夜間飛行のカーテンコールを3




『たしゅけてえーりん…』

本当にこれは何度目だろうか。しくしくと泣き声を出している都結。時間は少し巻き戻る。

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『お散歩?』
「そ。散歩。」

とは言ってもただの散歩ではない。ちらりとコルンに目配せをしてやれば、少し席を外される。

「お前今気を放出しても泣き叫んで相手にぶつけることすらやらないって聞いたが、マジか?」
「ぶっ」
『まじまんじ』
「ド阿呆」

何も殴らなくていいじゃん!
敵を殴り殺さないとこっちが死ぬ状況下で何躊躇ってんだこの野郎いやこのアマか。

「どっちでもいいだろうが」
「ま、その感じだと大方アレだろ?敵に傷なんてつけなくても交渉でなんとかなるとかほざいてるんだろ。」
『うぐぐぐぐぐ』
「まぁ〜格闘系は全部こっちや向こうで叩き落せればいいから支障はないがな。」

だとしても、飛距離も飛ばしたことのない、気を出すだけ出した。それで満足なんてさせられるわけもない。そもそも、この子。実を言うと空を飛んでいると言っても大体身長差分程度の高さである。まぁあっても一メートルあるかないか…。其処で思いついたのが、浮遊である。これなら自分の体内に維持出来るし、まぁやろうと思えば気を風として作り上げ、身体を浮かせるという精神は勿論のこと、肉体での操作も練習出来て良い訓練にはなると思ったのだ。

勿論それには賛成のコルンが、連れて来た人というのが、だ。

「ほらほら、もう少し頑張ってください。さもなくば抱き上げますよ?」
『無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理』

大神官である。本当に暇か?

「な訳ありますか。これでも割と面倒な仕事を終わらせてきた後なんですよ?…お礼、たっぷり貰わないと帰しませんので。」
『(無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理)』


むり!本当に無理!顔が良い!!!なんて言ったって顔が良すぎるんだよこのクソスパダリ大神官様がよおおおおおうわああああん!顔面隣にいるうううう辛い無理本当に心臓が死に絶えそう。

「おや?死んだら困りますね。ですがご安心を。」
『え?』
「私が蘇生して差し上げますので。」

もう無理感無量で今すぐ死んで良い。

「誰が許すかこのドアホ、さっさと浮け。熱湯に落とすぞ。」
『ぎゃみっ!むり!だって無理だって!そもそも風を扱うってアニメや漫画の一部だし!』
「…ではお尋ねしますが、都結さん。」

なんでしょうコルン様

「そのアニメ、とやらでは具体的にどんな動きをなさられていたんでしょう?私其処迄見ていませんでしたから。」
『嗚呼確かにコルン様びっくりするくらいに洋画見てましたよね。それも大神官様ドはまりした奴全部見た。』
「そうだったのですか。」
「結構ハードでしたが、非常に楽しめましたからね。」
『その手と全く違うんですよね〜知ってる子だと、あれか。マルカリータとか、後はモヒイトさん辺りも知ってる。』
「モヒイトさんが?」

意外だろうが、普通にサラッと都結が言う。なんと数名の天使はソファーに腰掛けさせ、椅子にさせて座って鑑賞していたのだ。

『もう後半なんでもしろ。みたいな顔してたけど…あれは一体何だったんだろうか。』
「(まぁ単純に見たいよりも、見たいものがあるからその生贄にされた。が正しいんでしょうね…)」

モヒイトも可哀想な役割を担ってくれたものだ。

「それで、どんなものでしたか?」
『ええと、確かこうして風が回って…こう、身体に纏わりついてるものもあったけど』

やっぱり風はない見えない方がいい。ふわりと髪の毛が浮かび上がり、その分身体も浮遊する。そうそうこんな、


『”浮遊レビテーション”!!!』

その言葉と同時に、都結自体の身体に風が一定で巻き起こり続ける。ふわりふわりととにかく空中に浮かび続けていた。それも、かなりの時間維持が出来ると来たものだから、おおと声も上がる。両手を横に広げてぷかぷかと浮かび上がるところは、まるで風船のようだった。

「うまいですね。」
「いえいえ」
『む?もしかして嵌められた?』
「ふふっそのままこっちに来れますか?」
『うえええええ』

嵌められたことで降りたいところだが、如何せんこれの解除の仕方が分からない都結。そんな彼女の前で笑いながらも両手を広げ、上からこっちですよ〜と赤子のように対応している。本当に触れられない場所から、である。じたばたして背伸びをしている都結に、笑顔で。

「(ま、あれ程笑えたら上等だな)」

勢いで飛び込んでいけば首元にしがみついて離れない。余りの高さに怖気づいてしまったのだろう。しがみ付いて離れないので、抱き上げてしまえば効力も切れたのか、身体の重心が大神官の腕に直接乗ったのに互いに気付いたらしい。クスクスと笑って面白そうにするが、こんな小さなことで喜ばれてしまっては今後が大変なことになってしまう。

何メートルとんだ?と聞いている都結に、大体5〜6程度かと、と大神官が答えてやる。五階建てだと笑って何とでもない話を続けている間に、声を掛けられた。

「不思議でしょう?嗚呼して時々お話するんですが、それでもお二人共、ひとしきり笑ったらそんなこと知らない程にまで距離を取られるんですよ。」

そうして居続ければいいのに、膨れ上がりそうになってしまえば、毎度のように、都結の気を逸らしては首元に手を掛け、彼女の意識をゆっくりと落としてやる。寝かしつけたら、コルンが回収し、その後都結の部屋に寝かしつけにいくのが恒例になっていた。すやすやと彼の身体でぐったりして寝ているのを見ては、ため息を吐いて回収しに行く。

「(夢の中ですら、お前は奴に会わない…いや、会えないのか。)」

会ったら、それこそ分かってしまうから。嗚呼この人じゃないと駄目なんだ。って、想ってその手を取って笑い続けられたら。どれ程良いだろうか?どれ程その時間は、

「(せめて夢の中だけでも、楽にさせてやれたらいいんだが…)」

エフェメラルらが今急ピッチで裏では動いてくれている。もうすぐだ。もうすぐしたら、きっと今迄よりも更に楽しい世界が待ち受けていることだろう。そう、もうすぐ。今は彼女の力も、化け物も含めて、封印石でなんとかなっているが、それでもあの惑星に居なければ生き延びることは不可能だろう。

「帰ろう」

そして、あの惑星で、また歩き出そう。

そう言って髪を撫でてしまう。風がふわりと彼女の髪の毛を撫でてくれた。

まるでそれがいいと、言っているような気さえして。

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そうしてやってきたは、先日遊びにと言う名で異常が何もないかの偵察を兼ねた惑星ディール・コップキーノでの話だ。都市に住まう、と言っても流石に一人で掃除するのは酷だろうということで、他の天使らもこの惑星を覚えるというのも兼ねて、数名がやって来てくれていた。今回は第8は勿論のこと第9や第4と割と珍しい面子での組み合わせ。

「我々は東側を掃除してきます。モヒイトさん達は西側を。コニックさんは南側を担当してください。後で北側は休憩が終わり次第全員で掃除しましょう。」
「わかりました。では後程。」
「都結さんはアゲートさんから離れないのですよ?」
『え〜』
「えーじゃない。」

また一人になっても知りませんよ?
やだ!
なら傍に居なさい。では彼女を。
嗚呼

「嫌なら迷子紐にでも括りつけて面倒見てやるから任せておけ」
「ふっ、それは心強い。ではこれで。」
『ああ!反論できなかた…』

大体この都市も、中央都市ではない。都結がふわふわと浮かび上がるのが余りにも遅かったことにいら立ちを見せたロウが、ふと都結自体が綺麗な気を生成することを思い出した。試しに大きなものを出してみろというので、綺麗なものを瞬時ではあるが出してやる。手から水のようなものを生成し、そのまま大きくして抱き着いてしまえば、ちゃぷりと水の音がする。気は其処迄リアルに作り出せるなんて、早々出来ない仕業であるのを、彼女は知ることはないのであろう。

嬉しそうにきゅうきゅうと音を鳴らせて遊んでいると、しっかり掴まっていろと言ったロウの、次の瞬間だった。勢いをつけ、空に飛びあがった気に、都結も声が出なかった。飛びだした後止めてしまえば、腹を抱えてロウが笑っている。どうやらツボったらしい。怒って手を動かしたい都結が気の上によじ登ってから手を前に出してぺちぺちと気を叩くだけで留まっているのが、尚彼の刺激になるのだろう。ひたすらに笑い転げている。主に空中で、だ。

そのまま移動し、彼女の良いと思った土地を整えればいいと言ったのだ。それなら維持程度余裕だろうと言ったロウに、任せとけ!と言った都結。この後全員で移動し、ある程度片っ端から見積もること、大よそ六時間あたりが経過した処だろうか?昼食を取ってから、移動した処はただの中庭だったことに気が付いた。

『綺麗ですね』
「ええ、内部の損傷も殆どありません。」

城の上、塔が近くに見える範囲で、テラス程処で済まされない程の中庭がある城があった。陽射しも良い感じに入るし、綺麗にもっと整えれば、此処は小さな水の通路まで完備されている。きっと廊下も綺麗にすれば蓮などを入れ、育てることも可能だろう。石畳の塔なのでかなり寒いが、この土地自体が温暖で、非常に過ごしやすそうだった。

部屋も幾つかに分かれており、大きく分けて五階建てとなっていたことが判明した。地下に倉庫があった。薄暗い石壁の通路には、古びた穴が立て続けにくり抜かれていたのを見る処、恐らくろうそくなどを入れる処だったのだろう。間隔も均等で、その通路を上がっていけば、下層に出る。

下層では、食堂だけでなく、兵士達らの宿舎も兼ねているように見えた。城に入って左右と奥に分かれている。上にも上がれることが出来るが、そっちは謁見の間、王家らが国民らと会話をする場所のようなものへ繋がっているようだった。そして別の区画ではあるが、東側は図書館。因みに右側の西側は食堂になっている。兵士の宿舎は東側の奥だ。

そして謁見の間を詳しく調べていれば、小さな通路が隠されていた。其処から上層階、貴族や王族が暮らしている居住区に繋がっていた。壁には織物や絵画、蠟燭台なども結構な仕上がりで保持されていた。とは言っても、それでも所々錆び付いており、其処ら辺はきちんと入れ替えした方がよさげに見えた。

そして、その上層階でも庭園があった。大体大きく分けて3エリアだ。中層の南側エリアの食堂を兼用したみたいな庭園と、後は王族が使いそうであろう、少し北側に近いエリア。そして、最後のエリアは北東にある、こじんまりとした庭園だった。此処が最上階のエリアで、近くには部屋も数部屋ではあるが用意されていた。

そのうちの一つが、大体広さは20畳前後だろうか?広々とした部屋は勿論だが、その内部も洒落ていた。城の他の内装とは違った、大理石やらの装飾は一切ない。床材は木材で出来ており、所々ぎしぎしと言って、かなり古びれていた。底抜け仕掛けた都結の身体を何とか掴んだアゲートが気を付けろという。

「前見てあるっ、っておい!!」
『ご、ごめんなさい』
「良い。にしても古いな此処は特に、使い古したのか?」

ずぼっといった。次は大丈夫だと思っていたが、予想以上に足を持っていかれたので痛い。固まっていると、剣を使って周りの板を綺麗に切って上へ上げて貰えた。痛いだろうが我慢しろと言って、応急処置を施してくれる。バンダナを使って、持って来ていた消毒液で綺麗にしてから、まだ使っていない部分を破いてしまう。

『ああ!』
「黙ってろ」

綺麗に巻けたら完成だ。流石に動かせる状態ではない。抱き上げるぞと言ってから、彼女を抱き上げる。周りをみたら、其処は本当に庶民が使いそうな部屋ではあった。

開放感がある程の窓枠は木製の枠組みで、ガラスもかなり煤けて前が見えない程。天井は割と低めで、まるで庶民の家の屋根裏のような雰囲気がある。木枠が見えている。城の石壁をそのまま使うことなく、素朴な白い漆喰で覆った部屋。窓側にはシンプルな木製のベットが置かれており、少し上質なのは抜けていない。埃があっても、ふわふわとしていた。

リネンやウールのような素朴で出来た掛布団だ。非常に触り心地が良く、夏ではきっと大活躍することだろう。

横の壁には机と椅子が置かれていた。木製で、少し使い込まれているのだろうか、少し深い木の色合いがみえた。収納は木箱や棚に何かが積まれていた。恐らく此処で暮らしていた子のものだろう。本も本棚があり、ぎっしりと、とはいかないが絵が描かれたものもあった。非常に細かい色彩を使った絵もあれば、人物画で、何処に居たのか分からないような子供から女性、男性らも描かれていた。

小型の暖炉があり、薪をくべて、暖を取ることが出来る。天井から吊るしたオイルランプは煤けているように見える。壁に掛けた素朴なろうそくに火を灯せば、一応灯りはついた。机の上には小さなオイルランタン、もうこれだけあれば充分だろう。

「明らかに、庶民が暮らすような間取りだな。」
『だね…此処凄く居心地がいい…!』
「よし。此処にするか。」
『え゛』
「部屋は他にもある。似たような部屋もあるし、何より上の方は俺が使っても問題なさそうだ。」

本当に位置は少々変わるが、それでも物は同じだった。この部屋以外にも、休憩所とも言える様な中間地点の一室や、密会したであろう小さな部屋。後は最上階の上には、星見台があった。此処で夜空を見ていたのだろう。小さな小屋というか、風を凌ぐ場所も見えた。

下に降りよう。と言った声にうんと頷いた。階段を降りている間に、声が掛かった。

「っと、此方におられましたか。」
『わわ、コニックさん!』
「どうしました?」
「予想以上に早く片付きましてね…おや?足が、どうされたのですか!」
「ちょっとドジやらかしましてね。」

えへへ、ついそのまま歩いちゃって。床抜けて
嗚呼もう…回復は?
それが出来て居たらこっちがやっていますよ。

「自分は蘇生やらの類は可能ですが、如何せん回復は管轄外なんです。」
「そうだったのですか!てっきりそっちも出来るものかと…」
『いたくないよ!』
「いけません。外傷は出来るだけ早く処置するに限ります。」

貴方の場合、我々の回復が異常な程に効果が見受けられませんからね。全力で回復しますので。
びえ

「これに懲りたら?」
『うー…もうすこし周り、みて活動します。』
「よろしい…はい、そのまま足を」

ええ、ありがとうございます。

そう言って杖を出した彼が本当に気を全力で注ぎ出す。それに気付いた子達が続々と集まって来た。

「どうされたのですか」
「何やら気が、って」
『あばばばば』
「っくくくく、ほら〜言っただろ?前向いて歩けって」

ごべんだだい。そういい切れていない言葉に、ふふっと吹き出して笑い出す一同に、ふんふんと怒っているのか、鼻を鳴らしている。良い見せつけである。これに懲りたら本当に周りを見て歩いて欲しいものだ。回復は出来ているが、今日一日走らずに安静にしろと言われてから降ろされる。

次走ったらリキール辺りにでも担がせていくからなと言えば、都結が全力で助けての顔をしてみてくる。が、流石にこう毎回されてぐずられても困る。今回限りは力になることにした。勿論都結は全力で落ち込んでいる。多少なりとも痛みはまだ残っているのだろうか、そっと降りてからも、手は宙に浮いて、ゆっくりと歩いてはコニックの方を向いては前を歩いてを繰り返す。

これでは日が暮れる。

だが、いずれは慣れて歩いてくることだろう。コルンらは先に行っているからと言ってすたすたと前を歩いて行った。嗚呼という声が落ちた後、声すらも出さなくなる。それでも約束はきっちり守ろうとする。余程リキールの手を借りたくないらしい。まぁとは言ってもリキールが嫌いだから、とかではなくて。

単純にリキールの迷惑になりたくないから、という強い意思からであった。そう思うならもう少し周りを見て動いて欲しかった。まぁ以前来た時は別の城ではあったものの、とてもいい状態だった。その余裕もどこかにあったのだろう。こっちでも大丈夫、という意識が渦巻いたことでの、今回である。

「にしても幾ら何でもドジすぎやしないか?浮遊出来るようになってるハズだろう?」
「それがあの子、はしゃぎ過ぎると前すら見ているようで見ないで動きますからね…大方周りを見渡すのに意識して、下を向く余裕等なかったのでしょう。」
「もう少し周りを見て動かねば、この先やっていけませんからなぁ〜」
「だがアレをよく甘く見ているなお前達も。」
「いいや、これでも結構厳しいというか…アイツから厳しくするんだよ。」

意外ですね。彼女が?
ええ、リキール様の仰ることは事実ですよ。

「先日だって明らかに戦えない状態だったんですが、スイッチ入ってしまい意識がなくなるまで戦わせてしまいましたからね…その時の筋肉痛だってまだ癒えてないでしょうに。」
「それ程まで身体を酷使してたんですか…」
「言っても身体が無意識に動くのだそうですよ。まぁこっちで動いているのを見て、精々反省なさってくださいね?」

都結さん?分かりましたよね?
あびゃ

「はっ、どうです?其処で座って眺めるだけの状態は。大層良い景色でしょうねぇ?」
『ああ、あああ、ああああ』
「…何故にあれ程狂いそうな程に泣き声を出してんだ。」
「力になれず、葛藤しているだけですよ。」

今すぐ手を止めたい貴方と違って
煩い!

「第一お前が…!」
『はわ…めちゃお喧嘩してる…どうしよ。』
「そのままでいいですよ。貴方は高みの見物で。」

あのお兄さん物理的な高みの見物いいんですか?
そもそも貴方、足は?どうせその感じ、コニックさんに絶妙なところまでしか回復受けてないんでしょう?痛むはずですよね?歩いたら。
あば

「そのままで構いませんよ。寧ろ先日からあれ程動いているんです。今日くらい休まれていても罰など当たりはしませんよ。」
『あう、でも…』
「これに懲りたら?」
『…周りきちんと見て動きます。』
「よろしい。では私も掃除に取り掛かります。砂時計の砂が落ちる頃に我々に声をかけて下さい。誰でも構いませんので、呼ばれ次第休憩に致します。」

そう言って捌けたのはモヒイトさんだった。うう、皆してそう言う…まぁ事実ではあったんだよなぁ。このまま何もしないというのも面倒なので、持ってきていたリュックからお絵描き道具を出してきた。この際だから皆の絵を描いてやろう。気付いたらコルン様描いてたのは内緒だぞ!えへへ、沢山好きなんだよ。ほんと。

サラサラと描き続ける。そう言えばこの土地、ねぇとアゲートに声をかけた。

「ん?どうした!」
『ちょっと気になったんだけどさ、この土地というか、この惑星自体の資料ってあるの?多分こういう城だと図書館に資料として残されてたりとかしない?』
「嗚呼いやっ…多分ない、可能性が高いな。」
「おや?そうでしょうか。こういった城は統治し、首都での交流もはかるでしょう。我々が見た処から推察するに、他の道の整備も出来ていました。」
「大昔は動いていただろうがげほっごほっ…あ〜、別にそんなの関係ないだろ?昔のことだろうし。」

此処が良いとは言っても、他の城と比べたら予想以上に煤けている。その為整備も割と難航しそうではあったが、それでも確かに空間はこじんまりとしていて、居心地は良かったのは事実だった。北側の奥にも庭園があり、その先には

「おや?あちらの小屋、なんですかね?」
「あ?嗚呼確かになんだろうな?石畳の小さな」
『石だたああああっきゃ』
「っと!」

あっぶない…!貴方風使えるようになったんじゃないんですか!
流石に咄嗟はむりでふ

『すみません、ありがとうございます。』
「いえいえ、大事がなくて良かった。それよりも何故落ちて?貴方がそんなヘマするような子ではないと思っていたのですが。」

高い処から落ちる、なんてことはしない。寧ろ高い処に上らないまである都結だ。何だったら足がすくんで動かなくなる始末。先日余りにも苛立ったロウが遊びで都結を石の上に飛ばしてやったことがあるが、その時はもう半泣きでごめんなさいだからおろして!って涙ながらに身体をこわばらせていた。気分は良くなったが背後からの圧を感じ、それ以降はしていない。何だかんだ言って大神官様の正妻に、という者なのだろうか…

とは言っても、彼の好みにはちょっと違うな、と思っていたロウ。彼はもう少し身長が高くて、すらりとしたおしとやかな女性を好むと思っていたのだ。知的で、優秀な万能でもある人材だ。周りの状況を察知しては指示を的確に伝え、周りを纏めていけるそんな人。確かに別世界で恩があるとは言え、それとこれとは話が別問題だと思った。

よくよく見たら顔もまぁ悪くはないが、かと言って良くもない。頬も割と削れているし、まぁもう少し太れば可愛らしいかもしれないが、だとしても限度がある。其処ら辺の町娘と言っても変わりないし、普通に潜入しても全く問題ないくらいだろう。その土地の環境に慣れるか、後は言語が通じるかとかにもよるだろうが。そんなことはどうでもいい。

「(正妻、ねぇ…)」

表向きはメイドとして活動しており、その働きぶりも一応目でも見ている。何だかんだ言って、モヒイトらの方にも来ていた都結。ロウの界王神星に一度泊まった時のことを、ロウは思い出した。その日は綺麗な夜の暗がりが出た時だ。本当に数千年の単位で偶に出る。ソレを言ったら「まるで日食いや、ハレー彗星みたいだね」なんて言ったのだ。

ーハレー彗星?なんだそりゃ
ー知らないの?えっとあっ私も知らないかも
ーおい。
ーえへへ…でも惑星から星が移動するのは見たことある。その中に落ちて来れるかどうかは別問題だけど。まるで夢みたい!
ー夢?
ーうん、だってそうでしょう?


”夢の中で彷徨い出会った者、覚めたら二度と出会えないそんなお人”


ハレー彗星は、数十年の単位で一度周期的に回って落ちてくる星の欠片だ。惑星やらが衝突して出来た破片が宇宙空間を漂い、衝撃でドンドンと他の欠片にぶつかり、そうして落ちてくるのが隕石。ハレー彗星は周期があり、元々惑星だ。その惑星でも、水や二酸化炭素などで多く含まれている為、物自体は小さい。

ーそれはそう、まるで


届きそうで、届かない。
遥か彼方に見える灯台を眺めて居るみたい。


見えるのに決して近付けない。遠海えんかいに浮かぶ灯火とうかのことを言っていた。灯台の光は目視出来たとしても、其処に辿り着くことは、決して容易ではない。海は常に姿形を変えてくる。幾ら近い様に見えたって、ペダルを舵を切ったとしても、風にだって左右されるし、海の流れによっても左右されてしまう。まぁこの場合、船等海の上に居たら、の話である。浮遊出来るこっちの身としては、そんなところで困るならば、とっとと浮遊して灯台の元に降り立てばいいとさえ思うが、きっと彼女の内心は、こうだ。


「(何度だって好きになるけど、それを許して辿り着く時は、全く違う形で出会うことになる)」


それが彼女は嫌なのだろう。化け物になれるお子。天使らを殺害し、停止出来る唯一の存在であるお子だ。そりゃあ知っていたら悪い奴らが良い様に使うだろうし、現に使われていた過去も知ってはいる。知識上仕方がないと嫌そうな顔で、渋々了承した大神官が特別に、今回の界王神や破壊神にも見せてくれた。

その世界は悲惨だった。女子供を優先的にひっ捕らえ、力を引き出させ、無理矢理化け物に変化させては人を殺し続ける。それを高みの見物で見て笑う奴等。人が居なくなった後、化け物たちは決まり決まって川に入って穢れを落とす。そう言ったものは本能としてもある。備わっているものだから猶のこと、可哀想に見えた。

くうくうと、月に向かって声を出す化け物たちを殺すつもりで攻撃をする主。勿論死なないし、攻撃をしようとするが、彼等の封印石で力も反論も出来ないようにさせられる。封印石は、本来覚醒石で力を引き出した後、その力が落ち着く場所を導く為のものそれが封印石の役割だ。身体だけでなく魂にまで負担がかかるものなので、通常出したらすぐに封印し、落ち着かせるだけのそんな役割。

化け物を操作する為だけの、力を利用し、圧する道具ではないのだ。

数十億もの民がいたのに、いつの間にか消えているのも、まぁその噂が広まったことだろう。天使らに仕えることも出来る処が広まっていなかったのが、不幸中の幸い、か。


ーおい聞いたか?この世界にはなんでも一つ願いが叶えられる種族が生きて居るそうだぞ!


とは言ってもその等価交換にもよるし、その種族、その人間単体での話だ。人生で一度だけというとんでもない願いを、大事に抱えていた子達の願いを無理矢理他人が強奪する。道具として扱われる彼女らの身にもなって欲しいが、そんなこと他の奴等には関係ない話であって。奴隷として扱われていた時間も非常に長かった。その為、か…それともこの惑星の空気中に漂う塵が無くなったことからかどうかは分からないが、この惑星から出た子達は、皆通常よりも遥かに短い生涯で幕を閉じることになる。

数十億年もの時間生き延びられる子達が、たった数十年足らずでその命を散らし続けたら…もう、絶滅は目前だった。

とんでもない噂が広まって以降、百年もせずにこの惑星は人が消えた。勿論、戦争をしたところもあった。彼女が移動している間に見えたので、そっと見せないように天使らが彼女の視界の前に飛んでいたのを、彼女は知ることもないだろう。今も過去もそしてこれからも、だ。

戦闘が起きた処は南や西側。此処は北東で、それも上から数えて恐らく3〜4番目程度の地位に位置する処だろう。所謂中流階級の少し上級と言ったところだ。その為隠れ家に持ってこいでもあるし、普通にこの程度の広さであればビルスら破壊神の半分いや、四分の一程度と言っても良かった。

「こんなくらいか」

夕暮れになってきた。何時の間にそんな時間が過ぎ去ったのだろうか。ロウはため息を吐いて、ボキボキと肩を鳴らし、合流することにした。








泡沫の白昼夢


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