夜間飛行のカーテンコールを8



「では改めて。新しい神々のご誕生に、乾杯を。」

乾杯!
かんぱ〜い!!

「っんま!マジで美味いなこれ!!」

そうがっつり行く者達に、都結も手を出す。ちらりとコルンの方を見たら首を横に振った。もう諦めた様だ。わあと嬉しそうにした都結が頂きまーすと言って口にした直後だった。チラチラと見て、席を外れようとした。何方に?と言えばちょっとと言って席を外れるものなので、大神官も付いて行くしかない。

『あれ、別に座っていていいのに。戻るから。』
「貴方を見ていないと消えて居なくなりそうですからね。」
『そんなしないってーーー』
「どうだか?」

それで何を?量が多かったならそう仰られていればよかったのに。
いやいや、これでいいんだって。

『私はこうでないと、ね?』
「私も料理ありますからね?」
『分かってるって〜流石にしないよ多分そう多分。』
「其処はいい切って欲しかったですね〜って本当に何してるんですか。」

ねぇ食べてよ!と空に向かって声をかける。

『こんな姿でも良いならば!!!』

私、君を見てられるよ!そう言って杖を何処から出したのか、勢いよく振り下げた場所には、ボンと煙を立ち上げる。中から出て来た子は、青年いや、少年とも言える様な子だった。綺麗な青い髪色を背中まで伸ばしており、ぴょこぴょこと髪の毛が上がっているのが見えた。目をぱちくりとして、驚いた姿だった。

手は黄色い手袋を付けられていた。フィンガーレスグローブだ。服装は言うなれば旅人の服とも言えるだろう、少しダボッとした服を腰元で布を当て巻きつけただけの姿だった。白い衣服は、何処か神々を想像させるというか、

「待って下さいちょ、まさか」
『声出してごらん?こう音を出すの。』
「…あ、いあ、」
『ほら、あらかわいい〜〜』

まさか貴方この惑星の

『ご紹介致します。この惑星の一欠けらを集めてみました。お名前をディール・コップキーノさんと申します。』
「えと、は、じめ、まし、て?」
『こっちおいで。これくらいだったら食べれると思ってよそったの。』

使い方教えてあげると言って彼女が大神官との間に座らせる。仕方がない今回限り許してやらんでもなさそうな顔に、少し落ち着かないままでも、座ってしまう。全く、本当に不思議なことをしてくるものだ。君だれーと言っている全王様に対して、新しい子だよと都結が答える。

『この惑星の神様』
「かっ!」
「へー何て名前なの?」
「えと…でぃ、ディール・コップキーノっていっ、いいます。」

そう照れくさそうに言う彼にクスクスと笑ってしまう。あっち行ってみると言えばこくこくと頷くものだから椅子もついでに持って行ってやる。後を彼ら天使らにお願いをしてしまえば、元の席に付いて食事を楽しむばかりだ。

「貴方も随分と良いことを思いついた様で。」
ふぁふふぉふふうおおうなに?なんのはなし?
「惑星自体に肉体を付与、いや違いますね。」

貴方自身、元々お考えであった想像上の肉体を現実に起こしてしまう、とは。

「まさに絵本を統べる者、ですね。」
『んんっ…私そんな人間じゃないんですけどね〜〜〜』
「恐らくと言うかまぁ早い段階でなると思いますよ?」

そう言ったのは食べていたアゲートだった。食事の最中ではあったが、食べていたものを呑み込んでから都結と大神官の話に入る。

「元々貴方の居る地位は三つあった。一つが統制、これは王国を仕切る処。」
「まぁ国を仕切るんだからそらあって当然だろ。」
「で残りの二つが惑星自体を管轄する人間と外に出る人間の二種類。」
「何故二種類?」
『嗚呼反発的な感じか。』

何を嗚呼で分かったのかは知らないが、そうとだけ言っておくアゲートに、続いて都結が答える。

『あれでしょ?磁石みたいに引き寄せられては遠ざかる処があるやつでしょ。覚醒石と封印石のように、この惑星はそれぞれある一定の場所を維持し、二つの力でこと足りているように見せかけている、ってところ?』
「みせかけ?どういうことですか。」
『事実上は一つであるんだけれども、あえて二つに分断することによって力も分散し、尚且つ一つでも生き残る様に』
「分けていたってわけか。」

そういうことだ。恐らく都結の祖先が生き延びれたのも、そういう形だったからこそ、であろう。

「ですが何故絵本の話が?」
「彼女の種族自体、代々我々天使らの管轄に位置する人間らでしてね。大昔は絵本を作り上げ、その中に入っては遊んでいたんですよ。」

まぁ勿論全王様のお守役、という形ではあった。大神官が面倒を見切れない時は彼女等腹心が相手をしていることも、というかほぼそっちの形だったのだ。面倒をみてやって、仕事の時は大神官が面倒を時々見るだけだったのだそう。そう、大昔は、の話である。

「そう言えば今現在はそう言った腹心の方々は…」
「いない、っつーよりも”取れる人間が消滅した”から取りたくとも取れなかった。」

が、ただしいだろ?
…アゲートさん

「貴方ねぇ…」
「ああ?何も間違っちゃいねぇーだろ。それに候補は一人見つかったし。」
『んん?ふぁうふぁう、ほーほふはふふふおふ!!!!』
「何言いたいんですか。」

だからさ〜〜!

『何勝手に一人とか決めちゃってる訳。』
「あ?お前なるんじゃなかったのか」
『違う私がキレてるのは其処じゃねぇ。』
「キレてるんですか。」

随分と可愛げのある、なんておちょくると軽く大神官の肩をぶっ叩いた都結。周りの見ていた破壊神やら界王神はぎょっとして固まったが、何するんですかとむっとした大神官に対して別にーと都結が答える。まさに夫婦の間柄の様にも見えたその風貌に、ちょっと驚いて固まるのは許して欲しいものだ。

『私が言いたいのは”お前自分のことを入れてねぇだろうが”ってことだよ。』
「はぁ!?!?!?俺が!??!?!!?」
『いや、充分アリだと思う。どう思われます?大神官様。』
「…それは彼が全王様に忠実に、という意味で、ですか?それとも彼の素質自体のお話ですか?」
『んー後者かな。』

でしたら簡単ですね。

「充分素質自体はあると思いますよ。」
「いやいやいやいやいやいや!!!俺はこいつの面倒を見るくらいでもういいだろうが!!」
「おや、お知りでないので?」
「あ?」
「元々全王様に仕える腹心は5つ。それに追従した者を一人ずつとし、合計十名の人間が配下に加わっておられたのですよ。」
『わあすごい。』
「貴方の話ですよ貴方の」

そうコルンに言われる都結だが、全く聞いていない。パクパクと食事を口に入れるのに必死である。

「確か色ごとに配分されてたって聞いているが、本当か?」
「よくご存じですね。そうですよ、あけあおい翡翠ひすいたちばなすみれ色の全部で五色になります。」
『あれ、それだと七色じゃないんだ。』

おや?何故そうお思いに?そう言った大神官にだってと都結が続けて答える。

『それに…ああ〜〜〜〜こっちだとその概念がないのか。』
「何の話ですか。」
『ほら天使らだったら皆虹の話知ってるでしょ』
「「「ああ〜〜〜〜」」」
「なんだその嗚呼は!!!!」

そう怒る破壊神らの気持ちも分からんではないので簡単に説明をした。前に天使達が私の趣味を見た話があってだな。その中で虹の、というよりも色の話をしたことがあったのだ。そもそも空の話を良くしていたので、決まって天使達が言っていたのはそう言えば

『嗚呼全員みたことあるの虹じゃん。』

今更ながらではあるが、全員一律で唯一と言ってもいい程見ているのは、雨上がりの虹だった。後は台風の目の中に居る時の虹だ。あれは幻想的で素晴らしかったので思わず写メったが、それでも気分が落ちるくらいには仕上がりが悪く、逆に天使らに撮らせたらよかったのでマジで恨み妬みものだったとおもう。

『いやさ〜ほら、虹って雨上がりの空気中の屈折で人間の目に識別出来る色が丁度七色とかそんな話してたじゃん。』
「まぁこの際細かい修正はいいとして、それがどうしたんですか。」
『通常の五色だったら赤・青・黄・白・黒の五色だったり、後は青が緑に変わったりとか紫が入ったりとか色々してるんだけど、橙色と紫色が入った五色は滅多にないんだよ。』
「嗚呼そう言われてみれば…そうですね、確かに其方では見受けられませんでした。」
「ですが此方側のそれも全王様に仕える者の話ですよ?そうそ」

そう、それが腹心・・であるからこそ、なのだ。

「…まさか貴方、その腹心の一人が其方に向かう予定だった者だったと?」
『いやいやもっと上だよ。…元腹心の一人、とか言ったらどうします?』
「それだと大問題ですね。仕えている者の力は当時絶大でしたし、縁が切れて居なければそれ相応の力が保たれていた筈。」
『その力のおかげで、生き延びれていた、としたら?』

だとしたら辻褄が合うのだ。向こうで必ずと言ってもいい程虹を死ぬ程見て来た。あと流れ星も、だ。あれも結構な頻度でみていた。それが”力の関係上”で仕方がないことだったとしたら?絵本の中に入れる為の栞、というなら猶理解出来るしな。

『(まあ…それが、昔、か。)』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「寝れませんか?」
『まぁ、流石にあれ程盛大にされたらね。』

ギシりとベットの端に座り込む都結。肩を落とし笑った彼女に、コンコンとノックを入れ入って来たのは大神官だった。本日はこの城で神々が全員一泊していくことになっていた。風呂場もちょっと改装し、部屋の内装も実は兵士の部分ではなく、元々あった王宮の奥のスペースを改装し、全部で13室設けられていた。

因みに都結の部屋はがら空きになっていたので、何処に行ったのか、と天使らが少しざわついているらしい。全く、此処の部屋を言っていなかったばかりに、である。

「何故此方を言わなかったので?」
『二人だけの秘密にしたかった。って、言ったらどうする?』
「…狡いお人ですね、貴方も。」

そう言って大神官はそっと都結の額を合わせ目を閉じ話す。こうしていると彼女の思っていることが綺麗に伝わってくるのだ。心配やら不安やら、罪悪感。それは全て、天使らや周りの子達に対して、の純粋な気持ちばかりで。伝わるだけで和らぐ気持ちを、彼女も受け取っていることだろう。こうしていたら、自分の気持ちだって伝わるのだから。

『…きもちいい』
「それはよかった」

息を吸って吐いている。息がかかって邪魔だろうから。と、そんな心配をして呼吸を止めようとするのを躊躇したり、と。そうする彼女が愛らしいことこの上ない。自分の息を心配するなんて、ということだ。そんなことしなくていいのに。なんだったらガンガン息をして吹きかけ、酸素を全部根こそぎ持って行ってもらっても構わないくらいだ。そもそも呼吸なんて天使らに必要などないのだから。

『ふふふっ』
「んー?どうされました?」
『いいや?なんでも。』

分かっている。本当はこの時間があの日の続きみたいで面白くなってきているのだろう。えいっと身体を倒してやれば、わっと声を出してベットに倒れてしまう。何とか逃げようとしてベットの上に上がったのか、それとも嗚呼、

『おいで』

どうやら誘われているらしい。全く、狡い人間なことだ。何時の間にそんな如何わしいことを覚えて来たんです?と聞けば、会う事なんてないよ?なんて答えが返ってきたものだから、笑ってしまったではないか。ふはっと息を吐くように笑いだしたら、む〜と可愛らしい声を出しては軽く叩いて来た。

「いたっ、いたい、いたいですって!」
『痛くない癖に!痛くない癖に〜!!』

笑って叩いてくるが、本当に痛くはない。痛くもかゆくもない処か、変に叩かれると逆に痒みを伴いそうなくらい可愛らしい程の攻撃だった。大神官は笑って叩かれる処を防ぐように両腕を横にし、防御の形をとってみるが、そんなもの彼女に通用しないことは分かり切っていたし、させてやりたいとすら思っていた。

彼女からこうしてぎゅっと近づいてくれる、なんてことは正直なかった。そう、まるで本当にあの日に戻ったみたいに思わせてくる。あの時期外れな温暖気候の話は飛行機から降りたその日から急に話が出たくらいだった。テレビを付けたら天気予報が流れて来て、日本とは比べ物にならない程大きな液晶画面で立体的に天気の予報を解説する人間の姿を眺めて居た。

ーおお、明後日辺りにはかなり温暖な気候になるな。それに伴った気温差か〜。
ー此方では其処迄温暖ではないのですか?
ー嗚呼。そもそもこの時期だと雪が積もってるレベルなんだよ。

今年は異常気象らしい。彼らが少し嬉しそうに言うが、女性はやだーと声を出していた。何と言っても次の週から寒波が到来するとの話も耳にしていたのだそう。因みに情報源は職場の同僚らしい。嫌がる声に、まぁ気温差はしんどいですよね、と都結もぼそっと笑い零していたくらいだ。

そう言われても大神官からしたら其処迄きつくはない。都結の部屋に長く居たというのもあったのか、外に出る時は大体夜にはなる。確かに慣れて来た時は昼間に、それも一人で活動していたが、それでも都結が欲しいものがある、と言えば一緒に付き添っていた。

何だかんだ言って女性、幾ら人通りが少ないとは言えど、彼女の体系からして格好の餌食となることだろう。ひ弱な人間が身の程を知り、着いて来てくれ、なんて言ってくれたらいいのだが、彼女が知っていたとしてもやるようなプライドなんぞ持ち合わせている訳もなく。

ー昼間は五月並みの気温になるそうだ。いやー布団がふわふわになるぞこれ。
ーでも気温もうあったかいよね。
ー下手したら予報が外れ、明日の午後からに、なーんてな。

まぁ構わないだろ。束の間の気温差くらい、許してやったらどうだ。神様だって忙しい処を合間縫ってくれてたんだろう。なんて居もしない分かる訳もないのに、適当に神のせいにしてやる父親に、ふふっと笑ってそうですねと大神官も答えてしまう。分かっているのに、そうして誰かのせいに、なんてするのは人間くらいだ。

そして、そのまどろみの中で見つけた人も。人間であって。


嬉しそうに笑って眼を閉じる彼女の涙をそっと吸い上げ眺め見る。何一つ不安なんてなくて、もうこれが現実だったらどれ程良かっただろうか、なんて思えてくる程に、嬉しさをその胸いっぱいに詰め込み、抱いて眠る子を。一体どれ程愛らしいと思う事か。気付いた時から、尚その愛情とやらも芽生え育つ音さえ聞こえてきそうな始末だ。

心臓は絶えず鼓動を鳴らしている。本来持ち合わせていない音を、今だけは、今だけ。

ー…これが終われば、貴方は泣いてしまうのでしょうか。

きっと泣いて縋り付いて来てくれることだろう。笑っているが、実は臆病で泣き虫な子。甘え下手で、言葉も言いたいことと思っていることのちぐはぐに苦戦し、困り果てた挙句の果てに泣きだす始末の子。その根本には、自分と相手二人の気持ちを分かち合いたいから、という意味があるからこそ、大事にしてやりたいと思う。

これ程可愛らしい子が、この世界にどれ程の数生きて居ることだろうか。殆ど絶滅危惧種と言っても過言ではないことだろう。下手したらこの子だけ、の可能性だってあり得なくもない。こんな見てくれる子を、放置し、元の世界に戻るなんて、とてもじゃないが気が引ける想いだった。

その時だった。今思えば、その言葉を聞いたからこそ、私は貴方を

ー…と
ーん?



”すぴりと”



貴方のことを、忘れようと思ったこと。貴方は知らなくていいのですよ。

眠たかった目が一瞬で覚めた。その言葉を知っている子は、ただ一人だけ。あの白髪の幼子だけだった。ただ、それだと色々話が変わってくる。この子は髪色が黒いや、そう言えば髪色を定期的に染め上げているというのは聞いていたが…まさか。

ーアイティ

そう言えば嬉しそうに微笑み笑う子。きっと夢の中では誰かと遊んでもらっていることだろう。何処か言葉を言っているが、何の言葉かは分からない。嗚呼、そう、か。成程。私はこの場所に飛ばされたのは、私が貴方を見つける為だけに。いや、違う。

ー…私達は最初から結ばれている運命だったのですね。

あの日もそうだった。幼子の頃に見つけた子。まだ私がメルスさん辺りの子供だった頃。白髪の可愛げのある臆病な人間に出会ったことがある。その時も同じ様に名前を言ってしまい、外の人間には言うなと父から叱られたのをよく覚えていた。肩書きの名前なんて嫌で、自分の名前があるのだから名前で呼んで欲しかった。

なのにその子は言ってくれた。

”それでも誰かは貴方の名前を知ってる”

それだけでいいじゃない、と。それに救われている自分がいる。まさかその生まれ変わりが目の前に寝ている子だとは、一体誰が想像つくというものだろうか。余計愛着が湧き、元の世界に連れ戻す…いや、引きずってでも連れ込みたいくらいには湧き上がるこの感情を、一体何と説明付けてしまえばいいものだろうか。

ーいつか御迎えに上がります。その時はどうか、お手を取って頂きたい。

そっと手を繋げば、嬉しそうに笑って涙を零してくれた子。自分のことで、傍に居る時間をひと時でも大事に抱きしめ愛してくれるお人。そんな人が、目の色を失い、世界で息をし忘れたことを知るのは帰って来て、記憶を取り戻した辺りだった。して欲しいとは思ったが、まさかそんな長い間なっているとは、それもウイスらの時から尚感情を強くそして深く抱くようにさせてしまったとは。

後悔はそれなりにあるが、だとしてもしていたことに後悔はない。なんだったら、今はその時間があったからこそ、味わい深さを感じ取れる、というものだ。

あの日の時間が、今此処に生きづいている。

それだけで私達は充分なのだから。

『なんかんがえてるん?』
「ん〜?ないしょ。」
『えへへ!ならこうしてやる!』

そう言って都結は笑ってばさりとシーツを剥がし、大神官を包み抱きしめる。やりましたね?と言った彼は次の瞬間少し離れシーツを掴んだまま都結ごと丸まってしまった。ぱちくりと目を瞬きするだけで固まる都結に、ふふっと笑ってみた。あ〜!と言って、彼女が声を出して反応する。その眼の輝きようと言ったら、なんと形容したらよかったことか。

あの日が続いている。

分かったからか、都結の頬は流れ星が何度も流れ落ちていく。ぐずっと言った彼女に、泣かないで下さいと言いたかったが、そんなもの野暮だった。口にせず、止めていると言ってよと声が聞こえ彼女の目を見た。


『今だけは』
「っ…、…!」


そう言われ、拒絶なんて出来る訳がない。腕をひっぱり、シーツの中で抱きしめる。胸元に顔を押し付けさせた。今だけは二人きりなのだ。このシーツの中だけは。あの日の様に、同じ様に笑ってしまえば、嬉しそうに笑ってボロボロと零し続ける。目はキラキラとしている。あの日の様に。あの、真っ暗闇の中、ふわりと小さな灯りをともしては夜の談笑を楽しんだ時間の様、に。

あの日は特に敬語なんて外して話をしていた。その時は彼女が想像した人間とやらを試しにしたのだ。そしたら目を輝かせ、嬉しそうに笑って彼女もそれ相応の対応をした。本当に幼く、でも言いたいことは伝わって来た。言葉が嬉しそうに飛び跳ねるかのように話す。まるで気分はスキップをする幼子だった。

何時もは敬語交じりの方言なんてないものだったが、その日は方言を戻し話をしていた。ねぇと声を出すので、なんです?と話をすれば知らない話をし始めたので話を聞いてしまう。現実に引き戻されていく。その感覚を、自分も知れるというのは、きっとあの日人間だったからこその体験であって。

そしてどれ程残酷なことか、私は知らなかった。

彼女の血筋がどれ程強いことか、そして、その意味も。


『私の父方ね、楠瀬くすのせって話は知ってるでしょ?』
「ええ、以前お話してくれましたからね。それがどうしました?」
『楠瀬って苗字は、実は一度変わってるんだよ。あれね昔見てくれた人の苗字なんだって。拾ってくれた人とは違う。』
「…拾ってくれた人?どういうことですか。」
『その人からその苗字は変えろって言われたらしくて、拾ってくれた人が見てくれた人と相談し、結果苗字を変えて生きてた。』



羽黒はぐろって言うんだよ。



『ねぇ、知ってる?昔ね”あそびば”って処があったの。其処では私を含め大体20名前後の子達が過ごしてた。』
「…都結さん?」
『其処ではそれぞれ色を持ってた。二つ揃った色。不思議だね?』

これ、繋がってると思わない?

『私その時色無し組に居たの。』

今思い返せばかなり不思議だった。皆して、別の県から出て来た者だった。境遇も全く違う者達。誰一人として、会ったことなんてなかったのに、何故か今迄一緒に居たのかと思わんばかりに仲良く暮らしていた。まるで、あの箱庭の中だけは、互いに協力出来ていた、かのように思える始末ではあった。

栞では、私の位置は藍色。精神の中でも、だ。だがそれが”カモフラージュ”であったらどうだ?藍色を濃くした黒色それこそが私の本来扱う色であり、力の根源であったら、どうなるというのだろうか。光なんて何一つも見えない。エフェメラルがあの天使達を眺め息だけをしていた時の様に。

私がその場に位置をしていたこと自体、記憶させ、維持を図っていた、と言えば。

だがそれには大神官が憶測はやめなさいと反発する。

「それはあくまでも貴方の憶測です。…下手に結び付け、現実化したらどう責任を取るおつもりですか?」
『それは』
「ご自慢の防衛として、自我を一部切断し、切り取り修復を推し測る、とあれば此方も話が変わります。」

言いましたよね?貴方を手放すつもり等ない、と。

「貴方が守りたい意志は痛い程良く伝わってきますし、勿論順守するつもりです。これしきで中立から外れたらその時はその時ですが。」
『でも』
「だとしても。」

例えそんな脅威が差し迫っていたとしても、下手にあわあわして守れるところも守れなかったその時。貴方はどんなお気持ちになるか、貴方自身分かっておいでの筈。

「私はそんな貴方だからこそ、守りたいと思い此方に呼び寄せた様な真似迄してしまったんですから。責任とって貰わないと殺したくとも殺せませんよ。」
『うわぁ、それあれじゃん。死よりも残酷なのは生きたまま泳がすこと、だよな。』
「貴方の教訓が恩を仇で返す形になりましたご感想は?」
『ある意味愉悦』
「なんでそうなるんですか。」

もう白目で見られてもおかしい話である。


その日は沢山笑い、そして気が付けば眠り夜を明かしていた。







泡沫の白昼夢


/utakata3/novel/80/?index=1