もしもし、神様?いるんでしょう?6
「アメリです、こにちは!」
『
「”おお!初めまして、日本語が拙いので此方で失礼します。”」
『はいどうぞ。此処に向かってしゃべって下さい。』
「えっと…”いえいえお気遣いなく”」
そう言えば何かの言語に変わる。この板に喋りかけたら言葉が通じるのだそう。
『すみません、急な話で、親御さんにもお会いしてないのに。』
「”いえいえ、貴方のことを伝えたら是非とも行っておいでと言ってくれて私は助かっています。貴方は私にとって救いの神、いや天使と言っても構いません”」
『なんかすごい美化され過ぎやしてないか。私のことどういう感じで聞いてんだこの小娘は。』
「言葉が乱雑ですよ〜」
失礼。
『それにしてもあの本を頂いて本当によろしいのですか?見た所非常に年季が入っている上に、何処か使った跡がありました。きちんと形跡を調べなければわかりませんが、あれ自体非常にレアなのでは?』
「”確かにそうですが、古くから私の家系が持ち合わせていまして。手も其処迄動かなくて、これ以上仕事が続けられなくてですね。”」
そう見せて貰ったら、手は非常に古びていた。人間の手か、いや、老婆程ではないが、年齢には似つかない程ボロボロで、どうやら本を作る時にヘマをしたらこうなるのだとか。
「”仕事は他に見つけましたが、どうしてもこの本だけは誰か本を愛する人の元にと思いまして。”」
『嗚呼成程、そう言う事でしたか。でしたら何故同年代で、それも会ったこともない私にと託して頂けたのでしょうか?』
「”貴方ならきっと大丈夫と思ったのです。写真だけじゃなくて映像も見たことがあります。”」
『あの馬鹿店長くそったれ』
成程、それならそうなるのか。
「”父は随分と可愛らしい子だね、と言っていましたし、母も会いたそうにしていました。もしよければ今度私の家に遊びに来て下さい。勿論それ相応の対応をさせて頂きたいと思っています。”」
『生憎ですが、私仕事もありますし、それにちょっと其方の方で生きていけるかどうか。』
「”生きていける?”」
『食事が私に合うかどうか』
「”大丈夫ですよ!いざとなったら口の中に突っ込めばいいので!”」
『待ってこれ本当に翻訳あってんだろうなぁ?!?!?!?!?』
なんだかとんでもない翻訳になって返って来たのだが、これ事実なら事実で怖いので、出来れば誤訳として扱いたいところだ。本当にマジでビビらしてくるのは止めて欲しい。
「”それにしても眼鏡外さないの?”」
『嗚呼よく言われるけど、別にいいかなって。』
「そう言えばずっと眼鏡付けていますね。目が悪いのですか?」
『ええ、昔はもっと目は良かったんですよ。まぁ見えようが見えまいが突っ走る性格だったのでね。今とはほぼ真逆に近いというか、別の方向でした。』
そんなことはどうでも良いのだ。
『あの本について色々お尋ねしたいのですが、その前に、貴方の地方でこんな言葉はご存知ですか?』
「”どうぞ”」
『彼に発音をしてもらいます。その言葉に近い言葉を知っていたら、お答えいただきたい。…。』
「…”アイティ”」
その言葉に、んん?と眉間に皺を寄せ、首を傾げる彼女。もう一度、ということだろうか、一を指示したのに、もう一度、と繰り返すうちに、嗚呼と声が出た。
「”こっちでは聞きませんが、昔祖母が似たような言葉を話していました”」
「ほんとうですか!…と、失礼。」
『…それで?意味とか聞いたことは?』
「”確か昔の言葉でこう書きます”」
そう言って筆記体を頂いた。大分簡潔に形を整えて貰い、検索を掛けて息が止まる。
「何か分かったので?」
『あ、いや、その…そうですか。因みに、此方の方はそのアイティさんという方をお探しでして、貴方の様な髪色で、眼は』
「確か茶色に近かったですね。コ…嗚呼息子の好きな色に近かったのを覚えています。」
「”確かに祖母はそのような顔でしたし、写真もあります”」
そう言ってスマホから撮られていたものを見せて貰い、大神官の目が留まった。その姿に、嗚呼と息を吐いた。
「”祖母をご存知なのですか?”」
「詳細は伏せさせて頂きます。ですがもしもご存命ならばお会いしたかった、それだけですから。」
「”そうですか。本人かどうかは分かりませんが、もしも宜しければ貴方も来ませんか?”」
「え?」
『いいんですか?』
「”ええ事情を説明すれば納得してくれるでしょうし、貴方が付いているので大丈夫です”」
何と言う強い味方なんだろうか。
ま、いいか。
『分かりました、では次の連休に其方へお伺い致します。』
「っえ」
「”お待ちしております”」
「ちょ、ちょっといいですか?」
「いいんですか?海外渡航ということは、金銭も発生するでしょう?」
『大丈夫ですって。これでもお金はあるんですよ。あるだけは多少使っておかないとね。』
「だとしてもいい加減になさい。もうあの子は死んでいるいや、下手したら彼女ではない可能性だってある。」
『でも』
「貴方は私を置いて死ぬのですか?帰ってくるかもしれないこの私を。この世界の中に一人置いて行くんですか。」
『っ!!』
「…すいません、言い過ぎましたね。」
そんなことはない。確かに、彼が居なくなれば別にとは思っていた。でも、そうじゃないのだ。
『…その子はとても大事なんでしょう?そしたら少しでも私が力になれたらと思ったんです。』
「都結さん…」
『そりゃ確かにお金は張りますが、向こうにホームステイとあれば話は別ですし、長い時間連休に入るので、多少の時間もある。この機会を逃したら、次貴方が此処にいる間にそっちに行けるかどうかわかりません。』
「…ほんと、どうなっても知りませんよ?」
ええ、構いませんよ。
『だって私は貴方に沢山救われた一人なんですから。』
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「嗚呼もう、なんてことを!」
そう叫んだのはコルンだ。慌てふためくのは、隣で作業していたマルカリータとサワアで。喧嘩し始めたので怒鳴ったら今度は幼子が泣く。嗚呼そう言うつもりではなかったのだが。手を汚して出血が酷い。回復をと杖に手を取るが、直ぐにサワアが制する。
「こっちから手を入れたらなりません。」
「ですがこんなに泣いているのに、どうしてだめなのですますか。」
「此方側の力を入れたら此方側の人間になる。それは我々神々が他の時間から”奪い取った”という改変行為になるんです。」
「サワアさんの仰る通りです。それに、私が怒鳴ったことが原因ですよ。其処から出血からくる痛みに気付き、泣き出しただけですよ。はいはい、良い子ですから泣き止んで下さい。」
背中を叩いて揺らせば、あうあうと音が変わるので、それに伴い笑い声に変わる。泣いたら何時もこうして元に戻すのだ。本当に手慣れたものである。
「よく見たら色々傷があるじゃないですますか!」
「嗚呼それは此方に来た時からあるものですよ。深い痕になっていて痛々しいですがね。」
「もう娶って差し上げたらいいのでは?」
「マルカリータさん???????????」
確かに傷物にしてしまったのは申し訳ないが、それをするならどちらかと言えばマルカリータでは。何故こっちに責任転換されねばならないのかとツッコミを入れる。左手の親指に入った傷は、痛々しいが、痛いと聞けば首を横に振る。案外痛くないのだそう。コルンと言ったので、間違いなくコルンが怒鳴ったからというのが分かった。
だからすいませんと謝るコルンには、笑うしかない。
「これじゃあ痕になっちゃいますねぇ…」
「仕方がないでしょう。だからなるべくこっちの傷はつけないようにと思ったんですがね。」
「回復が出来たら跡形もなく消し去って差し上げますですますのに。」
「それこの子ごと消滅させないでしょうね?????」
やるとしてもマルカリータは駄目だ。まだ天使ガイドをしてまだまだな子に、回復なんてさせたらたまったもんじゃない。やっても自分か下手したらクス、それか大神官のこの三名の誰かだろう。まぁ死にそうになったら手を入れるので、その時は向こうの神々に頭を下げるつもりではあるが。
一番は死亡がいけない。肉体と魂がくっついていけるのは、その地帯に生きていたから。此処の世界の肉体になんて難しいし、仮に出来てもそれはこっちが介入したも同然。とは言っても死にかけているのをなんとか回復させて、というのも本来はいけない。だが、ある程度、極力やった。というのは恐らく向こうも分かってくれる筈だ。
だから基本的な死に絶えない程の傷は回復させないようにする。それに幼いので回復も早い筈だ。下手にしたら回復が遅くなる身体になるだろう。それだけは避けてやらねばならないのだ。とにもかくにも、死なない状態は結構面倒。それも幼子なんだから猶のことだ。
「まぁ手伝ってくれるのは構いませんがね、ちゃんと手は丸くして、切れないように扱って下さい。」
「これが破壊神なら適当に切っても問題ないんですがね〜」
「回復出来ないだけでなく色々リスキーですからね。」
かと言って何もさせないのは虐待である。ある程度の成長は促しておかねば、記憶が吹っ飛んだ時模索されても困る。自然に、が一番である。人間は本来神々と一緒に居てはいけない。生きる場所が違うのだから。
「それにしても成長が遅いですますね?」
「何処の種族かわかりませんし、案外こういうものかもしれませんよ?とは言っても全く分からない言語ばかり喋り出しますがね。」
「アイティを抱っこさせて下さい!コルンお兄様ばかり狡いですます!!!」
「嗚呼はいはい、気を付けて下さいよ?血はやっと止まりましたが、動かしては」
そう言っていたら動かす。この後コルンが叱って、また彼女が泣いて、疲れベットに入れるまでがセットだった。
「それにしても右手の模様は六芒星ですかね。星みたいで可愛らしいと思いません?」
「この痕がですか?物好きですね、貴方も。」
「先日綺麗な星を見ましてね。丁度こんな感じに破壊してきましたので。」
「そう言えばまだ破壊神を選び抜いているのですか?」
「如何せん良い子が見つからなくてですね。」
「…駄目ですからね?」
「しませんよ。」
流石に外の子を、いや、良かったとしても、この子はいけない。
「血生臭いことから一番遠い場所に生きて居て欲しい物ですよ。こんな可愛らしい子が、手を染めるなんて嫌ですからね。」
「全天使が嫌がりますね。」
「でもどうするですますか?もしも破壊神に成りたいと志願してきたら。」
「私に勝ってからして差し上げますよ。」
「させる気サラサラないじゃないですか。」
当たり前でしょう。それになったとしても管理は徹底しますよ。
「子供でこれ程手がかかるのです。絶対成長しても似たような感じになりますよ。」
「案外覚えて利口だったりして。」
「どうだか?」
「どうするですますか?好きな子が出来たら。」
「私に勝てるほどの子であるものですね。」
「絶対渡す気ないじゃないですか。」
もう本当に娶ったらいいのでは?
誰が!無理ですよ。
「私が取ったら消滅するじゃないですか私が。」
「まぁ寂しくなるでしょうね、」
「案外わらったりして」
「マルカリータさん????」
こうして他愛もない話をするのも、この子が居るから。気になって天使もこうして来るが、この子が居なければそもそも来ない。全く、どうして此処まで引き寄せる者なのだろうか?
「何時か大人に成ったら、どうなるんでしょうね。」
「まぁ可愛らしく成長するんじゃないんです?」
「クスお姉様の様に?」
「まぁそうなんじゃないですかね?分かりませんけど。」
「嬉しそうですね。」
腰掛け、手を頬に持って行けば両手で掴み頬に摺り寄せ始める。寝ようとしたが、直ぐに目が覚めている。手を動かせばきゃっきゃと笑ってばたついてタオルが落ちてしまう。それをサワアが拾ってやり、身体に被せてしまう。
「ま、笑って生きてくれていれば構いませんよ。このままで。」
「綺麗ですますよね、本当に。」
「ええ、向こうの神々もきっと血眼で探していることでしょうね。」
「可愛い」
そう言って頭を撫でれば、あいてぃあいてぃと泣きだす。マルカリータが手を出せばほぼいつもこうだ。もしくはヴァドス。時々コルンやコニックでもこうやって泣くので、困ったものだが、一番は
「ですがあのウイスさんに懐かないとは驚きましたね。」
「下のメルスですっけ?確かいましたよね。」
「ええ面倒を見ているからとは言えませんよね。」
「こっちは人間ですますからねぇ」
一番声が煩くなる。あいてぃあいてぃと泣き続け、胸を叩き、咽び泣く。かと言って外せばもっと泣くので、泣き続けるのを堪えながら、特定の力で抱きしめてやれば、ぴたりと声は消える。…だが、
「ちゃんと声が出せるまで会えませんと言っていましたからね。」
まるで恋しがるように、縋りついて来ていたのだ。此方側に縋ってはいけない。仲良くなってもいいが、それ以上踏み込んではいけないのだ。
「赤が好きなママだったのですますかね。」
「これ」
「ですがあり得そうですよね、コルンさんの持ち合わせている色も赤系統あるでしょう?」
「嗚呼以前使っていたものですがね。そう言えば以前何処を漁ったか知りませんが服を出して来て床に寝ていましたね。」
「床にですか!?」
「えぇ、茶色の木枠で作った扉の前に。」
寂しがったり泣いていると其処で寝ているんですよ。何故かはわかりませんがね。
「きっと恋しがっているのですますね。」
「扉が?」
「扉はわかりませんですますが、きっと。」
「そういうものですかね。」
笑っていたらいいのに、そう言って目尻にキスを落とすマルカリータそれにはきょとんとした後、嬉しそうに笑って手を頬に付ける。ぐぐっと近づけ、頬を合わせたらきゃっきゃっと笑い声が出てくる。そのままで居たらいいのに。そのままで、どうか、生き続けて欲しい。花を触って、傍で寝てしまう子。
以前リキールとビルスが戦っていた時、間に入ってきたことがあった。流石に肝が冷えた。ビルスが足で攻撃をしようと振り下ろす時、彼女が入って来たのだ。一体何処からとは思ったが、何が理由かはすぐに分かった。ビルスは汗をかいていた。それも目の周りに、だ。ウイス曰く「泣いていると思われたのでしょうねぇ〜なんとまぁ可愛らしい〜!」なんて言って抱き着いたが、即泣かれて困っていた。
破壊神という位置も、分からずに。人を殺すという手も、分かってない。可愛らしい花の様に笑う子。白い服に身を包ませている子。まるで天使だ。頬に付いた埃を取っていたら、静かに泣きだしたので流石に悪くないよなと慌てるビルスだが、直ぐにコルンが大丈夫ですと答えた。
「彼は苦しくも辛くもありませんよ」
そう言えばほんとう?と言いたそうに首を傾げて何かを言う。それにこくりと頷けば、首元に抱き着いて何かは言った。だが、その後、言うのだ。
ービルス様良かった泣いてなくて。
なんて可愛いことを言ってくれるので、もう戦う気も失せて降参の手を上げるしかない。こうなったら二人して彼女をあやすだけだ。空をゆっくり散歩させ、あやしたりする。よかったビルス様が泣いてなくて。なんてよく思う者だ。本当のことを知った時、一体どういう気持ちになるのだろうか。
だが、きっとまっすぐ見てくれることだろう。
泣いている処を見たくない。ずっと笑っていて欲しい。綺麗に澄んだ気を持った子。誰かに奪われ、失い無くさないように、大事に大事に、育ててやりたい気持ちは分かるが、いずれは手放さなければならない。
「(もしも誰かに奪われたらお伝え下さいね)」
そしたら探して差し上げますから。貴方の優しい気を、少しでも感じ取って。
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『”ばらあとみきよ、めゆのよのこ”』
「何ですか?その言葉は」
『おまじない。内緒ね。』
「では行きましょうか。」
そう言って鍵を掛け、外に出る。今日から三泊四日の旅だ。1人で軽く車の車検代分くらいの金額は吹き飛んで行ったのはいい思い出である。流石にと言った店長が半分持ってくれたのは驚いたけどな。出発は夜7時東京発だ。此処からだと新幹線に乗るのも含め、午後から出た方が良い。軽く昼食を食べた後、荷物も纏め終えた所で携帯が鳴る。
『はいもしもし、はい、嗚呼はいはい。今降ります。』
手で指示を仰げば、大神官が動き出す。あれから2週間で偉い変わった。まずは大神官がなんと日本の言語を習得したのだ。とは言っても、本当に小学生レベルではあるが。よく考えて欲しい。ひらがなやカタカナだけでも一つ50文字は覚えることになる。合せて既に100それに加え、小学生の覚える文字は1000文字ちょっととされている。そう、彼は、なんと、この世界にきて
『(こいつ5日で覚えやがったからな日本語)』
そう、たった五日でこの天使習得したのだ。ちなみに、今から行く言語はドイツ語と英語。自分が仕事に行っている間、ひらがなでの打ち込みのみを許可し、こっちを模索しないことを前提に覚えさせた。ら、だ。マジで当日までにペラペラになった。後はその場で話せるかどうか、らしい。いや本当にもう、パパすっご〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
マルカリータ、お前のパパ、凄いよ。ほんと。
そう会ったこともないだろうマルカリータに声を掛けた。正月に色々あって、少々して、大神官様にあったのが一月の中間から後半。現在は月が変わり、二月である。豆まきも教えてやったよ。まぁまだまだある。
「はいどうぞ、お嬢さん。」
『すいません白鳥さん、車まで出して貰って。』
「良いよいいよ、娘みたいな可愛い可愛い元バイトの子がまさかうちの仕事助けてくれたんだから、これくらいの恩返しはさせて欲しい。帰りも予定道理に行くし、一応前後しても良い様に休みも取ってあるからね。」
「何から何まですみません。」
「構わないっすよ〜じゃ、しゅっぱ〜つ!」
そうして自分の暮らしていたアパートを少しの期間離れてしまう。間に、決めていたルールを思い出す。
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『本の選定、ですか?』
「ええ、折角ですし、どれか一冊使ってみませんか?」
『あの、ですね、』
「三セット貰えていますよね?世界にこれだけしかなくても、無理に書かなければすぐに消せれる。」
『…分かりました。』
流石にコルンらの推しの色にしたが、直ぐにやめた。大神官も止めるつもりだったそう。全部で十二色何故か揃っているのが、厭らしくて気が引けたのだ。お前は使うな、と言われているような気がした。大神官は服の色同じく、浅葱色に決定したようだ。狡い。とは言っても残るはたったの二冊である。
『(白と黒…また縁起でもない色が残ったなおい)』
白は神を、黒は悪魔を意味合いとすることが多いこの世界。汚れることを考慮して、黒に手を取ろうとしたが、何処か白が気になって仕方がなかった。まるで、そればかりを見ていたように。そればかり、触れていたかのように、だ。触れたら馴染みがあった。まるで、何かが、嵌まったような感じがした。
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それ以降本当に色々書くようになった。一応大きさと言ったら大体A5サイズのこの本。小さい様に見えるが、厚さは勿論のこと割とコンパクトなので、少々抱くのには心もとないが、中身もぎっしりであって。黒の本は大神官がルールを書きたいからと貰って行ってから姿を見せていない。一体何のルールなのか、非常に興味深いところだが、気にしたら負けな気がしたので、気にしないでおこう。
基本的にその日一日のことを書いたり、非常に興味深い文献にのみ写本として使うことにした。他は全部使っているノートを新しく持っていく。これに沢山物が入ることだろう。キャリーバッグも新調し、白いものに変えた。普段から使っていたが、前のは壊れてしまい、似たようなものがあったのでそれにした。因みに選んでくれたのは大神官様である。えげつないセンサーだった。あれ五分間違ったら買われていた話を耳にした時はひゅっとしたよ。
「ところでご飯は食べた?」
「えぇ少しですが。」
『残り物全部胃の中に入れて来た。エチケット袋も完備していやす。』
「何時でもげろるな。まぁ其処は良いが、余り羽目を外して迷子になるなよ?お前確か昔迷子癖あったろ。」
「迷子癖?」
『嗚呼かなり前の話ですよ。店長には色々話しているんです。』
大分昔の話だ。幾つか分からない頃、よく知らない処に遊びに行ったことを覚えている。
『小さい頃から何処か分からない処が気になって遊びにふらついてたんです。凄い可愛いお兄ちゃんお姉ちゃんが居て、そりゃあもう和えられて和えられて楽しかったなぁ。』
「そもそも知らない子の元について行くのは如何なものかと。」
「ぶっはははは!!!いわれてんぞ〜!」
『言わせといてください〜!今はないもん!!』
そう言えば、あの日から其処迄迷子になることはなくなった。何事も距離を置いて自分の言葉はすぐに言わない。言っている人が困っているのを見ていたが、一体何処の話だっただろうか。
『っ』
「大丈夫ですか?」
『ん』
何時もの発作だ。昔のことを思い出そうとすると頭が痛くなる。まるで何かに封じられているかのように。一体何を覚えているのだろうか。母のことなら、教えて欲しいのに。黄色い花畑の上に笑っている茶色髪の女性。ワインレッドの服を身に纏った人。手はすらっとしていて、胸もそこそこ大きくて、抱き心地が非常に良かった。
大丈夫大丈夫、なんて言ってくれる優しい人だった。だから、おまじないは沢山ある。どれかを言ったら、私は落ち着く。
『”だいじょうぶだいじょうぶ、どこにもいない、ばらあとみきよ、めゆのよのこ”』
そう言えば、痛みはすっと消えていく。何故か知らないが、こういう昔は決まってコレを言えば楽になる。良く分からないままが、いいんだろう。横になっているのを起こそうとしたらぐっと力を入れられてしまう。上を見ればもう少し寝て居ろ、という事だろう。仕方がない。このままでいいや、そう思っていると意識が落ちていく。
此処で寝たら飛行機の中で寝れないのにな、なんて思いながら目を閉じてしまう。
「…寝たか?」
「ええ」
「はぁ…すまん、浮かれているのはこっちだった。いやさ、その子昔の話するとトラウマなのか身体が急変するんだよ。」
「そうだったのですか。」
「嗚呼、特に母親の話はタブーだ。そうやって意味の分からない言葉を言えばすぐにぴたりと止まるんだ。」
「気を付けておきますね。」
「そうしてくれ。幼少期大層虐められていたらしいからな。」
え、そう言って顔を上げると、知らないのも無理ないかと言って話をしてくれる。ウインカーを出して右に動いている間に、バタとガラスに水が落ちる音がした。
「そいつ母親に捨てられてるんだとよ。9歳の夏に。」
そんな話していなかった。素振りも見せなかったが、確かに父親の話は多かったと思う。
「詳しい事情は言ってくれなかったが俺も小さい頃片親育ちでな、色々あって痛みは多少分かる。それもあってそうやって振る舞うが、見ただろ?人と対応する変貌の仕方。」
「ええ」
酷いものだった。まるで人形だ。限りなく近いが、質は人形。冷たいことを知らせないように、何とか誤魔化しているが、分かる者はすぐにわかる。嗚呼この子は駄目だ。職場の子が彼女を心配しているのは、きっと其処ら辺も懸念しているのだろう。
「一度人形にしたら人間に戻るのにはかなりの時間が必要とされる。早くとも二十年は必要になるんだそうだ。」
「二十年…」
「お前さんからしたらあっと言う間だろうが、人間はそうもいかない。その子はもうその年からとうに月日は経っているが、それでこれだ。まぁマシになっていた時期があったらしいが、どうも環境が変わってちょっと戻ったらしい。」
「何があったかお尋ねしても?」
「…聞いても良いこと等ないぞ?」
そう止まった時にちらりと上を見た。其処には、此方を見る者が見えた。じっと、ただ、見続けていた。
「お願いします」
「…肉体は其処迄だが、精神的な苦痛は与えられていたそうだ。」
「精神?」
「例えば”来ないで”なんてね。」
「…親が?冗談はおよしなさい。」
「事実だ。この世界はね、貴方が生きていた肉体の戦いとは違い精神との戦いだ。勿論そっちもあっただろうが、生憎こっちはこの世界でしか知らないんで比べられない。」
とは言っても比べるものではないだろうがね。
「大体3歳から5歳、後は8歳のみの時間が綺麗に消えているらしい。本人曰くその時間色が抜け落ちて見えたり、顔も上手く変えれず気付いたら身体の痛みを感じ取っていたくらいだったそうだ。」
「…よく耐えて」
「そいつだけじゃあない、この世界はそういうものがはびこっている。だからという話だ。だから親を傷つける?それで報われるなら良いがな、そいつはしなかった。本当に凄い奴なんだよ。」
「え?」
「そいつは母親を今も尚待ち続けているんだ。綺麗な額縁に飾って、音も姿も何もかも保存できるたった一つの場所だけに。」
雨音の中、シャーという音が、遠ざかって消える。
「今でも覚えてる。じゃあなんで望むなんで覚えている、なんで捨てたのにと言ったらそいつは言った。」
”捨てたんじゃないあの人は此処から出ているだけで、いつか帰ってくる”
「手が小さいのは神様に願ったそうだ。どうか母親に見つけて貰えるように、傷も何もかも残せるように、なんてね。」
「…其処迄せずともいいでしょうに。」
「幼子のまま切り取ってる状態だ。それが急に身体の年齢まで動かしたらどうなる?」
「間違いなく壊れますね。」
「だろう?だから多少は放置している。だが結構良いこともあるんだ。此間お前さんが来てから隠しきれなくて困ったなんて苦情が飛んできたんだよ。」
「何をですか?」
「笑みを、だよ。あんなに音も何もかも隠して見ないようにしていたのに、最近は抉りだされて困っているんだそうだ。なにしてんだ家で。」
そう言って振り返れば、見なかったことにしてやるしかない。穏やかな顔で、彼女の頬をそっとさすっていたのが見えた。
「(ほんと怖い奴だな)」
「そうでしたか」
「…そういやこういうのも聞いたことがある。よく文字を反対に書いたりするって悩んでたんだけどよ、そういやお前さん処の言葉そっくりだなと。」
「私?何の話ですか?」
「あ?聞いてないのか?言っていない訳ねぇんだが。」
そう言ってまた振り返り言うのだ。赤信号になったから。
「神々の言語は日本語を真逆に呼んだ言葉だぞ」