残り時間はたったの7秒3




「…よく俺だって気付いたね?何時頃から?」
『大神官様と会った時の手に出てました。左利きの薬指は反応がいち早く出やすいんですよ。以前アゲートが昔言っていたので尚確信に走りましたね。”加工技術の天才は手の一部が速さに追い付かず条件反射する”ってね。』
「流石は勘の鋭い嬢ちゃんなことだ。」

身体の動きが妙に滑らかだ。

『私を殺すのですか?』
「まぁね。」
『誰から?』
「それは内緒。大丈夫、痛くはしないよ。」
『いやいや、私は帰る、つもりでっきたので、ねっ!!!』

軽く足で蹴ってしまう。ベストで白いシャツ姿の彼が少し腕を捲ってやるねぇと笑う。目の色が心なしか違う色に変わった気がするのは恐らく間違いではないことだろう。嗚呼、余り動かないでいてよかった。

此処で思いっきり動く時間が出来るから。

都結は勢いよく殴り掛かった動きを避けて行く。右から左に繰り出してくる手だけでなく、足の蹴りを取ってはしゃがみ跨ぎ上に避け、と流しを続けていく。心臓の高鳴りは高いも、狭いこの木々内では下手に遠ざかるよりも近距離で避け続けていた方が体力の消耗が少なくて済む。それに彼の方が身長も高い上に足で攻撃は繰り出しにくいことだろう。刃物を持っていたとしても、だ。

「子供、いるんだろ!?だいじょうぶ、直ぐ楽になる…!」
『約束、したんで、っね!っと』
「なにを」
『あの人の元に帰ると。』
「一番を約束したら叶わないって知ってるだろう!?」
『でも!!!』

それでも帰るって言った。私はね、貴方に色々言わないといけないから来たんだよ。白鳥さん。そう思って脇の方に攻撃を入れてから更に蹴りを入れ体勢がズレた処を更にずらして痛いだろう場所に頭や身体を打つ処に流れを持って行った。絶対骨に直で響いただろうから暫く動けない筈だ。

『答えて下さい。私を殺せる時間は幾らでもあった筈。何故活かせたんですか。』
「っ…」
『…答えは妹さんに似ていたから。違いますか?』

居たんでしょう?昔、死んだはずの妹さんが。

『記憶に残したかどうかも分からずに、ただ生きてるかすらも理解出来ない時間が怖かった。ある日書いたらなんでも変わる本を知った。書けば書く程願いは叶うのに記憶がどんどんと剥がれ落ちていくのが恐ろしくなった。代償をしったのは既に呪われた本に変わった処だった。其処に私と大神官様が来た。天使は浄化すると思った。すればどうだろうか?身体の痛みや記憶すらも戻って行くではないか。』
「」
『ならと、思った。でも海外に行く二人が何処か妬ましくなった。それもそうだ。妹の記憶だけが戻って来ないのだから。』

貴方は耐え切れなくなった。どうせなら引き裂ければいいのに。そしてまだ残されていた本に描いた。


『代償が何処で支払われるか貴方は知らなかった。』
「…お前は知っていたのか?」
『憶測ですがね』
「なんだ」
『はあ…貴方本当に救いようがないですね。阿呆と馬鹿をかけたなにかだ。』
「あ?」
『…答えは感情の昂りですよ。』
「…昂り?」
『貴方の場合妹さんだったということ。制御装置でもある石は意志を選びます。その意志は感情を増幅させている方じゃなかった。制御の方だったんですよ。』


もしも、白鳥の妹が、彼との繋がりであったならば話が一致する。私達は二人して何方も完全体だったのだ。奇しくも、我々は共鳴し切っていたから、世界がまっ平に見えていただけであって。この世界は場所を変えたら大きく見える場所が変わる。降りて来てしまえばいい。怖くないから。地面の方が暮らしやすいのだから。だって人間だもの。人間は地面に足を降ろして生きているこそが、通常であるべきなのだから。

もう大丈夫だよ。何一つとて怖いものなんてない。

帰ろう。手を差し伸べる。月明かりが照らす。太陽が月と合わさっていくのが見える。時間だ。泉ならばどこでも行けると思っているし、何だったら同じ状態の形に同時で入らないとまずいと思っていた。だから私はこの子を連れていくと。決めていた。


『帰りましょう、元の場所に。其処に貴方の妹さんは生きている。』
「っ!!!」
『………ね?』
「っ分かった、」

そう言って彼が私の手を取って起き上がって抱きしめてくれた。温かい熱に何処かくらくらする。あれ、くらくら?

「ごめんな。俺も約束してたんだよ。」
『…あ、れ、わた、し。』
「ごめんな。もっと嫌われる様に演じれていたら結末も変わっただろうに。」

力が抜けていく都結に、抱きしめる力を強める白鳥。胸にぽすりと音を立て身を委ねた都結にお休みと言えば目を閉じてくれた。息を吐いてごめんと優しく抱きしめてやるしか出来ない。今だけは、そう、今。今だけは、だ。







「よくやりましたね。でかしましたよ。」






































僕の弟よ。



































「…これで本当に妹は戻って来てくれるんだろうな。」
「嗚呼報酬は既に渡せている。等価交換は平等に、だ。こっちとてこんな甘美な結末を見せて貰えて充分過ぎるくらいだからね。」
「っ!!」

スマホのバイブ音に急いでポケットから取り出して表示してみる。アイコンをタップしたらいつも通りの様に返信が返って来ていた。


ーお腹空いた。今日遅いの?もう寝るよ?


その表示に、嗚呼と声が落ちる。都結の身体を妹の様に抱きしめた後、返信を返してから切った。


「じゃあ約束通り」

そう言って意識が飛んでいる都結の身体を抱き上げ直した彼が





綺麗な刃物を彼の頬を通していった。


「…どういうことだ。」
「どうもこうもない。」

すっと切られた場所から血液がぼたりと落ちる。

「やはりこの”コア”が一番の真実だった。あるべき場所に戻すべきだ。」
「っやめろ!それ以上は」
「お前らがどうしてこの子をこの場所に残したいか。答えは一つだ。お前達神々は天秤なんだ。片側に偏ったらお前達の生きる場所が無くなるから。そしてその結末が悲惨になるのも、明白。」
「だがその子は更に。嗚呼そうだ!その子を返したところですぐに死ぬぞ!この世界に居た方がもっとずっと生き長らえるし幸福に!!!」
「構わないよ。」
「は?」




「俺は約束したんだよ。」


ー美味しい?
ーうん!おいし!ねぇてんちょ
ーなんだい?
ー私何時かとっても幸せになるからさ


「絶望的な程に叶えられそうにない呪いみたいな願いを。」


ー店長もこれ以上に無い幸せを得られる人になってね!


「俺は叶えてやりたいと思ったんだよ。その日決めた。もしも妹がいたらきっとこいつと仲良くなって、そうしてきっとその願いを望んでいることだろうから。」
「っ馬鹿なことを…!凄惨な死を遂げると知り得て、尚お前ら人間は!!!!」
「お生憎様、俺は神は生きていないと思う思想論の持ち主でね。神は願いなど叶える存在ではないからだ。」

だが、

「俺は天使自体生きていると信じている。これまでも、そしてこれからも、だ。」
「っぐ!!!な、にを」
「……背後に影あり、ですよ?」

コルンが都結の後を数分以上経過した後から追跡していたのだ。おかげさまで少々時間稼ぎを要したが、どうやら間に合ってくれていたらしい。彼らが喋っている間にこっそり背後へ周り、そのまま背後からすっと白い剣を突き刺した。彼の隙を付いたのだ。白い剣は、特注で神々を消滅させる効力を帯びていた。過去の神々を消滅させる力のものだ。

全王様の位置にすら効力が曖昧になる力はこうして物理的に天使らが動かないといけないことになっていた。まぁそんな話聞いたこともないと言われても困る者だがな。だって聞いて居たらきっと対策していたことだろう?それではコルンらが困るからだ。

「っき、さま…」
「お眠りなさい。どうか永遠という名の8の中に。」

どぼんと落ちた彼の肉体が月夜に無くなってしまう。消えた空間にコルンがため息を吐いた後、ぐっと唸った声にはっとして振り向いた。

「都結さん!!!」
「一応しびれ薬の効果で寝かせている。時期に目を醒ます。」
「…本当に貴方あの者らと繋がっていたんですね。」
「まぁね。助けを呼びたくとも難しい位置だったんでね。こっちの目標はピースが完全に揃った状態の刈り取りだったからさ。」
「……それはそれは。」
「寧ろ君らが知らないままで良かった。おかげ様でこっちも無駄に生き長らえてしまったからね。」
「貴方私達側の人間でしょう?」
「それでも俺は手を汚し過ぎた。今更妹に会えない。」

随分と嘘を付いて来た。都結の精神的なダメージもデカいだろう。幾ら彼女だったとしても、裏切られたというのはダメージがないわけではないだろうから。ケアを怠らずに、とコルンに手渡す。

「罪を洗い流してからじゃないとそっちに行きたくともいけやしないよ。」
「…そうですか。随分と世話になったので、貴方の願いを叶えてやりたいですが…それが願いなら、仕方がありませんね。」
「嗚呼。好きにさせておくれ。もう、旅は終いだ。」
「わかりました。お身体にお気をつけて。嗚呼それとお言葉ながら一つお伝えしたいことが。」
「なんだい?手短に頼む」
「朝は来ますよ。必ず。」

そう言った後、コルンは都結を抱き上げ消え去る。ははっと乾いた笑いの後、そっかと言った。



「そうだよな!あ、さか」




ー嘘つき。本物ならそんな言葉は吐き捨てないよ。この偽造者め。

そう打ち込んだアイコンが既読になることはなく、朝になる頃には充電が切れて表示しなくなった携帯だけが残されていたのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


かくして、待ち受けていた脅威は本当にこれできれいさっぱり無くなった。あれから移動したコルンは都結を抱き上げたまま、荷物も綺麗に証拠隠滅してから元の世界に戻って来た。ざぱりと水の音を出してかき分けながらゆっくりと動く。コルンさんという声に嗚呼と声を出した。

「アワモさんですか。此処は第一宇宙なのですね。」
「ええ、私も先程自身の宇宙へ戻って来たばかりなのです。」

一応破壊神惑星の泉何処かに繋がっているらしい。コルンらが最後であり、何処か黒い模様である色が綺麗に消え去ったところ、もう扉は二度と開かれることは無くなったことだろう。向こう側の人間とも、これで文字通り縁が切れたみたいなものだった。だが何方からみてもきっと時が止まったかのような時間で維持されていることだろうと思う。何処か、そう思えた気がしたのだ。何故かは分からないが。

「そんなことよりも都結さ、んを」
「コルンさん?如何なされ」
「…帰ってきましたよ、都結さん。」

ほら、起きて下さい。そう冷めきった身体に、頬を軽くぺちぺちと叩いてみるが、天使みたいに青ざめた顔色は血色を戻すことなどなかった。軽く水滴を吹き飛ばしたアワモだったが、血色が戻らない都結に落胆をしていた矢先だった。ぴこんぴこんと通信の音が鳴る。マナーモードにしていないままだったのを忘れていたアワモが失礼と言って席を外し通信を繋げた直後だった。

ドタバタと何をというコルンに大変ですとアワモが言う。

「白鳥様が此方に来られているそうで、しかも彼女の魂を持ったままだそうで!!!」
「なんですって!!!場所は!!」
「貴方の宇宙第八宇宙です。」
「界王神をお借りしても!」
「ええ、少々手荒ですがご容赦を。」
「構いません。」

アワモがコルンの近くで杖を構える。スピードを超速度に変える時のみ体勢を変えることがある。こんな緊急性の高いもの、許されない訳がないだろう。行きますと言ったアワモにええとコルンが叫んだその時だった。勢いが付いて、少し下がったのも訛ったなと笑いが混みあがった。

「大丈夫、貴方の片割れに連れて行って差し上げます。」

まだ希望がある。この母体にある光が、その示しを印していた。赤子が生きているのだ。恐らく持って五分程度だろう。そう考えたら確実に界王神の元に飛び、そして移動した方が好都合だった。急いで来たアワモに、何事かと慌てて出て来た界王神。無礼を承知でとコルンが先に叫ぶ。

「今すぐ第八宇宙の界王神惑星へ飛んで下さい!」
「っえ、で、ですが」
「すみません説明をしている暇はないのです。出来れば五分以内に行かねば彼女の命に危険が」
「っなんと!それは大変だ…分かりました。すぐに飛びます出来れば捕まっていてくださいその方が確実ですので。」
「わかりました。」

そう言われ、第一宇宙の界王神であるアナトの肩に触れていると失礼と言ってアナトが都結の腕を触る。コルンが繋がっているが、万が一というのも考えたのだろう。行きますよと言っている間、ほんと貴方はとコルンは都結の姿を眺め見ていた。


「(人を変えることが得意なのですから)」
「カイカイ!!!」










泡沫の白昼夢


/utakata3/novel/80/?index=1