愛することの微笑みを
気を練って練ってマーブル状にしていく。
黄色や赤や緑や青や色んな色があるのを
ひとつずつ千切っては混ぜて千切っては混ぜ続ける。
飽きないかと言われたら永遠とすれば飽きる。
だが飽きない様にするのが私の得意分野でもあるというもの。
絶対これものづくり系の仕事に就いた方が発揮するんだろうな。
界王神とか?いやあれは創った後見守りに徹しないといけないから無理だな。
じゃあ破壊神?そもそも花を踏みつけて怒り散らす程に短気な私が無理な話だろ。
この世界全部を破壊しつくすつもりなのか。馬鹿言わないで欲しい。
それなら天使?だとしても誰かに仕えるなんて私が出来るためしがないだろう。
どれもこれも駄目。ならば作ったというべきなのだろうか、この地位は。
そうやって考えていると失敗するのだ。
ぽしゅうという気の抜けた音にはぁとため息を吐いた。
これでも自分の気が無くなれば困る。
赤い樹の実を食べれば大体元の大きさに戻る。
正直適当に放置して置いた方が楽なんだろうがな。
こうやって気を凝縮しては混ぜてを繰り返していくと
何かのヒントにならないかと思ってやっているんだ。
まぁ…後ろからじろりと見られて居りゃあ
そりゃまぁ間違えるのも頷けるというものか。
『……あの〜〜〜〜なんでこっちをみられて?』
「嗚呼いえ、おきになさらず。」
『…じゃあ?』
そう言ってメルはまた意識を集中する。
大体こんなに気を与えて彼らは大丈夫なのだろうか?
そもそも気ってどうやって作られるの?
確か話によると気って体内エネルギーの比喩だったよな。
つまり体内にあるエネルギーの量…いやこれ結果に辿り着かねぇな。
そう思っているとまたぽひゅっと変な音が出た。
嗚呼くそ!!こういう日は何しても駄目だ。
次のことをやろう。次のことを。
…というか、この気配が駄目なのでは????
「なんでしょう?」
『…ヴァドス様、何故こっちを見られているだけで。』
「おや、見てはいけなかったですか?では向こうを。」
「絶対そういう意味じゃないと思うんだが。」
『シャンパ様合ってます。貴方の思考回路は至って平常です。』
そもそも気の概念が余り理解出来てないから間違えるのでは
なら気の仕組みを知ってしまった方が彼等の気も無駄にならない
でもどうすればと唸るメルに、それは正しい判断ですねとヴァドスが答える。
「貴方の状態であれば気の概念を理解されていなさそうです。
ですのでいくら我々の気を与えた所で嗚呼いったケースになるというもの。」
『…教えてくれるの?』
「ええ。ご理解いただける範囲までお教えいたしましょう。」
私で良ければ。
貴方じゃないとだめです。
おやまぁ、それは嬉しいお言葉ですね。
「そう言っていただけれるならば、このヴァドス、人肌脱ぐと致します。」
『早速質問なんですが、気の容量って人それぞれなんですよね?
こう人間だからこうとか天使だから此処くらいまでとかあるんです?』
「ありませんよ。人間だろうが天使だろうが神だろうが
気の容量はその個人による実力と結びついているものです。」
『はーーーーー』
やっぱりそうか。じゃあ実力には技術や技量等と言った
他の要素も関係していくるんだろうか。
「大よそ合ってます。ただ力量を測る指針にはなりますが絶対的とは言えません。」
『あ〜〜〜汲み取る場所が違うからですかね?
実力があるからと言ってそれが力量とは言い切れない。
瞬発的なものも含めて力量と呼ぶのでっていう。』
「素晴らしいです。まさにその通りと言えるでしょう。
其処迄分かっておられて、何処で躓いているのです?」
確かコルンさんに教わっておりましたよね?
うっそう、そうなんですが…
『こう…今更過ぎて。気って元気や勇気、
正気と言った精神力も含まれるんですよね?』
「ええ。」
『パラメーター的なものってないんですか?』
「なくはありませんが必要かどうかと言えば不必要でしょう。」
嗚呼だから何もしないと。そりゃそうか。
まぁ私も言うだけ言っただけで、必要ではないと判断しているのだが。
『ん〜〜混ぜる感じは分かるんですよ。
気が何処から来るかも何となく分かるんです。
でも、これはこれ、それはそれ。』
ああそうか、私は混ぜたくないんだ。
『私が嫌なんだなあ。…だから失敗するのが多いのか。』
「受け入れることもまた、実力というものですよ?」
なら私は何もないに等しいという者ではないか。
そう思っていると気の量がぎゅんと縮小してきて
身体が横にばたりと倒れた。
名前を呼ばれている気がする。
何も聞こえなくなっていく、遠くなる。
意識が飛びそうになっていく中、一人の人から声が聞こえた。
ーおいで。最後に空白。また来て静寂。
バサバサと音が聞こえて目をあける。
白い世界に自分の身体が落とされている感じがする。
ん?落ちてる?いやちょっとまて!!!!!
『いいいいやあああああああああああああ!!!!』
これ地面わからないのでは?!?!
焦って気を纏めようとしても力が入らない
と言うか飛ぶつもりでは駄目だ。
えっでもどうやって受け止めるのこれ!!!
『誰か助けてちんちくりいいいいいい』
「メル様!!!」
その声に涙声になりそうな声をぐっと止める。
コルンと叫んだ後、上から近づいて来てくれて
ぐっと胸元と腰元を下から抱き上げる様にした。
鼻先が地面に付いたのを感じてひやりと胸が落ちていく。
びびびと身体の端から端まで怖さが伝わり切ってから
身体の緊張を解いてぐったりとする。
それと同時にコルンも持っていた身体をそっと下してやった。
「っあ、危なかったですね……」
『ほ、ほんと…すいません、慌てちゃって』
「いえ…空から落ちてきていましたが、怪我は?」
『貴方が助けてくれたものでありませんよ。』
本当にありがとうございますとお辞儀をするメルに
いえいえ当然のことをしたまでとコルンが答える。
いや本当に恐縮しないでいいんだよ。
「それはそうと、此方は夢…ではなさそうですね。」
『コルンさんコルンさん』
「なんでっ……嘘だと言って下さい。」
『現実ですし嘘でもありませんねえ。』
そう此方を見て指を指していた方向を見たコルンがぎょっと顔を変えた。
ゆっくりと泣きそうな声を出して項垂れるコルンにメルは苦笑いだ。
最早これ魔女の呪い部屋と付けてもいいのでは。
「悪い知らせです。」
『ええ。わかっています。』
ギギギとさび付いたブリキの様にお題のある場所を向いた二人の目には
堂々と、いや久しぶりと旧友に会ったくらいには堂々と置かれている。
「差し支えなければお聞きしても?」
『ええ構いませんよ。なんでしょう?』
「先程まで何をされて何方におられて何方と居られていました?」
『気の基礎ああいや、なんでもないです。』
「エフェメラル様????????」
そう背後からゴゴゴという圧がみえる。うわ〜〜〜マジ切れマッハ5秒前。
『ヴァドスさんが後ろから見てくれていまして。
私は貴方達から貰っていた気を自分の気と融合させている途中だったんです。』
「…そうでしたか。ですが何故今更ながら
ヴァドスさんから気の基礎を教わっておられたのです?」
『…気の練り方が自分の知らない感覚があったらと思って。』
「もしかして失敗して勿体ないとかそういうお考えが?」
うっその通りです。そう胸をぐっと握り締めて軽く身体を丸めるメルに
少し真剣な顔で考えて「ふむ」と唸って数十秒いや数分が経過した気がする。
どうしたんですと待てずに聞いたメルにいえとコルンが答えた。
「貴方大雑把の様に見せているのはそれフェイクですよね?」
『いやまぁ偽物っちゃ偽物ですが…』
「これ日本語訳しない。」
『だとしても何の話です?話しが見えないんですが。』
「ああいや、そうですね…嗚呼そのことは考えていませんでした。」
確かにと言う彼にねぇと声を掛けた。
「貴方の使う精神論に我々の気が耐えきれない可能性が高いんですよ」
『たえ、え?たえ???』
「ヴァドスさんからはどのように教えてもらって?」
『どっちかって言うと私が問いかけた感じです。
気は精神論とかも含みますよねとかそういう。』
「其処からですか……いやこの際話を流しましょう。それで?」
『ええと、確か気の容量の話をしていたと思います。
人間と天使や神で確実な分け方とかあるのかなって。』
人間は10まで天使は15まで神は20までとか。
ラインがあったりするのかなと思って聞いたりはしてました。
そう言うメルにそれは違いますねとコルンが答える。
「分かっていると思いますが、もし仮にそうだとしてみれば
破壊神候補者達は10までが限界ということになります。
確かに人間が天使を凌駕するなんてことは未だに無いことですが
そう身構えていると足元を掬われることはあり得るというもの。」
『絶対とは考えないってことですよね?』
「ええそうです。それに寿命があるとは言えど
此処の性格でも気の容量や技量も変化します。
良い例が貴方の知る悟空とやらの人間でしょう。」
…まぁこの場合無邪気としよう。絶対それだけの性格ではないが。
彼の様な無邪気さに左右され、気の容量も変化する。
精神が切羽詰まれば容量と言うよりかは気自体が減少すると言うべきか。
本来使えるものが引き締まってその分が消えるいや見えなくなる感じに近いだろう。
そんな時に本気を出せと言っても、どだい無理な話である。
なのでリラックスさせて本来持てるものを見せさせる必要がある。
「気は素直ですからね。自分の実力は全て測ることは不可能ですが、大体は見当がつきます。」
『そう、ですよね。うんそうだよなぁ……』
「何処で躓いておられて?」
『嗚呼そうだ。そう、ソレを考えてたんです。』
何処で躓いているんだろうって考えて。
『私サワア達から貰った気を自分のと混ぜたくないって思っちゃって。』
「…拒絶ですか。」
『そしたら青い方の気がぎゅんって消えて、身体が動かなくなって。』
「ちょっと待って下さい。それ本当に大丈夫です????」
戻ったらすぐさまそちらに向かわせて貰います。
えっやでも
「いいですね???」
『あっひゃい……』
「全く…それで?」
『うう…受容しないのが駄目なのかなぁと。』
「ああいやそっちの件ではなくてですね。」
嗚呼すいません。
「いえ、話を戻しましょうか。
私はリキール様の付き添いで、とある星の見定めに行っていました。」
『いやお仕事中〜〜〜〜ごめんなさいほんとうにすいませんでした。』
「別に構いません。こういうのは突拍子もない時に出ると聞いていましたし。」
まぁもう終わったものだと思い込んでいたこっちが悪かったというものだ。
そういうコルンにメルは神かよと受け入れてくれることに感謝していた。
「それで、私も似たようなことを考えていたのです。」
『似たような?』
「…貴方に気を渡して、それで拒絶されてしまえばどうなるのだろうか、と。」
仕事中に考える等私も修行が足りませんねと反省するコルンに
そんなことないとメルは答える。
『仕事中でも自分の知る人達に関われば必然的に話がそれたりもします。
きっとその内容が私に近しい人が見えたからなんでは?』
「…っ!…仰る通りです。詳しい話は省きますが、
貴方の様に気を混ぜ合わせ循環させる種族を見つけましてね。
彼等は外から受け取る気を拒絶すると死ぬとされていました。」
『…死』
「ええ。なので、もし貴方がそうならばと少し心配を。」
そりゃ私でも仕事中に考え込むわ。
嗚呼成程、二人が同時に同じことを考えていたからか。
いやだとしても私これから外に出たくないんだが。
「その件につきましては後ですぐに対処すると致しましょう。
それで何方におられました?」
『一応奥の方に。家の玄関先でお話をしていました。』
「わかりました。コレが終わり次第すぐに向かいます。
次の時間は私らが担当致しましょう。」
『ううずらしてすみません。』
「こればかりは仕方がありませんよ。後でこの件については
大神官様達にもご報告しなければなりませんし。」
それに…お題がお題ですからね。
そう見つめるそのお題3つに少し眉間にしわが寄った。
至って健全と言えば健全だが…
「内容が悪意しか感じ取れませんね。」
花畑から花束を作ってお互いに送りあう
廻廊一期の幼少時代に初めて作ったものを二人で協力して作る
ほっぺたを15分間くっつけ合わせる
『花束…』
「花冠でないだけマシと言うべきでしょうかねぇ…」
『と言うかコルン様これ全部読める????』
「貴方が優しく丁寧に教えてくれたおかげで、ねえ?」
『あっちょ近いですちかっ』
「これくらい我慢してください。外に二度と出られなくても知りませんよ?」
嗚呼それとも
「私と二人きりでこの世界に、永遠に閉じ込められたいと?」
『〜〜〜〜!?!?!??!?!』
「ぷっ、っくくくくすいません、痛いですよ。おやめなさい。」
吹き出す様に笑ったコルンに対して威力を増して叩く。
顔を赤らめて図星であることもバレているのが分かっているから。
メルはぽこすかとコルンの胸を叩いて言うなと意思表示を示したのだ。
「ま、先にこういうのは手を打っておいた方が良い。」
おいで。そう片手を出して微笑む彼に、ぐっと緊張が走るも
数歩下がって色々考えた後、そっと近づいてみる。
何時のまに白い椅子が出てきたのか。
ゆりかごの様に揺れるその椅子に深く腰掛けている
椅子の取っ手を取ろうとした時、ぐっと引き寄せられて
思わずわっと声が漏れた。
「早くしないと外にでれませんからね。」
『あっちょ、ちかっ。』
「嫌でも我慢なさい。」
『でかい…』
「嫌味ですか。」
いや予想以上に顔デカいんだもん。
そっと離してメルはクツクツと喉を鳴らして笑う。
『だってコルンの顔デカくて自分の顔が小さく見えて笑っちゃう』
「いやどう考えても貴方の顔が小さすぎるんですよ。
クスお姉様でもまだ通常というのに
貴方下手したらお姉様より小さくありません?」
『流石にそんなことないない!!』
「これ、動かないで下さい。お題が達成できないでしょう。」
『だって体勢がよくないんです。』
「なら肩の方に身体を寄せなさい。」
体重を全部かけて貰って構いません。
そう言われてメルはコルンの右肩の方に身体を寄せる。
失礼しますと言った彼が自分の腰元に腕を回してきたではないか。
流石に驚いてびくりと反応する。
嫌がっているのが伝わってしまったのだろう。
嗚呼ごめんそんなつもりはなくてだな。
『ううごめ』
「…いえ、ご無礼をお許しください。これっきりにしますので。」
『っ』
「(熱いですね…嫌がってる様には見えませんが…)」
メルは相手に対して機敏に動く子。嫌がる様に見せないだろうが、きっと自分とは嫌だろう。
ただでさえ兄と結ばれて幸せであるのに、こんなことをさせて良いかと言われると答えはノーだ。
正直替わってやれるならそうすべきだが、こんな照れられるとこっち迄移ってきて仕方がない。
熱が移るとはよく言うものだ。
心臓の鼓動が此方には模倣されたものでよかったと思う。
人間のつくりをしているが、人間が持つものはない。
緊張して心臓が早くなったり遅くなったりとかはないのだ。
常に天使は形を永遠として保つ存在。
その為人間の様に時間で生きるなんてことはしない。
天使はその時間に生きれないと言えば生きれない存在。
そういう作りに、なっていないのだ。
だが、もしも心臓の速度が速くなっていたらと少し困ってしまう。
どうか気づかないで欲しい。この気持ちに、感情に。想いに。
貴方を想う者が、兄以外にも大勢いることに。気付かないで。
「(役得なんですよねぇ〜〜これが、また。)」
メルと契りを交わさなければならないと知った時
正直な話、ガッツポーズを出す勢いで嬉しかったのはあった。
そりゃあもう自分のことを救ってくれた者なのだ
彼女の助けになるならこの命一つくれてやっても当然というもの。
なんなら彼女の実力を自分で指導して、小さなことでも喜んでくれるのだ。
そんなもの、天使冥利に尽きるというもので、間違いないと思う。
だって考えてみて欲しい。自分の名付け親が困っているのだ。
それが自分で自分の培った全てが活かされていると思えば
これ以上の幸せ等一体何処に存在するのか
逆にこっちが問いただしたいレベルである。
こわばっている身体をもう少し近づけてメルでいう左頬に右頬を摺り寄せて見る。
顔の表情はくっつけていると分からないが、緊張している感じからしてまだ慣れないだろう。
声を掛ける訳にもいかない。話していて離れたらまたもう一度になる。
まぁ別にそれがお望みとあれば幾らでもしてやるというものだが。
「(にしても、本当に懐かれましたねぇ)」
兄が言っていたことが事実になるとは思っても居なかった。
慣れたら兄の様な近しいことになると
渋っている様にも見えた言い方をしていたが、
本当にこれは堕ちない方がおかしいと思うくらいだ。
これでキュウキュウと喉を鳴らして懐いてきてみろ
間違いなく可愛らしさで胸が締め付けられると思う。
厳粛にと思うのだが、こればかりは仕方がない。
自分に懐く生物等本当に片手で数える程度しかいないのだ。
なんなら長い付き合いとなればこの子一人だけになる。
嗚呼…お父様が幼い頃から引っ付かせていた気持ちが
今頃分かった気がします。何となく。ええ、何となくですが。
確かに、これは…癒されますね。
出来れば少々仕事で詰まり過ぎて頭が痛くなった時に
抱かせて頂けると非常にありがたいかもしれません。
まぁ人形ではない上に後々仕える身に
そんな無礼なことをしてはいけないのですが。
加えて兄のものといえば兄のものですし。
何だかんだ言って自分は契約を交わしただけの付き人止まり。
恋人や深い関係になんて踏み込んではいけないのです。
嗚呼でももし、もしも貴方と結ばれた世界線があったとすれば。
私は一体どんな世界に生きていたのでしょうか?
そして貴方はどんな風に私へ愛を示してくれていたのでしょうか。
「(考えることすら野暮というものでしょうね…)」
自分がその場に付くなんてきっと奇跡が起きても無理な話だろう。
コルンはそう思いつつメルを抱きしめる力を緩めてやる。
メルが動き出したからだ。どうやら体制が厳しいらしい。
だが流石に此処まで来たら我慢して欲しい。あと数分なのだ。
ぐっと上に上げてその体勢をサポートしてやればコルンと声がかかる。
「なんでしょう。もう少しそのままで居て頂けると幸いですが。」
『うう…大丈夫?痛くない?骨とかあたってない?』
「大丈夫ですよ。寧ろもっと体重をおかけなさい。
それともこれ全部とか言い出したら帰ってしっぺきますよ。」
『ひえ、そりゃやめて。』
しっぺ。それはメルに対しての方言に近い言語だ。
しょっぴくというか、軽くお小言を告げる時に良く言っている。
まぁ元々は言い間違えて舌を噛んでしまったのだが、
メルが可愛いからそっちが良いと言ったので渋々そう言っている。
勿論二人きりの時のみだ。
ほんと、可愛らしいったらありゃしないのに。
貴方と言う人は分かっているのやら分からない。
ポーンという音が聞こえ、そろそろかと思って身体を動かす。
それに早くもぞもぞと出ようとする彼女にいたずら心がくすぐられた。
『っへ?あっ、あれ?』
「ん?どうしました?」
『いやっ、ねぇまって、コルン様??とぼけちゃやだよ??』
「おや?どういう意味でしょうか?はっきり仰らないとわかりませんねぇ?」
『〜〜〜っ!!あっ、あの、ちか』
「先程こうやってしていたのに?」
『あう…』
顔を赤らめ、目に涙が溜まるのを見てかわいらしさが膨れ上がる。
余り困らせても後が困るというものだし、これくらいにしておいてやろう。
そう思い、コルンはすみませんと言って腕の力を緩めた瞬間だった。
「…其処迄嫌でしたか?」
『ちが、違うからね!?!?』
びゅんと音を立てて距離を取って言う彼女の説得力がないのだが。
まぁ警戒されることは充分したものだし、
暫く甘えてくれないのは自業自得である。
其処は其処で置いておくとして、問題は次のお題だ。
「メルさん、貴方お腹は空いていますか?」
『…まぁ、コルンさんは?』
「私はやろうと思えば何時でも食べれますので。」
して、貴方の選んだ料理は?
そう手を出して聞くコルンにメルは少し目をそらした。
その顔を見て、少し顔が歪む。
嗚呼そうか、このお題。彼女の母親に対しての想いが強いのか。
未だ消滅しても彼女を苦しめる親に苛立ちが募ってくる。
貴方は其処に行かなくて良い。望まなくて良い。
だとしても彼女は望んで手を伸ばす。伸ばされたら喜んでその手を取るだろう。
そこが地獄よりも酷い煉獄の底に向かう手になると知っていたとしても。
それでも嬉しそうに笑って取ってしまうんだろうが。
そんなことなど、させないというのに。
それでも、望んでしまう。望んでいたのだから。
何年も何十年も、何百年だって。彼女は繰り返して繰り返した。
その時間を見続けて、壊れるはずの思考回路を壊さずに保って戻って来た。
なのに、まだ痛みを付けるのか。
壊れるまでと言わんばかりの内容に、思わず舌打ちが出てしまった。
それにびくりと反応して顔が青ざめる。嗚呼違う、違うのです。
「すみません無礼なことを。」
『ああ、いや…大丈夫。』
その顔が大丈夫な訳があるか。困ったように笑っている。
目を開けたらまた違う表情だ。
本当に大丈夫なように見せてくるのが、此方の胸を強く痛めつけてくる。
「いえ、私が悪いのです。そんな顔をなさらないで下さい。」
『いやいや、嫌だろうにごめ』
「嫌な訳ありますか。貴方の力になれるならこのコルンなんでも致します。」
『…でも』
「私が舌打ちをしたのは貴方とやることではないのです。
…貴方の心を掬っていく奴のことが憎たらしくて仕方がないだけで。」
『…そう言わないで?』
嗚呼そうか、こう思うことすら、貴方は悲しんで酷く怯えてしまうのか。
一応は母親であったのだから。血の繋がりはほぼないにせよ、母体に居たのだから。
だからそんな酷いことを言ってやるなというのか。貴方もそうだったから?
何度も何度も生まれて幸せな時間は一瞬しかなくて。
その永遠に近しい痛みに何度も耐え続けてきたのに
『お母さんはお母さんなの。例え酷くするとしても、それは私が請け負うから。』
「実の子になっていたから?だとしたら私も憎める権利があるでしょうに。」
『そんな感情なんて知らなくて良い。天使が知らなくていいんだよ?』
「ソレを言うなら貴方もでしょう。人間が入っていても貴方だって天使の子です。」
忘れたなんて言わせませんよ。知らないなんて思わせませんよ。
「私が彼女を酷く軽蔑して、貴方も同罪なんて考えないで下さい。」
『でも』
「はぁ……貴方が心配なんですよ。私は」
『コルン…』
「その時間に触れてサワアお兄様の元から消えてしまわないか。」
其処に囚われることこそが、この子の一番の幸福になってしまわないか。
もしそれが望むならば、仕方がないが。
自分らの幸せの為に犠牲になんてなるなら御免被りたいものなのだ。
何度言い聞かせても分かってくれない。
それは自分がそうしないと、最後の結末を乗り越えられないから。
ある意味彼女は生きることに執着している欲深い人間であると言えるだろう。
「消えないとしても、そういうきっかけでもしも消えた時が怖いのです。」
『…大丈夫。消えない。貴方達が私を覚えている限り。』
「一度消えてもまた戻ってくると?それなら二度と消えないで下さい。」
『コルン…』
「すみません、抱いてばかりで。ですが怖いのです。」
兄らが怖がるのも無理はない。
こんなにも優しい子が何故日向ではなく
酷く醜い煉獄ばかりを進まねばならないのだ。
日向で花冠を作っている輪の中に入った時間を想い出す。
未だ兄に花冠を渡していない。それは儀式に近いから。
この地に居ると確立するようなもので。貴方は逃げている。
もしも約束を破ってしまった時、
いたたまれなくて泣いてしまうから。
だから兄に花冠を渡せないのだろう?
分かっているのだ、それはきっと兄すらも。
気付いているのにしないのは、
貴方の心が追い付くのを待っているから。
こっちは待っているのだ。貴方が此処に来てくれることを。
今か今かと待ち望んでいる。貴方もそのつもりのハズで。
でも寂しそうに笑って距離をふとおいてくる。
ソレが此方の心をどれ程苦しめることか、知りもしないで。
「おいて行かないで下さい。行くなら我々も連れてって。」
『…いいの?』
「よくなければこの私が此処まで貴方にしがみつく程に
くっつくなど在り得ないのをご存じのはずですが????」
『うぐ…で、でも…』
「…もう、画面越しではないのです。」
泣かないで。そう言うコルンがメルの涙をそっと拭ってやる。
廻廊の一番目に、初めて作れたものはたかが知れている。
ちゃんとした料理をというのは、誰かに教わったから。
それは誰かに褒められたことがある時間だから。
つまりそれは…彼女の一番を望むきっかけになった食べ物。
それをこの自分と作れと言うのに悪意がない訳がない。
だから腹を立てたのだ。この優しい子に牙を向けるそのお題に。
これ以上傷つけてやるな。罪があるならば、もう充分罪は償ったはずだ。
「私は此処にいます。あの人も、皆貴方を見て笑っているのです。」
『っふ…っ』
「廻廊の者達ではなく、貴方自身を。望んで手を取ってくれている。」
あの方もそうだったではないですか。
ミュリエル様ではなく、貴方を、エフェメラル。
貴方自体を見てくれたから、あの方の傍に行く様に足を向けたのでしょう?
そう言ってしまえば、メルの涙がボロボロと溢れて零れ落ちていく。
声を出して泣いてしまえばいいのに、泣かないのは叩かれたからだろう。
時々身体をぎゅっと縮こませて防御をするのは魂に刷り込まされたから。
それ程痛めつけられる時間を繰り返したという決定的な証拠なのだ。
コルンが指導していて何度も起きたことだし、
まぁ、それに対してなんて怒ってはいない。防衛は大事である。
だが、こうされたことを刷り込まされた時間に怒っているのだ。
痛めつけられ帰って来て心配しない親や周りなんて何処にいるのだろうか。
居たとしても其処には二度と戻すつもりなんて更々ない。
「もう、画面越しだけでいいだなんて、寂しいことを思わないで下さい。」
『っこる、こるう』
「ええ、此処にいますよ?早く出てお兄様に抱き着いてあげなさい。」
『やあ、ふたりが、ふたりが、いい。』
「っくくく、甘えたになりましたねぇ?
構いませんよ、貴方がお望みとあらば
たっぷりと、嫌になるまで愛して差し上げます。」
その痛みが綺麗に拭い去れるとは考えていなかったし。
まぁ妥当な判断ではある。ぐずぐずと泣いている背中をさすりつつ
その目の前にあるキッチンに目を向けた。
さて、いい加減前に進むことにしよう。