ねぇ、ルーシー。私を知っていますか?3



「アイティ」
「知ってる?アイティって日本語では「母」って意味なの。でも彼女が言ったのは違う。あの子はお母さんに会いたいって言ったの。貴方は会いたいの?って聞いた。だから会いたいって答えた。」
「…知っている。コルンから事情を聞いた。」
「私がどうして守っていたか。それはこの子が押しつぶされる未来が見えたから。分けてはいけなかった。」
「…すまん。」

それはこっちのセリフ。

「ごめんね都結。守れなくて。」

いいよ、大丈夫。そう言って声が出る。かすれても声が出た、ゆっくりと目を醒ました。時刻は夜だ。もう日付が変わる真夜中に、青い目がアイティを見つめた。赤い瞳のアイティを見る。

『だってここにいるもの』


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「一先ず無事でよかった…本当に、本当に良かった。」
『すみません解剖してもらって』
「それを言うなら介抱ね。お姉さんそれ本当だったら肉体無くて身体透けてるから。」
『わぁ〜〜〜〜おスリルまんて〜ん』
「はいはい」

何時もこんな感じで?そう言ったコルンにほぼほぼそうとため息交じりにアイティは応える。

『今いつ?』
「もう私達が分離してから三か月くらい経ってる処。」
「我々は数か月程ずつ消えていました。実質貴方と暮らした時程です。…遅れましたが」

その節は大変お世話になりました。
嗚呼いやいや

『構いませんよあれ程当然のことです。』
「いえ、私も苛立って貴方に手を上げようとした身。もうこき使って頂いて構いません。何でしたら手足となる覚悟を」
『いいいい、いいいい!!』
「でしたらお望みを。何でも差し上げましょう。」
『それは、』
「…ほら、思ってたこと言ったら?きっと叶えてくれるよ。」
『…いいよ、大丈夫。何一つ、とて、いらなっ』
「…そうですか」

涙を流して、胸を抑え蹲る。本当は会いたいだろう。死にたくなる程に、喉から手が出る程に、欲しい筈だ。だが、彼女は知っている。大神官様の状態を知っているからこそ、会わないいや、会いたくなんてない。此方は心が読める。対してこっちは読めないままだし、人間であるには変わらない。

本当に大神官様共々、この子には世話になった。だから何処の天使だってアイティではない、都結さん。貴方の味方になるのです。

「これだけは覚えて置いて下さい。私達天使はアイティさんではない都結さん。貴方に救われたのです。貴方の心に、手に触れられ、我々は生き延びることが出来た。あのような境地で、よくぞいままで生き延びることが出来た。本当に心から尊敬します。」
『そんなことない、です。私何一つも出来なくて。』
「でも社会に生き残ったからこその知恵や人の手を取れる。きっと従妹の彼女等も喜んでくれることでしょう。置手紙もしてきたのでしょう?サワアさんからは事情を聞いています。よくぞ生き残りましたね。偉いですよ。本当に。」
『…ええ』

よくやった、そう頭を撫でてやれば、嬉しそうに笑いはする。でも、目は泣いている。ずっとずーっと、泣いたままだ。輝かしく笑った目はしない。マルカリータさんが見ていたらしいが、あれは酷かったと言っていた。あんなもの見ない方がずっとマシだというくらいには。大神官様が帰って来た時の時が良く分かったと。寧ろあれで済んで本当に凄いという始末だ。

涙も流さず気の一つで終わらせたあの人が素晴らしい。天使の鑑だという。ただ、伝わった言葉は忘れられない。彼女に触れ、そのノートを読み解いてしまえば、もう何も言うことはない。


大神官様はこの子を愛していた。心の底から愛して、そして居なくなってこの子は望んだ。その前にたった一日だけならば、愛する時間が取れた。その日は生憎の雨で。それ以降二人がきちんと出会う日は未だ訪れていない。

「さ、食事にしましょう。粥を持ってまいります。あ、言っておきますが要らないは無しですよ?此処では我々の管轄。食事をあれ程抜けると思わないように。」
「都結」

そう言った彼女に顔を向けた。嬉しそうに笑って、栞を見せる。コレを見せたら思い出すかもしれないという。なんだったら持っていたらどうしようと言えば、都結はどうしようと考え言う。

『…もしもあったら、言おうかな。また、約束をするの。』
「…それは、」
『なかったら、きっと私を要らな「それはない」コルン様?』
「それは、ありません。間違いない。私が断言致します。命に代えてもいい。」
『そんなに?!』
「ええそれ程です。…我々はいえ、少なくとも私は未だかつて一度も見たことがなかった。」


貴方が記録していたお父様の姿を。本人だと思いたくなかった程に別人でした。あの人は確かに貴方の傍では「人」で在れたのです。

「我々天使は中立から背けば消滅する。貴方が一番よく分かっていた筈。ですから、貴方も中立から外れる場合、対処することは一つ。」
『記憶を消す』
「ええおっしゃる通り。ですがそれだと少々おかしいことがあります。」
「何?」
「もしそうでしたらお父様は態々宇宙にそれも貴方の前に出向く訳がない。アイティさんと言えどもです。」

そう言う方ですからね。あのお方は。

「ですが目の前に来た。……きっと何かしらで封じているのでしょう、それに引き寄せられ、確認したくて貴方に会った。」
「でもあの人は」
「ええ、ですが何もしていないという訳ではないでしょう。見守ってくれている筈。」
『…つまりお風呂も?!』
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

貴方ねぇ、人がシリアスに浸っているというのに
ひぇものほんこるんさまがおこった
誰が偽物ですか。叩き落とされたいのですか。
わぁものほんもいった。

「全くもう…ま、それ程元気があればよろしい。ですが身体はそう行きませんからね。」

後で大神官様もお見えになります。今後の方針を決めるとか。

そう言った彼に、暫く考える。そうか、やっぱり

『忘れたんだね。良かった。』

人で無くなってくれた。天使に戻ってくれたのだ。やっぱり素晴らしい人だ。でもどうして止めたのだろう?封じたってことは、私と同じことをしたということだろう。私も結構漏らしてしまったし。嗚呼クソの話じゃないよ?え?汚い?いや〜それほどでも〜褒めてないって?煩い煩い!しってるやーい!!

「都結」
『ん?大丈夫だよ!もう沢山寝たからいいの。それよりこの世界に悟空いるかな〜?見て見たいなじぶつぶ!あれ?ぶつぶつ?ふぶつぶ?』
「無理しなくて良い。此処にはお薬もない。多分天使か何かの作用で何とかするしかない。」
『ええ?大丈夫だよ!お薬飲まなくたって何処も痛くないよ!ほら辛くも苦しくもな〜んもない!』
「無理しないで。私は其処に戻れない。幾ら頑張ったって貴方の元に入れない。本当に分断された。」

私は生きれない。貴方を守れない。そう言った彼女に、じゃあ守ってあげるという。違う、貴方は生きれない。

「分かっているでしょう?この世界は声が通じる。心が通じるの。貴方の隠すことはバレる。あの場所には帰れない。」
『帰れるよ』
「それは夢幻。貴方が望んでる場所ではない…ねぇ、聞いて大事なことなの。」
『あ、ちょうちょ!』
「ちょっ、都結!!!」

青い蝶々だ。彼もワクワクしてみてくれた。浅葱色に近い子。走って追いかけて居たら、こけちゃいますよと声を掛けられて本当にこけそうになった。危ないと言って胸元を抑え起こしてくれた。

『わ』
「ごきげんよう、少々早いですが着ちゃいました。お身体は如何ですか?」
『ん〜〜〜』
「分からない、ですか。ですが時期に慣れることでしょう。貴方には大変子供達が世話になったと聞いています。何が欲しいですか?此処には誰も居ませんから、今でしたら」
『なら』
「ん?」

それなら、それなら?

『…なにも、いらないよ?』
「何処か痛みますか?胸?」
『胸は時々痛くなるの。』
「何か持病でも?治して差し上げましょうか?」
『治るならいいのにね?』

そしたらきっと、きっと辛くなんて何一つなくなるだろう。貴方が望んだならば。私はそれに従う。でも、これが良い。私はこれを抱いて居たい。

『でも、治したくない。私の力で、治してやりたいううん、抱きしめていつか大丈夫って言える日が来るようにするの。』
「…頑張り屋さんなんですね。分かりました、私は手出ししないように致しましょう。」
『なにも、いらない…いらないよ。』
「都結さん…」
『違う、私そんな名前じゃない。』

思い出してしまう。伝わらないで。貴方が笑っていた姿を、思い出したくない。貴方の責に枷になりたくなんてない。会ったら駄目だ早くきて。お願い、誰か、誰か来て。


早く来ないと、この人が取り戻してしまう。折角うまくいったこの世界が私の形ひとつでなんて私は耐えれない。私の名前を呼ばないで。

「これは」
『っだめ!!』
「…何故ですか?私は貴方と会ったことがあるようです。私は知らない。貴方が付けた術ですか?」
『え?』
「時々貴方の影が出る。私に一体何をしたのでしょう?」
『それは、』

どうしようか。此処で嘘を吐くか?だがそれでは彼の為にならない。そうだこれは

『ゲームをしましょ!』
「…げぇむ、ですか?」
『あ゛や、別にすいません子供じゃあるまいし』
「…いえ、提案してくれたものです。ダメもとでお話下さい。」
『…怒りません?』
「はい」

そう、か。なら。

『貴方は今日から私の心を読まないで下さい。』
「今日からですか?何故?」
『貴方が単に知るだけでは私のメリットがない。私は心が読めませんし読むつもりはありません。互いの距離を保つものです。そして貴方が私の心を当てたら一ポイントシールを貼ります。全部埋まったら好きな質問をして下さい。私は出来る限り真実をお答えします。』
「ほぉ?この私に勝負を挑むと…っくくくく、面白いことを考えますね?」

ーこの私に勝てると?貴方も随分と

『…えぇ、きっと私が勝ちますよ!』

「それは楽しみですね。良いでしょう、良い暇つぶしになりましょうね。ですが頻繁に貴方にお会いする、という訳にはいきません。まぁゆくゆくは会える機会は増えるでしょうが。」
『え?それはどういう』
「嗚呼此方にいらしたのですか、探しましたよお父様って都結さん?貴方何故此処に。靴はどうしたのですか?」
『嗚呼そういや忘れてた』
「忘れてた!?…まさか貴方ベットから直接窓枠を越えて行ったんじゃないでしょうねぇ……?????」
『びゃい』

ふふ、すいません、引き留めていたので。
嗚呼そう、だったのですか…いや駄目でしょう。なにしてるんですか。病人ですよ。
すみません。

「部屋は?」
「ご用意しています。此方へ。」

貴方も来なさい。罰を受けて貰います。

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そう言われての罰ゲームというのはだ。ヘレス様からあーん貰ってます。これ普通に役得では。でも思った、人が多い。嗚呼はずい。まじではずい。手を伸ばせばひょいと上に横に移動するし、取れたと思ったら上からサワアの手が伸びて来てスプーンを取られてしまう。ああああああ私のスプーン!!!!!!

「罰ゲームですよ。それより私が口に持って言ってもいいんですよ?容赦なく入れますが。」
『死ぬ!しぬて親方!』
「これ煩いですよ其処!!!!」
『びゃいすいばでん!!!』

うう。

「全く」
「構いませんよ。では、彼女等の話ですが先日向こう側の神々とお話しまして単刀直入に申し上げまして”その子は其方に置いて貰う話”だったとのことです。」
「どういうことですか?」
「そもそも此方側の人間だったらしく、話によりますと此方の環境が悪かった余り、向こう側の神々が可哀想に思い、先代の神々と提携した一族の子だったようです。」

朝と夕方に紫の目。昼間は赤く、夜は青い瞳を灯す。昼夜が逆でも同じ色を変える子。髪色は決まって白か黒色の双子が血族の証だそうです。特に女の子は血が濃く、力も強くなりやすいと聞いています。

「幾つか特殊能力がありまして、一番厄介なのは回復操作が可能な子だそうです。」
「回復?」
「寿命すらも回復する者らしく、神々が危険視してみていた者らしいです。」
「嗚呼それはまずいですねぇ」
「記憶操作やその他の操作も回復する行為であれば全般可能ですが、気を扱うので」
「此方に入ると尚厄介、ですか。」

まぁ此方の手を煩わすことのないという意味もあったらしいですがね。詳細は省きます。

「他にも戦闘特化の子も居ます。其方は浮遊やら戦闘力の長けた活発な動きをすることでしょう。互いに守り合うのでどちらかは何方かの血を引くと聞いています。流石にこの子らを野放しする訳にもいきません。」
「最悪時間操作などに手を出すと?」
「無意識でも厄介ですからね。彼女らが良ければ神々の何かサポートでも任せようと考えています。何も異議が無ければ進めます。」

そう言ったのであのと手を上げた。

『消滅は駄目なんですか?』
「都結さん!」
「いけません」
『何故?手っ取り早いではないですかね。だって記憶操作されたら困るでしょう?』
「確かによろしくありませんが、だからと言って何もしていない人間を神々が制するのはよろしくない。」
『嗚呼〜あれか、悪いことしてない人間を捕まえない警察と一緒か。』
「まぁ同じですね。」

原理としては。そう言ったコルンに、続けて大神官が答える。

「それに曲がりなりにも貴方は天使を助けてくれた言わば恩人です。アイティさんと一緒に、だとしても。貴方も同じ様に扱った。貴方が否定しても彼等はどうでしょう?」
「彼女は我々に平等で接してくれました。出来ることはさせて頂き、全てを助けたわけではない。」
「実に有意義な時間でした。彼女が居なければ今頃この場所に戻ってすぐに業務に復帰なんてとてもじゃありませんが不可能でした。」
『いや私はそんなことしてな』
「してましたよ〜?アイティさんは白髪対して貴方は黒髪。少なくとも貴方がくれた言葉はこの世で聞いた何よりもお優しい言葉でした。」

そう言ったのはサワアだ。それに頷く者も多い。ほぼと言って良い。いや全員か。

「私達は貴方がくれたものを返すだけのこと。それに戻れないとあれば此方で業務を司るのは当然でしょう?貴方もお仕事を持たないと気が済まない子ですよね?あれ程一年間休むと言っておいて半年だけで復帰してなんてマルカリータさんらが知ったらどうおもうか。」
『うぐっ』
「都結様??????」
『あびゃ、さ、サワアさん〜〜〜!!そりゃないよ〜内緒っていったのに!!!!』
「っくくくく、いずれ知れるものです。早い方が楽ですよ?」
『うみゃ〜〜〜』
「このように彼女は放置すれば無理してでも仕事を探して倒れるまでしますし、どうでしょう?此処はそれなりの業務を敢えて与えては。」

確かに無理に籠へ入れ、先程みたいに何処かへ行かれたら困る。それならば適度な時間に適度なことを任せていたらいいだろう。

「何を仕事にしていたのじゃ」
『えっと〜あれなんていう?機械製造?そもそも製造って分かりますかね。』
「分かりますよ。精密機器の組み立てですね。物自体を作るというよりも組み合わせるのに長けています。正確にはアイディア面が強いですから…」
「界王神とかは出来ないのか。」
「あれはそもそも気を使いますし、不可能に近いかと。もう少し気の使わない何か」
『あの大神官様。』
「なんです?此方迄来て。」
『こう、あれパソコンって嗚呼分からないですよね、えっと』

お父様こういったものです。そう言って映像に出したウイスにそうそれと都結は応える。

『情報の整理でしたら私得意です!正確にはこういった物に打ちこんで、データ、つまり資料をこの中に保管するものです。』
「現在ですと専ら杖の資料を漁る程度ですが、彼女の知恵を使えば特定の場所から簡潔な資料を引き出すことも可能です。」
『まぁ形はちょっと色んな人の頭を使わせて貰わないと難しいですが、それが終わればこっちの出番です。』

打ち込みがしたくて小説を書いていたくらいだ。絵も然り、見たくてというよりもペンを使いたくてやっていたにすぎない。つまりは道具を長く触っていたいだけだ。

『どうせなら神々の言語ではないのも使うというのはどうでしょう?これを逆にして書いてしまうものです。』
「そのままということですか。」
『神々の言語を知る者がまさか真逆の文字を書いているなんて気づくでしょうか?』
「…成程面白い観点ですね。良いでしょう、任せても良いですね?」
『勿論です!お任せ下さい。』

そう綺麗にお辞儀をすれば、微笑んでくれる。嗚呼、その顔が見たかった。それだけがみれたらば、もういい。


もう。


嬉しそうに笑った顔が見えた。あのように口を大きくなんて、見えない。あの箱が良い。嗚呼褒美はそうだ。


『あの大神官様まだ気が早いのですがよろしいですか?』
「ええなんでしょう?」
『もしも開通して整理も終わった暁には一つお願いを叶えて貰いたいことがあります。』
「…なんでしょう。」
『(もしも叶うならば私はあの場所をなんて、この天使達が許すわけない。言い出したは良いが、どうしよう。嗚呼)』

そうだ。

『一度お食事を食べたいのです。…あっ、だめ、ですよね…?』

しまった。流石にまずいか。一応上司と部下に変わらない。そう引きさがれば構いませんよそれくらいと答えが返って来た。

「一体何をご希望になると思えば、それくらいでしたらいつでも構わない程です。では楽しみにお待ちしておりますね?」
『…!はい!!』

やったやった、自分で言えた!そうルンルンでアイティの元に帰って来た。聞いて聞いて見て見て聞いて!あのねあのね、アイティアイティ!

『一人でお約束取りつけれたの!ねぇねぇ、いい子いい子?凄い子偉い子賢い子〜!?』
「…うん、とっても。良い子になれたね?」

うん!あのね!いつかね!キャラメルシフォンケーキを食べるの!そう言えば顔が固まる。

『ダージリンティーを入れて、嗚呼出来ればはちみつティーも良いなぁ。あれなんていうんだっけ?えっと』
「そう、それはよかったね。」
「アイティさん?」
『でしょう?でも出来れば少し茶色く黄ばんだ部屋が良いの。理想の部屋を作れるようにまずは気を覚えたい!ねぇコルン様教えてくれませんか?』
「別に構いませんが…創造でしたら界王神の方がおすすめですね。気をある程度練って、ひとまず浮遊出来る程迄でしたら。それ以降は私が取り繕って差し上げましょう。」
『やた〜〜〜〜!!!!』

貴方からこうしてお願いをしてくれる日が来るとは思いませんでしたからね。
そうだっけ?

「えぇ、決まりきった願いばかりで貴方が考え貴方が望んだ願いなんて一つも聞いたことはありませんでしたよ。」
「よかったねぇ〜嬉しいでしょう?」
「勿論。やっと見てくれた、そんな気持ちですからね。」
『わぷ…えへへ。もっと撫でて〜!』
「これ以降は、出来る様になってから、ですね?」

嗚呼〜!狡いという都結。その姿を大神官は見つめていて。少し何かを感じてはそっぽをむいた。余り気を放っては委縮する。

「(それでも貴方は其処を見るんですか。貴方が望んだあの方は此処に居ない。)」

仮に大神官が記憶を取り戻して、彼が懺悔して貴方が受け入れるなんてしないでしょう。貴方は賢い子だ。常に中立に重きを置いてくれる。まさに天使の鑑。時には捨て、時には救う。悪魔みたいな人だ。

月夜の下で。誕生日の日に祝われたかったとぼやいていた。マティーヌは思い出した。

ーここにあの人が居たら良かったのに。そしたら私は何も要らなかった。

彼女が本音を言うなんてなかった。それはまさしく本音だった。大神官様のことを何より愛していたお人。私は相応しくないだから私は会ってもあの人の邪魔にならない場所を維持する。それだけの為ならなんだってする。

この首に手だってかけてやる。そう言うのだ。

「(記憶を取り戻してしまわれたらいいのに)」

そうして放置するのだ。二人きりにしてしまえば、きっと二人共喜ぶことだろう。あんな小さな箱の中にずっと、自分が過ごした時間程いたと考えたら途方もない。ノートを見てすぐに分かった。嗚呼、どれ程愛していたのか。どれ程見ていたのか。貴方のノートは分からずじまいだけれども。

その心を少し覗けばすぐにわかる。貴方は、本当に心の底から彼を


『(嗚呼良かった、あの人は私との約束を守ってくれるお人だった!きっとこの栞だって綺麗に消し去って私のことも何もかも忘れている!嗚呼これでいい!これで、これでいい。これでいいのよ私。)』
「(何一つ良くない)」
『(あの人が生きるのはこの陽だまりの中だけだ。温かな光に照らされて一緒に選んだ紅茶を淹れて一つずつ飲み合うの。そうして美味しい柔らかいシフォンケーキを食べて、それから何を話そうか。何を話したかっただろうか?嗚呼貴方を遠くから眺めながらあの日をまたこうして思い出せる日が来るとは)』

どれ程待ち侘びたことだろうか。

『(全てが完成された綺麗に貴方も纏めて生きて居る。なのに何故かな?此処は決まって涼しいのだ。まだ季節は冬の終わりですらない。一番目から外れた二番目の時間だけ。ねぇ大神官様、聞こえないでしょう?私待ってるからね。ずっとずっとこの場所から。抱きしめなくて良いからね、だってもう)』

もうすぐ死んでしまうから。

その言葉に、ばっと振り返った。マティーヌだけではない、聞いていた天使は何名かいた。

祖母が言っていたことを思い出したのだ。もしも異世界に飛んでしまったら、長くは生きれないのだと。持っても10年程度だそう。

『(でも時の流れが速いと聞いてる。確か文献によれば長くて10年だから私は精々見積もって3年くらいかな。それまでに仕事も終わるかな。終わらせて最期はケーキを頬張ってしまおう。終わらなかったらそれまでだ。天使らが全員記憶消える願いでもしてしまおうか。多分聞いたら絶対叶えさせねぇだろうなこれ。)』

当たり前である。そんなこと通用したら世界の終わりだ。

「(とんでもないものを聞いてしまいましたね)」


さて、これからどうしようか。マティーヌは今後にため息をついてしまった。










泡沫の白昼夢


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