少し疲れたから貴方の隣で子守歌を3
「都結」
『あい』
今構いません?そう声を掛けられたので席を外す。ごめんいてくると言って手を振った。画面には顔なんて映っていないのに、である。通話の設定をオフにした。音も何もかもこれで入らない。ヘッドホンを頭から外して軽く椅子に投げてしまった。ばたんと落ちてしまったのをあーーなんて言いながら部屋を出る。
あんなことして壊しても知りませんよ?なんて言われつつも、都結はリビングへと戻った。あれから月日は流れ、実は既にGWが差し迫っている処である。アワモさんとクカテルさんがログインされておりますこと、教えらせ致しましょう。そう、実はなんと、まだあのアパートに暮らしているというよりも、なんとなんと、大家さんがというよりも大神官様が仲良くなってしまったが故の話でしてね。
『まさか大神官様がアパート経営するとはマジで人生何が起きるかわかりゃしねぇなおい。』
「まだそんなこと言ってるんですか?」
案外面白いですよ?経営って。そう言った彼には頭が上がらない。もう天才的な頭脳なんだから、きっと機械とか難しい資料を扱う公務員とかも難なく乗りこなしてしまいそうだ。だが、だとしても経歴重視な現代社会において、そんな道など許してくれるわけもなく、である。普通に無難な話、都結の現状やら事情を話し合って納得してくれた。何と既に四月からこのアパート自体私以外居なくなるらしくてだな。
そこで人を探していたのだそう。このアパート自体、全部で5部屋程度。三階建てのアパートでもほぼ人が住んでいないだろうこーーの築35年と大体10か月前後程度の鉄筋コンクリに入るなんて中々ないらしい。一応空きでも使えそうな場所を入れたらもっと出せるが、だとしても限界値で8部屋程度なのだそう。二人一部屋としたら充分である。
片側5つもあり、全部で30室あるこのアパートさん。今迄居た処も人が居なくなって、今年自体私以外誰もいなかったのだそう。嗚呼だから良いよね?って言って来ていたのか。事情を説明したらそれなら居ていい処か、此処の経営自体任せても良いとまできた始末である。どうしてそうなったどうして。
「それにしても人の分かるお人で良かった。」
『あくどい話にしか見えない言動である。』
本当に此処だけ切り取ったら何したんだてめぇって話になるだろう。殺人でも起こしたミステリー小説でも言える言葉である。少なくとも交渉という意味ではある意味やくざと変わらないのではなかろうか。待って、大神官様率いるやくざとか何それ激こわ過ぎて本日の恐怖体験ミステリー堂々一位を飾ることが出来るんだが。丁重にお断り願い申し上げたいところが、今日この頃の気分である。え?何言ってるか分かんないって?安心しろ、私も分かっていない。ダメじゃん。
そもそも見えないのではなく聞こえないって言うのが正しい日本語なんだがな。嗚呼ソレ言い出したら終わりか。
はあとため息を吐いた。壁には今日の日付と役割分担表の表が立て掛けられている。あれから役割分担を作り、週に一度交替で変わるようにしたのだ。担当としては炊事班・片付け班・洗濯班・買い出し班・家計班・掃除班の計六つの班だ。勿論役割はそれぞれ、である。
ただ炊事は主に二つに分かれる。家で調理する組とお弁当組。全部やると可哀想だという都結至っての提案だった。片付けは専ら全般。食事を終えた後片づけを担当している。洗濯はバスケットに入っている中身を洗っては干していくものだ。因みに自分のものは自分で片付ける。皿洗いとかは担当しているが、皿を持っていくのは自分である。
買い出し班はそのままだ。家計班である家計簿を付けている者からお金を貰って買い出しに行く。因みに献立は買い出し班と家計簿を付けている組、後は週に一度会議をする為そこでその週の献立を皆で決める話だ。もっと言えば毎週日曜日の夜八時から話し合いが行われる。其処で見たいテレビは録画済みである。リアタイなんてくそくらえだ。
勿論その他の掃除は掃除班だ。暫くはこの組で行う。アパート自体知り合いしかいないとなったら猶のこと、である。鍵は一応自分達で持っておくし管理もする。一応此処のアパート自体外の出入りは自由なのだ。だから怖いというのだが、其処での一人一つではなく、二人で生活できる環境、というものらしい。いや考えたなぁおい。
「そろそろ買い出しの時間ですから、ついでに遠くへ買い出しに、と思いまして。」
『まぁ良いけれども。』
とは言っても長距離移動になるならば話は別。都結が基本的に車の免許を持っている為、必然的に買い出しは都結が担当することになる。怖いので基本的にさせたくないらしいのだが、しないでふとした時に事故を起こされても困る。その為必ず付き添いは一人固定となっての組み合わせにしていた。二人以上乗せたら先日事故しかけたので、禁止になったのだ。悲しいねーーーー旅行いけないじゃないか。
「旅行くらい彼も巻き込んだら何とかなりますよ。」
『せめて公共交通機関を使うって手段覚えません???』
お兄さん?ねぇ待って何でそんな笑ってそっぽ向いちゃうの?お姉さん怖いよお姉さん。
いや、そう言うがだな?マジでこの人動かないまま仕事出来るのだ。もう普通に自宅での仕事が似合うのではなかろうか。ベビーシッター普通に似合いそうなんだがな。多分この人、賢い故にそう言ったのは出来たらする程度の人間だろうと思う。賢い人の頭はわっかんねぇーけどなーーーーー!!!!!
「で、いけますか?」
『行けますよ。何方に行かれます?というか良くアワモさんから取りましたね。あの人滅茶苦茶金出さないと思ってたのに。』
「むしり取って来ちゃいました。」
『言い方ーーーーーーー』
はっはっはと笑って車の鍵をドアノブで開け入る都結。ばたんと音を立て勢いで車の運転席に座ってしまえば少し揺れる。大神官も助手席に座り、シートベルトを付けた。肌色は青白い様に見えるのだが、意外とよくよく見たら血色がよく見えて来た。白い肌色と言ったらわかるだろうか?
少し色白に変わってきているのは日光浴をさせているからだろう。一応体温があるというのも確認出来たから、きっとここの日を浴び続けていたら肌色も変わるんだろうかと思ってね。それは大当たりだった。今では大神官の肌も結構日本人の知る肌色に近づいてきているというか、最早ソレである。
カチャリとシートベルトを付ける音が鳴っているのを覚えつつ、都結はブレーキを踏み込んで起動させた。ピピピとなった後、エンジン音が鳴り響く。今回はバックなしだったので、出る時はバックして、うごくことになった。とは言っても此処も使うのは今一人である。一応止めない様に色々モノを置いてくれている大家だが、本人曰く人が増えれば増えるだけ解放していいと言ってくれていた。気前のいいお人である。
『で、何処行くのお兄さんや。』
「一先ず薬局に向かいましょう。スーパーは後で、ですね。昼食も食べて来て良いと言ってくれましたから。」
『本当にマジでむしり取って来てない?ねぇアワモさんお父さんパワーでなんとか言いくるめられてない?大丈夫?労金判定はいんない?』
「そもそも親ですからね?」
『だからと言って良い訳じゃないからな????』
このご時世虐待とかあるんだよ。パワハラみたいなことしてるといつか捕まるぞと言いつつ、都結はガチャガチャとレバーを前に切り替えた。パーキングからドライブに切り替えた。因みにAT車である。え?M?ちょーーっとなに言ってるのか僕よくわかりませんねーーーーー!!!!!!
「で、東側の方に行きたいんですがって右行きましたね。」
『南へ出発しまーーーす。わーい遠足だーーー!!!!』
「テンション上げないで下さい。お小遣いは300円ですよ?」
『待って先生バナナは!!バナナはおやつに入らないんですか!!!!』
「入れても良いですけど、どうなるか分かってます?」
すいません。そういつぞやの下ネタを思い出した。きゅうりとかバナナとか禁句ワードになっている。以前言ったらマジで怒って適当にされたからな。前科ありである。だってそういう日本人の性癖というか、えっていう話あるじゃないですかもーーーやだなー冗談通じないんだからー。
「ま、別に構いませんけどね。」
『でお兄さん左曲がっても?』
「構いませんよ来てるか知りませんが。」
『待って待って待って待って』
一応来ていなかったので良かったが、ウィンカーをカチカチ言わせつつブレーキはしたが来ていたら普通にしいていたと思う。まぁ居なかったからいいが。最近適当さが異常な程に上がっている。きっとこの世界に慣れてくれたおかげだ。そう、そうだと思いたい。ふふっと内心は笑いつつ、都結は速度を上げた。
『向こうの奥にある薬局だよな?』
「そうですよ。黙って運転して下さい。次喋ったらどうなるか分かりますよね?」
『はーい』
多分お仕置きが待ち受けている。とは言っても本日お日柄の良い日曜日だ。先日予想以上に鍋が好評だったことで一気に食らい尽くしたのだ。因みにだが、一部屋二人に担当するも、組み合わせは意外にもコンビがあるらしくてだな。どうやら最終的には数字順ではない編成にするのだとか。
私と大神官様は一緒なのが確定されていて、まぁ其処はこの際どうでもいい。が、だ。アゲートは一人、で此処から天使の組み合わせだ。極力仕事仲間は避けるという話になった。んだがな…実は其処もちょっと変わった。家にいるくらいは別々が良いのだという話でね。まだ来てはいないが、仕事仲間であるコルンはサワアと組み合わせになるらしい。マジでいつか終わる日の話入ってませんかね?私情か?
コルンはサワアと。コニックはウイスさんと。ヴァドスはクスと。クカテルはマティーヌ。モヒイトはカンパーリと。アワモはアゲートと組むことになった。マルカリータは一応性別上都結と、という話になっていたのだが、この際大神官と一緒に居たらという話になって、急遽彼女が一人部屋を持つことになったのだ。元々はアゲートを一人に、なんて話が出ていたのだが、意外にもアゲート自体アワモと相性がいいらしい。結構話が合うそうで良かった。
因みに私の居る部屋は307号室だ。元々住んでいた310号室と302号室。後は204号室と209号室。102号室と105号室と108号室。この部屋が空いていた。
310号室:クス&ヴァドス
307号室:都結&大神官
302号室:モヒイト&カンパーリ
204号室:コルン&サワア
209号室:クカテル&マティーヌ
102号室:アワモ&アゲート
105号室:ウイス&コニック
108号室:マルカリータ
以上の部屋になった。勿論女性をそれも若いのを一人、とは如何なものかと、という話も出て来てだな。マティーヌかクカテルどちらかを交代すればいいのでは?という話もあったし、部屋自体を変えるのもありだという話も出た。が、裏をかいてマルカリータの部屋自体一つ空きがある。此処に白鳥や他の客人を入れたらどうかという話が出て決定が出たのだ。これだとこっちに暮らすことだって可能だしね。
白鳥もずっと家に長距離移動させるのも気が引けた。部屋割り自体に文句はなかった。勿論班も全員が来たら会議を三度くらい執り行う予定だ。その時の取り仕切りは都結がすると言った。この世界の役割やらなにやらの説明も纏めて居たいというのもあるし、なんだかそうした方がいい気がしたのだ。
一応302号室に女性をという意見もあったがそれは即刻都結が取り下げた。というか断固として拒否した。と、言うのも、だ。都結が暮らしているこの307号室。実は本当に四方音が無い。割と騒音を上げても正直音が届かないレベルの位置。加えて302号室は片側一つのみ。まだ310号室なら良いが、自衛出来る者の方がいい。よって、此処は男性を入れることになったのだ。
意外と考えての部屋割りにおおとその時は大神官らも唸ったものだ。恐らくコルンらの性格を把握した以上、都結の方が組み合わせは適任とさえ思える程だった。意外とモヒイトとカンパーリは似たような考え方をしているし、割と互いに放置して欲しい側の天使だ。それこそコルンやサワアのようなものをくっつけると途中から問題を起こしかねない。近隣住民はこのアパートだけではないのだからね。
クスやヴァドスは何だかんだ言って都結のことが心配なのと、後は距離も遠い為、防犯面でもきっちりしているからという都結からの希望至って、のことだ。とは言っても防犯面だったら階段側の方がいい気がしなくもないが、その周りにあるところほぼ使い古し過ぎている余り、リフォームした方が早いまである状態だった。此処を数年なんて考えるかどうかは、流石にその後次第である。
「人来てますからね」
『はーい』
ウインカーを出して止まる。自転車が移動したのを見てから右へと曲がって、直ぐに反対車線の右へとハンドルを切った。人が来ていないのを見ていたからこそである。駐車場に入ってパーキングにしてからよしと声を出し車から降りるべくドアノブに手を掛けた処だった。待ってと言って腕を掴まれたので止まる。
なに?と言ったら顎を向けた。どうやら車が止まろうとしていたらしい。危ない見ていなかった。止まって動かなくなったのを見てから構いませんよと言って手を放してくれた。ありがとうと礼を言ったらどういたしましてと言って彼もドアを開け車から足を降ろしたのだった。
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買い物を堪能し、もう時刻は午後1時を指していた。昼食を先に終わらせてからスーパーの中を散策し、買えるだけ買って帰って来た。ただいまーと言って荷物を玄関先のド真ん前に置けば雑ですよと指摘される。いいじゃんかーと言っていればおかえりーとリビングからの扉と、違う処から人が現れた。
『あれ!?待ってただいまは良いけどどっから出て来てんのあーわもさぁーん』
「ふふ。風呂掃除をしていたんですよ。今日はきっと良い風呂が堪能できることでしょう。」
『本当にマジでサウナドはまりしてません?換気しないと死ぬよ?人間。』
「それしき分かり切っていることですよ。ご心配には及びません。」
アワモさん絶対サウナとかハマると思って勧めたらマジでハマってしまって私はずっと笑ってる。この人に風呂掃除させたらマジでその日は気持ちが良いのだ。可愛いカラフルなバスボムが安くなっていたのを見つけた為、買ってきたのを先に見せてしまう。これ、生ものを早く持ってきて下さいよ。なんて大神官様から絶対聞けない言葉が飛びだしてきたのに笑って答えた。
『はーい、これ見せてからだって。ほらほらみてみてアワモさん可愛くない?』
「ふふ、じゃあ今日はこれを入れますか?」
『うん!じゃ買い物全部入れてくるね!』
「ええ、後でまたお話しましょう。」
互いに微笑んでから走って戻る。こけますよと言う大神官に大丈夫と言ってずるりと滑ってセーフと言った声が風呂場の方からも聞こえて来た。アワモはふふっと笑って作業に戻った。
この世界は非常に不思議で、睡眠を深くとったら元の世界に戻ってしまうことが判明している。都結が何時戻れているかは分からないが、それでも彼女が願い玉のある世界に行く可能性が無きにしも非ずということは少々懸念点だった。とは言っても、自分らが居ない間破壊神らに声を掛けたら其処迄の時間停止していないのだそう。
あっても五分間程度くらいなのだそうで、本当に一瞬しか休憩していないのだとか。かと言ってこっちで作業をし、長く居ると思ってもアパートのある人間にと戻ったら時間は朝になっている。不思議な感覚だ。夢の中どれ程の月日を過ごしたって全く不調などない。それに天使らも少々前後はするが基本的に動いているように見えた。
勿論アパートに入っている面々が全員入ったら、どうなるかは分からないが…そこが気になる処であってアワモはため息交じりに吐いた。
「はぁ…何事も無ければよろしいのですが。」
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本日の夕食は、だ。クカテルも入ったことでちょっとしたパーティーになった。
『はいはい、此処で重大ニュースはいりまーす。』
「なんですか」
『じゃじゃーん部屋割り地図作ってみました〜!可愛い?』
おおと声が上がって見せて貰っても?と言われたので手渡しする。アパートの端から端まで描き、顔を描いて何処に居るのかが分かる様にしていた。数字やら天使の姿は勿論描かれていて。複製出来ますか?と言われて勿論だと答える。皆部屋に置いて置くのが良いだろう。
『流石にクカテルさんが来てから手狭になって来たでしょう?今3部屋使っているとは言えども、最終的に8部屋使うんだったら全部こっちで掃除をしないかって言うお話をですね。』
「良いですね。買い物も皆で手伝える時にしたいですし。」
『最終的にはこの組み合わせで行く予定でってことでね。』
前に相談していたことを地図に描いただけではある。だが喜ばれたらまた作ってしまうのが性である。しかも同じのをあと7枚も描くってなったらちょっと趣向を変えてしまいたくなった。顔も変えてしまおうと来週の平日にする仕事が決まったではないか。楽しみだ。
食後のデザートとしてアイスを食べている間に渡す。ぱたりと落ちてしまっても問題ない。完成といってもラフ画ではあるのだ。その絵用の画材も買いに行きたかった。GWは大きな買い物を、というものだ。こっちも仕事が順調に進んでいる。まさかの知り合いもいない上に、良い人達に恵まれているのだ。
とは言っても来月から知り合いが入ってくる。非常にいい子だし、きっとこれからも楽しい時間が待ち受けていることだろう。白鳥に連絡を入れたらば、GWは何処かに行かないのか?という連絡と同時にあの子を思い出した。あの場所に行っているのには、行っている。連絡も勿論来ている。が、気が引けるのだ。
そっと手を繋いで笑う。まだ歩き始めたばかりなのだ。どうせなら皆で海外旅行してしまいたいくらいである。嗚呼それでも、あの五月が来たらそれこそ私は
「大丈夫ですよ。ゴールデンウィークではなく、また次の休暇に行ってしまいましょう。それこそ夏なんてどうでしょうか?」
『お盆休みってこと?』
外に出て話をする。鈴虫の鳴り響く音が煩い中、ええと大神官は答えた。中ではマルカリータやアゲートが騒いでいるのをクカテルが注意しているのが聞こえて以降静かになる。それが何処か恐ろしかった。鈴虫ですら音を消し去る。
「また遊びに行きましょう。今度は木陰の下で共に。」
息が止まるかと思った。それは春の間にあることで。しないように、としているのがバレたのだろうか?宅配便で来た段ボールには使っていたものが新品で届いていた。その箱を私は一つだけ開けれていない。それは彼と一緒に選んだ一つの宝物だった。この宝物を開けたら何処か遠くに飛んで行ってしまいそうで怖かったから。
パンドラは何時だって希望を残してくれるというのに?
『でも』
「どうせ新婚旅行だって考えるでしょう?今くらい少々ばたつきますが、夏場に一度切り替えた休息も大事、というものですよ。」
『台風とか』
「仕事でお休みを、とならば上司にご相談くらい貴方なら出来るでしょう?事情を話せばきっとご理解頂けることでしょう。」
ましてやドイツの子は従妹であるのだ。家族の話、アゲートの関係もあるし、事情を説明したらきっと分かってくれるのは目に見えていた。うんと言ったら、嬉しそうに笑ってくれた。嗚呼、それでいいのか。それが、わたしは。
息を吐いた。貴方が笑ってくれたから。新しい息を吸ってまた吐けるこの空気が美味しかった。味なんてしないのに。しやすかった。
怖がらなくて良いのです。そう言って頬に触れる手が熱い。目を向けた。音は鳴っている。鈴虫がずっと音を立ててくれたから、私はその音を聞こえなかった振りさえ出来るというのに。何処か聞き取りたくて。口を開けた。何か言いたかったのかもしれない。
「もう大丈夫なのですよ。」
その言葉にどれ程安堵し、その身に身を委ねてしまえたら良かっただろうか?
もしもこの世界が夢幻で、目覚めた時貴方の開いた目を見れないと知ったら、その時私は息が吸えるだろうか?吸っても、吐き捨てることが、本当に出来るだろうか?置いて行って欲しくないのだ。もう誰にも、誰からにも。大丈夫ともう一度教えてくれる。今度は音がしっかり耳が伝えてくれる。脳の奥底まで。響かせてくれた。
「此処ならばずっと傍に居てやれますから」
あの場所では遠かった。空を飛べる輪を持つ人。不思議な人。手を伸ばしても届かない。振り返った彼になんて手を伸ばし続けることすら出来ないのだ。手を伸ばして振り返ってなんて、難しい。抑えてしまう。無意識で抑えつけ、今ではないと言い聞かせる。それが正しい時ばかりだったから、だから脳が勝手に覚えていく。
この場所じゃなかったら?
なんて言葉は喉元で留めた。熱さは過ぎ去って欲しかった。なのに喉元にずっと留まって熱くなる。唾に混じって飲み込んでしまえたらいいのに。きっとそれは私が望んでいないのだろう。そうしていたら今はこんな胸の痛みなんて知らないことだろうから。私はうんと笑って答えた。約束だ。叶えも出来やしない約束を私は声に出して言うのだ。
『そうだね!』
そうじゃなかったらよかったのに。そしたらあの場所でも私は貴方と共にい
(きれるのだと、世界は漸く私達のことを認めてくれたと認識出来ると言うのに。私は己の感情ですらも許さないと言うのだろうか?)