傷はまだ開いている
廻廊一番目で愛していた犬が遊びに来てしまいました。
『ささ、コルン先生だよ〜〜!パピ聞いて!!
先生だよ先生!!!お師匠!!めちゃ強い!!!
えらい!!!!!どちゃくそえらいひと!!!!』
「言っておきますが、
地位的には貴方の方がずっと上ですからね???」
『ままま、そんなこといわずに〜〜ほらほら〜〜』
「あ、ちょ、これ!!
嫌がることをどうしてそうするのですか!!!」
『でもパピは優しい人探知機ですから。』
「生物を物の様に扱わないで下さい!!
どうしてそう乱暴にするのですか!!!!」
「そう言ってしゃがんで割れ物を扱う様に
そっと抱いてやるお兄様も扱い方変わりましたよね〜〜〜。」
「ウイスさんは黙っていてください。」
ソレは失礼。
そう笑って言うウイスに、全くとコルンは
片腕どころか軽く片手で抱きかかえれそうな犬を
リキールの様に軽く抱えてみる。
少しバタバタしつつも、目を合わせすいませんとコルンが言う。
「貴方の主人の頼みです。どうか私に少しだけ身を委ねて貰えませんか?」
『……おお、今回一番の意外。』
「なんです?」
『……そっか。そうだよね〜〜わかる〜〜〜うんうんわかるよ〜〜??』
「だから何だというのですか!!はっきり仰って下さい!!」
『え〜〜〜どうしよ〜〜ねぇパピ言ってもいい?
言ったらだめならうーっていって?』
「う゛゛゛゛〜〜〜」
「言わせているだけではないですか!!!」
そう言ってメルは犬に抱き着くと、嫌がる音を出す。
明らかに故意的であることをコルンが指摘する。
『えへへ〜〜』
「全くもう…」
『この子ね、色んな子に抱かせてもらえたんだ。
小さな子供からお年寄りまで。それでも顔とかじゃない。
心の方をとてもよく見てくれる良い子だったから。』
「…この子がですか?」
『うん。安心してる。嬉しそうに。
いいでしょ?もう、安心できるでしょ?
私ね?この人に教えて貰ってるし、
此処に居る人達以外にも沢山いるんだよ。』
そう、だから、だからね?もう大丈夫なの。
『もう、みなくて、いいんだよ。
寂しくても、泣いてても、もう、生きれちゃうから。』
「…エフェメラル様…」
『ありがとうね?一緒に居てくれて。また会えて嬉しいよ。
パピいいでしょ?ねぇ、此処。とても居心地よくて、怖いんだ。』
貴方のことを、ふと忘れるの。
『貴方が好きなのに、好きだったになって、貴方を忘れて。
大事なのに、沢山教えてくれたのに。笑って居たのに。
ごめんね、怖くなって、呼んじゃって。ごめん。ごめんね?』
「…忘れても、きっと貴方の元に来ると思いますよ?」
『っ、え?』
「主人がこんなにも自分の事を想ってくれるのです。
そりゃあ寂しくなって会いにもくるというものでしょう。」
その光がみえたら、尚更傍に居てやりたいと思うだろう。
「ですが、主人の仰ることは正しいですよ?
貴方は少々来てはいけない所に来ています。
片道切符で消滅するのを望んできた…なんて言えばこの子はどう哀しむか、分かっておいでで?」
『……え?』
「本来居てはいけないものですから。向こうに返せれなければもう…」
『っそんな!!!やだ、じゃあ此処で飼う!!ずっといる!!!』
「エフェメラル様、流石にそれは許されないのです。」
コルンから犬を奪う様に抱き上げて距離を取るメル。
警戒する彼女に、犬はバタバタ暴れている。
『やだ。良い子で居たのに、そんな末路なんて。』
「ですが決まりは決まりです。さ、おとなしく渡して下さい。」
『やだ。絶対に。ヤダ。』
「…余り手荒なことはしたくないのです。私に勝てるとでも?」
『勝てる。』
「ほぉ?」
『っ、』
睨むコルンに、メルは言いきった。絶対に勝てない。
でも、勝てると言わないといけないから。言ったのだ。
思いっきり見栄を張ったのは分かっている。
でも、これだけは譲れない。
『ずっと居てまた離れて最期は消えて居なくなる?
良い子に居たのに、優しく出来たのに、違うことに?
同じ様になるならまだしも、先が消えるなんて。私そんなの嫌だ。』
「甘ったれた考えは止しなさい。
貴方も下界の人間と暮らしていればすぐにわかる。
此方側と向こう側では時の流れが違うのです。」
『だとしても、私はこの子を送り届ける。』
「なりません。此方に来てしまえば、
向こうに戻るとしても時間の流れが明らかに違います。」
もう此方で処理をしなければならないのです。
そう言うコルンが前に出ると、メルは一歩下がる。
『やだ。いくらなんでも。やだ。』
「…はぁ、お兄様」
「構いませんよ。」
やっても。そう言う彼に、メルの真正面が暗くなる。
驚いても身体は本能は分かっているのだ。
「よくあの距離から飛びましたね。褒めてあげましょう。」
『…ねぇ、パピ。おりこに居てね。』
そっと下して、軽く抱きしめる。まるで、人がハグをするように。
肩に頭を回して、背中を手で受け止めるように。
人と人が抱き合うように。対等に、言うのだ。
『大丈夫。君が君で居る限り、私は私で居られるから。』
「…覚悟が決まったようですね。」
『まぁね』
「…お兄様に触れられたらメルの勝ち。それでどうです?」
『ぶったたくで。』
「ほぉ?この私に触れるどころか叩く、とでも?」
『優しいあの子の命運がかかるなら、なんでもする。』
命なんて軽いものだ。ギッと睨むメルに、構いませんとコルンは答えた。
「時間制限はなし。どちらかが降参又はメルがコルンさんを叩けば勝敗を。
審判はこの私、サワアが請け負うことに致しましょう。」
「何かはじまったねぇ〜ウイス」
「ええ。なんです?」
「あの子、勝てる?」
「無理に決まっていますよ。彼女は私や
マルカリータさんですら掴めていないんですよ?」
一度も触れれていないというのに、叩くなんて
そんな雲をつかむ様なことを良く言ったものだ。
威勢だけでも良いと言っていいくらい。
それに、メルの状態は余り宜しくない。
前の様に金色の草花を咲かせる等という行為は
模倣した者達一人を作る数倍の力を注ぐこと。
今出来る判断は走って彼を隅に追いやるしかないはず。
なのにあの決まりきった良い様、それにその咲いた華の名前。
青いバラは不可能と同時に奇跡の意味を持つもの。
そんなまさか、ねぇ?
「はじめ」
その言葉で一気にメルが駆け足で近づく。
トントンと途中地を突きながら後ろに下がるコルンに
笑うことなくひたすらその視線を視界から逃さない。
「っほお?威勢は充分ということですか。笑わないのですか?」
『』
「成程、話す暇も余裕もないと」
『あ?ふざけんな。今話す意味が何処にある。』
なんにもない。
『ただお前の身体を殴る。それだけのこと。』
「…ほんと、何時もそうやってして頂ければ」
こっちも手を変えるというもの!!
そう言って杖を振り下ろすコルンに避けたメルの身体が曲がる。
そのまま杖に当たって身体が宙に飛ばされた中、
痛みが回復するのを実感する。
このエリアは自分が作った力の中。
それ即ちこの周りはある意味削られたら回復する
いわば漬け込み状態になっているのだ。
少なくなれば補充される。
怖いから笑うのだ。だから、怖くなんてない。
彼は此処に居る。傍に居てくれる。
容赦など、しなくて無用。
「っと、危ないですねえ」
『』
「怖い顔をして、怯えられても知りませんよ?」
『怯えない。絶対に。決して。』
「ほお、それ程、覚悟が決まっていると。」
ですが、掟は掟。
「たとえ貴方でも、破るのは許されない。」
『だとしても』
足掻くくらいはさせてもらえるならしてやろうと思う者。
メルは背後に回って蹴り上げようとして避けらたので
『チッよけんなよ』
「本当に躾しなおしましょうか。」
『こんな叩いて壊れて狂った奴を躾しなおせる?戻せない癖に』
「…そうですね。」
貴方は自分で痛めつけ、快楽も慣らしてしまう方ですし。
誘導しても悲惨な状態でも何処に行っても何をしても
変わらず元に戻っていってしまいましょう。
無意味、無益、無駄。それがメルの成すその位置。
力等押し通すのではない、とにかく消して消して一つに絞り切る。
「そちらから来なければこっちが降参を叩くまでのこと。」
『っ!!!』
「甘い」
『ぐ』
「体格差が倍程あるのです。貴方が詰める前からこっちは動きを封じれます。
さて、どうします?降参したくなる程の痛みが出ている筈ですが…。」
『し、ない!!』
「死にたいので?」
『死ねるわけがない。』
それに、頑張っているのは私ではないのだ。
『ほんと、強くなって。私凄く今、嬉しいんだから!!』
「っと」
『ねぇ!!パピ!!!貴方、喧嘩すっっごい嫌いだったし、間に入って止めてたよね!!!』
「っなにを、いっ…!?」
『でもしない。それはコレが大事なことだってわかったから。そうでしょ!?!?』
コルンの顔真正面に切りかかって来たメルの攻撃をすぐに杖で止めた。
その反応の遅さに、自分でも意外で驚いている中、メルは犬に向かって言うのだ。
其処に居てくれて待ってくれてありがとうと。
こっちのことなど、見向きもしないように。
圧倒的な差があるというのに。
何処からそんな自信がわいてくるのか。
「飛び出た杭は打たれるもの。」
『なら杭を移動出来れば打たれない。』
「は?」
『ね。今、何が起きてる?』
杖で振り下ろそう、いや振り下ろしたハズ。
なのにその杖の上に、彼女は乗ってしゃがみ、こっちを見ているのだ。
笑わずに、ただ、じっとじっと、目を見続ける。
動いた瞬間杖を落しその身体を腕で受け止める。
跳んで叩いてくるその空中に華が咲いては足になる。
其処を切ろうとするコルンに対しメルは更に加えて動きを変える。
『嗚呼そうか、こんなかんじか。』
「なにをしても同じこと。」
『心拍数上昇、80、100、120。』
「…次は何をしようと?」
『心拍数固定します。設定指数110を維持して下さい。
24の感情を一時シャットダウンします。制限時間3分間。
構えて。堪え、憂い嘆き、その鼓動を明け渡します。』
「そうはさせっ?!!?」
「なっ、避けた?!?!」
『攻撃対象者検知人数1名、標的名第8宇宙天使コルン。
明け渡す者の名を対象を固定してください。
固定対象、パピ。身体の異常を察知しました。回復します。』
急に機械的な会話になったのに、違和感を感じたコルンが
そうはさせないとメルに近づいて意識を飛ばそうとするも
避けて避けて避けまくるのだ。
『腕にダメージを負いました。回復完了。
標的固定完了。心拍数固定完了。対象固定完了。』
「っ、攻撃しないのですか、ならば」
『最後に問います。本当に構いませんか?』
空に飛び、メルは言うのだ。自分に向かって。コルンを見たまま。
『…はい。感情の一時シャットダウンを行ってください。
…畏まりました。三分間、華樹神並びに人間であった彼女
エフェメラルは一時的に機能を停止します。天使コルンよ。』
「…なんです?」
『耐えて下さい。死なない様に。』
斬ります。そう言ったメルが両手を叩いてそのまま胸に衝撃を入れて身体を飛ばしたではないか。
自分で自分にダメージをと思って見ていたが、
すぐにサワアが声を上げた。
「コルンさん避けなさい!!」
「っ!!!」
『』
倒れていた女性はいない。背後に圧を感じさせる前に攻撃をかけてきたのだ。
前に出て一時的に距離を取ろうとした時。
下からぎょろりと青い眼が目を合わせてきたのだ。
「っな!?!?!?んですかそのっ!!」
「…まずいですね。」
「加勢しますか?」
「まだ様子見ですが、二分堪えて貰いましょう。」
「…分かりました。」
「え、何待ってアレ普通に今から行くほうが良くないの?」
「というかアレ本当にメル?」
「違うようでそうでしょうね。」
「身勝手の極意を真似た模倣ですか。
言葉で操作し、線を敢えて引き戻れるように設定。
…いや良く考えましたね。」
動きに無駄が一切ない。ただじっとコルンの目を姿を見つけては動く。
その重さ、圧に、翻弄されつつも身勝手の極意を発動し、危機を辛うじて回避する。
感情を一度綺麗に封じたのだろう。
煽っても今は何一つ聞こえないだろう。
集中力が異常に跳ね上がっているのだ。
まえにアニュラスが言っていた。
時間を忘れてしまえばこいつは何処までも走る。
だから時間を知って区切ってしまえばどれ程楽か。
どれ程大事かということを知ったと。
メルは今、自分で自分の時間を切っているのだ。
スイッチを切る様に簡単に出来ないように、
ああいうふうに言葉で固定し、自分らしさを消し去って。
それ程まで、彼女は真剣に彼を守ろうと決意を固めたというのか。
「押されてますね」
「明らかね」
避けるのも今精一杯、何なら同格それ以上になりつつある。
『感情の乱れを検知しました。修行を疎かにしていますね?』
「っそうおもうなら、そうでしょうがっ、私は本気で挑まないので。」
『本気でなくて構いません。私は本気でなんてしませんから。』
「っその威力でですか?随分と感情の無い言い方ですねえ!貴方らしくもない。」
『私は私であり私ではありません。貴方は知らないでいいもの。』
「知らないでいいのではなく、知って欲しくないの間違いではっ!!!」
攻撃を入れても何一つ驚かない。ただ目は開いたまま。
ぎょろりと大きな目が動くだけで、本当に言葉の波が一切ないのだ。
『知れるなら知りなさい。境地を見て絶望するのが良いならば。』
「っならそうしましょうか、ねっ!!」
『遅い。感情の乱れを検知しました。』
「貴方何処まで力を抑えているので?」
『わかりません。お答えできません。』
「では言い方を変えましょう。威力を上げれば狂うから抑えているのでは?」
『お答えできません。』
「図星ですか。それは身勝手ではない。」
身勝手は、こうやって動くもの。
そう言ってコルンはメルの動きを搔い潜って腹に一発痛みを入れる。
『っぐほっ!!!』
「すいません、眠っててください。」
『っ、く……』
「コルンさん」
「手荒でしたが、お許しを。」
「いや良く隙を促し捕らえましたね。お見事ですよ。」
「それにしてもアレは一体…」
「狂ってしまいそうになってるだけだよ。」
「はぁ……ん?」
ん?と周りが彼の方を向く。
犬が、先程まで待っていた犬が
「わあああああしゃべったあああああああああ!??!?!?」
「煩い。僕は君らに説明出来る程良く言えないんだ。
これでもあの白い悪魔みたいな天使に言われてるからね。」
「しろっ…まさかアニュラス様の事を仰られているのですか?」
「嗚呼そんな名前だったかもね。この子が意識失うまで見ていたけど、
それにしても僕と追いかけっこをしていた餓鬼とは思えない程に早くなってまぁ。」
「が、がきって、貴方ね……」
「この子と僕の言葉が酷いのは親と環境のせいだから許して欲しい。」
嗚呼やはりそうだったのか。
そうコルンやサワアが少し項垂れるのを見つつ、
パピと呼ばれた子がその場に座り込む。
「それにしても狂い咲きもギリギリだね。目が青くて髪も白くなってただろう?」
「えっ、ええ、それが、何か?」
「この子の最終地点が青色という印だよ。」
「ですが、いつもは金色なのでは?」
「それは前の代が金色だったから。力を借りている状態だっただけのこと。」
「つまり先程の力は己が作り出した、ということで?」
「そういうこと。僕は落ち着かせるためにも駆り出されたみたいなものだよ」
まぁ、その子が言っている様に逃げ出したというのも
強ち間違ってはいなかったんだけれども。
「流石にこの子以外の子供の面倒をもう一度なんて、
ちょっと堪えるからねぇ。」
「嗚呼そういう…」
「この世界に来ると引き換えに、向こうには戻れない。
その代わり、この子の面倒を見るということで
向こう側の予定を白紙にさせて貰ってきているんだ。」
「だからアニュラス様や大神官様らも来られないのですか。」
どうやら彼が先に予定を付けてきてくれていたらしい。
こういうところは親が良くメルに言い聞かせていたから
そこで学んだとのこと。いや良く教育が行き届いている。
「どうせ僕もあいつも居ない所でのんびりしすぎて
調子に乗って馬鹿なことしてこうなってるんだろうし。」
「…犬にまで分かられてるこの子って一体。」
「言わないで上げて下さい、ビルス様。」
「まぁ僕のことは気軽にパピでもなんでもいい。
その代わりこの子には僕が喋れることを言わないで欲しい。」
「何故ですか?」
「僕はこの子と喋れるようになってはいけないのだから。」
「…どうやら何か訳アリのようですね。
分かりました、我々一同お約束いたしましょう。」
「ちょっとの間だけどね。居候させてもらうことにしよう。」
そうにやりと笑うパピヨンことパピが、この地に参加することになったのだ。