もしもし、神様?いるんでしょう?9



飛行機は無事着陸し、飛行場でのフライトも終わる。

「”元気でね!”」
「”ちゃんと捕まえて置くんだぞ!”」
「”善処します”」

そう別れの挨拶を軽いハグと握手で終わらせる。都結も握手をしたが、ハグをすれば何かを察知して後ろを向く。大神官は何喰わない顔をしているが、この天使、彼女が振り返る瞬間まで男性陣に敵意を振りまいていたなんてことは知る由もない。というか、気付いたら気付いたで誤魔化すつもりである。何だかんだ言って、二週間くらい同棲していたらそれなりの仲にもなる。

手を出してしまえばさっと繋いでしまう都結。迷子防止で最初は良いと言っていたが、雪道で滑りかけた時は焦って手を繋いで尻もちもなにもなかったので良かったが、それ以降外では極力手を繋ぐようにしていたのが、功を奏したのか。今回は都結から「ん」と言われて手を前に出してきた。

『あれ?繋がないの?』
「いえ」

何かヒューヒューまた煩くなってきたね。そう嫌そうな顔をする彼女だが、本人は全く分かっていない。今自分達が付き合う前の恋人になる寸前である状態を。とは言っても大神官は先程恋心を自覚してしまったばかり。この世界が互いの心を読めなくてよかった。こんな感情をしられたら、どうなるか分からない。

拒絶されたらどうしようか。まぁ、それまでだろう。でも、嫌だと言われるのは、胸が何かに浸食されてしまう感覚が嫌で堪らなくなった。小さな手をそっと繋いでしまう。握り返された手が、可愛らしくて、愛おしさで胸元が何かで満たされていく。タプタプと、水が入って煩い。飲み水を飲み過ぎたのだろうか?それとも、それとも…

「(この私が恋煩いに侵されるとは、人生いや天使生何があるかわかりませんねぇ…)」

ましてや、自分が面倒を少しでも見ていた幼子に恋をしていたのだと判明するとは。いやはや本当に何があるか分からない。これからどうしようか、このまま告白しても、いや。

「(それは駄目ですね)」

コルンやサワアの話をよくする彼女からしたら、こっちの感情なんて良くはないだろう。子供の恋を応援してやるべきだ。だとおもうが、それでも、何処かもやもやして、胸に手を置いて居たら心配した顔色で声を掛けて来てくれた。

『大丈夫ですか?』

寂しそうな、心苦しそうな顔色に、胸が締め付けられる。嗚呼、そのようなお顔をさせたかったわけではないのです。すみません、ただ、少し、考え事をしていただけで。そう、少しだけ。貴方のことだけを。世界中が貴方のことを見なければいいのに、そしたら私だけが貴方を見て光となってやれるのに。その光に抱かれて、ずっとずっと、あのワンルームに居た笑顔を見続けれたら良かった。

あの場所から出なければ良かった。

そしたらずっとずっと、貴方の笑顔は私だけが独り占めしてしまえたのに。

そんなことなんて言えなくて。私は笑って言ったんですよ。

「なんでもないですよ。」

なんて、大きな嘘を。全王様には、お見せ出来ませんね、このようなお姿なんて。嘘を吐く様な天使が、あのようなお人の傍で従事なんて。人間で会えていたら良かったのに。そしたら、こんな苦しいこともなく、貴方のことを好いて、貴方に振り向いて貰うように努力をして、手を引っ張ってこの腕の中に閉じ込めてしまえられたのだろうか?嗚呼いや、そんなことはないだろう。きっと、そう、きっと。

貴方を幸せになんて、私はとてもではないですが、出来ません。きっと貴方を沢山泣かせてしまうことになるでしょう。泣かせるくらいならば、貴方が笑っているのを眺めるだけで


ー眺めて居るだけでいいんだぁ。私。液晶の前で笑っている姿を見てるだけで、胸が一杯になるの。


嗚呼、漸く貴方の気持ちが分かりました。貴方も、その者の世界を崩したくなんてないのですね。…やはり、貴方は


「(中立を好むお人なのですね)」


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飛行場から外れたと思っている二人だが、スマホ片手にここら辺なんだけどと言う都結。髪色を見て、あの方では?と言った大神官の声が聞こえたのか、彼女が振り返って手を振ってこっちに走って来た。

「”やっと着いたのね!長かった〜!”」
「”おはようございます、送迎誠に感謝申し上げます。”」
「”いやいや、うちの娘がそっちで世話になったね。”」

アメリ・ツァイトヒューテルです!こっちは母のマルレーネと父のレミエル!後は弟のニコとノエル、妹のハンナです。
こにちは!
あらあら、こんにちは。

『日本語上手だねぇ』
「えっへん!」
「都結ちゃん初めまして、母のマルレーネと申します。」
『もっと上手な人きたこれなんだが?????』

もう日本人も顔負けである。クスクスと笑うが、何処となく日本人っぽい顔つきが見えなくもない。ついといでと言われたので、そのまま移動することにする。荷物は子供達が気になって持ってってくれそうだが、父親に怒られている。大神官様が両方持つと言っていたが、流石に悪いと思ったのか、父親であろうレミエルが代わりに持とうと言って手を出してきた。

申し訳なさで都結の荷物を、と思ったが、手が上手く放せず「あれ?」と声が出た。

「”すみません”」
「”嗚呼いや…こっちを代わりに持っても?”」
「”ええ、お願いします”」
「”いやいや”」

車のある場所まで歩いている間に声を掛けられる。

「ごめんね、うちの娘が世話になって。」
『いえいえ!それにしてもお母様日本語大変お上手ですね…?』
「っふふふふふ、ありがとう。祖母が日本産まれの日本育ちでね?私も小さい頃は日本語を話していたのよ。」
『へぇ〜〜〜〜!!!!因みに何方で?』
「確か岐阜とかだったかしら?」
『うわもろなんですが。』

あら、貴方岐阜の人?
ええ、生まれも育ちもって訳ではありませんが。

『育ちは高知です。島国の分かりますかね?』
「えぇえぇ、分かるわ。祖母がそっちの出身だったもの。」
『は!??!?!?嘘でしょ?!?!!?』
「何の話です?そんな大声出して。」

速報。マルレーネさんのおばあさんが私の実家とドンピシャ祭り。
おや、意外な繋がりですね。

「日本名での名前とかもお分かりに?」
「確か神野こうの澄糸すみって言って、良くお澄糸ちゃんって呼ばれてたそ、うって…どうしたの?」
『いま、なんて』

だから、と言って同じコトバが繰り返される。どうしました?と聞いた大神官様に、どうしようと都結が言った。







『お澄糸ちゃんって、私のおばあちゃんなんですが』





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「…そう、そうだったのね。」
『すみません、まさかそう言う事情だとは。』

場所を変え、現在は車で移動中の処。荷物は勿論のことだが、子供をのせるとなれば二手に分かれた方が早い。という訳で、二台で迎えに来てくれたことで大神官様とは別の車に乗っての移動になった。私は詳しい話をしたかったので母方のマルレーネさん運転の元で移動していた。

『母が幼い頃に兄弟と別れたという話は一度だけ聞いたことがありましたが…まさか8歳の頃にとは。』
「兄が居たことは知ってる?」
『え』
「…その感じだとあの子言ってなかったのね。」
『そもそも母は一人っ子だったと言っていましたし、祖母にも会っていますが、彼女も母だけだった、と言っていました。』
「この話は他言無用で頼むわね。」

良い?貴方にも言ってるんだからね?アメリ。そう言った彼女の言葉に、こくりとアメリは頷いた。隣にはハンナがちょこんと座ってだまって見ている。主に外を、ではあるが。

「詳細は伏せさせて貰うけど、わけ合って海外に移住しなきゃいけない指令が出てね。家族最低一人はってことになって私と兄が出ていくことになったの。」
『それで?』
「兄は現在音信不通。最後にあったのは私がまだ18歳だった頃くらいよ。確か国の偉い手に捕まったんじゃなかったかしら…あの手に入ると外の世界とは遮断されちゃうからね。今生きてるのかどうかすら分からないわ。」
『そんな…』

貴方のお母さんとは8歳の頃辺り。私達は双子で、貴方のお母さんが先に産まれたの。だから家に残された。所謂政略結婚ね。こっちもそんな感じだったけど。それも聞いてなさそうね。

『…全く知りませんでした。』
「私達血族はね、8の年に変わる者なの。貴方何処か記憶が無くなってるとかない?」
『そういえば8歳と後は2歳の時の記憶が抜けてまして。何かをしていたのは分かってるんです。』


優しい時間だった。ただ、触れている感覚が、何よりも温かくて。これがお母さんだったらよかったのに。そしたら何も望まなかったのに、なんて泣いたことだけは覚えているんだけれども。その時は触れる温度なんて、何一つ通さなかった癖して、何処か抱きしめてくれている感覚が、妙に嫌だったのも覚えている。


『16の時も、ちょっと飛んでますが、でもがっつりって程じゃないですし、24の時も特になかったので。』
「今幾つ」
『30です。今年31になります。』
「じゃあ来年ね。…そういうタイミングか。」
『タイミング…?』
「こっちの話。良い子そうだし、絶対大丈夫って思って蓋を開けて見て見れば…まさかほぼ絶縁状態だった従妹を見つけてくるとは。」

血は争えないってことね。

「私も8歳の時の記憶が殆どなくてね。」
『貴方もですか!?』
「えぇ。祖母にその話をしたら酷い顔をしてその後から嫌われたわ。」

今思えば、その土地に居てはいけないって意味だったのかもね。

『そう言えばおばあちゃんにその話したら次の日出てけって…』
「成程それで岐阜の方に居たと。」
『そう言う事ですね。』
「息災?」
『いえ、数年前に亡くなりました。寿命で。』
「そう、それは良かったわね。」

あの人が病気もしないで綺麗に息を引き取られたのは、きっと神様が迎えに来たのだろうし。
神様?

「あら貴方は神様を信じないタイプ?」
『えぇ、信じてません。』
「あんな人が傍にいたのに?」
『神様が居たら、あの人のことはどうなるんですか。』
「…お母さんのこと?」
『私を捨てたんです。9歳の時に。家に帰られたので。』

そうだったの。
でも恨んでません。

「え?」
『そりゃあ恨むことは沢山ありますが、本当の、妬みや恨みではない。単純な疑問だけが此処に残っているだけ。神様はそれにこたえられることはない。だってこれは人間の関係だから。神が口を挟むべきではない。』

だから、神様は居ない。何処にもいない。

『神様は居なくていいのです。そうしたら神様を責め立てるなんてことはしなくていいのだから。』
「都結ちゃん…」
『気軽に都結って呼んで下さい。私は名前を呼ばれるのが大好きなのです。』
「…分かったわ。じゃあ都結。私は千波って言うの。普通に千波って呼んでもらって構わないけど、照れくさかったら別でもいいわ。」
『はい!…えっと、じゃ、じゃあ…千波さん?』
「ぷっ…ふふふっ、いいわそれで。」

貴方は一人っ子?
多分、一応は…その感じでいけばちょっと恐ろしいですけれども。

「まぁ隠し子が居てもおかしくないわね。うちの家系結構特殊らしくて、女の子は必ず右手の手首に星の様な痕が出来るの。多分それが記憶が無かったりする原因かもね。」

その星と一緒に右手にほくろが一つつくんだけど、これある時期になると消えるんだけどね、

「それが消え始めると神隠しに会うっていう言い伝えがある。私は無かったけど、文通してた[[rb:奏海 > かなみ]]の方に強くでちゃったのか、小さい頃時々消えてた話は聞いたことがあるわ。」
『確かに母は言ってましたね。2か8の付く歳になると気を付けろって。…そういや私もその時の記憶が曖昧だな。』

12や18の時はそうでもなかったが、20代以降もほぼなかった。うたた寝程度の抜けた記憶の様な夢ならあるが。一桁の時間は本当に記憶がおぼろげではある。手の平には、既に消えかけて見えないほくろが見えていた。

「……、気を付けて置いてね。何度も向こう側に行けば、こっちに戻ってくることは無くなるって聞いているの。」
『其処は良い場所だったんでしょうか。記憶が無くなる程に、幸せだったのでしょうか。』
「……さぁ?どうでしょうね。少なくとも貴方のお母さんが帰ってきているってことは、そういうことでしょうね。」

…ということは、幾ら向こう側で生きたくとも、こっちに戻ってくる可能性が高いという事か。覚悟はしておいて損はないだろうな。何故か茶色い服の人よりも、浅葱色の服の人が思い出されて首を傾げてしまった。何故彼なのだろうか?最近ずっと一緒に居るからだろうか?何処か胸が痛む。何かが分からないが、分からない方が良い気がするし、分かったら、戻れない気がする。

きっと、酷く泣いて後悔してしまうほどに。

だから見ないようにした。そう、今は…今だけは。見ない方が幸せだと思った。触れる体温が温かくて、何も考えなくてもよくなって。微笑んだ笑顔は、どんな世界で見ても見れない顔で。愛おしそうに見てくれる目、どんな人よりも私だけが生きて居ればいいと本気で思ってくれていそうな姿。分かってはいけない。私は、彼を追いかけなければいけない。


そうしてあの人だけを待ち望んで居続けなければならないのだ。


私が生きる場所は、此処で、ないといけない。

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そんな衝撃的な出会いの話をしつつも、家に付いた。走行距離104キロという、なんと天使に恵まれた数だろうか。普通に鼻で笑ってしまったわ。

「此処が私達の家よ。」

着いた場所は、森の中にある、こじんまりとしたように見えているハーフティンバー状の家だった。白い材質に、交互で板を張り合わせた様な組を見せる家。二階建てに見えるが、上を見たら屋根裏部屋も完備している三階建ての構造に見えた。下手したら地下室もあって全部で四階建てではとも思える。

茶色の壁材も相まってか、ちょっとした夏を凌ぐ別荘にも見えなくもない。一階のドアを開けてもらい、入ってから広いリビングとダイニングキッチン、あと暖炉が御迎えしてくれる。奥からパピヨンとゴールデンレトリバー、コリーが出迎えてきて、というか突進してきてくれた。小中大で来たんですが、この小、大丈夫か????


「ふふっ気に入ってくれた様ね?犬は好き?」
『好きです。なんなら丁度パピヨンを飼ってました。白黒でしたが。』
「そう」

この子は茶色だ。遠くから視線を感じていたが、其処には黒猫が座って此方をじっと見てくれていた。昼間だからか、まだ目は丸いが、何処か見定められている感じがして、怖かったのでそっぽを向いた。

「部屋を紹介するから、荷物を置いて来てもらおうかしら。アメリ!手伝ってあげなさい!!」

そう言われ荷物を持ってくれる。どうやら大神官の荷物はアメリの父親が持ってくれるようだ。

「階段急だから気を付けてね。」
『うわ、年期入ってる、滅茶苦茶良いじゃん…!私ドイツのこの家凄い憧れててさ!って嗚呼ごめん。』
「ふふ、大丈夫。」
「偉く饒舌ですね?」
「ごめんなさいね、外では仮面を被って生活してるだけで、本当は日本語話せるのよ。」
「一応言っておくが僕も、だけどね?」

色々教えて貰って、今では日本人も首を傾げる程に成長しちゃったんだよ。
っははは、そりゃあ困りますね。

「何故?」
『日本人ってドイツ人とある意味似た者同士でね。よそ者が自分のこと知り過ぎると警戒心高くなる傾向があるんだよ。人や地域には寄るけどね。』
「おかげ様で色々面倒を被ることになってね。ま、今ではいい勉強だったと思えるからいいんだけれども。」
『じゃあ良かったじゃないですか。ようこそ此方側へ。』
「出来れば開きたくなんてなかったんだけどね〜ってことで着いたね。」

今日から此処に暫くの間暮らして貰う。そう言って開いた場所は屋根裏部屋だ。窓側に二つベットがある。後で奥さんと皆でベットを移動してしまうのだとか。えっなんで。

「おや?君ら一緒に寝ないのか?」
『いやべ「そうですね」そうですね!?』

おいこいつそうですねっつった?!今そうですねつったよなぁ?!?!??!

『ちょ何言ってんですか、この人達我々の関係性知らないんですよ!?』
「だからこそですよ。此処はお言葉に甘えておきましょう?」
『どういうこと?』
「時期に分かりますよ。嗚呼、出来れば今移動しても?この人数でしたら担げますよね?」

そう提案してきた大神官に、それもそうかと言って四人で担いで特定の位置にベットを繋げる。ガチャリと言った音に、元はダブルだったのかと都結は思った。ずっと置くと家が傾く可能性があるからなのだそう。あ〜だから両方に均等で置いてたのね。…あれ、こういうのって、複線に成ったりしないよな?えっ私の考え過ぎ?そうだよな?そう言う事言うからフラグになるのでは?なんてどうでも良いことを考えて居たら、部屋を紹介すると言って手を取ってくれた。あのお姉さん、その先階段なんですよね。手を離して頂けるとおおおお!?!?!?!?

「はぁ」

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「二階から。階段此処降りて右側の方に私の部屋と、向かいに長男の部屋。反対側は次女と三女の部屋よ。外階段が次女の方にあるけど、そっちは最後に行くから覚えておいてね。」
『はぁ〜』
「一階に降りて左側が暖炉。右側がキッチンよ。暖炉の奥にトイレと風呂場があるわ。後は書斎と、両親の部屋。嗚呼勿論洗濯も風呂場の隣にあるからね。大体夜の7時までに洗濯は置いて置くこと。他はその次の日に洗うことになるから気を付けてね。」
「わかりました。」
「じゃ外に出るね。」

そう言って暖炉の奥、正確には自分達が最初に入って来た玄関の直通先にある扉を開いてしまう。チリンチリンとなるのに顔を上げて止まる都結に、アメリが「それは警戒用」と答える。

「警戒?」
「主には見知らぬ人がはいった時用のベルね。勢いよく開いたら音が変わるの。こうやってがってやると、」

アメリが戻り、ドアを勢いよく開く。するとベルの音程が少し変化し、鈍い音が響き渡る。普通に開くと高い音のみに。この音が部屋の中全体に響き渡るらしく、鈍い音がしないと要警戒で部屋の扉の鍵を閉め、スマホで家族会議に持ち越すのだそう。用意周到過ぎる。

「貴方の方は心配してないけど、そっちの方を心配するかな。」
『えっ待って私の方の?嘘こっちじゃなくて???』
「えぇ、貴方見た目で乱雑にして隙を伺うでしょう?そうして驚いても無駄よ。」

そう目が細まる。その眼に、少し、見つめてみれば、嗚呼それそれと嬉しそうに弧を見せる。

「似た者同士なんだから、此処ではリラックス、しておかないとね?」
『…………はぁ、仕方がない、か。』

余り見せたくはないのだが、そう言う「ルール」であるならば仕方がない。都結はため息を吐いてだらりと肩を落とした。腰に手を当て、この状態がお好み?と言えば嬉しそうに笑ってくれた。全くもう。

「随分と気を引き締めましたね?」
『言ったでしょ?元はおしとやかなんですよ。』

腰元に手を回し、歩く姿は大神官らとそう変わらない。適当にしているのは身体の脱力と、後は性格で人を欺く為にしているのだという。

『馬鹿は馬鹿のフリをしないといけません。外側の人間に悟られては一巻の終わりなのでね。隙を見せ、その隙を当たり前と思わせる動きをする。そうしたら本質になんて気付かない。とは言ってもバレる奴はバレちゃうんですがね。』
「ふふ、だってそれ程完璧にやるんだから、かなりの消費は出るでしょう?」
『最近こっちに戻すことしなくなったから正直こっちの方が苦痛〜』
「そう?なら戻す?」
『ルールならそれに従うまでのこと。』
「血は争えないか〜〜〜〜」

そう、ルールならば。守って当然のことなのだ。例え理不尽極まりないことが起きたとしても、だ。此方に拒否権など、鼻からないも同然なのだ。

「此処が書庫。正確には羊皮紙専門部屋。」
「それは?」
「コレを貴方達に見せたかったの。」

貰った本に付けてと言われたものだ。

「満月の日に塗ってね。出来れば2人で。丁度向こうは満月になるでしょう?」
「ええ、そうですね。」
「本当は塗る予定だったんだけどね、色々あって最後の肯定忘れててさ。」
『もう羊皮紙作らないって言ってたけど、これ材料が手に入らないとかもある?』

ね、余ってるよ。

『最後は綺麗にしておかないと。』
「…そしたら御守りでも作っちゃうか。そうだ!栞とか作らない?好きなリボンの色を決めて、後は花ね!」
「栞、ですか。良いですね。」
「菜園の方にもあるし、食事までにはまだ陽があるから、散歩するのも良い!」

決まりだ。







泡沫の白昼夢


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