コルンが定期的にと言うか、
ほぼほぼ毎日来てくれるようになった。
一日二時間ほどのお勉強タイムだ。

あの後取り決めたのだ。そのうちの一つ。


「本日は此処まで。」
『ありがとうございました。』
「では交代しましょう。」

一時間だけの交代制お勉強会だ。
此処はメルの家の玄関入って左側にある軽い書庫もなる場所。
今は棚が前面に敷き詰められているだけだが、
此処も改良し、後々仕事部屋にしようと企んでいた。

その中に、机を挟むように椅子を置いていた。
ぺこりとお辞儀をしてから次の授業へと交代する形だ。

『本当に日本語完璧に読める様になるとは…』
「貴方の指導が上手いだけの事ですよ。褒めて伸ばすにしては褒め過ぎな気がしますが…。」
『いや普通に貴方の知識が知恵が馬鹿みたいに広すぎるだけなんですよ。
流石天使の中でも上から数えた方が早いだけある。滅茶苦茶努力家の天才児じゃないですか。』
「そんなに褒めても何もできませんよ。」
『笑ってくれたらそれで結構。』

ホント欲のないお人ですねぇと、コルンは真正面でクスリと目を閉じて笑ってくれる。
鼻で笑ってくれるだけでも、私にとっては嬉しいもの。等価交換成立というものだ。

「本日は何を教えてくれるのですか?」
『ん〜文化的なことが好きなのか、物理的な知識の方が良いか。』
「では文化的なもので。」
『…あんまりいや、でも。』
「何をそんなに悩んでおられるのです?」

一応コルンとて、綺麗に完璧に日本語を覚えているわけではない。
メルの知るところでいう「ひらがな」と「カタカナ」そして「ローマ字」を覚えただけ。
ある程度の読み書きは出来るようになったが、漢字というのはまだ教えて貰っていないのだ。

其処は君のメンタルが良い感じに落ち着いたらと言われて
今でも出来るのだがと怒りそうになったのを堪えてやる。

まぁメルはそんなことになんて目もくれていない。
ペラペラと教科書を捲る彼女が唸る唸る。

『いや〜風流というか、なんというか。
コルン様ってさ、良くも悪くも直球に物を話すじゃないですか。』
「何ですか急に。確かに伝えることははっきりお伝えするべきでしょう?」
『日本語、特に日本人は照れ屋さんでね。はっきりなんて伝えないんです。』

寧ろはっきり伝える方が最近のことであり、
数十年前までは普通に隠して言葉を交わしたりもしていたくらい。
暗黙の了解で話が進む交流機会でしか、生きれなかった。

『いろは歌って言うのがありましてね?いろはにほへとちりぬるをわか、
よたれそつねならむうゐのおく、やまけふこえてあさきゆめみし、ゑひもせす。
古来の言葉で、古いものがあるんですよ。』
「それはどのような内容なので?」
『私この一番最初が凄い好きでね?これこうして区切って意味あるんだけど。』

そう言ってメルはすらすらとひらがなをコルンの隣に席を持ってきて座り、
シャーペンをすらすらと流れるようにノートに書き記す。

斜め線を引いて、その下に意味を教科書から軽く書き写しながら説明してくれる。


『全体的な意味としては
匂い立つ様な色の花も散ってしまう。
この世で誰が不変で居られよう?
今、現世を超越し、儚い夢を見たり、
酔いにふけったりはすまい。
形あるものと形ないものが渦巻く人生を、
深く険しい山に例え綴った歌だよ。』

「…そのような言葉があるのですか。ですが我らは天使。
その現象は人間であるからこそ、語り継がれたというものでしょうか?」
『そうだろうねぇ。例え覚えていても、それは永遠とは限らない。
一瞬のものが永遠なんて、続くのは不可能だと言っている様な者。』
「まるで貴方を指す様な言葉ではありませんか。」
『いやいや、実はこれ、漢字を書くとこうなんだけど。』

そう言ってメルはすらすらと書いてコルンの目を向いていう。

『ね、気付かない?』
「きづ…はて」

コンコンとノックが入り、はぁいと答える。
失礼しますと入って来た人に丁度良かったとメルが叫ぶ。

『ウイスさんちょっとここ座って!』
「はぁ、なにをなさっておいでで?」
「エフェメラル様から日本語とやらを教えて貰っていまして。」
「ほぉ?それはそれは。面白そうなことをしていらっしゃいますね?」

席に着いたウイスに、メルはその間に入ってノートにペンを立てる。


『ね、二人ともこの中に君らが見たことのある文字がある。それはなんだろうね?』
「はて、我々が、ですか?」

そう不思議そうにするウイスに、勿論とメルは答えた。

『正直これは故意的ではなくて、
滅茶苦茶適当に偶然も偶然で
今ぞくって背筋凍った気分なんだけどね?』
「同じようなことをさせると?悪いお人ですねえ?」
『へへ!それで、何かわかる?』
「…ひょっとして、これ、ですか?」

コルンが指を指すそれに、メルはにやりと笑った。
正解と言って手を立てるそれにコルンも手を出すのだ。
軽くメルはコルンとハイタッチをしたのだ。

正解するとメルはこうして手を叩く様にしていると
ウイスにはコルンが説明を入れた。

「有為。ねぇ、有為?聞いたこと、あるでしょう?」
「……まさか私の名で?」
『そう。有為の奥山は良いこと悪いことごちゃ混ぜにした人生を
何処までも深く続く険しい山と例えた意味合いを持つんだよ。』
「そんな意味を付けてくれたので?」
『まさか!偶然コルン様に教える和歌の中に
君の名前が出てきて今びびってたところ!』

なんなら君が来てすぐにびくってしたわ!
そうでしたか。それはグッドタイミングでしたねぇ?

「このいろはうた、とやらはどういうものなのですか?」
『昔の人が文字を書く練習のための手習い歌として
滅茶苦茶有名、王道の文章だよ。
ひらがな書ける様になったから
ついでに回りくどい話もぶち込めって思ってね。』
「あの、軽く酷い話してます?」

いやいや、そんなことはないよ?

『色は匂へど、散りぬるを。世の中の楽しいこと悲しいこと。
幸せ不幸せ、金持ち貧乏、これら全て目に見える現象は全て
いずれは変化し、見た所から消えて無くなってしまう。
非常に虚しいものなのだと言っていることだよ。』

このいろは歌。とても奥が深く、各文章にも意味がある。
加えて上から読んだ時にも意味があれば、
その全体を通しても意味を成している。
非常に、昔の人達は頭が良いと思った。

『宗教みたいな言葉だけどね。』
「神を崇めるアレですよね?してたのですか?」
『まさか!なんなら無神論派だった。』
「おかしい話ですねぇ?無神論の方が神と共に暮らすなど。」

本当におかしい話だ。

『この感じ、何処か聞き覚えない?』
「と、いいますと?」
『ほらほら、前に聞いたでしょう?何処かで君は。』
「………いやいやいやいやいやいやいやいや、
その当時貴方はまだ廻廊に入ってすらいないはずでは。」
『ルトラールらが同じ時間を過ごしていた、なんてことは?』

そう、あの書庫でメルが見ていたのは何も自分の力だけではない。
日本語を、アルメリアからこっそり教えて貰っていたのだ。
何故か上手くなるのが早く、二人ともの子だからだと、
彼女は笑って頭を撫でてくれていたのを想い出す。

まぁ、そんな遥か遠い昔のこと。期限等とうの昔に期限切れ。
寧ろまやかしだろうと思った方が楽なくらいのものだ。
それくらいには、日本語すらも私は覚えれず、
駄目だと、良く怒られていたのを同時に想い出してしまった。

「っ、なら」
『楽しいことも悲しいことも。感情全てを知るだろう。
でもそれは貴方の宝。知識は力。
だから困っても心配しないで、どうか前を突き進めって、ね?』
「本当に幼い子だったのですか?貴方という方は。」
『あの二人の子ですから。』
「はっ、末恐ろしいお子なことで。」
『ま、有為というのは人間の幸福や不幸、愛や苦しみを言った言葉。
その幸福も苦しみも、全部ひっくるめて生きてね〜って意味だよ。』
「それはそれは、有難い言葉を頂きましたねぇ。」

身に余るという彼に、いやいやとメルは首を横に振る。
それに、この歌はこれだけで終わらない。

『…いろはにほへとちりぬるを、わがよたれぞ つねならむ』

匂い立つ様な色の花ですらも散ってしまう。
そんなこの世界で、一体誰が不変でいられる?
全てが幻で、幻想である存在であるのだ。

対立を超越した場所に、この楽園は存在する。
この歌は、非常に奥が深い。だから好きなのだ。

ん?

『あれ?』
「どうしました?」
『ああいや、この歌さ、宗教でも仏に入るようなものなんだけど、
夢や愛は良くないものだと言われてるんだよ。煩悩だから殺せとかね。』
「随分物騒なことですねえ?死ぬわけでもあるまいし。」
『すべての現象は色。色は実体のない空。つまり空である。
夢も愛も手に取れない。感情にのみ存在する空想の場所。』

いやこれが、華樹神の話しに非常によく似ているのだ。
まて、これまさかだが。

『…黄金の草花の、力?』
「何の話です?」
『ああいや、なんでも…ない、』

まて、全ての現象が色。つまり色を灯す。願いは色だとしてだ。
色は実体のない空。つまり空っぽ。空に手を伸ばし、空を手にする?
空の空白に、色を染めて、その悪魔らの現実を叩きつける。

愛も苦しみも、幸福も不幸も、全てを知らせて。
そんな対立など、最初から実体が無い。
空であることを悟ったその瞬間、の先にある場所。

空っぽの感情を知ったその向こう側に辿り着いた時。
超越した時、人は、華神は、自分の周りを慈悲で満たし、
心は浄化され、世界はその願いに沿って変化していく。

極楽に、天国に、そして、その空想世界に。色を灯す。


まてまてまてまてまてまてまてまて。


じゃあ最初から。色を、灯す為だけに、
この子達は、選ばれ続けていたというのか?
願いを慈悲を、望みを、空に満たす為だけの、作業。
空が埋まれば、その現実を知らしめる。突き付けて、また空にさせる。
その繰り返しをして、華樹が理が廻る。

破壊と創造が廻り続ける様に、華神と華樹神も廻っていたとしたら?

廻った先に、黄金の草花に身体を包み込み、開花させる。
それは、対立など最初から存在しなかったような時間。

メルは廻廊の最後に立っていたのを覚えている。
黄金の草花が白と青の花を咲かせていたのを。

それに、周りは身体を落して身動きもとれそうになかった。
あの天使らですら、その気を失わせるほどの力を。
私は使っていた。そしてそれは黄金の草花言っていた。

あの中心に今生えている、黄金の草花らが、
もし花を咲かせ、華樹を創り上げたとしたら?


それは、もう誰もが争いも、怒りも何もない、「無」に「還る」。

23時から24時に切り替わり、0時を告げる様なもの。
全てが終わり、全ての始まりが幕をあけるというのか。

そうやって、繰り返している?私が、させる?


「メル様?」
『…いや、流石に考え過ぎか。』

そうだ、流石にいろは歌に倣うなんてそんなあるはずがない。
もし仮にあったとして、どうして日本にそんな固執しているというのだ。
それか、日本人の原初が、一代目の人間だった。

もしくは、初代という一代目よりも前の存在があったとすれば?

話しの辻褄が全てかちりと合わさって、嫌な気持ちが膨らんだ。
これの最後は、かなりの結末になるだろう。
此処が、天使らですら見れない場所でよかった。

何でもないとメルは言って、今日はお勉強終わりとさせることにした。


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日本語は本当に奥が深いと思う。
メルがそう遠い向こうを向いて言うのを、コルンは見ていた。
彼女がずっと、帰りたがっているのを、気付いて無視をしている。

其処に行った所で、貴方はどうするというのです?
どうせどうもせずに、己の首を絞めてそのまま息を引き取るだけでしょう?

それなら此処で存分に笑って一瞬だけでも息を吸って生きればいい。
哀しみに身を染めるくらいならば、貴方は其処ではなく、此処で。

あの方の隣で、私らと一緒に生きればいいというのに。
なのに、貴方はそれでも、その場所を愛おしそうに見つめて言うのだ。

これが残酷な現実なのだと。言い聞かせる様に。

「いろはにほへとちりぬるを」

華を咲かせた神様を歌ったみたいなものだ。
端的に言えば、華を咲かせ、人から神に、
一瞬から永遠になれと言いつけている様な者にも聞こえる。

確かに、彼女の言う日本語は奥深い。
ひとつの言葉なのに、意味が幾通りにも聞こえるのだ。
しかも辞書を多少引くはしても、殆どはこうだったはずで合っているのだ。

その膨大な量を、よく幼いながらも一度は見たものだと感心する。

「わがよたれぞ つねならむ」

この世は幻想に、貴方の永遠は、私らで言う一瞬の出来事。
それは夢幻のようなもので、手で触れようとするのはいけない。
それすらも、愚かな行為だと、思い知らされる。

儚い者達に、迷い歩けば痛い目に会う。
共になど、歩けば最期。永遠に生きる者達が息など出来なくなる。
甘く酷く痛い痛みを引き起こす、毒を持つ者達。

それが、華神ら、華樹神らの力の源。

神の呪いに掛けられた者達の末路は、何時だって儚く散る。
破壊神の破壊の因子に触れた、消滅もしかり。
生きとし生ける者達は、何時だって儚く散ってしまう。

まるで其処には、最初から生きていないかのように。

「うゐのおくやま けふこえて」

愛も恋も、劣情も情熱も。生を持った下界の者達が持つ感情。
目に見えないものを、今日という日に越えてしまえば、其処は楽園。
争いも競争も何もかもが、最初から存在しなかったかのように在る場所。

存在、しえない、場所。

頂点から底辺まで。その波を山と起伏を例えて文字を言葉を掛ける。

「あさきゆめみじ ゑひもせず」

浅い浅い、夢など、浅はかな考えの様な夢幻は止めよう。
例え夢の中だとしても、止めて、現実だけを見続けよう。
酒や快楽に酔って我を見失わせ、現実から遠ざかることすら
しないように、覚悟を決めた。

そんな者達が、集う境地の域。


それが、華樹神らが使う、技。

幸福も奇跡も、全て殺して現実だけを見据えた境地の場所。


「まさか身勝手の極意以上の者が存在するとは…」


迷いから外れ、その空白の場所にこそ、安定を心を留める者。
それが華樹神ら華を持つ者の力が発揮された状態。


空華くうかの極意


華に囚われた者が、本来実在しない感情をあたかも在る様に想い、
その状態のまま周囲の者達を戦術不能に追いやる、
まさに歩く意気阻喪いきそそうと言っても良いだろう。こんなもの。

戦闘意欲を消し去り、気力を奪い、意気込みも勢いも衰え
まるで最初から無かったかのように、その場に座らせる。

霞んだその目には、虚空に華を咲かせると、
お師匠はいつぞやぼそりとつぶやいていた。

いやだ、そんな、在り得ない。
なってはいけない。駄目だ。そんな、いけない。

そう頭を抱える彼を盗み見てしまったのを想い出す。
今思えば、アレは彼女の、
エフェメラル様の事を言っていたのだろう。

お前が成ってはいけない。望んではいけない。
その場に居なければ、彼は彼等はどうなるというのだと。
愛おしい子だからこそ、親は望むのだろう。

開花したその先に生きる境地にしか存在しない。
最早そのこと自体が空華ではないのだろうかと言われてもおかしくない話。
おとぎ話でもまだ可愛らしく出来るくらいの出来たお話作り話に見える。

しかし、本当に生きていたのだと、のちにその資料を見て知った。
もう、その資料は何処にも存在していない。
自分の知識に叩き込み続けた努力の結晶である。

こういうのは書面に置くと後が面倒だと知っているコルンは
メルが教えてくれたいろは歌とやらを呟きながら
破壊神の元に歩いて帰って行く途中にぼやいていた。

「絵空事の境地ともいうべきでしょうか…いや、あの子が?そんなバカな話が。」

だが、現実問題、彼女は理を引きずり出して捕まえ、その身に宿したというのだ。
何処まで見捨てないつもりなのだ。あのお方のお子という存在は。
いくら置き去りにされたと言っても、其処迄するとは、
余程の恨みを持っているとみてもおかしくなんてない。

天使らでもメルに対しては特に警戒をしている。
破壊神らも然り、全員で集まった時の満場一致で
彼女の状態によりけりで世界が終わると言い切ったのだ。

そりゃあ全王様と同等の位置にある華樹神。
その上に存在する、この世の全てに置いた理そのもの。
それに、あの子は今その身を置いているというのだ。

彼女が死んだらそれはもう、我々永遠に生きる天使でも永遠から外れるというもの。
だからこれ程までに過保護の様なブザーをそこら中に張り巡らせるというもの。
まぁそれだけではなく、単純に話したいから気になって声を掛けに行くとか、
そういう日常的な何気ない気付きからが一番の原因ではあるのだが。

それにしても、よく了承したというものだ。
もう少し文句を言ってもおかしくない。

いや、言う気力すら、ソレは奪うのだろうか?


その身に、いつも、その場所しか置いていない彼女。


空白の場所に、絵空事を描いて、ソレばかりを見て嘲笑う彼女。
その状態を全て知った時、人は彼女を普通に見てやれるか?
否、見れる訳がない。慈悲をと手を差し伸べる者達が殆どだろう。

其処に行くなと、とどまれと、手を伸ばして。
そうしてあの子はその手を一度くらいは取るだろう。
だってその手を持つ者達は彼女が大好きな人らだから。

だが、それも飽きればいや、一定を越えた時。
彼女はその身の翼を大きく広げてその場所に向かって飛び出すだろう。

鳥かごから、羽ばたいて。空に、絵空事の先に在るはずもない場所に向かって。

気付いた者達から彼女を優しく取り囲んでいく。
ソレが彼女の心を苦しめるとも知らずに。
嬉しそうに笑って彼女は良いという。

本当は嫌だろうに。


だから、こっちも手を貸すというのだ。


「我々が出来るのはこれしきのこと。」

彼女に言葉を、知恵を、知識を彼女が知れる範囲で渡す。
こっちは綺麗だと、現実を見続ける以上に、幸福を。
夢物語だろうと何だろうと関係ない。此方が現実、其方が空想。

目を醒ませ。此処に、生きる場所が在るのだ。
なのに、そんなことは出来やしないのだ。
皮肉なことに、夢を見ること自体が彼女らの生きる息が出来る場所。
想いに縋り華を咲かせ続けることで、彼女らは永遠を生きれる。

ソレが出来なければ、直ぐに息を引き取る、儚い存在。

なら、狂ってしまえ。壊れたなんて、思わせるな。
それがメルの策略であるのだから、本当に空いた口が塞がらない。



絵空事に狂って華を見つづけ、現実を知り続ける。
彼女は意味不明な現実の解釈をし続けながら息をしているのだ。

通常、そんな状態ならば普通に枯れて魔女や悪魔になるか、
昇華していると聞いたのはいつぞやの会合でのこと。
それが出来るということは、開花直前であり、
もう蕾は出来上がり後は花を咲かせるのを待つだけ。

もしくは

「既に開花を成し得ていた、なんていうんじゃないでしょうね?」

そんなことがあれば今すぐにでも何が何でも取り押さえるというもの。
幸いなことに、こっちにも目を向かせるその「隙」が見えたのだ。
変な話サワアと自分で手籠めにしてしまえば行ける道筋だろうが、
彼女の様な人がそれにまんまと嵌まる人でないことくらいすぐにわかる。

馬鹿を演じ、いや馬鹿だからこそ、見向きすらしないのだ。

純粋に、その場所しかみない。境地しか、知らない子。

それがエフェメラルという存在なのだ。


弟子がこんなにも大きな存在だとは、
本当にとんでもない仕事を任されたというものだ。
まぁその分高く買ってくれているのはありがたい。