ドレスアップ・セレモニー




『うう〜〜〜お腹痛い…』
「はぁそう言うと思いましてはいどうぞ。」
『いつもいつもありがとう。』
「貴方作れないんですよねぇ、こうなると。」

そうなんです。痛みでそれどころじゃないんです。
そう明らかな保健室みたいな部屋で蹲るメルの事が少し心配で
ウイスが帰る前にちらりと様子を伺いに来ていた。

「失礼します、お兄様」
「おや、帰られていなかったんですか。」
「少々メルさんの様子が心配で…」
「見ての通りです。まぁいつも通りと言えばいつも通りなんで。」
『うう〜〜〜さわあ〜〜〜』
「嗚呼はいはい、此処に居ますから。」

お手手〜はいはいどうぞ。

そう言って片手を出してやると手をぎゅっと握って半泣きのメルがみえる。
お熱いことでと茶化すとむうとサワアがしかめっ面になるのをみて
少し自分の弟に似ているなと想い出していた。

「うわ…痛そうだね?」
『いだいビルス様なおして』
「ごめん僕破壊神だけど君の体内の痛みを破壊するわけにはいかないんだよね…」

っていうかそれしちゃうと君自体消滅するよ?
うう、むりい。さ〜わ〜あ〜!!!
嗚呼すいませんこればっかりは我々も手が出せないのです。

「えっそうなの?てっきり出してると思ってたんだけど…」
「そうならばこうなっていませんよ。」
「嗚呼まぁそりゃそうか。」
「なんだかんだ言ってこの子は人間なのです。
気やらなにやらは天使ですがね。」
『あ〜〜ん人間やめたぁい』
「これ、馬鹿を仰られないで下さい。
そんな欠片一つも思っていないことを
言わないで欲しいものです。」

本気でやったら貴方絶対恨むでしょうに。
うん。
うんじゃありませんよ、うんじゃ。

そうメルとサワアが軽く雑談をしているのを見て
仲が良さそうで何よりだねぇとぼやくビルスに
ウイスもクスクスと笑って全くですねぇと答えた。

ううと唸るメルが声を出さなくなって身体を丸める。
どうやら本気で痛くなったらしい。サワアを握る手が強くなっては弱くなった。

「…メル?」
『っ』
「ん?なんだこの音。」
「あ〜〜〜はいはいはいはいはいはいはいはい」
「うおっなんだ急に」
「やっぱその薬は相性悪かったか。コレ飲めるか?飲めるならこいつの指強く握れ。」
「…握りましたね。」
「よし、起こせるか?」
「ええ」

起こしますよーというサワアにメルは何も言わずに顔をしかめっ面にしたまま起こされる。
口を開ける彼女にぽいと薬を投下し、水を持たせようとするが手が上手く動かない、
いや痛みで動かしたくないのだろう。サワアに目配せをする彼女にこくりと頷き水を受取る。

薬を飲ませてそのまま身体を横に寝かせる。

「どうだ?」
「そんなすぐには治りませんよ。一時間様子見ですねえ。」
「そんな痛いのか?」
「まぁ生きとし生ける者の定めですから。
こればかりは産まれたことを恨むしかないでしょう。」


++++++++++


目を覚ませばどうやらもう夜になっていたらしい。
ちらりと見れば少し目を閉じていたのが開く

「起きましたか。具合は…どうやらよくなったようですね。顔色も良い。」
『…ん。さわ』
「どうしました?」
『ありがとお』

ずっと何時間も傍に居てくれたのだ、お礼くらい言わせて欲しい。
それには目を少し丸めた後、ニコリとお礼を言い返してくれた。

暫くしてクノフィリスが入ってくる。
診察を軽くして大丈夫だと答えたことで声を上げた。

『よーしメルちゃん復活!!』
「眠りやすいがこっちの薬をあげとこうか。」
『ありがとうごじゃいます。ほんとうに。』
「よかったですね、エフェメラル。」
『ほんと生理痛のお薬こんなハードモードなの聞いてないわ〜〜!!!』

これで妥当生理痛だ。

「それでどうしてこっちに来てたんだ?」
『嗚呼そうそう、全王様がトランプにハマりそうな予感あってさ。』
「ほートランプを教えたのか。」
『それでハイ&ローしかしてなくてさ。』
「またトランプじゃないトランプをやらせたな…」
「そうなんですか?」
「嗚呼本来の使い方にしては少々違う方向ではある。
まぁ掴みが良かったのは良いだろうが…それがどうした。」
『トランプの種類がイマイチ掴めなくてさ、皆に聞いたら色々やり方分かるかなって。』
「って言ってもお前どれくらい知ってるんだ。」

そう言われてメルはえっとおと指を折って答える。

『豚の尻尾でしょ?神経衰弱に七並べ、ババ抜き、ダウトに
ブラックジャック。スピード、ポーカー、
大富豪と四つ葉のクローバーくらい。』
「多い多い多い多い。なんなら最後のはしらん。」
『ありゃそうなの。』

確かピラミッドとかそういう系もあったよねぇ。
そういうメルに、いやお前の方が絶対詳しいと断言する。

「普通其処迄するか。」
『そう?私よく豚の尻尾好きでしてたんだよ?
こう丸にしてカードをどんどん真ん中にだしてくやつ。』
「あったなぁ〜〜〜いや子供の頃にやって以来全くしてない。」
『今度やろうよ〜〜〜』
「割とガチでやってもいいかもな。ただスピードはやめとけ。」
「なんでです?」
「身勝手の極意を使ってやられると話にならん。」

スピード勝負の勝負ですからねぇ。
あれは身内で且つ人間の遅さだからこそ面白いというもの。
慣れている奴らにやられると速度の速さで面倒が起きそうで怖い。

そういうクノフィリスにメルもうんうんと首を縦に頷いて答える。
いや懐かしいよね〜〜〜

『全王様自分達でいう処の多分ね、3歳から5歳児じゃないかなぁって踏んでるんだよ。』
「あ〜〜〜〜〜〜成程なら猶更戦争とかああいう系は駄目だな。」
「戦争?何処かに突撃するんですか?」
「トランプゲームの題名が戦争なんだよ。詳しい説明は省く。」
「はぁ…」
「それなら神経衰弱とか辺りだろ。豚の尻尾も割と良いな。」
『はーーおっけーぐーぐる。子供の健全な遊び方について。』
「わしゃAIか。」

そうボケと突っ込みが入り混じる中割と話せてよかったと思う。
そのまま体調が良くなったことでティーナらが押し寄せてきて
軽く揉まれつつも情報を得て無事帰還することに。

ではと言って抱っこされるのも慣れてしまったのが怖いところ。
いやはや、この顔が近くにあると思うのが嫌になる。
うう、胸がどきどきして苦しくなるから辛いのだ。

平穏じゃない。平穏が来ない。私の平和はいずざどこ。
家に帰ると風呂にご飯と食べてふと我にかえる。

『ん?あれベット何故?』
「今日はもう寝ましょうということで。」

いや風呂は一応入ってしまったが、
おや、嫌ですか?とベットの中に入ってくる彼に嫌な訳あるかと答える。

『寧ろ嬉しいくらいなのに。』
「…そんなこと言うと本当に襲いますよ?」
『え?なんで。もうサワアのものなのに?』
「…はぁ。貴方が不調じゃなければ良かったのに。」
『え?え?ええ?』
「はいはい、もうねんねしましょうね。」

そう言われてベットに寝かされる。
いやいやいやいや、そんなゆっくりなんてしている暇、ない、のに。
そう寝付いたメルを見ておやすみと頬にキスを落しその場所を後にする。

「おや、来ていたのですか。」
「…ええ。具合は?」
「やっと良くなって今寝付かせましたよ。
普段は寝付きにくいんですがすぐに眠たくなって寝ました。」
「そうでしたか。」
「そっちまでブザーが鳴り響きました?」
「ええ。何事かと思って来たんですが、そう言う事なら大丈夫そうですね。」
「そうですよ。あんなことにさせる訳がないでしょう。」

我々もその都度連絡を取っているというのに。
いや本当に変わりましたよね。

「これ程まで協力して守るなんて前代未聞ですよ。」
「全くです。彼女に狂わされたと言っても過言ではないでしょう。」
「それを許して貰えるとは、彼女の振る舞いというべきか…」
「はたまた日頃の行いでの徳が積もり積もったものなのか。」

いずれにせよ彼女は偉大ではあるようなことを成し遂げているのは事実ではある。
こんな世界線があるとは恐らく自分達も彼女を見つけるまで思っても居なかったことだろう。

まぁ知ってしまってはもう後戻りなど出来やしないし、
彼女に出会う前なんて考えたくもない話だが。

「にしても元気ですね。あのような形にならなければ。」
「ええ。あのような形にならなければ。元気に走り回っていますよ。」

此間大神官様に忠告されたばかりで。
…頭が痛い話をなさらないで下さい。

「幼子ではないはずなんですが…幼子ではない、はず、なんですが…」
「ふふふ、大事なことなので二回言いました?」
「違います。大事ではない上に憐れに思えて思わず二回言ってしまっただけですよ。」

まったく、彼女が礼儀正しく振る舞う機会などあるのだろうか。
そう言うコルンに、ふとサワアが思いつく。


++++++++++

『作法?』
「ええ、メル。貴方がどれ程の作法を知っているのか少し興味が湧きまして。」
『作法ってあの作法?こう、テーブルマナーとかのああいう?』
「それも含めてです。実践してみます?」
『嗚呼……それならちょっと待ってて。』

はぁと言って待つこと数十分。

「…メル?その恰好はどういう???」
『正装。』

そう引きだしたのは前に来ていた衣服には近いが、
どうやらこっちの方が正装らしい。
白いベールに身を包みつつも、胸元には青いスカーフが。
腹部は隠れている、少し丈の短いワンピース姿で現れてきた。

その姿は身なりが整っており、髪の毛を後ろで一纏めにしているのがまた好印象にも見える。

『じゃあテーブルマナーからか。』

確かナイフとフォークはこうやって持ってと思いながら
昼食であるはずの肉をそっと切って口元に持って行く。
ううん、上手い。まじくそ美味い。

そう思っても声にも出さなければ身体にも出さない。
常に礼儀正しくとは身体も心も穏やかにすることだ。
メルはそう自分に言い聞かせながらも食べる食べる。

本来スープは手前から奥にスプーンを動かしてすくうもの。
口に入れるときは、音をたてないようにする。
何ならスープは吸うのではなく「流し込む」ように飲むのがコツだ。

前は音を立てれば何処でも誰でもどんな場所でも怒られていたからな。

肉料理は筋を切る様に斜めにナイフを入れるとさらに切りやすい。
付け合わせは肉とのバランスを見て食べるべきだ。
間違っても全部切り分けるのはマナー違反。
肉汁が流れてしまってせっかくの料理が台無しになってしまうから。

まぁいつもは全部切り刻んで食いまくってるがな!!!!
だって熱いんだもの。一気に冷まして一気に食いたい。

外側のフォークやナイフから使い、スープも飲んで満足する。
いや、カボチャのスープ美味すぎる。なんだ誰だこれ作ったの。

「私ですよ。」
『美味です。本当に美味です。』

深いコクがまた跡を引かない。かぼちゃだから割と途中濃かったり後に残ったりするのだが、
どういう調理をしているのか知らんが、滅茶苦茶落ち着いている。

『後味があっさりして美味しいですよ。お肉はミディアムですかね?
程よい柔らかさが口の中で味わうことが出来、
美味しいさが長続きして非常に良いと思います。』
「…そうですか。それは、良かった。」
『…ん?なんです?そんな凝視して。』
「いえ、貴方本当にエフェメラルなんですよね?」

失礼な…!!

『むぅ、私だってこれ程のテーブルマナーくらい覚えています。
一体どれ程家庭科を習ったとおもうんですか…!!!』
「嗚呼…ご教授されたのですね。」
『小さい頃はともかく、未成年でもそれなりにマナーを覚えさせられるんです。
マナーの為に父が良くレストランは惜しまずに通わせてくれていましたので。』
「それはとても良いことですね。」

そう隣で果実酒を嗜むコルンに対して
メルはナプキンの端で口を拭いたものを手元に置く。
内側の方を使うのがコツである。

「本当に別人を見ている様ですよ。」
『むぅ〜〜〜〜!!!!』
「っくくく、その姿をみて安心しました。続けてどうぞ?」
『いや後デザートしかないが…まぁいいですけど。』

アイスクリームと小さな果実が乗っかっているものがでてきた。
えーと、確か複数だと溶けやすいものから食べるんだったよな。
そう思いながらデザートを食べていくメル。

次に食べるのは薄い味だが、ケーキなどのフルーツが乗っているものは
最後に食べようとするとお皿の上が
最後まで美しく見えるようになってお上品にみえるぞ!!!

ご馳走様でしたと言ってナイフとフォークを右側に寄せてナプキンを机の端に置いて席を立つ。
クルリと回って『これでどう?』とサワアの方を向くと正解を答えてくれた。

「パーフェクトです。流石エフェメラル。」
『なんか途中貶されていた気がするんだが…』
「はいはい、次行きますよ。」
『待って!?食事だけじゃないんか?!?!』
「ええ…まぁと言っても全王様の所までですが。」

コツコツと少し音を立てて歩くメルだったが、扉の前でそっと立ち止まる。
この先は一人で行くにはきついと感じ取ったのだ。
流石に薬を飲んでいるとはいえど、気を使うのは避けたい。

『すみません、手を取って頂いても?』
「…ええ、お手を。」

何時の間につけたのか忘れて居たが、
白い手袋をはめたメルの手を
そっとサワアが手に取りそのまま歩き出す。
メルの隣はコルンが歩いてくれていた。

「それにしても靴を履いているのは何時ぶりです?」
『本当に分からない。後で絶対靴ズレ起きちゃうう。』
「ふふ、その時はまた練習あるのみですね?」
『うう…だから靴は嫌なんだよ。』
「そう言ってもきちんと身なりを整えられるではないですか。」

やればできるのに何故いつもしないのです。
いやこういうのは特別な時にするのが良いんだよとメルが答える。

『メリハリ大事だよ?メリハリ。
ないとそれに固執しちゃって
人に言い過ぎちゃうとか在り得るからね。私の場合。』
「だ、そうですよ?コルンさん。」
「なんですか、そうだと仰りたいのです?」
「ふふふ、さあどうでしょう?」

コツコツと音を立ててもちゃんと歩く三人。
ただ、何時もと違う動きが一人だけ。

『なに、コルン。そんな見てきて…私そんなぎこちない?』
「いえ…ぎこちなくないのが不自然過ぎて怖いですね。」
『ええ、何本当にさっきから。』
「それは此方のセリフです。日ごろからそうやってしていれば
破壊神や弟妹達に舐められないというのに。」
『ああいうのは敢えて舐めさせて地獄に突き落とすのが楽しいんじゃん。』
「腹黒いことを仰らないで下さい。」

じゃあどうすればええんだこいつは。

「にしても歩き方まで綺麗だとは思っていませんでした。」
『まぁいつもは走る前提逃げる前提で身なりを整えてるからねぇ。』
「…ちょっと待って下さい貴方まだこの場所から逃げるつもりだったので?」
『まぁいざという万が一の時様に?コルン達がコルン様とか在り得そうだし。』
「訳の分からないことを言わないで下さい。」
『だから別人だった時に逃げる算段を作る為に
敢えて無警戒を装うことにしてるんだってば。』
「そうすれば隙が出来た範囲に入ってすぐ動けるように、とかです?」

そういうことだ。
もう少し他にやり方は無かったのですかと問われて色々あったとメルは意外な答えを叩きだした。

『でもあれもこれも、全部死んだ。』
「死んだ?」
『自分を作って死んだんだよ。気付いたら地面に朽ち果てた自分がいた。』

余り心地良いものではなくて、その自分を愛する方向性に変えたら世界が色づいたくらいか。
そうすれば自分の痛みも其処迄苦ではなかった。まぁ見ない様にして逃げたというのが正しいが。

『その流れが離れないだけ。なんとか戻してもこうやって戻ってくる。』
「…身なりを整えたいが、長い時間そのようにされていたのでしたくても出来ないと。」
『そういうこと。…ごめんね?もう少し待ってて?』
「一体どれ程天使を待たせれば気が済むのですか?」
『えへへ〜〜〜百億万年?』
「絶対それ以上かかるでしょうが。」
『あっそんなこと言ってたらほらついたよ!!』

そう言っていつもいる場所の方向にサワアの手をそっとはなす。
華を極力地面擦れ擦れに出してしまい、先に大神官へぺこりとお辞儀をする。
何時もは頭を下げるが、こういう正装をしている時は左右の服を軽くつまんで
少しだけ身体を下げるくらいが丁度良い。

絶対目は見ない。私がにやけるのと気合が落ちるから。
どういう顔をしているか見れないのが心苦しいが。

『全王様、ごきげんよう。』

そう言うと周りが静かになる。
あれ、私マジで何かした?
ぴたりと頭に手を当ててくる大神官がふむと答える。

「エフェメラルさんで間違いないですね。」
「だから言ったでしょう?メルで間違いないと。」
『まって???私偽物だと判断された????』
「余りに身なりが違うので。堂々と来るにはおかしいなと思いまして。」
「メル〜そんなことしてどうしたの〜?」
「どうしたの〜?」
『いやサワアに言われてやってみたんですが…お兄さんどうです?』
「ふふ…合格ですよ。寧ろ良く其処迄出来るのに全くしないという潔さに参りました。」

いやこれ貶されてるんだよな?殴って良い?
別に構いませんが此方ではお控え下さい。
ですよね。分かりました。ぱっぱから許可取れたから後でするぞごら。
これ、無礼なことは慎んでください。

「先程やっていたことをもうお忘れですが。」
『ええ?してもいいけど…誰か分からなくなったら嫌じゃない?』
「エフェメラル様はエフェメラル様でしょう?誰も間違えませんよ。」
『皆疑ってたくせに…』
「それ程良かったからですよ、見違えるほどには。」

にしても本当にマナー自体は出来るんですね。
なんだ一々棘があるな今日ほんと。

「天子の戯れだと思って頂ければ構いませんよ。」
『戯れかなぁ…』

戯れならいいかぁ。
おやおや。