俺の話をよく聞け、目覚めはもうすぐだと3



ぶくぶく、ぶくぶく、何かが泡立つ音がする。ふわりと髪の毛が浮かんで、それで


「っ都結!!!!」
『…?』
「っの、馬鹿!!何してんですか!!!!」

キーンと頭に響く音。険しい顔をして、怒鳴った彼の顔が怒っているのだけは分かった。あれ、今何をしてたんだっけ。そう思っているとはーーーーと深いため息を吐いた彼が腕を掴んで言う。寝る程に疲れているならば先にお伝え下さい、と。あれ、今何時だ。顔を乱雑に手で多めにくっついていた湯を脱ぎ払い、タオルを受取ってこれまた乱雑に顔を拭けばバッと勢いでとられる。嗚呼ーそんなーーーー。

「貴方が乱雑なことをなさるからでしょうが。」
「おい何があ」
「貴方が来て良いとは私言ってませんよね?」

白鳥さん?
おいおい、そらねぇーだろ?

「ついさっきまでの仲はどうしたよ。ってあーーーすまん。」
「見ましたね?見ましたよね?その反応、見たと判断しますよ?」
「あああああ!もう鬱陶しいなお前!!!いてぇって!!!」

お前はあいつの何だって言うんだよ!そう言った後、ツキンと何かが痛みを走る。何かが動く。温かい何かが、温度を共有する身体の重たいことを、知る前に、彼が答えてくれた。なに、って?

「そりゃ私の大事なお人ですよ」

何を言うんですか。という彼に、ふふっと声にしない笑みが零れた。誰にも見えていないと良いな、なんて思いながら身体を湯船から上げてしまう。きっと彼等は見ないでくれるだろうから、なんて期待を込めて。

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日付は2月に入る前、まだこの世界に来て二週間程度が過ぎた辺りだった。確かこの辺りでドイツの旅行が決まって、それで

「あ?チケット?もう取ってるって言うかお前大丈夫か?」
『へ?』
「なに行く前のノリになってんだよ。」

いくまえ?

ざわつく感情が、煩い。日付がまだ変わってねぇじゃねぇかーと言ってびりっと破いてしまう。日付は2月に変わっていた。斜め線を入れ、マルをした日が今日の日付で。時刻はポーンとなった合図が脳に焼き付いた。


「時刻は午前2時をお知らせ致します。」
「今日は”まだ”15日だろうがよ。」


あの日から時間が進みだしたのだ。


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いや、本当に現状がどういうことか分からない。とりあえず話そうかどうか迷って、とりあえず寝ようかと思ったが、寝てああなったのを思い出し、流石に寝れなくなってしまった。時間を繰り返している?となったら、ば、だ。次の選択肢を使うまでのことだ。だがそれで変わらなかったら?そう思っていると、コンコンとノックが入った。はーいと言ってしまえば、動く前にドアノブが音を立て扉を開けてくれる。相手は大神官だった。

「すみません夜分遅くに。」
『いえ、どうされました?』
「それは此方のセリフですよ。何処か顔色が優れませんが、湯冷め嗚呼いや風邪でも引かれました?」

旅行から帰って来たばかりですし、それに時差もありますから。そう言った大神官に、私と声を出す。

「ん?」
『私、旅行から帰って来たばかりなんだよね?』
「ええ、そうですよ?嗚呼白鳥さんなら先程帰らせました。彼にアレ以上居て貰っても意味ないですから。」
『お兄さんそれ普通に私の身体見たから殺さないだけましだと思えってことで外に出してません?』
「ぶっ」

っくくくく、してないですしてないですよーーー
ああああああその言い方したなああああ?!?!?!

『もーー!店長には滅茶苦茶お世話になってるんだから、変なことしないでよ!??!』
「っははは、するわけないでしょう?それに、この私の状態で一体何が出来ると?彼より私は力等持ち合わせていないんですよ?」
『身勝手の極意あるじゃんか』
「だから力はないと言っているでしょうが。身勝手の極意アレは力を無意識化に切り替えただけのことです。ゼロとは言えませんよ。」
『えーーーーーって何してるの。』
「おや?なに、とは。」

寝れないのでしょう?ですから添い寝、して差し上げようとおもいまして。
乙女の部屋に良く入れるな堂々と。

「んなこと今更、でしょう?ほらほら、」
『ああ、ちょちょっちょちょ!!!』

待てよ!おいごら!そう言えばクツクツと笑ってくれる。ボスンと音を立て、ベットに身体を落とした大神官が、続けて都結の腕を掴んでいたので、つられてベットに身を投げざるを得なかった。声を上げ、ちょっと!と何してくれてんだと声を上げる間に、身体へどんどんと羽織り物が掛けられる。いやいや、何してるんだ本当に!!!

「何って寝るでしょう?おや、それともナニをご想像に?」
『あせあdかどあいfじゃsどふぃあ!?!??!?!』

確かにしたい気持ちはなくもないが、それで終わるわけがないだろうに。焦っている都結の頬にキスを落とし、そのまま耳元へもキスをする。ひうっと甘い声が聞こえ、余り煽らないでとぼそり言えば、都結の身体が強張った。や、と言って胸や腕を押してくるが、そんな力一つは非力同然。腕を掴み上に上げれば動けなくなる。

「別に欲しがっても構わないのですよ?此処には誰もいないのですから。」
『(そうしたいのは山々だけど)』

先程まで見ていたあの時間が離れてくれない。あの温もりが怖くて、涙がぼろりと出て来てしまった。ぎょっとした大神官がすみません、と謝ってくれる。何か面白くなった。困って優しくしてくれる彼が、余りにも可愛らしくて。


嗚呼、あれが夢だったのか!


なんて思い違える程に、私の心は溶けていくのだ。


「ちょ、何笑っているんですか。笑うこは、こうですよ!?」
『あっ!ちょっふはっ、ははは!ま、やめっ!』
「っふふ」

こしょこしょと脇やら腹を捲ってこそばゆい処を優しく触れていく大神官に、都結の身体も敏感に反応した。反射的に動く彼女の攻撃なんて可愛いもので。大神官はそっと受け流しつつ、笑う場所をピンポイントに攻撃し続ける事五分間。もう息しか出来ない、咳き込む彼女にこれくらいにしておこうと思い、そっと隣に寝転がってしまった。

毛布は薄く、まるで夏前の春に使う薄さだった。それでもじっとしていれば温かい。

『ねぇりと』
「なんです?」
『起きたら何をしようか?』
「おやおや?なにが良いんです?」

もー冗談言わないで!そう叩いてくる都結に、痛いですよなんて言って、片目を瞑って反応するは条件反射だ。叩かれる訳ないのに目を瞑ってしまう。天使らが見たら唖然として固まりこの現状に理解せず立ち尽くしていることだろう。勿論みていたら、の話だが。

抱き着いて来た都結の頭をそっと撫でてからキスを落とす。きゅうきゅうと音を鳴らして答えるものだから、頬や近い処にキスを落とし続けた。ふふと笑い出して、額を当て合わせる。音は何処にも無い。パチンと部屋が膨張する音が鳴った。シーツが擦れる音がする。都結が動いたからだ。

『明日は何をしようか』

もう一度聞いてくるものだから、何かがしたいのだろうと踏み、何がしたいですか?と聞き返せば、ぼろりとまた大粒の涙を零してくる。嗚呼もう、今日はどうしたのだろうか?あの日言おうとした言葉を、ふと思い出した。

「では私と一緒に寝てくれませんか?」

この広いようで狭い八畳一間の空間で。

この時自体を共に過ごす、その時間が愛おしくさえ感じる。まるで今迄叶えたかったかのような感動さえ覚えてしまうのだ。目を輝かせた彼女がうんと声に出して答える。

『もちろん』

きっと小説や漫画であったら、びっくりマークが出てくる程に、力強く返事を返してくれた。笑った後、じゃあ寝ましょうと言って部屋の電気を今度こそ完全に暗くしてしまう。念の為部屋の鍵も掛けてしまおう。誰もこの部屋を見ない様に。ベットの中に入り戻って来た大神官に、ちょっとだけ触れた後、元の場所に戻る。

まるで幻を確認しているみたいだった。此処に生きて居ることを、分かる様に、覚えるように、知れるように、優しく触れて確認する。一体どれ程の悪夢をあの湯船で見ていたのだろうか?こっちに来て正解だった、と大神官は笑い目を閉じた。そうしたら彼女も目を閉じてくれると思ったから。

勿論彼女も目を閉じた。暫くは泣いてしまって、その度に拭い去ってしまったが。他愛もない話に花を咲かせ、明け方の音を聞きながら目を閉じてしまった。幸いなことに職場を一日多めに休んでいる。寝過ごしたって別に構いやしないのだ。

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目を覚ました。開けた瞼の外側には、何処にも居なかった。ばっと勢いよく起き上がり、部屋のドアを開けてしまえば、カタリと音がする。振り返った場所には、唖然として固まっていた大神官が居た。

「どうしましっ」
『(よかった)』

続いている。それだけが、何よりも、安堵という言葉に続いた。泣きそうになるのを堪えて居れば、そっと顔を上げさせてくる。指を使い、顎を持ち上げたからだ。ふっと笑っている彼の目が見えた。泣いても構わないのですよ?なんて言ってくれる。



嗚呼なんて「随分と酷い悪夢」なんだろうか。



泣いてしまう。首を横に振って、今迄のことを思い出しながら、ゆっくりと息を吸って吐いてしまう。抱き着いた痛みを、優しく解く様に触れてくれる彼の腕が胸を締め付けてくる。貴方と共に生きる。それがどれ程私の中で強い願いとなっていたのか。彼は知らない。知らなくて良い。

だってこれは続きなのだ。白い空白のページがびっしりと文字で埋め尽くされていく。時を共に過ごし続け、そうしてその先はきっと私が見たこともない程、温かくて何処までも何も知らなくて良い、優しい世界なのだ。





暫く泣いてから、遅い朝食を一緒に頂いた。今日は2月15日。明日から仕事だ。そう思っていたのだが…?

『は!?マジ!?…あ、ああ、うんわ、かった。』
「何か?」
『…ちょっと待って。ごめん、後で事情話す。』

今は整理しなければならない。そう、この世界について。腕を掴んで離さない眼を見た。目を細めてしまえば、力が強まる。

『っ、』
「…言いたい意味、分かりますね?」

ぎろりと睨んできたその殺気に、押し倒されそうになる気持ちを奮い立たせる。何故あの場所で生き延びたのかわかりゃしない。そう、私は記憶を持っているのだ。彼は持っていない筈、なのに彼はまるで「覚えている」ようにいう。そう此処はまるで

「事情、ご説明しましょうか。」


この世界がどのような仕組みになっているのか、を。


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『やはり記録か。』
「ええ、貴方も想定していたようですね。」

現場は大神官の部屋、本を全部置いているからだ。部屋から何冊か取り出してしまう。それは書かない様にと保管していたうちの一つだった。都結の使っている本を持ってきてこれ見てと言って本を立ててしまう。此処から本の厚みが色が違う、と示す場所は、まるで

「入れ替えた?」
『そう、ちょっと気になったんだよね。私物語書くけどぶっちゃけさ、最初から最後まで綺麗に書けた試しはない訳。』

勿論人にもよるし、物語や、その執筆者の環境諸々を考慮すれば、また話が変わってくることだろう。都結の場合、エフェメラルを作ったのはサワアではなくウイスを軸として話を作っていただけで、サワアはその話に出て来た幼馴染役が余りにもぴったり過ぎて出来てしまった「後付け役」だったのだ。それを改良し、話を綺麗に纏めたのが「いつか終わるその日まで」というものである。終わっているのかどうか分からない題名を付けないで欲しいなんて作った本人自らが言う。

「ですがこれは本ですよ?そう入れ替えられるも、のでは…いや」
『「”最初から違うページをすり替えられていたら?”」』

そう、気付いたのだ。例えばAとBの本がある。Aの物語とBの物語別々の作品だ。これを何故そう考えたのかしらないが、とりあえず似たような形で似たように置いて置くとする。するとどっちがどっちだか、記憶が残っていれば分かるが、いざぱっと見て分からくなったら?すり替えてしまっていた本が劣化で何方のストーリーかが分かれてくる。

この世界に来れるのも、そのすり替えられたことで、というならば話の説明も付く、が。

「何故そうしたのか、が分かりませんね…それに貴方と私、現段階で二人共一度死んでいる。」
『嗚呼其処の記憶あるんですね。』
「誰かさんが気を抜いたお陰で偉い目に合っているんでね。」
『う゛っ』

とは言っても、これで終わりなんてことは出来ない。まだまだ謎は解き明かされていないのだ。続きだした時間。それと何故か保管していた筈の本が全て戻ってきている。それもこれも、一体何処の本に都結を天使らが落としてきたのか…此処に残された45冊のうちの、どれか一冊が元の世界に戻れる唯一の扉になっているのに。

「戻り方は?」
『それが…』
「まぁ、それもそうですか。」

知られていたらすぐにでも戻って来れる。それにもしもコルン達が都結をこの世界に閉じ込めるとしたら、理由はただ一つ。元の世界に位置する場所が、都結自体生き延びられないという決定的な証拠が残されているから、であろう。自分の身がどうなっているかまでは知らない大神官だが、大体の憶測は付いた。

大方自分が停止し、都結もその現実に耐え切れず精神が崩壊しかけていたのだろう。其処を救済措置として、本の中に閉じ込めてしまった。記憶がきちんと定着しないうちに、というのが肝心だったのだろう。我ながら良く育ってくれた、育てたな、と思う。そしてよくやった、とさえ。とは言っても、後はやること等無い。

というのも、だ。そもそも都結の身体は血族の血で暴走されていたもの。勿論呪いは無事解かれていはするが、その代償として、大神官が停止している。その時間が続くことがない様に、この本だけでも、都結を喜ばそうと思った天使らの心ばかりではある小さな配慮故の行動だ。

なので現実はもう

『なに、しようか。』
「…そうですね。」

目を逸らす。今は、まだ…だ。一応明日にはマルカリータが参加する予定ではある時間だが、これが続けて来る、というのもまた不思議な話で。どうなるかは明日になって見ないと分からない。なんて思ったらメールが届いた。




『あ、速報。』




会社、明日から行けねぇ。

メールの題名は「大丈夫?」からだった。職場の同僚が言って来た。会社がどうやら潰れてしまったらしい。









泡沫の白昼夢


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