百の彩りに溺れる
花束を、貴方に送りましょう。
『ほら綺麗ですよコルン様!色とりどりの選り取り見取り!
…いやほんとに綺麗過ぎて腹立ってきたんだが。』
「色とりどり過ぎて逆に目が痛くなりません?」
あと腹立てないで下さい。嫉妬など滑稽極まりないですよ?
うう。だってえ。
そう白い空間が青い空と色とりどりの花畑に変化してきたのだ。
一応扉はその場所に設置されているのは確認済み。
メルはその間右へ左へとうろうろしているが。
クルリと振り返り、メルの方に足を向ける。
「全く、其処迄調子に乗ったら後がしんどくなりますよ?
向こう側での気を此方でも消耗してしまいかねません。」
『うう、たしかに?』
「これ、言った傍から動かない。」
『だって〜〜〜』
そう間延びした返答に、
コルンはため息を吐くこともなく、
ただメルの跡をついていく。
ぱたぱたと軽く小走りし、
右へ左へ前とうろうろする。
「これ、そんなにするとこけますよ。」
『大丈夫だっべぶ』
「…嗚呼ほら言った傍から、大丈夫ですか?」
だいじょうぶべぶ、となんとも言えない声に手を差し伸べて起こしてやる。
ううと痛そうに顔に手を当てるメルに、見せてごらんなさいと顔を見せさせる。
すると痛いのか目をぎゅっとつまんで顔をこっちに向けてとまったのだ。
それにはこっちも固まる。
『ん?コルンどうし…っ!!』
「…すいません、つい。」
そんな待たれてはつい口にしてしまうではないかと言うコルンに
メルは目を開けてポコスカと叩いてやる。
目を閉じて今か今かとソワソワされたら勘違いくらいはする。
「他の者にしないで頂きたいですね。
そんなことするなら私くらいで留めて頂きたい。」
『私誰彼構わずしないよ!?』
「ほんとですかねぇ〜〜??」
『むう!!まぁいいもん!コルンも考えずに好きなように作ってよ!!』
「まぁそれはしますが。」
あっするんだ。まぁいいかと思いつつも、
メルもそのまま何時しかの時を思い出していた。
しゃがみ、その小さな花弁にそっと手を触れる。
葉腋から穂状花序を伸ばし、
苞で何層にも覆われた青紫色の小花が軽く手で触れて揺れる。
花から飛び出た二本の雄蕊が茶色く目立つ花。
ふむと低い声を出しつつもコルンは
メルから少し離れて幾つかの花を千切って束にする。
用紙を思いつけばその紙に纏めてしまい、一つの束にした。
「メル様、此方は準備が出来ました。」
『丁度私も。っていいんですかそんな花を!!!』
「ええ。貴方に相応しいと思いましたので。」
コルンが見つけたのは3種類の花を束にしてメルにゆっくりと渡した。
色とりどりの花を渡せばメルの身体が花に埋もれてしまうので
彼女が持っていた花と交換してしまう。
『きれい〜!』
「そういえば小さく花言葉を告げろ、
とも書かれていますので一つずつ説明を」
まず一つと指を指して話し出すコルン。
もう片方の手は後ろに回し、花を見て説明する。
「此方はルリハナガサと呼ばれる低木の花です。花言葉は「華憐の極致」」
葉の形は卵から楕円形になっており、
緑が濃く、白い葉脈が目立つも、花よりも目立たないのか、
その花の色が青紫色で余りにも色鮮やかなのか、
葉が際立たせているようにもみえる。
5つの花びらが開くように咲くその花の隣に咲いていたものを指さすと
かれ、ぎょ、と分からなさそうな声が飛んでくる。
「華憐は愛らしい、いじらしい。
極致はそれ以上にはならない、究極の境地という意味ですよ。」
『いや分かってるけど、分かってるけどこんな花言葉要らないですが?!』
「私が思っているんです。黙って受取って下さい。」
『ひえ、お、横暴。』
「何か?」
『ひえっなんでもないです』
そう縮こまるメルにため息交じりに次と指を指して答える。
「次に此方は貴方も良くご存じのはず。」
『ホウセンカですよね』
「ええ」
一年草で夏に咲くもの。
よく小学生の授業で目にする綺麗な花だ。
授業で取り扱われるというのも、枯れることなく
水と日光さえ続けて育てれば、芽吹くのも割と早く、
見た目も分かりやすいという意味でも取り上げられている。
熟した果実に触れると、タネがはじけ飛ぶことからか
理科の授業でよく目にする花でもある。
花は八重咲で、ひらひらとレースの様な花びらが白く光っている。
ぎざぎざの葉っぱが印象的な、しっかりした茎を持って聞く。
「そうですね、花言葉は…「心を開く」あとは「触れないで」、でしょうか。」
『開くのに触れないで?』
「ええ」
『…本当にそれだけ?』
「おや、他に何か意味でも?」
『あっ知らないならいいか。』
「お待ちなさい。」
隠すなんてそうはいきませんと言う彼に、ふえええと声が上がる。
いや流石に彼がそんなことを思いついて付けたなんて思えないと言うメルに
言うだけ言ってごらんなさいと呆れて答えるコルン。
『…恥ずかしいのに?』
「別にこれくらい大丈夫です。」
『英語で短気って言う意味があるんだけど』
「エフェメラル様?????」
『問題はそっちじゃなくて、えとその…なの』
「すみません、聞こえなかったのでもう一度。」
そういうとわなわなと震えあがった後、自分が渡した花束をぎゅっと抱きしめてそっぽを向いて答える。
『もっ、もえる、ような、愛って、意味があって、ですね』
深い愛情表現を出す時にするもので。
あれ、コルン、様???何で黙って。
そう言ってメルがちらりとコルンを見つめると、
コルンは少し手を口元に置いて考えて固まっていた。
「…嗚呼気になさらず。」
『気にしますが?!?!?!』
「いえ、予想以上に自分の欲望がさらけ出されていて驚いていただけなので。」
『もっと気にしますが?!?!?!?!』
「っくくくく、どうやら私は私が思っている以上に貴方にお熱なようです。」
『病院紹介しますよ!?!?なんで私なのなんで!!!!』
「貴方の様に清らかなものを見続けるからですよ。責任とって下さい。」
いや後々責任とりますが、いまはちょっと。
ほぉ?今は取れないとしても取れると?やけに風上なことを。
えっなんで。
「その時間まで私を愛してくれるという意味ではないのですか?
だって覚え続けてくれるのでしょう?
嗚呼そういうことなら致し方がありませんねぇ?」
『〜〜〜〜!!!!!!』
「っくくく、すみません、おいたがすぎましたかねえ?」
叩き方が本気になってくる。
まったく、彼女が可愛らしいことをするからだ。
あとはと赤い花に指をさす。
五弁花で、花弁はハートの形をしており、
小刻みに先端が切れているものだ。
撫子の花の形が想像しやすいのかもしれない。
他の花と比べてその間に位置する大きさの花。
放射線状に咲くその花をみて、花言葉はと告げる。
「「二人の秘密」ですかね。
まぁ、と言ってもセアノサスと迷ったんですがね。」
『ああ、その花ですか?
可愛らしい花ですね。私も好きですよ。』
一つ一つの花が小さく、
アジサイの様に広がり束になっているその花。
青紫色で、花の雄蕊が黄色い印象的な花だ。
花言葉は、
「「純朴」「温厚」または「淡い恋心」です。」
『じゅ、純朴って…私そんな素直な人ではないですよ?』
「貴方を素直でないと言えばどうなるんですか。
確かに誤魔化したりはしますが、その心はひたすら真っすぐ。
花が日光を追い求めるように前を見る貴方を、
どうして純朴ではないと言い切れるのです。
余り私を困惑させないで頂きたい。」
『いや逆にどうしてそこまではっきり言えるのか
私の方がなんなら謎で困惑しているのですが。』
そう困惑するメルに、いえいえとコルンは続けて話す。
「それ程、此方はそう見えているのですよ。メル様。」
『うう…じゃ、じゃあ、ありがたく?』
「ええ、受け取って下さい。」
手を前に出すコルンに、メルはその花をじっくりと改めて見つめる。
青紫色に、白い花色に、赤い色。
花言葉負けをしているような花束に、
メルは笑ってコルンに向き直り言うのだ。
『可愛い花束を、ありがとうございます。』
嬉しい気持ちを、率直に告げて。
その姿をみて、コルンはほらと思う。
そうやって、貴方は素直に気持ちを伝えるのだから。
「…いえいえ、では此方の説明を頂いても?」
そう手を出すコルンにええとメルは言って花束の花に指を指す。
メルもまた、コルンと同じように三種類の花を作っていたのだ。
『ええ、お花の名前は…あんまり言えないのですが。』
「これは…キリシマリンドウにネメシア、それにコバノランタナですか。」
『あっそうそうです!!きりさかりんりんに、
ねるしま、あとこばなのらんたんです!!』
「…一つも合ってないですよ????」
コルンが言ったのは正しく、青紫色と白のキリシマリンドウに
オレンジ色のネメシア、そして桃色のコバノランタナだった。
メルの言い方は放置しておこう。もう話が進めたくても進めれないから。
『ええ、確かリンドウ?は「正義感」で、
ネメシア…は、「偽りのない心」
小鼻違うコバノランタナは「厳格」「成長」
という意味があったはずです。』
「…これこそ、私が持ってはいけないものでは?
とてもじゃありませんが、私は持ち合わせて
いないものでは、と思うのですが…」
『いえいえ!そんなことないですよ!!
コルン様はとっても厳格で正義感の強い方だと思ってます!』
正直で、偽りのない心を持って、
真摯に相手と会話をする彼を、
私は尊敬しているのだと、メルはいうのだ。
「(本当、他の花言葉を知っているのかどうかで、少々話が変わるのですが。)」
リンドウ科の多年草であるキリシマリンドウは
白と青紫色の鐘型の花を咲かせている。
花の先端は5裂になっており、
前に咲くそれは「勝利」「正義感」を意味する。
ネメシアは朝顔の様な開き方をした花だ。
五弁が唇形で色鮮やかな花を束上に咲かせる。
品種によって一年草や宿根草と変わるもの。
花色はオレンジ色で、
葉は少し小ぶりの披針形から卵形をしている。
花言葉は「偽りのない心」「正直」「包容力」
コバノランタナは、ランタナの一種だが、
その花色は変化せず、半つる性の小葉で
淡紅色の小さな花を多数咲かせることから、
「小葉のランタナ」から名前がつけられた説もある。
「優しさ」「進化」「成長」という花言葉。
「尊敬、ねぇ。私は尊敬されるような面持ちではないと思うのですが。
貴方の、ルトラール様のような方こそ、尊敬されるに相応しいというもの。」
『いやはやそんなご謙遜を。充分貴方だって尊敬されるべき人、いや天使ですよ。』
現に私は尊敬していますし。だってお師匠だもの。
…はぁ、だから私は貴方を純朴だと言っているんですよ。
そう頭を抱えるコルンにメルは笑って話を流そうとする。
『本当はゼラニウムを入れようと思ったんですが、
思った以上に他の花が強すぎて、
控えめな花をと思いましてですね。』
「確かに、どれもこれも、花弁は大きいですからね。
それにしても…花言葉をご存じで?」
『嗚呼、「尊敬」しか私知らなくてですね、他にも意味が?』
「ああいや、知らなければ別にいいのです。」
『えっ待って失礼な花でしたっけ!??!
送っちゃ駄目な花ありましたよね!??!?!』
「いや別にいいと言っているでしょう。」
ゼラニウム
その花の葉はハート形をしており、
葉縁には鋸歯状のぎざぎざした形が印象的なものだ。
手入れが簡単で長く咲き続けるので、
世界各国のホテルや店舗、家庭の窓辺やベランダでよく見られる。
多年草のこの花は、白や赤、桃など様々な色があるこの花、
実は素晴らしい治癒力を持つ薬草と用いられてか、
悪霊を追い払う効果があると信じられ、
玄関に花を植えて魔除けにしていた話を、
以前フェルから聞いたことがある。
メルが良く世話になっていたのもあって
時々連絡を取っていた時に花の話をしていたのもあったのだが、
といっても、問題はそっちではなく花言葉の方だ。
赤は「貴方が居て幸せ」黄色は「予期せぬ出会い」
桃は「決意」白は「偽り」「貴方の愛を信じない」
という意味を持ち、白色だけ嫌いな人に贈る花という
噂までついてくる始末の花言葉。
だが、その中でも
「(優柔不断に、決めかねていいのかと、仰るのですかねぇ…。)」
とある子の姿を思い浮かべ、コルンはため息をついた。
以前あわあわとメルが慌てふためいている。
なんとも心を見透かされている気がして、
寧ろこっちの方が慌てふためきたいくらいだ。
その花が、白ではなく、もし桃になった時。
「貴方は、私を許してくれるのでしょうかね。」
例え、貴方の大事な人を一度だけでも殺し、
未来を壊した末裔にもなる、我々天使を。
貴方が私を、付き人で在っても良いと許してくれるのでしょうか?
例え私が、かつて貴方のことを狙っていた悪魔の一人だったとしても。
『コルン様?何かいいました?』
「……いいえ、なんでも。
そんなことより鍵の開く音がしましたね。」
行きましょうと歩くコルンに待ってと花束を持って歩くメル。
全く、置いて行けばいいものをと思うも、
コルンだって花束を持ったまま歩く。
「こけないでくださいよ」
『だいじょうっぶ!!』
「ああこら!もう…貴方と言う子は」
大丈夫ですか、そう転げたメルに、手を差し伸べる。
花はぐしゃぐしゃになってしまい、ふぇえと半泣きのメルに
コルンは置いていきましょうといっそのこと自分の花も地面に置いた。
「此処から持ち出したものが厄災を産む可能性だってあるのです。
これくらいの花であればそこら辺に咲かせれるでしょうし、
別に私が出したっていい話で」
『の』
「…メル様」
『嫌です。コルン様が、私に、選んでくれたこの花がいいの。』
子供の様に、駄々をこねるメル。
くしゃくしゃになった花束に、そこまで執着するものか。
可憐というよりも、幼げが似合う彼女が。
それを
「ダメですよ。幾ら何でも。
メル様はこの場所に充てられているだけです。」
『うう』
手を強く引っ張り、手を伸ばす彼女を振り切り前を進む。
此処は、外の時間が進まない時の止まった大きな空間だ。
間違っても、外に物を持ち出すなんてことはしてはいけない。
そうして、この空間が作り続けられるとしたら、
蔓延って消しても消しきれない。
そう、一年草のように、枯れてもまた同じ時期に咲く花の様に。
「…出ますよ」
次に出た時は、花を贈ろうとコルンは思った。
あの三種ではなく、今度は、貴方に相応しい、一輪を。