俺の話をよく聞け、目覚めはもうすぐだと2



キンと何かがかち合う音で目を覚ました。顔を上げる前に身体を動かそうとしたらば、隣から声がした。

「目覚めましたか、おはようございます。気分は?」
『最悪の絶不調』

もう頭はガンガンするし、普通に二日酔いと風邪といやこれインフル辺りをぶち込まれた感覚だ。もう頭痛と眩暈と吐き気のオンパレードで踊って騒いでどんちゃん騒ぎで困り果てている処だ。全くも、これが次の日仕事だったら絶望的だったからな。後一番の絶望は後5分で支度しろっていう時かな。アレは地獄。二度と来るな。お前という時間は。

この場所はいつの間にか夜になっていたらしい。暗い場所に、日食かと誰かが言った。通りで薄暗い訳だ。敵を確認、目の色は黒く、兎に角印象的には最悪だった。とりあえず頭の横からぶち抜かれてるあの角はコスプレですかね?お兄さん。

「それだったら良かったですね。」

嗚呼その感じ違うんですね?分かります。目の光はない、ただ目は横一本線がもう一つ付いてバツ印になっていた。力を持ち、堕ちた者がそういう目と角を持つのだろうか?角は山羊のような角だった。まさに悪魔だ。魔に堕ちたというべきか。それなら引き剥がすことだって容易なんだが、どうやらそう言うやり口はお生憎様、受け取り拒否の様だ。

軽く力を使って反発しても、効力はないに等しい。ちらりと此方に目を見られる。ぐっ…あれ、そういやなんで見えるんだっけ?まぁいっか。視力はあったらある分良いって言うし。え?聞いたことないって?じゃあ今聞いたから良いね?うん。なんて誰に言い聞かせているのかわかりゃしない返答を繰り返しては切られた。えー切った奴は敵です。敵。お前許さんからな。

手を構えようとするとグイっと引っ張られた

「無茶しないで下さい…!貴方今どういう状態かわかっ、」
『何?どういう状態って。』
「あ、いえ…あの気分は、」
『ええ?また?だから”良い”ってば。』

違和感が拭えない。それはコルンらの方だった。自分らは別の場所に居た、なのに気付いたらこの暗さに、そしてクスが近くにいるのは分かる、が。血に塗れ倒れる彼女から近くにあったのは一冊の本で。嗚呼と納得が言った。此処は本の中に入り込んだのだ。都結が「大丈夫」だと思ったから、大丈夫になっているだけで、恐らく身体本体は現実世界に居るか、下手したら…

「余り無茶はなさらない方がいい。指示を頂ければ動きます。」
『でも』
「いいから」
『…むぅ。分かった。じゃあお願い出来る?』

出来るだけ距離を稼いで城の上に連れてって。
それしきお安い御用です。

お姉様頼みましたよと言ったコルンは都結を抱き上げトンと後ろに下がりながら浮遊した。それに続き分かりましたと首を縦に振って敵の猛攻を防ぎつつ、距離を取る。本から出来るだけ遠ざかる寸法だ。真反対に連れて行くように動き、誘導する。都結の姿は大神官と同じような衣服になっている。フリルの無いエプロンドレス。彼女の生きたい場所が、その衣服で。

何処か嬉しい気持ち反面悲しい気持ちになった。

だってそれはあの日から遠く離れてしまっ

『っと』
「っぶないですね、もう少しなんとかならんのですか。」
「ごめんね、もっと加減してやってもいいんだけれどもね。」

如何せん、上手くいかなくて。そう言う彼の声がジワリと変わる。雑音が入って音になるかどうか分からないが、何とか聞ける位置なのでまだマシだと思った方がいいのか。まるでザマスみたいだ。確かアイツも何かどろって溶けたよな。…ん?溶けた。溶ける?混ざって、分からなくなるのが融解、ならその先はというか、融解って元が分からなくなるんだよな?


あれでも、元が分からなくなるって、最初の「元」を知っている「記憶自体は保持」してるよな?


『あー継承し続け廻してやんなっちゃうなぁ』


何度も何度も書き殴っては消し去って。そうして創り出した「綺麗」は一体満足が行く「きれい」何だろうか?「きれいごと」を塗り重ね完成した先に想像した理想郷なんて何処にもありもしないという現実を何処か頭の片隅で分かっている自分を全否定し切れていない。その時点で、もう分かり切っていることなのに。それでもその「綺麗」を追い求めて、永遠に繰り返すことを、自分は勿論、周りも分かっているのだろうか。

進んでいる様で進んでいない感覚。この感じが嫌だ。だから、決める。

一度死んだ身。ならば、次は消滅。イエローカードの次はレッドカードまっしぐらだ。これで天使とお相子同じ位置だ。ニヤリと笑った都結は手に力を籠め始める。一か八か、なんて言葉は使うなよ。他にやり道あっただろうが、とどこかのアニメを視聴している間よく思った感情が出てくる。あれは見ている側だからこそ見える立ち位置。こっちはなうを繰り返し生き続けている身だ。こっちの立場になってから物を考えるんだなと心の中のベジータさんがログインしてきました。丁重にお帰り下さい。

嗚呼物語ならば、そうにやりと笑って手の向きを下から上に切り替えた。くるっと捻っただけだ。方向性を変えたように、方角を変えただけ。そう!

『わーーーーーーーーー!!!!!』

そう叫んだ後、一点だけに力を振り絞って飛ばした。軽く避けられ、何をと笑われる。抱き上げていたコルンも何してるんですかと叱るのに、えへへと笑った。

「もう体力もないのに無駄撃ちなど、気でも狂ったんですか!!!」
『そんなのとっくのとおに狂ってる』
「(笑って…?いや、何を企んで)」

ねぇねぇそうでしょそうだろ?

『”僕のシュピルト”』

”数多に駆け走る永遠の焔”

そう言った後、トンとコルンの肩をまるで跳び箱を飛び越えるように手を押して飛んでくぐって行ったのは、長く白い髪をキラキラとさせた彼のような神様だった。あいよと短い言葉で飛んでった身体を一回転し、杖を右手に召喚させた。ニヤリと笑った彼が声を高らかに上げ叫ぶ。


「”華の者環の者聖なる者よ!闇に堕ちし彼の身に浄化の息吹を吹き荒らせ!!”」


杖を振り払うように切ったことで空間が切り開かれる。其処から出て来た四名の姿に、度肝を抜いた。本当にエフェメラルら華を統べるもの達が召喚されたではないか。ぎょっとしたのはコルンや敵のローズだけではない。下で見ていた者達も異常を察知し、その姿を目に焼き付けていた。

「…都結、あいつ」


「おらおら!どうした!!」
「っぐ、」
「飽和して繋げて輪廻輪廻!!!」

白い髪色の子達が一斉に飛びだし、攻撃を交互に休みなく入れ続ける。上に上がり続ける敵の顔が歪み、此方は笑みを零す。調子に乗ったら痛い目に合うのがお決まり。だ、が?

手に杖を作り出し、まるで指揮をするかのように腕を回し続ける。上に内側に外側にまた上に、と。繰り返し続ける間、カチカチと音が鳴る。口元からだ。歌っていないのに、口だけは動き続けている。脳内で歌っているのだろう、ギラギラとした眼差しはそのまま、敵の目一直線だけだった。

これで決める、と言った覚悟が見えた。その時だった。ぶわり、彼女の背中から白い何かが飛びだした。頭の後ろにはひし形の輪が光を解き放ち、左右に二つずつ、破片が浮かび上がる。それはまるで蓮の花が咲き誇ったかのようにも見えた。血族の力をふんだんに使っているのだ。体内の血が出ている上に、弱く維持するにはとてもじゃないが難しい現状でしたらどうなるか、目に見えている。

やめろ!!!!

そんな声に身体が動き出した。手を上に上げ、直後下に勢いよく振り落とした。身体ごと、くるり一回転する。その遅い時間に、見えた世界は綺麗の一言だった。手を伸ばし何かを言っているコルン様。周りもそうぞうしくなり、とんと背中が何かに当たった。熱い。何かが、熱い。それだけは分かった。それ以上分かったらいけない気がした。


振り返る。其処には白い髪色のお人が抱き着く様に私の背後を


『、』

息が詰まった。なのに呼吸が出来てる違和感が拭えない。開いた口が塞がらないとは、こういうことを言うのだろうか?シュピルトらが止まる。それは私の思考が止まるから。剣で切られた彼等の状態が消えてしまう。それと同時に訳が分からなくなった。一体何が起きているのだろうか?

「この剣は具現化した対象の人物を力から切り離す効果がある。」

それだけ言えば分かるだろう?そう言った彼に、貴様あああ!!!!とリキールらが攻撃をし続ける。無意味な争い等しなくて良いと言う彼が笑って言う。それでも都結の目は大神官の閉じた目を見続けていた。苦しそうに眉間に皺が寄っていく顔。匂いなんて何処にもしない。鼻は等々逝かれてしまったのだろうか?それもそうか、だって私は最初から




最初から生きてなんていやしなかったのだから。




「な、んだこの気は…」
「…寂しがっている」
「は?一体なに」
「彼女が泣いている」


頭がごちゃごちゃになる。何を考えていいのか分からない。何を紡いでいいか分からない。ダメだ、こんなのいけない。腕を掴み、ちょっと乱暴に身体を抱きかかえた。ふわりと落ちる身体を背中ごと纏め、受け止めた者が声を上げた。

「っ、お父様!!!お父様しっかりして下さい!!!!!」

何も言わない。呼吸すらも、目を閉じただけで、ぐっと歯を食いしばって堪える音がした。何が起きているのか、私は至って冷静に判断が出来ている様だ。なら次執り行うことは一体何がいいのか、私は分かっている筈だ。


人を呪わば穴二つ


敵に報復を、なんて考えたら結果は同じだろう。攻撃を止めない奴等に止めろなんて口は聞けない。ただ今は自分の命を彼に渡したくて堪らないのを堪えるしかなかった。きっとそうしたら皆悲しんでしまうし、この人はきっと目を覚ました途端、壊れてしまうだろうから。背中を触って嫌な液体が触れる。目なんて見ない。向けさせやしない。そっと他の部位を触って楽な体制を取らせる。

コルンが地面に降ろしてくれた。あの日はこっちが無理矢理庇ったから、お互い様とでも言うのだろうか?灰色の衣服は私が着るべきだったと?私は大神官様の次になんて成れない。成りたくない。なるくらいならばいっそのことし

「、ゆ」

みいゆ

その言葉に、視界が歪んだ。彼のか細い声が、私の名を呼んでくれた。それだけで何かが満たされてしまう。世界がキラキラと光り輝いている様だった。きっと栄養失調なんだ。だからほら、ご飯を食べようよ。

まだ冷めていない白米を茶碗一杯に食べきれない程によそって、入れ直して、席に座って頂きますを言うの。昨日の残りである生姜焼きを温め直して、食べてる箸で行儀悪くも皿から掴んで口に入れてしまう。余り嚙まないで飲み込んで、飲み込めないものは全部お茶や水で流し込んでしまうのだ。

そうして貴方からの言葉を貰うの。

おいしい?

飛びっきりの優しい刃物を突き刺して。二度と来ない栄光を胸に抱きかかえ生き抜くことが人の定めというならば。


私はその定めを果たさなければならないのだろうか?



もう人ではないというのに?


最初から、人ではないというのに?



「ーさい、ーーーさん」

声が遠い。まるで水の中に入ったみたいに、籠っている。これはあれだ、ストレスでなるやつだ。名前は忘れたというか、知らない。でもきっとそうだ。当てずっぽうをしたら貴方は何時だって怒ってくれた。叱ってくれた。もうと言って笑いながら、正しい道を選んで教えてくれた。それに甘えないで、勉強をしても、幾らでも勝てないというのに。分かっていても、それでも、貴方は其処にその場所にそ


『いるね?』


私も貴方も、息をして、生きて居る。それだけで良かった。それだけが、良かった。


ふっと笑った彼がいた。何時の間に目を開けていたのだろうか。手を掴まれた。合せた手は、いつかしてくれた日の続きにさえ見えた。これは幻だ。でも現実だ。私は生きて居る。化け物にならず、貴方の手を取って、息してる。それが嘘のような本当だったこと、私は受け入れなければいけないのに、貴方は笑って言うのだ。そんなことしなくてもいいのだ、って。

紫色の眼が此方だけを見つめてくれる。苦しそうに見えるのに、何処か愛おしそうに言ってくれるように見えた。私は狂っている。狂っている。狂っているのだ。喧噪の立ち込める世界の下で、私は貴方とずっと息を吸っては吐くだけを見てる。今を今だけを見ている私を、貴方はまるで欲しかったものを貰えたかのように、目を輝かせて、閉じる。

声が届く。頭の中に、これは私の言った幻聴だろうか?それとも






ー会えて本当に良かった。





それともこれは私の何かなのだろうか?
















世界が真っ暗になんてなれたらよかった。

世界は色を残したままだった。
















動かなくなった貴方を抱きしめ続けることしか出来ない無能な私を










































































あれから、時間が過ぎた。


刺したものは処罰され、消滅を余儀なくされた。ローズたちは消され、契約も無事満了したことをお知らせしてくれた。


これで晴れて、私に降りかかった呪いは何一つも残されていないことになった。



なのになぜだろうか?息をしているのに、楽になった筈なのに。身体は力を失った。瞬きは出来ている。目が覚めましたか?と言った彼の言葉になんて、応える事など出来ない。ふうと息を吐いた後、顔が見えた。身体を降ろしてくれたのだろう。覗き込んでくれる顔に笑みが零れる。何故零れるかは、分からないけれども。

「おはようございます、力は入りますか?」

そう言われるが、余り理解が出来ない。何を言っているのだろうか?力なんて入る筈なのに、身体の動かし方をまるで忘れたみたいに、力の使い方が分からない。抱き上げますねと言った彼にうんとも言わない。上に上がる視界が、何かの力で胸板に押し付けられた。

「サワアさ」
「目が覚めたので、少々外を歩いて来ます。」
「…そうですか。」

身体は?
脱力で力の使い方処か、言葉の意味を理解することすらままならなさそうです。

「思考があやふやで止まり続け、そのまま消えていくのだけは確認出来ましたので。」
「…そうですか。」

無理もない。自分を庇い、大事にしたかった筈の人が目の前で死んだのだ。そう、あの日から大神官は一度も目を覚ましていない。剣で刺されているだけだからだ。消滅なんてしない。文字通り「殺された」だけなのだ。魂は消えて無くなって、身体だけが残されている。これは異常事態で、だが転機でもあった。

一度殺された天使らは、一応保管さえしていれば生き返ることが可能なのだそう。ただ代償は勿論あって

「帰りたいですか?」
『?』
「もう何もかも忘れて。まるで今迄が夢だったかのように。」

貴方を元の世界に戻せられる。

「そしたらあのお方は目を覚まします。何もかもが、元通りです。」

したいですか?そう言えば、首を縦に振りたかった。なのに振れなかった。だってそれは二度と彼等のことを知らないことになるも同然だったから。この大事な感情を、折角取り戻した感情を、またうやむやになんてしたくなかった。でも、それでも貴方が其処に息てさえいられるというならば。

『(一週間だけ)』

それだけの猶予があれば、私はもう、どうでも良かった。そう思えば、分かりましたと声が続く。何かを言っている気がするが、余り気にしなくて良い気がした。全てがどうでもよくなった。貴方の居ない世界でしか、私は生きることを許されない。これが呪いの、解放条件だった。


何一つも苦しくなんてない筈なのに。

何処か息をするのは難しいのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

身体を降ろされた。横たわる彼の姿が見える。目を閉じた彼は、あの日に寝ている時間が続いているかのようだった。毛布を被せてくれた天使に礼を考えつつ、都結は目の前の人を眺め続けていた。視界が歪むのは仕方がないことだ。どうせなら出せるもの全部出して、鼻水まで啜って食べてしまえばいい。

そうしたら汚いって貴方は笑って怒ってくれるでしょう?ねぇ、悪いことをしようよ。貴方に教えた悪いことや、貴方が教えてくれた悪いこと。全部全部やりきって、そうしてその先その後の末路は貴方と共にあの

「もういい」

もういいのです。何も苦しいことなんてない。もうこれから、辛く苦しいことなんてなくなっていい。そう言い聞かせ、背中を優しく撫でてくれる。嫌だ、この痛みを辛さを苦しさをひっくるめ、此処で生きたいと思った私は、一体どうすればいいというのだろうか?もう、死んでしまう。もう、分からなくなっていく。あのシュピルトらが切られたのが大ダメージだった。

都結の核ともなるエフェメラルですら、斬られ消え去っていたのだから。

その為、最早都結自体も時間の問題だった。一週間持つかどうか、でさえある。勿論こうなったら無理矢理喉の奥に入れた処で、きっと吐き戻すことになる。気を与え続け、血流に身体の内部に直接回復を入れ、兎に角生き長らえる様に施してやるしか出来ない。向こうではきっと栄養失調で倒れている処を誰かに発見してもらえることだろう。もしそれが出来なければ今度こそおしまいだ。

この世界で生き残るには辛すぎた。たった一週間だが、もう充分だと、誰もが口を揃えて言った。神々らも、疲れたのだ。余りにも優し過ぎた。彼女が生きるには、此処の世界自体、余りにも。ならば


「都結さん。貴方には三つの選択肢からどれか選んで貰います。」


一つ。元の世界に戻ること。これで大神官様の目は覚めることでしょう。呪いから呪縛から解放されたとは言えど、効力は低い。ならば元の世界にある力を使い、貴方が向こう側の人間として重荷になり、天秤の重さを均等にしてくるのです。そうしたら彼の生き残る確率は非常に高い処か、このままこの世界はゆるりと元に戻って行くことでしょう。

一つ。この世界に残り、大神官様の地位を引き継ぐこと。貴方の力は全王様の腹心。あの大神官様でさえ、自身に匹敵する程の力だ、と仰られていた。加えて貴方の忠誠心の高さに、加えたその思考回路。中立の立場を先に考え動くことが出来る貴方ならば、誰もが貴方の返事に従うことになるでしょう。誰も貴方を責め立てることはない。

一つ。


「物語の中に入りましょう。」
『…の、たり?』
「ええ、そうです。」


現実世界だと言い聞かせ、物語の中に居続けることです。勿論外の世界、此方側に戻ってくることもありましょうが、此方から鍵を掛けさえすれば出れない策も此方では存じ上げておりますし、年数も一応決めております。大体104年ごとに鍵を開けては閉じてを繰り返します。その日一日だけは鍵を解除します。

その物語の中ではどんなことをしたって貴方の自由です。


『これは?』
「貴方のご想像通りになることでしょう。アゲートさんは仰っておりました。”物語の中に入り力を使ったものは現実世界にも適用される”のだ、と。」

力が強ければ強い程、だから絵本の中に入ったらちゃんと出てくるように、と言い聞かされていたのだそうだ。居るであろう場所の者が仮の人形とならないように。ソレが生き物になり、化け物として生き延びるなんてことがないように。ならそれなら


『かえりたい』
「…分かりました。では一週間後、その儀式を致しましょう。」

もう何も苦しいことや辛いことなんてないのですよ。もう、何もかも、忘れ去って良い。こんな現実なんて忘れちゃっていいのです。

「この私だって…ねぇ、都結さん。」

そのワインレッドに身を包み笑ってくれた、優しいお人。

夏の暑い日に、母が着ていたのだから、なんて見せてくれた人。ワインレッドの衣服に身を包み、やっぱり同じだった!なんて言って笑い、写真を撮ってくれた人。ひと時でも私の母に、なってくれたらよかった。どれ程心待ちにしていたか。どれ程待っていたか。どれ程喜んだか。貴方は分かってくれていた。彼も分かってくれていた。それがどれ程の罪を、嗚呼これは、我々の罪なのでしょうか。

要らないと思った判断で消し去った、破壊されてきた者達の報復だとでも言うのでしょうか?

それならば貴方が背負う事など、何一つとて無い。

「私は貴方をずっと愛していましょう。」

忘れるなんてひと時もさせたくない。貴方の黒髪も、編んで喜んでくれた笑顔だって。誰かを見て指を指したあの目線だって。どれもこれも、可愛げのある、愛らしい素直な子。嬉しい、楽しいを言ってくれる、いい子。理想の世界を向いて、走って振り返り、手を振って立ち止まって待ってさえくれる、天使みたいな子。

さぁ、目を覚まそう。貴方が暮らす世界はもうすぐそこに待ち受けている!

何時か聴いていた音楽を思い出す。貴方の会いたい夢を今日も抱いて、その手を取り、引き込んでしまえたら。それだけで笑ってくれたら、どれ程良かったか。どれ程嬉しかったか。嗚呼私は貴方を好いていた。叶わない恋心を抱いてしまったものだな、なんてウイスはふっと笑った後、都結の頬にキスを落とした。

零れていた涙の味はしょっぱくて、何処か甘かった。

貴方の望んだ浅葱色のタオルケットを使ってしまう。寝ている場所は、貴方達が合瀬を共にしたあの城の一角だ。本来は隠していて欲しかったのだが、場合が場合。もう時効だろうと言ったアゲートが自白したことで見つかったこの城のとんでもない場所。それは写真を見つけたコルンが息を呑んだ。此処はあの日約束した部屋に似た場所なのだ、と。

海外に出て、二人きりで笑い約束を交わして眠った日。その日とほぼ似ている場所なのだ、と。切り取られた写真を、バツにしてインクで乱暴に書き殴ったのを見つけたコルンが言う。もう叶わない場所を望んでいたことを。叶えたいと思っていたことに、気付いてしまった感情すらも、彼等はきっと、この部屋でコルンらが知らない間に合っては共に生きようとしていたことだろうと。

その罰が来たのだったらば、なんて思いたくもなかった。中立から外れた様な事なんて、こんなもの、あるのだろうか?あって、溜まった者じゃない。望むことすら、逸脱しているというのか。己達は。


とは言っても、嘆いてばかりでも仕方がないというもので。ウイスはそっと席を外す。大神官の肉体は非常に高性能な剣の効果かしらないが、腐敗なんてものはない。まるで時間が止まっているかのような形だった。ただ都結は生きて居る為、どうしても風呂やら食事は必要不可欠。だが、そんなことも、今は難しい処。

力の加減が分からない。それは喉を通る唾液ですら、である。時々咳き込むくらいだ。喉唾を通すことすら忘れるというのか。時間が経過するたびに、彼女の気は落ちに落ち続ける。今では確認なんて出来ない程、小さな光を部屋の暗い夜だけわからせてくれる。

「ウイス」

名前を呼ばれた。仕方がなしに席を外す。交替でモヒイトが入った。扉を閉じ、状態はと聞かれ「ある意味異常など見受けられませんね」とぶっきらぼうに吐き捨てた。

「三択目を望まれておられる」

それは物語の中に入り続けるというものだ。此方としても、その方法が望ましいと思っていた。向こう側の神々に世話を掛けるどころか、彼女の両親らに顔合わせが出来ない。捨てて返すみたいなものなのだ。出来れば最初の選択肢だけはなんとしても避けたかった。が、二択目も正直嫌だった。人形のような彼女と話をするなんて、耐えれなかったから。

ならば彼女が笑ってくれる選択肢がこの一つだけならば。それならばもうそれだけで、良かった。ある意味救いだった。絵本の中に入れることが、此処まで嬉しいことか、と思える程に。資料を片手に持ったコルンが肩に抱える様に見せ、話しながら階段をウイスと共に降りる。

「ならば一週間後に、いや死なない分からない状態で今日の晩から手ほどきを入れた方が賢明でしょうね。」
「っ、もうですか…?幾ら何でも早過ぎるのでは。まだ碌に思考が」
「だからこそ、ですよ。少なくとも彼等は同意しています。」
「っ、サワアさん、クスお姉様まで…」
「すみません。」

本当はもう少し大神官様の隣に居させてやりたいところだが、事情が事情。この現状をもし万が一、他の宇宙に知られたら。ソレが今一番の恐ろしい話だった。今全王様の隣にいるだろう大神官は愚か、腹心になれるハズだった都結の状態は瀕死を越えた死に際の瀬戸際であったのだから。

それが分かれば、全王を殺そうと企む輩が押し寄せるに違いない。何もゼロではないだろうと踏んでいるのだ。都結のことを尽く狙って来た奴等を考えたら、普通にあり得そうだった。今日の夜、明日に目覚める頃には、というのだ。寧ろ幸運だとさえサワアはいう。

「あの子は気付くことが早い。そんな子が気付かずに、楽しい時間に誘い迷い続けた先に、生ぬるい陽だまりでも。」

それだけでも、笑ってくれるというならば。もう、それが自分達の出来る最善の行為だと言い切った。それにはクスだけでなく、聞いていたコニックやカンパーリらも同意見だった。寧ろ気付かないまま、動かした方が良いというくらいだった。破壊神や界王神らも同意見。もう腹は決まっていた。後は彼女がどうするかだけだった。

「大丈夫だろ。あいつのことだ。どうせ俺達のことだって想い馳せるだろ。」

落ち込む奴らに声を掛けたのはリキールだった。それもそうか、なんて言ったら、酷いと言う子は、今何処にも居ない。何時もだったら怒ってリキールの背後から突撃して笑いだすのだ。慣れてきたら甘えて来てくれる子。嬉しそうに笑って、それはまるで子供の様に

「現実にも影響が、というならば猶のことだ。」
「だがもし彼女が大神官様を失ったままだとしたら…」
「一つだけその策はあります。」

そう言って手の中にあったものをコルンが見せびらかした。ああああああと叫ぶ者達が、一斉に指を指した。


「お前なんでその栞持ってんだ!!!!」
「だって落ちてたので」

そう、大神官が消し去ったのは、別の用紙いや「上に重ねていた別の栞」だったのだ。その為本元を保持していた。そう、保持していたのだ。それは都結が言い出したことだった。

どうせやるなら「練習してから本番しようよ」なんてものを。大神官は持ち込んでいたのだ。だから「本番」は残されていた。そう、都結が死んで栞の力で目覚めたことがあるというならば、この栞は大神官の命が吹き込まれていると考えてもなんらおかしくはない。だが、そううまくいくか?と言うロウに、必ずとコルンが答えた。

「あの何処までも心優しい子が、酷い世界にずっと生き続けるなんて出来る訳がないのですから。」

















































































































さあ、帰りましょう。

あとすぐそこですから。






それでも貴方は愛してくれた。

と、言う訳で、「もう一度を繰り返そう?」







泡沫の白昼夢


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