アクロバットスピア
胡蝶の夢とは良く言ったものだ。
目を覚ませばどこかの時間に。
目覚めた時に身体の目醒めが良いのが夢。
悪い方が現実であるのは事実で。
『(今度は頭が痛い…現実か)』
流石に身体は正直。衣服が白い状態なのを確認して
身体を起こそうとしたが、気配がしてそのまま目を閉じて力を抜いた。
「…寝て居るか。まぁそっちの方がいいでしょうね。」
『(誰だ夜だから余計に暗さで分からない)』
何方にせよこのドーム状の中に手を入れられる者ではないだろう。
殺気を感じて、嫌な予感がしたから目覚めたのもある。
これはコルン様辺りの方にした方が良いか?
そう考えていると、ふととんでもない言葉が落ちてきた。
「それにしても此処までして離れないとは。
…時間がないと言うのに、この出来損ないが。」
『(…あ、この声、聞き覚えがあると思ってたら、そういうことか。)』
気付きたくない。知りたくない。
悲鳴が込みあがって軽く警告音を鳴らし続けてしまう。
うんうん。これは仕方がないよね。うんうん。
感情の表現が強く、そのまま目を覚まされたことに気付かれてしまう。
「っ」
『っぐ』
このベール、敵対も全部防げないのか?!
流石に入って来たのはちょっと意外過ぎて駄目。
首を掴んで締め上げてきたのはちょっと待って。
透けたいが、その集中力どころかその架施が外れている以上不可能。
待ってこれ普通に華で栄養を取ればいい話じゃね?
脳内でとにかく酸素を作り続けていくが、
よく考えたら吸うって呼吸自体が駄目なら無理では?
アッ詰んでる待って。摘まないで。私の芽を摘むなごら。
ざけんなお前絶対殺す。
手を掴んで必死に抵抗するが、無駄ならば力を打つまで。
威力を小さくも針の様な痛さを出してしまえば隙が出る。
メルは手に炎を宿らせて手首を焼かせた。
痛いと言う声と同時に身体を離そうとするが
この身体今まで眠っていた為ただでさえ重いのだ。
ぐらついたまま倒れ込むメルに、何すんのよと身体を叩かれた。
「調子に乗りやがって…!!!」
『っぐ、っ』
「空白も全然仕事しないじゃないの…!!どうなってんのよ!!」
システムは確実に生きている筈。そう言う彼女に、
メルは続けて痛みに耐えていると、嫌な予感がした。
「っふふ、そうじゃない。そう、貴方が一番苦しめる方法。」
『っだ、め』
ばっと目を開いて身体を避けようとしたのが悪かった。
胸元に入る予定だったのが、へそ下の方をざっくり斬られたのだ。
嗚呼これ、絶対手術しないと止血待ちあわない奴だ。
メルはそう他人事のように思いつつ、身体を動かせずに咳き込みだす。
痛みで咳も息も中々に難しい。なんで呼吸ごときで難易度はね上げるんだよ。
ふざけんな、架施…が、発動しない?えっまってなんで。
「そのままゆったりと眠りなさい?嗚呼でもそんな場所で寝るなんて勿体ないわ。」
血なんて付けないでと言われて、身体が浮遊する。
ふわりとスローモーションになる動きに、その姿が見えた。
嗚呼貴方のことを私は信じていたのになあと、
触れていた感触を想い出していると
『っぐ』
突如地面に落下して更に痛みが増した。
ドクドクと心臓が鳴り響いている。
嗚呼これ絶対傷開いた。もうやだ。助けてちんちくりん。
悲鳴を上げても助けなんて来ない。
自分が、頑張らないと、いけ、ない、のに。
意識が遠のく。駄目ですって声が聞こえた気がする。
気のせいだ。だってこれは夢なのだから。
あれ?でも身体は重かったから、これは夢じゃなくて。
じゃあ私死んじゃうの?もう、笑って生きれないの?
折角大神官様のお手伝いとか考えたりとか、
恋バナ大会して夜を明かしたりする女子会とか
皆で運動会みたいなことして遊んだりとか
天使らと一緒に、みんなで寝てみたりとか
本当にいろんなことを考えてたのに。
嗚呼それも、夢でなら、叶うのに。
なんでだろう、どうして、こんなにも嫌なんだろう?
いやだ。生きたい。生きて生きて、お願い叶えたい。
まだ沢山叶えたいことがあるんだ。生きないといけない。
血を廻らせて、とにかく息を吸って吐いて。浅くていい。
とにかく集中して。誰も聞こえない何も知らない。
分からなくて良い。
ああでも、貴方で、あって、ほしくなんて、なかった。
泣いたら余計に腹使うから頼むのでおやめろください。
ねぇ、どう、して?
はてなで脳が埋め尽くされて、黒くなっていく。
夢であって、夢で、夢なら、嗚呼、醒めない。夢。
此処は現実。残酷な時間の狭間に位置する場所。
ジワリと涙が浮かび、零れ落ちて、意識を手放した。
次に目覚めた時は、こんなもの夢だったらいいなあ。
++++++++++
その日は特に何事もなく、天使らとも交流が少しずつ無くなっていた頃だった。
本当にたまたま、杖を持っておらず、業務にも支障がないと手放していた。
「…ん?着信ですか、なに、ご」
嫌な予感がしなかったのを、本当に悔やんだ。
すぐにリキール様に報告をして急いで杖を四回叩いてしまう。
頼む、間に合ってくれと思って前を向いたその視界の暗さに続いた匂いにヒュッと声がした。
指を鳴らす音に、先に兄が来ていたのを知る。
自分達が来たのは四番目くらいか。
「…痛かったですね。すみません。遅れて。」
「……始末していいか。」
「皆さん破壊は厳禁ですよ。捕獲して取り調べなければいけませんので。」
「分かった。毒は手加減してやろう。」
白いローブに赤い血だまりがついているのが見える。
明らかにメルを狙っていた奴が来たのだろう。
そのメル自体は、何時も寝ていた場所より遠く離れた
自分達のよく到着する場所に寝転がっていた。
光りでよく、みえて、その情景がわかる。
その残酷さに、殺意が沸き起こった。
ばっと出て行った破壊神らに後は任せ、自分達のやるべきことを行うしかない。
サワアはメルの前にすわり、メル?メル聞こえますよね?とひたすら声を掛けている。
「お兄様手伝います。」
「身体が熱いですし、時間は其処迄経っていないと見ます。
意識はないです。起きる気配もない。魂は未だあります。」
「白いタオルと出来るだけ水を。」
「こういうこともあろうかと常備しています。」
「流石ですね。助かります。」
コルンがぱっと杖から清潔なタオルと水を取り出す。
桶や簡易のシーツを作り出しては彼女の下から入れて傷口に触れた。
流石に痛いのだろう。身体が飛び跳ねるのに、サワアが声を掛けた。
「マルカリータさん、コレを持って急ぎで部屋にある救急箱まで走って下さい。」
事は一刻を争います。走って。
そう言ったサワアに頷いたマルカリータが破壊神らの攻撃の中に入っていく。
ボタンを押せばメルが前に行っていたように透過して姿を消し去ったではないか。
「前にメルから尋問して問い詰め制作していた緊急用のものです。
天使らだけでなく神々であればだれでも一度きりで使えます。」
「そのことは後で聞くとして、お兄様。」
「ええ。ウイスさんモヒイトさん」
「今全力で入れてます。」
「ですが…」
「やるだけやって下さい。メル?メル聞こえますよね?」
貴方此処で寝っ転がっては駄目でしょう?起きて下さい。
いや無茶なという声がしつつも、
ちらりと横目に見たその姿に目をそらした。
声は泣きそうにないのに、
もう既に涙が出かけている兄の姿など、ずっと等みてはいけない。
これから先の事を沢山話して、沢山考えていたのに。
隙を見せてしまえばいいと何時か彼女が言っていたのを想い出した。
そんなことをしたから、こうなるのだ。
「戻りました。」
「箱を開けて左から二列目前から三番目の液体を出して下さい。」
「はい」
「メル、飲ませますよ?息してください。メル?」
ぺちぺちと叩いて反応がない。半分液体を取り出してその傷口に塗りたくる。
それには流石にメルの身体が反応して暴れ出すのに、お兄様!?と声が上がる。
「耐えて下さい。これしないと貴方ばい菌入って死にますよ。
半分は飲ませますので。口開けて。」
痛いですね、すいません。そう言うサワアが
メルの顎を持って喉を開けてから口に含んで一気に飲ませる。
身体が反応するのは嫌だからというものではない。
単純に苦しいから反応している一種の反射なだけで。
「コルンさん」
「言われずとも今やってます。」
腹部の処理はモヒイトとウイスからコルンに変わる。
彼等が先に血を綺麗にして腹部の傷もほぼなくなりつつある。
メルの回復は通常の下界や破壊神らを癒すものとは比べ物にならない。
難易度が上がるというよりかは、治癒の効果がほぼほぼ皆無に近いのだ。
通常でやって皆無なのが、全力でやれば通常の効果の半減かそれ以下程度。
その為モヒイトとウイス二人がかりで気をひたすら高めて分け与えていたが
効果が無いことに気付いたコルンがすぐに交代して回復を入れる。
半減とはいかずとも、血が元の場所に戻っていくのに、凄いと誰かが声を上げた。
『…い、よ』
「っ!!メル!!!」
声が小さくとも出たのに、脳内で声が響く。
その言葉に、一同が目を開いた後、各々が駄目だと嫌だと声をあげだした。
ーもういいよ、もう、難しいから。
その言葉は、これ以上の回復が無意味になるというもの。
諦めないでと言う声に、難しいとの一点張り。
「このまま死んだら許しませんよ。絶対許さない。」
「お兄様…」
「職務を放棄したという意味にも値します。貴方の罪は償えきれない。」
ーごめんね、サワア。
その言葉に、ぐっと唇をかみしめる。
駄目だとそう言う彼の言葉が、余りにも寂しそうに告げる。
「だめです…だめですます」
「マルカリータさん…」
「メル様とまだ沢山したいことあるですます。まだ、まだそんな一瞬ですらない。」
ーほんとだね。一瞬ですらないね。
そうマルカリータは背後に姿を感じ取って振り返る。
確かに其処に居たハズなのに、誰も居ない。
ひやりとする感覚に、ばっとメルの姿を見た。
ーごめんね。ごめん。でも、会えるよ。
「…何をもって言うのですか。」
「お兄様…」
「ただでさえ待たせたんです。許せるわけない。」
「お姉様まで…」
メル、お願い。置いて行かないで。
そう寂しそうに涙を流して手を取るクスに続いて
サワアやマルカリータも涙を流し始める。
ーだいじょうぶ。ずっと、ずーっと、いきてるよ?
貴方達が、私を覚え続ける限りは。
その言葉と同時に、ふわりと魂の感覚が消えて無くなる。
今、何が起きている?何が、起こっている?
「お兄様」
「…出来るだけ綺麗にして下さい。私もします。」
「…分かりました。皆さん。」
くたりと力が無くなった。目にたまった涙。
痛みに耐えきれなかった身体の傷跡や打撲痕。
確かに抗ったであろうその手に残っていた気が、全てを物語っている。
かさりと黄金色の草花が音を立てた。
その場所から、徐々に点々とだが色が無くなっていく。
それは、此処を司る者が居なくなった証拠になるというもので。
今度こそマルカリータが声を出して泣き崩れる。
いやだ、いやだとボロボロ泣いて、メルの頬に触れて言うのだ。
まだ、まだ、温かいのにっ。
「…っ!!!」
魂が消えて無くなった。ソレはつまり、この子の死というその者の意味。
引き継ぐ者が居なくなれば、必然的に優位になる者が居る。
ぶわりとその場の力に圧がかかった。
草花が腐り、紫色を帯びだす。
破壊神らがもう距離を取っているのを見て、身体が動く。
「っが」
「っお兄様!!!」
「安心なさい。お前なんぞに華を使うことすら嫌気がさしているのです。」
本気で戦闘をしなければいい。
そう目が細まる彼に、コルンが止めに入る。
流石にその流れですれば消滅は間違いなく免れないものだ。
どけと言って兄弟喧嘩が始まる中、白いローブの子が其処から外れようとする。
「おっと、何方に向かわれる予定で?」
ねぇ?
「お母様…いえ、ルピルムさん。」
「…っく」
「余り動かない方が宜しいですよ?
お父様やモヒイトさんにヘイトを向けようとして失敗し
コルンお兄様に種を植え付けて動かして
上手く事が運んだと思っていますよね?」
「それが?」
目を細めるウイスに、ニヤリとローブを剥がして答える彼女。
「っふふふ、悪魔がこの地を統一し始めるから、
その核を殺して一体何が悪いというの?」
「口を慎みなさい。愚か者が。」
「ソレは此方のセリフよ…今この場は私が管轄するというものなのに。」
身体が拘束され、全員が膝をついてしまう状態に、
クスクスと笑った後高笑いが聞こえる。
「全く言ってなかったのねぇ〜〜?
主が交代して主になる子が死ねば
必然的に近しい者が一時的に世代交代になる。」
「…っく、はじ、めから、これが、もくてきで。」
「ええ。流石にこの子以外はあいつも気付いて植えれなかったけどねえ?」
そうコルンの前でニヤリと笑う彼女に、コルンがギッと睨み付ける。
手は後ろにツタで縛られ、足は地面に拘束されて立ち上がることを許さない。
「にしても本当に厄介だったわ…
流石完成されていただけあるというもの。
小さかったから軽く捻り潰せると思ったのに、
やっぱりアイツの子であるのは事実ね。」
「…っ貴様〜〜〜!!!」
「と、効果が足りないか。」
「ビルス様!!!」
怒りに任せて背後を取って攻撃をしたが、
効果が効かないことに驚いたビルスの身体を軽くあしらう彼女にウイスが叫ぶ。
流石に死にはしていないが、地面に縛られて動けなくなっているのが見えた。
『そうーだね?君はとっても愚かだね?』
「っ!?!?なっ!!!!」
『エフェメラルの生命を5分間感知しませんでした。
これよりオートモード起動します。標的ルピルムと認定しました。
過半数の殺意により決定されます。異論は認めません。異常を検知。』
発動します。
そう瓜二つのメルが彼女に攻撃を仕掛けたのだ。
それも、堂々と蹴りを入れて、華樹に叩きつけて。
がっとクリーンヒットしたその身体に、メルと声が上がる。
『生命の維持を検知出来ません。魂ごとの死亡を確認しました。
対象者を拘束しますか?誰がマスターでしょうか?』
「…私がマスターになりましょう。」
「っお兄様!!!」
『貴方は誰ですか?』
「サワアですよ。エフェメラル。」
『…分かりました。貴方に仕えます。』
そう言ってメルはバク転をして
軽くサワアの肩に手を一度当てた後
更に体制を変えて肩に乗っかる様に手を置いた。
頭の上で同じような声が聞こえることが、
何処か落ち着きを取り戻していく。
『対象者を殺害しますか?撲殺?消滅?どうしましょう?』
「絶対に殺さないで下さい。出来ればどうしてこうしたのかを
分かる程度の精神まで保たせて頂けると助かります。」
「っおに」
『畏まりました。身体はどうしましょう?
魂の刻みは?痛みは引き起こさせますか?』
「いいえ。出来れば綺麗なままで。
難しいなら足を切っても構いません。」
『ふむ。分かりました。架施は解除しても?』
結構です。そう言った途端、肩の重さが無くなる。
メルが前に出て刃物を使って彼女を斬りだしたのだ。
その意外な動きに、仕えていたモノも目を見開いて驚いた。
「っ何故だ!!!確かに魂が消えて力も気も一つ残らず残らないはず!!!」
『そんな当たり前のことを聞くんですねえ〜〜〜???
はぁ〜〜〜〜???えええ〜〜〜〜???貴方馬鹿ですか?』
「はぁ!?!?!」
そう怒る彼女に、メルはにやにやと笑って居る。
まるで生きているように見えるその動きに、彼女が自ら答えを明かす。
『私は死んでいます。コレは彼女がコルン様やサワアらの視界を
とにかく盗んで隠して作っていた対戦闘用試作品第23号になります。
別名ニーサンちょいとコレ殺ってくんね?です。』
「いやネーミングセンス!!!!!!!」
「待って下さい、あの子、今23といいました?」
「…しに、ませんよね?彼女。」
ニヤリと笑ったメルもどきに、女性がひっと声を上げた。
『身体と魂が五分以上消えて無くなった時に全く同じ様な形を作りだす効果です。
胡蝶の夢とはご存知でないですよね?人間嫌いですよね?悪魔も全部。
貴方は潔癖症である華を持っていた過去の華樹神候補生にすら落ちた天使ですし。』
「っな!!!!!」
『私の下調べを甘く見ないで下さい。
これでも対大神官用やコルン用サワア用等
ありとあらゆる対策を取っての
第6782番目にある資料から引き出した
マニュアル8895627を採用しています。
因みにマニュアルの意味は「はやくころせ」です。』
とってもいいでしょう!?と笑うメルは、顔をコロコロと変える変える。
此方の方から記憶を搾取させてもらって顔を全く同じに変えているのですと答える。
『胡蝶の夢。それ即ち夢か現実かが分からない状態。
貴方は嵌められたんですよ?嗚呼…かぁわいそう〜〜〜!!!』
「っでも、そんな、ありえない…!!!私が力を使える時点で貴方は死んでいる筈!!!」
『そうですよ?そんな当たり前の事すら分からなくなりました?』
「っざけるな!!!!」
そう言った彼女が怒りでメルに矛を向けるが、
綺麗にさくりと切れてボトリと落ちる。
それに高笑いをして落ち着いたと思っていると、
むくりと起き上がって来たではないか。
「…………は??????」
『ふむ。痛みなど在り得ませんね。
だって胡蝶の夢です。これは「ゆめ」そうでしょう???』
「っ!!!なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!!!」
なんでしなない!!!!!そう叫ぶ彼女に、教えますとメルが答える。
『私の発動条件は私以外の者が私を知っていることです。』
「…は?そんな力華樹神に在るわけが」
『華樹神らだけでなく華神らも全員一つの得意能力があることをお忘れですか?
私は一体何処の位置に居ると思っているんですか?そんなことも下調べせずに
自分の地位よりも低い低能の餓鬼に翻弄されて
貴方本当に呆れて馬鹿と言われてもおかしくないこと分かっていないとか
本当に神様なのですか?人間以下でも全然許されると思うんですけど、
その点如何なさいます?』
い、いいますねぇ。
そう呆れて言うモヒイトに、各々が頭を抱える。
『嗚呼それともアレですか?
人間の感情である適当に見て大丈夫と判断したことですか?
そのような現象も神々は司ることだとあるでしょう。
人間は見かけによらない。人間ですら慎重に事を運ぶのに
貴方は運べないから下に降ろされた違います?』
「っだまれ!!!!」
黙りませんとメルが身体を起こしてくっつけていく。
もうこれ一体どうなってるんだとヒステリックに叫び出す女性。
いや普通に無理もない。自分でもこれは悪夢だと思う。
『どうして?私を殺せないんですか?殺したくないのですか?
早く心臓を首を腹を足を手をこの感情を殺して下さい。
ほら出来るでしょう?神様は人間を作った。人間は駄目なら殺す。
その清らかな手を赤い人間のきったない液体に染め上げて下さい。』
嗚呼それともなんですか?もう染まったから手首が落ちたくらいの影響あります?
わーそんなこともあるんですね?覚えたいですがオート状態の私にソレは不可能です。
どうせもう肉体も魂も戻ってこないので。意味ないですし。
そう言うメルは淡々と答える。
『私は私を殺せます。貴方は貴方を殺せない。
これが華樹神に選ばれなかった理由ですよ。
お前が情けないなぁ?大馬鹿野郎。』
「っ黙れ!!!!!」
『っと、縛っても縛っても解けますねぇ。一体どうしましょう?
んー男ならちんちん切って精神的に閉じ込めてが容易なのでしよいのですが。』
「エフェメラル様?!?!?!貴方どういうオートを作ってたのですか!!!!!」
そうコルンが叫ぶのに、サワアがくすりと笑いだした。
クツクツと笑って居る彼に、いや笑うところじゃとコルンも笑う。
「あ〜〜…おかしい。本当に、とち狂ったこと何思いついて作ってるんだか。」
「全くですね。おかげ様で目が覚めたというものです。」
「なにをっ、何故動ける!!!!」
「やはりエフェメラルは素晴らしい子ですね。
黄金の草花すら咲かせられないのですよ、貴方と言う人は。」
華樹も呆れて枯れてしまったのです。
そう言ったサワアに、ぎょっと目を丸めて見つめる。
その後頭部に杖を入れて、脳震盪を起こして気絶させたコルン。
すみませんとサワアが答えたことにいえとコルンが返した。
「そんなことよりも…」
ふわりと後ろに手を組んで降りてきたメルがこてんと首を傾げる。
『…?』
「オート状態でもお話出来るものはありますか?」
『……。』
「エフェメラル、貴方その状態で会話は可能ですか?」
『…はい。記憶に入っているデータでしたら再生が可能です。再生しますか?』
「はい」
そう言い切ったサワアに、こくりとメルが頷いて距離を取る。
ふわりと降りた後、白い布を取り出して身体に身を包み、その姿を現した。
『…えっと、き、こえてる、かな?』
「〜〜〜〜っ、」
『へへ、メルだよメルですメルですよ〜〜!!
あれ、こっちかな?それともこっち?ねぇ〜〜まって〜〜!!
これ全方向回ったら目が合うんじゃない!?私超天才なんだけど!!!』
ねぇ聞こえてるでしょ!?声出せよ!!おいこらいえ!!!
そう叫ぶメルに、余りにも彼女らしくてクツクツと笑いが込みあがってくる。
『え〜〜っと、オート状態が解除されて、
誰かしらんがこの状態を聞いているということは
大体の真相に辿り着いたってことでおっけーにするよ?』
「ええ、その通りですよ。早く話進めて下さい。」
『あ〜誰か私を貶した感じがする!!え?してない?
ふっふっふっ分かってる。大体こういう時サワアが言って
私がグダるとコルン様辺りが
「くだらない戯言は良いので早くしてください!!」って叫ぶんだよ!!!』
「わかっているなら言いなさい!!!!」
そう怒るコルンに、今度こそ全員が笑いだす。
ひとしきりメルも笑ってあーー笑ったと腹を抱えて言う彼女。
本当に、恐ろしいくらいに綺麗な形を保っている。
死んでいるなんて、思わせない。いや、それが狙いか。
『ご名答。何人かは気付いているだろうが、
私の状態は死んでる等思わせないのが核です。
前に説明したが、物語は全員が忘れた頃が本当の死になる。
裏をかいて、自分が死んだ半径30mの生命体にある気の半分を使って
自分を作り上げて攻撃する形を取って見ました。』
多分範囲を作ってるからその中に居たら多分いけるはず。
まぁこれ自分の寝床とそこから飛ばしていくだろうなって位置を
決めてるから発動する確率も低いんだけどね。
『でもそうでなければ別の対策がありますのでモーマンタイですね。
あっちなみに〜右側に落とされたら対戦闘用試作品第22号の
半殺しにしてやんよちゃんが出ますし。
左側に落とされたら対戦闘用試作品第21号の絶対ぶっころマンに変わります!』
今回は比較的温厚な私を使ってるので、良かったね!!!
左だと収集つかなくて全員殺してたよ!!
そう嬉しそうに笑う彼女に、想像してひきつる各々。
『一応天使らが来ているか判明するように対戦闘用視認作品
第3号の監視カメラが貴方方を判定しての行動です。
第1号はこの区画全体。第2号は向こうの部屋の作成で管理してます。』
いや〜〜このネタ晴らしとか絶対全部終わった後だといいよねーと思いまして!
そうでなければこんなの知られたらひとたまりもないからね!!!
『一応目的が達成できたということで…へへ、何はなそう〜〜!!』
どうしよう、何から言っていいかわかんないよとメルが照れて笑う。
『ん〜、やっぱり言いたくないけどさ、ごめんね?って言っちゃいたくなるよね。』
ごめんね?勝手にしんじゃって。
ごめんね?こんなこと相談しなくて。
ごめんね?もっと強くなれなくて。
そう謝るメルに、首を横に振る者達。
そんなことない、自分達が其処を疎かにしたからこうなっていたというもの。
理とてこういう対策だとしては発動など出来ないというもの。
確かにメルを守るには守りたいが、相手が相手だったから手出し出来なかったのだ。
それも分かった上で、彼女は堂々とメルの前に立って、その身体に傷をつけた。
『私はあの人に愛されたかった。でも、愛されなかった。それだけなの。』
「…エフェメラル、」
『実を言うとね?コルンの名前作ったのってコルの方が強かったんだよ!?知ってた?!』
「…んなの知る訳ないじゃないですか。馬鹿でしょう貴方。」
「コルンお兄様…」
『心臓を抉られようとも、その中立を守れという意味。
…立派に育ってくれて、本当に。近所のお姉ちゃんは嬉しい限りだよ。』
「貴方が死んでは意味がないのですよ。」
貴方が居ないと、この世界はどうなるんです。
どうもならないのだと、分かっている。
この胸に空いた穴を一体どうしてくれる。
そう言うコルンに、リキールの顔が歪む。
天使らは基本的に感情に左右されないように訓練をしている。
その為人間とした感情を知らなかったりもするのだ。
穴が開いたように、それは、痛みの上位互換。喪失を意味する状態。
床になっているこの地なのに、草を掴むようにその地面を抉るよう手を握り締める。
『…またねなんて言わせない。さようならなんて言わないよ。』
「え?」
『そしたら私に会えるおまじない。出来るかどうかは、やってみてのお楽しみ!!』
今現在何処に居るか分からない。だからみんなが迎えてよとメルは言うのだ。
其処にサワアがいるとは限らないのに。メルはその場にサワアの頭をそっとふれて、額を付けて言う。
映像であるはずなのに、そのあたたかさに、涙が溢れてくる。
『どうかねてみて?』
「…へ?」
「ね、ねる…?」
「…成程そういうことか。」
「リキールお前何か分かったのか。」
「胡蝶の夢とは夢と現実が曖昧になる状態。
即ち夢に入った状態か現実に戻った状態かの間にあるもの。」
「…まさか、メル様の本体つまり魂は夢の中に居ると?」
「恐らくは。」
だから彼女は、会いに来てと言うのか。
「いやだとしても、ほぼ不可能に近いこと。」
「何故だ」
「我々天使は睡眠を必要としません。
よって寝たことなど一度たりともないのです。」
「…ただ、一人を除いては。」
「サワア、お主。」
「…確実には出来ませんが、やるだけやってみましょう。
ただ、私一人だと難しいので皆さんご協力を。」
そう目を向ける者達は…
「…まさかこれ程で行けると本気でお思いに?」
「ええ。あの子が大喜びするでしょうね。」
「まずは天使、だけですか。」
「そうですね。駄目なら私とヘレス様の二人で突撃します。」
「と、突撃って…君らね……。」
「要は白い空間にいけばいい。そうじゃろう?」
「白い…っまさか!!!!」
そう、メルは確実にあの白い箱の中にその姿を下ろしている筈。
緊急避難的な場所として確保していたのだろう。
「其処に行けば此方側の時間は殆ど立ちませんし、
一応お題をやりこなす間だけではありますが、会話も可能です。」
「まだ問題も聞いておらぬしな。
あわよくばこっちの肉体と向こうの魂をもう一度くっつけるとかも」
「いえ…流石にそれは難しいかと。」
「何故じゃ?」
「本来魂と肉体は一心同体。エフェメラル様は確かに華樹神というかなり特殊な位置に居られており、
魂と肉体が離れる回数も通常の者達より遥か多い数をこなしています。」
「次はないと彼女も言っていましたので…もう。」
そんなと周りがざわつく。
「華は」
「華樹神らの力に近ければ近い程効力を成し得ません。」
「スーパードラゴンボールですら、彼女らの派生ですからね。」
「…なら、理に近い華は。」
そう言ったのはビルスだった。何を言うかとヘレスが怒鳴り声を上げる。
「でも他にない。そうだろう?」
「…っく!!!」
「それで。出来るの、出来ないの?」
「できなくはない。」
「っヴァイス様!!!!」
そう、できなくはね。
寂しそうに、メルをいつの間にベットの方に持ってきていたのか。
優しく触って眠っているように横たわるメルの髪の毛をさする。
「ただ代償が余りにもデカすぎる。」
「どれ程ですか。」
「軽く全宇宙の生命全てで事足りるかどうか。」
「…っそんな!!!!」
「それ程の価値が、その子にあると?」
「というよりかは彼女の力その者が強大過ぎると言うのが正しいかな。」
「あ、アニュラス様!!!!」
「…みていたが、こりゃ予想以上だな。」
ごめんね、と泣きだしてメルを抱きしめる様に倒れて泣くヴァイスの背中をそっとさすってやる。
首を横に振るということは、もうそういうことなのだろうか。
「ただ、華樹神と同じ様におためしの華があってね。」
我々全員、こういう時の為に溜めているんだよ。
そう言ってアニュラスだけでなく各理が姿を現しその華をちらつかせてきたではないか。
「これならどんな理をも覆せる効力を持つ。この子も生き返るだろうね。」
「っ!!!!」
「ただし!!!…同時にこれは、禁忌を犯すことになる。
まぁ間違いなくお前達全員の消滅は免れないな。」
「…そんな、それでは、エフェメラル様は例え生き返っても我々がいないのでは。」
「シン…皆迄言うな。」
「ですが。」
「そこで、メルが密かに企んでいたこともあって、こういうものを用意しています。」
「それは?」
そう黒いボタンを取り出したアニュラスがとんでもないことを言う。
「メルの録音機」