今日はえいえんの最初の日
前回のあらすじ
エーリンことエリン様がメルに千年の眠りを告げた。
「…どうですか?」
「いまはそっとしておいておきましょう。」
かなり落ち込んでいるのも無理はない。
理自らが告げてきたのだ。
メルはあれから部屋の中に籠り、
自室のベットで横になって目を閉じていた。
それを見てサワアはそっとしておくべきだと判断し、
先程まで居たコルンやモヒイト、
ヴァドスらと食卓前のソファーに腰を下ろしていた。
「本当にあっという間でしたね。
またヘレス様にお小言を言われにいかねばならないとは。」
「…お兄様、」
「別に長い時間が続くだけですよ。ただの夢。……そうでしょう?」
ぎょろりと出るその眼に、そうですねとしか言いようがない。
メルの様に、全てを悟ったみたいな目をされては、何も言えない。
なにも、言えなくなってしまう。息が詰まる。息が詰まる思いだ。
メルが言っていた通りになった。
ーどうせ願いなんて叶わない。
永遠なんて、在り得ない。
その通り。彼女は遅かれ早かれ眠りにつく。
その理が選んだこの地で、深い眠りにつくのだ。
旅に行く前に、千年の縛りからも解かれないまま。
彼女はその身をゆっくりと眠りにつく。
その前に、沢山の想い出を作ってやってしまおう。
夢にも出てしまえるくらいに、沢山たくさん。
「せめて一年。ですね。」
「…え?」
「そうですね。ほぼ毎日の様に出てきてしまいましょう。」
「一年程であれば大神官様もお許しになられるでしょうし。」
「…え?え?ちょ、み、皆さん?貴方達一体なにを。」
「わかりませんか?あの子の夢にも出るくらいに関わろうという話ですよ。」
「なんでしたら、次の理に参加できる程に濃く植え付けてしまえばいいことでしょう?」
本当に悪魔ではないのだろうか。
華樹神の願いは絶対に叶うことはない。
でも彼女は言い切ったのだ。
皆と一緒に。いつまでも、花冠を。
其処迄して、どうしてその願いを出すのだろうか?
「それにしても驚きましたね。まさか次の理になる予定だっただけとは。」
「本当ですね。とりあえず千年ですが、その後はどうなるのでしょうかね?」
「わかりませんが、とりあえずこのまま様子を見るのは許されるでしょうね。」
なんなら任されたくらいだ。
引き続き彼女の世話をよろしくとまで言われたのだから。
それにこの家にもサラッと皆入っているが、
此処に来るのも大歓迎と彼女も言ってくれた。
まぁなんとフレンドリーな理様だろうかと思うが、
その腹は全く察知することが出来ない。
大神官様ですら出来なさそうな顔色をしていたのだ。
「なんだかとんでもない話になりましたねぇ〜〜」
「全くですね。全王様の上がおられるとは思ってもいませんでしたし。」
「まぁ話す必要性もないでしょうから、我々が知らないのも無理はないでしょう。」
そもそも華樹神がいなかったのだから。
理が引っ付いているのは華樹神の方。
なので必然的に華樹神が居なくなれば
理も手を出さなくなる。
そうしたら一見世界の終わりかと思われるが、
どうやらそこら辺は違うらしくてだな。
「まさか天使に種を植え付け、
次の華樹神に仕立てようなんて
よくもまぁそんな恐ろしいことを
考え付きましたよね。」
「…まさかエフェメラル様、それに気付いて?」
「妥当でしょうねえ。」
「お兄様!」
ほらお茶。ありがとうございます。
そう彼女らに茶を渡すサワアに、コルンが話を続ける。
「お兄様はお気づきになられていたのですか?」
「まぁ、呼ばれたと言いますか、なんといいますか。」
「呼ばれた?」
「果実をちょっとだけ齧る前にですが、呼ばれたんですよ。」
ー大事な者が居なくなるなら食べておいで。帰っておいで。
「今思えば洗脳の一種でしょうね。
幼かったので解く術も知らず
ついつい罠にはまってしまいましたが。」
「そんな言葉が…」
「今だとそんなもの通用しませんけどね。」
あんな幻など、かかってたまるものか。
「お兄様は天使に戻られるのですか?」
「まぁそうですね。とりあえず人間に
片足突っ込んだ状態ではありますが、
一時的に元に戻すそうです。」
「片足って…まぁ、言い方はどうとしても、そうですよね。」
流石に他の者に彼女を任せる訳にはいかない。
ヘレスは割と我儘だし、融通が利かない者なのだ。
まぁ下界の人間がうろちょろ入ってくるのが少々気になるところ。
この天使が居ない時期に何をしているか分からないのだ。
一応策を講じてはいるものの、それが効くとは限らない。
一番厄介なのは自分らをすり抜けて
メルに攻撃を仕掛けてくる者がいるかもしれないという処。
「この場所を彼女が望んで生活しているのでマシですが、
トンネルを抜けた元の場所に一人で放置するのはよろしくない。」
「それは同感ですね。此方側は知る人ぞ知るという位置。」
「コルンお兄様が連れてこられた者は?」
「あんなの消滅させましたよ。」
「まぁ妥当ですますわね。」
どちみち殺す予定の人間だったらしい。
かなりの大罪を犯しても、
あの寂しげな顔をしていたのは理由があった。
「メル様のお姿が彼の妹にそっくりだったようでしてね。
夢幻を見させてくれてありがとうと礼迄言われましたよ。」
「成程、大罪を犯そうとも、元は変えられない。と。」
「全く、魔を浄化する者とは、とてもではありませんが
下界に降ろすなんて考えたくもありませんね。」
それでも、彼女は望んでいるのだろう。
何度も遊んで、そうして此処に帰ると。
まぁ帰る場所が決まってくれただけでも
嬉しいと思った方がいいのかもしれない。
「ひとまず役割を決めておきましょうか。」
「そうですね、その方が後々助かります。」
「では、基本的に私とコルンさんが
彼女の面倒を引き続き見たいと思っています。
コルンさんは彼女のご指導ご鞭撻のほど
よろしくお願いしますね。」
「わかりました。」
ニコリと微笑むコルンに、サワアはこくりと頷いて前を向く。
「コルンさん、後で構いませんので皆さんに
彼女に掛けた杖の仕組みを教えて貰っていても?」
「杖の仕組み…嗚呼、名を呼べば反応するようにと仕組んだヤツですか?」
「なんてものを作ってるんですますの……」
「一応承諾は得ていますよ?」
そう言う問題ではないのだが、いや過保護を越えた何かだと思った方が良い。
気にしたら負けだろう。彼の性格上、やるところはとことんまで、だ。
「どのような仕組みで?」
「至って簡単ですよ。彼女の頭に杖をかざして危険信号と繋げておくだけです。」
「負荷は?」
「かからない様にしています。メル様の調子が宜しい時にでもした方がいいでしょうし。」
「ではその手筈で。私らのサポート役として、
マルカリータさんそしてコニックさんに
主には組手指導や手が離せない時など
お願いしたいと思っています。」
「わかりました。」
勿論他の天使らもだが、こうやって決めておけば連絡のしやすさもある。
「ウイスさんとモヒイトさんは何かあれば動ける様に移動としてサポートを。」
「わかりました。」
「アワモさんとマティーヌさんは別世界の方と交流して頂ければと思っています。」
「ほぉ、別世界、つまりあのBとCとやらの?」
「ええ。一応全王様からの承諾も頂いておりますので。」
それはつまり、絶対命令というもの。
わかりましたという二人にサワアは頷いた。
Aの統括はサワアが執り行うとのこと。
「カンパーリさん、クカテルさん、ヴァドスさんそしてクスお姉様は今まで通りで構いません。
もし何か不都合が生じれば此方からお願いしに行くと思います。」
「わかりました。」
「それでは。千年の眠りに入るまで、よろしくお願いします。」
+++++++++++
そうして次の日。
『んみゅうあう』
「これで構いませんか?」
「ええ。」
『あっ分かった!!!!バケツリレーだこれ!!!!』
「何変なこと叫んでるんですか。」
杖をかざされて数分。
メルは寝て起きて何とか精神が落ち着いたと思っていたら
まさかのブルンブルンに揺らされることになるとは思っていなかった。
どうも皆さんおはようございます。
エフェメラルです。一応。うん。
名前が変わるのは、仕方がないと泣きたい。
現在昨日執り行われた会合の後、
エーリンことエリン様が私を引き継ぎ対象として正式に認め、
互いに承諾をしあったのち、とりあえず時期が早過ぎるので
千年程眠ってその罰を外してから動こうという流れだ。
その前に何か危険が起きたら困るので、
引き続き天使が面倒を見てくれるのはまだいい。
いやまだいいんだが。
『私これ悟空とかベジータの名前出したらどうなるん????』
「その点に関しましてはご安心を。
そうなれば私の方に連絡がいくと思いますよ〜」
嗚呼そりゃあ星的にはウイスさんの方か。
成程コルン様も考えたな???天才か。
「なんだか貶されている様な気がしますが…まぁいいでしょう。」
逆なんだがなぁ〜〜〜おっかしいなぁ〜〜〜〜
「嗚呼そうそう、この後皆さんご予定は?」
「一応一日程開けていますが」
「空いている方だけで構いませんので、此方に残って頂きたいと思っています。」
『え、組手?組手するの???』
「今回は逆ですよ、エフェメラル様。」
そう、残った天使はというとだな。
指導するコルンをはじめ、ウイス、モヒイト、マルカリータ
コニック、クカテル、クス、ヴァドスの8名だ。
サワアは暫く空ける為、マルカリータが見に来てくれるとか。
わぁい。女の子といちゃいちゃだあ!!!!
「エフェメラル様」
『はぁい』
「貴方は廻廊に入られてから助けを求めたことは?」
『ん〜それは救って欲しいと手を伸ばす行為そのものも?』
「勿論含めてです。」
『かき消した!!!』
「かっ!?!?」
「…やはりそうですか。」
少し悩むコルンに、それがどうかしたとメルが言って自分で気付く。
『あっそうか。助けを求める以前に危険信号が働かない可能性が出てくるのか。』
「その通りです。流石にそれでは元も子もありませんからね。
というわけで、本日行うのは貴方が助けを求めれるかどうか。」
『……せっかく頑張ったのに?』
「ええ、せっかく頑張ったのにです。
…もう頑張らずともいいのですから。」
『ええ〜〜〜』
「なんです?我々に身を委ねたくないとでも?」
いやそういう訳ではないが、そういう訳になるのか?
『どうせ人なんぞ自分ですら助けないのに助けれる訳もないなって。』
「そういう処を叩き直そうという訳ではないんですがね。
どれ程で信号が送られるかも見届けたいという処です。」
「嗚呼だから良く面倒をみている者達でのことですか?」
「ええ。守る側と攻撃側の二組を作ってもらえると。」
私がかい。当たり前でしょう。
「私が組んでもいいならしますが、厳しくいきますよ?」
『……嫌な予感しかないんだが。』
「どれ程か不明確なんです。適当に組んでも貴方どうせ反応しませんし。」
そりゃそうだろうけどもよ。
『1、1?』
「出来ればソレが良いでしょうが、場合によりけりです。」
『…ちなみに私が決めないと?』
「いう訳ないでしょう。それ程悩むなら決めますよ?」
『…うう、仕方がないからお願いします。』
ぺこりとお辞儀をしたメルに、分かりましたとコルンは告げた。
「では守る側を…そうですね、ウイスさんとモヒイトさん。
攻撃側はクスお姉様とマルカリータさんで。」
『え゛』
「わかりました。ルールはどうなさいます?」
「そうですね、砂時計の砂が落ちきるまでに攻撃側はメル様を確保。
守備側はメル様を守り続けること。
メル様はその間に誰でも構いませんので助けを求めて下さい。」
『う゛…わ、かり、まし、た。』
正直このルール。非常に苦手部類である。
というのも、メルはかなりの年月人に助けを求めることをしてこなかった。
いや、正確には出来なかったのだ。しても無意味であるし、したところで良い結末になど向かなかった。
ならば消し去る、見ないふりをする。知らない。それに越した良いものは無かったから。
だから無視し続けてきたというのだ。華などそうすれば咲くこともない。
目を向けなければ咲くことすら知らないのだから。
だというのに、このルール。かなり面倒。
「はじめ」
その合図でメルの身体をモヒイトが抱き上げ、とにかく距離を取り出した。
ウイスは攻撃側に動き、クスらの相手を一人で行っている。
駄目だ、流石に分が悪い。動こうとするメルにモヒイトが告げる。
「駄目です。貴方が戦闘に加わることは出来ません。」
『っなんで!!』
「先程ルールを説明されたでしょう?今回は貴方が助けを求める側。
戦闘行動は禁止とされているハズです。」
『っそんな!!!』
ばっとコルンの方を向くと、
それを聞いていたコルンが首を縦にゆっくりとふる。
不味い、それだけは不味いのだ。
今まで救いの手を差し出していなかったのは、主に二つの理由。
ひとつは願いの変化が起きる可能性の考慮だ。
華が変われば死に直結する。今は不安定だからまだしも、通常で覚えると危険極まりない行為なのだ。
それ故自分で何とかしようと思考回路を書き換え続けてきていた。
もう一つは救われなかった時の対処、及び救われた時の場合による反応が難しいから。
要は教科書通りのシナリオを作って対策をすればまだいいのだが、
本番だとそんなシナリオ通りなんて上手くいくわけもない。
だから攻撃されたり逃げる時の行動パターンは多種類に及び作っている。
しかし、こうやって実践形式で、尚且つ二人一組で組んでの動きはしていなかった。
ましてや、自分が攻撃をしてはいけないというものもだ。
金の首輪をつけられたと仮定しての行動でもあるというらしいのだが、
いやだとしても、幾ら何でも分が悪すぎる。
動くメルに、動かないで下さいとモヒイトが暴れるメルを固定していた。
「っと!!!」
「あら、隙をと思ったのに。」
『ひ』
「よそ見は厳禁ですよ?お姉様」
「あら、失礼。」
ブンと出てきたクスにひぃっとメルは声を出した。
かろうじて避けてくれたモヒイトさんには感謝しかない。
嗚呼そうか、誰も居ない時ならまだしも、相手している時に誰かに知らせるなんて出来るのか。
否出来ない。安心しきっているのだ。この腕なら大丈夫だと考えている。
変えなくて良い、寧ろ切り替えた方が良い。
『…歯車を変えるみたいに?』
「…メル様?」
がちゃんと、切り替えたらいい。戦闘をしない、あの人間で。
誰だ、誰が良い?誰だとわかる?
「切り替えたら話になりませんよ?」
「っ」
「守りながらは厳しいですか?モヒイトさん」
「いえいえ、これしきで根を上げる訳にもねっ!!」
ブンとふるった杖に氷解が彼女らに向く。
ぴっと切れた腕の血に、メルの顔が変わる。
『やめて』
「メルさま?」
その時だった、ポーンポーンとコルンの杖から音が鳴り響く。
その音が徐々に雑音を交えて変化していくのを聞いてメルの方を向いた。
クスの身体が傷付いた時、その血を見てメルが身体を縮こませて叫んだのだ。
小さく、やめて。と、悲鳴を上げただけで音が変わる。
自分に対して言ったのだろうが、違う通信音に反応する。
「…わかりました。ありがとうございます。」
先にサワアの元へ連絡が入っていたらしい。続けて音が鳴るだろうが、堪えて欲しいと連絡したのち彼女の方を見る。
攻撃を続けるウイスに、守り続けるモヒイトが入れ替わる時。
『っあ!!』
「おねがいします」
「わかりました」
ぱっとメルの身体を渡したモヒイトに、
ウイスは俵を抱える様に腕にメルをう抱いて移動する。
うう、動きが早過ぎてめまいがする。
自分で動くならいいが、人が相手だと判断が遅れてそのズレで酔いが出てくるのだろう。
船酔いとかが一番近いだろう。この上下左右をゆられて身体も何もかもがごちゃごちゃになる。
駄目だ、誰かに助けを求めないと。
でも助けが来なければ?
来ても無意味なら、自分ですべきなのでは?
違う、これは違う。
天使と天使が喧嘩している訳ではない。
これはルール。怒ってない。
なのに雑音と共に戻される。
闘ったその血に光る、感情。
ギラギラと燃える目に映る、ギラギラした顔。
それが自分だと、思いたくなくて。
相手を傷つけている、時間だと知りたくなくて。
「止めて下さい。」
息切れもなく、ぱっと戻る彼等に、メルはそっと地面に降ろされる。
大丈夫ですか?と言われるまま、ぐらりと地面に横たわりそうになったのをウイスがそっと受け止めた。
「おやおや、酔っちゃいましたか。」
ううん、大丈夫というメルはそのまま横になっていいですとコルンに言われ、お言葉に甘えて草原の中に横たわる。
「ウイスさんだけでなく我々天使らも
正直申し上げますとこうして組んで
動くことをしたことがありませんが、
良い訓練になりそうですね。」
「ええ、自分の悪い所から良い所からわかりますねぇ〜〜。」
「ウイスさんは右の重心が多すぎます。
隙を誘導するとしても、もう少し煽るか
抑えるかどちらかにして下さい。」
「わかりました。」
「モヒイトさんはメル様を庇いすぎです。攻撃をして近づけさせないのは良いですが、もう少し周りを見て下さい。」
「わかりました。」
気を付けますという彼に、メルは見向きも出来ない。
ごめんねすらも言えないのが、ただただつらい。
「マルカリータさんの動きは良いでしょう。
ただ相手を決めて動くのはよろしくありません。
もう少し判断する場所を考えて下さい。」
「気を付けるですますわ。」
「クスお姉様は、怖いのですか?」
「え?」
「メル様に近づいた時、一瞬ですが気の迷いを察知しました。」
「私もです。その為少し緩んでしまいました。」
そう答えたのはモヒイトだ。確かにあの瞬間腕の力が緩んだ気がする。
「…流石に隠しきれませんか。そうですね、怖かったですよ?
まるであの日のあの時みたいで、ね?」
『…お、ねぇ、ちゃ』
「大昔、メルの目の前で、サワアさんと
血を流して喧嘩した時がありましてね。」
「…何をしでかしたんですか。」
彼が怒りで戦うなんて聞いたことも見たこともない。
そうドン引きするモヒイトやコルンに、ほんの少しですとクスは苦笑いした。
「別に天使は傷付いても死にはしない。
人の持つ喧嘩とやらをしてみたかった
好奇心というのもありました。」
まぁその分トラウマになってしまったのが痛いですが。
「メルが女性に対して攻撃しないのはソレもあるんでしょう?」
『……うん。クスお姉ちゃんが血を出した時、凄く怖かった。』
久しぶりに胸がさっと冷え切ったと思う。
あの時のブザー音は、多分暫く忘れられない。
踏切音に深く低いノイズ音が混じった様な感じ。
カンカンと鳴り響く音が、少し変化した様なもの。
「最初サワアお兄様に助けを求めましたね?その次は?」
『…確かコルン様だったはず。でもそれ一度きり。』
「なら猶更よろしくありませんね。何度も助けを求める機会は幾らでもあったはず。」
血を見てすぐに出たソレだけ。
まぁ一度だけでも良いはいいが、余り宜しくはない。
「攻撃され、後がない状況に陥らないと
助けを求めないのはまずいですよ。」
「そうですね。これがクスお姉様だったからよかったですが、
これがもし私やウイスさんだとすれば、貴方はどうするつもりだったので?」
『…それは。』
助けを求めなかった。恐らくこれが正解だろう。
相手を無意識下で判断して行動するように植え付けているのだ。
そうそう離れるものじゃない。加えてこの吐き気。
『先生これ一度だけで許して下さい…』
「駄目にきまっているでしょう。今日は何度もしますよ。」
『おにぃ』
「貴方が我々に助けを求めるまでします。」
『ううう、おにぃ〜〜!!!』
「反省会の間ずっと悲鳴を上げているのも分かっていますから。」
ましてや此処は彼女が樹を生やしていない黄金の中。
メルの思考回路は彼らに筒抜けであるのだ。
怖い感情やら、昔に起きたその情景まで。
事細かに鮮明に、繰り返されるその状態。
サワアが飛ばされて血まみれになった時も
クスが殴られたり蹴られて斬られたその血も。
メルの開いた口から、出てきた様に一瞬映像が流れた。
その情景が、彼女を一番苦しめているとは、
クスだけでなく、此処に居ないサワアも思っていなかったことだろう。
「そのブザー音はお兄様が付けたものですか?」
「いえ、音自体は彼女の感情に反応します。」
「つまり、酷く嫌だった音だと?」
『…いや、現実に起きている状態全てを拒絶した感じに近い、かな。』
起き上がるメルに、大丈夫ですか?と声を掛けるウイスにこくりと笑って答え、ゆっくりと身体を起こし立ち上がった。
『その場に起きた情景を拒絶。認めない、現実ではない夢ならいい。
自分で動けないなど存在しない。許さない。そんな意志が強いかな。』
「ならどうします?」
『これを反動にして助けを求める様に方向を一つ向けるのがベストかな。
今更全部書き直す方が面倒というか、後で支障が出そうだからね。』
「ならその方向で行きましょうか。もう一度行っても?」
『構わない。』
では定位置にというコルンに、メルは歩きながらそうだなあとぼやく。
『やっぱ拒むか。まいったなぁ〜』
「エフェメラル様…」
『ごめんね、二人の事が嫌いとかじゃないからね?』
「ええ、充分に存じあげておりますよ。
寧ろ我々を信頼して助けを求めないということもね。」
『え?』
「貴方は本当にお優しいお方なのですね。」
ニコリと微笑むウイスに、メルは首を傾げる。
さぁとウイスが言ってメルを抱き上げた。
「交代、致しましょう?」
「ええ。」
はじめの合図で、彼らが動く。