少し疲れたから貴方の隣で子守歌を6
それから髪の毛をカットしていく。束ねてから軽く髪の毛を乾かして調整をして、バッサリと切られた。かなり身体が軽くなった。向こうでもそういや髪の毛は短くなっていた筈だ。何かで切ったかは忘れてしまったが…あれ、どう
「さ、どれくらいの長さにします?」
思考を切り替えさせられる。肩をそっと指で触り意識を向けてくれた男性に都結は答えた。とりあえず調整してもらうだけで構わない。後は前髪を切って欲しいくらいだ。流石に目の下までは要らない。眉上程でも良いがそれなりに整えてくれたら良いと言えば畏まりましたと答えが返って来た。
「随分と短くなってしまいますね。」
『嫌?』
「嗚呼いや、いやというものでは…」
「これくらい綺麗な髪の毛を切られたんですもの。」
嫌にもなりますよねーなんて女性の店員さんが声を掛けて来てくれた。どうやら先程までモヒイトの様子をみながら話をしてくれていたらしい。色々事情を知ってくれている女性の店員さんだ。
「それにしてもすっきりしました?」
『え?』
「何処かすっきりされたお顔されてるので。」
『…まぁ、少し。』
それでも確かに嫌は嫌になる。ずっと居た髪の毛が羽ばたいていく気持ちは、何処か悲しさを募らせてくるが…それでも、誰かの好きになってくれるのであれば、私はソレで良いと思う。白い髪の毛で良ければ。この私の、色でも笑ってくれるのであれば、だ。一応カラースプレーの商品名も言って、その後支払いをして店を出た。
ー大丈夫、きっと彼も喜んでくれますよ。
「都結様?どうなされました?まさか奴に何か言われたんじゃ」
『ちっ!ちがっ、』
「…本当です?信じても?」
『あば…えと、その……』
言える訳がない。髪が短くなって、すっきりしたのはいいが、それのせいで大神官が私を認識しなかったらどうしようと不安でたまらないところを、店員さんに拭って貰えた、だなんてことが知れたら、とんでもない仕打ちをしそうだったから。チラチラと目をぱちくりさせ顎を引き都結はモヒイトを見ていた。暫くして根負けしたのか、モヒイトがため息を吐いて分かりましたと答えた。
「先を急ぎましょうか。きっと昼食の準備はとうの昔に終えていることでしょうから。」
『うん…うん!?』
「おや、どうなさいました?」
『待って今何時!?』
「そうですねぇ待ち時間を込みして、今は13時になって少々『はよ帰ろう!!』ああちょっと!」
手を掴んで引っ張る都結にあとを追うように走り出す。急な飛びだしをしそうだったので、グイっと引っ張ってしまう。クラクションが後で鳴った処、飛びだしたのは明白だった。焦らないんですよとしかえればびくりと反応する。
「…急ぐ気持ちはわかりますが、そのせいで貴方が傷付いたと知ったお父様がどう思われるか、ご理解出来ますね?」
『………ん、』
「さ、次走ったら手繋ぎますからね?」
『分かった、』
そう言ってぱっと足を前に出した。
「『あ』」
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「おかえりなさ、って…何してるんですか?」
「すいません。飛びだすのでちょっと手を」
貴方ねぇとジトリ見たクカテルに都結がだってだってと駄々をこねる。その間扉を閉める。ガチャリと音を立てていると、やっと帰って来ましたかと声が入る。お帰りなさいと言うはずだった大神官の口が止まった。あれ、動かなくなってしまった…どうしよ。ふとモヒイトの方を見上げれば、軽く背中を押された。
「ほら、明るい処で見て貰えばいいじゃないですか。」
『わわ、ちょ、ちょっと!』
靴を脱ぎ、彼の近くまで軽く押してやるモヒイト。やり方がサワアに似て来て、いやこの場合元々では?そう思うのは現実逃避なだけであって。都結さんと言われひゃいと声が裏返ってしまう。そっと触れて来た手は髪の方であって。そっと彼の方を向いた。
「…お似合いですよ。」
『っ、』
横に広げる様に、手で触れ微笑んだ彼の目に映った世界が見えた。白い髪の毛だけが、姿が、一つ見せてくれる。黒髪になっていく彼が怖かった。嗚呼そうか、怖かったんだ。私が物語の中に居そうな人間で、貴方が現実に居そうな嗚呼そうか。
「っと、どうしました?」
『(怖いんだ、怖かったんだ、私)』
私がこの世界に生きていないのではないのだろうか?
その現実が怖かったのだ。皆居るのに、私は存在していなくて。彼の心の中に存在しているだけの、物語にある一欠けらであって。嗚呼でも、それでも良いと思えてしまった自分が居た。彼の瞳に映ってくれるだけならば。なのに、それなのに、怖くなったのだ。隣で地に足を付いて二人で手を取り合って生きていたいと思ったのだ。
嗚呼不思議だな。クスクスと笑った都結にどうしました?と声が掛かった。嗚呼いや、さ?
『向こう側の世界では私の髪の毛は真っ黒なのに、こっちに来たら白色になるんだよ。』
貴方は逆で。まるでオセロみたいだねって言う都結におや、それは嬉しい話ですねと答えが返って来た。え?待って?言っている意味が分かられています?と上から下に見下げてくるモヒイトさんに首を横に振ってしまう。許可が出たのかため息交じりに言うのだ。
「はぁ…つまり貴方はお父様と一心同体で居ても良いと心から申されているということ。」
「どこぞの破壊神が聞きつけたら騒ぎそうなフレーズですますものねぇ〜」
『…………!!!!!!!!!!!!!!』
「あ、気付いた。」
違ういや違わないけどと言う都結に軽く腕を引っ張った後、大神官は早く食べちゃいましょうと都結の背中を無理矢理にでも押す。倒れそうになったら引っ張る前提で、だ。何と無茶な。でも、機嫌は非常に良さそうだった。
湯気はまだ立ち上っていた。
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「全く、貴方も恐ろしいことをなさる。こうなることを分かっていたのでしょう?」
「おや、なんのことでしょうか?」
嗚呼本当に惚けてくるなんて、鬱陶しいと思う。モヒイトの目がひくついた。時刻は夜。都結は既に寝付いているのを分かっていた大神官はモヒイトの部屋を訪れていた。昼間の礼だとチョコを持って来たのだそう。アーモンド系のでもかなりあっさりした夏になるぴったりのものだ。
口の中に入れたら徐々に溶けていく。深いビターなコクが、口の中で味を上書きしていく。先程食べていたものなんて何だったか分からなくなってしまう程に。
「(オセロのような瓜二つ…まさか、ね)」
モヒイトは口に入れたチョコが無くなるまで話すことはしなかった。その間、映像に映し出されていたテレビの絵を思い出す。目を細め、その映像を良く良く読み解いて行く。エフェメラルの話はひょっとしたらIF世界そう
この世界まるごとが、
ゾッとする。それは、もう禁忌も禁忌だ…とは言えあの世界、ひょっとしたらあのどこぞの眼鏡少女如くただのギャグマンガが根本にあったらと思えばなんだかすんなり納得できるような気がしなくもない。まさかと思うが、神が「嗚呼ちょっとミスった」みたいな其処ら辺のインクをぼたっと用紙に落としたみたいなありきたりなミスで起きた世界だというのではなかろうな?そうだとしたらもう開いた口が塞がる術を知らないというもので。嗚呼要は、ですねぇ〜
「(エフェメラルとアニュアル自体がオセロの白黒であり、尚且つお父様も…嗚呼いや、この場合は下手したら…)」
エフェメラルの位置はどうした。
「っ!!!」
「おっと、何方に向かわれる予定で?」
「こうしてはなりません、お父様、これは罠です!!!!」
此処の世界自体が仕組まれているのだ。モヒイトは気付いた。どうして今迄気付かなかったのだろうか?この世界に降り立ってからの違和感も然りだが、都結たちが力を使ってこの世界を戻したという話も聞いている。其処から何故そのままで生きていられる?答えは一つ。ただ世界全体がそう言った世界の道を辿っているだけのことだ。
エフェメラルは「天使と人間の狭間に位置する存在」だとしたら、オセロで言う「”がわ”のような位置」であろう。白にも黒にも変われる、まさに半分ずつの状態。入り混じることなどない、綺麗にわけられた横面の状態を、エフェメラルが司っているとしたらば、だ。都結は間違いなく黒か或いは白の位置。とあれば?その白か黒もう一つが揃ったその瞬間、この世界は動き出す。
止まっていたのではない、ただ「空いたピースのせいで留まっていた」だけのことだったのだ。
それは即ち、この時間を進めてはいけない。ページを捲れば、時間が進まれば、辿り着く世界は全てが、そう、全てが、地獄。
以前都結が囚われた時のことを思い出した。胸が冷えた。あの惨劇を二度も繰り返すなんて、御免被りたいものだ。避けられるべきならば猶のこと、である。動き出すモヒイトに、大神官がもう一度問いかける。
「もう一度問いますよ?」
【”何方に向かわれる予定で?”】
「っ、」
重い。気の圧が掛かるような、張り詰めた音が響く。この世界だけまるで別世界みたいだった。いや、元の世界に戻って来たみたいな感覚を感じる。衣服はあの浅葱色に近い色なんて灯していない癖して、妙な違和感を感じる。
「憶測だけで行動なさるだなんて、貴方らしくもないですよ。モヒイトさん。」
「いや、ですが…」
「今は、ですよ。」
「っ、それは…お言葉ながら、お父様。」
それは、貴方自身が消え去っても構わないという証拠ですか?
「…無言は肯定と取りますよ?」
「と、したらどうするのですか?まさか貴方がこの私を薙ぎ払い先に進むと?」
「ええ」
「どうやら意志は固い、ようですね。」
嬉しそうに笑って歩く音。軽快な音が脳裏に響く。陽だまりが徐々に蒸し暑くて堪らない時間帯。もう夏が目の前に来て居る時間を、肌に焼き付き刺してまでして、知らしてくる。白い髪の毛を遊ばせて、ねぇと笑って振り返ってくれた子が見えた。貴方を待ち望んでおられる人がいるのです。もう我々はあの一人ずつ世界を見定める時間になんて、留まれる位置にいないのですよ、お父様。
其処には何も残っておられません。
あるのは空白、ただそれだけなのを、貴方はとうの昔から、分かっている筈です。
「…どいて下さい。彼女に要があるのです。」
「させない、としたら?っ!!」
「無理にでも動く迄、です。」
幸いなことに多少乱暴なことをしても人は来ない。距離も遠い上に、この周囲は其処迄密集した場所でもない。まぁちょっと歩いたらコンビニとかが近いし、近隣に何もないという訳でもないが、だとしても割と騒いだって其処迄の迷惑が掛かるものでもない。だからこそ、身体を動かしても其処迄、迷惑に等ならない。
ましてや今この場には物が少ないのだ。大神官の腕に直で手を入れ広げたモヒイトに、目を細めた大神官が追撃を入れる。勿論その手は分かっていたので、モヒイト自体受け流してしまう。その繰り返しが続きだす。どうします?と声を掛けられた。
「今おやめになったら許して差し上げましょう。」
「もしも貴方がこの場でずっとあの方と生きたいとあらば、それが正解ですし、我々はそれに従うのが道理なのでしょう。」
「…ふっ、でしたら」
「ですが。私は知ったのです。何時だって選択は己でしていいのだと。ならば私の願いはただ一つだけ。」
「っ、」
「私はお二人にずっと、笑っていて欲しいのです。」
そう、それだけなのだ。それだけを望んでいる。だから、動くのだ。モヒイトは勢いよく取られていた腕を引っ張って足を取り落とした。この場所では力なんて腕力のみ、だ。すみませんと言って急ぎ走る。
「貴方の願いを叶えられない息子で」
「…ほんと、やるせないですねぇ〜〜〜」
大神官は暫くモヒイトの組手を思い出しながら地べたに寝転がっていることにした。
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「都結さん、開けて下さいみい」
『っとどうしたどううううわっちょおおい!!!!』
何があったのと言う都結に、緊急でお話がと話す。焦っている彼の姿は中々にレアだと思う。息も切れている。まさか、と今居ない人に気を向けるが、そっちは寧ろ違うと言う。鍵をかけてしまう。時間がないと言ってモヒイトが急ぎ鍵を掛けながら手を取って歩く。移動するのは都結の部屋のみだ。
「端的に申し上げます。この世界は物語の世界。この世界は、だい…いえお父様が貴方らの力で殺され、耐え切れなくなった貴方を精神ごと作られている物語の本に落としている世界です。ですので、我々は意識を切れば元の世界に戻れる。此処まではご理解頂けておりますよね?」
『え、ええ…』
「では一体何故、力が使えるのでしょう?」
『いや、それはものが、たりに…あれ?』
「そう、おかしいですよね?そもそも物語の世界ならば、力が使えて当然。ですがこの場所はまるで元の世界に戻って来た、みたいに感じているが。」
此処は本当に、元の世界か?
そう、モヒイトが言いたいのはこうだ。
本来元の世界に間違って戻っていたのでは?そしたら、何故力が使えるのだろうか?ということだ。だって元の世界では都結の力は勿論、大神官やコルン達天使らも迷い落ちて来た時、力は勿論のこと、輪の一欠けらすら出せなかったのだから。でも、今は違う。力が使える。では何故大神官の髪色は変わった?それは物語だから?では物語で「無かった場合」は一体どう説明がつけれる?
憶測で走るのは悪いが、この物語自体、最後を遂げると消滅してしまうのでは、という懸念を感じていたのがモヒイトの答えだった。だから急いで来たのだ。もしも物語の世界に居るとしたら、今すぐにでも元の世界に目覚め、そして二度とこの本を進めない方がいいという話だ。そうしたら大神官は愚か、都結はもとより、モヒイトら全天使が消えてしまうというもの。
それで得する人間が、いない訳がない。
そう、今迄の天使を一掃し、新たな天使を作り上げ、新たな宇宙を生成するというとんでもない問題の伏線だったということに気付いたのだ。流石に大袈裟では、という都結に、ではどう説明するのです?とモヒイトは聞き出す。
「何故貴方はその力を利用されていない。化け物を利用し、洗脳でもさせれば我々天使を篭絡なんて容易いことでしょう。とは言っても軽くそんなことで落ちる我々でもましてやお父様がそのようなお方でないことは明白ではありますがね。今はソレではない。」
『っそれはってか篭絡!?!??!いやサラッと問題発言ぶちかましてませんかね?!?!』
「良いから話を聞いて下さい!!!!」
『っ。』
「…お願いです。言うことを聞いて下さい。」
くたりと倒れた子に触れる手を、思い出しただけでも吐き気が出る。力を使われ、無理にでも強めさせられた時。くたりと抱かれた腕の中で目を閉じている子。その手は、その腕は、その身体は。一つの場所にしか存在してはならなくて。もうこれ以上何処か遠くに閉じ込められるなんて御免だった。
「元の世界に戻りましょう?大丈夫です、お父様は何時かめざ『そうして次は?』え?」
『私を覚えた人は居る?きっと覚えていない。』
「ですが未来が」
『それでも私は人間。』
「違う、履き違えないで下さい。貴方様はれっきとした力の持ち主、其処ら辺の人間では」
『…それでも、人間で居たいんだよ。』
何かの特別になんて居たくない。けれども、その時間で居られたらどれ程良かったかと思えるものだ。嗚呼、面倒くさい。頭がごちゃごちゃにかき混ぜられて、混乱することを覚える。今迄混乱なんてしなかったのに。それは気付いていなかっただけのことだと、思い知らされる。腕を掴んだ都結に、モヒイトは抱きしめてやる。
「願いなさい、さすれば貴方様の想い通りとなる。」
『わ、たしの…』
「貴方が生きたい世界に行くのですよ。」
『其処に、あの人は、生きてる?』
「ええ、必ず。」
そう、それならば、一度目覚めなければならない。嗚呼この時間がまた、続くことがあれば良い。夏の時間を忘れてしまえればいい。コンコンとノックが入った。早くと小声で言ったモヒイトに再度集中するが、声の音に、胸が締め付けられる。
「…いってしまわれるのですか?」
『っ、りっ』
「しー…」
どっちが敵だろうか。いや、これは敵も味方も関係ない。大神官が生き残る為にも、天使達は動いてくれているだけのことだ。いくら中立を守ろうとするとしても、自分の父親がどうこうなるとなったら話も別だろう。ふっと笑った笑みは、何処かお父さんに似ていた。都結はその後、意識を手放してしまう。
世界は元の世界に戻って行く。
まるで夜が明ける空の様に。