宝箱(ダンボール製)
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「…何事かと思って来てみれば。」
なんだこれは。
そう眉間にしわを寄せつつも、
呆れてものが言えなくなったのは
第七宇宙の破壊神であるビルスである。
その隣で、同じくものを言えなくなっていた
第八宇宙の破壊神であるリキールが口を開いた。
「…耳、だな。」
「尻尾もちゃぁ〜〜んとありますよ〜〜???」
『ばっ!!ちょ、こら!!ええん!!ねぇ二人とも尻尾ってどうやって止めてるの?!?!!?』
「いや、止めれるものじゃないし……というか、まず説明してくれる?」
「純環の理になられているエフェメラル様が少々おいたがすぎたことをしでかしたので、
上のお方から罰をということで、現在は地球とやらでいう犬という種族が持つ耳と尻尾が
生え切っているんですよ〜〜」
それにしても可愛いですね〜〜!!
そう何時にもまして頭を撫でるウイスに、
メルは恥ずかしいのだろう、耳まで顔を赤らめて否定する。
『っか、かわいくなんか、ないやい!!!!
嬉しくなんてないもん!!!ん゛゛゛゛!!!!』
「っほほほほほ!!そうですね〜〜。」
「ぜっっんぜん喜んでるじゃないか。」
「なんなら頭撫でまわされる様に下げてるしな……。」
両手はグーにして握り切り、そのまま下に押す様に腕を伸ばしながら
ウイスの方に向けて身体を折り曲げているのだ。
加えてメルの頭に生えた黒く大きな耳はピンと立っているし、
極めつけはその尻尾である。もうぶんぶん左右に振りまくっているのだ。
流石にいつもの衣装だと下着が見えて仕方がないので
今回は穴を少し開けて後ろは見えない様に着飾っている。
白いふわっふわの尻尾のボリュームはまるで綿菓子のよう。
リスの様に尾がくるりと丸まっているのが分かるのは
人の話を聞いている時くらいだろうか?
「それにしても随分とまぁ可愛らしさが跳ね上がりましたねぇ?一体何人の神々をたぶらかせば貴方は気が済むのやら。」
『たぶらかたぶら?』
「たぶらかす、ですよエフェメラル様…。
分かりやすく言いますと、
騙して良い様に相手を扱うということです。」
『するつもりは更々ないが!?!??!』
「自分の感情を知らせないようにするならいともたやすくするというのに?」
う、それは否定が出来ない。
メルは図星を突かれ、耳を下げて尻尾迄下げ切った。
花だけでもわかりやすかったのだが、加えて耳やらの物理的に反応するものまで出てくればもう地獄だろう。
天使らですら、これをされたら暫く長期休暇を貰いたいレベルでの屈辱というもの。
自分でなくて本当に良かったと内心心から皆は思っていた。
「それで?俺達を呼んだのはコレ系だって判断したからか?」
『大変失礼だと重々承知の上でコルン様とウイスさんに相談しまして。』
「本当は我々の惑星にビルス様達に直談判すると言って聞かなかったのでね。」
「嗚呼流石にそれは止めて正解だね……。」
サワアが軽く事の詳細を説明すると、ビルスは納得してメルに近づいた。
耳やら尻尾を見て触っても?という彼に
どうぞとメルは脇を上げ、後ろを軽く見せる様に身体を捻って答える。
下に下がっていた尻尾が上がり、なんならフリフリと小刻みに揺れる。
「…恥ずかしいとかないの、君。」
『いや〜ビルス様達にこうやって
会って話すの久しぶりな感じがしましてですね?
これくらいの嬉しい感じがバレるのはいっかな〜って!』
「あのね…君ほんと、いや言うのは野暮か。」
『待って?馬鹿って言った?ねぇ言ったよね???』
「まだ言ってないよ。まだね。」
『ということはお前思ったよな???馬鹿だが分かっとるが????』
「じゃあいいじゃん。」
んだとこの野郎。というメルに、
この口の悪さ誰に似たのと
ビルスがメルを指さしながらサワアに聞く。
それにサワアは「さぁ?」と目を閉じて首を横に振ってこたえた。
「何処で聞いてみてしまったのか分かりませんが、
少なくとも口の悪さに磨きがかかっているのは事実ですよ。
昔は其処迄口が悪くなかった気がするんですがねぇ〜〜。」
「威嚇のつもりで言ってるなら、普通に怖くないからね。」
そんな驚かなくても…。
メルは驚いて耳を立てて固まるのだ。
ビルスも流石に耳を下げて困惑しきっていた。
調子が狂うと耳を下げたりもする。
まぁ気持ちが良かったり、寂しかったりでも下がるが、
ソレは本当に人それぞれ、感情それぞれで変わるのだ。
「少なくとも僕からしてみれば大人しく受け入れろだね。」
「同感だな。感情に伴って動くんだ。
強いて言うなら、考えない様にするってところだが…出来るか?」
『まぁ無理ですね!!!』
「そんな自信満々に仰らないで下さい…」
「なら受け入れるんだな。にしても、ほんっっとうにお前変わらないな。」
ふわっふわの尻尾と耳はどうやら皆が考えていた想像通りの姿らしい。
あれひょっとして反映されてる?まぁでもどっちかっていうと、
『でも私、この耳も尻尾も大好きだからなぁ〜〜。』
「へぇ?じゃあどうして僕達呼んだの。」
『ん〜見せたかったから?いいでしょ!!』
「似合ってる、と言ったらいいのかい?」
『おうよ!!!!』
えっへんと腰に手を当てて自慢げにする彼女の背後はぶんぶんと風を切る様に尻尾が振られている
ソレをちらりとメルは見て尻尾を掴もうとしたが避けられた。
『!!!!!!!』
「思考回路迄落ちてない???」
「…まぁ、それもそれ、ということで。」
尻尾を追いかけて遊び出したのだ。
すぐに捕まえて気持ちよさそうに触っている。
「そういや犬って言っていたが、どんな種族のやつらなんだ?」
『え?嗚呼、そうか犬知らないか。ねぇさわあ』
「駄目に決まってるでしょうが。貴方懲りないんですか???」
うう、ですよねぇ。そうしょげるメルに、サワアが指を鳴らす。
其処に出したのはペンと画用紙。
「はい。描いて見せてあげては?」
『ええ?上手くないよ〜?』
「あの子を描いてやればいいではないですか。」
『ん?嗚呼!パピのこと?そうだね!どうせ同じだし!』
「どういうことだ?」
「エフェメラル様に付いている尾と耳は以前彼女が廻廊で出会った時に飼われていた犬と同じものですよ。」
「そうなのか!!って、なんでお前が知ってるんだ???」
そりゃあ我々飛ばされていましたので。
そう言ったのはウイスだった。
「お兄様方とメルさんの御父上に、
少々の間面倒を見て貰っていましてね。」
「嗚呼、そんなことなんか言ってたねぇ〜〜?」
「その時の子がコレか?」
『ん〜〜上手く描けない〜〜〜。ねぇ〜パピ〜〜〜。会いたいよお。』
「駄目ですよ、エフェメラル様。そう、してあ、える、ものじゃ」
そうメルが草原の下でごろんと腹を向け、足をバタバタと上下させて我儘を言うのを
サワアが腰に手を当て、もう片方の手で指を立てて言っていたのが止まる。
ちらりと向いたその先には、
「っな」
『……パピ?』
小さい。本当に、小さな小さな、子犬が其処に仁王立ちしていたのだ。
白黒で、顔の頬は人の頬が赤く染まった様に茶色の頬を染め上げている。
中央は白いレーンを一つ作り上げて、左右は黒い色が何処か綺麗にまとまっていて。
耳をたて、気付いた犬は尻尾を振りだしてこっちをずっと
舌を出したままではあるが、見続けていた。
顎下は首元下から左右にライオンの胸元の様な半円の広がりを見せている。
尻尾はリスの様に尾をくるりと丸まっているが、全体的にふわりとした形。
なのに身体はすらっとしているので、ふわふわする所はして
しないところはすらりと身体の形を少し誤魔化した状態。
その形は、身なりが整っている様にも見えた。
『っパピだ!!!』
「っこれ待ちなさい!!」
『放して!!だってパピいる!!ねぇ〜〜パピーーーー!!!』
おいでというメルに、嬉しそうに笑って居る。
どうしようか迷っているのか、足を少し上げてとまるのだ。
クウクウと言う彼に、メルはパピパピと彼の名を呼ぶ。
「ひょっとして飼い主なのに姿が違うから困っているのでは?」
「嗚呼、確かに今の貴方は耳と尾すらありますしね。
その状態だと前の形とは似て似つかぬ者。仕方がないでしょう。」
『!!!!!!!!……パピ、私のこと、分からなくなっちゃった?』
あの場所に、置いてっちゃったから?
そうしょげるメルに、気付いたのか犬がとてとてと歩き出す。
途中タッタと小走りにもなったが、直ぐに速度を落とし、ゆっくりと近寄った。
距離にして大体2m程度だろうか、それでも遠い。
手を伸ばして数歩歩かないと彼に触れることは出来ない。
その前に動けば距離を取られてしまえば、触れる事すら不可能だ。
まぁ正確には触れて捕まえることなんぞ造作もないだろう。
今のメルは、完全な人間であったあの頃とは違うのだ。
天使らと組手をしているのもあって、
速度はあの頃の数十倍もの速さになっているだろう。
でも、そうやって捕まえても意味がないことを、彼女は知っている。
だから普通に、彼が知っている普通に合わせてやっているのだ。
本当に、心の底から彼を尊敬し、敬愛して、共に過ごしていたのだろう。
彼も気付いたのか、尻尾をぶんぶん振って今度こそメルの身体に飛びついて来た。
ワンワンと言った後、パピーと泣きそうな声でサワアの手を振り切って彼を抱きしめる。
クウクウと言う彼に、ごめんよおとメルは泣きそうな声で返した。
尻尾は同じ様に振って振って、振りまくって。
「…それで、これは、一体。」
「向こうの魂がこっちにまで来る、
なんてはずは間違ってもないはずなのですが。」
「誰かが仕組んだとかです?」
「彼女がしていないなら、そういうことでしょう。」
「だとしても一体誰が……」
『仕組んでないって!パピ言ってるよ!!』
「何言ってるのか分かるのか?」
『いんやまったく!!!!』
だあああっと何人かがずっこけるのにメルは首を傾げる。
現在はバタバタ暴れていた犬を抱きかかえて起き上がっていた。
片腕に腰を座らせ、片手で犬の肩辺りからぎゅっと抱きしめる様に抱えるメルは
小さな子供が少し大きなものを持ったみたいな歪さを思い抱かせる。
『パピ〜それにしても大きくなったねぇ〜!
元気してた?そっか〜〜元気か〜〜〜!!!!』
「ビルス様らは分からないのですか?」
「わかる訳ないだろ!!!種族も何もかも違うんだぞ!!!
というかお前ら天使ならわかるだろ!!」
「それは失礼しました。ですがそういう訳にはいかないのです。
此方では我々も思考を読み取れない様にメルさんが作っているので。」
「っそうなのか?!!?!」
『っきゃ〜〜かわいい〜〜〜!…ん?嗚呼そうだよ!
天使らが困る様にした!!異論は認めん!!!』
「良い度胸してますよね、ほんと。」
でしょう!この子譲りです!そうキリっとした表情で自慢げに言うメルに
褒めていませんとコルンがきっぱりと答える。
尻尾は未だ、フルフルとふるっているままだ。
「にしても話が分からないのに声を掛けて何が楽しいのです?」
『こういうのは顔をみたらわかるんだよ?…ね?ぱぁぴ。
私に会いたくてじゃなくて、私が会いたそうにしていたから
だからこっちまで走って来てくれたんでしょう?ありがとうね?』
「エフェメラル様…いや、流石にそんなバカな話が。」
「…在り得るかもしれませんね。」
「サワアお兄様?何故ですかそんなことが出来る訳が」
「いえ、前にアニュラス様らが仰られていたんですよ。
何度も何度も迷い込む者が居るとね。」
「……まさか、帰る場所を見つけたから此処まで走って来たとでも?」
「現にいますから。」
そう、現に、此処に居るのだ。嬉しそうにする犬が、その証拠だろう。
クゥくぅと言う彼に、そうかそうかとメルはデレデレである。
何よりも愛おしそうに眼をキラキラとさせて犬を見続けるのだ。
強く抱きしめた後、優しくそっと包み込むようにして言う。
『…私もパピのこと、だぁいすきだよ?会えて嬉しいなあ〜〜!』
「エフェメラル様…」
『でもね?誰かにちゃんと言って此処に来てくれたの?
君の事だからどうせ開けれなさそうなドア無理やり掻きだして
小さな穴から抜け出して此処に来たんじゃないの?』
図星なのか、びくりと驚く犬に、もうとメルはムッと顔を変える。
『め!!!駄目でしょ!そんなことしたら!!!』
「え、ちょ、メル様!?」
『こりゃ〜〜〜!!罰として今日一日この人達と居る事!!』
「っは!?あっ、や」
『ねぇウイスさん、お師匠いいでしょ?一日借りても!』
「ええ、存分に。」
「此方も仕事がひと段落付いているままですし。構いませんよ。」
『だって!パピ!ふっふっふ〜〜〜僕が君に僕のお友達達の紹介をしてやろう!!』
光栄に思え!めちゃ強いんだぞ!!そう自慢げに言うメルに、犬は嬉しそうして話を聞いてじっとしてくれる。本当に賢いのだろう、全く動かないわけでもない。ただメルが見つめる方向を一緒に見てくれているのだ。
『この人は破壊神って言って…んん、そうだなぁ。物を壊す人?』
「なんだそりゃ。破壊をし尽くす馬鹿と同じ様に扱わないでくれる?
君の主人には色々面倒に付き合わされてるよ。全く、躾してこれかい?」
「ふんっ」
『え゛ふざけてる。ねぇ〜〜私が飼い主じゃん!?パピ君?!!?』
「っくくく、どうやら同等か逆だと思われてるようだねぇ?」
『も〜!この人はビルス様って言って強くて偉い神様だよ!
パピの事なんか軽くちょちょいのちょいであしらっちゃうんだから!!』
「そんな小さな身体ならあしらう前に壊しちゃいそうで怖いよ。」
破壊神でも怖いものあるの!そりゃああるさ。
「破壊は一瞬。でも戻すことなんて出来ないからねぇ?」
『ビルス様……。』
「ほら、次紹介するんじゃないの?」
『あ!うん!ほらパピみて〜!こっちは狐さん!!』
「おい」
ケタケタと笑ってメルはリキールの説明をする。
触っていい?というリキールに構わないと腕を組んで答えるリキール。
ほらほらと犬の手をそっと掴んで軽く触れさせると驚いて逃げようとする。
それに怖かったかーと嬉しそうに困った様に笑って抱き直すのだ。
ただただ、愛おしそうに、その犬を見続けるメルが。
今まで見たこと無い程に輝いていて。
本当に心の底からこの犬を愛して止まないのだなとリキールも思った。
だから、本当にちょっとした、よくだった。
「あ」
『わ〜〜!!』
すっと手を出したリキールに、パピがクンクンと鼻をつつく。
すると尻尾を振りだして、身体を前に出したのだ。
どうやら移動するらしい。
『リキール様ほら持って持って!!』
「は!?!?や、ちょ、こ、こら!!」
『腕は横に立てて、お手手はこうだよ!』
メルは彼の真横にぴったりとくっいて犬を渡す様に
リキールの腕を片手で掴み、同じポーズを取らせるようにしたのだ。
はいどうぞと言って流れる様に渡された犬は少しばたつく
『リキール様しっかり意識する!!!』
「っはい!!」
『パピも駄目でしょ!?リキール様お犬様一匹も持ったこと無い子なの!
近所の凛ちゃんとか春斗君とかと同じ様なもの!
君は何十もの人に抱いて貰ってる先輩なんだから
こういう時は先輩がじっとおりこにしておくの!!』
「色々罵倒されてるんだが?!?!」
『リキール様は焦って手を動かさない!!!
とにかくこの子のことを放さない様にみてあげるの。
…ほぉら、大丈夫、大丈夫だよパピ。私は此処に居るからね〜?』
「君、本当に、凄い奴だな……」
ばたついていた犬がぴたりと止まる。
まるでそうだったと言わんばかりに、鼻息を荒くして答えるのだ。
良い所に辿り着いたところで止まる。
それに伴い、リキールも同じ様に彼を抱きしめて固まった。
『ほらリキール様もっと肩の力抜いて。
腕が力入り過ぎて多分犬が痛がる。』
「っ、あ、ああ、す、すまん……」
『ほらほら、パピの顔変わったでしょ〜?
きゃ〜〜〜!!抱かれてるパピも可愛い〜〜〜〜!!!!』
「良いんです?アレ」
「…放っておいてください。」
コルンが指を指す先に、サワアは項垂れた。
流石に愛犬、それも彼女が唯一生きれた
希望の星にまで嫉妬などしていいものではないのだ。
『気持ちいいでしょ〜?実はリキール様男の子なんだよ?あっ流石に分かったから嫌だった?』
「おい。というか男なら嫌がるのか?」
『女の人此処に居ないから分からないのも無理ないけど、
女性ってわかったらすぐに飛びかかるよ?』
「おい。飼い主はどうした飼い主は。」
『僕も他の犬がいたら真っ先に愛でるからお互い様!』
「…お前なぁ。」
『へへへ!!でもよかった!流石コルン様の目は生きていることだ。』
「ん?どういうことですか?」
そう振り返ったメルに対してコルンもメルを見て首を傾げる。
急に話を振られて驚いたというのもあるが、
『だってパピは人に対しても私に対しても
優しい人に対しては優しく接してくれるもの。
ましてやこの子、男なんぞに触れるの嫌がる子なんだよ?
よっぽどリキール様は良い神様で、
その神様を見抜いたコルン様の目は凄い、ってことだ。』
「おやおや、今更お気づきですか?随分と遅いようで。」
『パピのセンサーはぴか一だからね!!!
…ほんと、まるで、時間が止まったかのよう。』
「…メル、お前。」
『あいたかった、ずっと、ずーーっと、
こうやって。触れれて、嗚呼、嬉しい。嬉しいよ?』
ボロボロと泣きだしたメルに、犬もメルを見つめる。
頭を撫でて、笑うメルが、苦しそうに笑って泣くのだ。
幸せなのだろう。何処までも、幸せだと。
彼女の腰元の華が、そう物語っているのだ。
マトリカリアと呼ばれる、
カモミールの様な白い花弁が中央から放射線状に伸びた花。
「深い愛情」のほかにも「楽しむ心」「集う喜び」という意味。
シルバーグリーンが美しい、可愛らしい丸葉のユーカリは
「永遠の幸せ」のほかに「思い出」「記憶」「記念」という意味が。
「本当に心の底から愛しておられるのですねえ?
どうするんです?アレだと流石のお兄様でも負けるのでは?」
「あんなの勝てるわけがないでしょう。」
「おやあっさり負けを認められて。」
「マトリカリアやユーカリだけならまだしも、
シザンサスとあの薔薇たちですよ?」
シザンサスそれは、花つきがよく、
花形はふくよかな大輪丸弁でエキゾチックで華やかな花が、
穂になって盛り上がるように咲き、ボリューム感を後押しする
そんな愛嬌のある個性の強い花で、色とりどりの
まるで蝶が舞っているような印象にもみえる。
その花言葉は「貴方と一緒に」
「何時までも一緒に」「良きパートナー」という意味。
加えて綺麗な赤、青、緑、白、黒の五色が咲く薔薇らは。
赤は「貴方を愛しています」「愛情」
青は「夢が叶う」「奇跡」「不可能」
緑は「穏やか」
白は「純潔」「深い尊敬」
黒は「貴方はあくまでも私のもの」という意味があり、
「複数のバラになれば「一期一会」に。」
「そして5本咲いた薔薇は
「貴方に出会えて本当に嬉しい」と、
良くもまぁこれ程までに愛され尽くして
…あの子が羨ましいですねぇ〜?」
「あれで愛されたりないとか言い出したら叩きたいくらいです。」
「おやおや恐ろしいことで。」
『ほらパピ〜!有為ちゃんたちだよ〜???』
「ばっちょ、エフェメラル様?!!?」
えっそうなの!?と言いたそうな顔をする犬に、
メルはうんと笑って答える。
何時の間にリキールから貰ったのだろうか?
抱きしめたメルはウイスの目の前に来ると、
そのままウイスがそっと膝をついたではないか。
『え?う、ウイスさん?』
「ほら、抱かせてくれるのでしょう?」
『あ、や、そう、だけど…毛とか大丈夫?』
「全く問題ありませんよ。それに、余り撫でることも出来ませんでしたし、お礼も。」
『お礼?』
「エフェメラル様を…いえ、貴方のご主人に出会わせて下さり、本当にありがとうございます。」
『ウイスさん……』
「貴方が彼女を見て差し上げなければ、きっと我々は彼女に、このお方に出会うことは無かった。」
存在すらも、綺麗に泡沫の中に消えて。
無くなったままに、なっていたのだから。
「ですので、貴方には感謝してもしきれません。
ましてや抱き上げるなどもってのほか。
ですが、そうして拒絶すれば、貴方の主人は悲しむ。
それを黙って見る貴方ではないでしょう?」
『いやいやまさかそんなわけ』
「そんな訳あると思いますよ?現にとても嬉しそうにしています。」
そう、パピは嬉しそうに目を向けて話を聞いていたのだ。
まるでよくわかったなと言いたそうにしている。
こういう時は本当に賢く話が分かるのだろう。
じっとする時は大抵理解している時なのだ。
「ですので、改めて礼を。出会わせてくれて、ありがとうございます。
貴方の主人は我々が、特にあの方が責任を持ってお預かりしますので。」
「…お久しぶりです。パピ殿。覚えていますかね?」
『あ!尻尾振った〜!』
「っと、嫌そうですね?」
牙を剥いてうぐぐと言う彼に、嫉妬してる〜
きゃーとメルが嬉しそうにパタパタ動く動く。
「嫉妬?」
「嗚呼、どうせその子の匂いがくっついてるんでしょ。
自分の主人を奪われて怒ってるとかじゃないの?」
『ビルス様天才。間違いなくソレ。』
「はっ、こんなものどうってことないよ。」
『じゃあ抱っこは嫌でもぎゅーしよぎゅーー!!』
「う゛〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
「滅茶苦茶怒ってません?!!?」
『はははははは!!!!怒んないで〜〜〜可愛いね〜〜〜!!!』
「う゛゛゛゛〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「滅茶苦茶怒らせるじゃないですか……。」
いや〜〜〜怒るの大好きだから!
酷いですね。ほんとに。
『だって怒るってことは嫌ってことでしょ?
パピは私に怒ったり嫌がることを教えてくれてたんだよ。
私がずっと怒ることも嫌がることも分からなかったから!』
知らない様に、見ない様にしていたから。
だからこの子は、ずっと私に教えてくれた。
怒ってもいい泣いてもいい、叫んでもいい、助けを求めて良い。
嫌がることをし続ければ嫌と言い聞かせる。
でもずっとなんて寂しいから、教えるだけで留めるだけ。
それも無理ならば、どうか、この気持ちは
「持っていてあげた、とでもいうのですか?」
『…うん。パピはとっても賢くて、良い子だから。』
「怒りを哀しみを、分け与えるのではなく、
ただ、見つけてソレをこれ以上酷くしないために?」
そう、其処に在ったから、拾って隠してやっただけ。
前を見なくていい。先を見なくていい。過去も全部いい。
今だけを、この時間瞬間だけを、見つめ続ければいい。
そうして、その暗やみで、耐え抜いて。
何時か芽吹くその光が差し込むその日まで。
ずっとずっと、何度も何度も繰り返したというのに。
彼女はこの子は、どれ程の強さを持っているのだろうか。
「…ちゃんとした形にして、
育てたら本当に化けるかもしれませんねぇ?」
「何まだ弟子つくるつもりなの?」
「いえいえ、そんなに作るつもりなどありませんよ。
ただ、末恐ろしい方だと思いましてねえ?」
本当に、その感情をもし、持っていてあげたとすれば。
それは到底成し得ない程の力を、成し得ていたということ。
一匹の犬が膨大な力を小さくとも隠せる程など、
たかが知れているハズなのに。
何か裏があると、ウイスは少し彼を睨んでしまった。
それに気付いた犬が此方を見るのだ。
流石、本能で動くだけはある、か。