花弁が六つの方向に咲いた白い多肉植物を見て微笑んだ。あの花言葉は「いつまでもあなたと一緒」「永遠にあなたと一緒」「祈り」という言葉がある。

純白のお花が、不思議な魅力を放つラン科の植物だ。以前花屋で選んでいた時に目を惹いたものなのを覚えていた。香りがあるのが特徴で、夜になるとすっきりした甘さの香りを放つものだ。その時は家に大神官が居た時で、当時アングレカムが咲き誇る時期ではあったから店頭でみていた。樹木や岩にくっついて育つ性質の品種があることから、「一緒」に関する花言葉がついている。

流石に告白じみていて無いない。と首を横に振って花言葉を調べたスマホをポケットに入れ車に乗り込み帰宅した話だ。まさか血に流され、こっちに返ってくるとは私とて想像していなかったのでね。思いの変化球に困惑しきっていた。

「お身体の具合でも悪いのですか?」
『嗚呼いや、別に』

どっちかって言うとお兄さんにときめいてしまった自分に劣情を抱いてるって所ですかねお兄さん。マジで。知るではない。主に大神官様への愛情を隠していたら子に遺伝したのに笑うしかない話を誰が子にするかって話よ。無理だわ普通に考えて無理だった。やめようやめよう。はいはい、てっしゅー撤収しますーよーお兄さんおねえさーん。

思考回路に組み込まれた記憶を奥に仕舞いこむ。甘え方の不慣れさは如何せん

『やっぱ成長速度早過ぎんだよなぁ絶対』
「はい?」
『嗚呼いやこっちの話。それより今は大丈夫そう?何とか仕事上手く言ってるんだよね?』
「ええ。そつなくこなせています。」
『そりゃー良かった。』

こっちの不慣れさが際立つことなければいいのだ。大神官に会うまではかなり厳しい状態ではあったし、何度も精神が狂いそうになっていたのだが、それも落ち着きを取り戻し、今ではそつなくこなせる程度まで回復し切っている身。良い感じではある。そう、何もかもが。此処が物語だったらーーー

納得が出来るくらいには「完璧な時間」であるのだから。

紅茶を飲み干し、お替わり要ります?と言われええと答えた。今日はラヴィットが淹れてくれるというのだ。目の前にある鉢植えではない花瓶の中に添えられた花を見てねぇと都結が聞いた。カタカタと音を立て、紅茶を入れ直すラヴィットがなんです?と声だけで聞き返す。

『前にコルン様ああいやコルンと仲良くなったでしょ?』
「嗚呼あの件ですね。」

はいどうぞ。あとその様付け本当に直さないとそろそろ罰ゲームと称して何かやりかねませんよ?
善処しまーーーす。
墓穴掘って泣きっ面で縋っても助けてやれませんからね?私彼より圧倒的に弱いですし。
いいや逆だと思うけどな。

『私コルンより君の方が強いって思ってる。』
「はい?」
『少なくともこの花全部造花で作れる?』
「そら作れますが。」
『じゃあこれまんまコルン処に持って行ってくれない?後伝言。』








「”私からのプレゼント♡受取れさもなくば貴様分かってやってんだろうなぁ?”だそうです。」
「…ありがとうございます。」

それから、他愛もない話を堪能した後のことだ。モヒイトの方面に戻る前、コルンに用事を聞けば無いと言われた為、そのまま遊びに来たラヴィット。嗚呼あと、と紅茶を頂いている間、一口飲み干した後ラヴィットは都結から聞いたことをコルンに告げた。


「”ついでに意味も教えてあげてねお兄ちゃん♡”っておっしゃら」
「ブーーーーーーー」

げほっげほっ
だっだ、大丈夫ですか?!?!?!
っげほっ、げほ…っい、え、だ、だいじょっげほっ

気管に入ったように咽せかえるコルンに、がたりと席を立ち慌て背中をさすりにくるラヴィットだが、すぐにコルンが片手で制する。彼に手を煩わせることは無用である。というか、だ。これは罰か?私は一体何を彼女にしてしまったのだろうか?と思っては大体の節がというか察しがつく。嗚呼恐らくビーチバレーで喧嘩を買ってしまったのだろうな、と。まぁ後日自分も改め迎えに行くことにするが、其処ら辺は容赦して欲しいものだ。売られたものはなんとやら、だ。売った当人が後悔しても今更遅い話である。

ま、あ、だ。

「一応尋ねますが、此方の取り揃えは貴方自らが作ったので?」
「ええ。」
「正気です?本当に正気なんですよね????」
「え゛な、なにか間違いを犯しているのですか…!!!」

いや逆だ。真逆である。はーーーーと頭を抱えたコルンに、顔を青ざめる子へ先に告げる。

「…先に告げておきます。今から話すことは貴方への責があるとかなんとかではありませんし、これは私の一知識であり、見解でもなんでもない一部の知識です。私個人での見解は貴方が受け取るというのは勿論自由ですが、私がこう言い切っていた等と言われると私も困りますので是非とも是非とも知っただけだと仰って頂けることをご了承下さいますようお願いしますが」
「わ、分かりました、分かりましたから!!!」

ならよろしいと早口で言った彼の責め立てはこりごりだ。ラヴィットがコルンではなくモヒイトに寄っているのは本来こういう処があるから。本当はコルンに、と行きたかったのだが、余りの神聖さに圧倒され、隣に道が逸れただけである。とは言ってもモヒイト自体良い人であった。最終的にモヒイトが師匠で良かったと思っているラヴィット。

「花には言葉が宿されているとされています。」
「言葉?」
「ええ。古くから意味を込め、相手に送るというものです。要は真意を届けるという意味ですね。」
「そのようなものがあったのですか。」
「…貴方華の物語を知り得ないと。」
「花?」
「嗚呼いえなんでも…まぁ、そうですねえ?ついでですし、いい機会ですか。コレを聞いて、彼女にお尋ねください。」


”花の咲く物語を教えて下さい”

「そう言ってくれたら喜んで見せてくれることでしょうから。そうでなくともこの私が言っていたと言いなさい。”そろそろ頃合い限界ですよ?”なんて言えば彼女の言葉で言うところの「いちころ」とでも言うんでしょうねぇ…?っくくくく」
「は、はぁ…」
「んんっ…緑色の丸い葉と細い茎の蔦があるでしょう?」
「ええ」
「実はソレにも花言葉があります。ソレはスマイラックス。花言葉は「勝利」という意味があります。」

いいではないですかと言ったラヴィットにええとコルンが答える。紅茶を置き、少し砕けた顔つきで答えたラヴィットに微笑み返しつつ、指を指し一つずつ花言葉の意味を教えてやる。スマイラックスは棘もなく柔らかい葉物でありながら、前向きな花言葉が印象的なものだ。都結も以前好きで観葉植物でもベランダに植え育てていた一つであった。育ち過ぎると定期的に家のいたるところに置いては鑑賞していた。まぁすぐに枯れて捨てざるを得なくはなるのだが。そんな話は置いて置く。


「その小さな花はカスミソウと呼ばれています。」
「此方もでしたか。」
「おや、その感じ、花とは思っていなかったと?」
「ええ。綿と同じ種類と思っていました。」
「まぁ言いたい気持ちは分からなくもありません。ですがこれも立派な花ですし、綿も花を咲かせます。因みに綿の花言葉は「繊細」や「母の愛」という意味もありますよ?」
「え」
「カスミソウは「幸福」「感謝」「親切」「清らかな心」「無邪気」です。」


小さい蕾が沢山、四方に散らばっていても、それでも咲き誇る力強さは可愛げもあり、他の花との相性が良いことから、都結も好んでいた花の一つだ。

「色付きカーネーションは母の日にプレゼントとしてよく渡されますが、色別で言葉が違います。赤とかでしたら「母への愛」「深い愛」「感動」という意味ですが。」
「意味ですが!?待って下さいまだあるんですか!?」
「紫は「気品」「誇り」の意味を。青は「永遠の幸福」。そして白は「純粋な愛」「尊敬」」


貴方への愛情は生きている…とも呼びます。
…っ。


「以前私も部屋に遊びへ出向いたことがありますが、白い花は貴方が送っているでしょう?」
「ええ」
「ユーフォルビアと呼ばれる小さい花でも蔦の生えた花があった。あれは「永遠の命」や「私の心は燃えている」という意味があります。また「協力を得る」や「控えめ」「明るく照らして」後は」
「”君にまた会いたい”」
「…!ご存知だったのですか。」
「いえ…以前、かか様がぼそっとぼやいていたのを、今思い出しまして……」

そう顔を赤らめ困惑しきっている彼に、クツクツと笑いが混みあがって来た。嗚呼本当にこの子という子は。

「天使垂らしも遺伝するものなのですねぇ〜困ったものですよ。」
「たら、なんですって?????」
「なんでもありませんよ。お気になさらず。」

ユーフォルビアの別名は灯台草という。「明るく照らして」という花言葉は灯台草からの由来なのだ。全部繋げなくとも、きっと彼女には伝わっていたし、恐らくきっとこれで。



「貴方はずっと彼女に。愛情を充分に受け取れていると答え返していたのですよ。」
「っ」
「ま、それ程情を注げると言えば此方も言いません。と言いますか、逆にお尋ねします。ラヴィットさん、貴方未だ誰一人とて貴方に彼女へ何かなさいと言った子がいたでしょうか?」
「………っあ!!!!!」
「っくくくくく、つまりはそういうこと、ですよ?」

恐らくクスやサワアらも遊びに出向いたこともあるだろう。あった時何故かどことなく微笑み嬉しそうな顔をしていたと思っていたが、まさかそういう花言葉の意味を彼らも知っていたとは…してやられた。いや自分がしたのだから、この場合血に狂わされたとでも言ったらいいのだろうか?いや、彼女の

「我々らへの情愛って一体…」
「其処ら辺気にし始めると沼、ですよ。」
「沼?」
「彼女等の隠語です。何でも一度知ると戻れないとかなんとか。」
「さらっと恐ろしいことを仰らないで頂きたい。」
「っは、全くですね。当時の私も貴方と同じ発言そのものでしたよ。」

ほらケーキも食べてしまいなさい。食べれないならば一度彼女にケーキと一緒に書類も持って頂けると助かりますが。
そうさせて頂きます…!

「あそう言えばコルンお兄様」
「なんです?」
「その彼女からの贈り物が一つ。」
「こ」

ーはぁ?色ですか?別に何色でも構わないでしょう?
ーえっ狡い。全部ってこと?分かった一万本買ってくるね。
ーお待ちなさい。何処にそのか…やめなさい分かりました分かりましたから。

「”遅れてごめん”と申されていました。意味伝わりましたか?」
「…私が直接届けて参ります。貴方は後日、日を改めて頂けると幸いです。」

まぁ出来るならばこの私の代わりに破壊神の付き合いに
構いませんよ

「その協力も、一応テストになってますし。」
「…頼みましたよ。要らぬことになってたらただじゃおきませんが。」
「ご忠告どうも。」

そう言って彼が飛んで行く。その姿を見て、ふっと笑い席を外すラヴィット。茶会は終いだ。













ーええ、わたあ???
ー駄目ですか?これなどにも花言葉などありは
ーいいけど…いいけど

困るよ。そう赤面し、困惑を見せた都結に皺を寄せた。全く何事だとでも言うのだろうか?お父様も同じことを言っていたとほざいていたが、彼女の面倒をこれ以上見るのは……




















「寂しいなら包み込む腕は何時だって差し伸べてあげるというのに」





貴方はそれでもその手を降ろす。
例え一番が叶うその刹那だと理解し得たとしても。








泡沫の白昼夢


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