全部抱きしめて、ずるいよ、それは1



「それでお前は此処に閉じこもっているのか。」

そう言ったのは精神内の中でも中枢を司る場所。エヴァネセントが語り掛けていたのは繭の様な処にベットを構えて蹲る彼女の姿だ。ため息を吐いて、白い髪の毛を乱雑に描きむしったエヴァネセントに、都結は良いだろうがと吐き捨てる。

『別に私がどうこうしたって、誰もは皆外を見入るだけのこと。…私は見られない、それでいい。』
「そうして殻の中に閉じこもっちゃって、本来生きたい想い人とは二度と会えなくたっていいのかい?」
『いい。』
「あっそ、じゃあ私が」

それは嫌なんだな?

「安心しな、あいつを私は望んでいやしない。私が望むのは常に私が息をしていたお人のみ。」
『…っ、でも』
「ふふっ、私はその中間地点ではなく原初の場所だけを望む者…君が知るあのお人ではないんだよ?」

嫉妬なんていっちょ前にしちゃって。繭の外に出たことも分からずに、お熱だねぇ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!

「ぷっははははは!!!あ〜おかしい」
「…余り彼女を虐めないで頂けません?」

攻撃されるこっちの身にもなって頂きたい。
おお、アプルじゃないか。

「息災そうで何よりだ」
「どうも。それにしても相変わらず殻に閉じこもってまぁ」
「正確には繭の中に閉じこもって、だがな?」
「言わなくても同じことでしょうが。…はぁ〜〜一応貴方が主なんですがねぇ〜〜〜〜????」

我々が幾ら前にしゃしゃり出た処で、貴方を望む者でないと核は維持を成し得ません。

「アプルが”攻撃”を司り、私エヴァネセントが”防御”を司る。貴方は”維持”。確かに繭の中に閉じこもれば維持なんて容易いことです。其処は攻撃も何も受け付けない場所ですからねぇ?でも本来の維持は違う。」

どのような惨劇に見舞われても、それでもその抱いた感情を絶えず同じ形を保ち続けること、それはまるで



「”中立者”その者の様な位置であるもの」




貴方も同じ位置、類は友を呼ぶ、とはこのことを言うんですよ?ねぇ、都結。


【”星の中立者”に位置する王家星屑の創造主あいの栞”ミィ・ユール”】

防御に留まるそうの栞
蘇生に導くすいの栞
奮闘に藻掻くしゅの栞
答えの果てにいるかいの栞

全ての核あいの栞

その中でも一番深い場所に位置する者それこそが、都結の位置する場所だった。白い繭がまるでもう誤魔化しても無駄かと言わんばかりに色を染め上げた。元の色を、とも言える程に、藍色の染色で染め上げられた。心なしか、髪色も藍色に近いように見えるが、光でそう見えるだけだろう。

『随分な言い方だねぇ?…”星の中立者”である星屑の創造主答えの果てにいるかいの栞であろう”エヴァネセント・ユートレット”が。』
「そう言うな」

睨む彼女にまぁまぁと間に入るのは朱に位置する者だ。

「だが現状蒼の栞あいつが消えた以上、余り芳しくない状況下で間違ってはいない。」
「”リッカート”か。」
「”オルロージュ”は?」
「現在消息不明。ちょっと混合者でなんとか出来ないかな?」
『誰が人間生命錬金術師しろつったよ。誰が。』

するわけがなかろうか。

「頼むよミィ〜ちゅぁ〜ん!」
『ば〜か、だ〜れがするか。一昨日きやがれてやんでい。』
「ほんとうちのミィちゃん、悪口一欠けらも思いつかなさ過ぎて悪口の扱いが小学生以下なんだよなぁ〜〜〜」
『う、煩い!わ、私だってい、いえるもん!』

そう言えば、ほ〜お?なんて近づいてくるものだから、鹿の人形に抱き着いてしまう。うううう、どうしていぢめるの!

『…ばか』
「ちょっとやめようか。」
『なんで!?!?』
「破壊力えげつねぇ〜あ〜〜閉じ込めたい駄目?」
「駄目に決まっているでしょうが。…まぁ彼らがため息を吐く理由も分からなくはないけれどもね。」

間違いなくコルンらにしたら、固まるだろうし「絶対他の者にしてはなりませんからね?分かってます?」なんて問い詰められるがオチではあるだろう。とは言っても、この子のことを理解出来るのはたった一人だけ。栞に残されていた防御の子が消滅したということは、その”枠”は空いたも同然であって。

誰が入るかは、分からない。最悪シャッフルだって可能である場所だ。

この繭が、破れて、その空へ羽ばたくその翼が一体「どんな形」に変化するのか。小さい背中に、どんなものが広がるかによって、この子の未来が全てが決まる。皆成長してそれぞれの翼を持ち得る者。

もしくは、いや、あるいは

「(未成熟のままで飛ぶことすらも叶わないだろう位置で笑い続ける?)」

そしたら貴方に二度と会えるわけもないし、貴方の元に辿り着けない理由もすべて、此処に残されているのだと。そうして抱きしめて目を閉じてしまうのか?なぁ?ミィ。


嫌いな三つ編みを見繕って、大層ご満悦だなぁ?


「何処に?」
「散歩」

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ブンと音を立て土地に降り立つ。流石に外は冷える、か。大体体内の気温は平均して25度を維持されている。半袖どころか普通にほぼ着なくたって生きていける状態だ。少なくともミィは繭の中であれば何も着ていやしない。というか着せてもすぐに脱ぎ捨てるのだから、意味がないのだ。

白いタオルケットに身を包んでスヤスヤと寝続けるのだから、大層な者だ。こっちが居るというのにである。とんでもない肝の据わった女性いや幼子だ。姿形は成人女性その者なので、正直目のやり場に困る為、是非にとも今すぐやめて欲しいものだが、そんな期待なんてしたが負けである。もうかれこれ数千回くらいは言っても無駄なのだから、今更な話なのだ。


「”…っと、流石に警戒されるかぁ〜。”」
「何者ですか?」

そうすっと目を細めた者に、両手を上げ味方だと言っても、言うことは聴いてくれやしないだろう。一応両手を上げ、その手袋の色にはた、と眼が止まる。

「…おや、ひょっとして、貴方まさか”核の人間”ですか?」
「”…はい?”」









「いや〜まさかビルス様のお昼寝中にこ〜んな珍しいことが起きるだなんて。」

私も運がいいですねぇ〜嗚呼毒は入れていませんのでご安心を
はぁ

「”我々飲み食いは特に必要ないんですが。まぁ折角ですし頂いちゃいますね。”」
「ほぉ?天使と其処ら辺同じなんですねぇ?」
「”我々は精神体ですからね。多少の痛みもほぼ無痛そのものですよ。”」
「では…精神的な痛みを伴えば、大打撃。ということですかね?」

ぴたりと止まる手に、ウイスの目がまた細まる三日月の様な細まった目が、厭らしい程に記憶に残った歴史の彼によく似ていて。吐き気と共にため息を吐いてしまった。

「アプルさん」
「”…何が言いたいんです?全員の名前でも晒せ、と?”」
「そうは言いませんよ。我々はただ、」
「”ただ?”」

口を開けて、目を閉じ止める。まるでテレビのリモコンで停止ボタンを押したみたいに。停止して、暫く時間が過ぎ去った。

「…いえ、なにも。」
「”…栞”」
「え?」
「”無くなっちゃいましたから、もう我々は空の青さすら忘れてしまいました”」

あの子は繭の中で、外に出たとしてもすぐに足を引っ込め元の位置に戻る。彼女の繭を破り捨て抱き上げてしまうお方がおられたらいいのだが…そう言う訳にもいかない。まぁ、小さな夢が続いてしまえばいいのだが…仮にそうして、現実戻って彼女が耐えられるか、と言われたらそうはいかないだろう。最近まで泣き続けて寝続けていた子が、漸く目を醒まして笑ってくれるようになったのだ。

出来ればこのままで、居て欲しいものだ。

「”アプリコット・コンポート”」
「え?」
「”次は是非とも食べてみたいですね”」





























「え?”アプリコット・コンポート”が食べたい?」

ウイスさんって、本当にこう、なんていうのかしら…また何処でそんな可愛いことを覚えてくるの?何彼女でも出来ちゃった?
かっ

「ブルマさん、流石に冗談が過ぎますよ。私がそんなお方おられると?」
「や〜ねぇ?ウイスさんイケメンだから女子の一人や二人くらい引く手あまたでしょ?」

貴方強いじゃない!
強さで言えば貴方の旦那様も充分お強いですがねぇ?

「それで、可能ですか?出来ればお持ち帰りしたいのですが。」
「別に可能っちゃ可能だけど…これは私よりあの子の方が得意かなぁ?」



「ブルマさんじゃないですか!お久しぶりですって…」
「どうも。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「成程、ご友人の振る舞いで」
「えぇ、出来れば取り急ぎでお頼みしたいのですが…」
「生憎この季節柄、成長していなくて…一応知り合いの果樹園には栽培しているんですけど…」
「ふむ。では成長さえさせればお作りして頂けるのですか?」
「え?え、ええ…」

そう言ってしまえば、果樹園に移動し、ウイスが一つ杖を使って樹木の成長速度を速め続ける。大きく立派に実った木ではあるが、これ自体一つお持ち帰りできるかと問えば、別にいいと果樹園のオーナーも首を縦に振る始末。一応実ったものでも使わないものは彼らに渡すが、この樹自体神々の力が宿っている。多少口にするのは良いが、余り長く多く量を摂取するとよろしくない。

それが神々であれば話が別問題ではあるのだが。

数個使って材料と共に調理の準備をする中、それにしてもとビーデルが声をかけるので、ウイスがビーデルの方をちらり見た。

「ウイスさんがこんなおしゃれさんだったとは。アプリコット・コンポートなんて作るの何時ぶりかしら。」
「そんなにオシャレな食べ物なのですか?」
「えぇ、知らないんですか?」
「えぇ。」
「…これ言った方が、いやでも」

もしよろしければ、ご教授願っても?そう言ったウイスに、色々考えたあと、ビーデルは作業を進める。生のアプリコット、杏子を手に取り、水洗いして、半分にカットしていく。中に入っている種を取り除くのだ。

「アプリコットは杏子あんずの別名で、コンポートは果物を砂糖水やシロップ、ワインなどで煮込んで作るデザートや保存食のことを示します。混ぜ合わせるって意味をもつんです。」
「ほぉ(”混ぜ合わせる”、ねぇ?)」

彼が何も言わないまま、言った。にしては、少々意味が深過ぎるように思えた。

「果実そのものの触感や風味を残して甘さも控えめなのでそのまま食べたり、あとは料理やデザートに添えて出されることだってあるんですよ?」

弱火で数分煮詰めていく。アイスクリームやヨーグルトに入れて食べるのがおすすめだという彼女に、以前ビルスと共に食べたパフェは美味しかったのを思い出した。あのようなものに、と思えば少し食欲を何処かそそられてくる。

「楽しみですねぇ〜!」
「でも、その人本当に可愛らしいというか…まるでウイスさんのこと好きみたい。」
「え?私を、ですか?」
「え、違いました?」

流石に初対面とは言えないが、男性だと告げたらそういうこともあるし、なんて勘違いが走るので訂正してしまう。そうすればそうだったのか、と笑って照れ隠しに話が早口になるが、結構重要なことを言っていて。

「アプリコット・コンポートは果実の状態で瓶に入れて蓋をして保管するんです。何時だって取り出して、直ぐに食べられるように。保存食とは言っても余り長く保管は出来ません。そんなアプリコットにも花が咲くんです。」

花言葉は「信頼」「高貴」「臆病な愛」「乙女のはにかみ」「疑い」「疑惑」

「”報われぬ恋”」
「報われぬ恋、ですか。」
「ええ、だからてっきりその人はウイスさんのことをもしかして好きで、貴方も、と。すみません、出しゃばりましたよね?」
「いえいえ、お気持ちは大変嬉しいですよ?ありがとうございます(…強ち彼女の推察は外れていない、だろう)」


というか、ほぼ確定みたいなものだ。


これがもし都結その者の意味であれば…話が大きく変わっていく。臆病な愛を持ち、それでも報われないと思い手を振り下ろしているのか。そんなもの、コルンが知れば、一体どうなることやら。クツクツと笑ったウイスに、ビーデルが声を掛けた。

「なんでもありませんよ〜!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「”本当に集めてきやがった…”」
「貴方が仰ったのでしょう?ほら食べてしまいましょう。」

そう言って椅子に座ったウイスが手を合わせて食べようとして止めた。未だ彼は仁王立ちで机の上を見ながら立ち尽くしているのだ。机の上には紅茶と少し焼いた食パンに、色とりどりのジャムや今回のコンポートも置いていた。スプーンも使う分は置いており、ジャムも苺やら檸檬やら、葡萄なんてちょっと珍しいものもある。

梨や蜜柑、林檎等、杏子以外にも種類を取り揃えているし、なんなら苺に関しては檸檬と組み合わせただろうものまであった。小瓶を取っては一つとって付けて食べるなんて出来ますし、お変わりは幾らでもありますよ、なんて恐らくサイヤ人が食べるのだろうと言わんばかりの量が見えてふはっと笑ってしまった。

「”っくくく、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?”」
「…えぇ是非。」

椅子に座って静かに頂きますの姿勢をする。最初はどれにするか悩んだが、やはり王道のイチゴだろう。掬い取って置いて食べると美味いと声が出た。それは良かった、と嬉しそうな顔をしつつも幾つか手に取り付け食べる姿が見えた。手は大きくて、小さくも見えるが、一応通常の食パンである。

ふと幼い子供の必死な姿が脳裏に横切った。黒髪で誰かの目を見て確認しながら小さな瓶に手を取り声が掛かる。

ー全部食べてくれるよね?

良い子だもの、そう言った声にひた、と止まる。匂いなんてさせないが、それでも衣服は真っ白だから。

「…!」
「”ごめんね?何時ものことなんだよ。最近”防御”の子が消滅しちゃったからさ。”」
「消滅?どういうことですか。」
「”おや、知らないのかい?”」








”大神官が消し去ったピンクの花の栞は防御を司る子が眠っていたんだよ”







「…は?」
「””防御””蘇生””奮闘””答え”それらの先に居る者それこそが”」



”藍”


「”藍色の繭に染め上げてその中にタオルのみに身を包み眠り続ける子がおられる”」
「それが都結さんだと?」
「”この世に辿り着ける子は、もう何処にも居なさそうだからねぇ〜”」

連れて来れる?無理だろう?お前のお父さんは、もう完璧に自分で封じたも同然の状態ではないか。

「”全員で歯向かって勝率があるかどうか、くらいの状態ならば猶のこと。仮に彼女が出て来てお前のお父さんの記憶を外し、尚且つ二人で愛を育めるならばどうぞご自由に?でも、我々の長い時間は、ずっとずっと、”維持”され続けていた。”」

皮肉だよな。”中立”が何よりも嫌いで逃げていた癖に”中立”の中でしか息など出来ないと気付くだなんて。

「”しかもそれが、”中立”にもっとも近いとされている彼の記憶が封じられた後に知った末路等…もうたかが知れている。”」
「だからと言って、そのまま殺すのですか?その繭に包まれた者ごと」
「”そうはいっていない。繭、それは即ち外に出て空を飛ぶ未成熟者の総称だ。”」

まぁ、あの子自らが願い外に出て、空を飛ぶ術を知るならば。もう何処にだって行けるし、あの変な歪な空間も、これで終わりになるとなれば。僕…いや、俺からしても。充分嬉しい話なんだがねぇ?

「”如何せん核は曲がりなりにもあの子であるのだから。我々の力はルトラール等の外部を入れ込んだ者らでの構成なんてありえない。”」

ま?栞に関しては良い動きしてたよ?本来あれは人間一人のみに力が圧縮されるものだ。ノヴァ・ネラは。12名の力を凝縮しての者。二人が一つになって、六名。その六名がその肉体一つの中に集約され、そのうちの二人こそが、核とされ、更に一つにされて、最終的な人数は合計五人となる。核を外せば計四名で構成された時間だ。


防御に留まるそうの栞の覚醒石は「信頼」封印石は「嫌悪」
蘇生に導くすいの栞の覚醒石は「期待」封印石は「驚愕」
奮闘に藻掻くしゅの栞の覚醒石は「怒涛」封印石は「恐怖」
答えの果てにいるかいの栞の覚醒石は「信頼」封印石は「嫌悪」

全ての核あいの栞の覚醒石は「歓喜」封印石は「絶望」


「おや、同じ個所があるのですねぇ?」
「”本来ならば答えの果ては居ないからね。古き元々は四つの栞に構成されそのうちの一つが核になっていた。色々あって世代交代やらなんやらを繰り返していたら、この状態が非常にバランスが良すぎてねぇ〜”」

本来ならば、ノヴァ・ネラは「13名で構成された神々にもっとも近しい者から遠い者のカラーバリエーション」で構成されていた。全員が濃度順に円を回し、同じような動きを繰り返し伝えるように動いた後、全員で同じ様に動き、左右の気の合う者と同じ動きをして、まず一つになる。1名は必ず外され、全員で7名になる。

7名から更に同じ様に円を回す様に一人一人が同じ動きをして、同じ様に全員で動きを一致させ、左右気の合う者と同じ動きをしてまた一つになる。勿論この時、外された1名が必ず最初に外された1名であることが大事だ。此処で誰もがその子を取ろうとすれば、未完成で精神が崩落し、化け物に侵され種族の衰退に直結することになる。

そうならないように、更に一つへと成れば合計4名となる。此処で初めて”攻撃”と”防御”そして”回復”の三種が出来上がり、残った者こそが”維持”をした者。即ちノヴァ・ネラの核となるお子その者だ、ということだ。

もっと言えばノヴァ・ネラ自体、本来は「13名で構成された【自我その者】のみを使った」状態であるのが一番良い状態だ。感情の濃度を自分で見極められているということは何事においても重要な一つだと思っている。少なくとも、俺は、の意見だがな。

「”だがノヴァ・ネラはその繊細なことを一人にさせるのは難しいとされ、以降他人を集めた形とされた。”」
「元々一人で賄えていた、と。」
「”賄ってはいけなかったのが、何故か通用されていた。が正しいかなぁ〜まぁいずれにせよ?”」
「彼女は?」



その子は、一体どんな状態なのでしょうか?



ちらりと見つめていたウイスの目が、嫌に傷口を抉り返す様に思えた。目線を落とし、そうだねぇと言ってティーカップを置いてしまう。さくりと食べた音が口の中でゴリゴリと音を立て飲み込まれたらもう何も音なんてしやしない。喉元過ぎれば熱さを忘れる。誰かが言っていた言葉がどうにも喉に残ってしまって嫌になる。気になったら喉に手を掛けようと止めてしまえば、向こうも何も動かない。

この手を掴んだら、貴方は一体どのような顔をなさるのだろうか?

なんて、思っても意味がないことだ。大体想像が付くし、想像が付くことをしても意味がない。想像が付かないことがあるからこそ、人は他人に相談をしたり、自分で考えきれない事柄を自分で調べ動くのだから。

「ご存知ですか?アプリコット・コンポートとは、本来の名前ではないのだそうですよ?」
「”ん?”」
「長期保存なんて出来なくて、けれども、何時だって手に取れる位置に保管しておく。まるで恋心その者のようですねぇ?そうは思いませんか?」


”アプル”さん?


「…杏子の花言葉は幾つかあるそうです。「信頼」「高貴」「疑い」それに「疑惑」…どれもこれも、あの方を言っている様に思えます、が。きっとこう、お伝えしたいのでしょう?」






””いつか”が来る”その日”のためだけに、この場に保管して置きましょう。”

”たとえそれが、”報われぬ恋”だとしても。”

”私は何よりも”貴方との時間”を心より待ち望んでいるのですから。”



「…なぁ〜んて?随分とまぁ、可愛げのある殺し文句を覚えてらして…一体何方で身に着けたのでしょうか?」
「”知ってどうする?消滅でもさせるか?”」
「いえいえそんな物騒なことは致しませんよ〜!」

ただ、

「それがあのお人に出会ったことで知れた方ならば是非にとも、お伝えして頂きたくて。」
「”なにを?”」
「”そのいつかは必ず来たる日が来る。だからどうか何時までも待ち続けていて欲しい”のだとね。」

そして、その時間が来たら、どうかその繭から足をかけ、飛びだして来て欲しい。服がないから恥ずかしい?なら貴方の好きな色に染め上げ、衣を渡して差し上げましょう。寝ていたから髪の毛が崩れていて見るに耐えない?ならば髪の毛を梳かして差し上げましょう。とは言ってもどんな形だって、きっとお好きだと思いますがねぇ?

「如何でしょうか?」
「”…ならば一つ問うが、それでも?”」
「勿論」
「【”神の成す答えは一体どんな味がするのだろうか?”】」

そう言った彼の目は、ギラギラとしていた。灰色の目だ。すぐ其処迄来ているかのように、近い感覚を感じつつも、その空いた胸元にも視界に入って落ち着きやしない、なんてことが天使にあってたまるものか。冷静沈着、常に感情を落ち着かせて対応をする。それでこそ、遠くから客観視をし”中立”を維持する者達であるということ。





それに一番近しい存在が今目を向けて言っている



お前はそれでも”中立”に息を吐くというのだろうか?



と、



嗚呼鼻で笑ってしまうのを、どうか許して欲しい。そのような当たり前のことを聞かれたからには、だ。


「勿論、神の成す答えは”砂の味”がするのですよ。」
「”お前…それ、”」





…砂は食べ物じゃないだろう?馬鹿を言っても無駄だぞ?
おほほほほほほ!!!!!さ〜すがにバレちゃいますかぁ〜!!!

「貴方なら騙されてくれると信じていたのですが、ねぇ?」
「”っくくくく”」

っははははは!!!!
っふふふふ

「”嗚呼もうわ〜ったわ〜った、降参降参!も〜降参だって!改めて自己紹介と行こうか。”」

そう言って机をバンと軽くだが叩いて立ち上がり手を指し伸ばして笑い言った子の目の色と姿がきちんと露わになった。髪は乱雑に短くも、首下程で。跳ねている髪の一部にはバツ印の髪留めが付けられていた。赤よりも薄くなった朱色の髪色に、朱色の目を染め上げていた。あの灰色の目は一体何処に行ったのだろうか?

身長は大体悟空と同じ、か、それ以上か。少々高めで、すらっとした身体には白い衣服が変化を遂げ、形も変わる。じょうご型の開いた袖の大きい衣服が露わになった。腰元には金色の装飾が施されたベルトが茶色の紐と共に揺れていた。手首には金色の腕輪が付けられており、その下には白い下着の様なものが見える。白麻製のものだろうか?少し肌触りが良いとは言い難そうにも見えた。

肩は開けているも、中央はV字に形を取られ、それ以外は緩いが四角に角ばって首元に負担がかからないように切り取られているように見えた。金色の紋章は、何処かの国の人間とも見える。頭には金色の輪が二つ若干ズレて被さっているのに、幾つか若々しい緑の蔦や茶色の蔦が見えるも、花は一切見えない。

「”俺の名前は”アプリコット・コンポート”。奮闘に藻掻くしゅの栞”」








”統べる王の腹心に成る筈だった一欠片の一部分だ”
















泡沫の白昼夢


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