私は懐かしい夢を見る
夕食を食べ終わった頃。
『へーーーーれすちゃあああああ』
「なんじゃ」
『おーーーふろはいろ!!!』
「ほう?お主からとは気前がいいではないか。」
『男全員終わらせてからな?』
「女が先じゃろうに、何故じゃ。」
いやまぁ後で教えるから。
そう言うメルに、ふむならいいかと答えるヘレス。
彼女の前だと何故か落ち着いているのはあれか。
「こうしてみると本当に姉妹の様にみえますね。」
「ん?メルとか?」
「ええ。ヘレス様が姉の様にみえますね。」
『へへ〜〜!!いいでしょ!!僕のお姉ちゃん!!!』
「あーーーはいはい。羨ましいですねーーーー。」
『ああ!!適当に返事してる!!ねぇ〜〜ヘレスう!!!』
「おうおう、こ〜〜んな可愛い妹を持てて、わらわは嬉しいのお?」
『あっ、あれ?へれっひあ!!!』
「…ヘレス様。余り馴れ馴れしく触らないで貰っても構いませんか?
貴方の者ではないのですから。」
「ほーーー?なら誰のものだというのか?
適当に扱うお前になんぞくれるものなどないわ。」
本当に最近言い方が失礼ですね貴方。
そう言うサワアに、漫画なら怒りマークがみえなくもない。
なんじゃと喧嘩が勃発し始めた所で
メルはそっと抜け出してリキールの隣にちょこんと座り込む。
あれを放置していいのかと言う彼に、
いいのとメルは見つめてニコリと微笑んで笑う。
まるで自分はそこに居ればお邪魔虫かと
言わんばかりに、距離を取ってきたのだ。
嬉しそうに、ご満悦に。涙がぼろりと出てきた。
それにリキールがぎょっとして尻尾をぶわりと広げたのに
気付いたヘレスがメルに視線を寄せる。
「っメル!?!?」
『あ〜〜〜やっぱ出ちゃうかぁ。』
どうしたと言って慌てて近寄ってきてくれたヘレスに、メルは何でもないよと答える。
胸の痛みがずきずきと痛んでいるが、これも次第に慣れていくだろう。
昔は人前に出さずに、一度意識を飛ばしてから、
こっそり人がいない処で意識を取り戻し、そのまま泣いて過ごしていた。
今はそうもいかない。人と接する時間が前と比べ物にならないくらいに多いのだ。
『昔は、ひとが、こなかった、からなぁ。』
誰も迷惑を掛けずに、ずっと泣き続けられたというのに。
ごめんね、心配かけて。大丈夫だよ、
そう言うメルにそんなこと無いと
ヘレスは答えてメルを抱きしめる。
辛い時は辛いと言わないといけないのだと。
それに、痛みがズキリとまた鳴り響く。
肩が濡れてしまう。離れてと言うが、
泣き止むまで離さないとまで来た。
寝る時間が遅くなるよと言えば、
そんなもの今日くらいどうだっていいと来た。
この力は非常に面倒なことに、
周りの感情も自然と汲み取り大体の思考が読み解けてしまうというもの。
視覚から直接入ってくるので、そりゃあもうこっちも困るというもので。
「んん…ヘレス様、すいませんがメル様から離れて頂けると幸いです。」
「む、なんじゃ第8の天使よ。お主もそんな酷いことを言うのか。」
「いえ、何方かと言えば…私の方がと言いますか、
メル様が耐えられ切れなくなりそうなもので。
現在貴方の感情をひしひしと浴びて困り切っていましてね。」
「っなんと!!!」
『うう…こるぅうううん?????』
「私は貴方を助けたも同然ですよ?」
お礼を言われても不思議じゃないんですがねえ?
という彼に、ぐぬぬと言って小さくありがとうと答える。
それには少し目を丸めたが、
どういたしましてとコルンが丁寧に答え返した。
「ほら、先に風呂に入ってきてください。」
『え?で、でも』
「我々なら後で良いですから、ね?」
『うう…じゃ、じゃあ。いってきます?』
「ええ、どうぞごゆっくり。」
++++++++++
「なぁ、時にメルよ。」
『ん?どしたのヘレス。』
「お主少し胸が大きくなったか?」
『えっ!!!!うっそマジで言ってる!??!?!
待って待って待って超嬉しいんだけど!!!!!!!』
そう叫ぶメルに、ふむとヘレスが答える。
前に見た時はかなり華奢な身体をしていたが、
今は其処迄心配する程ではない肉付きになっている。
『ふふふ〜〜〜成長期キタコレじゃぁ〜ん!!!!
ねぇヘレス絶対これ成長期だよね!!ねぇねぇねぇ
そうだよね!!そうだといって!!!つかいえ!!!!』
「っくくく、そうじゃなぁ〜〜?成長期じゃなぁ〜〜〜?」
そう言わずともいうと言うのに。
風呂に浸かるヘレスに
目をきらっきらさせて言うメルに微笑んで言う。
にしても、サワアが姉妹のようだというのも
頷けるくらいには髪の毛がほぼ同じ長さである。
髪色も暗いままで、明るくなど
一切なる気配すらなくなってしまった。
まぁ光に照らせれば紺色の色を灯すだろうが。
本当に身長も割と伸びたのではないだろうか?
彼女の成人が一体何処を指していうのか定かではないが、
身長が低いことに少し気にしている彼女に
そのまま小さい方が可愛らしくていいとは言い切れないものだ。
そんなに喜ばれたら、尚の事、である。
目がくりっくりとしている彼女は、本当にサワアとお似合いで。
何時しか自分が押し倒したのが悪いくらいには、良い子なのだ。
まさか奪う予定が、応援してなんなら味方に付くことになろうものなんぞ
過去の自分に言っても絶対に首を縦に振るわけないなと思う。
それくらいに、この子は純粋無垢で、
何処までも青い時間に手を伸ばして止まないのだ。
その場所が一番いい場所だからと言わんばかりに。
泡立てて身体をするすると洗っていくメルに、
本当に穏やかな時間がまた続くのかと思えば
ホッとする気持ちだ。
正直先程ボロボロと泣かれたのは堪えたが…。
まぁそれも含めて、彼女は見られたくもないのだろう。
自分がもし彼女の立場ならば、同じことなど出来ない。
きっと此処から嫌でも抜け出そうとするか、自害を選ぶだろうな。
「…ほんと、いい子に育ちおって。ういらしいのお?」
『うい?ういってなあに?』
「愛らしいという意味じゃよ?エフェメラル。」
『わぁ!!!サワアとおんなじ!!』
「なんだか嫌な感じじゃの……」
『む!私にとっては最大限の褒め言葉だよ???
なんだかサワアみたいに言ってくれて、
こう、お胸の奥がくすぐったくて、えっと…嬉しいの!!』
「…そうか。そう言われたらまぁ、まんざらでもないのお?」
こんなに自分を、恋敵だろう自分を真っすぐに見つめてくれる彼女を
誰が感情の波に沈めてその華を枯らして殺そうとするのだろうか?
明らかに、コレを殺せばもうこの世界で生きれることは
不可能な程の罪を背負うことになるだろう。
消滅すらも、許されないことになったら、本当に酷いというもので。
『ねぇ、ヘレス。』
「んー?」
『ヘレスはさ…その、破壊神になって、後悔とかしたことある?』
「それは仕事としてか?それとも、破壊神になったこと自体においてか?」
『んー両方かな。』
そう先程の目は何処へ。悲しそうに俯いて頭を洗う彼女に、
ヘレスはそうじゃなあと声を伸ばす。
「仕事としてはあったが、破壊神自体はないのお。」
『そうなの。』
「嗚呼。われとて元人間。
確かに人間だったらと思う時もあった。
ソレを後悔というなら、そうじゃろうが…
それはミラと居たお主を含めてのことで。」
『わ、わたし?それまたどうして。』
「我が殺したも同然なんじゃからな。
あの時なんぞ、本当はもっと動けた。」
『…そんなこと』
「まぁ聞け。」
ヘレスは告げる。ぱしゃりと水を立てて、
その身体を湯に浸からせていうのだ。
「お主が居たのは正直知っておった。」
『っえ!?!?!?!!?』
「最初は夢幻かと思った。疲れているからと言い聞かせたが、
妙にずっと奴の周りにおって鬱陶しくて仕方がなかった。
その癖悲しそうにさも自分が悪いと言わんばかりに
落ち込んで距離を取っておったからなあ。
当時は忌み嫌っておったわ。」
『うぐ』
「じゃが、その時間を知ってすぐに分かった。
…あんな時間を過ごした後なら、我とて、そうなる
いや、もっと酷い状態だろうとな。」
本当に、あの時は悪いことを考えたものじゃ。
「ミラを殺した者でもあると思い込んだ我は
その後サワアに出会った。破壊神になりませんか?
なぁんて今までの事を見ていたかのように言う。
そんな奴に出会ってから、お主に会える可能性を感じてな。
いつかその首を掻っ切ってやろうと誓ってなったんじゃよ。」
『…そ、それで?かっ、掻っ切って、くれるの???』
「お主に出会った時、うちのもんが
涙をぼろぼろ出してから気が失せたわ。」
『え??????え?????????』
それだけで?嗚呼それだけで。
「妙に女の影が見え隠れすると思いきや、
此処まで澄んだ気を持っている上に記憶喪失と来た。
加えてお前の時間を一緒に廻った時は、
既にお主への敵対心など消え失せたというもの。」
寧ろ可哀想という情が増えてしまって困り果てているくらいだ。
本当にどうしてくれようか。妹にしてしまっても足りないくらい。
「もう少し悪い子じゃったら
サワアの奴を引っ張ってやってしもうたが…
此処まで可愛らしい子だとは予想外じゃもんでなぁ〜〜。
あやつも隅に置けんというものじゃしなぁ〜〜〜???」
『そ、そんな、いっ、いい、子…????』
「嗚呼お主を良い子でなければ
この世の全てが悪い子で満たされるくらいには良い子じゃよ。」
『そこまでいうか。』
「そこまでいうわ。」
そう言うヘレスが全くもうと答える。
身体を綺麗にしたメルは
少しぬるくなっている風呂に
安心して入って来た。
それを見ながらヘレスは身体を少し起こしつつ話を続ける。
「寧ろあやつには勿体なさ過ぎるというもの。
第8の方がまだ相応しいかもしれんくらいじゃというのに。」
『そんなコルン様買ってるとサワアに本気で殺されない???』
「はっ、わらわをもし万が一殺そうとしたら
お主が守ってくれるんじゃないのか?」
『うぐっ…わ、分かってらっしゃるぅ。』
やっぱり其処迄わかりやすい?
嗚呼勿論。とってもわかりやすいぞ?
「気も前に見ていた時よりずっと澄んでおる。
濁りを見つけるのが寧ろ困難なくらいにはな。」
『そこまでいう?????』
「透明度が高い上に触れた感覚が心地よ過ぎると来たものじゃ。
そりゃあこっちに居座り続けるのも頷けるというもの。」
寧ろお主を野に放てば全てが浄化されて
徳の高い宇宙ばかりで困りそうじゃし。
えっそこまでいう????
私浄化できる存在じゃないはずなんだけど。
「お主が消えるとあれば恐らく現在就いておる
すべての神々が大反対するじゃろうな。」
『うわ〜〜〜どうしよう、想像がつくのが色々と恐ろしい。』
「っくくくく、お主が鬼ごっこを提案した時の
あやつの顔ときたら本当に見物じゃったからなぁ???」
『えっそうなの。』
「嗚呼!正直長い付き合いでもあんなぎらっっぎらした目は
初めてみたもんじゃ。あと凄くウキウキしておったな。」
『ぎらっっぎら。うっきうき……』
想像がつかない。
「絶対に勝つと言う意気込みしか見えんかったし、
他の天使らも驚いておったわ。
その癖本番になるとまぁ動く動く、一応通信も入れておったが
天使らの声で発見した時の奴の声と来たらもうびびったわ。」
アレ程までゾクリとした感覚はこれっきりにしておいて欲しい
とまで言うヘレスに、そこまでかとメルは何度も言う。
「「嗚呼。…みつけた。」と言う低い端的な言葉で背筋が凍ったわ。」
『ひえ……それきっとバーの場所で見た時の目で言った言葉だあ。』
ウイスさんの声聞こえた?嗚呼そういや第7の声も聞こえたなあ?
「「発見しました。外に出ていきます。」
そういう言葉と同時にそこから一切聞こえなかったからなあ。」
『嗚呼〜〜〜あの後コルンさんにぱっと腹掴まれて飛んだ時じゃあん。』
「そんなことになっておったのか。」
『うん。ティーナ様達、最果てのメンバーに会って
何とか裏口から抜け出そうとしてたんだけどさ、
気になって嫌な予感してたけどバーに居た処を
ちらっと見ちゃったんだよ。』
そしたらまぁ怖い怖いまぁ怖いのなんのったらありゃしない。
『サワアだけでなくウイス、多分コルン様とも目が合ったんだよ。
あのぎょろりとした冷たい目と「みつけた」
って言いたそうな顔に背筋ぞくってして直行で逃げたわ。』
「それはそれは…随分とタイミングが良いと言うべきか、悪いと言うべきか。」
『今思えばコルン様に身長差で勝てないのに良く私逃げれたな。』
まぁあの時はまだ架施もあった状態。
自分を殺せば幽体離脱的な感じになって透けるのを
全く理解できずに感情だけで乗り切った私は本当に神だと思う。
『本当に私頑張ったら全員の天使といい勝負できるのでは?』
「ほぉ?それは面白い話じゃなあ?今度やるか?」
『普通に良い勝負できるようになったらの話しだけどね??』
まぁ戦闘というよりかはほぼ踊りに近くなるだろうが、それはそれである。
流石に長風呂するのも悪いので、
さっさと起き上がるメルに、ヘレスも続いて風呂を上がる。
「ん?なんじゃそんなじろじろとみおって。」
『…ヘレスほんと着痩せするタイプだよね。』
「何を急に言うんじゃ。」
何時もの服はどこへやら。ギリシャ神話でも
よろしいくらいの白い衣服に身を包んだヘレスに
メルは先程見ていた大きな胸が隠れて
いやらしいなあとふと思ってふむうと声をうならせた。
「そういうお主も着痩せするほうじゃないのか?
いつもの衣服だとそういう訳にはいかんじゃろうが。」
『いやアレ本当に誰が考えたんだろうね。
マジで何処までもはだけてちょっと動く時ちらちら見て困るもん。』
「普通に華が出る場所とかわからんから、とかじゃなかったのか?」
『もうそうなんだけども、ううん。』
「おや、上がって来たんですか?」
「嗚呼いい湯じゃったが、少々温過ぎるし入れ替えた方が良さそうじゃぞ。」
『あっじゃあ私風呂あろてこ。』
いやそんなことをせんでもと手を伸ばしたヘレスだが
先にメルが動いていたので掴むことも出来ずに消える。
「…全く、忙しない奴やのお」
「元気な声が聞こえてきてましたが、何をお話になられて?」
「乙女の会話を盗み聞きとは……変態。」
「へっ!??!?!ヘレス様!?!?!」
「ぷっくくく、冗談じゃ!!!」
そうサワアの背中を叩いたヘレスに、
サワアがもうと吹き出す様に笑って答える。
にしても不思議な所だなとリキールが声を掛けた。
「何がじゃ?」
「此処に居れば向こうに居た時よりも
ずっと心が穏やかなの気付かないのか?」
「それは…まぁ、確かに???」
「メル様の影響が大きいのでしょう。
此方であれば黄金の草花程迄とはいきませんが、
戦闘意欲を弱める効果から
色々と手を込んで作っていらしているので。」
「天使が貴方方の思考を読むことは愚か、
過去や未来を見る事など出来ませんしね。」
「だがコルン、お前奴の思考を読んでいたんじゃないのか?」
「そりゃあ契りを交わしたのでね。
ソレを言い出したら此方の方も同じことです。」
コルンが手を見せながらサワアに向けたことに、
嗚呼そういやそれもそう、か?とリキールが唸る。
「具体的な感情は敢えて取っていませんがね。」
「…本気で仰っています?」
「最初は頭が割れそうなくらいに
情報量過多ですが、いずれ慣れますよ。」
「それなら構いませんが…。」
「メルはその状態をずっと維持しつづけておるってことじゃろう?
ほんとお前達もそうじゃが我々も毒されておるなぁ〜〜。」
「っくくく、全くですねぇ。これでは仕事になりません。」
と、言いたいところですが、流石にそうも言ってられませんしね。
嗚呼そうじゃな。明日くらいか?
ええ、難しければ私が代行をお努めしますが、如何なさいます?
じゃあこっちで話すか。
そう第2が仕事の話をし始めた頃、メルが帰って来てリキールを呼ぶ。
天使らは必要ないと言っているが、恐らく最後に入ってくれるとメルは信じて放置することに。
「じゃあお言葉に甘えて。コルン後は頼んだぞ。」
「承知しました。」
『いってら〜〜』
狐かぁ〜狐ねぇ。
そうメルは言いながら二階に上がろうとしたのを止めて書斎の方に向かった。
其処にはヘレスとサワアが仕事の話をしているのが見えてこっちに気付く。
『ああそのままでいいよ。いや〜〜ど〜〜こにあったかな。きーつねきつねきつねきつねきつね。あっきつねうどん良いな。明日の朝食ソレにするか?』
「いやなに共食いをお考えなんですか。」
私の仕える破壊神に何を食わせるつもりで。
そう言うコルンにメルは笑って違う違うと言いつつ更に先にある部屋へと入った。
『いや民謡こっちに纏めちゃってたんだよね??本当に何処に置いたか分からないからもう部屋割りちゃんと決めちゃいたいなぁ。』
「そんな本をまばらに置いていたのですか?」
『資料が余りにも多すぎるからね。君に教えるのも含めて情報を改めて覚え直していたところなんだが…あった!!!』
仕事の方に持ってきていたかーと笑って取り出してきたメルは近くのソファーに座り込んで膝の上に本を置いて開く。
ペラペラと少し乱雑にも捲っていた後であったと声が止まって捲っていたページを何枚か巻き戻して見つめる。
『狐の嫁入り。あ〜〜そうだよねぇ。』
「なんです?それは。」
『晴れているのに雨が降るっていうものだったんだけど
いや2種類あるのはちょっと初めて聞いた。』
「ほぉ、そうなのですか。」
『晴れているのに雨が降るのって不思議でね?本当は雲が無いと雨は降らないんだよ。』
「まぁ、その星ではそうなのですね?」
えっ他では違うの。
ええ違いますよ。何でしたら雨の定義も変わってきます。
わぁ〜〜〜
「して、それでどうなるのです?」
『え?あ、ああ。晴れているのに雨降るってあれデジャヴ…。
まぁいいか。そういうのってさ、狐に化かされてるって言うような
説明のつかない怪奇現象として表現されたものが一つ。』
「もう一つは?」
『狐の嫁入りって行列があって、その行列は人間に見られてはいけないものとされていた。
まぁ地方によって様々な呼び方があってね。狐の嫁取り、狐の祝言とかも呼ぶらしい。』
こうした怪奇現象のような炎を怪火と言い、嫁入りではなく
狐の葬式として死者の出る予兆を指す地域の噂もあるくらいには広いものだとメルは答える。
「えらくピンキリですね。婚姻と来たら次は葬儀ですか。」
『結婚式自体普及してなかった時代からの話だからねぇ。』
「おや、そうなのですか?
てっきり人間はそのような決まり事を
することばかりだと思っていたのですが。」
『徳が高い処だと余裕もあるだろうし、
星自体の長生きも兼ねてだろうから、
そう思うのも不思議ではないと言えばそうだろうが…。』
私が居た所は大よそ46億年くらいの星ではあったので、
割とそこそこ長生きな星だと思っているが。
どうやらコルンらからしたらまだまだ子供であると言うのだ。
そんな子供星にずっと生き続けた
メルの知る知識が此処に詰め込まれている。
全て字は手書き。向こうで培った資料を
メルはその手に持っているというもの。
本当に此方側で使う予定等無かっただろうに、
良く此処まで努力したものだと感心する。
『と言っても政略結婚が主流だったころの話ね。
一応あるにはあるけど、
位の上下関係で自由な結婚は無理だった頃の。』
「ほお、そういうものだったのですか。」
『まぁ結婚式において、結婚先に嫁いでいく嫁が
夕刻に提灯行列で迎えられるのが普通であり、
連なる火の様子が松明を連ねた婚礼行列の様子に似ていた
または狐が婚礼の為に灯す提灯とみなされた為に、
こう呼ばれていたのではって話もある。』
嫁入りする者が狐と見なされたのは、
嫁入りのような様子が見えるにもかかわらず
実際にはどこにも嫁入りがないことを、
人を化かすといわれる狐と結び付けて名づけられた
または、遠くから見ると灯りが見えるが、
近づくと見えなくなってしまい、
あたかも狐に化かされたようなため、などの説がある。
まぁいずれにせよ狐関連は大体が
化かされたという意味で終わるものばかりだ。
『でも私狐好きなんだよね〜狸より狐派。』
「それまた何故です?」
『お稲荷さん好きでね…ふふふ。』
「おいなり…?」
『お稲荷様って狐の神様を指す言葉でさ、
元は確か、稲穂つまりお米が実る稲が生る=いなりって言葉に変えて
稲穂の豊作を願って讃え祀られた神様だった気がする。』
ちゃんと調べていないが、それで在ってるはずだ。
『確か正確にはお稲荷様って神様で狐の姿ではなく、
狐はその付き人みたいな形だった様なそうでないような。』
「なんとも曖昧ですね。」
『んまぁいずれにせよ狐さんが油揚げを好んで食べていたので、
それに酢飯を入れてお供えしていたら豊作だったことから
稲穂を作る時はお供えしていたんだって。』
私そのお稲荷さん好きだったなぁとメルはページを軽く捲って手遊びして話す。
『こっちに居た時も好き嫌い激しくて
お稲荷さんの油揚げを根こそぎ剥がして
中身しか食べなかったのくっそ怒られてたけど。』
「メル様???貴方その頃から好き嫌いが激しかったのですか。」
『えへへ〜〜油揚げは流石に作り方知らないから、今度フェルの所にいかないとねぇ。』
きっとまだまだ先だ。そう言うメルに、そうですかとコルンは答えた。
『あっそうだ、コルン様ちょっとお尋ねしたいことが。』
「なんです?」
『まだ未定なんですが、大神官様にコルン様達って報告か何かしてる、ん、です、よね?』
「話が全く見えないのですが、どういう話のですか?」
『こう、星?惑星?の話しとか。』
「……嗚呼、破壊神らの定期報告等の件ですかね。」
そうそれ!!そう言うメルは本をぱたん閉じて本棚に仕舞い込む。
「確かにしておりますよ。それがどうかなさいました?」
『前にクス姉と話をしててさ、大神官様のお手伝いとかしてみたら〜?
って聞かれて、あっそれいいじゃんって賛成したの思い出してさ。』
「お姉様とですか。また突拍子もないことをお考えになりますね…。」
『それでさ、私がこう話している言葉とか、
文字ってどれくらいのレベルなのかなぁって』
「…成程、そうですねぇ。まだまだと言うべきですね。
貴方からすれば小難しい内容ばかりなので。」
あう、や、やっぱりか。
なんです?したいのですか?
『ううん、興味?があって…あっだ、駄目。いや忘れて。』
「いいえ忘れません。なんです?言うだけただという者ですし。」
『ほ、ほん、と?』
「ええ。現実になるかどうかは大神官様次第ですからね。それで?」
『うう、え、ええと……み、皆とっても忙しいのに、
私のことばっか見てくれるから。
私も何か役に立てればいいなぁって思って。』
天使の業務を手伝いに行くわけにはいかない。
それならせめて大神官の方を手伝って
勉強するのはどうかなと思っただけだ。
でも手を出せばそれなりに支障も出てくるだろう。
それならまだまだこっちで
勉学に励んだ方が身のためというもの。
そう悩んでいるメルに、ふむとコルンが手に顎を置いて考える。
「…こういうのは直接聞いた方がいいでしょうね。
明日お伺いを立てますので、メル様もそのつもりで。」
『え!?!?そんな急に!??!』
「こういう件は直接早い目に手を打つ方がいいですよ。
架施を変えて調子も悪いかと思って色々手を止めていましたが、
再開ついでにそっちにシフトチェンジをしてもいい頃合いですし。」
『はえ〜〜〜〜〜』
「ただし、何か困ったことがあればその都度聞くことです。いいですね?」
『はい!!!!!』
「よろしい。」
片手をあげて返事をしたメルに、コルンは満足げにこくりと首を縦に振った。
素でこれ程元気なのだから、本当に良い子なのだろうというか、本当に良い子なのだ。
メルの感情が手に取る様に分かるが、
まぁ不安になる事柄が全て此方の感情に左右されるものばかりで、
こっちが頭を抱えたくなってくる始末である。
自分の感情にもっともっと溺れてしまっても全く問題ないというのに。
メルという子はセーブした上でそんな感情を緩和させ続けていく。
精神的な維持としたら、彼女の右に出る者はいないと言ってもいいくらい。
それ程、彼女の感情操作は巧みなものであるというもの。
知れば知る程分かる、この子はこの場で生きるべき存在だということが。
神に相応しい程の清らかな感情を持つ者。
落とされても何度もこの場所に戻ってくる子が、
そんな子が、先を見て自分らの役に立とうと前を向いているのだ。
憎んでいいのに恨んでいいのに、
そんなことは悪いことだからと言って
あっさりと切り捨ててしまう潔さ。
そういうところだけ潔くて、
どうして目の前の事ばかりは悩んでしまうのだろうか。
「向こうも忙しそうですし、少し勉強しますか?」
『いいの?』
「ええ。ついでですし。」
『…じゃあ文字の練習からでも?』
「そこからです???」