だからねぇ神様、お願いだから一人にしないで3



「具合は?」
「”かなりマシにはなりましたが、恐らく最終日辺りに復活して帰り際に戻りそうな気配ですね。”」
「そうですか…」

その日の夜、寝る直前に気になったモヒイトがコルンに連絡を入れていた。意外にもこの子達全員スマホを持たせている。何処に金があるのだと思うだろうが、親戚が携帯会社などに勤めており、その試作品として今回試している超近距離型の通信機器であった。時間は短い上に申請も通している為、実験も含めた上でこの家達の費用も向こう分だったりする。まぁその代わり色々と書類が山積みになるのは等価交換にしてかなり安上がりなものだと天使らは思っていた。

「”下手したら明日の夜先に帰る話もしたい程ですね。破壊神らの家も用意しなければなりませんし、まぁ下手しあの広さですから一人ずつ入れても構わない広さはありますからね。家に帰る前に色々説明をしておいてください。”」
「わかりました。後で打ち合わせをすることにしましょう。」
「”嗚呼其方にコニックさんはおられますか?”」
「ええ、おりますが。代わりますか?」

お願いします。彼女から伝言がありましてというコルンの言葉には引っ掛かる。自分に言えばすぐに伝えるものだったのに、と。だがすぐにその疑問も拭い去ってしまわれた。もしもし、なんてありきたりな言葉を出したコニックに、小さな声が聞こえて来たのだ。恐らく都結からも言いたかったのだろう。

少ししてからぴっと携帯の切るボタンを片手で押してしまう。この機種は手が大きい人向けのスマホを検討していたのだ。それ故コニックらは抜擢だったのだそう。画面が見にくい上に押し間違えるから大きい機種が欲しいと言われていたのだそう。かと言って大きいのを色々込みで作る訳にもいかない。と、言うことで近距離通信としてのデモを貰ったのだ。一応使いやすさは抜群ではなかろうかと思いつつも、モヒイトに声を掛けられたコニックが携帯を手渡ししながら答える。

「何と仰られていんたんですか?」
「先程の礼をお伝えしたかったそうでしてね。伝言中に声が掛かってからご本人からお礼を頂いていました。」
「それはそれは。」
「貴方や皆にもですよ。”ありがとう”だそうですよ。」
「全く、余り甘やかさないで頂きたいものですねぇ〜」

全くですよ。なんて肩の力を抜いて笑ってしまう。助けてあげたなんてこれしきで言われたらお手上げである。これしき当然のことであるから、寧ろしなかったら怒ってもらって良い迄あると思う。迷惑を掛けてごめんという気持ちがありがとうから伝わってくるところ、本当に彼女とは程良い付き合いが長く続いているのをつくづく実感してしまうものだ。

「嗚呼あともう一つ。カンパーリさん」
「なんでしょう?」
「都結さんからご伝言です”おうどん美味しかったです”だそうですよ。」
「おや、私が作ったことをお知りに?」
「いいえ。開示していませんよ。」

クツクツと笑い出した三人に、気味悪いと言う破壊神ら等放置して良いと思う。この面子でよくもまぁ勘便りに的を撃ち抜いてくるとはこれ如何に。彼女の勘は本当に鋭い。カンパーリが本当に作っていたのだ。

「貴方以前此方に居た時、あの料理を振る舞って差し上げていたのですか?」
「まぁ一度だけではありますがね。ただ以前はすき焼き風鍋焼きうどんとやらのレシピの通りに作っただけですよ。」
「美味そうな単語だな…」
「おや、でしたらお作り致しましょうか?」

いいのか!?という彼等に、ええとカンパーリが答える。正直都結に対してだけなら、と思っていたが、気分が変わった。食べ物を吐き戻している話も一応声から察するに聞いていたが、それでも食べるその時間だけでも

「(貴方が私ですらも、真っすぐ見て下さるものですから、これしき振る舞っても大差ないと思わせる等、罪作りなお方なことだ)」

貴方の時間を私が助けてあげれたと思えれば。私はソレで良いと思ってしまえたのですから。

カタカタと音を立てる鍋に具材を入れていく。




ーあー!いけないんだ〜〜
ー何がですか。
ー其処は芯が大きいのを先に入れるんだよ〜
ーそうなのですか。これしき噛み砕けそうですが。
ー苦いぞ食うか?
ーいいえ。



そう何時しかの時間に想いを馳せる。手が止まっていますよと言われ、コニックが手伝ってくれる。手際の良さに、似たような食べ物を提供して?と聞けばまぁ多少はと答える。

「彼女麺類でもうどんが好物でしたからね。」
「おや?そうだったのですか?私の時は米類でしたが」
「え?」
「コニックさんの時は違ったのですか?」
「え、ええ…私の時は冷やし中華以外食べないとさえ言い出し……ああ」
「これ、してやられましたね。」
「ええ、まったくですね。」
「嗚呼もう何故気付かなかったんでしょうね…!」

一人一人だったから、というものだろう。好物を一つ一つ切り替えていたとは。確かにそうすれば誰もが被るなんてことはないし、きっと彼女の好きなものばかり広がることだろう。アワモさんはとカンパーリが聞けばこっちは握り飯と答えていた。

「お塩をふった握り飯ですよ」
「……え?そ、それだけですか?」
「ええ」
「…確かアワモさんが出会った時は精神状態が悪いままでしたよね?」
「そうですよ。」

目の色は暗いとかで判断し得る事など無かった。あんなにも優しかった彼女が、というのはアワモの中に健在しない。正直アワモからしたら此処まで皆が愛でなくても良いと思っている方側であるくらいだった。

「何処までも冷たいお方でした。喋る等ほぼないに等しい状態でしたから、私が見る彼女は化けの皮を着飾った何か、という認識が強くてですね。」
「それ程違っていたのですか…」
「特に前半は、ですがね。いや逆ですね、後半から違和感は出ました。」
「後半…?」

大神官が居なくなって、気付いてすぐではなかった。取り繕う笑顔がゆるりと増えたのだ。気付くなよ?誰も彼も。なんて言いそうな目はアワモの敵ではなくて。すぐに知れたし、その気持ちを捨てようかと思ったが、何故か出来なかった。したら二度と会えない気がして怖かったのだ。


ーそれだけで栄養が?
ーとれないよ
ーえ?ですが、
ーまんぞくしたくないの


「(彼女にとってのソレは特別でしかないもの。それはこの私だけが知れていればいいだけなのです)」


ーまんぞくしたら、にどとかえってくることすらなくなってしまうから


だから欠けた者で在り続けたいと望むらしいのだ。大神官と一緒にお茶を、と願ったのだろう。欠けたケーキは腐って捨てているのに。知っていてもまた、と目に留まっては足を止めていた。その背中を何度も見て思った。嗚呼この子は本当に心の底から見ようとしているのだ、と。

少しでも、多くを知れて。そしてその先を。


「なんでもありませんよ」

彼らにはニコリと笑って準備の手伝いをしてやる。破壊神に間違ってもキッチンへ入れてはならない。向こうの世界で何度やられ叱ったことか分からない。だが、こうして同僚でもあり兄妹でもある天使とキッチンへ入るとは何時ぶりいや…あっただろうか?

「…ほんと、理解不能なことを成し得る者だ。」
「何か仰いました?」
「いいえ、なにも。そんなことよりも焦げてません?」
「おっと失礼。砂糖を入れ過ぎていたことを忘れていました。」

余り砂糖を入れ過ぎると火の通りがいいのか焦げやすくなるのだ。甘い匂いに破壊神らもキッチン周りにたむろする。

「それはなんて料理なんだ?」
「すき焼き風鍋焼きうどんですよ。後はその他諸々のサラダ等です。」
「えー」
「えーじゃないですよ。あの都結さんですら健康に気を遣って食べていらしたんですからね?」
「彼女シドラ様並みに好き嫌い激しいですから。」

いや俺其処迄好き嫌いないぞと言う彼に、いえいえと答える。机の上にうどんやサラダが乗った皿を置いて行く。

「それにしても今にも死にそうな身体じゃったな。」
「これ」
「まぁ分からなくもありませんよ。私だって流石に二日連続で食事を抜かれそうになった時はキレましたし。」
「え」
「…あのアワモさんがキレるとは、あの子何したんです。」
「内緒ですね。」


ー何故食べないのですか。

ーだんまりですか。
ーだって言ったら怒るもん。
ーなら言えばいい。


「知らなくて良いことだってあるのですよ。」



ーどうせ満たされないものを摂る意味が分からない。



「(そう、知らなくて良い)」




ーだって私は早く死んでしまいたいのだから。




「(彼女がずっとずっと、その死した後に向かいたい場所を愛して止まない感情等、今言うべきではないのですから)」



ー例え子がなせるとしても。




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『(といれ)』

時は流れ、都結も食事を摂った後のこと。数時間も経たずに綺麗にトイレへ食べ物を水に流してから更に二時間が経過した夜中である。くう、とお腹が鳴ったのと同時にトイレもいきたくなった。ぱちりと目を醒ましたのは意外にも都結だけだった。席を外し、意外にも身体が軽い。一階に降りようとしていたら、腕を強く掴まれ引っ張られてしまった。




「…全くあれ程口酸っぱく言っても言うことを聞かないとは。貴方も頑固ですね。」
『お兄さんや大神官様程じゃねぇぞきっと。』
「いーーや、こればっかりは貴方の方が頑固ですよ。」

はいどうぞ。そう言って粥を出してくれたコルンに礼を言う。卵粥を作ってくれたのだ。少し暗い処にほんのりとキッチンだけの点灯で済んでいるのは皆を起こしたくないというのもあるが、都結の目が覚醒しないように、という気配りからもあった。階段からこけ落ちたらどうするというのだろう。子がいると分かっているのかいないのか分からなくなってきた。

コルンはため息を吐いて手を洗い、洗い物を軽く済ませてしまう。最後に石鹼で手洗いをした後、蛇口を締めてからタオルで手の水気を取り、都結の前に座り込んだ。首を傾げる彼女に応える。

「なんです?何かおかしい味でもありましたか?嗚呼言っておきますが貴方の食事が終わったとしても上に上がりませんからね?抱き上げベットに入れ寝かしつけるまで私は寝ませんので。」
『ひどい』
「そう思うならばゆっくり食べ、確実に寝付いて下さい。」
『…ふー、ふ』
「はぁ…貸しなさい。」

隣に座り直す。椅子の上に、と最初は思っていたし言っていたのだが、下手に椅子に座らせ何処かに走ってこけるよりかは地べたに座らせ食わせた方がまだ無難だと思った故のこと。コルンは都結の隣に軽く胡坐をかき座る。半分胡坐をかいていると意外だと言われた。嗚呼そう言えば家では椅子に座って食事を摂ることが多かったな、と思い出しながら話をする。

『コルン様そんなお下品な体勢取る子だと思わなかった』
「おや、意外ですか?」
『意外というかなんと言うか。』
「別に貴方以外いませんし、取り繕う者など貴方自体毛嫌いされておられるではないですか。」
『やまぁ、そらそうですがですね。』
「それともなんです?こんなことをする私がお嫌になられて?」
『いいえ滅相もありません。寧ろもっと好きになったから助けて欲しい。』
「っくくくそれは良かったではないですか。」

知らない私を知れて。

そう耳元で言えば身体を飛び跳ねさせてしまった。手に粥用のスプーンを持たせていなくて良かった。もし持たせていたら今頃声を出してサワアらを起こしていた処だっただろう。耳を手で塞いでわなわなと震えている。きっと心臓の音も速まっていることだろう。嗚呼もう本当に貴方と言う子は…

「お父様からお許しが頂けたらもう少し何とかするんですがねぇ〜」
『待って不穏過ぎる。それ旦那になったら色々手が出せて楽なのにって話じゃないですかやだなーーー』
「おやそうですが?寧ろ今は母体ですから。次の順番的に私だと思っていましたが。」
『ん?』
「ん?なんでしょう。」
『待って何順番になってるの????』
「おや、貴方以前言ってたでしょう?私との子を孕みたいだのなんだの。」
『…お兄さんさてはお眠ちゃんだな?????』
「至って冷静ですからね?」

適当に、酒を飲んで話をしたことがある。そんな時にサラッと言っていたのだ。コルンと付き合って子とかなしたら絶対可愛い子産める自身ある等と、ね。

「まぁ頑固者に育ちそうなのが心配ですが。」
『絶対女の子だったらコルン様デレデレなりそう。』
「止めて下さいよ」
『女の子が出来たらどうする。モヒイトさん辺りと付き合いたいとか言い出したら。』
「んなのしょっぴくに決まっているでしょうが。」

貴方の想像通りの私でほぼ一致ですよ。と言う彼がまた口に粥を入れて来てくれる。ちびちびと食べては飲み込む。その合間に話を続けているだけのことだ。意外とこういう時間が好きだったりする。

「ま、お父様のお許しが頂ければの話ですし、恐らく叶わないことでしょうがね。」
『え、そうなの。』
「おや、お気づきでないと?お父様が名前迄お伝えする子等、私は産まれてこのかた一人も見た事はございませんよ。」
『ひえ』
「おっと逃げようなんぞ思わないことですね?どこぞの華の者みたいに閉じ込められるがオチですよ。」
『やるのか』
「まぁやりかねないとだけはお伝え出来ますね。」
『それする確定って言うんですよコルン様。確定演出確定事項って知ってますかね。あのですねお兄様。』
「私は貴方を妹に持ったことはないですよ。後そんな日本語は産まれてこのかた初めて聞きましたし、どうせ貴方の作り出した言葉でしょうが。私を騙すなど滑稽なことを考えている暇があったらさっさと口をお開けなさい。」

ほらもう少し食べれるでしょう?そう言った彼にもぐもぐと口を動かす。美味しいと笑えば、少しだけでもふっと笑ってくれる。今何時だろと周りを見ていたら声が聞こえて来た。

「やはり此処にいましたか。」
「お父様」
「おや、卵粥ですか。また美味しそうなものにありつけましたね。」
「お食べになられます?」
「いえいえ、残ったらで構いませんよ。」
『む』
「っふふふ、それ程美味しいのですか?」

口にお弁当付いてますよっと。そう言って舌を出して取ろうとする前に大神官が都結の口に付いていた米粒を取ってしまう。そしてぱくりと食べたらば、だ。美味しいですねと褒めている間、軽く両手を見せている。都結が胸元を軽く叩いていたのだ。その間コルンは光栄ですと軽く会釈をしていた。

「これ、幾ら食べられたのが嫌だったとは言えそれ以上動かないで下さい。また戻しますよ。」
『う』
「ちょ!!!」
「大丈夫ですよ自演なので」
「」
『ーーーー!!!!』
「も〜怒らせることをやるからでしょう?」

そんな話をしつつ、この時間がゆるりと過ぎていく。気が付けばベットの上だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おや、寝そうですね。」
「食べて安心しきったんでしょうね。寝かせ付けていてください。私は洗ってから部屋に戻ります。」
「ではお願いします。ご馳走様でした。」
「いえいえ、お粗末様です。またお作り致しますね。」
「ええ、今度はこの子がいない時に、ですね。きっとバレたらもっと怒られちゃいそうですが。」
「…それ程お気に召して此方も作った甲斐がありますよ。」

またですね。
ええ、また、ですね。

そう約束を交わし、コルンは今度こそ洗いに行く。大神官は寝付きだした都結を抱き上げ階段を上がっていく。


「…此処は居心地が良すぎて全てを忘れてしまいそうになる。」


平和ボケとはこのことを言いそうだ。だってこの子の気配すらも察知出来ずに寝入っていたのだから。浅くなった処で都結の気配がないことに焦りばっと起き上がったことを誰も知れていないのが不幸中の幸いですらある。もう都結が居ない世界なんて、大神官は考えるつもり等なかった。

「貴方が此処にいる。私はそれだけでも嬉しいのですよ。」

医者との決断とは言え、恐らく彼女の言う通りになる可能性は高くなるだろう。つわりの山が越えれたら子の可能性は高くなるだろうが、流産が拭えないわけでもない。恐らくかなりの確率でなるだろうし、その時彼女の身体にもかなりの負担がかかる。恐らく暫く入院になるのは間違いないだろうし、最悪…いや考えるのは良そう。今はそう、今だけは生きているのだ。

この腕の中に。ずっと。

嗚呼願わくば、ずっと、だなんて浅はかな願いを抱くものだ。

この時間が醒めた時、貴方のことを此処に置いたまま、外に戻りたいと思う。

そうでもしないと貴方の愛した私はとてもじゃないが、愛した位置に等いれないことだろうから。




(ですから、どうか願わせて下さいね。

貴方と共に、この夜が明けるこの時だけでも。

貴方のことを愛している時間が止まったままになればいいのに、なんて。)







泡沫の白昼夢


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