夜間飛行のカーテンコールを4



それから、夕食を取れる場所を複数見つけた。大体三か所、いや四か所くらいだ。西側のラインがメインではあるが、北にも一室あったのを破壊神のキテラが見つけてくれた。軽く片付け、整備すること小一時間で食事を取れるスペースくらいには片付いた処で、食事にありつく。

頂きますと言って食べている食事は簡素なものだ。外に持ってこれるというのもあって、本来は昼間の内に全部食べようと思っていたハンバーガーに食らいつく。それにしても、とロウが食べながら話した。

「ここっ、んぐ…よくもまぁこんな処が良いって言ったな。他にも広い処なんぞざらにあっただろうに。」
『…そうですね。なんででしょう?直感が、本能が言ったんですよ。』

此処がお前の墓場だ、なんてね!
…食事中ですよ。

「何言い出すんですか全くもう…」
『えへへ、それよりこれが終わったらどうします?』
「まぁ綺麗に出来ていますから、別に此方で寝泊まりしても構わないと思いますよ。」

とは言っても破壊神達は撤収する。残るとしてもアゲートと二人きりになる。後から合流するであろう第7や後は第3だが、第3は立て込み難しいという連絡をコニックが受け取っていた為、それは無くなった。とは言っても第7はこの惑星自体第9と第8の狭間に位置する処。距離も近いので、結構飛ばしたら大体一日程度で到着すると言っていた。

其処迄かと思ったが、まぁ地球の距離でアニメが見切れるかどうかくらいだし、端から端まで移動するのに半日程度かかるとして、確かに一日かかっても問題はないかと思わなくもない。この広い宇宙だから、其処迄行けるのか、とも思えるが…勿論宇宙は広い。端なんてきっとないことだろう。

風呂場も一応目星はついている。北西にある入浴場を手分けして分担していた第9の者達が見つけていたのだ。一応兵士らの宿舎らにも簡易ではあるが風呂場はあった。身分の差が其処迄なかったのだろうか、部屋もしっかりしており、二階まで横幅から左右の量からして、大よそ数百人は入れるだろうと見た。一部屋には二人部屋として完備。

机や椅子、ベットも左右対称的だった。軽く民宿にしても充分利用出来そうな程でもある。風呂場は北側の方にあり、男女で分かれていた。トイレもきちんと完備されており、下水も一応確認しているが、まぁ乾ききって空になっていた。設備は万全。まぁとは言っても古くなっている為、一つ一つ整備と行けば数年単位では掛かると思った方が良いくらいだと思う。気を使ったとしても、だ。

想像力は勿論だが、その気も質による。余り中がスカスカだと、材質も同じ様になる。密度をきちんと明確に、そして物量も大きさも、比較的知りうる情報を出してやらないと、長く保つなんてことは不可能だ。まぁ勿論、空想上とあれば、話は別問題だが…だとしても、エフェメラルの力はすさまじかったと言えるだろう。もしも現実に、出来て居たら、というものではあるが。

此処の城よりも二回り程度小さな家でも、端から端まで自分の気。正確には華樹の気を使いつつ、自分の気や他の子達の気をブレンドし、自分本来の気を生成させながら、作っていたのだ。非常に正確で的確に。そうでもやらないと地盤沈下どころか、家の耐久性で崩れ落ち怪我するどころか打ちどころが悪ければ死んでしまいかねないものだからな。

「大分空気も埃を取り除けば良くなりましたし、貴方の顔色も今迄見た中でダントツで良いですからね。寧ろ此方で寝泊まりしていった方が賢明かと。」
『そんなに?』
「ええ、そんなに。ですよ?」

そう首を傾げて聞いたのは隣に座っていた第四宇宙の界王神、クルだった。微笑み答えた彼は、カチャリとナイフを降ろして答える。彼等はナイフやフォークを使って、他の食べ物を食べている。この惑星で生息していた自生の植物を毒見も兼ねて食事しているのだろう。少なくとも数時間前にはコニックやらコルンが騒がしかったのは間違いない。

「以前は顔が青白い処か、真っ白に近かったですから。血色も良さそうで、息がしやすそうにも感じます。」
「リラックスし過ぎてそのまま野垂れ死ぬなよ?」
『しっ、しないもん!そんなこと!!』

どうだかなーと言うロウに、キテラらも笑ってしまう。都結は不思議な子で、通常の人間ではない、というのも頷けるものがあった。勿論彼女の性格、質にも寄る者だろう。こっちが心を読み解けると分かり切っている癖に、心の中でよく考え事をしている。それを知られていないと、本気で思っているのだろうか?

『(全くもう、皆して私を何だと思ってるんだろ…!あっ待てよ?普通に小動物と勘違いなされているのでは…?まぁそれでもいっか。皆笑っていて楽しそうだし。私もつられて笑えちゃえるくらいには今が好きだもの。)』

貶されても、罵倒されたとしても。それでも彼女には通用しない。ある意味プライドが物凄く高いので、そんな適当な悪口を叩いてもそっちのけ。信じないのだ。いや逆か。信じた上で、尚も真っすぐにだからどうした?と問いかけてさえ来る始末。それ以上の感情をお前が私に望む。それは私のことを思っている時間がお前の中に少しでもあるということ。

ならお前は私のことが好きだ。そうだろう?

なんて思ってもみないことを思っては戦うのだから、こっちのやる気もガンガンに削がれていく。ニヤリと笑って攻撃を喰らわせようとしても、軌道を変える。傷付けたくないという一瞬の思考に揺れるからだ。真っすぐに貫き通せば、それなりに良い動きをしていたのに。なし崩しに自分から行っているのを、彼女も分かっているから、猶のこと困惑している。

戦わないと死ぬ。死ぬのは嫌だ。この時間が続けばいい。もっともっとずっと長く。そう思っているのは確かなのだ。だが、同時に彼女は気付いている。

私が死んだら天使らは文字通り不死に元通りで全てが戻るならば。

その為ならば、私は命を差し出してやったっていい。まぁとは言っても、勿論痛いのはやめてほしいが。と思っている処、本当に肝が据わっている。それを果たして、天使らが、大神官が許すと思うのだろうか?恐らく、許すことはないだろうし、最悪彼女の記憶を消し、あの場所に軟禁、なんて可能性だって充分にあり得る。

それをしないのは、単に都結が笑って暮らせていたらいい、と思った子達の心ばかりの配慮故、だ。そうでないとこんなのに天使らが首を突っ込むわけもない。普段は周りの子達に目もくれず、自分の宇宙の時間を見定め、場合によっては破壊を繰り返している、この天使らが、だ。

陽だまりに狂って帰って来てしまって以降、彼らも人間らしくなってしまった。それが、都結は嫌なのだろうか。時々もう少し距離を取らねばと思索する考えも飛んでくる。書物らに載っていたことを忠実に守るのは大変結構な心掛けだと思う。だが、それを今の天使らが本当に望んでいるのだろうか?

もう変わってしまったものを、元に戻したところで、幸せが来るとは、到底思えないものだ。

『それにしても何食べてるんですか?もしかして自生していたの調理した…?』
「ええ、普通に食べれそうだったのでね。調理してみたんですよ。」
「普通に美味いぞ。」
「食うのはっっや。」

キテラお前もう少しゆっくりくえねぇのか。俺の分は。
んなもん残す訳ねぇだろうが。

なんて言っている二人。何時の間にアゲートはキテラと仲良くなっていたのだろうか。案外、都結が修行している時彼も修行をしているので、その時にでも仲良くなることだってあるだろう。


「ああそう言えば、先程掃除している最中に菜園なる場所がありました。」
『菜園?』
「ええ、北側正確には北西のそれも上にあるところです。」
「おや?西側の陸地ではなかったのですか。あの盛り上がった先の…」
「其方以外にもあったんですよ。」

恐らく王家の者達が作っていたんでしょうね。そう言った彼に指を指された場所の方角だけ覚えて置く。恐らく今日の寝泊りは騎士らが寝ていた処になるだろう。風呂も使えるということで、今晩は泊っていく。皆が帰るのが凄く寂しくなってきてしまう。それに気付いたクルが大丈夫ですよと声をかけた。

「また遊びに来ます。近いうちに。」
『…ほんと?遠いのに?』
「ええ、勿論。それに界王神は一度見知った土地であれば移動出来ますし、何より貴方の気を我々は知っていますからね。」
『…あ!瞬間移動!!』

ええ。まぁ事前にご連絡してから飛んできます。流石に何も無しに、とはいきませんよ

「ねぇ?」
「なんでコッチを見るんだお前は」
「いやしかねないと思いましてつい。」
「一々癪に障ることをするなお前って奴は」
『ああこういうのを好きも好き好きすすきのうち、と。』
「それを言うなら嫌よ嫌よも好きのうち、ですよ。」

後それ、主に女性が男性に誘いを掛けられた際などに、口先では嫌がっていても実は好意が無いわけではないと解釈する意味合いだった筈では?
えっそうなの!
も〜〜〜

「ま〜た貴方ってお人はそうやって適当に扱って…」
『えへへ!すいやせん!善処します!!』
「直す気ないでしょ、此処まで来たら。」

ええ〜と笑い談笑する。そんな時間もあっと言う間に過ぎ去ってしまう。食べ終えたら食器を軽く片付ける。水は一応外にあった川から汲み上げ、取って来たものを使用したらしい。此処は枯れ切っていて、使えるもんじゃないのだとか。まぁソレをいったら城の中にある水も、である。

という話も明日からだ。本当に今日の一日は色々あった。まさか寝泊りする羽目になるとは思いもよらなかったことだ。風呂の水は一応汲んで来ている。あれ、帰らないんですか?といった都結に、ええとコルンが答える。

「ウイスが来ない以上、私は動きませんからね。」
『わあもんばん』
「勝手に言ってなさい。それより、風呂はどうしたんです。まさかこの期に及んで疲れたから入らない、等と仰るのであれば引きずってでも入れますが。」
『やれるもんならやってみろ』

そうふふんと笑って言えば、すっと身体が暗くなる。あれ?すっと身体を持ち上げたコルンにゾワリとする。いや、待て待て待て待て

「おや、しろと言ったのは貴方でしょう?」
『っ、だからと言ってお兄さん普通しますかね!?』
「貴方放置すると本当に其処ら辺で丸くなって死んでしまいかねませんし。それにこの際の付き合いでしょう?」
『私お兄さんの裸見たの未だに執着なされておられてる!?!??!』

そう、実は都結、コルンと結構な頻度で裸体を互いに目撃している。都結自体音を立てないというのもあった。本人曰く、幼い頃の癖なのだそう。どういう家庭環境で過ごしたのだと思っていたが、普通に日記に記載されていて頭を抱えた。母親の方が酷く警戒し、一つ音を立てれば怒鳴ったこともあったそうだ。

以来本能で過ごし、感情も的確に殺し続けたのだそう。それは化け物も成長しないだろうし、そもそも育つどころか時を止めてるようなものだ。ゲージが時間差で戻るのを最初から切り続け、消し去っているのと同じ様なことを、彼女は幼い頃からしていた。

音を立てたら終わりだ、という本能に従って、風呂場とか特に音を立てない。まぁ精々あってもぱちゃぱちゃと風呂の湯で軽く遊ぶ程度だ。普段だとバシャバシャと湯から上がる音なんて立てれる筈、なのに彼女は音を立てないで風呂から入ったり出たりできる。最近はそれをしなくなった。そう、大神官が来た時以来から、殆どしなくなったのだそう。

でも癖。だとしても癖、である。人間沁みついた行動なんて抜けきれない。ましてやそんな生存危機に陥るまでの状態で本能のままに過ごさないと生きれない時間が長かったのだ。そりゃあ普通にしていたら、癖も出るだろう。だから其処ら辺は言うことはなかった。要は仕方がないというものだ。癖なのだから、直すのに時間もかかるだろう。

だが、だとしても、声を掛けずに電気も付いてるというのにこの子はまぁ本当にさらっと入ってくるそれも全裸で、だ。まぁ勿論その後互いにひゅっと息をのんで開けた者が締めるんだがな。因みにコルンも同じことをしたが、流石に疲れてた深夜の時は考えずに入った時は焦った。

だとしても、まさか風呂に手を掛けた時にほぼ身体丸ごと浸かっている都結を見て、焦ってでも湯から出さない訳がない。普通に出して大丈夫か言って、白鳥も騒いで、本当は寝て居なくて遊んでいたというのがバレ、二人して明け方まで怒った日もあったのだ。

「貴方また深夜に寝ながら風呂に浸かりかねませんからね。それならいっそのこと浸かって湯から上がるまで見届ける迄のこと。」
『いやだとしても』
「此処では生きれるのですよ。息がとてもしやすい。そうでしょう?」

今迄は物理的に息がしにくかったハズだ。此処の惑星に来て、彼女の頬は非常に赤みが差して、調子の良さそうなすっきりした顔をしていることが多い。特に無意識で、という点が非常に高得点を叩き出してくれる。此処の空気は地球やリキールらが過ごしている破壊神星とは違い、重力は地球よりもほんの少しだけではあるが軽い。

その代わり空気中に目に見えない程の粒子が全体に舞っている。この物質はこの惑星でしか今の所目撃していない。これが一番の、要因だとコルンは見た。その粒子が水に溶け込んでいる、とあれば猶のことだ。恐らく通常よりも回復は勿論だが、その疲労も一気に回ることだろう。なので、下手に疲れた状態で風呂にしかも一人で入れさせる方が怖かった。だから言ったのをいい気に、行動した、ということだ。

ニヤリと笑った後、コルンは諦めなさいと言った。

「どうせ裸の付き合いをしているんです。今更でしょう?」
『ん〜〜〜にゃ、だとしてもですね!?というかお兄さん恥じらいは!?』
「貴方程度見ても差支えないですよ。誰が欲情等しますか。」
『色々酷いね!?!??!』

まぁとは言っても決まってみる訳でもない。アゲートに任せるのはちょっと嫌だったのもあった。あの中でなら、自分が一番の適任だ、と思ったのだ。それにこの状態で放置し、死んでいた時の気持ちが晴れない。折角戻って来た、息を吹き返したのだ。今更一人暮らし死亡率TOP3に入りそうな溺死で死なれたらひとたまりもない話だ。努力がまさに水の泡である。

それに、欲情なんてしてみろ、間違いなく怒る人がいる。ただでさえこういうことをしたら怒るだろうに、だ。とはいえ彼もきっと分かってくれることだろう。これで本当に死んだ時、彼も何も言えなくて自分を責め立てることしかしなくなることだろうから。それを避けるために、未然に防ぐために、の行動だ。もう潔く腹をくくって欲しい。

が、だからと言って自ら目の前で服を脱げとは言っていない。

これこれこれこれ、と言って彼女の腕を掴み止める。なんだよという顔をするので、じとりと睨んでやった。さっきと打って変わった行動に冷や汗も垂れ流してそのまま頬から落ちていく勢いだ。

「いや、目の前で脱がないで下さいよ。もう少し後ろを向くとか、しないんですか。」
『全裸は変わりないからこの際潔く腹を括ろうと』
「時と場合があるでしょうが時と場合が。」

まぁ確かにコルンの気持ち的には、子供を風呂に入れる感覚で間違ってはいない。それに気付いた都結がじゃあお言葉に甘えて、としただけのことだ。だとしても、年齢は年齢。そして、関係性もまたしかり、である。幾らエンカウント宜しくの遭遇を何度もしたとしても、だからしようとは話が大きく変わる。

故意的にするとしないとでは、というものだ。

深いため息をいつになく長くしては、後ろを向いてしまう。とは言っても出来たら出来た、である。そのまま風呂場に移動させる。本当は一人で入らせたいのだし、そうするつもりだったのだが、如何せん以前のことを思い出して恐怖が勝ってしまった。本当にやりかねないのだ。死にたがりだった彼女が、たった一筋の光でその丸めていた身体を伸ばして、手すら真っすぐにしようとするなんて処をみたら、もう、何も言うことはない。

何度も何度も寝ても覚めても、それでも貴方は何処にも居ない。自分だって恋しかったが、まだ傍に居たし、まだこっちは帰れると分かっているから、まだ少々気持ち長いかもしれない休息の一環で受け入れられは出来た。でも、この子は違っていた。

「(貴方の居た世界で生き延びたとしても、あの方は其方に二度と向かうことなんてないでしょうから)」

だから、猶のこと辛かった。見ていて、その背中が小さくなるのも。そして時々部屋の鍵を開けては放置していた。カチャリとも音を立てずに、入っていつの間にかベットの端の方で眠る彼女の小ささと来たら、何と形容していいか、未だに分からない。その小さな子が、カタンと音が立ったことで身体をばっと起き上がらせる。

一目散に走り、ドアを開けた。横顔の目は、見たくなんてなかった。嗚呼、と言えた。声が漏れる音がする。貴方は何処にも居ない、帰ってくるわけも、ない。なのに、求めている。まだ帰ってこれるかもしれない。それはコルンらが決定的な証拠だった。特にウイスとヴァドスが二人で来て以来、なのだそう。かなりの高頻度で、彼女はこうして絶望と希望の行き来をしている。

大層その中に眠っていた神々は、嬉しい気持ちでいっぱいだっただろう。未だに腸が煮えくり返る想いだった。彼女が頑張って生き残って、漸く彼女自らが自分の思った気持ちに素直になって。そして、受け入れ、漸く前を向いて、好いたお人に出会えたのに。その人が居なくなって、その人がひょっとしたらまた来れるかもしれない。

だって一人ではなくて、天使は二人も来られたのだ。

ならば、貴方だって来れる可能性は充分にある。

そう思った、そう、願った、知った彼女の背中は、余りにも小さく見えた。抱きしめて、いっそのこと忘れさせてやればどれ程良かっただろうか?そんなこと彼女は鼻から望んでいやしないし、それにコルンらは何だかんだ言って彼女の真っすぐに彼を、自分の父親の良い処は勿論、悪い処も含めて知っているのが好きだった。

嬉しそうに自慢して、言うのだ。こんな風に私と暮らしてくれたのだ!と、ね。実際驚いたし、確かに彼女の記憶は大神官が記載した日記に書かれているものと一致していたのだ。まぁとはいえ、彼女がこれで嘘をついてどうなるか、という話でもあるが。大体、大神官という位置だ。あるとしても全王様やら彼等の乗っ取り、殺害を前提とした交際を、というのもあるだろう。

まぁそれに無いわけでもない。声を掛けられたりもしていることは目撃しているし、現にコルンも声を掛けられたことだってある。恐らく他の子達も似たようなことはあった筈だ。自分に対して好意を、だけではない。大神官が降り立った時に、というのもある。勿論あるにはある、が、大体の心は皆同じだった。

皆が皆、その地位や名誉を知っては、その蜜を啜り生きたいと願った。

一欠けらでも、である。それだけで反吐が出るというのに、この小娘と来たら何と言うか!どれ程の人間を見て来たことか。そしてどれ程の破壊神を選んできたことか。彼女は知らない。例え心の中を覗けなくとも、その癖や顔、動作や表情。声の質全てで、本性を隠しているのか、そしてその本性は何を言っているものか、分かるということを。

ー中立は対等に維持してこその、中立が息出来るもの。私はその世界を見て見たい。

そして、あわよくばその時間のまま、ゆっくりと消滅して、誰からも何からも知らないままで生涯を終えたいとさえきた。そしてその願いは間違いなく、叶うことになる。そういう仕来りなのだ。三回忌を終えれば本来願いがその間に叶い、その者はこの世界に記録なんて一かけらも残さずに消え去る。記憶からも、文字通り跡形もなくである。

きっと同じことだと思った。なのに、来る日も来る日も彼女は同じ行動をする。騙すのが上手い。でも、騙す先が全く違うのだ。人はすぐに、悪口を言う。それは自分を守る武器にもなろう。だが、その先に待ち受ける世界を、彼等それぞれが、見据えられるかどうかでも、話が変わってくる。

その点都結は非常に賢かった。悪口を言って自分の地位が揺らぐならば、そもそも悪口自体を思いつかなければいいとさえいったし、そう現実にしているのだ。ものにしている。悪くではなく、仕方がなかったという意味合いを少し捉え方自体を変えたのだ。まさに方向性を自ら切り替え、性格にも反映している。流石に其処ら辺の人間だったらこんなの意図も絶やす好く騙せることだろう。

だがこっちは違うのだ。そう、故に、その痛みも分かる。どれ程、彼女が健気に待ち続けていたことか。そして死ぬのを覚悟して、飛び降りて来た。奇しくも其処は、大神官が倒れていた処とほぼ同じ処であって。

追いかけて来た先で、何度も倒れそうになっては、実際死んでしまったこともあった。勿論蘇生出来ての今、である。そして三回忌も終えたと思っていた。だが、終えていなかった。何だったら、もっと言えば今六回忌に直面しかけているのだ。三回忌はエヴァネセントの方で終えていたのだから。

そう、終えていたのにも関わらず、先に向かったのだ。今はいうなら、最果てに到着寸前、ともいえるだろう。何時彼女の身体が消えるか怖いと思う天使らも居ない訳ではないし、実際コルンもそう思っているからこそ、こうして手伝いをしているのだ。これ程までに、真っすぐに、そして彼だけでなく、自分達も。周りの範囲さえも知ろうとして、足並み揃えようと努力するその姿勢ときたら、もう脱帽である。もう少しこっちの人間らも見習ってほしいものだとさえいえるくらいだ。

まぁだとしても、気持ちは気持ち、である。それ以上もそれ以下もない。彼女の攻撃は確かにもう鼻で笑えない程に絶望的ではある。こっちで暮らしていたら変わる可能性もあるが、だとしても長い間平和が続くとも限らないのは現実問題ある。神々だって彼女の内部にまだ居座っているのだ。そのまま目覚めないで欲しい。金輪際、二度と、ではある。

だがそれで終わったらこんな困っていやしないのだ。まぁ風呂の件に関しては勿論困った対象が別問題ではあるんだが。そもそも直せるのに何故しないと言いたいくらいではあるが。

『ふあ』
「気持ちいいですか?」
『〜ん』

へにゃりと眉を上げ切って笑うものだから、つられて鼻でではあるも笑ってしまう。肩まで浸かりなさいと言って、風呂場の端に腕を組んでこっちを見ながら頭を横に倒す。寝るなと頭を叩けば笑う。もうシャンプーとやらは無しだ。というか元々あっても使えないし、そもそも泊まる予定は鼻からなかったので、着替えなんて持ってきていやしない。

持ってきているのは食料や水。後は休憩時間を潰すだけの小さなノートやらだけである。

肌に触れていた水やらはこっちで気を使ってでも乾かしてやる。今回限り、ではある。毎度していたら面倒なのでね。それも彼女は申し訳なさそうに眉を下げてお願いする。言われなくてもするまでだ。此処に来て風邪でも引かれたらたまったもんじゃないが…まぁ、覚悟はした方がいいだろう。

そろそろ上がりますよと言ったコルンに、はーいと言って湯船から上がる。じゃぱりと音を立ててあっと声が上がった。ので、思わず振り返りそうになったが、直ぐに止めて声だけかけてやる。

「なんですか?嗚呼足元滑りますから怖ければお手を。」
『ああありがとうございます…いやですね、此処の空気?いや重力か。水かお湯か知らないですが、何か違う。』
「違う?何がですか。」
『普段だとこう、お湯に浸かってると落ち着くというか、まだ浮遊しないんだけど、此処のお湯気を抜いたらマジでぷかぷかし始めるし、後凄い身体からなんか取り入れては抜かれてる。』
「…嗚呼、それこの湯の成分と後は此処の惑星が関係しているんですよ。一応風呂場は掃除しているので、変な微生物が残っている訳もないですからね。」

念入りには綺麗にしている。大浴場とは言えど、小さな恐らく水を入れる場所だろう処に湯船として利用して入れただけだ。風呂場から上がれば、軽く指を鳴らし彼女の水分を綺麗さっぱり取り除いてやれば声が上がる。ありがとうございますと息を吐くように礼を言われて、どういたしましてと同じ様に返してやった。

「着替えたらお申し付けください。風呂はそのままでいいでしょう。どうせ一度明日は帰還します。」
『はーい』

流石に此処から出さない、という訳にも行かない。それに早ければ一晩で身体の質も変わるだろう。明日の体調が悪くならなければいいが。シーツが肌に擦れる音を耳で感じ取りながら、コルンは着替えたと言った彼女の姿を見て、ため息を吐いた。

「これ、服が乱れていますよ。」


そうして嬉しそうに笑って礼を言う。まるでそうしたかったかのように、そしてそのしたかったことがどれ程些細な事か。



そしてその些細なことですら、彼女はその息の根すらもおしこ
(ろしてまでも、生き延びたというのか。)







泡沫の白昼夢


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