僕だけが知っている、君の9
『きゃ〜〜〜〜!!!えっえっえっえっ!?良いの!?本当に良いの〜!?』
「ええどうぞ〜!」
その日は本当に人が変わったかのように
部屋は本来ウイスが使っており、ヴァドスに使わせたかったのだが、彼女自体時々都結の部屋で寝てくれていることから、其処迄気にしなくてよくなった。因みにだが、白鳥さんは玄関先に近い部屋を貸している。本人曰くそっちの方が外に出ることも多い為好都合なのだそうだ。
お邪魔しますと言って入った都結の服は可愛らしかった。夏だからか、知らないが
「…とりあえずそのお召し物は何時も着ておられるもので間違いないんですか?私見たこともないのですが。」
『久しぶりに着たくなって』
「おほほほほ、可愛らしいお召し物が見つかったのでお願いしたのですよ。」
「お姉様????」
一先ず、今後一切それを着用なさらないで下さい。
えっ
「私とて殺されたくないのですよ。」
『なんでそうなる!?』
まぁそれもそうだ。都結の状態は肩も出た胸元を軽くレースで隠した程度の白いビギニ状態だったのだ。下も同じ様に何枚かのレース生地で着ているが、それでも腹はきっちり見えている。多少タオルケットで隠しているとは言えども、だとしても中が中。襲えと言っているようなものだが…これは男として見られていないのかいやそれともただの馬鹿、か。
まぁいずれにせよモヒイトの時にしなかったことだろう。そうでないと嗚呼言った記載はしないだろうし。それに忠告していてこの子が約束を破るような子には見えなかった。特にこの日においては、である。まぁタオルケットを着てくれているだけでもいいだろう。最悪着替えさせに行くくらいはさせて欲しい。こっちの身にもなって欲しいものだ。日記に毎日記録しないといけないのだから。
ー”毎日必ず日記を付けてやって下さい。いつか彼女が寂しがらずに笑えられるように。”
其処迄言わせる程、惚れた女が、一体どんな者か、と思っていたが…確かにその日を通じてウイスは納得した。嗚呼この子は本当に可愛らしい、真っすぐな子なのだ、と。裏表が此処までない子は久しぶりに見たものだ。正直悟空よりも純粋と言っても良いくらいだ。ウイスさんウイスさんと声を出す。今は間にヴァドスがいてやる。どうやらその着物に恥じらいを持ってくれたらしい。そのまま部屋に戻って着替えて来ても良いくらいなのに、それをしないのはきっと
『悟空さん達元気?沢山強くなったんですか?』
私らが居なくなってしまうのを恐れているから、そうですよね?都結さん。
ええと答えてやる。先日力の大会やらビルス様と地球に降り立った話から色々アニメを通じて話を聞いていた。都結は仕事を休職中の為、家にほぼ監禁状態の現状。時々スーパーに買いに行くが、それでも周りの視線を伝って身体が丸くなってしまう。ぎゅっと掴んで怖がっていた子は何処にもいない。顔が青くてまるで血の気の無い人形とも違う。
「先日はあのベジータさんに負けておられまして、とても悔しがっておりましたから。」
「このままいけば破壊神に?」
「さぁ、どうでしょうねぇ?」
どうするかは、自分は勿論だが、ビルスも、である。彼が辞めるとあれば次の強そうな子を破壊神に、と選ぶ予定だ。そう考えたら彼等二人のどちらからか、と言った方が良いだろう。確かにブロリーは力こそいいが、力だけでは破壊神とは成れない。そこで、とヴァドスが声をかけた。
「都結さんはどう思われます?悟空さんかベジータさん。何方が一体『そらベジータ一択』おやまぁ」
「意外ですね。てっきり悟空さんと言われるかと思っていました。」
都結の話は何時だって悟空が強いように言うのだ。ヴァドスは勿論だが、ウイスもてっきり悟空と言い切ると思っていた。
『そら当然ベジータ一択でしょあらどうみても。』
「何故ですか?」
『ビルス様の性格上と、後はベジータのなんて言うかな〜質?王子の時間も短いとは言えどもあったわけですし。私知りはしませんが、恐らく破壊神って確か界王神らと会議はするんでしょう?』
「ええまあ」
『ということは、全王様や大神官様らと謁見し、宇宙の今後の話をする機会だってなくもない、ってことでしょ。なら悟空に適当で話を流されるよかはベジータみたいにしっかり自分の地位と立場を弁える子に任せた方が天使らの負担も軽減され無難だろうな、って思いますよ。』
後悟空は確か全王様の友人設定だった筈。本当に何処までを友人として見ているかで、話が大きく変わるから怖いけどね。
「かわるとは?」
『ん?全王様が「人間の知る友人って枠を知りたがって悟空と友達になった」のか逆に「悟空と親しい仲になりたいからなった」のかで大きく変わるってこと。恐らくまぁあの場合は前者、とあれば悟空を神々の位置に引き込むには止めた方が無難。』
「何故」
『単純に悟空が壊れる可能性しかないから。』
彼は良くも悪くも人間だ。アレを魂が界王神様らが手を加えた、と言っても神々の中に入れ過ぎたら、悟空の精神がそもそも持たないことだろう。チチや悟飯がいるからこそ。特にライバルのベジータがいるから、恐らく彼は生きて居られることが出来る筈。仮にベジータが破壊神となって、悟空がこの場合腹心とかか?全王様の下に付いたとしても、位置づけは腹心。上司と部下になったら友人もくそも出来ないし、ましてや破壊神なんてもっと下の位置になるだろう?それこそ他の破壊神からへの示しがつかないというものだ。
故に悟空は破壊神にしてはいけないまである。だから速攻でベジータをいい切ったのだ。
『どう?私の見解。当たってる?』
「いやまぁ当たっていると申しますか…」
「其処迄考えておられたとは、想定外と言いますか。」
『へぇ〜?よく言うじゃん。私の夢小説盗み見ている癖に。』
「っ!??!」
『あそうなんだ。』
は、嵌めましたね!?!?!?
そら嵌めるよ。私を舐めるなって言うんだよ。
『私が素直で可愛い子に見えて居たら大間違いだよ。』
「ほぉ?それなら警戒しておけばいいと?」
『そうだよ。』
そうしてそのまま見ないように、とその小さな身体を更に小さく丸めて目を閉じ待ち続けるというのですか?カタンと音が鳴る。ばっと起き上がった都結に、都結さん?と声をかけた。少し嫌な予感がした。目の中が、キラキラと光を灯しはじめた。
「っ、なりません、都結さん!何方へ行かれるんですか!!」
ーその日はとても綺麗な月が出ていました。きっと同じ日だったのでしょう。
貴方が消え去ったその日と、同じような時間に彼女は何度でも目覚めて。
そして何度でも
「…泣かないで下さい。」
大粒の涙を零して、そして吐き捨てるように言うのです。
嗚呼、これが夢だったら良かったのに、なんて。嘘をついて。小さな身体を更に小さくして丸めて笑う。一体誰が、その身体を真っすぐに出来ましょうか。出来る方がおられたら是非ともご報告して下さると幸いです。恐らく今後出会うことはないでしょうが。
彼以外。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本当に彼女は別人だった。誰もが言うのだ。ベットの中に潜り込んで足や手をそっと触れて嗚呼と笑う。
「違うでしょう?」
『え?』
「お父様とは違う人、なんですよ。」
そう言ったコルンに、視界が一変する。彼女を試してみたくなったのだ。たった数週間だがされど数週間。日本語とやらはものの五日程度で習得したし、どうやらお父様と同じ程の月日らしく誇らしくさえ思った。とは言っても流石に彼のようにドイツ語までペラペラに、なんてことはしなかったが。
だとしてもこの子がずっと見返している夢物語の話だって読破しているし、それにその続きで書いている幾つかの小説だって、こっちは読み切っている。その夢のようなひと時を差し出してやろうというのに、彼女は一切そんなものには乗らない。目はじっとこっちを見続け言うのだ。襲えるものならば襲えと。
ただお前が欲しい者はくれてやれないのだ、と。
強い意思を見た。まるでその眼の奥には数百人もの目があるかのようにも見えた。実際あったし、まさかの奥に化け物を飼っているとはこの時思う事も無かった。ぽすんとベットに倒れたコルンが鼻で息を吐いた。ほんと、
「(貴方は不思議なお人だ)」
あの日の時間は、本当に規則正しい生活だった。
朝目が覚めたらまるで夢のようにぽやぽやと瞼を擦って起きてくる。起床は大体遅くとも朝の9時だ。その後はコルンやら場合によっては白鳥が天使と組んで都結の部屋に入り込み布団を引っぺがす。そんなこともせずに、大抵起きてきたらば、背中を掻いたり何処かを掻きながら大きなあくびで挨拶を交わす。
とりあえず背中から何からボリボリとかくな、と言えば、まぁひとしきり掻いた後に手を止め席に付く。全くもうとため息を吐いて、まぁまぁと言われつつも遅めの朝食を取ってしまうのが、日曜日辺りの生活。大抵休日は白鳥の方が席を外していたりするが、それでも連絡は取り合う。
小説やら絵やらやりたいことはその日の午前中と夜の自由時間にやる。大体昼を過ぎたら自由時間は終了だ。昼食の準備をして、食事を取ったら、買い出しついでの散歩をする為に、近所の周辺を歩いてやる。因みに買い出しは白鳥のメニューやら献立を皆で夕食後に決め、皆で食事の準備をしているし、担当の場所も違う。きちんと献立者は日にちで分けている。
因みに都結はコルンら天使と組み、外に必ず出るようにしている。決まって天使が都結のメンタルを管理し、決まった行動を取り出したら家に帰す。
「帰りましょう」
周りを気にしてソワソワし始め、身体が丸まって困りだしたら、その合図だ。
手を握ろうと出したら、そっと掴んでくれる。小さな手で、その消えそうな程に怖がっている姿を抱きしめてやって、そのまま楽になってくれたらいいのだが。案外そうもいかないというものであって。その手も、
そう、その手も。今では己を守る盾にもなり得ているとは、
「甘いっ!」
『っ、』
今では戦闘、己を守る為にも訓練に励む手となっているとは。あの時に見ていた自分が思う事なんてなかっただろう。寧ろなんて言うだろうか?そんなことしなくていい?はっ、片腹痛いことを抜かさないで頂きたいものだ。あんな日があった以上いや、あの日が起きることを想定していなかった己の方が未熟者と言わざるを得ないことだろう。
だってこの二人はそれすらも想定して互いの距離を守っ
「(考えるな…とは言えど、か。)」
組手を始めて、大体1時間が経過した辺りだろうか?相も変わらず都結の精神は上の空だ。あの日の時の方がよっぽど現実を見ていたことを理解しては戻れないことを知っても尚、彼女はまだ、今もまだ、あの場所に置いている。
あの深く青い空から薄れていく秋空の終わりに溶けてそのまま消えて、
「そうくれば、こうなると、分かった筈!!」
『ぐ、っ!』
脇を上げれば隙が出ると言っても言うことを聞かない。これだから脇をやられ、死んだんだと言っても、だ。それでも生きて居るのは、彼女の神が、そう願っているからであって。皮肉なものだ、その忌々しい神に、今自分達は感謝しなければならないのだ。だってこの者は自分達の命を救ってくれただけでなく、
「其処までにしましょうか。」
「、っ、はい」
『っは、っ、んっ、は…』
「はいお水をどうぞ」
大神官様の心すらも、救ってくれているお人なのだから。
本日はお日柄もよく、とはこの日を言うんだろう。秋空のような青々とした、深い色合いの青空の下で、本日はコルンと組み手に、ととある宇宙の下に降り立っている。あの日、身体が動き出してからというもの、全てが変わった。
まず、都結の身体に異変が起きた。
胸元にひし形の穴が出来たのだ。其処から何を想ったのか知らないが、青い宝石のようなものが現れた。アゲート曰く、覚醒後による影響下なのだそう。基本的に喜怒哀楽で色が表示されるが、それはあくまでも特定の色。通常の色はそれぞれで異なる上に、枠もまたそれぞれなのだそう。
ーソレは王家の証だな
ー王家?一体どういうことですか。
ーひし形と三角は常に表裏一体。上の三角と下の三角を兼ね揃えた者がひし形つまり全てを知り得る者だ。
それは物を使えば凄まじい威力を発揮する。…其処ら辺の破壊神が束になって掛かったとしても、軽く一振りで振り払える程度には、な。
そのひし形に、青い宝石のようなものが組み込まれた。その色が都結本来の色なのだそう。青空の、透き通ったような水色の色。それが、都結の一番綺麗と言っていた色だった。青空がとにかく好きだった。それでも窓越しから見ている都結は何時だって、寂しそうで、その姿を見るのが、コルンは一番嫌だった。だってまるで、自分が其処に辿り着けないと諦めたまま眺めて居るように見えたから。
そう、その眼を、彼女はその日からしていた。だからコルンの機嫌もかなり悪かった。舌打ちをしてみても、彼女には響かない。まるで人形だ。心ここにあらず、宝石を砕いたその時、貴方が永遠とも言える眠りにつくのを分かっていて、それでも尚、貴方はその時間ばかりを見続けるというのか。
胸元直に光っているのであればまだ良かったが、これの何が問題かと言うと、その衣服を装着したとしても、宝石だけが浮かび上がって一番前に出てくる仕様だったことだ。まだ中に潜り込んで見えない方がまだマシであって、こうなってくるとアクセサリーという点ではまずい位置になる。宝石にヒビ入ると、流石のコルンもぎょっとするし、大神官も目の色が変わる。
それでも彼女の目は全く動じない。まるで死んでも同じかと思うように、心は此処に残されていない。
「上の空ですねぇ」
「…嫌にならないのですか?」
「それは彼女が記憶を取り戻した私を見ないからですか?それとも彼女自体がこの世界で生きようとしないことから?」
「はぁ…そんなもの両方に決まっているでしょう?」
お父様こそ、一体何を言い出すのですか。
ふふふ、少し揶揄っただけではないですか。
「相も変わらず揶揄い方が分かりません。」
「おやおや、まだ分かってくれませんか。」
「はぁ…」
もう頭を抱えるのすら億劫になった。あの日は本当に肝が冷えた日だった。モヒイトが目を放した隙に、ふわりと花の匂いがして、突如姿を消した日だ。それはもうとんでもない形相だったそうだし、実際見た。アレは久しぶり、いや、下手したら初めてだったのかもしれない。これで彼女が見たことあるとか言ったら殴りたい気持ちだったし、いや殴らせてくれるならば、どうか殴らせて欲しかった。
ーっすいません、コルンさっ、かっ、かのじょが…!!!
あの子が姿を!!!
すぐに大神官様に連絡をしていたことを知らせる。冷静にさせ、取り乱すなと言い、界王神に言ってすぐに彼らの宇宙に飛んで来て事情を聞いている間に続々と天使らも集合してきた。今動ける子達で捜索しに行くのだろう。あの子はまだ未熟ではあるが、それでも下手に記憶を改変したら、大きな脅威に変わると確信していたからだ。
忠誠心が異様に高いことは知らなかったが、それでも何処かぞわぞわと、変な感覚が腹の底で内側を撫でまわす感覚は未だに覚えていた。そんな時、ブンと音が立って此方に録画か、映像が映し出された。喜びもつかの間、彼女の姿は何時しかウイスが叱ったような衣装どころじゃなかった。
ーやぁ、僕の名前はシトリン。この子のことがそんなに欲しい?
目に入った情報は全て嘘だと言われたらどれ程良かっただろうか。彼女の肌を包み込む布なんて一切と言ってもいい程に無い。ただ大事な部分は角度的に見えていないが、それでも此方の精神攻撃を、というならば大成功だろう。あんぐりと口を開けて、固まって見てやるしかなかった。
一応生きて居るのは肩の呼吸で分かるが、あのままでは風邪を引いてしまう。と、何処かで変な冷静が立ったことに鼻で笑ってしまう。相手の精神攻撃に流されていては、まだまだであるというものだ。すぐに天使らも落ち着きを取り戻すが、
ー気をお鎮めなさい。第九
それでも自分の宇宙が仕出かしたことの重大さに、彼らが怒らない訳もない。危険に晒してしまった罪悪感は勿論あるとしても、その状態はそれを上回る程に非情な状態だった。まだ肌が綺麗なままであるのが、良いと思った方がいい。嬉しそうにひとしきり笑った後、シトリンが交渉を出す。
ー僕らの狙いはこの子の命。そして君達はこの子が欲しい。どうだろう?一度手を組まないかい?
ー何も手を組むことなどない
ーこれ、話に乗らないのですよ!!
ニヤリと笑った後、彼はそっと都結の身体に近づき顔だけ首周りの方に、と近づき続けた時だった。
ビギッ
そんな何かが軋んだ、でも確実に割れそうなガラスの音がした。
ー、さま
ー余り粗相をなさらないで下さいますか?…対価がお望みなのでしょう?
ーっ、そうそう!そうこなくっちゃ!!
ー大神官様!いけません!彼の言葉をうのみにしては…!
ーでは貴方はあのまま彼女を放置しろ、と?
天使を殺せる人間を、そのままにしろ、と?
…は、?
ーい、ま、なん、と?
ーへぇ?知らせてないんだ。意外
ーその子以外その類の血族は現在確認出来ていませんからね。
ー成程、脅威にもならなければ知る由もない、か。流石は中立者だ。ま、それも今はただの男とも見える。
愛する者を囚われたことへの?嗚呼それともあれか。
ー”己の中立に彼女を巻き込んでしまった罪悪感と彼女の清らかな状態を傷つける様な現状”が嫌で堪らないと見た。
ーっきさま…!!無礼な!!!
ーやめなさい。事実ですから。
ー大神官様!?
さらっと本音を言った彼にも驚いたが、それでも真っすぐだった。彼は記憶を消し去っている筈なのに、だ。いや正確には封印していた、ではあるが…だとして、も。其処迄見る様なことはなかった。何処で蓋が少し開いてしまっていたのだろうか?都結の状態を見て、よりも彼が、シトリンが近づいたことで怒りの余り、空間を壊そうとしてしまった大神官様が恐ろしい。
ー何が望みです?貴方の場合、地位や名誉、後は金銭と言ったトラブルは持ち合わせていない。そうですよね?食事やらの些細なことは基本的に感情と太陽光の二つさえあれば、大体の栄養素は摂取出来る筈。元々の肌色は此方側に近かったハズですが?
ーっな!!!
ーへぇ?よく知ってるじゃん。調べた?それとも、その類の子と暮らしてたか。
ーご想像にお任せ致します。それで?願いは何ですか。
ー”この子を殺すこと”それ以外方法はないよ。
ーでは何故我々に?そのまま殺したければ殺せばいい話ですよね?
此方の感情を対価に、と言った処だろうが、恐らくそれだけで留まらなさそうなことはあるとみた。だってそれならば、もう少し都結の身体に触れたりなんなりして、こっちの感情を煽らせ眺め見ている筈だろうから。
ニヤリと笑った彼がそうそうと言って話す。
ー正確にはこの子の中に居る獣を殺したいんだよ。僕達なら殺せるからね。
ー獣?
ーそれが一体どういうことか、貴方は知っている筈。
ー嗚呼知っているよ?この子のありのままに傷が入ることも、その後の蘇生でも確実に影響下が起きることだって。
そして二度と、一番の願いが叶わなくなることだって、ね。
…なんですって?
ーそれをして何がしたいというのですか!そもそも獣って、
ー困惑している子達にプレゼント。この子はね、種族ノヴァーリスの血族なんだよ。それも王家の方直属のね。
ー何を言っているのです。
ー…いえ、彼の言っていることは嘘じゃない。
ーサワアさん?
以前聞いたことが、いや見たことがあります。書庫に入って、気になったので手に取ってみたあの記録が。
ーその種族は元々一つだったが、力は二つに分散されていた。一つはどんな力も引き出しては封印出来る者達。そしてもう一つはどんなことも成し得る者達の二つだった。
片方は片方の願いを叶え続ける、二人三脚での活動を共にしていたそうだ。夫婦とはまた違う、強いて言うならば
そう、本当にどんなものでも出来た。それは例え、天使らの殺害だって可能であって。
ーですがその種族は大昔に絶滅したはず。少なくとも我々が知る範囲とは遥かに遠い過去のこと。
ーその過去に生きていた子達が別世界に飛ばされていた、と言えば?
ー…まさかその生き残りが、
ーそ。この子ってこと。
とは言っても、彼女自体がやっと、と言った処らしい。祖父母が血族で、その子が他の男とくっついたが、その男も実は血族だった。その子供が、都結一人。ただこの子にも兄妹が居たらしいが、それも行方不明になったままなのだそう。都結自身が言っていたのだ。「私はお兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しかったからどっちかが居たらいいのにって。でも確かにいたんだと思う。だってあの人達は不思議そうな顔をしてたから。なんでお前が知っているんだって顔。」
でもきっと死んでいるのだと言っていた。1人で、と育てていた状態は勿論だが、その家具を見ても、男が居たのは目に見えたから。だって片方の実家に機関車やらの男物がある以上、そう言う事だろう?仮に其処の家に息子がいたとしても、だ。昔使ったにしては真新しい形であったから。遊んでいたら喜んでくれはしたがな。
話を戻してしまおう。
ー宝石が出ていない以上、まだ覚醒石の反応が見受けられない。一応まぁ目星は付けたからこれから考えるけどね。
ー宝石?
ー…ノヴァーリスの本来あるべき状態のことですよ。
ーお父様、なにを
ー何処に行っても何をしていても、どんな位置でもありのままで存在し続ける者達の名前です。
何処に行っても何をしていても、誰かを助けられる、そんな人でありたいの!
そして誰かを結び繋げられて、その世界をずっとずーっと笑って見守れる人!
それはまるで、温かな陽だまりの、そう春の
ー貴方が望んだ時間の先にある最果ての、ね。
都結自体が何時か言っていたのを思い出した。様に言う大神官に、周りもはた、と足を止める。いや最初から止めていたが、息も止まったように感じた。その時間を切ったのがシトリンだ。
ー次の時間にこの子の核を引き出す。そのまま死んだら、というか死ぬわけないけどね。
ーどういうことですか
ーそのままだよ。この子は皮肉にも、自分を活かす力を培っていることすら気付いていない。
まさか一番守りたいものを持つ為に、ダミーを用意していたそのダミーが、本当に必要に守りたいものになるとは、想定していなかったことだろう。未だスヤスヤ寝ている彼女が恐ろしい。天使らが付けていた首輪は、一応ついていたので恐らく位置は特定出来るが…
ー位置は分かった筈。こっちから強い信号を送ったからね。じゃ
ーまちなさい!…我々が行く時には彼女をそのまま返す。出来なければ貴方らごとどうなるか
ー構わないよ。…どうせ死に損ないだし。
ーえ?
ーじゃ。
そう言われて本当に切られてしまった。後はもう言うまでもない。彼女の気を察知した神々が急いでその惑星に降り立ち、洞窟の内部に侵入した。手分けして捜索していたら、シトリンやローズらが待ち受けていて、戦闘をしている最中に、都結が大きなあくびをしながら起きて来たのだ。それも全裸ではない状態で、だ。流石にローズらも驚いていた。何せ見ていた時は肌に付けているものなんてなかったし、それどころか左足に鎖でベットに括りつけられていた筈だったからだ。多少の身動きは取れたとしても、出て来るなんていやましてやベットから出れるような状態ではなかった。それはつまり、
ー…出来上がってる
ーえ?
ーお前ら駄目だ、下がれ。此処は俺が行くしかない。
全員援護に回れ、多分全員が死ぬと思った方が良い、そう言っている間に、軽く一人が吹き飛ぶ。都結が何処で何をしたのか知らないが、体内の奥底に落ち、化け物と会話をしたのだろう。そうでなければ、説明がつかない程の力を放出しているのだ。自分で操作し、自分で言い聞かせている信号が届けられる。
ー”これは浅い夢を観ているんだよ。だから大丈夫、そうだ!目を醒ましたら温かい紅茶を飲もう!”
きっと美味しいよ、またケトルで沸かせてしまうんだ。そう言っても、心だけで、その心からおぞましい声が上がる。獣の低い音に、彼女が深く笑みを零した。嗚呼、それは人を殺すような目であって。一体どれ程の人間を殺したのだろうか?
彼女の精神という人間を、
焦った者達が手分けして周囲を囲むように動く。出て来た都結を受け止めていたコルンも手を緩めることなんてなかったハズなのに、するりと離れてから空へ飛んで攻撃を繰り出していく。風のようにキレがあったり、花のように花びらをまき散らしたり、宝石のような破片が飛び散ったり、と様々だった。まだ決めかねているという印象が見えたから、アゲートも攻撃の手を止めなかった。
間違いなくこれで殺せる。化け物に対して標準を切り替えた刃で刺した筈だったのに、ズレた。
大神官が飛んできたのだ。彼に傷は入っていないが…それでも都結には確実に刺さった。此方でしか聞こえない程に低く、そして小さな舌打ちが入る。崩れ落ちた彼女から、観測した場所には化け物が倒れている様にも見えた。その大きさは計り知れなかった。通りで見えない訳だ。この空間丸ごと入るか、と言える程の大きさを誇っていたら、それは立っていれば見えないというもの。
サイズが大きすぎた。だから、確実にはとどめをさせなかった。が、都結の精神はズタボロ。時間経過で彼女が死亡し、蘇生した時は神々が手を使い、化け物も力を使って二つの形が奇跡的に組み合わさって、生き延びてしまった者。
それが現在の都結だった。