なぁなぁ、天使よ。聞いているだろう?1
「今お時間宜しいですよね?構いませんね。分かりました。」
『待て待て待て待て待て待て待て待て』
待てってお前!!!
おや、待てをご希望とは。
「貴方もやらしいお人になられましたね?まぁお父様の趣向等別に構いませんが。」
『お兄さん?!?!?!??!』
急に入って来たと思えばツカツカと真っすぐ来て、しかも背後が机と知っていても尚身体をくっつける程に近づき顔を覗き込んでくる彼には流石の都結も赤面を隠し切れない。狼狽え困る都結の姿を見て、過去の自分がどれ程浅はかな情を持っていたことか、と内心自分で自分を侮辱した。あの時見ていなかったらば。きっとこんな愛らしい姿を拝めることはなかったことだろう。惜しいことをするところだった。
「冗談ですよ。驚きました?」
『おど、ろ、かな、いよ???』
「………ほぉ?」
『!??!?!?!』
「貴方が其処迄私をお望みとあらば、私も人肌脱ぐべきということですかね?」
『お兄さんたんまって!!!私には夫が!!!』
「ぶっ、っくくく、ソレ言いたかっただけでしょう?」
ですが付き合って頂きたい。少々お約束を守らねば罰当たりが下りそうなので。
罰当たり?
『何、負けて罰ゲームでもしにきたの?』
「と言えば付き合って下さるのですか?」
『時と場合と物によりけりで。』
「甘えるというお題であれば?」
『とりあえず出直してきましょうか。顔洗おう。一回寝てこい。』
「出直すまでもありませんし、至って正常ですよ。」
後顔を洗っても気分変わりませんし、そもそも天使は寝なくて良い存在ですよ。貴方の場合は特別枠ですし、この場合除外されちゃって残念でしょうがねぇ?
お前本当に言うようになったなほんと。
「はっ、それは此方のセリフですよ。この私とそれ程言い合えるとは余程の付き合いが無いと成し得ません。」
『えそうなの?てっきりウイスさん達とは仲良しこよしのさんさんこさんだと思ってたのに。』
「なっ…貴方の目を疑う日は今日という今日程ありませんね……。」
そう驚く彼の隙を突き、占めたと思った都結が横を反れようとするが、そのまま腹に腕を入れられ、ひょいと胸元に抱き上げられる。あれ?待って?そう思って固まっていると移動し始めるコルン。とすんとソファーに置いた都結を横たわしたと思いきや、だ。
『ん?え?あ?お?』
「なんです?」
『ええいや』
ええ?
困惑するのも無理はない。急に来た子が「甘えに来た」と言って身体をソファーに落とし、その背中側に入ってまるで自分を抱き枕のようにして寝転がるとは思わなかったのだ。しかも
『ちょ、垂れ幕とか色々皺になるでしょうが』
「別に皺に等なっても構いませんよ。どうせ後で取り除けばいいだけですし、これしきで痕がついても構いやしません。」
『よくないでしょうが、お兄さん破壊神らとの』
「今は仕事等ない、でしょう?」
『んぐ…』
リキールが引退した。
それ以降都結がコルンと関わることはめっきり減った。こうして会うのは正直言ってリキールの処に遊びに行った時以来だし、なんなら一緒に暮らしていた時以来でもある。抱き上げ寝るのは都結自身が望んだことが事の発端ではあった。背中をコルンの胸に合せていれば、此処に誰かが居ると理解出来て寝やすいのだと。
最初は嫌々仕方がなくやっていた。が、此方に来て、大神官の正妻となれば話が変わる。流石に悪い。お父様に顔が向けないと思っていたし、実際そうだったのだが、それでも彼からもやってやりなさいと言われたら何も言い返せなくなる。それ以降時々、本当に時々ではあるが都結が怖い時にしてやって寝かしつけていた。
まぁそれをリキールに見られ、都結だけでなくコルンも時々都結が居ない時に茶化されたりするネタにされてしまったが。そんな話も今では可愛らしいもので。
『…げんきかな。おきつねさん。』
「ええ、きっと。お元気しておりますよ。」
都結が決まってリキールのことを「おきつねさん」と呼ぶときは寂しい時だ。因みにウイスの時はビルスのことを「ねこさん」と呼ぶし、シャンパの時は「にゃーさん」と呼んでいた。二人共ねこさんで良いとは思っていたが、本人が嫌がったのだそう。因みに他にも呼び方はあるが、流石にヒレ耳というのもあったジーンを「にんぎょ」というのは色々気が引けたのでやめさせられたことがあるそう。まぁ言いたいことは分からんではない。
確かに可哀想なのでやめてあげた方が良いとは思ったが…だとしても「アオリノソンエンカイケイダマシウオ」とか本気で分からない魚の名前を出されても困る。因みに存在しないらしい。何故そこで実在しない魚の名前をさも提示出来るのか、ジーンも困惑で適当でいいと言っていた。それ以降仕方がないから「おさかなさん」で落ち着いている。というかソレで言ったらよかったのに、なんて言うのは言わないでおこう。
「寂しいですか?彼から頂いたものに。」
『…ん。』
コルンとて馬鹿ではない。都結も結構我慢をする上にプライドが高い。似た者同士とはよく言ったもので、こんな場所にずっと缶詰で居たら考えることも洒落にならないことになる。コルンが出向かなかったのも、何も自分だけの都合ではない。リキールが離れたことを思い出さない様距離を取り繕っていただけのことだ。
それがラヴィットの花に思い出させられた、と言ったところだろう。軽く上からタオルケットを被せてやり、枕を頭の下に入れてしまえばうつらうつらとし始める。まぁ天使が寝る事など無いが、軽く目を閉じ動かない状態でいてやれば寝ている様に見えることだろう。疑似は案外通用する。
「大丈夫。貴方の想いはきちんと届いておりますよ。」
そう言った後は何も言わず、ただ時間だけを過ごした。これが甘え?もっと抱き着くなり愛を叫ぶなりせんのか!この親不孝者め!なんて第二の破壊神に言われかねんが、そんな彼女も実は既に引退が決まってしまっている。そう、入れ替え期に到達しているのだ。彼らも随分と長い時間居てくれたから。
本当に絵本の中だけにしか存在し得ない場所になってきたのが心苦しい。まぁもしもこの場所にいなかったとしても、きちんと見つけ次第戻ってくるように仕向けるまでのことだ。それに
「(我々は貴方の情をきちんと受け取れている筈なのですから)」
小さく細い身体で、自分らの模倣を作って迄しても心配をかけさせない様繕う子。恐らく何処の世界線に飛び立ったとしても、こういう子はこういう動きをするのだろうな、と何処かコルンは思っていたし、恐らく確定であるだろうと何処か分からない処で決めつけていた。
別に本人に面と向かって言えばいいものを。そうしたら自分が想定している以上の幸福を得られ…嗚呼そうか。得たくないのだ。この子はそれ以上の幸福を知りたくないからこそ、その身を其処に置いているだけのこと。時間を止めていれば、進むことはない。ただ此処に残されたままでいる。
それは同時に、本当に得たかっただろう時間が進むことになるかもしれない期待値が残されているのであって
だがそれは、それこそが、
「(貴方の選びたく等ない時間だと、貴方は知っても尚、其処だけを望むのは、未だに私は理解が出来ません)」
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「(また妙な時に来ちゃいましたね)」
何してるんですか。なんて言ってしまったのは恐らく見たものがものだったから、だろう。ソファーに気付けば大神官も寝ていたのをサワアが見付けたのだ。本気で何をしているのだろうか。ソファーなのだ。しかもコルンに関しては本当に寝ている。意識が本当に無い気がしたのを無視する。彼のプライドも込めて、だ。
「おや、こんにちはサワアさん。」
「なにしてるんですか」
「何って、なんでしょうね?」
ぞわっとしたのは気のせいにしておきたい。本当に何をしでかそうとしていたのかは考えないことにしよう。これがコルンからなのか都結が寝ているから、なのかはご想像にお任せしたい。
「余りお母様にご負担をかけないで頂けますかね?」
「善処しているつもりですが、貴方からもそう見えてしまいますか?」
「ほんのりではありますが…処で彼等は?」
「アゲートさんなら」
「此処にいるぞー」
「っわ!!!」
んあぁ。なんて何処から出して来るか分からない甘えた声が部屋に飛ぶ。ふにゅふにゅという声に、その場にいたもの達が一斉に其処を見る。コルンもその声で目を醒ましたくらいだ。勿論その後軽く叩いた。大神官がではあるが、アゲートに擦り付けられているし、なんだったら白鳥も交えてになってきた。此処は宴会か???
「丁度お昼寝だったか。」
「今起こしましたから測って頂いて結構ですよ。」
「測る?何処か具合でも悪いのですか?」
「逆ですよ。定期的に気が回り過ぎて体内の圧が掛かり過ぎちゃうんです。」
「この子勿体ないとか言い出して外に出さないので。」
『だってー綺麗なんだもん。』
ガス抜きはすべきである。ため息を吐いて説得をする[[rb:救護士 > ヒーラーサイン]]とは言ったもので、この組に結構助けられている。基本は全王様直属ではあるが、その次が都結ら腹心の世話になる。精神的な回復がアメリの役割で肉体的な回復が白鳥の役割だ。なので二人一組で作業を行う。こうしてみると一見他の神々と同じ様にみえるだろうが、案外特別枠だと思っている。
天使はあくまでも破壊神の出来ない範囲を手伝う、に過ぎないものだ。破壊神と同時に作業を執り行うというわけでもないし、仮にあったとしても大抵は相談し、天使にやらせるか破壊神が行うかの二択だ。同時に、なんて動きは滅多にしないし、なんだったら通常業務、というのもない話である。なので異例と言えば異例な動きではあった。
「あーまーーーたため込んでる〜。もー溜まってお金になるとかじゃないんだからね?」
『あれか尿結石的な感じになる?』
「いや、まぁ似たようなもんだろうが、だとしても例えがきっっったないなお前本当に。」
『だって分かりやすい。』
「分かりやすさで話をするなとあれ程…」
「貴方の時からでしたか。なら無理ですかね。」
「子供に影響出てない処が不幸中の幸いか?」
「まぁ若干は。」
第二子であるアプルコールに関しては例外だ。彼女は諸と言っても良いくらいに都結の血を引いている。割と言いつけを破るので、あの子が変に道を外さないかが大神官やコルンらの心配ではあった。まぁ大神官は其処迄心配はしていないが。
「これで良し。大分軽くなったでしょ。」
『わー髪の毛切ったくらいの軽さ。』
「そらよかったな。ってかその長さ切らないのか?前はもっと短かっただろうに。」
「そうなのですか?」
『あ〜まぁ、髪の毛伸ばしていた方が落ち着くし、良いかなって。』
それに染まり方がどうなるか分からない。今は白色に染まっているが、これから黒に戻る可能性だってあるのだ。染め直します?と言った大神官に悩みますね〜とくしゃくしゃになっていた髪の毛をほぐし始める都結。胡坐をかいてやるのでこれとコルンがいうも、言うことをきかない。今はコルンの胸に背中を置ける程に位置していた。
身体を曲げたりして三つ編みを直す。てきぱきと直す速さは流石手慣れているものだ。すぐに作っては外して位置を調整している。
『そういや皆元気してる?最近悟空マジでほんとに見ないんですが。お兄さん元気してるの?定例会議ずっと来てないし。』
「嗚呼あの子罰ゲームで外周の人間らを蹴散らしてこないと帰ってこないで下さいって言い聞かせていますので。」
『は!?なにしていや何したんだ。』
まぁ都結には伏せているが、悟空が原因というのもある。都結の気が増大するのは悟空に起因しているのもあるというものだ。何だかんだ言って主人公。わくわくする感覚が都結にも残されており、それが増幅されると気が放出をする処をとれず、体内で気を強く回し始め続ける。そうなるとどうなるか。なんて考えたくない話だ。
定期的に来ては都結の体内に残る気を取り出し保管する。綺麗な青い気が液体と化す。日に寄るが黄色や緑、偶に赤い色をすることもある。ソレは何にと問うサワアに養分だと白鳥が答えた。
「各宇宙の惑星に謙譲しているんだよ。色と合った色の泉があってな、其処に流せば暫くの栄養素は事足りているんだ。」
「貴方一体どれ程の気を練り込んでいるんです?????」
そう言えば考えてもいなかった。そう言ったコルンが試しにと手を出す。大きなおてて〜〜とほざいているのを片手で叩く。痛いと言って叩いてくるが、無駄である。真顔で見ていたらケタケタと笑い、此方に向かって胡坐をかこうとするのでやめなさいと言ってやる。
「手に触れて下さい。出来れば額を此処に付けて頂けると。」
『こう?』
「ええ、そのまま一番、でなくとも構いませんので何か考えて下さい。そう、もっと強く。」
良い調子ですねと言った後、黙る。口を開け、もう片方の手で口を覆った。コルンさん?と尋ねた大神官に返答しないまま、都結に向かって声を掛けた。
「わかりました。とりあえず気の扱いを一からお勉強し直しましょうか。ダメですね。ダメです。」
『なんで?!?!?!?』
「サワアさんに同じことして差し上げて下さい。恐らく即私の言いたいことが分かってくれることですから。」
「…あーーーーーーー」
『待って待って待って待って』
駄目ですね。
でしょう?無理ですよね?
ええ、というか
「貴方何時からこんな状態で?」
『子供生み出してくらいか?』
「私が注いだ気が関係しているでしょうね。」
「「お父様??????」」
「怒られる権利等ありませんよ。その子の母体を維持させる為のものです。」
それに都結だけの力で育てると強い子供はまず出てこない。そりゃあ人間を、というなら話は別だが、余り良いことはないだろう。何も出来ない子を、というわけではない。ただ子供も都結も守れない力を、ということ自体が怖いのだ。都結も瞬間火力はあったとしても根が優しい。その為気を抜きやすいのだ。高確率で。まぁラヴィットの件は例外で。あれはまた別腹なんだろう。
『逆に聞くけどさ、そんなに強い子が欲しい?』
「単に貴方の母体が弱すぎて心配になってるだけでしょうよ。」
『そなの。』
「ま、まぁ」
『待って逆に聞いて良い?気って注いだらその子っぽくなったりする?』
「いや流石に試したことがないので分かりませんが、まぁ可能性あるんじゃないんですかね?」
『あーーーーー』
「何故コッチを向く。何故。」
そうジトリ見るコルンに、都結は笑った。成程、ラヴィットがコルンに似たのも道理が付いた気がする。子がいる時は決まってコルンが面倒を見てくれていた時期なのだ。確かに次の子はサワアの処に面倒を見て貰っていたこともあった。恐らく単体で、となったらば、だ。ルカに関しては確かその時期モヒイトに世話へなっていた。
とは言っても元が大神官なので誰かしらに偏るのは仕方がないことではある。が、だ。確かに都結の感覚と大神官どちらかってなる子は…いや。
『案外あの子だけだったりしてなあ』
今此処には居ない白い髪の子を思い起こす。
皆が何かを話している間、都結はちらりと見た花に笑みが零れた。
其処にはアストランティアが咲き誇っていた。