ねぇ、ルーシー。私を知っていますか?6



『お空のお散歩』
「えぇ、此処に来て二か月と少々。身体も少し慣れて来ましたし。そろそろ頃合いかと。」

都結の行動は少々怖いが、ある意味好機。敢えて浮遊に慣らし、気を扱って止まるところを覚えさせるというものだ。衝撃を少しでも和らげ、死なないように。受け身が取れれば痛みもないまま、着地も出来ることだろう。

『でも私お空…』
「移動出来ますよ。」
『待って』
「ふふふ」
『待って怖いその笑み大体わかる。』
「おほほほほほほ」

ぽんと手を置かれた。振り返りたくない。

「腹をくくりなさい。もう決まったことです。」

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『無理無理無理無理無理無理無理無理(無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理)』
「煩いですよ〜よくもまぁ心と口両方言えますねぇ〜」
『だってサワアさん!?これは一体全体どういうことです!?お前ら鬼か悪魔か何者か!』
「その心は天使ですよ〜。」

第七でのちょっとした修行をクリアした以降、今度は第二宇宙へとやってきた。サワアは大神官の顔に一番近い。故に都結は避けていた。それをサワアは分かっていた。だからこそ、だ。大神官の気持ちを大事に持って、大神官の心を少しでも開いて貰いたい気持ちを持ったサワアらに、応えて欲しい。が、それは出来ない。都結は分かっていた、そうしたらきっと思い出すから。

思い出さなくともまた恋をされたらたまったもんじゃない。

あの日の人と違う世界なんて私は見たくもなかった。そう都結は大事にしていたのだ。記憶を封じた彼こそが、本来出会いたいお人で。思い出さないまま、新しく出会う彼もまた、大神官ではあるのだが。それはそれ、らしい。それだけでも充分過ぎる気持ちだ。それ程大神官を想ってくれる子が、このまま。だなんてこっちとしては正直大神官様に申し訳なくて顔が見せれないのだ。

覚悟を決めて貰わねばならない。

という訳で、現在空の旅に出るべく、都結を抱き上げている。所謂姫抱きだ。背中と膝裏に腕を回したサワアは態勢を整えすらりと真っすぐ立つ。都結は固まってサワアの服をぎゅっとつかんだあと皺になるといけないと思ったのか、ぱっと手を離し、パタパタと叩いて直した後、肩に腕を回すかどうかと場所を探っていて。

あんまりにも可愛らしいのでぶっと笑ってしまった。

「っくくくく、すみません。何処を触って頂いても構いませんよ。何でしたら皺になっても構いません。それくらいすぐに直せます。」
『だ』
「まぁヘレス様に抱き上げて貰っても構いませんが…そうしたら私が近くでお尋ねしますが。」

それでもよろしければ。
むい

『むいたす、たすけ、けて、けてたす、たすけ、へれすさあ〜〜〜〜うあ〜〜〜〜〜』
「ぶぶっっくくくくく、すまんなぁ、わらわはお主を助けることが出来ん。」

よしよしと頭を撫でるヘレスに、うわあああと声を上げる。顔は笑っているが、心は絶賛大号泣で。それが分かっているからこの二人は笑ってしまうのだ。本当に可愛らしいお人を見付けてきたものだ。大神官も罪な人である。まぁ大神官自ら封じたその記憶にある都結も、同じ罪な人ではあるのだが。

「傍に居てやるから大丈夫大丈夫。」
『絶対だよ?ねぇヘレス様?分かってる?私言ったよ?違う馬鹿聞いたよ?私聞いたからな?なぁその手、手、手をおい!緩めるんじゃあないよ!おいこらやめろ!ふざけんな!此畜生やめて待ってごめんお願いお願いお願いお願い待って待って待って待ってこらこらこらこらこらこらこらこら馬鹿止めろってお止めろ下さいお姉様たのんますから手を離すんじゃあないよ!!!!』
「ぶっははははははは!!!!ひっ、や、っやめ、は、はらが」
「(ほんと、面白い子ですねぇ)」

もう声にだって笑えない。口を開けて、腹で笑うしか出来ないサワアが嘆く。嗚呼、そう言う処なのだろうな。あの人が喜んだのは。きっとこうやって焦って自分だけを見てくれたから。嗚呼想像に容易い。きっと彼のことだ、調子に乗って「では離しますか」なんて言うだろう。そうしたら「ああああああなんてひど、あもうなんてあああああ」とかとち狂った様な叫びを出すだろう。そんな声を出した日には、きっと切り取られたあの小さな板の画面が、現実となる。

それが近く見られたらいいのに。

サワアは思いをはせるように、都結とヘレスが戯れる姿を見た。

「じゃが手をそうすれば倒れるじゃろう?」
『サワアさんが何とかしてくれる』
「其処は人頼みなんですか。どういう神経してるんです。」
『こういうしんねん』
「それを言うならこういう神経、でしょう?全く、本当に言い間違えが多いんですねぇ。」
『あぶ』
「…ま、今迄出ていなかったのが一番の原因です。これに懲りてご自身のみで動いて下さい。」

言っておきますが、クロアさんやクロノアさんらと交代していることこっちは認知済みですからね?貴方自らでないと我々は話してやりません。分かってるでしょう?そう言うが、本当にそうで。最近彼女は別人格を引っ張り出し、話をしてくる。本当に操り人形だ。完璧な程に分からないくらい綺麗に動かしてくる、がこっちもこっち。伊達に数億年天使ガイドを務めていない。それくらいの欺きなんてお茶の子さいさいである。

ちょっとでも絡めば無視をする。本当に聞いてやらない。そしたら困った声で名前を呼ぶので、その時に答えを返す。最近はそれで精神を維持させようとしている最中だ。

「貴方だけでも生きていけます。と言いますか、その為の訓練ですよ?これで逃げたら我々の努力も水の泡です。」
『あい…ごめんね?』
「いえいえ。では少し浮遊しますね。」
「…別に痛くはないが、其処迄ぎゅっとしなくとも。」

ぎゅっと目を瞑り、サワアに身体をピッタリ寄せ、片方の手はヘレスの手を握り締めていた。左手でヘレスの手を。右手でサワアの身体にしがみついている。今何処今何処と言う答えに、大体五センチ程度かと、なんて応える。マジで?浮いてる?浮いてる?

「ご自身の目で確かめて下さい。」
『…待って見えない。』
「もう少しこっちへ来い。下が見えるぞ。」
「ご安心をきちんと持っていますし、万が一落ちてもヘレス様が受け止めて下さいますよ。」
「その為にもおるんじゃからなぁ?」
「…貴方の場合弄べる玩具が見つかった、の方が一番でしょうが。」
「違うわ」

そう言うが心は正直だ。ぎくっとバレたみたいな表情をして、一体何を言うんだか。はぁとため息を吐いて都結をみた。都結は下をむいて、わあと声を吐いた。


『浮いてる私、浮いてる?』
「えぇもう少し上がりますね。」
『わわ!浮いてるヘレス様もわ〜〜〜〜!!!!』
「っくくくく、愛らしいの〜これくらいで喜ぶとは、宇宙を廻らせたら一体どうなるか。」
『え、あでもキラキラしないのでは。』
「近くまで行けば太陽系等の熱を放出する場所で在れば見れますよ。肉眼でも近くまでお連れ出来ます。」
『えっ宇宙旅行出来る…!?』
「貴方が望めば」

それくらいお茶の子さいさいだ。本当に出来るというか、馬鹿にしてるのか。とでも言えるほどだ。演奏者ならば「楽譜読める?」って聞かれている様なものだ。それくらい出来ねばどう演奏するというのか。同じようなもの、これくらい移動出来なければ、どうするというのだ。そもそも浮遊出来なければ宇宙旅行どころか、闘うことすら碌に出来ない。まぁ出来なくもないが、戦術がかなり限られてしまうというものではあるが…まぁ其処ら辺はどうでもいい。

「これで大体三メートル程度です。どうです?初めて旅客機以外での見下ろすご感想は。」
『すごい、サワアすごい。』
「っふふ、それは良かったですね。」
「わらわは?」
『勿論凄い。ヘレス凄い。』
「っくくく、そうかそうか。」

きゃ〜と言って笑う。肩を上げて、照れくさそうに笑ってくれる。黒い眼はキラキラと光っているようにも見えた。奥がちらりと青く光る。まだ昼間だ。恐らくだが、都結は隠している。大神官の心が開いた時の為に。その眼も隠しているのだろう。昼間は青く、夜は赤く光る眼を。アイティとは、真逆とも言えるだろう。彼女も変えていた。きっと、都結が昼間は青。アイティは逆で赤。夜は互いに逆だ。都結が赤でアイティが青色の瞳。

そして朝と夕方だけ、互いに同じ色になる。血が繋がっていると、言う証拠を示す様に。互いに同じ色を灯すのだ。まさに二人で一つ。戦闘と回復を持った二つの力が一つとして人間が培った軌跡とも言える種族の末裔だ。この子達以外、もう純潔は居ない。遥か昔に途絶え、今は派生が出ているくらいだ。

昔は良い子達ばかりだった。彼女達の様に互いを想い、互いに周りを見渡し歩く。男女の組み合わせもあったし、双子で無い子もいた。だが、決まって一人ではなかったし、一人だとしても何処かの一人と必ずくっつくようになっていた。相棒というものだ。背中を預け戦う。

それは破壊神と界王神が本来位置するであろう協力関係の象徴その者だった。

綺麗な形。神々にも礼儀を通す。心はそうでも身体が合っていないことが多かったが。それでもその心はとても綺麗だった。ある日を境に、世界は変わる。分かった者らが侵略し、彼女らを捕まえて行ったのだ。奴隷の様に使い、その奴隷の一人を、飛んで来てしまった神々が見つけた。

その者こそが、彼女の祖母である、神野澄糸さん、というお人だった。

正確にはもっと上だろうが、8歳の時に移動したらば、可能性が非常に高い。神隠しという意味で見つけたとでも出来るし、神々のことだから其処から8を刻んで此方に移動する、所謂魚が呼吸する為だけに顔を出してくるのと同じことだ。此方に生きていた人間なんだから、こっちの気に一時的に触れた方が良い。というか、しないと生きれない。

では何故向こうで生きれたか。それは簡単なこと。向こうで呼吸という絆、即ち家族を持ったからだ。気は其処に定着すれば巡り続ける。恐らく祖母も母も、ある一定の年齢になって子を孕んだだろう。時間に伴い…そう例えば三回も繰り返した24歳の時に、なんてね。流石に其処迄ぴったりだとゾワリとするが。まぁ良いだろう。


『ねぇ待ってえ、待って怖い。へえらさあ?』
「わらわはそんな名前してないぞ」
『ああはあだかsだうだkk』
「言えてない言えてない」


奴隷の様に扱われたことを知り、酷く怒った神々は人を連れた。それは問題だったが、此方の神々も許したのは、何もメリットを考えない訳でもない。向こう側で生きて居れば保険が出来る。そう、こういった、世代を超えた時に、また戻って来ることが出来るというものだ。

回復を携える者はどんな者も回復をした。削られたものをもう一度取り戻す。道しるべを付けるだけだ。まさしくガイド、天使にも相応しい人だ。力を渡すのではなく、指し示すのだ。動力の歯車を動かすきっかけを出すだけ。背中を押すだけだ。それが出来るのはその道に居る者のみだ。

この子は使いようによっては、神をも超える人になる。

大神官は間違いなくそう思ったに違いない。だから、手をすぐに出すことはなかった。…が、その日だけを望んだ、か。一日だけ、その一瞬では耐え切れなくて。一日に伸ばしたのがいけなかった。全ての原因でもあるか。いやそもそももっと前から。


「(嗚呼そうか貴方は最初から)」


あの日からこの子を見つけてくれていたのですか。この子が貴方を見つけた日から。あの二つしか生きて居ない幼子が。芽生えたのは貴方を見つけたから。ソレを伝えたら、この愛を知る神はどれ程の喜びに打ちひしがれてしまうことだろうか?下手したら倒れかねない。流石に面倒なので口が裂けても言うものではないが。でも、誰かに自慢したくもなってくる。こんなに可愛げがある子を自分が知った幸福は。

「(貴方が私を見た時覚えていますか?)」

酷く優しかった。まるで誰かが帰って来たかのように言う。おかえり、なんて肩を降ろして言うのだ。初めましてなのに。事情を説明を聞いて、こっちも最後だったので分かったが。彼女からして五番目、いや四番目くらいに長い時間を過ごしたし、なんならクリスマスとやらと正月とやらを経験した。

もっと言えばドイツに居た従妹も入ってどんちゃん騒ぎをした。後で近所の人に叱られたのも、今ではいい思い出だ。

あの死んだ目で見つけた時は、どうしようかと思った。母親としった私の気持ちを分かりますか?都結さん。貴方の精神を崩壊させた人。貴方を捨てた人。貴方を、この生き残りを分かった上で切り離した人。24の年になって子を孕まねば生き続けられなかったのに。精神を未熟にしたばかりに、長く生きれなくなった。ソレをしって、私がどんな気持ちだったか。

あの人が泣いた。貴方を想って、自ら自分の感情を封じた。

その事実は今あるのです。現に彼は記憶を封じている。時々出てきますが、かなり甘かったようですね。それか貴方のことを待ちわびていた幸福に打ちひしがれ、中から強く打ち込むあまり、隙間から出て来たのか。いずれにせよ、貴方と触れ合ったからこそなんですよ。

私は嬉しいのです。ヘレス様とあれ程仲良かったのに、あんなにも恐ろしそうに逃げ回り、泣き続けていた子が。今はこうして手を取って笑ってくれている。その時間を忘れていていい。二人共、気付かなくて良い。私だけが知っている。それでいいのですよ。こんな喜ばしいことはこの上ない限りです。

「都結さん」

そう言えば振り向いてくれる。水の様に透明で清らかなお人。あのお人が、待ち望み、泣いた感情をその身に封じただろう、その中身の記憶その者、本人が。今此処に。この腕で抱き上げている。大事にしていた子が、この腕にいる。あんなに泣いてばかりだったのに。今は今では今はもう今は


晴れやかな晴天の中だ。


「どうですか?上空100メートル地点です」
『高い綺麗だね』
「ええ」
『とても広くて、キラキラしてる。綺麗。うん、綺麗!ヘレス様いいね、綺麗なお星に住んでる!』
「嗚呼、いいじゃろう?別に此処に永住して貰っても構わんぞ?お主なら大歓迎じゃ。」
「ヘレス様〜〜〜」
「別にいいじゃろう。」
『でもやだな』
「へ?」

私は帰りたい場所があるの。そう、決まって言う。

『私はあの場所に帰りたい。うん、私ね、私が帰りたいって思える場所、あるの。』

決めた。覚悟を、決められた。サワアは頭を少し彼女の腹元に視線を落とした。






『私ね!分かったの!やっぱり私はあの陽だまりがいい!』






嗚呼、それでも、其処にはあの方は何処にも






『だからごめんね?また遊びに来てもいい?』
「…嗚呼勿論。今度は一緒に空を飛ぼう。」
『いっしょに?』
「ああ、いっしょに。」
『うん』


風が吹いた。黒髪が撫で上げる。髪が隠れて見えないが、きっと笑っている。きっと、そう、きっと。






まだ紅茶は温かいですよ、お父様。
































貴方の帰りをこの子は今も尚まち







泡沫の白昼夢


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