誰の地獄も生きられない





前回のあらすじ

家庭教師コルン先生が仲間になった!!!


『いや、普通に地獄なんだが。』

本当に何言ってるか分からない単語というか文章をコルンが言ってくるのだ。
しかもなんか愛おしそうにこっちをちょくちょく見るから胸のなんかがぞわぞわして気持ちが悪い。
アイビーの時とかじゃない。アレはもう悪意しか見えないから殺意が湧いてくる。
あっちは蹴ったりできるから良いんだけど、コルンのは違うのだ。

こう、なんか、足を踏み入れたら落っこちて、
もう二度と居た所に帰って来れない様な感じの
落とし穴に近い何かの感覚を感じる。

おいでおいで、でもまだこないで。
気付いたら教えてあげる。知ったら帰れないけど。
帰してやれる、つもりもないんだけれども。

そんな感情がひしひしと伝わってくるのだ。
伊達に私も数十数百年生きていない。
感覚を研ぎ澄まして生きた時間で何となく考えていることくらいはわかるのだ。

『あ〜〜〜〜絶対目付けられたあ〜〜〜〜。』

どうすんの。あいつまで好きだからって引っ張り出して来たら私分裂無理だぞ。
確かにコルンは滅茶苦茶良い男だと思う。普通に良いひと。好きだよ?そりゃさ。
でも、サワア以外見るつもりなんて更々ない。
まぁ同情を買うくらいは場合によってしなくもないだろうが。

それは最終手段、もう手に負えない地獄から救済を取る時用にとっておくとしてだ。

『どう考えてもあの目……ううん。』

いっそのこと二人取る?いや流石に私ヤダよ?三角関係は普通に嫌だ。
あの二人から手に取られたらもう私もう生きていけないと思う。
今度こそこの鳥かごの中から出られないと思った方が良い。

嗚呼でもそうか出るつもり無いのに何をいまさら言うのだろうか?

終わった時間。もう、廻廊ではない。
出ていくなんてしなくていい。
では、何処に行こうというのだろうか?

分からない。まだ、想い出せないことはきっとあるだろう。
でも、いまはまだ、知らないままでいい。
ゆっくりと進みだしたこの時間。

メルは現在一人で風呂に浸かって今日のことを考えて考えて考えまくっていた。
ぴちゃりとお湯の音が跳ねて気持ちよさがお湯の温度で身体に染みわたっていく。
疲れがとれていくのか、足から頭の先まで震えてから声が出る。

『ふぃ〜〜〜、きもちい〜〜〜〜』

まぁ別にそんなことどうでもいいかあ。
コルンはなんだかんだ言って厳しい天使だろう。
鬼みたいな勉強今度するだろうが、それも愛の鞭。
自分が出来る範囲ギリギリのラインを出してくるだろうから
其処ら辺考慮すれば、彼で良かったと後々思う事も出るだろうし。

何よりあの目を見てしまえば、もう出来ませんなんて言えるわけがない。

あんな、悲しそうな目をみたら。
流石に私でも手を伸ばしてしまうというもので。

『嬉しそうだったなぁ』

嗚呼自分でも役に立てることがあるのだ!!
そんな感動に近い感情を強く受け取ったのだ。
彼のその感情に、揺れない訳にはいかないというもの。

私もまた、そんな気持ちを持った日があったのだから。

アレは非常に毒で、目を眩ませ、立ち位置を狂わせる。
加えて何度も何度も繰り返す猛毒性が止まらない。
一度知ってしまえば、もう後戻りなどできやしない。

嗚呼、余りこっち側に入ってきて欲しくないというものなのに。

『今度教えないとなぁ。』

期待して高みを見るのは酷だという現実を。
周りは期待しない。その目の前の奴も。
どれ程残酷な現実が待ち受けているのか。

救われないという、時間を。
私は何度繰り返して、この地に帰って来たというのだろうか。
いや、大丈夫。そう言い聞かせて、何度したか。

そして何度見つめ続けてきたことか。
呪いだから外してやろうと思うならば、
呪い返され痛い目見るぞ。

かごめかごめ、振り返った正面だあれ。

醜い自分が背をつつく。

何度だって、私は言い聞かせねばならない。
自分が出来ずに、周りが消えていくことを。
幾ら望んだって仕方がないことだってある。

そう、あると、私、想ってたんですが。


『ええ、どゆことぉ…???』
「もう一度言いましょうか?
流石に貴方だけに教えるとはフェアではありませんので、
私にその日本語とやらをご教授願いたいと言ったのです。」

いやそうだがあ〜〜〜〜〜?????

どうしてこうなったと言わんばかりの話。
次の日、来てくれたコルンと共に
私はアルトリアとサワア、ルトラールの五人で話をしていた。

紅茶が美味しいです。誰が淹れたんだ。

「私ですよメル様」
『はい好き大好きもうやだ結婚して』
「っふふふ、お褒め頂いて嬉しいですよ〜?」
「それで、許可は?」
『いや出してもいいけれども。』
「…なんです?」
『嫌がらないのかな、と。』

メルはサワアが自分の事を好きだという自覚もあれば
他の人に余り過度に触ると機嫌が悪くなっているのも知っていた。
なので出来るだけそうしたくはないと思ったメルが
サワアの顔色を窺ったのだ。

ソレを見てサワアは別に構いませんと答える。

「私だけでは至らぬ点も多々あると思いますし、
それにルトラール様のお言葉に小さな人間の感情に
惑わされ振り回されるのも癪に触りますから。」
「癪にどころか滅茶苦茶振り回されて機嫌損ねるよね〜わかる〜〜〜」

アルトリアはうんうんとサワアの隣で紅茶を楽しんでいた。
彼女も一応人間として生活をしていたので
そのもどかしさは強く理解が出来るというもの。

「これは貴方達が耐え続けて来た試練に等しいというもの。
貴方らが出来ずに私が出来ないとは言う訳にいきませんので。」
『わぁ〜〜〜、ほ、程々に、ね???』
「それはこっちのセリフですよ。
貴方過度にのめり込む癖をこれを機に直してもらっては?」
「既に其処に対しては対策済みですよ。お兄様。」
「ほぉ?それは心強いですね。」

ねぇなんか火花見えなくもないの怖いんだわ。

「それはそうと、お師匠様少々お聞きしたいことが」
「言わない」
「あのまだ言ってないんですが……」
「話の流れでもう分かる。この子がどうして僕の作った固定変換機能を付けたか、だろう?
別に言ってもいいけど、滅茶苦茶頭痛くなる話だが。」
「……………一応聞いてもいいですか?」
『めっちゃ飲み込んでるwwwwww』

いたいです。なにも軽く拳骨入れなくてもええやん????

頭を押さえて突っ伏すメルに、コルンはそれでとルトラールの方を向き直す。
現在メルを始めて左からサワア、アルトリア、ルトラール、
コルンの順で円卓に腰を下ろして紅茶を楽しんでいる。
コルンは右側の方を向いたことに、メルもちらりと彼の目を見た。

「嗚呼、普通に書庫に入って読めもしない文字を適当に見つけてソレを読んで付けただけだよ。」
「…………。」
「だから頭痛くなるって言っただろう?それみたことか。」
「いや、色々言いたいことはありますが、止めなかったんですか?」
「止めた所で君はあのデメリットを知っているだろう?」

それは、余り宜しくないもの。
最終的に華樹神として、選ばれてしまえば廻廊に身を落すのは確実なこと。
ならば遅かれ早かれ付けるという機能であるのは間違いない。
下手に剥がすよりも、そのまま放置した方が得だと思ったのだとか。

「記憶をかき消すよりも記憶にある情報を吸い取って変換するだけ。
廻廊途中であんまりにも膨大な情報に機能が上手く発動しなくて
何度か記憶を改善させていたりはしたけどねぇ。」
『嗚呼、メルトリアの時か。』
「そ。幸いなことにスピスも協力してくれたことで一応戻っててよかったが。」

フィズの時のことか、いや二人ともよくどさくさに紛れてやってたものだな。

「読めないのに何でしたのかは本人のみぞしる、というものだが?」
『ん〜〜あんまり覚えていないっていうのが正直な回答。
うろ覚えで良ければ覚えていなくもなくもなくもない。』
「いるのかいないのかはっきりしてください……。」
『多分ね、皆と早く会話したかったんだと思う。』

一番目もそうだった。

自分が置いて行かれる、あの白い空間の感覚が、
私の生きてきた中で一番のトラウマであり、
一番の悪夢であり、地獄以外の何物でもなかったのだから。

あの地獄を誰もが知るというのは、正直堪える。
なるべく自分だけで留めていて欲しいというものだが、
それでは成長も止まる、何も生まれないというもの。

『早く自分の言葉で、自分の知る価値を、共有したかった。
だって近くにはずっと一緒に居たかったって思ってる子も居たことだし。』
「…僕のことです?」
『まぁ君もだけど、クスねぇとかもかなあ?
スピスさんは術見てすぐに驚いてたけどね〜。』

あれは面白かった。めっちゃがしって肩掴んで
どうやってしました?って聞いて来たもん。
そりゃそうだよね、まだ教えてない単語も混じった文章だったのだし、
なんなら発動ミスったら割と生死を彷徨うどころか死直行便だったのだから。

一応発動してなんとかなっているからいいものの。
余り本を勝手に見ないことと念押しされていたのだ。
まぁ、勿論そんなことを忘れたら意味がないのだろうが。

「成程」
「でも解除したんだろう?」
「ええ、この私が一応解除はしていますが、
お師匠出来れば貴方も確認して頂きたいと思いましてね。」
「ああだから呼ばれた訳ね。そういうことなら。」

そう言ってルトラールは席を立ち、メルの頭をぽんぽんと叩く。
うんうん、大丈夫と彼は愛おしそうにメルを見た後、
コルンの方を向いて答えた。

「ばっちり解除出来ているよ。よくやった。」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。」
「どういたしまして。それで?コレ何掛けてるの。これ他にもかけてるよね?」
『え!??!?!ほんとに!?!?!?!』
「流石にバレましたか。そうですよ、お兄様らが居ない時に何かあればすぐに伝達出来る様に杖に細工を入れています。」

貴方がお兄様か、私か、私の知る限りの神々の名を呼べばすぐに此方へ連絡が通達するようにしています。

「一人になった時、時間稼ぎをしてもらえる様にも
ある程度の武術は身に着けて頂きますが、
そうならない様にも付き人らも居るわけですし。」
「今は二人いるけど、ほぼほぼ見習いだからねぇ。」
「お恥ずかしい限りで…」
「いやいや、寧ろこういう機会だからこそだよ。
因みにどうすれば通達するようにしているんだい?」
「そうですねぇ、一応強く感じた感情で反応するようにしていますが…。」
『とは言っても現在進行形でリラックスしていますよ僕は。』

流石に今から強い感情をと急に言われて出来る訳もない。
大分落ち着いて来たので出来れば増幅も波も出したくもないのだ。
拒否したメルに、いずれお知らせしますとコルンは答える。

「後は敵と判断した者が彼女に触れると妨害するようにも。」
「ほぉ?それはそれは…過保護に育ててくれて助かるねえ?」
「…私は貴方方を敵に回したくないのですよ。」
「おや、私もですか?コルンさん。」
「当たり前でしょう。エフェメラル様の片割れと言っても過言ではないのですよ?
貴方が居なくなればこの子は上を向くことすら忘れそうですし。」
『私そんなにも豆腐メンタルちゃうからな????』
「豆腐というのが分かりませんが言いたいことはわかります。
脆いという意味では同じでしょう。」

貴方のその眼が、心が。ソレを差し出したに値するその力。
逆にサワアの約束以外を出していれば、こんなに上手くいくとは到底思えない程の完成されたものなのだ。

それ程、メルには秘められた力が底知れぬ程に見えるというコルンに流石に言い過ぎだとメルは答える。
自分はそんな強い人間ではない。弱い人間ではあるが、芯はちゃんと持っているつもりだと答えたのだ。

「それならいいですが、だとしても敵に情けを掛けることだけは捨てて頂きたい。」
『そんなの絆してしまえばいいだけじゃん。』
「いや、だからですね、そういうとんでもない考えで突き進むのはおやめ下さい…。」
「それで通用したらいいですけどねぇ〜。」

そうそう上手くいくものではないだろうとサワアが答える。

「逆に聞きますが、情けを掛けて何がしたいのです?
普通に生かしたいとかほざくわけでもないでしょう?」
『あ〜〜〜〜』
「…該当はするんですね。」

えへへ、そう笑うメルがそうだねぇと身体を起こして答える。

『自分みたいに化けねぇかなぁ??とは思ってやっちゃうんだよねえ?』
「…モヒイトさんと組んだアレみたいな感じですか?」

そう言ったサワアの話は廻廊中の最後手前に起きたメル拉致事件である。
正確にはメルがでっち上げた敵を誘い込む罠だったのであるが、
ソレを知っていたのはモヒイトとサワア、そしてロウの三人だけである。
他には伝えず、騒ぎを起こしてかく乱させた方が良いというメルの意見。

その事実は正しく、無事に事がまぁメルの想像通りに進んだからよかった。
だがそれ以外に頭がキレる者だって沢山いるというもの。

「もし我々の偽物が出てきたらどうするんですか。」
『は?場合によっては痛めつけて殺すが。』
「………は?」

いや、こっちのセリフだとサワアやコルンらが目を丸めてメルをみた。
椅子に座ろうとしてずれこけそうになったルトラールも驚いている。

『殺す、正確には精神的な破壊のみだな。まぁ陥れるつもりだが?
感情の起伏を利用しつつ、その幾つもある選択肢に見せかけ一つに絞る。
それに気付いた者が一体どういう行動をするかどうかを見続ける。』

なにも簡単なことだろう?そう言うメルに、
いや出来るのかと聞こうとしたコルンが言葉を止めた。
彼女は廻廊。一度目の時間は一体どんなものだった?

嫌な汗が背中を通った。

ニヤリと笑うメルの顔は、悪魔にも見えて、少々ゾクリとした。

『堕ちて堕ちて堕ちた先に見つけた感情を知ったその時。
救いだと救済だったとコレが夢ではなく現実だと言い聞かせ
その狂った思考回路ごと愛して回し続ける様になる子が。
私以外に居ればいいなぁと思ってやるだけのこと。』
「寧ろそれ消滅させた方が救済なのでは。」
『ま、だろうね。だからビルス様達って
本当に心優しいなぁってもう私ず〜〜〜っと思ってるんだよ。』

彼等程慈悲のある者達はいないと思う。

『消滅こそ救済。無から産まれた有は無に帰すべき。』

まぁそれが全部に適応するかどうかは、話が別と言うもの。
あくまでもこれは、自分の個人的な意見や会見にしか他ならない。

メルは嘲笑った。その言葉に対して。その仮説に対して。

『ましてや君らみたいな天使を使って私を騙して落す?
はっ、やれるものならやってみろ。出来るならしてみろ。
私は何度も其処に堕ちては戻って来てる者ぞ?』

何度も繰り返したコレに、耐えれるならしてみればいい。
その間に私だって耐えれる様にこの感情をセーブするのだから。
要は耐久戦である。どっちが先に潰れるか。潰れたら負け。

ただそれだけの行為。

『それにそんなことしている間に君らが助けに来る。
来なくても自分で出来る様に敢えて道はつくる。』
「…ほんと、それが出来なかった時が怖いので、念には念を。
ということで話を戻しますが、貴方には幾つか術を付けています。
その辺ご了承くださるようお願いいたします。」
『了解しました。』

その辺一応覚悟の上で此処に居るのだ。
どうせ複数の線を引かれて当然だろう。
だってこの華樹神は、願いがどんなものでもかなえられるのだ。
まぁ人が此処に辿り着いて私が願いを叶えられるか。

そしてその願いに華を咲かせられる程の強い意志を持った者かは、知らない。
願いが叶わなかった時の、絶望に打ちひしがれて悪魔にもなれず、
人にも戻れず、ただ魔女に堕ちて叫びまくる怒号を聞いて、処罰を下す。

ただそれだけの行為である。

無慈悲なものだ。ただ願ったそれだけのことなのに。
殺してはいけないというのに。殺さないといけない。
最終的には、その命は消し去らねばならないのだから。


「一応語学はそろそろ手を付ける予定です。」
『…再三言うけど、私本当に物覚え悪いからね?』
「知ってますよ。お師匠からもそうですが、お父様からもお聞きしていますので。」

かなり手を焼いたとあのお方が言うのです。貴方どれ程覚えが悪くて?
えへぇ????

「ま、見捨てることなど私のプライドにも賭けて出来るわけがない。」
「君なんだかんだ言って面倒見良い方だからねぇ〜?」

他の子達見ていて本当に思うけど。
そうルトラールは顎を手に乗せてコルンに向かって言うのだ。

酷い、呪いの様な言葉を。

「君なら彼女を任せられる。」

酷い、狡い言葉だ。

そうやって彼らは人を縛って、誘導し、そうして淘汰していく。
それは私もすることであり、嗚呼、こういうのはよろしくない。

話しを戻そう。

「それで?」
「…軽く口頭での会話が出来れば第三の者を交えて会話をします。
その時には弟や妹らにでも任せると致しますが。」
「じゃあ武術は暫くクスにでも任せるか。」
「いいので?」
「トラウマ克服も兼ねて、ね?」
『…酷い人らだなぁ。』

そうやってこの土地に居座らせるつもりだろう。
まぁ、外に出るつもり等、無い。うん。ないのだ。

なのに、何処かこう、胸がざわざわしてならない。

きっと、私は救いを求めているのだろう。
何時か罪を犯した時、こうじゃないと否定し、
その罪から逃げ切る確実な口実を。

愚か者とは、こういう者を指すのだよ。諸君。


メルは紅茶を飲み干した痕を見て、鼻で笑った。