残り時間はたったの7秒4
その後、コルンは白鳥と合流を再開した。都結の魂を丁度大神官が受け取っている最中であったのだ。そっとそのまま都結の身体に渡せば、無事都結は目を醒ました。
それからというものの。
『あのこるんさま』
「いけません」
『おそと』
「なりません」
『だめなの?』
「…んぐっ。」
「いや普通に駄目だろ。どう考えても。」
…お前も大神官様から直々に駄目言われてるだろうが。コルン。
いや、ですが流石にですね…
そう言うコルンにリキールがため息を吐いた。コルンがまさか此処まで女性に、それも大神官の奥方に弱いとは思いもよらなかったのだ。正式に式を果たした後。大神官の手が離せない時は基本、都結自体コルンら天使の誰かに面倒を見て貰うようになっていた。
子供が出てくるまでというか、子供がある程度歩き出して、母体共に健康である程度の自衛が出来るまで、である。なので大体仕事の合間は隣の宇宙に預けてを繰り返す。現在は第八宇宙に三度目くらい戻ってきたくらいで。
「それにビルスから聞いたぞ?地球に界王神へ頼み込んで行っては調子乗ってオーバーワークで熱出してるって。」
「【都結さん?】」
『ひっ!ちょ、ちょっとリキール様どうしてそれあっ』
「確定ですね?都結さん、少々いいえ、ちょっとお話が。」
『いや私違うんです私じゃないんです。』
「言い逃れは拒否しますよ。まぁトイレは良いですが。」
『あっじゃあ僕トイレ行く。』
都結の走っていく姿を見て言うのに対し「…良いのかお前。アレ、絶対逃げるぞ。」そう言ったのは冷や汗を垂れ流しながらアレの方に指をさしたリキールだった。コルンはため息を吐きながら「まぁその時は考えます。」とだけ答え、都結とは反対方向を振り返り移動し始めた。何処へ行くと言ったリキールにコルンが仕事を取りにですよと答える。
「あの件以来、大神官様にお渡しせねばならない書類が山ほど残っているのです。暫くは面倒をみれないと仰られていましたが、そうはいっても彼女の為に合間を縫って様子を見に来られることでしょう。」
その時は界王神が大神官様の送り迎えをして下さいますから。時々書類を整理していないと、その時にでも溜まったものも渡せずじまいで書類の山が更に増えることになりますから。
「嗚呼そういう。」
「リキール様もある程度は片付けておいて下さい。幾らこっちに処理を任せて頂けるとは言えど、此方でも限度がありますから。」
「分かった。もう少し詰めて手渡しすることにしよう。」
「助かります。」
ではと言ったコルンが捌けた後、ある意味ではタイミングよく都結が戻って来た。お待たせと言った彼女に気持ち身体も振り返ったリキールがコルンを探す都結に一言「仕事だ」と答えたら外で日向ぼっこしてくると言って来たではないか。いやいや、お前外に出るなと言われていただろうに全くもう。
そうはいっても止めないリキールもリキールだが、正直これでも譲歩しているくらいで。以前割と喧嘩した上に目の前で泣かれたらどうしようもなくなってしまうだろう?まぁ彼女も馬鹿ではない。恐らく外と言っても中庭のことだろう方向的に走ったのは分かった。そっち方面だったからリキールも動くことはなかったのだ。
あんまり走ってやるなよとだけ声を掛けたらはーいと振り返る。慌てたのか、体勢が揺らぎ、倒れそうになったところを風が上手く巻き上がって起き上がる。ぎょっとしたが、直ぐに安堵する。本当におちおちと仕事させてくれないように見える。まるで子供だ。赤子より子供している母親が居てたまるかというものだが、事実目の前にいるのだから頭が痛くなる。
コルンが頭を痛ませている理由が何となく分かった気がして怖かった。
ありがとうと誰に言っているのか分からない言葉と向きでまた走って行った。全く、言うことを聞きゃあしない。
「あいつの灸はなん、にな…嗚呼そうか。」
ふわりと見えた白い尻尾にリキールがニヤリと笑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これは?」
「ピクルスとやらをドラゴンボールで蘇生してきた。ついでだから力も元に戻し、人間の体になる様にも、だ。で、今色々やらかしを説教されているのが終わった後だ。」
『』
「生きてます?」
「生きてはいるが、死にかけてはいるな?」
「止めて下さいよ。リキール様。一応彼女の体内にはお子がまだいるんですからね?」
『さりげなく私よりお子の方がベクトル強いの控えめに言っても泣くが???私泣くが?』
「そりゃお子の方が大事にもなるでしょう。恐らく貴方自体はまだ蘇生出来るでしょうが、天使の力が入るとそうはいかなくなるんですよ。」
メルスが人間になったというのも、あれはかなりの例外だったし、そう何度も何度も蘇生させていたら収集が付かない。自然死とかその時に死ぬ予定だったら幾ら天使でも蘇生は不可能なのだ。まぁ其処ら辺の限度を超えた力が、都結らの祖先ではあるのだが。まぁ都結自体一度蘇生されている身だし、次はないとは思うが、この種族意味わからない処で変化球を出してくるので天使すらも予測不可能な未知数地帯。なので確定はコルンですら言い出せなかった。
加えてまさかその力が、白鳥と妹の方に強く偏っていたとは思いもよらなかった。実は都結に結構使っているらしい。薬の効果がイマイチなのは其処が理由らしい。嗚呼成程、体内に耐性が蓄積されるタイプでしたか。まぁ母体に悪いのは確かである。何だかんだ言って未だに不調が上がったり下がったりなのだ。
何故か通常ではないのだろう。つわりの期間が予想以上に長い。人間ともかかわりのある界王神らとも話をしたが、恐らく天使、大神官の力が強く影響されているのでは?という話だった。コルンも一応その線を濃厚というか確定ではと思い込んでいる。
「貴方の母体自体、人間でも類まれならぬ確率で生きているのです。そりゃあ適当になんぞ出来る訳がないでしょう?」
恐らく都結の妊娠期間は通常の人間よりも長期間になり兼ねないことが懸念される。と、言うのも、だ。既になっているのだ。通常であれば7か月前後だともっと腹が膨れていいはずなのに、何故か未だに3か月程度で留まっているのだ。おかげ様でつわりがまぁ酷い酷い。酷いったらありゃしない。あれからまだまだつわりで倒れていることはあるし、普通に他の天使からも報告は受けている。その件については流していいだろうが。
昼間だと多い日は戻す回数が多い。前に「抽選くじのガラガラかな?」なんて言いながら戻していたが、あの抽選会のガラガラくじと同じにされるくじの方が可哀想である。なんなら赤の当たりはなんなのだろうか?ものか?モノが出てきたらアタリなのか?
「コルン」
「嗚呼すみません。」
都結の顔色が悪くなってくると破壊神でも手を出す。直感で耳を立てたリキールが動き様子を見てからコルンを呼ぶ。何度呼ばれていたのか知らないが、寝ぼけていたのは事実だ。何故だか知らないが、あの件以降何処か意識が上の空になりやすくコルンも正直手の施しようがなくてお手上げ状態だった。
お父様にご相談を、いやですが忙しい時にご心配をおかけしたくありませんし…なんて考えていたら都結の体調が悪くなる。嗚呼いわんこっちゃない。と言ったリキールが悪態をついた。まぁ仕方がない。身体も慣れないだろう。幾ら食事を摂った処で吸収も悪ければ子供の成長も悪くなることだろう。一応杖で覗き見ているが、母体やお子の健康自体は保たれているので良しとしている。
「ほら、お水ですよ。」
軽く水を飲ませた後、横にさせ、暫くしたら席を外す。起きたら腹が空いているので食わせ、遊ばせては倒れる。その繰り返しだった。こくこくと水を飲んだら少し落ち着いて来た。そのあたりで陽が強く差し込み始めた。風がぶわりと吹き荒れる。髪の毛を吹き飛ばしてくれる程の風だ。スカートだったら下から上に吹き飛ばされてしまいそうな程の
「大丈夫、これが終わったらとびっきりの世界に連れて行ってあげるからね。」
「…え?」
「コルンお前何か言ったか?」
「ああいえ私では…都結さん?」
そう背中をさすっていたコルンだが、重心が変わったことに声を掛けた。どうもそのまま寝入ってしまったらしい。なんとも自由奔放な方だ。コルンはため息を吐いた後、寝かしつけて来ますと一言リキールに声をかけ、そのまま都結を抱き上げ部屋に戻ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから月日はどんどんと流れていく。速度が上がったようにも感じ取れた。お腹の膨れ具合もかなり大きくなってきている頃だ。外は枯れ葉が散り始めて色づきが落ちそうになっている頃。そんなある日コツコツとした音に身体を伸ばして向いた。
「どうぞ」
「失礼するぞ!」
『失礼された!!!』
「これ、余り調子を上げない。」
『あう』
「っふふ、お元気そうで何よりですね。」
遊びに来てくれたのは第二宇宙の破壊神ヘレスと付き人のサワアだった。今では親友の仲とも言える程にヘレスとは仲良くなった都結の元にしゃがみ顔色を窺っていた彼女に、都結もうんと頷いてからサワアの顔を向いて答えた。
『大分調子戻って今ピンピンしてますよ!バリバリ動ける!!』
「程々に、ですよ?」
『うぐ』
「サワアさんからも言って下さいよ。この子本当に言う事聞かないので。」
「おや、それはどの程度でしょうね?」
『あば!コルン様駄目!!ハウス!!!』
「此処がハウスですよ。何言ってるんですか。」
第八宇宙の破壊神星が家でなければ何処に帰れというのだろうかこの子は。まさか全王宮に帰れとでも言うのか。実家に帰らせて頂きますとは話が違うのだが、彼女の言い方は時々理解に苦しむことが多い。脳内を知り得たとしても、だ。ため息を吐いているコルンに、難儀だなとクツクツ笑い声を堪えつつも答えるヘレスには交代して頂きたい程ですよと匙を投げるように言う。
「おや、そんなことを言ってもお主らの処におった方が一番調子が良いこと、分かっていない訳でもないじゃろう?」
「まぁその点はそうですね。此方としても嬉しい話ではあります。」
「貴方も丸くなりましたね?」
「コレと居たらそうもなりますよ。」
「「ああ〜」」
『なんで私がなんですか。』
むすっとする都結に何も言える訳もない。ツンツンしていたロウでさえ、少し唸ってから話を纏め理解をしてくるくらいなのだ。結構言い方はキツイ方のロウだが、如何せん立場やら女性という別枠という意味合いでも逆らうことは出来ないらしい。それに都結に関しては勘が特に冴える。例えロウ達の事情を知らなかったとしても、恐らく性格的な意味では理解が早いことだろう。不利になるような位置なんて誰も求めない。ロウも勿論その気持ちだった。その為、時間が経過すればする程、多少の粗さも落ち着くもの。
其処ら辺は本当に感謝しているとモヒイトも言っていたくらい。もういっそのこと1宇宙に都結を配属出来やしないかと本気で考えたくらいなのだそう。まぁそれが出来たら話は終わるものだが、それをしたらしたで恐らく宇宙はすぐに死に絶える事だろうと思う。こういうのは適度なものがいいのだ。…とは言ってもコルンに関しては尖りに尖っていた為、ここら辺まで落ち着くと周りも嬉しい話なのだそうで?
「以前はことあるごとに突っ込んでいたからな。」
「そら言うことはきちんとお伝えするべきですからね。」
『当然なことだよなぁ!?』
「ええ」
「嗚呼其処ら辺理解がおありだったんですね。」
『伊達に一か月其処ら住んでないからねぇ〜?お兄さん割と鮮やかな色好きだとは思わなかったし。』
「あれは単に貴方の見せ方が上手だっただけですよ。」
ステンドグラス風の絵板を見せたことを思い出して話す。サワアや他の天使らにも見せたことがあり、何種類か作っていたのだが、どれが好き?と聞けば皆違った意見を出してくれて、都結自身非常に面白いなと思っていた。割と趣味に近い試しをしていたのだが…
『私の予想を一番離れた回答を出したから今でも覚えてる。』
「そうですか?ちなみにどう返答を返してくると思っていたので?」
『”目が痛くなるので見たくもないです”とか?』
「「あ〜〜〜〜」」
「なんで其処でハモってくるんです。」
今度はリキールとサワアがハモった。どうやら思い当たる節があるそうだ。嫌そうな顔で睨みつけるコルンに、いやお前とリキールが答える。
「余り奇抜な色は好き好まないだろ。」
「それはそうですが」
「ステンドグラスですよね?あの。」
『そうだよ。あの。』
「ちなみにどれをお選びになられたので?」
『花が空を舞う様な奴』
「…………貴方がそんな趣向だったとは。」
「何勘違いなさられてるんですか!!!!!」
何処をどうしたらそうなる!そう怒鳴ったコルンに「わーおこったおこったーこわいこわーい」等と言っているのは都結の身体に軽くしゃがみ隠れたサワアだった。その姿に吐き出すように笑った都結に、周りもクスクスと笑い始める。笑いものではないのですとプリプリ怒っているコルンがまた可愛らしいと思えてしまうのは、きっと狂っているのだろう。そう、きっと。それでいい。
それがいい。
『でも私もあの絵好きなんだよね。だから選んでくれて正直嬉しかった。』
「そうだったのですか。」
『うん。』
「どんな絵じゃったのだ?如何せん見た事がなく」
「こんなものでしたかね?」
そう言ってサワアが杖で表示する。それにそうそうと都結が指を指して答えるものだから、コルンが都結の行動を指摘する。先日からこういった繰り返しでもあった。まだ直った方らしい。これで直った方とは…考えたくない話なので流すことにしよう。
「ほぉ、確かにこの中だとコッチを選びがちな気がするが…」
「彼女陽射しに軽く遠ざかった場所から見せてくれたのでね。」
「嗚呼ソレでですか。」
「どれだ?」
「光の当たり方で色合いや感じ方が変わる絵がありましてね。一体何をされたんです?」
『ないしょ』
「え?」
『だからないしょだって。』
「そこで????」
そう聞いたのはリキールだ。困惑した顔をしている。クスクスと笑った都結に、ええと答えたコルン。
「ないしょ、ですね?」
『うん!』
「…ま、いいか。それで?ヘレスお前やるか?」
「ほぉ?お主から言うとは余程腕を上げたとみた。」
「そっちよりかは良い仕上がりになって来たと思っているが。」
「なら手合わせ願おうか。サワア!」
「はいはい、コルンさん構いませんよね?」
「明日の午後前迄でしたら時間を空けていますから、別に構いませんよ。」
「だそうですよ。くれぐれも羽目を外さないで下さいね?」
「ああ!!」
付いて行かないの?と言った都結にええとサワアが答える。少し離れた所に歩いて行くサワア。荷物を取り出す為に距離を放したのだろう、杖を取り出した後、振った処から荷物が出て来た。杖を飛ばし、そのまま荷物を持って振り返り近くにあった机に荷物を置いて行く。
「用事が終わったら様子を見に行く程度で構いませんからね。あの二人案外相性がいいらしくて、時々こうして遊びに来ているので。」
『破壊神同士が仲良しって珍しいな。』
「まぁ十中八九貴方が原因ですがね。」
『お?どういうことだ????』
「まぁ其処ら辺は気にしなくてよろしいかと。本題に移りましょうか。」
此方が貴方の望まれていた品物です。
そうことりと音を立て置いて行ったものは、だ。