ねぇ、ルーシー。私を知っていますか?9
「休暇届け、ですか。」
「えぇ、大分忙しい処も抜けましたし、彼女には大変世話になっています。丁度良い惑星を見つけましたし、羽根伸ばしに天使らで休日を頂きたいと思いまして。」
「でしたら構いませんよ。」
貴方達に何か褒美を、とも思っていましたし。そう言って捌ける大神官。恐らく都結に取り繕っているのだろう。すぐに戻って来て、許可を貰えた。彼女がこの世界に来てから、もうすぐで一年が経過する。
一月、それは彼女が彼と初めて会った日だった。
その日彼女は出かける。まるで交代だ。
『わ〜〜〜〜〜!!!!』
「綺麗でしょう?」
そうして連れて来た処は、第8宇宙のとある惑星、名前は惑星”ゼーゲル”正確には南の29648の緑の3872惑星というなんとも長ったらしい名前だが、そんなの彼女に必要ない情報である。流石に天使全員で、は許可が下りなかったし、そりゃそうなので、今回は四名程で遊びに来ていた。
コルンを筆頭に、サワアやウイス、そしてモヒイトが来ていた。
「それにしてもサワアさん、良く来れましたね?」
「ヘレス様には”女子会”とやらがあるからなぁ。とニヤニヤされて言われちゃいましてね。」
「嗚呼先日お伝えした件をもうお知りに。」
「何処で聞いたか知らないんですけどね〜」
「何処かに盗聴器でも忍ばせてませんよね?」
「止めて下さいよそんなことするわけがないでしょう。」
そう嫌な顔をして話をするサワアを他所に、ウイスの手を掴みきょろきょろと辺りを見渡す都結。目の色は黒くて、まさしく彼女その者だった。あんなに色を変えていたのに、一瞬で変わった。初めての世界は流石に本人が見るしかないのだろう。楽しいですか?とモヒイトが声を掛けたらうんと答えて笑う。
『ありがとうございます、モヒイトさん!』
誘ってくれて!
そう笑った彼女に、いえいえと答える。その笑顔が見たかったものだ。お釣りが貰える程の喜びに、視線が少々痛々しいが気にしない方向にしなければ。彼女にバレてしまう。嗚呼一応言っておくが、女子会にはクスやマルカリータらも参加する。ヴァドスが何も言わなかったのはこういう事か、とウイスは思った。普通に他に予定があったからだろう。
この感じ、他の者も他に予定を入れているな?と思ったがそれ以上模索なんて野暮なものだ。二泊三日でまさか本当に休暇を取れるとは思わなかったが。余り長くは取れなかった。特に四泊五日なんて長い休暇は
ー長く居座ると忘れちゃいますよ。
「(それは貴方が過ごした時間だから?)」
三泊五日それが二人の過ごした時間。それに近い時間を入れるつもりは更々ないが、まさか記憶の無い彼に忠告されるとは。本当にゾッコンと言うか、これ、このままの方が良いかもしれないと思い出してきたくらいだ。記憶が戻ったら多分だが、結構嫉妬深い気がする。まぁそれでも彼女が振り向けばすぐに落ち着くことだろうが。その時はその時の、か。羨ましいという意味でも良いかもしれない。
だってこんなにも今はそんな日が遠く離れて
『ねぇねぇ、ウイスさんウイスさん見て見て聞いて!』
「はいはい、なんですか?」
『リスさん!』
リスさんいるよリスさん〜!きゃ〜〜!こにちわリスさん!
ああこれ、そう動植物に勝手に触れないで下さい。
『ええ?でも可愛いね?あれ、怪我してるの?どうして来たの』
「みい」
『ほぉらなんともない。』
嗚呼、とんでもない子を見つけた。
目を細め、青く光った瞬間だった。リスの怪我が消えたのだ。まるで見間違いかのように、回復を入れた。それは、初めて都結自身で力を使った瞬間だった。もう、其処迄回復していたのか。いや、止めていた。この時間を、また動かせるように、時々動かしていたのだろう。身体が訛らないようにベットで身体を伸ばす様なものと同じだ。
今起き上がる準備をしている。
『ほら、ウイスさんみてみて可愛い!写真撮ってサワアさん!!』
「いきますよ〜」
はい、ちーず。
そう言って笑って止めた身体も動く。ある日突然カメラを作って撮影していたのを目撃した。それを額縁に飾るつもりだろうか?部屋の中で?その場所を止める為に?本格的に動き出したとでも言うのだろうか?それなら、この場に居る天使らが黙っていないのに、この子は言わない。見向きもしない。
前を向いたふりばかりが上手くて仕方がない。
『はいどうぞリスさん。』
「なんでしたらソレ、リスじゃなかったんですけどね。」
「野暮、というものですよコルンさん。」
「旅館は何方です?」
「このまま歩いて三キロほどです。」
飛んで行った方が良かったのでは?
そうしたいのも山々だったんですがね
「ここら辺から飛行が出来ないエリアなんですよ。」
「おや本当ですね。」
『私飛べる私飛べるけど????』
「貴方の場合身長差ですね。体格と身長で子供サイズに判定が入っているんでしょう。」
『むう』
まるでジェットコースターである。乗れない代わりに空飛べるようにしたって?ふざけないで欲しいものだ。ぷんぷんと怒った都結に、クスクスと笑えば、叩かれる。痛い痛い、痛いですって!なんてサワアが言えばケタケタと笑いだす。最近は仲良くなったらしく、よくサワアの傍から離れない。まぁヘレスを見つけたら肩に顎を乗せて目を閉じるが。其処は休憩場所じゃないですよ?言っておきますがその方破壊神ですからね?
なんて突っ込みを入れた記憶も新しい。本当に時々ではあるが、都結として目を戻すことも稀にある。それこそヘレスの肩に顎を乗せた時だけ、都結の目はその黒を染め上げた。キラキラとした宝石の様に。みてみて、と言いたそうに。それは、サワアではない、彼だろうに。一番に見ているのはその先でも、サワアはそれでもよかった。
少しでも長く貴方が生きていけるきっかけに、私が協力できるのであれば。私はどんな形で受け取られても構わないのですよ。
「それに植物の勉強にっ、なりますからねぇ?言ってる傍から触れないんですよ。阿呆。」
『びゃう』
「っふふふふ、本当に興味本位で動きますよねぇ〜!」
『だって、楽しくて…』
あれ、たのしい?これ、たのしい、ちがうかな、
いえいえ、合っていると思いますよ?
「嬉しそうにされていますから。それはきっと、楽しいで間違いないですよ。」
『…そっか!じゃあ楽しいだ!』
「ええ」
そうして繋いで、その先は貴方が
ザザッと音がして、世界が変わる。
「っ!?!?」
急に窮屈な処に飛ばされた。いつの間にか都結が居ない。手を見て周りを見渡したその場所に、止まった。
「っあ」
湯気の出る紅茶、綺麗に置いた隣には白いお皿の中に茶色いキャラメルがついたシフォンケーキがのっていた。中央にはまだ食べきれないシフォンケーキと、はちみつの小瓶も置かれていた。足まで伸びた窓ガラスの左右には紺色のカーテンが白い布と共に風で宙に少し浮かぶ。扉が開いて居た。
嬉しそうな声が聞こえる。喉で鳴る音が不定期に聞こえて来た。耳に残る。嫌になる程残していく。消えて欲しい、こんなの覚えたくなんてない。なのに目なんて背けれないし、その声をずっと聴いて居たくなった。そのやけに広く空いた場所は、埋め尽くされていた。均等に、まるでその場所を空ける為だけにとも言える程に。
口を開いた。黒髪の女性が、髪の毛を後ろに追いやって何かを言っている。髪が伸びたの?貴方に編んでもらう髪を誰かにやると?その為に伸ばしていたのを、切り落とすのだと。それに反対側に居たお人は良いですねと答える。髪を寄付するのだそう。貴方があれば坊主になっちゃうねと言って笑うのだ。なんて酷いことを言うんだろうかこの小娘は。でも、笑う。いや、だからこそ、笑う。口を大きく開けて、その黒と白い糸が風で吹き飛んだ。
嗚呼
「(白昼夢を見せないで下さい)」
こんなの狡い
雲の隙間から一つ光が差し込んだ。髪を耳に引っ掛けて笑う女性に、笑いながらも紅茶を楽しみ、フォークで刺した茶色のシフォンケーキを食べ出す男性。片方にしかフォークがない。片方にしかスプーンはない。彼女は使わない証拠なのだろう、現に直接掴んで食らいつくした。小さな口に目一杯のシフォンケーキを入れるもんだから、入りきらないのも当然で。
ぶはっ、なにしてんですか。も〜まったく、なんて言って笑う、笑っている、そうだ、笑っているのだ。口について、ボロボロと落とせば、わあ〜なんてとぼけた声を伸ばしだす。そんなに急いでも無くなりませんからという彼に、全部食べちゃうよと言うが、構いませんと返される。嗚呼、貴方はこの時間を、どれ程大事に、その身の奥底に。
おいしい?そう聞けば、ええ、とっても。なんて応えるものだから、目をキラキラとさせたあと、ぼろりと涙を零し彼女は言った。
よかった!
嗚呼、貴方はその言葉を忘れたくなくて何度も”よかった”と安堵を繰り返し覚え続けるのですか?
『ねぇサワア』
「っ」
『どうかしたの?悲しかった?』
「え?あ、あれ?」
すみません、アプルさん。
なに?
「それ以上浮遊しない方が良いかと。」
『なんでってわ』
「あ〜目に入りましたね。皆さん大丈夫です?」
「全滅ですよ駄目です。」
かいちゃだめだよ。そう言うが、少し拭うくらいは許して欲しい。誰だ本当に物理的に花粉を落としてきた天使は。嗚呼でも誤魔化せる。これで、貴方を欺けた。クツクツと笑った後も〜〜と笑いだす。
嗚呼、やっぱり貴方以外許さないですよ。
そんな世界を今も尚、その中心に宿し息をなさっている。それに安堵して、全員泣いたんですよ?もう、どうしてくれるんですか。本当に、その日来たら全員号泣で示しつかないですよこれ。良かった、想像以上に、その時間が、余りにもありふれていて、本当に彼も彼は、彼はきっとその時間を楽しみに待っていたのにあの日記の最後が
ーこれが終わったらシフォンケーキとやらを食べます。きっととびっきり美味しいことでしょう。
ええ、そうです、きっとそうなのです。
どうしてその日まで居て差し上げられなかったのですか。早く帰って来て欲しかったですが、そんな中途半端になんてして欲しくなかった。寧ろこの日を遂げてから貴方は帰ってくるべきだったのに、貴方はその日を嗚呼、恩恵を貴方は
「(貴方の気がこの子と一致したから見せた、まるで)」
”大丈夫ですよ、私達は何時までもこの時間を覚えています”
なんて言うんだろうか?だから何一つ心配なんてしなくていいと?ふざけないでほしい。こっちの身にもなって欲しい。貴方は時々振り返る、まるで誰かがついていたのを気にするかのように前も遠くを見る。ページを飛び越したり、後は文字の間違いだ。そのまま順番に書いたらいいのに、123ではなく132と書いたりする。最後が先に、なんなら最初に来たりもする。それはこの子がしていたミスを見ていたからでしょう?
今迄そんなことはなかった。一度たりともなかった。帰って来た時の顔色はまるで悪夢かと思うほど、だった。夢だろう?と言いたそうだった。そんな顔しなかったから、こっちも驚いて固まってしまっていた。逃げるように飛ばされてしまい、急いで界王神に声を掛け一目散に駆け付けたこっちの身にもなって欲しい。
見間違いだった。
貴方は今迄見た通りになっていた。
それがどれ程私らの心を傷つけたことか、貴方は知らなくて良い。見間違えじゃなくて、少しでも痕が残っていたら抱きしめてやったのに、それすら消し去った後だった。拭った手が宙を浮いて居たらよかったのに。何食わぬ顔をして、全王様を見ている顔を此方に向けた。嗚呼、どうして、遅かったのか。もっと早くこれば、助けられたのに。
「っふ」
貴方に今。無性に会いたいです、お父様。その閉じ込めた貴方に、会ってそしてこの子を引き寄せて一緒に抱きしめてやりたい。もう腕の中だけで笑っていて欲しい。あんな時間を二人が、気を分かち合った時間に、我々に見せて、そんな酷い、惨い。惨いことこの上ないです。
此処が樹木の中で良かった。
貴方の愛を私は受け入れることが出来たのだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなイレギュラー対応に追われつつも、到着したのはとある旅館だ。古い五階建ての木造で、今回は思い切って全員で宿泊出来る予約を取っていた。
「すみませんご予約していた”ドッペル”ですが。」
「ああドッペルさんですか。此方です。104号室で。」
「ありがとうございます。」
「お嬢ちゃん幾つ?可愛いわね〜」
あら、人見知りかしら?
「すみません、まだ人に慣れてなくてってこれ!」
「っふふふ、可愛らしい妹さんね。ご家族で旅行に?」
「…!…ええ、そうなんですよ〜!兄が家族水入らずでと気を利かせてくれて」
「これ」
何言うんだと言いたそうに眉間に皺を、いや眉を寄せて圧を掛ける。都結はというと、サワアの後ろから逃げ、モヒイトの後ろへと隠れた。其処が声を掛けてくれたおかみさんからもっとも遠かったし、視界から外れる位置だったからだ。流石に荷物がないとおかしい、ということで、一キロ辺りから荷物を抱えて移動していた。都結も小さなリュックを背負わせていた。浅葱色のバックに、バツ印のピンを付けて。
「可愛いわねぇ」
『ばつなの。』
「え?」
『いいでしょう?』
それは”私の罪を償う罰だ、良いだろう?”と言いたいのですか?
ねぇ、都結さん。
「お気に入りをどうしても付けたがって。無くすからやめろと言ったんですがねぇ〜」
「あらあら、可愛らしいじゃないですか〜。こんな可愛らしい妹さんですし、嫁になんて連れて行きたくないですよね」
「「そりゃあもう全くですね」」
「んぐっ」
そう言われたら笑うしかない。煩いですよなんて叩かれるのは勘弁してもらいたい。痛いですよ!なにすんですか!とコルンが言えば、叩いたウイスが笑う。
「あら不思議なこともあるものね。」
「どうされました?」
「先日枯れてしまった花が綺麗に咲いているのよ。」
「嗚呼女将さんまた其処ら辺の野花をとって植えてたんですか?」
あれは土にある栄養で凌いでる子なので、そんな鉢植えに入れたらすぐ枯れちゃいますって。そう言った店員だろうか?一つ結びの娘が言う。
「綺麗ですよね〜赤い花で確か名前は」
『カランコエ』
「え?よく知ってるわね」
『うん、好きなお花なの。ね、カランコエ。』
そう言えば、歩いている処の廊下から、中央に赤い髪の人が居た。背中をみせて、あらもう戻られたのかしらと言った女将に、違うと娘が言った。汗を垂らすのも無理はない、これは。
『ふふっ大丈夫だよ、いるよ?此処に。私は。』
”私は此処にいる”
そう言えば、綺麗に消え去った。幽霊を初めてみた!座敷童ねと言う女将に、そうではないがそう言うことにしておこう。ウイスが当たり障りのない言葉を掛けてやる中、サワアはちらりと都結を見た。青い目は、黒くなっていた。
なら貴方は何処に居るんですか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「(気の廻りが恐ろしいくらいに、良い出来が良すぎる。誰かを模倣しているとみても大差ないな、アレは。)」
カランコエを出した、それは記憶に想像していたものを具現化させた。気を使って、だ。それが恐ろしいのだ。これが出来るということは、既に都結の力は浮遊は勿論武術は完璧。自分の動きが習得できなければ人を作り移動なんてもってのほかだ。恐らく既に創造も容易く扱えることだろう。ダミーの副作用か知らないが、未だ我々天使の前ではみすぼらしい形ばかり出して来るが。
どうみてもアレは完璧だった。以前見ていた絵にそっくりの人だった。凛とした人で、ヘレス様に似たような形を作った人。身長も確か其処迄変わらなかった筈だ。これは大神官様を作り出して合瀬なんて育むこともあり得るなというか、したら終わりだろう。もう問い詰められるのは間違いないし、こっちが見て無視したら最後。
何故知っている?
というものだ。だって考えてみて欲しい。何故見て報告しない。知らなかったらこんなことしてたと言うに決まっている。特にコルンはそうだ。だが、今回コルンは居る上に、誤魔化しがこれは効かない。だって女将ら他人の証言が出来てしまったのだ。これは実に困ったことになった。まだ泣いたことが可愛らしく思えて来たくらいだ。今なら許して貰えるだろうか?罰が当たったのだろう。
カランコエ、か。…いや、
「アプルさん」
『なに?』
「先程カランコエ、という子をお見かけしましたが、あれは貴方が創りだした子、で間違いありませんね?」
「サワアさん、一体何を。」
『…そうだよ。私が、出した。』
「では彼女と会話は出来ますか?出来れば貴方は捌けて頂ければ幸いです。」
気でも狂ったのかと肩を掴めば、目を向けない。もう見入っている。彼は、彼女を見定めているのだ。
『…出来るよ。ちょっと面倒だけど、その眼に免じて。』
「有難き幸せ。」
『待ってね』
そう言って彼女は胡坐をかいていたのを起こし、中央に歩いて膝を付いた。身体を曲げ、目を閉じて言う。
『”目を閉じて耳を塞いで感情を切っとってさ?その数多を知る感情の首の根に手をかけて”』
目を閉じて、耳にも手で触れ塞ぐようにする。胸に線を斜めに切った手をそのまま首に手をかけ、勢いよく左右に引いた途端だった。直後、髪色が眼も、髪質も、全てが変化した。気も、何処となく、違う。彼女が、あの世界で生きれた証拠が、此処に生きて居る。
「”初めまして、というべきか?わらわの名前はカランコエ”」
ようこそ此方側へ。
華に見紛う、無限の世界へ。