残響響く、それは夢幻のように5
目を醒ました
貴方は何処にもいやしなかった。
まるで昨日のことが夢だったかのように思える。でも、確かにあった。あった、筈なのだ。夜の間だけの、合瀬。目を醒ましたら、まるで夢幻の様で、現実との区別が付かない。嗚呼、それでいいのかもしれない。物語の絵本みたいに、幸せな日々にめでたしめでたしで終わらせてしまえばいい。
夢が醒めた後の話なんて、必要等ないのだから。
嗚咽が混じる。手を当て、涙を拭こうとした時だった。銀色の指輪が嵌められているのが感じ取れた。
ー何時だって傍に居ますよ。
嘘つき。貴方は傍になんていない。あの時は居てくれた。やはりあの部屋で無ければ成立しないのだ。だが、天使達が来る間は、あの場所になんて戻れない。嗚呼、なんて苦しい時間なのだろう!沢山の天使達や破壊神達に会えてこんなにも嬉しいというのに、心の中心はぽっかりと開いたままで。黄色い手袋をはめ、隠してしまう。こんな指輪知られたら大事だ。
それに、私だけが知っていたかったのだ。
そうしたらあの場に戻れる気がした。そうして暗くなった部屋の中、ふわりと灯りを灯しつつも、ベットの中に入って夜を明かそうとする。微睡む中、寝れない時に彼が入って来てくれる。笑い合って、互いに言いたいことを沢山いう時間。何よりも大切で、どんな欲しいものが出来ても、あれに勝るものは未だかつて一つとてない。
あの場所に戻りたい。そしたら目を醒ましたって、きっと彼は傍に居てくれる。ずっとずーっと、一緒に居てくれる。こんな指輪やチョーカーがなくたって。この心の奥底にいなくたって。傍に、触れられる貴方の隣に、私は居たいと思うようになったのだ。振り向いて、そして馬鹿をした私を見て笑って欲しい。馬鹿で良いのだ。
貴方がそれで笑うならば、私は馬鹿でいいよ。
だから、どうか、傍に居てよ。
こんな近いのに。ずっとずっと遠い場所にいるみたいだ。太陽の円がくり抜かれて輪が見える。
そんな一瞬なんて要らない。永遠が欲しいと思っていた自分もいたが、それをそのままそっくりお前の欲しいと思っていた時間に当てはめてみろと言いたいものだ。こんな一瞬ですら、曖昧にさせてくるほど、酷いことをするなんて。狡いのは一体何方なんだろうか。腰が痛かったらどれ程良かったか。一切痛くないから尚夢だったのかと思えてくる。
ー”物語にしかない”から”現実なんてあり得ない”
もしもそう思ったら、私は笑って生き続けられるのだろうか?
嗚呼、それならばどれ程、どれ程。
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あの時間をそのまま切り取って、その本の中に…嗚呼そう言えばあの本は何処に行ったのだろうか?この世界に来たならば、どうせやるなら本に日記を付けてやりたいとさえ思う。散歩に出掛けると言えば、アゲートは分かったと言ってくれた。
この世界に、惑星に来てから、案外歩くのは初めてだった。あれから数週間が経った頃だろうか。先日か、もう分からない時間の感覚に危機感すらも覚えきれず、私は紺色のワンピースを着飾って外に出た。気温は大体20度前後、五月並みの気温で、少し冷たい風が気持ちいい。アゲートは貴族のような、執事衣装を着飾っていて、案外様になっている。
互いにバンダナのようなものを取り外して生活なんて意外だったと思う。よくよく考えたらこういった衣装を、人前でなくとも着てしまうなんて、案外お互い真面目な性格をしているのだと思ったら笑えて来た。
「何笑ってんだ」
『ううん、なんでも!』
このまま時間が止まったとしても、きっと大丈夫だ。この心臓の鼓動が止まったとしても、絵本の中ならば。
『ねぇアゲート』
「ん?なんだ?」
『物語の中って何度でも入れるの?』
「…まぁそうだな。そら描いた話だから」
『』
「……余り変なことは考えるなよ?此処はお前が暮らしていた世界と全く違うんだ。」
『うん』
分かっている。きっとこの隠してる指輪だって、意思疎通が出来ている筈だ。心拍数とかその他をチョーカーが出来なかった時の補助、と言った処だろう。それにあの時間はひょっとしたら違っていて、これは私が付けただけの記憶をすり替えてしまったナニカなのかもしれない。そうだ、きっとそうに違いない。
だってそうじゃなきゃ、どうして涙も落ちないのか分からないから。
「(元気がない、な。あからさま過ぎるが…それが演技だとして、何がしたいかわからんな。)」
急に散歩がしたいと言って、遠くまでやって来た。正確にはこの城の見える範囲内だ。眼鏡もない癖に遠くなんて歩けるわけがない。出来れば手を繋いでやりたいが拒絶してきたので近くを歩いては危ない時は腕や肩を掴んで止めてやるしかない。最近、特に手を触ってはグローブを外さなくなった。
天使らも様子を見に来たが、そう言った時は決まっていつも通りの姿に変わった。だから怖くて、何一つ言えなかった。こっちも仮面を被ってやるしかなかった。悲鳴を上げたいが、これがバレた時が怖かった。だってその日はお前が居なくなりそうだったから。
本の中でしか、お前に会えない。
この無数とも言える程、数多もの宇宙の惑星の、何処か一つだけ。
そんな気がして怖かった。死に場所を探している様にさえ思えた。
彼女なら出来る。だからこそ、目を放したくなかった。大丈夫だよと嬉しそうに笑う。何時だ、何時からそうやって笑うようになった。左手でそっと頬を撫でる。休憩時間、人が目を放した瞬間する仕草だ。それは一体誰にされた?なあ、都結。教えてくれよ。その頭の中には、一体誰が居る?
あの日から大神官は姿を見せない。あのパーティーがあった日から、だ。本人に声をかけたが、忙しくて手が離せないのだとか。次に会えるのは、大体三か月も先になるかもしれないとのこと。その間にこいつが死なない訳がない。寂しがり屋で、ふとした時には涙を零している子を。
笑ってさえいてくれたらいい。その為なら何だってしてやりたいとさえ思える。あれから一向に神々は出てこないし、化け物も落ち着いたままだ。まるで嵐の前の静けさである。陽だまりの中、嬉しそうに笑うも、それはぎこちなく思えた。だって最高潮を見ているのだから、どうしてもそれ以上が見えないとあれば、だ。まあ言いたいことは分かるだろう?
ー物語の封印、ですか?いや出来なくはと言いますか。彼女出来るのにさせないのですか?
ーええ、ちょっと今の時期はよろしくないかと。お願いできますね?
ー一応説明は伸ばせますが…時期にバレますよ?
ー構いませんよ。今で無ければいいのですから。
「(…ま、そりゃそうなるよな。)」
これ程気落ちしたらば。自分でそっと絵本から出て来なくなる可能性だって高い。何気に本の中は危険で、一見見に行きまくれば良いと思えるだろうが、精神的な維持が必須な者。要は気持ちを強く持ち続け維持さえ出来ればいい話だ。都結はその点とてもじゃないが出来る様な子ではなかった。
勿論、大神官が見ていない時は、である。彼が来たら気の安定も驚く程良くなる。先日コニックだったか、天使と手合わせをした際、大神官が来る前と来た後では格が違った。もう天と地の差がある程だった。来てない時は不安定で、何処を見ていいか分からず困惑していたのに対し、大神官が来てからというものの、張り切ったのか知らないが、動きは良かった。
それだけではない。気の維持も強い上に一定。その上引き出したり引っこ抜いたりの強弱の流れやらとにかく数多の情報が一気に処理できるようになった。気の持ちよう、と言った処だろうが、これが自分で管理するのが通常。だが、彼女はこういった立ち位置に居るつもりなんてなかった。
だから成長しないのだ。鼻から彼女がいる位置は何時だって「物語の外側」に位置しているのだから。
「都結、行くぞ。休憩は終わりだ。」
そう言えばそっと起き上がってこっちに小走りで付いて来た。こうしてみたら妹の様で可愛げがあるのだがな。ま、そういう時は、気分転換に決まっている。
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青い空白い雲。今回は
『本当のととんとまじでいいの?』
「いいのいいの。」
お前だって最近暇だっただろ?
「あれ程部屋から出たくないとかほざいといて、捻挫しかけた時は焦ったからな。流石に運動させた方がいいんじゃねぇの?ってことで一泊二日のキャンプ巡りだ。行きたい方向は?」
あっちな。そう指を指したら、口笛で音を出せば、大きな鹿さんが出て来た。小さな小鹿も続いてだ。大きな方に乗ろうとすれば、こっちにすりすりと寄って来た。くすぐったいと笑っていたら、どうやら乗せてやると言って背中を見せて来た。いいの?と言えば頭を立てに振ったので、重くない?と言うが、勢いで走り出したことに思わず角を掴んでしまう。
ぶるぶるぶると頬が唇から入って行った空気で震え続ける。木々をかき分け、外に飛び出したところは、だ。崖一直線。いいいやああああ落ちると思っていたら、帽子が吹き飛んだ。嗚呼私の帽子!そう身体を飛ばして手を伸ばした。その先は、火炎が空から落ちて、声が聞こえる。誰かが何かを言っている気がし
「っ!逃げろ都結!!!!!」
折角ピクニックを、と思っていたのに。頭をガンと打ち付けてから、世界が真っ暗闇に切り替わった。
「お前も変わったな。偉く力が抜けたか。」
「ってめぇこの野郎…!!」
「此処の空気は嫌になる程透き通ってるな。浄化されるのも無理はない、か。」
「今更何のつもりだ、ローズ!!」
そう、都結の頭を軽く攻撃し、地面へ落とした張本人に攻撃を空中で入れたアゲートに、嗚呼どうしようもないと、目の色が変わる。まるで暗闇だ。赤い目が、何時の間にこれ程迄濁って、いや
「お前一体何時封印石を使った。」
「さあ?昨日あたりだったかな」
「嘘だ。」
効力を分かっていない。これは他も、そう思って息を呑む間に攻撃が入るのを寸で交わし距離を取った。背後からシトリンが来ているとは思わなかった。やはり二人共
「堕ちたか」
髪色共に目の色も酷く濁っている。以前都結がこの世界に降り立った時、していた目の色とそっくりで。力を体内に込め続けると人間内側の精神から崩壊していくことが分かっている。核から崩壊していくのだ。化け物が喰らい付くす、というものだ。此処まで人格が保持されたまま、ということはそれ相応の痛みは伴った筈。
それでも何度も何度も縋って、それでも報われなかった末路、だ。
我々種族は努力し、懸命に立ち向かったが、それでも化け物に食らい尽くされた人格のある人間を「堕ちた」と表現している。目の色は暗く、それぞれの印が力強く目の中に刻まれている。肌も刻印が強くなり、きちんとした判断なんて既に出来ていないだろう。
背後からの攻撃は勿論、彼等の動きを交わしてしまうことは出来る、が。
「そうして動くのは良いんだけれども、コレを見てそう出来るかな?」
「…っ、!みいっぐ、っ!!!」
頭から血を流し意識を失っている都結を抱き上げて来たローズに、隙を見せたアゲートの腹に一発シトリンが蹴りを入れた。咽る中、背中から踏みつけられ背中に手を置かれ焼かれる。
「ああああああああああああ!!!!!!」
不味い、非常にまずい。堕ちた人間は基本的に凶器だ。化け物の種族に寄りけりで正常な奴等をも浸食していくのだ。それは効果にもよるが、基本的に触れ、尚且つ気を注がれると少々いやかなり厄介だ。核がズグンと揺れ、身体からぶわり毛が広がっては下がった。今、何が起きた?
「っはははは!!へぇ〜〜!良い化け物飼ってんじゃん!!」
「っぐ、や、めろ…!おき、ろみいゆ!みっい、ゆ…」
嗚呼本格的にまずい。背中を切られ、其処から気を注ぎ込まれているのか、眠気が押し寄せてくる。意識を飛ばしちゃいけないのに。一度反転されたら、戻ってくることなんて難しい。一度成ったことがあるあの恐怖は怖かった。周りの視線、態度、それらが沁み込んで拒絶している。
頼む、お前の味方で在りたいんだ。
手を伸ばしても、届かない。こんなに近い距離なのに。自分の妹すらも、助けられない。注がれ、呻き声を出す都結の姿にやめろと声が漏れる。きっとこんな世界じゃなければ俺達はいまご
ーね!あそぼよ!
誰だ。小さな幼子が声を上げる。ピンク髪と黄色髪、後は青髪の子も居る。誰だお前達は。今それどころじゃないんだ。走馬灯を見ている暇があるならば、あの子を連れ、早くリキールら破壊神を含めた神々に助けを呼ばないといけない。ソレを任されているというのに、俺がこうして反転し、世界から外れる訳には行かないんだ。
あの子は寂しがり屋なんだ。人が一番好きな癖して、一番遠い処から眺める。可愛らしい子なのに、人との距離が取れない。色無し組に選ばれてしまった子は、よく人から出来ない子呼ばわりされていた。止めろと声を上げる。誰だ。
ー俺の妹になにすんだ!
ーめて!にいに!いいの!みいできなのめなの!
かなり活舌の悪い子。白髪の子を黒髪の子が庇っている。大きい目で、真琴ちゃんと声を上げられている。左の名札には大きく真琴と漢字と平仮名を使って書かれていた。女の子みてぇだと言われんだと!と声を上げれば後ろの子が頭を抱え、涙ながらに縮こまる。
ーだいじょぶだからな。俺が守ってやるから。
ーほんと?
ー嗚呼、ずっと一緒に居てやる。
大丈夫。そう指を交わし、守ってやった子は、手を繋いで帰路につく。何時の記憶だ。夕方、凛と音が鳴る。振り返った先には、以前記憶に入って来た子が立ち尽くしていた。スペードの輪を頭に浮かばせた者。目の奥もスペードの形をしていた。
「”使えばいい。俺はお前の矛になれる。”」
「…そうしてあの子を傷つけるつもりか。」
都結を、また独りぼっちになんて誰が出来るか。
思い出した。幼少期、自分達は元々二人で生きていた。まぁ所謂兄妹だ。俺が兄で都結が妹。ずっとくっついて二人で生きていたのが、俺が三つ上だった。都結が二歳、俺が五歳の頃。俺達は行方不明になった。その時、都結は天使らに保護されていたから元の世界に戻れただろうが、其処から俺はこの世界にずっと息をし続けるしかなかった。
そうして培った力を、俺は何度も誤った。もう何人の人間を殺してきたかわかりゃしない。いつの間にか血の匂いと血に塗れた手で彼女を触るのが怖くなっていた。なのに彼女はそれを察知し、敢えて頬に手を置いて言うのだ。
ー今だけはこうさせて?お願い。
嗚呼、この子は痛みを知れる子だ、と。
それと同時に思った。嗚呼、いい子に育ってくれて、本当に良かった、と。そして思ったのだ。結局は向こうに行ってもこっちに居ても。何方でも辛い思いをしてしまうのだ、と。折角幼少期のように二人して生きれる様になったというのに、だ。穏やかな時間はあっという間、ということか?
鼻で笑ったあと、アゲートはお断りだねと答える。
「俺は俺の意思で力をふるう。…あんたの力なんぞ借りて生きるなんて御免だ。」
「”そうしてプライドを募らせ、本当に救いたかったであろう者を矛で刺すとしてもか?”」
「っ!!」
図星を突かれた。確かに、都結の中にある化け物を処分しようとして腹を突き刺したのは事実だ。だが、それは肉体ではなく、精神に居るものであって、肉体を傷つけ、それも当たり所が悪い場所になんて持っていくつもりなんぞなかった。彼女が早過ぎたのだ。自分よりも早く、見つけた人を、守ろうとして、彼女は自ら刺されに行った。
充分だった。何が守りたいだ。何が一緒に居るだ。何一つとて叶えていない自分が、彼女の傍になんておこがましいにも程があるだろう。だとしても、これではいそうですか。で、力に呑まれたら、ローズたちとそう変わらない話であって。力は欲しい、だが。
「…だとしても、あいつらは曲がりなりにも兄弟だ。」
血の繋がりは無いに等しい。兄弟と言っていたのもあれは言い聞かせに等しかった。事実そう忘れて思い込んでいた自分もいた。今思えば洗脳させられかけていたのだろう。何故解けたのか、答えは一つだった。
都結が融解者だった。
ただそれに尽きたのだ。融解者は文字通り融解、解き、溶かす者だ。濁った者を浄化することが出来る。勿論火力を上げれば溶けて何もかも分からなくなってしまう。まぁバーナーで焦げ目を付けようとして加減を間違い消し炭にするみたいな形だ。火の火力をミスれば食べ物だって食べれなくなってしまう。それと同じことで、都結の中途半端になっていた力が、功を奏したのだ。
そうして気付いたら洗脳は解け落ち、堕ちるなんてことはなかった。そう、敵からのダメージを負わなければ、の話である。都結は身体が生まれつき弱く、それでも走っては無理をする。努力でなんとか追い付こうとする子だった。隣に来ては嬉しそうに笑って歩く。此処に来てからもそうだった。何時だって隣を歩こうとする。まるで其処しか生きれないようで。まるで其処以外息なんて出来ないみたいで。
「俺は俺の記憶で力で、核で、あいつらを助ける。」
「”もう何も残されていないとしても?”」
「だとしても、罪くらい償わせる時間程はあるだろ。」
死んだ奴らも勝手に死なれたら困ることだろう。そういった意味では協力して貰えると思っている。じっと見定め言うアゲートに、スペードの形を保った者が目を細め睨む。
「俺はあの日…俺の後ろに隠れていた子を守ってやりたいんだよ。」
その為なら、何だってする。
例えこの命が尽きてしまってもいい。あの子が大神官の元で…いや、スピリトの隣で。ずっと笑って息が出来るのであれば。もう自分なんて最初から居ないなんてあっても良いくらいで。だってそうだろう?エフェメラルは元々一人っ子だった。彼女も一人っ子だと思い込んでいた。ならば「最初から一人っ子だった」という認識にすり替えてしまえばいい。本当に最初から?なんて、気付くことが出来ただろうか?
お前が生きるというならば。
「いつか来たる春なんて迎えなくたっていいくらいなんだからよ」
「”…ほんと魂由来の兄妹とでも言うべきか”」
「ああ?」
「”良かろう。その褒美として、少々オマケをしてやる迄だ”」
まさか此処まで面白く成長するとは。嗚呼やはり無能でも少しずつ育て上げた方が面白い改革を作り出すという者だな。こっちはこっちで動いておいて良かった。やはり自分だけが自分の理解者だ。なんてぶつくさ言っていた声が聞こえた。が、身体が戻る。まるで意識が飛びそうになって寝かけていたのを頭が落ちることで戻って来た感じだ。あの一瞬消えていた思考が戻ってくる感覚は余り好きじゃあない。
「…すまんな。」
加減なんてしてやれねぇ。そう言ったアゲートが、改と声を上げた。
「”全ての道を切り開け!!!”」
”改革者”
その言葉が発動したのか、頭にはスペードの輪が表示され、髪色が黒色に染まりあがる。頬にも模様が刻まれたことで、力を莫大に大きくさせ、攻撃をシトリン目掛け、下から振り上げていた最中だった。ぐっと聞こえた声に振り返った。その先には小さくもたくましい背中が見えていた。紺色の衣装を纏っている小さな背中ではない。大きな背中にも見えた。
頭にはダイヤ型の輪が浮上しており、髪色が髪結いを解けては色を白にきっちり染め上げた。背中を合わせ「お前やるな」と声をかける。声が聴きたくなったのだ。無性に、あの日の声が聴きたくなった。今迄話をしていた声を期待なんてしてなかった。でも心のどこかではそうであって欲しいと思っていた。お前のままで、と思っていたのに、やっぱり違っていて。
『”ほざけとっとと潰して帰るぞ”』
「”…了解”」
仕事だ。背中を互いに押し合うように立ち向かう。攻撃は重く、深く入れては声を上げる。
『”全ての基盤よ!一律に廻し続けろ!!!”』
”維持者”
低い声で荒い音を叫ぶ。空中を飛び、敵が攻撃をしかけないことに違和感も感じつつ、ただ火力を上げて杖を振りかざした。ダイヤの光が強く光を放ち、彼らが攻撃をしかけるものを一定の速度で避け続ける。そんな避けてばかりじゃあ、勝ち目はないぞ!?と声が入る。
もっともっと戦えよ!こっちにおいでよ!楽しいよと声が聞こえる。思わず顔が歪む。目の奥に群がる靄をよく見た。
『っひ……!!!』
見たらいけなかった。気付いたら、維持なんて出来ない。維持は常に変化なんて起こしてはいけなかったのに。首元を掴まれた。距離を見誤ったのだ。嗚呼なんて駄目なんだろう。私はやっぱり現実の子なんだ。首元が絞まって息なんて出来やしない。痛いでもこのまま痛みが無くなったら私は死ねるのかな。
あの陽だまりが永遠になれる?其処に居る人は、本当に、私が好きな人?記憶の中だけの人と、私は本当にずっとずっと生きて居たいなんて思っているの?そんなこと、それこそが
浅はかだ、