カーテンコールはくれてやる4



ある晴れた日だった。天使の居る処に晴れなんてない。太陽がそもそも入らないから。でも、その場所は疑似太陽が回っていた。それは地球を模倣した場所だった。でも模倣は模倣で留まる。ドタバタと音を立てて大変ですと足を向けたのはコニックだった。どうしたと空から魚が落ちてくる。


「ラヴィットさんが!彼が下界の人間と対応して、今消息がつかなく」
『なんて?』

背後の感覚なんてなかった。

ひやりと何かが伝った気がする。振り返ってはいけない。そう直感が物を言っていた。此処から一つでも動けば、天使だと言えども無事では済まされないと。

『今なんていった?』

「…っえす、から…そ、の、ら」
『管轄は?』
「…っだ、いくで」
『じゃあどうしてモヒイトが来ない?彼がこっちに連絡をしている感じはしないが?』
「……少々諸事情があり。いえ、お話します。」

コニックは前に都結から貰っていた紅茶の残りを見つけ、使おうと思っていたが、その紅茶の茶葉をラヴィットも好んでいたのを思い出した。丁度モヒイトの方に居るとしったコニックは彼に声を掛け、急ぎでもないが界王神らが茶会をすると言っていたのでついでにその瞬間移動にあやかって飛んだのだ。

其処には誰もおらず、シドラもいない状態に違和感を感じ取ったコニックは急遽モヒイトに連絡を数度入れた。ら、だ。都結が出した職場体験の場所に行く矢先、どうも目を放した途端行方が分からなくなったらしい。それでコニックは急ぎ大神官に連絡を入れ、都結の方にも連絡を入れようとも考えたが大神官が止めたのだそう。

「ですが流石に黙ってそのまま、というのも気が引けて…それでその。」
『嗚呼大体分かった。ありがとう教えてくれて。』
「って何処に行くんですか!」
『ちょとお散歩』
「貴方ちょっとで遊びに行く人ではないでしょうがって、そっちはそもそも出口で、は…」

嫌な予感が脳裏を過る。





待て。今彼女の管轄は何処だ?



ばっと動いたコニックに、揺らぎ避ける。一度避けても意味ないですよと言った彼の動きに返しを入れ、避けてしまう。二度も避けられたことに違和感を感じた。にやりと笑った都結の片手には、緑色の本が開かれていた。

『残念』
「っお待ち下さいみい」

瞬時に消えて居なくなる。本だけが残された。都結は本の中に飛び込んだのだ。中に入った都結は空から重力で地面に直下で落ちていく途中だった。

『ねぇ神様。この世の何処かに居るんでしょう?』

居たら答えて教えてよ。

『私を知っているならば。”相対”図案は頭の中。』

全部抱きしめ狡いよソレは。僕だけ知ってる君のコール。

『夜間飛行のカーテンコール。残響響いたそれは夢幻のようで。』

我の話をよく聞いて。目覚めはもうすぐ、すぐそこだと。でも少し疲れて寝てしまう。

貴方の隣で子守歌を。

『優しく笑って翼を与えて。』

だから神様お願いだから一人にしないで。

『残り時間はたったの7秒。カーテンコールはくれてやる。』

だから私の望みを叶えておくれや。

なぁなぁ、天使よ、我が神よ。


『”この世の条理を覆した鱗片よ”』


杖に力を入れ、地面のような水面に杖の先を突き刺してしまう。すると地面から何もかもがぶわりと広がり変わるではないか。一歩二歩と歩みを変えれば世界も場面も色とりどりに変化していく。まるで一ページ一ページめくっていくようだった。移り変わるページに、見紛う程の奇跡が散りばめられているのを、みずに彼女は走り続ける。

向かう場所はただ一つ。その場所に飛びあがり、杖の先を突き刺した。


その場所には先程の話をしていたモヒイトやシドラ。そして悟空やメルスらも居た。コルンやリキール、そしてビルスやウイスの影も見える。杖をブンと左上から右下に振り下ろした。背筋は綺麗に伸びていた。


『…おまえか?いや、違うな?』
「っ、み、いゆ?」
「嗚呼終わりましたね。」
「あ?」
「完全に終わった。どうするんですこれ。」
「止めます?でもアレ止めれます?」

そう騒めく音に等興味はない。ふわりと飛んだその元に、ぎょっとされる。そっと失礼声を掛けてから頭に人差し指と中指を合わせた指先で額に触れた。目を閉じてしまえば見えた視界に何となく察しはした。嗚呼そうか。





【おまえがおれのこにらんだやつか】





ぐるんと回った首。目は一点以外見ていない。腕を掴んだが、直ぐに足を使い身体で捻って振り切った。その動きはしたことがなく、コルンでも驚いてすぐに反応が出来なかった。お待ちくださいと言った声になんて気にしない。ニヤリと笑った敵が言う。そんなに子供が大事なら何故みてやらないと。お前に言う義理はない。

杖を使い見よう見真似で攻撃を入れる。正直コルンらとした組手みたいなものだろう。まるで映像の様に見える。自分が自分じゃないみたいだ。この世界には目の前の敵と私以外居ない気がした。悟空がワクワクをしていたのはこの感覚なんだろうか?そりゃあ男の子だったらこの感覚に面白いと錯覚を感じ取るのも無理はない話だろう。それも成長途中の時間だったら猶のこと、である。幼子にゲームを買い与えたみたいな感覚だ。でも、


これは現実。間違いない、現実であるのだ。


振り切った手に追加で攻撃を杖で入れる。一応組手も出来なくはないが、余り近距離に走るのは避けたい。ソレを理解しているのだろう、かなり近づいて声を掛けてくる。




ーそうだといったら、おまえはどうする?





おまえのこは、ここにいない。




ふと嬉しそうに笑う声が聞こえた。まるで世界が止まったかのようだった。


振り返った。其処には白い髪の毛が嬉しそうに笑ってこっちに手を伸ばしている処だった。ふとコレを取ってはいけないと感じる。これを取ってしまえば、もう目覚めてしまうから。と、夢を観ているみたいに思ったのだ。これは現実なのに。でもこれを取らないと先に進まない気がした。まるでそれはゲームの決定ボタンを今か今かと待ちわびているゲームの一部にもみえた。

ボタンを押さないと続きは見れない。それと同じ様に手を取ってしまおうと伸ばす。何時だってそうだ。私は手を伸ばしてはいけない。



私は一番を選んではいけないのだ。

だって一番は決まりきって、幻なのだから。



ふわりと消える手に、胸に何かがジワリと広がる。嗚呼そうか、私は今、怖いと感じ取っているのだ。喪失感という言葉を私は知った。この場この瞬間で。彼がどこにも居ないという存在を知り得たのが怖いのだ。嗚呼でも、本になら、でも本になんてしたくない。嗚呼そうだ、もう私は



ーもう其処にはいないのですよ。


大神官が言った通りだった。

もう、私は其処に生きていやしなかった。




私は何時の間に【天使の子】として生きていたのだろうか?



目の前が世界自体変化していく。もう周りなんて何色でも構わなかった。形さえ残されていたら良い。ソレで良い。あるのはこの肉体だけで。魂なんてくそくらえ。このすり減った小さな種をひねりつぶせば多少の力も放出することだろう。もう、時効だ。全てを注ぎ、駄目だった。それだけだった。

貴方の居ない世界なんて。私は生きて居たくないのだ。

何時しか言った人の言葉は、覚えていない。でも確かにそのフレーズは誰かが言っていたということだけは覚えているし、その意味を私は漸く理解出来た気がした。


胸元に力が廻り続ける。嗚呼今きっと楽しいと思っている。




おかしいな?たのしいなんてどこひとつそんざいしないのに。
おこはいったいどこにいった?どこにいったといったのだ?




小さなワンルームの世界がみえる。だからいっただろう?なんて声が背後で声する。





【お前が選んだ結末だ】


指を指された。背後から声がするのに、胸を突いてくる。違う、背後にはいるのだ。腕を回し、そのまま背中に胸を押し付けるように近づいて言ったのだ。だから声も近い。そりゃあ近くもなるだろう。



『思索とはなんだろうな?』
「…あ?」
『戒律とはなんだろうな。境界なんて知らない癖に。見たものばかりを見ては聞いて、それをどうしたいかなんて鼻から感じ取っていやしない。過去をしって今を知る。それは人間が得られる大事な感情というものだ。人はそれを呼ぶ。』


”貴方と共に生きていたい”


『”共存”することを望んだガラクタが叫んでるんだ。お前が望んだ時間だと…!お前が、許した、結末だと!!!!』

右手に力を入れる。最大限だ。止めてくれるな。燃える手は、力が混みあがりやすい。一つ二つ三つ四つと光が凝縮してはまた光が凝縮して手の中に消えていく。大丈夫、死なせはしない。何時の間にか生えていた蔦に、困り何かを言っているが冥途の土産に何かが言いたいのは分からなくもない。が、生憎私にそんな時間は残してやれない。

残り時間はたったの7秒。

それ以上は私の許せぬ管轄外だ。

目を細め、胸元と手の感覚が結合した瞬間だった。







「おやめください!おかあさま!!!!!」



間に入って来た子に、脳天を叩かれた感覚が走った。



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『あーーーーーー分かった。コルンらは私が仕事漬けになって言いだしたのは悪かったが、其処迄するとは思ってなくて死なないか心配だったから外に出したかった。ラヴィットはラヴィットで、自分が戦ったらどうなるか。戦闘の実技として実際敵と相対してみたかった。悟空は戦いの楽しみやら戦闘をして得る時間を大事に持ち合わせ、且つそれ以上踏み込まない様にって意味での躾をしたかったことで利害が一致してしまった。と』
「あの」

それから、敵自体は確かに殺して良い存在ではあったが、流石に都結自体に人を殺させたくないと言ったラヴィットの言いつけなんて守る訳もなく、軽く人の首を勢いよく斬ったので時間を巻き戻し、都結の神経を飛ばして気付いた後のことである。

色々事情を教え、被害者は今の所コニックである。彼はまんまと騙されているのだ。因みに大神官は既にコルンらの話を知っていたらしい。お前もかブルータス。

「これで分かったでしょう?貴方のことを嫌いになったから見なくなったことでも、貴方のことを見なくて良いから仕事に没頭しているだけでもないのだと。」
『私そんなおも、われることしてたわ。ほんとだ。わーまじごめん。』
「謝罪に一かけらも情が見受けられないのですが。ソレは一体。」

そう呆れているコルンには笑って背中を叩いてやるしかない。要らぬことを言うからだ。黙れ小僧が。座れ。お前も。現在都結は全員座らせ、そのまま空中に浮遊して胡坐をかいたりしては話を聞いていた。1人1人、である。もう怒っているのは間違いない。まぁ騙したのは悪かった。が、都結も都結だったのだ。其処ら辺は彼女も反省するところはあったし、其処は良いと言う。

『ぶっちゃけ言うと悟空らの書類が意味わからなさ過ぎて書類の読解に時間掛かってるのもあるからな。趣味どころか食事すらとれないくらいの多忙ではあったんだよねーーーまだ終わってねえし。とりあえず帰っていいですかね?』
「駄目に決まっているでしょう。何時から食事を摂ってないんです。」
『昨日?』
「先程言語魚さんが仰られていました。”一昨日の昼以降食ってない”と。」
【都結さん?】

わー怖い音がするーーーーー

「貴方あれ程言いましたよね?仕事は良いがきちんとお食事を摂りなさい、と。幾ら天使の管轄に足を突っ込んでいたとしても貴方の元は人間なのですよ?栄養を摂っていないと後から気…お待ちください。あの力あなた」
『ちから?』
「いや、なんでも」

あの時時間を戻さなければ、一体どうなったことか。考えたくもない。地面に倒れる女性。血まみれになっている白髪の男性が、雨の中何かを叫んでいる。見えた世界なんて、知らなくて良い。モヒイトはそっと目を閉じて、今を見つめた。


かくして、ラヴィットが知りたかった時間は此処に存在しているのだろうか?

それは彼の心の中のみぞ知ることである。






カーテンコールはくれてやる。
(だからどうかその子だけは、奪わないでおくれよ。我が人生よ。)







泡沫の白昼夢


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