逢いたい図案は頭の中5



「…という訳で、こういう状態なのですか。」
『”えぇすいませんね。一応この子は生きていますが、如何せん対応に難色を示しそうでして、此方の判断で今回は私がご対応を、と思いまして。”』

いえいえ、改めて天使ガイドを務めているコルンです。以後お見知りおきを。
どうもご丁寧にありがとうございます。私はエフェメラルです。

『”ヴァイス・ミア・エフェメラルその者です”』
「存じておりますよ。…お父様はお変わりなく?」
『”えぇ勿論!日々の鍛錬欠かさずに行っているかお聞きしていますが、恐らく貴方伝いではないですよ。”』
「っくくくく、其方の私もきっと同じことを言うでしょうからお伝え願えますか?”勿論だ”と。」

嗚呼言っておきましょう。そう言って笑う彼女。綺麗な青い髪色で、目の色も黒ずんでなんていない。都結は現在精神状態が
あんまりにも酷すぎる為、彼女らが活動することを昨日の夜に決定したらしい。これは確固たる意志であり、本人が望んだからこそのこと。暫くはこの状態が続くだろうが、許して欲しいと言われ、何も言うことはない。

こっちとしても彼女が守られるならば言うことはないからだ。数時間だけでも旅行をして分かったことだってある。少なくとも彼女は大神官様の隣に居て良い、なんなら相応しいお方だとコルンさえも思ったこと。慈悲深く、誰かのためにと動こうとする心は育てあげるなんて出来ない。この子自らが培った力そのものなのだ。ソレを守るとなれば是非にとも、と言えるものだ。

まさかお父様があれ程まで完璧に記憶を封じてしまっていたとは想像すらついていなかった。本格的に危険だと感じ取ったのだろう。其処迄する、ということは、中立を間違いなく守れない、と意思があったからこそ。間違いなく彼は都結のことを愛しているだろう。そうでないと記憶を封じるなんてしない筈だ。それなら記憶を抹消してもおかしくない。でも、していない。

未だ時々ではあるが、ふと手が止まることがある。書類は完璧だろうが、それでも何処か残っているわだかまりに足が止まりやすいのは間違いない。動きはするだろうが、それでも動き自体が少し鈍り、スムーズに自然に動くなんてことは出来ない。それが答えだ。彼は残している。ならばこっちも残してやらねば相応ではない。

かなり遠ざかった位置には来てしまったが、此処から挽回してしまえばいいものだ。それならばこっちだって手をだす。


「して、貴方は一体どうしてその状態に?」
『”貴方には色々此方で協議した結果をご報告しようかと思いまして。”』
「それはそれは、随分と信頼が厚いことで。」
『”貴方の目を言っているのでね。”』
「裏切られることだってあり得るのに?」
『”実直なお方が裏切るとでも?”』

また冗談を言うのが上手いものだ。鼻で笑った後そうですよと端的に応えてやる。

「寧ろ実直だからこそ、です。欺くならば信頼を得やすい真面目な性格の方が好都合ですからね。こうだろうという先入観は中々意思を持って外そうとしても外れませんから。」
『”それもそうですね。”』
「それで、今後の目標は、目途はついた、とお見受けしても?」
『”都結の仮眠期が確定致しました”』

仮に眠ること。それは、生きる為の時間のもの。

『”本人は出せますが、余り期待はなさらない方が良いと言いますか”』
「出せば泣いて此方の手間を増やしかねないから、出来れば出たくない、と。」
『”そういうことですね”』
「まぁ…別に此方は其処迄傷付くなんてことはないですし」

というか甘く見られたもの、というものだ。伊達に何億年という長い時間は過ごしていない。此方の精神が崩壊なんてことはないのだが。どうやら其処ら辺も人間だった感覚が拭えない可能性だってあると都結は懸念してのこと。まぁとは言っても都結自体の精神状態が悪い以上、それにあやかっておくに越したことはない、か。

いいでしょうと言って話を続けさせる。

『”攻撃やらの型は各子達に指示を出しています。多少身体の変化が見受けられる可能性が高いですが、ご配慮いただけると幸いです。”』
「わかりました。名前もその都度お呼び致しますが、原則と致しまして此方は”都結さん”と受け取ります。例え神々の名前を授かったとしても、貴方に変わりはない。其方におられるとしても、寝たふりをしているならば猶のことです。」

我々はお待ちしております。貴方と沢山のお話が出来る日を、心より。

「何時だって出て来て頂いて構いません。出来ればお父様よりも多く、と言えば、彼女は笑ってくれますかね?」
『”ふふっ、きっと”』
「でしたら適度に出て来ていらした方が此方としては好都合なんですがねぇ」

こっちとしても、彼が見ないというならば手を出してもいいとさえ思う。余りこういうのはよろしくないし、本来ならば手出しなんてしないのだが、場合が場合。彼女には返しきれない恩がある。悪いようにはしない、というとちょっと悪い話に聞こえなくもないだろうが。

「これからよろしくお願いします」


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そんなことを言った日の夜のことだ。明日は界王神らと謁見だというのにも関わらず、まだ起きていた。気で分かる。寝ているかどうかなんてわからなくて一体何になる。ため息を吐いてコルンは都結が寝ている処にと足を進め、扉をノックしてから入った。其処には

「…寝れませんか?」

彼女自身が居た。午前零時からが、恐らく彼女の活動時間なのだろうか?それともこの真っ暗い部屋だから、髪色も黒い方が溶け込めて良いのだとさえ思っているのか。いずれにせよ、そうしなくたって自分は分かるというのを、彼女は知っていて尚、するのだろうか?コルンはそっとベットの傍まで歩み寄り、そのままベットに深く腰を掛ける。腰を立たすように座り込んで外を見ていた身体をベットに対して真っすぐに戻した彼女が首を横に振った。

「それとも寝たいのに寝れない?」

そう言えば首を傾げる。余り分からないのだろう。自分の感覚を理解するところですら、生きていれない。ねぇと言う声に気付いたコルンの顔が少し上がる。

『あのね?その…もしも、もしもこの世界に元の世界の情報が出るものがあると、怒る?』
「…それは、貴方が誰かに伝える為?それとも貴方の思考を整理する為の手段ですか?その手段によりけり、というものですが…まぁ余りよろしくはないですね。」

あくまでも情報、されども情報である。あるだけで誰かの目につけば、その特性を大いに生かすきっかけになり得ない。彼女は自分で見つけた意味を言葉として確認したいのだろう。意味を持ち、そして覚え続ける為だけに。言葉は名前は、ある意味存在証明その者といってもおかしくはないからな。

『エヴァネセント』
「エヴァネセント?それがお知りになりたいのですか?」
『…あとはえっと、ノエマとノエシス、だったかな。』
「(以前調べたことがある。精神状態が悪くなることもあり、その類の調べをモヒイトさんがしていたのを見た続きを。)」

向こう側の世界に居た頃、何もしていない訳でもなかった。大神官様の日記は、非常に興味深かった。最後の方はほぼ願いそのものだったのだ。彼が望むなんてことは無かった。こうしたらいいとか、そういう指示に近いものはあったが、それでもこうしたい。なんてことは聞いたことがなかった。だからこっちに戻って来て初めて見た時のあの顔が離れられないし、向こうの世界に飛んだ時、理解した。

嗚呼、この時間を知ったから、貴方はあのようなお顔をなさられたのですか、と。

正直羨ましいとさえ思えた。それは大神官を変えた都結、という意味が強いが、何方かと言えば、都結をそう変えた大神官が、である。精神状態が常に悪く、でもその人生で一か月なんて長い時間、それも【タルパ無しの満たされた時間】なんて生きて居てあり得なかったのだそう。薬を定期的に飲ませていたが、それでもその効果はたかが知れている。結局は環境によって大きく左右される。その、環境を、彼は良くしようとしなくて、良くなった。間違いなく、二人の相性はいい筈なのだ。

だからこそなのだろうか?彼女がこうして閉じ籠って維持をするのは。その陽だまりに何時だって戻れるように今も尚維持をし続けたいと願い止まないことからなのだろうか?

あの旅行中に遭遇した、白昼夢を思い出す。あれ程笑った姿は正直一度も見たことがない。未だかつて、だ。大神官と話をする彼女はかなり遠くの方から声をかけているというか、場所が違う、とでも言うべきか。こんなに近くに居るのに、はるか遠くの場所から話をしているかのようで、嗚呼、ひょっとしたら向こうの世界に心を置いて来てしまわれているのかもしれない。

お父様は向こうの世界に置いて、それに気付いた貴方もまた、その場所を望み続けているのだというのだろうか?

置いて行かれてしまったから、私も付いて行くのだ、と。…例え其処が貴方の望まない現実であろうとしても?そうだとしても、それでも貴方はその身を回復等させず、じりじりと削られる時間の中で感情も碌に成長等させず維持をし続け、そして願った場所に到着して、それでも貴方は笑えるとさえ今も尚信じて止まないのでしょうか?

ねぇ、エフェメラル様、どう思われておりますか?

その神を、貴方はご存知の筈。だからこそ、貴方が出て来た。違わないでしょう?

貴方が其処迄浅はかな考えで彼女の意志をほぼ無視した状態で出るなんて、ましてや頭を下げ此方に事情を話す、なんてことはしない筈。それ相応の状態でなければ、の話だ。今回は非常に危険な状態だったのだろう。自我を捨て、我を放置しても、その身を守る形に走った。プライドを捨て去り、深く頭を下げ膝を立て伏せる姿なんて、正直見れたもんではないのだが。

「構いませんよ、とは言っても私も知っている範囲が限られていますし…それに貴方の知りたいのはスマホ、とやらでしょう?ドラゴンボールも現在願いを叶えたばかりで回復に時間がかかりますからね…。」
『あとどれくらい?』
「確約は致しかねますが、大体三か月前後、かと。力の大会から数か月、いえ数年は経っていますからね。」
『…そっか』
「それにどのような願い事も、とは言っても限度がある。この世界の願い事が、という前提条件です。貴方の場合は別世界のそれも特定された位置にあるものを取り出すというもの。貴方の魂はまだしも、そのスマホとやらは別世界由来のものですから、余り期待はしない方が良い。」

出来ても画面は表示され、検索なんて使い物にならないことだろう。通信が出来るのはあくまでもその電波の範囲内な訳であって、信号が出ないのを持っていても仕方がない。ほんじゃあるま…本?そうか

「お待ちください一つだけ方法があります。」


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「それで俺達を使った、と。」
「またお兄様らしくない。」
「仕方がないでしょう、彼女らが、とあれば私だって頼みますよ。」

それから一週間かけて全天使に連絡し、超ドラゴンボールを探し当てた。仕事の合間でいいから、というが、何だかんだ言って天使らも気になっていたのだろう。すぐに集め、第八宇宙に集まってしまった。意外と時間は経過していたらしく、直ぐに呼び寄せれたし、内容も先に伝えてからの収集。皆意見は一致していた。


そして、その物が、

「これ、か…読んでも?」
「別に構いませんよ。とは言っても少々お恥ずかしいものですから余り深くお考えなさらないで頂けると幸いです。」
「此方は?」
「そ、ちらは…」

白い本だ。其処は見たことがなかった。

「都結様が大事にお持ちされていた本ですます。」
「マルカリータさん?ご存知なのですか?」
「ええ、次の天使は何方の方ですます?」
「私ですが」

そう手を上げたのはアワモだ。少し困ったようにそっと上げた彼に、マルカリータは見てなかったのか問えば、ええと答える。どうやらアワモからは誰もその白い本を見ていなかったようだ。とは言ってもコルンも然り、である。というか白い本があったことさえ今初めてしったくらいだ。まさか全部で十五冊あったとは。

「全部で三セットあるものですます。此方は、」
「どうしたマルカリータ」
「…余り読むことは、進めない、いえ」

読まれては、いけない気がするですますから。


「…それで私に?」
「はいですます。読めるかどうかは怪しいですますが。」
「ほぉ?この私が読めないものがあると。」
「えぇ。」

マルカリータが言い切るなんて中々ない、というかいい切りはするのだが、こういったことで断言なんてしない子。が、したということは、だ。間違いなく挑戦状とみた。大神官はよろしいでしょうと笑みを浮かべ手に取る。その白い本は、分厚く、少々汚くなっていたが、それでも大事にされていたのだろう、かなり新品な状態でありながらも、中身はほぼ最後に近いところまで書かれていた。

マルカリータが出たあと、仕事も立て込んでいない為、折角なので読んでみることにした。とは言っても全くと言っても良い程読めない。近しい言語を探してからにするか、と思い立った大神官は早速図書館へと足を運ぶ。

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「嗚呼ソレは読まない方がいいかもね」
「そう、ですか」

全王宮にはウイスが飼っている、正確には破壊神ビルスとウイスが住む惑星に住んでいる予言魚と似たような魚が住んでいた。図書に魚、とはまた面白い組み合わせだとは思うが、余り深く気にしてはいけないだろう。言語、とだけはいかない。ありとあらゆる知識を知る魚、まぁ広い宇宙だからどんな知識も細かく知っている者とは少々種類が違うが。

「流石の[[rb:言語 > げんぎょ]]さんでも難しいですか。」
「むぅ、それは違う。お前の知識に対しての相応が取れないから読まない方が良いって言ってるんだ。僕は超絶天才的なんだからこれくらい読めるには読めるし、ありとあらゆる世界を見てきた立場上をもってのことだ。」

それにこれは酷いくらいにキレイなんだ。
きれい?

「見た所くたびれかけていますが」
「中身の話だよ。仮に読めたとしても、お前が知れる言葉なんて上っ面ばかりだ。深い意味なんて理解出来やしない以上、言語としての意味は果たせない。」
「だから読まない方が良いと。」
「(それだけじゃないんだけれどもね)」

予言魚の親でもある[[rb:言語 > げんぎょ]]の正式名称は[[rb:言語魚 > げんぎょざかな]]という。それも面倒なので、言語と言っているのだが、人前では改まって言う時は専ら正式名称だが、コレを知っているのは限られている。大体天使と大神官、それに全王様と付き人くらいで。都結には会わせていない。

書庫には間違って来ていたらしいが、それでも会わなかったようだ。まぁ会わせるつもりもなかったので此方としては嬉しい話ではあったが。彼曰く、会ったら違う方に走り出しそうで怖かったのだそう。

「本を見て理解出来る。これは此処に保管させて欲しい。」
「いえ、それは」
「どうせ外側の書物。此処に置いて置いた方が間違いはない。違わないだろう?」

手を伸ばして取ろうとしたのが、するりと抜け落ちる。空気だけをかき分け、浮き上がった本はペラペラと捲られ、一つの言葉だけ覚えとっておくことにした。私にはその意味は分からないが、それでも音だけ覚えたかった単語が見えたから。だが、流石に都結からは教えて貰える訳にはいかない。変な話盗んできたみたいなものなのだ。

本人が本を持っているかどうかは想像つかない。コルンらが都結に指示され手を貸してやったのは分かっている。此方もそれくらいなら、と許容したのだ。とは言ってもこっちに本が来るとは想定外ではあったのだがな。まさか自分の手に置かないとは、余程記憶に自信があると見た。

「ほらさっさといったいった!」

そう言われたら捌けるしかない。彼の機嫌が良い時にまた出直すことにしよう。大神官はわかりましたよと言ってそそくさと部屋から出てしまう。鍵は内側から出来るので、鍵がされていない時は、大抵此方の機嫌が良い時だということだ。ガチャリと音を立て遠くから鍵をかけてしまい、上へと昇りあがる。


「…また寄りにも寄ってとんでもない奴を戻してきちまったもんだなこいつぁ。」

そう言って出て来た場所は、最上階の、白い場所。遠くの方にポツンとある場所へと移動し、その場所はこじんまりとした部屋のような場所だった。まるで部屋が広がっただけの空間。綺麗に整えられたベットやら机やらが余りにも不自然で、きっと此処が扉だったのだろうと言える処から入るなんてこともせず、言語魚はさらりと隙間を通って本の前にと移動した。

「あんなにも危険視していた癖に、あんなにも、駄目だと引き下がっていた子達だっただろうに。」

どうして戻ってくる。どうして、また、巡ってしまう。そう言いながらもそっと小さな本を引き出しては開いていく。宙に広げた本は幾つもあり、大きいものから小さなものまでそれぞれだ。描かれた星の下に、大きな樹の下へ輪を持つ者と輪を持たない者が描かれたページに止まる。地面は透き通っており、輪を持たない者の姿は大きな化け物が描かれていて。

「どうか化け物になってくれるなよ、最期の神様よ。」


かつて生きていたであろう、全王になる予定だった、人をこよなく愛していた優しい神様よ。


「”ネヴァネセント”」

嗚呼、どうしてかえって来た。どうして、あの姿で、どうして、その、形で。多くの形を、保たれたまま、生きて居るんだ。青い髪の子は確かに生きていたのだ。


天使と人間の狭間に産まれた彼女の親友として。


確かに生きていた。そして、彼女の名前は



「”エフェメラル様”」


その者だったのだ。










泡沫の白昼夢


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