少し疲れたから貴方の隣で子守歌を5



前回のあらすじ

何か知らんが、絵本の中で杖を取って化け物が現れ大惨事になってる。

異常。

「確保できました!」
「お父様!!!」
「でかしました!都結さん!」
『あいよ!!!』

マルカリータから気を大量に貰いながら、都結は焦る気持ちを募らせつつも、きちんと整理しながら手に力を籠め続ける。今の姿がどうなっているか分からないけど、少なくともベランダの手すりに足を掛けるのだけは危険なので良い子も悪い子も皆揃って真似するんじゃねーーぞ!お姉さんからのお知らせな!!!忠告したかんなーーーーー!!!!!!

なんて思っている場合ではない。白い光を今だと思った瞬間に手を前に出して放出した。光は化け物の胸元を直撃し、その姿がどんどんと小さくなっていく。世界も徐々に、緩やかではあったが動き出して。

そうして暫くしたら何時もの日常が続いて行く。取り上げられたものは無かった。まるで何事もなかったのかの様に…?


『(この何事もないこと自体が”物語の一部”だったら?)』

なんて考えるのは杞憂か。そう思い都結はテレビから外れてしまう。続きまして速報ですとニュースが読み上げられた。

ー先日劇場版”天使の白昼夢”のPV映像を流していましたが、本日漸く公開と修正が出たそうです。話は続けられ、どうやらヒロインは二人いるそうです。

青髪の子の名はエフェメラル。春をイメージしているにしては、髪の毛が随分と青く、まるで夏空見たいですね。なんて話が持ち上がる。もう一人の子はと目を向けた。其処には


ーあら、とっても可愛らしいですね〜!何処にでも居そうな女の子をイメージされたそうですよ!どうやらエフェメラルと対らしく、名前は



”アニュアル”



青髪の子とは違い、今度は対の赤い髪色の子が出て来た。元気そうな青い子と違って、今度はおしとやかそうな顔をしていた。普通逆ですよね〜という団欒の声がテレビから漏れ出てくる。エフェメラルの輪は下に一つ右側に付いているが、アニュアルは左側に付いていた。髪型はエフェメラルと同じではあったが、通常は黒髪に戻り、三つ編みで後ろに纏めている姿が描かれている。

エフェメラルと共にアニュアルも?あれ、似たようなキャラ居ましたよねと言う話に良い質問ですねとアナウンサーが答える。

ー神様で”アニュラス様”という神様がいるのですが、実はこれが伏線だったそうでして…!
ーえっ!
ー続きは映画をご覧あれ〜!
ー待って待って待って待って待って待って待って待って

其処で終わるんですか?!?えええ楽しみいいいいと、大袈裟に言う売れっ子アイドルが言う。続きましてお天気に参りましょうかなんて、押しに押している時間を気にし始めた者が声を張り上げて言う処でプツンと切れた。シャワーの音が鳴り響く。

「…どうするのですますか?これから。」
「さぁ、どうしましょうねぇ?」

都結の正体が分かった。と言っても過言ではなかった。彼女が気付いているかどうかは未だ謎ではあるが…エフェメラルが以前向こうの世界でちょくちょく外に出ていたのは、アレ自体別の存在だったとしたら?そうしたら話が大きく変わってくる。そう、過去に生きていたエフェメラルと同姓同名の全く違う人物がいるのでは?という話をマルカリータはし始めてたのだ。それに関して、どうしようか、と答えたのが大神官だ。

「外では貴方様が大ダメージを負っているのは事実。そして我々も元の場所に戻る感覚は、今現在ほぼないに等しい。」
「この場所に長く居座れば居座る程、この物語の中に組み込まれる…成程、封印とはよく考えたものですね。」
「解除は」
「なさらない方が賢明かと。」
「そうですねぇ…ある意味延命措置みたいなところでしょうし。」
「お父様……」

今大神官の状態を例えていうならば、植物状態と変わらないのだ。呼吸が出来ない、食事が出来ない。だから直接酸素を送り込み、栄養も補充している、管で繋げている状態。それとなんら変わらない。これで無理に外に出てみろ。間違いなく死んで消滅は免れないことだろう。全王の力も万能ではない。超ドラゴンボールで生き返らせるとしても、消滅した対象は確か無効だった筈だ。確かにどんなことも願いは叶えられることだろうが、余りそう言う願いに手を出したくはない。中立である者としてのプライドもあった。

故にこのまま維持するしか術がない。少なくとも、今では大神官の状態に切り替えられることが出来るようになった。いざという時は都結を助ける、なんてことも出来るが…その状態は、見たくもない状態だった。

「まさかエフェメラルさんの対であったとは。」
「アニュアルさん、ですか。」

エフェメラルが春のひと時に生きるという者ならば、
アニュアルは冬のひと時に生きる者と言うのだろうか。

そもそもエフェメラルはスプリング・エフェメラルという名称で、春の儚い植物という植物群の名称みたいな位置のものだ。まぁ色々話が長くなるので詳細は省くが、厳密に言えばこの二つ自体似たようなものではない。春に生きる為に残る者と、夏を乗り越えられないから夏を避けるように生きる者では、話が違うからだ。比較にならない。

「とにかく今は今を生き残る迄。夏耐えられないならばさっさと耐えられるように教育してしまえばいいというもの。」

そう、そう言うことだ。


パタンと扉を閉めてしまう。全力で目の前の子が首を横に振っている。


「おや、お話をお聞きしていたでしょう?」
『なななんあなななななんのこここここkどだsどfkじゃsldkjふぁd』
「ふふ、相変わらず分かりやすいですねぇ。」

それとも、この私ですら、分かりやすい様に仕向け、本質を見せない様にする、と?随分傲慢なお心をお持ちなことで。ある意味称賛に値することでしょう。
とんでもないプライドの塊投げつけないで近づかないでもろて構いませんかねぇ?!?!?!

そう全力で引き下がる都結。風呂から上がり、勿論食事も終えている。自由時間。マルカリータらは早速自室の調整も兼ねてそれぞれの部屋に戻って行った。そう、今日から大神官と二人きりで生活を共に出来てしまう。それはつまり。

「おや、どうして逃げてしまうのですか?」
『そう言う気分じゃ、っ』
「私はこんなにも寂しいのに。」

貴方は拭ってくれやしないと。
〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!

近付き、頬に触れながら大神官は都結の耳に問いかけた。身体がビクンと跳ね上がった後強張ってしまう。しかし、そんなこわばりも顔に触れ続けていたら和らいでいく。嗚呼本当にもう…

「私以外にそのようなことをしたら、ただじゃおきませんからね。」
『どういう?っひゃ!』
「こういう、ですよ。ほら寝ましょう?」

いや今やる話になって
おや、やっても
いいですおやすみなさい!!!
あらあら

ふふっと笑った大神官。今日は都結がきっと寂しがることだろうからと思って部屋に上がり込んで来ただけなのだ。タオルケットに丸まった彼女の強張った身体に近づいて目を閉じてしまう。今は輪なんて二人共付けていない状態だ。とは言っても大神官の髪色は白いままではあるが、そう、あった。



あったはずなのだ。



次の日


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


雄たけびが上がったことで、何事ですかと乱雑にドアを開けて入って来たのはモヒイトだった。季節は既にGWを通り越し、一人ずつ部屋に入って過ごしている最中。事件が起きた。


「…えっと、要約しますと……お父様の髪色が変わったので叫んだと。」
『そうだよ!重大事件じゃねぇか此畜生!!!!!』
「煩い煩い。黙りなさい。」

あと座れ。そう言った大神官にひゅっと音が鳴るクカテルやアワモ。それに対してはぁいと適当に吐き捨て座る都結は、本当に肝が据わっている子だと思う。あとそう言うことをさせる都結にも責任はあるだろうが、これ以上薪をくべるなんて馬鹿な真似が出来るものはこの場に居る訳もいないというか、いたらただ事ではなくなるのでどうぞお控下さいと祈るばかりだった。

パタンと閉じた本を置いたモヒイトが話を続ける。仕事はそれぞれ持っていて、都結も六月から仕事を開始することになっていた。因みに無事仕事は決まりました。工場ではなく、実は店長の手伝いに近いものであって、だな?

「私の髪で一々叫ばないで下さい。カラースプレーの諸費用が浮くだけの話で寧ろ此処は喜ばしいべき事案でしょうが。」
「いや、ですが確かに髪色変わってますね…」

その発言は恐らく都結に毒されていることだろうが、其処ら辺突くと後が恐ろしいのを、モヒイトらは分かっていた。勿論都結が突いて、後のフラグになるのは目に見えていたのだが…まぁ其処ら辺も助けてやれることはなくて、だな。まぁお互いの愛に首を突っ込んで痛い目を見たいわけではないのがこのクカテルらだった。

…ウイスやサワア辺りならば、まだ分からないが。え?マルカリータ?マルカリータは別の意味で痛い目を合いに行くのでこの際割愛させてもらうことにする。話が無駄に長くなっても収集が付かないからだ。え?面白いからいいぞもっとやれって?も〜〜仕方がないなーのびーるた君は。

「何意味の分からないことを考えているんですか。そんなことを考えている暇がおありでしたら、もう少し他のことに頭を回して頂けると幸いです。」
『びえええ、そんなごむたいなぁ』
「全くもう、今何時だと思ってるんですか。」

そう言う日は土曜日の早朝である。あれから色々あって、時間が過ぎ去っている今日この頃。もうすぐ六月が入るという時、仕事で暫く時間も取られ、手を開けるという状態で。正直大神官からしたら都結を出来るだけ手放したくはなかったが、白鳥や彼女の友人と相談した結果、仕方がなく平日の日中辺りは互いの仕事に専念してしまうことにした。案外大神官は束縛しやすいのか、なんて白鳥が思っていたが、勿論この後背中をぶっ叩かれることになったのだ。可哀想に。

「そもそも髪色が変わるなんて、我々とてないのに…」
「この場所に居る時間か、或いは」

向こう側の事実上での死が遂げられた、か。

そのどちらかだろうと大神官は踏んだ。都結はアレ以降、向こう側に戻っていない。目覚めるなんて怖かったから。そのせいか知らないが、都結の髪色にも異常は出て来ていた。以前から髪色をスプレーでなんとかしていたし、途中髪色が黒くなっていたのだが…実は今日からまた、髪色が白に戻りつつあったのだ。まるで大神官に髪色を移し替えている様にも見えた。

『浮いたスプレー代は私の方に来ますけどね。実質変わらない処か、寧ろ+ですよ。』
「ならいっそのこと髪を切ったらいいではないですか。」
「っ!?!?!?!」
『え、切った方が好きだったりします?嗚呼それともアレです?切った私も見て見たい的な乙女ゲーの会話を取って来ました?お前私の部屋でまたゲーム漁ったな?』
「するわけないでしょうが。何変なことをほざいているんです?単に面倒そうだったので、ですよ。」
『嗚呼そういう。』

普通にとんでもない口の利き方をしているが、もうこれは都結だからこそ許されることだろう。何だかんだ言って大神官は都結に一度助けられているのだ。前世やその前なんて話を抜きにして、のこと。色々面倒だから、この際この生きる時間だけに集点を当てさせて貰う。

だからと言って、都結が好き勝手していいという理由になんて成る訳もない。こうして適度に出て来た杭を叩いて戻してやるのだ。それが人からしたらいちゃつくということになるのを、きっとこの二人は分かっていないし、分かっていてやっているならばやめて欲しいものだ、とモヒイトは思った気持ちをそっと横に置いてしまう。話が進まない。

「はぁ…それで、髪をお切りになるのですか?ならないのですか、何方なんです?」
『え、切ってくれるんですか?』
「きっ…いや私が、ですか?」
『乗り掛かった舟かなと』
「勝手に乗り込まないで下さい。」

ジトリ睨んだモヒイトにえーーーと言いながら倒れる如く都結が床に寝そべりだした。嗚呼もう汚いですから、なんて肩を叩いている大神官。互いに服装は未だ着替えていないパジャマ姿だ。何だかんだ言って互いにペアルックもどきをしているところ、仲がいい。紺色の長袖長ズボンの大神官に、紺色のワンピース姿な都結の姿は、何処かで見ても…いや、此処だけだろう。

そう、あの神々がひれ伏すような位置ではない、此処だけだからこそ、で。

皮肉なものだ。この狭苦しい箱の中でなければ愛に気付けない息づいて居られないとは。それを知って、尚居続けることで、元の状態になんて戻れなくなると分かっているのだろうか。いや、分かって欲しくない。出来れば、もう、分からないまま、ずっと。そのままで。なんてきっと、させてくれやしなくて。


風が吹いてくしゃみをした都結に、風邪引きますよと声を出す。何だかんだ言って六月入る手前だって、早朝の気温は低いのだ。幾ら換気だからと言ってむやみやたらに扉を開けていたら風邪でも引くのは当たり前のこと。そもそも生足を出して其処ら辺に足を上げ寝そべろうとしないで欲しい。モヒイトらがそっと目を逸らしているのを、きっと彼女は分かっていないだろう。まぁこの場合目を逸らしているので、分かっているかどうかの区別は出来ないものだが…。

「まぁ切れと申されましたら切っても問題ないですが、ですが貴方髪を纏めて寄付したりするのでは?」
『そんな日もあった。』
「嗚呼もう纏めないのですか。」
『いいや。注文あるよ。』
「もう美容室行った方が早いのでは。」

予約面倒くさい〜〜やだーーーーという彼に、そう言えばと都結が話す。以前友人が散髪屋でもあるが、人手が欲しいと言っていたのだ。モヒイトが良ければと提案を出した。近所にあるそこそこの洒落た処だ。流石に人に対して、となれば免許が必要にはなるが、通信制の学校だってあるし、知り合いの伝手で色々諸事情を話せば何となく分かってくれると信じている。

まぁそうでなくとも、きっとこの子のことだからすぐに習得することだろう。その諸費用はどう工面するんだって話ではあるが。まぁ今は美容院に通ってしまうだけでいい。でも、整えて貰うのはなんだかモヒイトが良いな、なんて思ったのだ。特に深い意味はない。そう言った都結に深いため息を吐いて片目を伏せてしまう。あれ、なんかした?

「ふふ、貴方も期待されて大変ですねぇ?」
「だとしたら助けるとかしてくれないのですか?」
「いえいえ、私が助けるだなんておこがましい。」

首を傾げる都結に、あの子達なりの貶し方ですよ、なんて大神官がフォローする。要は冗談を言っているのだ。何だかんだ言って仲いいねなんて都合のいい様に考えてくれる処、本当に有難迷惑な話であって。更にため息を吐いたモヒイトであった。



勿論その後は美容院に連絡をし、次いでだからと本気でモヒイトを連れていくことにした都結。きちんと身なりは整えて、じゃあ行ってくるねと話をした。本当は今迄髪の毛を放置していたのは髪色のせいもあったのだが、今回はちょっとモヒイトの職場というのも考え、視察程度にも切ってくることに。

お気をつけてと言って大神官は見送った後、諸々の仕事をすることに活動を始める。時刻は午前11時を過ぎる頃合いだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『すいません、予約してました水向ですが』
「嗚呼水向さんですか。お聞きしていますよ。」

どうぞこちらへそう言って女の人が手を広げて示した場所は、男性の場所で。ぎょっとしたモヒイトが腕を掴んだ。

「っいけません、都結さ」
『大丈夫、丁度身長も近いし勉強しときなって』
「いやですがだいっ…お父、さんに、怒られますって…」

噴き出すのを堪えただけマシだと思って欲しい。彼から大神官様でもお父様でもなく、まさかのお父さんと言いだして来てくれるとは思いもよらなかったのだ。本当に大丈夫だと言って答え、席に座る。すみません髪の毛多くて。とサラリ話をする。

「おねがいします。いやそれにしても本当に髪の量多いですね、何時もは何方で?」
『いや実はほぼこっちに来てから美容院に来たことすらなくてですね。』
「え゛っ……本当ですか?」
『ええ、殆ど、ですね。』

今の髪は腰を普通に超えていた。お尻迄来ていたので、此処まで伸びたら肩下程度の長さに調節なんて出来ると思ったのだ。きちんと事情を説明しているので、とりあえず髪の毛を洗ってから、整えてその後一気に切って貰うことになった。そうしないと適当に切ったらどうなるかは目に見えているのだそう。其処ら辺分からないので、お任せするしかない。

椅子に座り直して、シャンプーを入れて貰う。湯加減を気にされたので大丈夫ですと少々高い声ではっきり応えてやる。きっとこの声色もモヒイトからしたら新鮮なことだろう。そんなことを考えていたら、モヒイトの話を振られた。

「ふふ、お子さんで、いやご兄弟か何かですか?」
『嗚呼あの子です?すいませんがん見してません?』
「いえいえ、其処迄。時々目がかち合うだけで。」
『お兄さん???流石に見過ぎは悪いから止めて差し上げてね??????』

分かりましたなんて嫌そうな声が飛んできたので、お兄さんと一緒に笑ってしまった。ちょっと癖っ毛のあるお兄さんが一つに纏めているのを、思い出しながら声を掛けられた言葉を返す。こういう日もまた良いなと思った。人は繁盛しているのかしらないが、他にもお客さんは何組か来ていた。

『何時もこれくらい人がおられるんですかね?』
「そーうで、すね…まぁ大体こんな感じのペースで。時々予約なしで切ってもと来られるんですが、場合に寄りけりで承っています。流石にご予約されておられるお客様を優先しますので…。」
『それもそうですよね〜。』
「にしても本当に何もしてなかったのですか?」
『そうですね、それがどうかしました?』
「いや物凄く質が良いので…ちょっと驚いてて」
『嗚呼産まれてこのかた一度も髪を染めては無いので。』

とは言ってもカラースプレーはしている。その為、髪色が変わっているので、手が止まったのだろう。一応言ってはいたが、許可が出たので来たのはいいものの…それでもざわつきは慣れないものだな。

「…あの、今迄どのスプレーをお使いに?」
『市販の至って普通に入手できるタイプですよ。』
「……髪も生きていると、よく言います。一応身体にくっついているので、その為それなりのダメージを負えばその分回復するかと言われるとそうでもない。」

要は一度ダメージを負えばずっとダメージが続くままになる、それ即ち髪はボロボロになりやすいのだ、と彼は言うのだ。なのに、都結の髪色は何一つも痛みがないのだそう。あったとしても毛先がちょっと痛んでボロボロになりやすい、枝毛が多発しやすいというだけであって。それ以外は文句ひとつない程に綺麗なのだそう。それが余りにも意外過ぎて、つい聞いたらしい。

嗚呼それだったらあれか。

『以前まではヘアオイル使ってましたね。花の香りが凄く良くて』
「嗚呼ソレのおかげですね。」
『でもやっても月に一度程度ですよ?』
「…前言撤回させて貰いますね。」
『ぶはっ』

お兄さん面白いですね〜そう言えば良く言われますと言われる。シャンプーを流される。大きな手が頭にちょっと触れたりして驚くが、勿論反射的なものなので特に嫌とかではない。目は手拭いを被せられて見えないだろうが、口元は必ず見えているから分かる筈だ。ニコリと弧を描いていたら、止まる手もすぐに動き出す。そうして、時間を続けて居られたらいい。

「それも市販のですか?」
『ん?嗚呼そうですね。今は其処迄使わないですが…まぁ帰って久しぶりにしてみようかな。何せ量がえげつないくらいに使うんですよね、今やると。』
「そりゃあ此処まで伸ばせばそうなりますよ。髪の毛も中々乾かないでしょう?」
『そうなんですよね〜〜〜もーびっくりするくらいに乾かない!でも私髪の毛ちょっと乾いていない時が凄い好きでしてね。』
「嗚呼ありますよね、僕もちょっと濡れた状態くらいの生乾きが好きで、ドライヤーを中途半端に当てるだけ当てて終えちゃうんですよ。」

余り良くないんですけどね〜と言う彼に、分かりますーと声を出す。

『本当はちゃんと距離離してドライヤーで乾かしてやらないと駄目なんですよねぇ〜』
「折角綺麗な髪をお持ちですからねぇ〜」
『そうなんですよ〜自分の髪自体は滅茶苦茶に自信あります。』
「いや自信持って良いですよ。普通だと数回で痛むんですが、きちんとその後の保湿が行き届いていることでしょうからね。」

確かに保湿はしている。顔ついでというのもあり、五分だけ時間を取るようにしてるのだ。髪と顔を含めたら合計で十五分を最長の目安にしている。それ以上はしない。他の趣味に充てたいからだ。まぁそれ以上は気分によって時間を前後させるようにしている。それが分かってくれるのだ。


分かってくれることは良いことなのだ。なのに何処か触れられるのを恐れている。それは自分が捨てられることを恐れていることだと分かっている。分かっているのだ、そんなことないと。でも、それでも身体は心は言うことを聞いてくれやしなくて。

もう大神官のことが欲しくて欲しくて堪らなくなっている。こんな顔なんて見られたくないのに。髪の毛を絞られてから、タオルを巻かれ、目隠しを外されてしまう。光が眩しいのに、何故か見えてしまった。眼鏡が無くて人の顔はきちんと見えない。それでも声色で何となく分かった。

「…さ、出来ましたよ。元の席に戻って頂いても構いませんか?」

うんと頷いてから席を立つ。眼鏡はモヒイトが預かってくれていた筈だ。









泡沫の白昼夢


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